VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

21 / 55
ここまでのあらすじ

VRゲーム版『進撃の巨人』をプレイしたらログアウトできなくなった葵。
ゲーム機能は残っているのに現実としか思えない出来事の数々。
現実とも思えない――がしかしゲームとも思えない彼はとりあえず最悪パターン、自身は転生していてここは現実であると想定し生き残ることを決意する。
845年シガンシナ区陥落の準備をしてきた彼だが平和な日本に生きてきた彼は考えが甘かった。

報いはカルラの死――――そして多くのシガンシナ区の人々の死であった。

鎧の巨人にも敗北し、彼と彼についてきたシャンレナという少女はウォールマリアに取り残されてしまう。逃げるにも逃げれない状況で彼は特殊ミッション『アニの父の手記』を探せというものを行動の指針とし南のシガンシナ区から東へと足を向ける。両親を失ったことから狂気すら見せていたシャンレナはアオイに再度助けられたときに正気取り戻しアオイに一つの提案をした。それは巨人が徘徊するウォールマリア内でも安全地帯があるというもの。アオイはその提案に従い東区で安全地帯を作ることに成功する。考える限りウォールローゼに帰る方法は一つ――1年後に行われるであろう人類の『口減らし』。巨人の注意が逸れている内にウォールローゼの帰還、さらに弟アルミンと自分の祖父であるアレスの救出、『アニの父の手記』の入手――――全ては846年に決まる。

それはエレン達が847年に訓練兵団に入団する1年前のことであった――



846年~ウォールマリア~
新たな年


 純白の氷雪(・・)が降りしきる季節も終わりを告げ緑の大地が顔を出し始める時。

 人家の無いはずのウォールマリア内で今日は珍しく荒々しい騒音をまき散らす者たちがいた。

 

 ドガァン!!

 

 土煙りをあげながら飛びだす巨人と俺&レナペア。

 

「ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――」

「なっっんでっ! ここに巨人いんだぼけぇぇぇぇ!!」

「に、にぃぃさぁん! ど、どう、すれば!?」

「壁まで急げーー!!」

「はいぃ!」

 

 俺達はひーこら悲鳴まがいの声をあげ、冷や汗を流しながら逃走中。

 つい先ほど10mどころか15mクラス……巨人化エレンと同等レベルのでか巨人が森の中から大人1人分の太さはありそうな木々を吹き飛ばし出てきた。

 完全な油断。

 何故か1kmの探知能力を持つマップ機能が正常に働かず、巨人が飛び出した

 今までなかったことで俺自身、混乱している。

 考える時間が欲しい。

 

「馬上から飛んで壁上に上るっっ! 俺が引きつけておくから先に飛べ、失敗しないようにな!」

「で、でもにいさ――」

「さっさと飛ぶ! 俺もすぐ飛ぶからッ。レナが飛ばないと俺が行けないんだ!」

「わ、わかったよ!」

 

 ぱしゅんとワイヤーの射出音とともにすぐ後ろにいたレナは壁上を登り始めた。

 捕食者はどうやら俺にターゲットを絞ったようだ。

 地震と勘違いしそうな大地の振動は俺を引き続き追跡している。

 

 レナは戦えない。

 立体機動の習得こそ上達は早かったが小学校低学年クラスの小さな体躯ではブレードを振るうことのできる筋力が無いからだ。

 どの道こんなドでかい奴相手など誰だって戦えないが。

 平地で巨人と一対一(タイマン)勝負、あまつさえ勝利を収めるなんて偉業はリヴァイ兵士長クラスの天才じゃなきゃ到底不可能だ。

 最低でも複数で更に気を逸らした状態でも人類は五分五分ですらない。

 俺一人で勝つなんて逆立ちしたって無理だった。

 

「ふぅっ!」

 

 一度息を吐き、心を落ちつける。

 飛ぶ瞬間が一番危険だ。

 ワイヤーを巻き取る瞬間は一度空中で静止する形になる。

 奴が手を伸ばして捉えられたら即人生終了だ。

 だがこのままコイツと追いかけっこはできない。

 俺の乗っている馬は調査兵団が乗っているような″特別″な馬じゃない、普通の馬だからだ。

 確か調査兵団が乗っている馬は時速70~80k/mと高速で走れる代わりに普通の市民の生涯年収というとんでもないサラブレッドだったはず。

 半ば野生化しかけていた馬を四苦八苦しながら捕まえたけど、こいつがその特別な馬じゃないのは明白だからこのまま追いかけっこしても継続出来ない。

 いずれ追いつかれる。

 意を決して俺は馬上で立ち上がる。

 

