VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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リヴァイ兵士長との訓練は次回。

今回はリヴァイ班メンツと騒ぎます。


女性の怒りと涙は怖い

 調査兵団の中央玄関は数名単位で5、6組のグループとなり、各々の時間を過ごしていた。

 全体的に見れば緩く穏やかな空気がそこにはあった。

 最近は太陽の自己主張も激しく、昼間の日差しは肌をちりちりと焼くので暑い。

 だがヨーロッパに近い気候のおかげか日本のような肌に纏わり付く暑さではなく、からっとした陽が開け放たれた木窓から俺の肌に当たる。

 肌から少し汗が浮き出ていた。

 とはいえ日陰に入ればそこまで過ごしにくいわけではない。

 

 スペインの伝統的なお昼寝休みの習慣であるシエスタ(某巨乳黒髪メイドのことでは決してない。個人的にはウェイトレスではない本職メイドに会ってみたいが)のような制度こそないが、昼間から昼下がり……体感的には午後3時辺りまでは暑さを避ける人々も多いようだ。

 仕事こそこなしているが木陰で横になっている人も探すと見かけることがある。

 思いだしてみれば、エレンも薪集めの時は昼食を摂ったあとに出発すると街の外で寝こけていることが何度もあった。

 それと昼寝中のエレンの横にはよくミカサをみかける事が多い――というかほぼ100%の確率で付近にスタンバっていた。

 エレンの寝顔を覗いては柔らかな笑みを浮かべていて仲の良さといか彼女の判りやすい態度が見え隠れしていた。

 膝枕はしなかったり、起こした後は無表情に戻るのも少女らしいイジらしさがある。

 写真でも撮ってやりたいくらいだ。そんなことしたらミカサから蹴りを喰らいそうだが。

 

 だからこそ……だろうか。

 その周辺の空気がおかしいと目に見えて判る。

 どんよりと重苦しいのだ。

 夜のシンとした空気と共にある暗闇というより、押し入れの中の閉鎖的な暗さといえばいいだろうか?

 それは玄関すぐ横の椅子に座る一団から発せられていた。

 

(若い人達ばかりだ……怪我をしている風でもないし、ただ項垂れているだけなんだけど……)

 

 普段だったら気にするほどでもない。

 先日、壁外調査へ赴いたばかりらしいので、巨人関連でショッキングな事があったのだろうとは容易に想像が付く。

 ただそれが知っている人――いつもは明るいペトラさんやオルオさんなら別だ。

 知り合いの様子が変なのだから気にしないわけがない。

 

 ただリヴァイ兵士長を無視して行くのも駄目だろう。

 最初は無意識のうちに向かっていた足を止める。

 

 折角、人類最強の兵士長から直々に立体機動術を教えて貰えるのだから。あと怒らせると怖いしという情けない理由もあるがそれはもう仕方無しということで。

 そうしていると兵長が入り口を開けて外の様子を見たあと戻ってきた。

 どうしたんだろう?

 

「……別の奴らも訓練している最中だな。俺は訓練場の担当官に時間を聞いてくる。お前は玄関で待っていろ」

「あ、はい了解です」

 

 「装備は準備しておけよ」と言って、バタンと出て行ってしまった。

 運が良いというかタイミングが良かったようだ。

 

 それに俺は準備癖というか、仕事をする際は極力ベルトや制服は着用する。

 外――巨人だらけのウォールマリアで1年も似たような服で過ごしていたせいか落ちつくからだ。

 ファッションに興味が無いだけとも言うが。

 中学高校と制服だったのに大学だと私服という感覚に最初戸惑ったのは懐かしい思い出だ。

 勉強とかってどうも制服じゃないといけないって気分になるんだよな。

 

 まあ兎も角、だ。

 装備もベルト関連は最初から付けてきていたので、立体機動装置を付ければすぐ準備OKだ。

 意図せずして出来た時間を利用して、俺はペトラさん達のところに行くことにした。

 絶賛落ち込み中のペトラ&オルオペアに話しかけても無理そうなのでもう2人の方にする。

 ペトラさん達は「ああぁぁぁ」とか「おおぅ……」とか呻いてばかりだった。

 

「どうもこんにちは、グンタさん、エルドさん。一体どうしたんですか? なんかペトラさん達がこの世の終わりを見たような項垂れ具合ですけど」

「ん? ああ、アオイか。まあこれはなんというかな……。あれだ、びっくりしすぎてしまったというか」

「エロ本を親に見つかったような気分でいいんじゃないか?」

 

 本見つかった時の遣る瀬無さはないですけどね。

 ベットに隠していた秘蔵本が、学校から帰ってきたときに机の上に綺麗に整えられてた時の気分といったらもうないな!

