間違いがなければいいのですが(^_^;)
母想いの女の子
ガヤガヤ
「ん……ん……んン?」
賑やかな喧騒。
日曜日だったっけ?
太陽が眩しい……瞼の裏まで突き刺すような日差しに俺はたまらず起き上がる。
「あれここ――ああそっかゲームの中だもんな。にしても凄いなホント、まるで現実世界だよ。一昔前までVRなんて夢物語だったんだけど……」
どうやら俺は街はずれの木の下で昼寝をする形で横たわっていた。
第一話のエレンと同じってわけだ。真横に壁があるからまったく同じってわけじゃないけど。
当然ながらミカサやエレンがいるわけでもなくここには俺1人しかいない。
喧騒はどうやら少し離れた町から聞こえてきていた。
「それにしてもここは何区なんだろう、トロスト区とかかな? 原作じゃあ全部の区の名前が出てたかは知らないからなんとも言えないんだけど」
何区かでどの原作キャラと知り合うかがある程度予想できそうなんだがわかるわけもなく。
とりあえず俺は街に向かうことにした。
しかし俺はすぐ体に違和感を感じた
「あれ体ちっさ! なんで!?」
俺本来の身長は178cmの割と高身長なはずなんだけど。
「いやまて……とりあえずメニュー画面を開こう」
俺が念じると右側に半透明の画面が表示された。
そこには844年と表示されていてしたに『街に向かえ!』ってクエスト風に書いてある。
「844年!? ってエレン達が訓練兵団に入るのが847年だから3年前じゃんっ。もしかして知り合いって結構前からの知り合いってことになるのか? ……いやそういやエレン達が入団した時の年齢は12歳。その3年前なら9歳とすると妥当な身長ともいえるのか」
俺はてっきり訓練兵団に入る少し前に偶然知り合うって形なのかと思いこんでいたのだが。
でもそういえば――――チカサさんの言動から察するに知り合いになるキャラクターはある程度信頼度が高いみたいな風にも言っていた。
つまり入団直前で会うわけじゃない……? 結構前からの知り合いってこと?
「なるほど。某伝説の~とかで有名なギャルゲーⅡであった幼年期イベントに似た奴か。多分これから誰かと偶然知り合う事になるんだろうな」
845年だとあの超大型巨人襲来の大イベントが発生するし、その1年前なら安心して行動できる。
イベントが終了したら、オープニングムービーとして流れるのかもしれない。
「まず街にいって誰かと知り合いますか! 誰かなー1人だけなのかなーエレン達3人組とお知り合いとかならないかなー。個人的にはオルオやペトラさん辺りがきたら大歓喜なんだけど」
リヴァイ班のメンツなら嬉しいな。後は104期の面々にエルヴィン団長(いまは団長じゃないかもだけど)やリヴァイ兵長か。
憲兵団の面々はできれば無しで。調査兵団に行くつもりだから知り合ってもメリットが少なすぎる。
俺は壁に沿って入り口の方へと小走りで向かったのだが、
ドンッ!!
「きゃっ!?」
「わっ!?」
入り口の角を曲がろうとしたところで誰かとぶつかってしまった。
俺はよろめいただけだが相手は尻もちをついてしまったようだ。
ゲームとはいえNPCも高度なAIが搭載されている。
あまり失礼な行為は相手に悪感情を抱かせてしまう。
そうじゃなくてもタレ目の整った容姿は妖精を思わせる。
そんな女の子に嫌われるのはゲームとは言え嫌だ。
俺は慌てて手を差し伸べ謝る。
「ごめんっ!! まさか人が来るなんて思ってなくて……大丈夫?」
「う、ううん! こっちも走ってたから……御免なさい」
「いやいや俺の方が悪いし――」
「いや私が――」
「……とりあえず終わらないからやめておこう……どっちも悪かったってことで」
「そう、だね。あ、手ありがとう」
「いや当然のことをしたまでだし……」
対人スキルは人並みにあるつもりだがなにぶん相手は子供。
接し方がわからずちょっとぶっきらぼうな言い方になってしまった。
軽く手を引っ張って起き上がらせた少女の顔はやはり可愛らしい。
まだ幼い……たぶんエレン達とそう歳は変わらないのではないだろうか。
「そういえばどうして走ってたの?」
「あ、えっとねお花!」
「花?」
「うんっ! シガンシナのお花は綺麗だってお友達に聞いたからおかーさんにプレゼントするの!」
「そっか(つかここシガンシナ区かッ。エレン達の出身地で最初に超大型巨人にやられる場所じゃんか!)」
にしてもめっちゃええ子や……。
俺の母親は去年――大学入学式の次の日、事故で亡くなった。
昔から俺という人間は他人とズレているというか天然な部分があるらしく、その所為で親にも迷惑ばかりかけていた。
事故で亡くなったと聞いて俺は…………。あの時ほど親孝行しておけばよかった後悔したことはない。