「はぁっっ!」

 

 飛ぶ。真後ろには食欲旺盛な化け物。

 のんびり右上のマップを覗く暇などないが奴の息遣いが近く、同時に背筋が凍る想いがする。

 

 死にたくない。

 目の前で死んだ人達の為にも俺は生きる。

 レナみたいな子供を作らない為に。

 空中で回転しながら距離30mほどの壁に体がむいた瞬間トリガーを押す。

 後ろでガスの排出音とともに勢いよく壁に突き刺さるアンカー。

 即座にもう1つのトリガーを握りしめぎゅるぎゅると巻き取りながら体はアンカーに引き寄せられる。 

 

「グォォォォォォォォ――――」

「う、ォォォ!? 捕まってたまるかっ!」

 

 ぶおんと荒風を纏いながら降られる掌。

 俺は掴まれないよう装置を使って下方向に進路を変える。

 一瞬前髪が体に触れる――が。

 

「せいっ!」

 

 独楽のように回転。

 ブレードで敵の太い指を切り落とすまではいかないが傷つけたせいか指が開く。

 そのままダイレクトで地面に背を預ける。

 仰向けの体勢のままワイヤーは巻き取りを止めない。

 

 このままなら行ける――そう思った瞬間とんでもないことが起きる。

 首筋にピリッと嫌な感覚がはしり咄嗟に機動を代え転がったところ、

 

 ドオンッ!!

 

「がふっ!? ――――えほっ、げほっなんだ一体!」

「ォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

「コイツ飛びやがった!? …………まさか、奇行種……?」

 

 後少しと言ったところで奴はあろうことかジャンプをして周り込んできた。

 その執念に辟易するがそれ以上に厄介なのは行動。

 普通の巨人は動きが鈍く、目の前の獲物にただ突っ込むことはしてもジャンプして周り込むなんて芸当はまずしない。

 精々獲物を喰らう為に跳ねることはあっても、だ。

 今もボクサーがリズムを取るように軽く体を揺らしている。

 

 一瞬知性のある巨人とも考えたが、原作では見たこともない薄らハゲの巨人。

 まただらしなく涎を垂らしながら俺を見る姿はとてもじゃないが知性があるとは思えない。

 恐らくジャンプするか、周り込むことを好む奇行種――といったところか。

 

 俺は奴と距離を少しづつ取りながら壁の目の前にいる敵を警戒する。

 状況は俺――巨人――壁といった位置取り。絶体絶命ともいえるやばい状況だ。

 図にするなら、

 

   壁    壁

 ――――――――――

 

  家   巨人 家

 

     

     俺

  

   家

 

 といったところ。

 幸いなのはレナが既に壁上へと登れたこと。

 たぶん冷や冷やしながら

 せめてもの救いは2階建の家屋が左右と右後ろに一軒ずつ存在していることだった。

 

「ぺっ! ……体なんて揺らしやがってカバディでもしたいのかコイツ。だったら女型や鎧のとやっててくれ巨人と人間のカバディなんて誰も見たくないんだよ!」

 

 考える時間はない。今にも動きそうだ。先手を打たなくちゃすぐ捕まってしまう。

 だが手を間違えても駄目だ。

 次の選択で全てが決まる――

 

 バサッ!

 

(なんだ!?)