 

 それはそうと。

 金髪を後ろで結んだ顎髭のお兄さん――エルドさんがよっと軽く手を上げながら答えたのだが。

 相変わらず爽やかなそうな人だ。リアルで恋人がいるのも納得する――――わけがない。爆発すればいいのに……。

 人伝手で聞いた話だと、恋人さんは2歳年上のお姉さんだとか。

 薄幸の美少女といった印象ながら芯の強い女性らしい。

 普段は涼やかで冷静な様子なのに、エルドさんと出会うと「エルドお帰り! ねえ、ご飯にするお風呂にする?」なんて花が咲き誇ったような笑みで会話し始める。

 

 どこのゲームのヒロインだ。エルドさんマジ勝ち組。もう一度言おう――――爆ぜて大気圏突破しろっ!!

 

「その切なさと哀しさと心弱くなる心境はなんとなく察しましたけど、別にいけない本が見つかったとかそんな話じゃないですよね?」

「あれは気にしないでいい……自分達でどうにかしないといけない事だからな」

「って言われても……」

 

 坊主なグンタさんは格好良く言っているが、説明が面倒になったから適当にごまかしている気がしてならない。

 元々口数が多い人ではないから口べたな可能性もある気がする。

 

「人の尊厳に関わる」

 

 意味が判らないっす。

 

「――ん? そういえば……」

 

 初陣、リヴァイ班…………あれ?

 ぴりっと突如、脳裏に言葉と映像が浮かぶ。

 そう――そういえばなんかあったなこの単語。

 

 空中だった気がする……それとエレンがいたっけ……?

 

(今ピンと来たような……)

 

 一度思い出しかけてそのままにするのも収まりが悪い。

 頭を傾げつつ悩む。

 

(こう…………命に関わるとかじゃない、か? テレビを見ながら笑ってた気が。いやでもその後で絶句する羽目にも遭ったようなー…………森か?)

 

 喉の小骨が刺さっているようで落ちつかない。

 恐らくちょっとした小話の内容なのですんなり思い出せないのだろう。

 または他に衝撃的な展開があったからか。

 

 リヴァイ班関係はエピソードが104期メンバーと比較して非常に少ない。

 登場から班壊滅までの期間が短いからだ。

 それでもエレンとの絡みという意味ではお互いの気持ち語り合っている。

 巨人化できるエレンと巨人を敵として死線を潜りぬけてきた、ただの人であるリヴァイ班のメンバー。

 

 敵か味方か判断できないエレンに表面上では、調査兵団の先輩として接しつつも、意図せずして一部巨人化をしてしまったときはエレンを殺す一歩手前まできている。

 それは当然の事で……普段は監視するため、そしてエレンが巨人化して誤って暴走したときには彼を即座に殺すための班がリヴァイ班だからだ。

 エレンが壁の中で生きる条件の1つであり、彼も了承済みだ。

 

 リヴァイ兵士長からして「化け物」と評するほどエレンは意志が鋼鉄並に強固だ。死ぬほど殴られたって自分の意思を変える男ではない。

 納得がいかなければ命令を無視して巨人化する可能性はかなり高い。あいつの目的は「巨人を駆逐する」ことなのだから。

 いつ暴発するしかない爆弾(エレン)

 それでもお互いに歩み寄って信頼し合うことが出来る――大切な戦友であり先輩になりそうなところで彼らは女型の巨人の殺されるのだ。

 

(だから……ってあれ? 違う違う、盛大に脱線しているって俺。なんでペトラさん達が落ち込んでいるって話だろ今は)

 

 どうやらいつもの悪い癖が出ていたようだ。

 長々とした自分語りなどドクターペッパー並にくどい(あれは不味いわけじゃないけど、コーラと紅茶をブレンドした風味で喉と鼻に結構くる。何故かたま~に飲みたくなるが)。

 

 ふと下を見るとペトラさんの声が聞こえてきた。

 

「もうっ、もうもうもうもう~~~!! あれは駄目……だめダメ駄目…………。人の尊厳とかどうでもいいけど、女の子として終わっているわ……。死にたい、もう一度生まれ変わって人生やり直したい」

 

 人はよくて女の子的にアウトなのか?

 人の延長線上に女の子とかあるんじゃ?

 

 目のハイライトが消えて凄く怖い。

 ミカサレベルに達してる。

 

「ああぁぁあぁ~~…………家の兄弟達にぜってーいえねぇ……。どうしてだ……? 俺の刃で突破できないなんて…………首吊るか……?」

 

 お、オルオさーーん!?

