VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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仄かな笑顔とその心

 ――半月後――

 

 

 

 現在はおよそ4月上旬。

 雪解け水で潤った大地は草花を咲かせ牧歌的な雰囲気さえ漂わせている。羊と羊飼いでもいれば完璧だろう。

 遠くに巨人の姿が見えてなければ最高なんだが……。

 

 準備に少々時間がかかった。

 理由は天候不良や巨人の居なさそうな地点を探したこと。

 そして過信し過ぎていたマップの穴だ。

 早く『アニの父の手記』を入手し巨大樹の森に行きたいところだがさすがにマップ機能に不安がある上では厳しいものがある。

 何故ならこのマップこそ俺の作戦には必要不可欠だったから。

 

 巨人達の動きに気をつけつつ、入念に時間を掛け調べた。

 レナは巨人に追われたことが彼女自身の想像以上に恐怖があったらしく、気になることがあるからとしばらくいるといった俺の言を受け、壁付近にいることを了承してくれた。

 彼女もしばらくはゆっくり心を落ち着けたいようだ。

 そして何度かトライ&エラーを繰り返した後、断言はできないが原因らしきものがいくつか判明した。

 

 

 

 1つ――その日天候で変化する。雨や霧、雪の日など。また現実のレーダーでもあるがその日の天候でレーダーの捜査範囲が結構変わったりする。確か゛APコンディション゛というもので標準電波伝搬(レーダーが通常の性能を発揮する)ものやレーダーホール(探知範囲内でポッカリ穴があいたように探知できない場所)ができたりするものなど4種類存在するとか。

 恐ろしいことにマップ機能に穴が存在するのだ。これが先日直近で見つからなかった理由の1つだと思われる。

 

 2つ――地形変化による表示範囲の現象。俺自身ちゃんと気づけといいたくなったが建物内なら大丈夫なのに森や山などにはマップ機能に多大な制限が加わっていることに気づいたのだ。識別不明のハテナ表示が森などではかなり多く出ていた。おそらく近寄らねば表示されていないものも多数あると思われる。

 

 3つ――運の上下でも乱高下する。これは昨日気付いたことだけど、運は深夜に月が空の頂点を過ぎるとき変わるのだ。そのときの運は30→75に変化した――その瞬間探知範囲が1割程広がったのだ。どうも敵の発見も運要素が大きく関わっているのかもしれない。漫画やアニメとかでも゛奇跡的゛に見つからず助かる人などいるがこれを運に左右させているのだと解釈した。

 

 

 

 正直今の内にマップ機能に不全があることが判って幸いだった。

 森の中で不意打ちを喰らえばこれ以上危険なことはない。

 特にマップ機能に影響を与えていた運。

 毎日乱高下するわけで。

 場合によっては致命傷になりかねないだ。

 正直スキルで運関係の能力を取ればよかったと少し後悔している。

 ただ必要ポイントが巨人化並に高いのがネックだった。

 例として、

 

 『強運』必要P40……運の値が常に80以上となり、毎日10%の確率でさらに+50補正

 『天運』必要P35……運の値が常に2倍となり、運任せの勝負では常勝無敗となる

 『悪運』必要P30……生命の危機に陥った場合のみ運の値+100補正

 

 必要Pがやたら高い。

 運の値が上限値の100を天限突破してしまうようなスキルだ。

 天運とかどこの竜さんかと思ったけど正直心惹かれるものはあった。

 ただ初期ポイントをスキル極振りしていた俺も、さすがに運という曖昧なスキルにポイントの3分の1を注ぎ込むことはできず選考から除外した。

 まあ今となっては詮無きことか……。

 

 

 

 現在俺達は最終確認として壁上にて作戦会議をしていた。

 

 出発時刻は夕方に馬にて出発。

 壁から数km先にある森へと突中――村民が使っていたであろう、草木が生えていない山道へと入りウォールマリアとローゼを阻んでいる山を突破。

 巨大樹の森に到着するのが今回の目的としていた。

 むむむとレナは腕を組みながら難しい顔をしている。

 

「にい、さん。やっぱり難しいんじゃないかなって思うよ……。巨人が夜は活動しない内に突破するのは判るし、夜目も利くのも知ってる。ただ森の中で巨人に遭遇したら危険すぎるって。10mクラスがいたらどうするの?」

「まあもっともっちゃもっともな意見だけど、どこに向かっても必ず危険はあるからなぁ。それに10mクラスに関しては大丈夫だと思うよ」

 