 

 なにかが空に舞、ひらひらと俺と巨人の間――いや巨人の目の前に覆いかぶさり、

 

「今だ!!」

 

 その一瞬の隙を付き、アンカーを左手の家と壁に射出。

 最初は壁に縫い付けた方を引き寄せるも奴の手が眼前に広げられる。

 相手の目は正確に俺を見抜いていた。だが、

 

「それくらい俺だって判ってるさっ!!」

 

 瞬時にもう片方のワイヤーを巻き取る。

 相手からすれば眼前の獲物は斜め下方向へと逃げるわけだが人の目の性質上、左右の動きに強いが上下には弱い。

 今の動きで完全に相手は見失っている。

 あとは、家に引き寄せられて地面に叩きつけられる前に正面の壁にアンカーを差しすぐさま登る。

 

「はぁっはぁっ……は~~~~~」

 

 絶対的強者を前にして無意識に息を止めて動いていたようだ。

 鍛えたはずの足腰は激しい3次元の動きをした所為で乳酸がたまりに溜まった。

 意図せずして俺は石の地面に倒れる。

 

「兄さん! 大丈夫ですか!?」

 

 レナが半泣きで俺の傍に寄る。

 

「もうにーざん……心配させないでよぉ……っ!」

 

 ぽかぽかと小さな手で俺を叩く。

 目の端に涙を溜めながら言う姿はいつも通り可愛い。

 

「ごめんごめん。俺もさすがにひやっとしたよ」

「もうっ!」

 

 頬を膨らませながらぽかぽか攻撃は継続するレナ。

 でもそれより気になったのはさっき巨人の目を覆ったものだ。

 十中八九彼女が行ったものだろう。

 

「さっきはさんきゅ。巨人の目を逸らしたのはレナだろ。おかげで助かったよ」

「あ、うん。巨人はやっぱり怖いし……私ができることっていったらできることが少なかったから。鞄の中に毛布を入れていたからそれを投げればいいかなって」

「去年は散々壁上から毛布を投げては、ひらひら落ちるさまを楽しんでみてたようだけどそれが役に立つだなんてな」

「もうーーー!! それはやめてっ。去年のアレはちょっと気がおかしくなってたというか、気の迷うというか――――」

 

 レナは元々早熟で、人とは一歩引いたところがある少女だったとか――――で昨年の天真爛漫な姿は3、4歳の頃の自分らしい。

 おっきくなって(といっても11歳だが)あんな親に甘える姿を晒し続けていたのは黒歴史にしたいようだ。

 俺は羞恥心から真っ赤になっている彼女に苦笑いしながら真下を見る。

 

「ォォォォォォ――――」

 

 巨人は俺達を恨めしそうに見ながら壁を叩く。

 壁ドンしたいなら自分家でやってて欲しい。

 こっちくんな、こっち見んな。 

 

 その日は日が暮れるのを待ってから移動し巨人から離れることにした。

 馬は口笛を吹いてこっちに来るように訓練していたので2頭ともきた。

 近くの木にくぐり付けその夜は壁上で休むことにした。

 

 

 

「すーすー」

「寝たか……」

 

 まだ寒さが強く残る3月。

 3枚の毛布にくるまったまま俺とレナ。

 極度の緊張から解放された所為か、すぐ寝付いたレナを横目に俺は今日の出来事を考えていた。

 

 それはマップ機能について。

 

 マップの表示は森や山、壁等を表示するとともに人=青、馬や家畜=緑、巨人や危険な肉食獣=赤という表示がされる。

 ただし赤のみ、一度目視しないとマップには表示されない。

 例外として、ハテナマーク=識別不明……青、緑、赤またはいない――という迷惑な表示もあるが。

 だが俺の持っている『気配察知』などの探知系スキルを所持することで制限が解除され、目視しなくても遠くの敵は表示される――――はずだったのだが。

 

「森の中にいた巨人はマップに表示されてなかったんだよな…………」

 

 真横に潜んでいたらしい巨人はマップに表示されていなかった。

 元々マップ機能はプレイヤーの補助的役割が強いとはいえ、その効果は計り知れない。

 故障なんてものがあるかは知らないが、いざというとき使えませんとなるとやばい。

 今後の計画的にもマップ機能は使えないと危険度が格段に上がるのだから。

 

「あーーー、なんで使えなかったんだ。森の中はまた違うのか? でも表示されているものだってある。ハテナマークだってあったし…………」

 

 もしかして俺の知らない制限か条件かあるのかもしれない。

 満天の星空を見ながら俺はそんなことをぼんやりと考えていた――

 

 

 

 立体機動回避スキル『縦横無尽』取得……上下左右の移動速度10%UP

 

 

 

 

 




すいませんリアルで忙しいので遅くなりました(-_-;)
新年までは遅くなります……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。