 頼むから変なところ怖いセリフ言わないでくださいッ。

 「どうしてだ……? 刃が通らねぇ……ッ!?」に近い言葉だけは本当に言わないでくださいお願いします!

 死亡フラグが立ちそうでシャレにならない。

 そんな宇宙の法則なんてないから起きないと判っていても心臓に悪過ぎる。

 

 2人の様子にエルドさんはため息を吐く。

 

「いいかげん立ち直れよお前等……。たかが漏らした程度――――」

「「ぎゃあああああああ!!!???」」

 

 漏らし……?

 あ、ああーー思い出したッ!

 初陣とき巨人にそう――――

 

「空中で撒き散らしちゃったんです、か?」

「おおぅぅぅ……」

「いやぁぁぁ……」

 

 がっくり床の上でうつ伏せになった。

 嘆きのorz状態。

 ヤバイ……思わずエレンがペトラさんに言った言葉を復唱してしまった。

 グンタさんがぼそっと呟く

 

「トドメ、刺したな」

「……あ、すんません。本当に心の底からごめんなさい。」

「アオイ君やめてッ。申し訳なさそうに頭下げないでッ! こっちがさらに情けなくなるからぁぁぁ!?」

 

 全てを忘れようするかのように左右に頭を振るペトラさん。

 するとオルオさんが怒りの形相でバラしたエルドさんに文句を言う。

 

「てめえエルドオラァ!! アオイの前で言うんじゃねえ! 先輩の威厳なくなるだろうが!」

「もう無いから安心しろって。あ、アオイ、俺は漏らしてねえからな。討伐補佐2も記録したぜ」

「右に同じ。いつも通りの戦いが出来た」

「さらーっと自慢話を挟み込むんじゃねえよハゲにアゴヒゲェ!」

「かかっ、壁外調査前に俺に遅れとるんじゃねえぜ! ってビッグマウスを吐いていたのはお前じゃないか。自分の発言には責任を持たないとな!」

「くそがーーー!」

 

 地団太を踏む。

 からかっているようだけどエルドさんはまとめ役を買うことが多い。

 彼なりに励ましているに違いない……たぶん、おそらく、きっと。

 

「うがーーー!」

「はーっはっはっ!」

 

 きっと……?

 

 何故かからかい成分が多い気もするが、殴りかからんとするオルオさんを軽くいなしながらも楽しく騒いでいた。

 しかいもう一方はそうもいかない。

 ペトラさんが後ろで幽鬼のごとくフラリと立ち上がる。

 

 ぞくぅ――!?

 

 俺は瞬時に身の危険を感じた。

 こっちにこないと判ってても本能がアラームを鳴らす。

 このプレッシャー……しゃ、ではなく。

 

「グンタさん! ちょっとこっちに」

「どうしたんだ?」

「巻き込まれるとやばそうなんで少し離れましょう!」

「そんなやばいのか?」

「キレた乙女は核物質なんですって!」

「かく……?」

 

 グンタさんは訳が判らないと首を捻る。

 女性ならともかく男の彼には判り辛いかもしれない。

 俺? 俺はむしろこの空気はよく知っている。

 何故なら――ミカサをからかってぶち切れさせたときの空気によく似ているからだ!

 

 あの首の後ろに冷たい刃物を当てられた感覚。

 ぶわっと鳥肌が立つ。

 身の毛がよだつとは正にこの事を言うのだろう。

 思わず快感が――――なんて紳士ではないので純粋に怖い。

 まあ、それでも不発弾(エレン下着)を投入したりする俺は学習能力のない莫迦なのかもしれないが。

 顔面リンゴ状態のミカサは可愛い。まる。

 

 そしてペトラさんの反撃が始まる。

 

「言うんじゃないわよバカアホエルドッ! この前、酒場で女の子口説いていたの彼女にバラすわよ!!!」

「ちょ――ッ!? おま、シャレになんねえからやめてくれッ! あれはだな――――」

「ついでに『小鳥の大樹亭』にとても愛らしい美少女がいるらしいから今度飲みに行って見てこようぜーとか言ってたわねー口説くつもりかしら~~~」

「へーーーー」

「おい、ちょっと……」

 

 おい顎髭のイケメンさんや……それクリスタのことかい?

 淫語スピーカーツインズはどうでもいいけどそれはちょーっといけないですなぁ。

 にしてもエルドさんはともかく、グンタさんが慌ててるんだ?