 たった2人で行うウォールローゼ帰還作戦。

 しかも1人は非戦闘員で、もう一人も我流の立体機動と戦闘技術しか持たない11歳の子供だ。正気の沙汰ではない。

 何度も死地に陥り切り抜けてきた自らの技術はそこいらの一般兵にだって負けてはいないと自信を持って言える。

 調査兵団では一度壁外調査を経験しなければ調査兵として一人前ではないと言われている。

 逆を言えば、既に2年も自主的壁外調査を行っているような自分は兵としてなら1人の調査兵レベルの実力はあるとも言える。こじ付けだけど。

 実際はそう思ってでもいないと生き抜けない。

 誰かが言っていた。

 

 

 「一度、巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん」と。

 

 自信過剰は駄目だが必要以上に腰が引けてもいけないと思う。

 慎重で臆病に振舞いながらも大胆で豪胆に突撃する勇気が無ければ勝てない。

 恰好よく言えば死中に活を見出す。

 恐怖を振り切り突き進め。それこそが起死回生のチャンスとなるはずだから。

 だからこの作戦も断行する。

 どちらにせよ、突破するには(リスク)は付きまとう。(リターン)を得たいなら行くしかない。

 

 少し脱線気味だった。

 話を戻してレナは大丈夫だという俺の言に対して疑問そうな顔で聞き返す。

 

 戦いでは純粋な体格差は戦力差に直結する。

 子供が大人に勝つのは容易ではない。

 人類と巨人の関係はそれに近い。

 レナの言い分はもっともだった。

 

「レナが言いたいことは判る。俺も数mクラスはともかく二桁mの巨人なんて到底相手できないし、出会いたくもない」

「だったら――」

「大丈夫。森の木の高さは5m前後の木々が広がっているから」

「それでなんで……あ、ちょっと待ってください考えます」

「うん」

 

 レナは掌を広げた待ったを掛けた。

 彼女としては戦闘で役に立たない分、参謀面で役に立とうとする傾向がある。

 実際、東区の安全地帯に気づいたり、天候を見極めたりする観察眼など目を見張る特技を持っていた。

 原作知識なんて色眼鏡を持つ俺と違って頭の回転速度が違う。

 今回は俺がエルヴィン分隊長――もう団長になっているだろうか――に教えて貰った行軍知識の1つだ。

 無造作に切りそろえられた灰色髪を撫でながら、レナはこちらをまっすぐ見つめてきた。

 

「背の低い森は当然狭い。ならそこを通れる巨人も、サイズが小さくなる! そういうことですね兄さん!」

「あったり! 奇行種の危険は当然あるけど、10m以上の巨大な通常種が歩行困難な森は歩こうとしない。足に木が引っかかって碌に歩けないからな。それに仮に動いていたとしても木々を揺らすから接近にも容易に気づける」

「だね! それに森なら常時日差しが遮られ気味だから巨人達の活動も低下気味かも」

「あーーっ、そうだ。それもあるな確かに」

 

 太陽光が巨人にとってどんなものかは未だ不明ではある。

 ただ光を断たれれば数時間で行動できなくなる巨人が大半だろう。

 木漏れ日もあるだろうから完全に動きは止められないとはいえ、光の届きにくい場所は巨人にとって鬼門のはず。平地よりその力は万全には発揮されないと考えていいと思う。

 うす暗い森林地帯は天然の結界なのかもしれない。

 

「って兄さんそれは考慮してなかったんですか? もう……変なところで抜けがあるんですから。知ってますか、そういうのを『詰めが甘い』っていうんですよ」

「わかってるって! レナの方がなんだかんだで頭いいんだから仕方ないだろう」

「ふふふ♪ やっぱり兄さんは私が居ないと駄目駄目ですねー」

 

 滲みの無い白魚の指を口に当てくすくすと笑うレナ。

 少女にしては大人びたその笑顔を仄かに照らす日差しに良くあっていた。

 本当に彼女はよく笑うようになったと思う。

 

 初めて出会ったシガンシナ区から丸1年。

 少し感慨深いものを感じる。

 何故か最初から俺の事を兄呼ばわりで、そのまま指摘するまでもなくなあなあで疑似兄弟の関係で来た。

 とはいっても俺からするとアルミンがいきなり弟になった経験もあり、まあいっかと思い指摘しなかった。

 それに彼女は両親を失っていて、俺を仕切りに兄と呼ぶ。

 そこまでくれば馬鹿な俺だってレナが無意識か意識的か『家族』を求めているくらい察せられる。

 指摘するのはいくらなんでもデリカシーが無さ過ぎる。

 少々思考の海に浸っていた俺をレナの高い声が引き戻す。

 