なのに目の前の女の子はさも当然といった感じで親にプレゼントすると純粋な笑顔で言う。
――――よし。
「よかったら俺も手伝っていいか?」
「え、でも悪いよ……」
「いや手伝いたいんだ。どーせ俺暇だし。……駄目かな?」
女の子はどうしようか迷っている。
チラチラと上目遣いで髪の癖っ毛を手でいじりながら十数秒立ったのち、
「じゃあ……お願いしていい? あまりここら辺って詳しくないから」
「ああ任せとけ! って言いたいんだけど俺も花の生えている場所とか知らないからとにかく探検してみようっ」
「ありがとう!」
にぱーっと大輪の向日葵が咲いた。
ロリコンじゃないけど心惹かれる笑顔。
守りたい、この笑顔――ってポスターが一枚できるな。
俺はイベントの事をすっかり忘れて女の子と探索をし始めた。
思わず眠たくなるほどのポカポカ陽気。
太陽は頂点にさしかかる。日本なら蒸し暑いと感じるほどなのだが程良い湿気か日差しがさほど気にならない。
時折サワサワと揺れる木の葉が都会にはない自然を感じさせ歩くだけで心が癒される。
(そういえばここゲーム内なんだっけ。体の動かし方を覚えるチュートリアルっていってたけど、意識せずに普通に動かせるな)
今更といえば今更だった。
開発陣は人数を通常の倍用意し予算を潤沢。
大人気アニメのVR化という事でかなり気合を入れて作ったらしい。
現実と遜色ない出来だった。
そんな考え事に集中していた俺に女の子の方が話しかけてきた。
「ねぇ、暇だからお話しよう……?」
「ああ、ごめん」
どうやら沈黙が嫌だったようだ。
ここは紳士(変態じゃないぞ)らしく女の子をエスコートせねば。
「そういえばプレゼントするのはお母さんだけ? お父さんは?」
「…………お父さんは巨人に食べられて……手首だけで……」
「ご、ごめんッ!!」
エスコート失敗!
つか俺馬鹿だろうっ、そういう人だっている可能性考えとけよっこのスーパー馬鹿っ!
向日葵が一気に萎んでしまった……。
「ううんいいよ…………ただお母さん、それからお仕事ばかりで。疲れた顔するようになったから少しでも元気になってくれるように――――」
やめてっ。お花が枯れ落ちる勢いで雰囲気ブラックになっていく。微糖ですらない。
誰の所為?
俺の所為でした本当にすんませんでしたーーーー!!!
「わかった! だったらとびっきりのお花見つけないとなっ! ほらいくぞ」
「あ――――」
俺は強引に話しを切って、女の子の手を引く。
女の子は笑顔が一番。可愛いこなら世界遺産に登録した方がいい。
暗い顔も話しもとにかく吹き飛ばせるようなとびっきりの花を見つけるしかないっ。
× × ×
見つかんないっす。
「見付からない、ね」
「……うん」
うん、じゃねーよ俺っ!
歩いて2時間。
テンションあげあげな街の喧騒に比べ、こっちはさげさげ状態から復帰できねぇ。
確かに花はあった。
いくつか摘んでもある。
でも渡すにしても小さすぎる野花やありきたりなものばかり。
アニメであったあの紫っぽい花とか良さそうなんだけど見付からんっ。
女の子は仕切りの空を見上げている。
雲がまったくない快晴空とは言わないが晴れと言える天気だ。
どうしてか聞いたところ、
「あんまり遅いとお母さん心配するから…………」
OH……そりゃそうだ。
こんな事なら笑かそうと木に登ってお猿さんやったり、気合の逆立ち歩行でアピール(最後こけるのがポイントだ)したりで笑顔にしようとしなけりゃよかった。
時間を無駄に使い過ぎて……。結局、干からびた向日葵は俺渾身の笑いアクションでは一筋の雫でしかなく、笑顔を維持できない。
やはりここは発想の転換が必要。
一発逆転の秘策を。
「いやまて、そう……童心に戻るのだ俺。いままで培ってきた無駄知識を今こそ発揮するのだ」
「どうしたの?」
「ぽんぽんぽんチーン」
違う。
…………。
昔、昔、昔。
この子も喜ぶインパクトのある物、かつ今あるもので可能なもの。
キン――脳内に1つの電流が走る。
「キタっこれで勝つる!!」
「え、え、え? どうしたの?」
「ちょっと待っててくれッ、今材料を集めるから。丈夫な草と……あといくつか花を集めて――」
発想自体は単純で陳腐なものだ。
でも必死で集める。
ここら辺はあまり丈夫じゃない草ばかりで求める水準に至らない。
「あっちの方に行ってみるか」
川の流れを感じる。
川の付近なら水分をたっぷり吸い込んだ。元気な草があるかもしれない。
「行ってみよう」
耳を頼りに俺は草むらを掻き分けて奥へ進んだ。
844年シガンシナ区。
原作ではまだ何もない時代……のはず。
オリ設定も加わってきます。