 

「美少女っすかーその子11歳の子供なんですけど、エルドさん、年下好きなんですかー? 恋人さんって確か年上だったっすよね~」

「おいおいおいアオイまで何言ってー!?」

「へ~~~さいってーねー?」

「ですねー?」

「……俺はもう知らん……」

 

 おっと思わず援護射撃をしてしまった。

 「ねー?」と言いながらペトラさんと顔を揃える。

 人間、共通の敵がいると協力し合えるというが正にそれだな。

 慌てふためくエルドさん。

 

 その時後ろの玄関の方でがしゃん!! と大きな落下音が響く。

 音に反応して一瞬静まり返る玄関フロア。

 「あちゃー」と呟き頭にかくグンタさん。

 位置的にグンタさん以外は後ろを向いていたので判らなかったのだが……?

 そっと振り返る。

 

「何だ? 大きな音たて……た……の……」

「あれ?」

「あの人は……?」

「もしかして」

 

 びしりと硬直するエルドさん。

 だらだらと冷や汗をかき始めている。

 見覚えの無い金髪の女性が玄関に立っていた。とても美人さん。

 下にはサンドイッチの残骸が転がっている。

 ひくっひくっと嗚咽を漏らしてた。

 例えようのない気まずい空気が辺りを支配する。

 さっきの大声で会話していたから彼女は全て聞こえたのだろう。

 

 これ、状況的に考えると――

 

「恋人さん?」

 

 俺の呟きが開始の合図となったのか、つつーっと女性の目から涙が流れる。

 玄関周辺は未だ静かで彼らの声はよく聞こえていた。

 

「シェ、シェリア……?」

「う、ひっく、エルド……? 私……じゃ満足できない、の? やっぱり私みたいな女の子じゃ駄目なの? ひぅ……君を世界で、一番愛しているって、言葉は嘘、なの……?」

「そんなことないって! 誤解だ! だから――」

 

 手を伸ばして弁解するが女性は両手で耳を塞ぎながらイヤイヤと首を振る。

 1歩、2歩……と後ずさりし、一際涙を溜めたあと――

 

「う、うぇぇえェェェェん!!! エルドなんて……エルドなんてーーーっ、嫌い嫌い嫌い、でも大好きなんだからぁーっ!」

「ま、待ってくれシェリアぁぁぁーーーっ!!!」

 

 ばたーーーん! 

 嫌っているのか好きなのか良く判らない言葉を残し扉を乱暴に開け放って去っていくシェリアさん。

 エルドさんも後を追って外へ出て行く。

 残された俺達は――

 

「……女の敵は滅びたわ」

「ペトラさん結構えぐいですね……まあ俺も便乗したんですけど」

 

 ふん! と鼻を鳴らし憮然とした表情。かなり怒っていたようだ。

 当たり前かもしれないが。 

 

 パタン

 

「てめえら、何をぎゃーぎゃー騒いでるんだ?」

 

 締めは怪訝そうな顔をしたリヴァイ兵士長の言葉でその場は終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 後日談として恋人のシェリアさんが数日間へそを曲げて口も聞いてくれなかったらしい。

 エルドさんの度重なる謝罪の甲斐もあってか仲直りしたが、ところどころ引っ掻かれた顔をしたエルドさんは底から響くような声で、

 

「お前等……ぜってー仕返しするからな……」

「純情可憐な乙女を傷つけた罰よ。天罰炸裂」

「綺麗な恋人いるのに他の女に目がいくとかあり得ないですよ。爆ぜてください」

 

 逆恨みも良いところだ。

 確かに悪かったかなとは思っているけど。

 

「エルドも凄い目にあったな」

「へっ! 俺としては留飲が下がったからいいけどな!」

「まあ少し悪かったかなって思うから今度お酒でも奢るわ」

「だったら俺もお金出します。すんません調子乗りました。酒場なら俺の下宿先に酒場があるからそこ行きましょう!」

「ホントえらい目にあったぜ! ……で可愛い子いるか?」

「そんなこと言っているとまた泣かれますよ……」

 

 さらに女性の裏ネットワーク(井戸端会議)でうちの宿の女将さんからシェリアさんに、可愛い子(主にクリスタとかクリスタとかクリスタとか)がいる酒場にエルドさんが来たという情報がいってまた大騒ぎになったが於いておこう。天罰炸裂。

 

 

 

 

 

 




平和な一幕です。
約1名、大損害を負った人がいるけど気にしない気にしない。

エルド=まとめ役&ノリ軽そう
グンタ=冷静&寡黙
オルオ=お調子者&とても世話焼き
ペトラ=純情乙女&怒ると怖い

なんて印象持ってます。


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