「それでそれで兄さん! 作戦としては山奥を縦断するという事でいいですか。山道を利用するなら先に村があると思いますけど」

「――いや村の近辺には行かないでおこう。巨人が徘徊しているかもしれないし、村だと土地が開けてるから大型もいるかもしれないし(実際は『手記』を手に入れて条件を整えるためには【村の中に入るな、巨人を殺すな】っていう禁止行為を守る為でもあるけど。アニ達の村なんてどんなデストラップが存在するか判らないし、近づかない方が無難ではあるけどな)」

「あ、なるほどー。ちょっとメモメモ……」

 

 勤勉なレナはメモを取ることが多々ある。

 俺を先生がわりにしている面があって少し恥ずかしい。

 俺が知っていることの大半は地球での知識か進撃の巨人から知った知識が9割で1割程度がこの世界で知ったようなものだったからだ。

 カンニング知識を妹に聞かれているようで座りが悪い。

 アルミンにも関心されているようだが、惰性で得た知識を必要以上にありがたがったりされると心がむずむずするな。

 

 というかレナは女版アルミンだな、まんま。

 抱きついてきたり、くっついて寝ようとしたりとボディタッチが多めで少々困らせる。

 幸いなのは男の娘じゃなくて純粋な女の子なのは助かるけど。

 男にはくっつかれたくない。

 いや今はそんなことどうでもいいな。

 

 行動としては、森に入ったら戦闘全回避でアニの父の手記をゲット。

 そのまま巨大樹の森に避難して機を窺う。

 

 近くに近くまで確認したところ木々の間隔は馬が3、4頭通れるもので人が通る分には問題ない。

 樹木もドラム缶を2周りは大きくしたもので立体機動も存分に行える。

 山の標高も近所なら気軽に散歩感覚で行けるような高さしかない。500mあればいいところだ。

 俺達は昼間は極力睡眠を取り夕方から行動を開始した。

 

 

 

 

 

 ×  ×  ×

 

 

 

 

 

 パカリパカリと馬の蹄が地面を鳴らす。

 日が落ち数m先の木すら闇に閉ざされた山間の森。

 一寸先は闇という言葉のままな場所。

 そこを私達は静かに進んでいた。

 

 かさ

 

「ッ!?」

 

 即座に身構える私に対して兄――本当の兄じゃないけど今では心からそう思えるくらい慕っている彼は落ち着いた声で、

 

「大丈夫、風かなんかだよ。生き物はいない。当然巨人もな」

「あ、うん……」

 

 月すら隠れた暗黒を照らすのは頼りないランプの灯りと、とても頼りになるアオイ兄さんの横顔だった。

 かさかさと草木が風に揺れる。

 風避けに着ているローブには冷たい空気が入り込みいろいろな意味で背筋が凍る。

 普段ならなんてことない物音も、いつ巨人という悪魔が現れ喰い殺されるかもと思うと自然と体はガチガチになってしまう。

 でも、

 

(兄さんがいれば大丈夫……私は兄さんを信じているもん)

 

 毅然と前を進む男の子の背中。

 その表情は窺えないけど――きっと敵が現れても颯爽と相手を屠ることができるだろう不思議な気配を漂わせている。

 お父さんと比べようもない小さな背は、誰よりも頼もしく勇ましさを感じさせていた。

 物語の王子様より王子様然していると私は思う。

 一番好きな姿はブレードを両手に持って巨人と戦う姿。

 初めて出会った姿も同じ。

 勇者よりも果敢な勇気を持って、戦士よりも鋭い剣技を持って、賢者よりも落ちついて全てを見通す最強の男――そう私は思っている。

 

「右は危ないかな……左に行こう」

「うん」

 

 確信を持って進む。何故か兄さんが進む先に巨人がいることは滅多にない。

 たぶん凡人な私には判らない世界があの人には見えているんだろう。

 

 でもそんな力を誇るでもなく淡々と進むストイックな姿はとても素敵で心が惹かれてもしょうがないと思う。

 ずっと傍に居たい。

 これでも女の子だから。

 

 いままで何度も助けてくれたこの男の子に対して思うところが無いといえば完全に嘘になる。

 私に目を向けて欲しいと願うことは罪ではないと信じたい。

 

 でもその言葉をこの人伝えることは無い。

 だって私に向ける目がお母さんやお父さんが私を見るような目と同じなんだもの。

 私と兄さんの心は絶壁がそびえ立っている。

 同い年でも完全に違う。

 馬鹿そうな振舞いも私の気を紛らわそうとしているんだろうな。

 もしかしたら普通に馬鹿なのかもしれないが、それ以上に馬鹿なのは私だ。

 

 『兄さん』と呼ぶのも私が距離を取るための言葉であるから。

 他人なのにそんな呼び方をするのは、近寄りたい……けど離れたくないと考えた私なりの方法だった。

 女の子として見て貰ってないのは態度から容易に感じた。

 ならせめて傍に居れるような場所――『妹』としていたいと求めたから。

 小狡い私はお父さんとお母さんが居ない寂しさを『兄さん』と呼ぶことで解消しようとしていた。

 事実そうしていた。

 

 でも……だから……せめてもの罪滅ぼしをしたい。

 兄さんの役に立ちたい。

 役に立てば近くにもいれるし、一石二鳥だし。

 

(ふふふ……結局、私はどこまでも勘定してるんだね……)

 

 自嘲げにくすっ笑いながらも目の前の頼りがいのある背中に付き従う。

 暗闇に溶け出そうな暗い心と罪悪感を胸にしまい、ただただ前に進む。

 兄は体をわずかに震わせながら汚いノートを拾っていた。

 




『アオイ・アルレルト』
 性別・男 11歳
 所属兵団『無』
 称号『鋼の翼』
 
【年齢による成長ボーナス付き】

 LV9→14

 筋力 :50→61
 敏俊性:49→71
 器用さ:24→42
 頑強 :65→115
 体力 :30→63
 知性 :28(+14)→50(+25)

 運  :75(幸運)
 残ポイント(上昇値3→4)=0P→20P



 【天賦】天才:成長率特大アップ
 【才能】利発:成長率中アップ&知性20%アップ
 【体質】微再生:常人より怪我&病気の治りが早い
 【体質】復活:1日に一度だけ即死ダメージを喰らっても万全の状態で復活できる
 【回避】生存本能:致命傷になる攻撃を反射的に避ける
 【探知】夜目:暗闇でもよく見える
 【探知】気配察知:30m内の気配を敏感に察知。マップ敵表示可能
 【才能】器具の才能:立体機動装置の扱いがうまくなる。また機械にも強くなる
 【叡智】逆転発想:閃き。知性30%アップ。ときおりとんでもないことを思いつく
 【回避】縦横無尽:……上下左右の移動速度10%UP
 【攻撃】投刃……ブレード系武器を投げつけるとき命中率上昇
 【生活】狩猟……狩りが巧くなる。狩るとき隠蔽能力上昇



 【】の才能等の括りは種類を表す。
 取得難度『低』1~10『難』

 天賦&体質系は取得するのは非常に困難。全スキル難度9以上。
 才能系は開花する場合もあるがやはり難しい。全スキル難度7以上。


 能力値目安845年版の方々
 
 アルミン平均30(知性特化)
 エレンは平均35(やや頑強&体力高い)
 ミカサは平均85(筋力重視)天賦スキル『リミッター解除』で能力値極大上昇
 リヴァイは平均1000以上(敏俊度重視)天賦スキル『リミッター解除』で能力値極大上昇。

 一般兵(憲兵&駐屯兵)は100クラス前後。
 調査兵は200クラス。
 分隊長は300クラス。リヴァイ班も同等。
 歴代団長達は200~400クラス(生き残ってはいても、必ずしも強い兵が団長になるとは思えないので)。
 850年ミカサで700クラス。強化あり。
 850年リヴァイで1500クラス。強化あり。

 あくまで目安です……(汗)
 主人公がなんとか戦えているのは当然スキルやマップ等の各種機能のお陰。じゃなきゃ既に死んでいます。というか1回死んでますが。
 どこぞの天才化け物陣とそれ以下には絶対的な実力差が生じています。
 一応主人公は『天才』&『利発』スキル持ちなのでどんどん能力値が上昇していますが普通はそこまで成長しないし強くないです。

 一個師団(4000人)クラスに匹敵すると言われるリヴァイさんマジサイヤ人。
 兵士100人に匹敵すると言われたミカサさんの40人分ってどんだけだ。
 ハンジスカウター(眼鏡)が割れるレベルだよ……。
 ミカサとへいちょの身体能力の高さは筋肉を制御するリミッターを意図解除することで超人的な速度を得られるってあるから既にサイヤ人化しかけてそうだけど。

 公式でへいちょの骨は、筋力についていくために合わせて鋼鉄並に骨密度があり硬いから160cmなのに65kgの体重そうです。
 やはりサイヤ人でもいいんじゃないだろうか……。
 




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