『ここでGMより決定されたことをプレイヤー様にお伝えしたいことがございます』
「伝えたいこと? なんですか?」
ぺこりと可愛らしくお辞儀をするチサカ。
何故か「糞餓鬼――」とか言っていた時とき以上に無表情なのが凄く怖い。あれは人を殺す目だっ。
『誰が同期かを決めた段階でプレイヤー様の年齢も決定されます。其れに応じてアバターのパーツも変化する仕組みなのです。ですから次の作業は名前、性別、容姿決定の手順をふむのですがその手順はラストに変更されました』
「……まあ別にいいんですけどなにかあったんですか?」
『はい……。一部のプレイヤー様に悪質な方々がおりまして。プレイヤー名を設定されると私はその名前を呼ばなくてはいけない仕様なのを利用して『お○ぱい』とか『スカ○ロ』等々設定して私に淫らな言葉を言わせて録音していた豚――じゃなくてプレイヤー方が極一部いたのです。
MADに利用しようとしていたらしいのですが、そのために何度もキャラを作り直しただでさえサービス開始日は忙しいのに余計な仕事を増やしていたのです。
また声優やその所属事務所の方の耳にも入ったのか苦情が入りまして……』
「小学生かよ! なにやってんだ日本人……」
たぶんMADだけじゃなく純粋にミカサの淫乱ボイスで聞いていた奴もいるだろう。
おまいら18歳以上なのになにやってるのかと。
まあそんなMADをたま巡回して笑ったりしている俺も駄目な奴かもしれないが……。
『以上の事により故意にキャラ変更を繰り返すプレイヤー様は運営の業務を妨害したとしてアカウントはく奪ののち1ヵ月間サービス使用不可の処分が下されています。
ご質問がなければ基礎能力のポイントについて説明してもよろしいでしょうか?』
「あ、はい」
悪質プレイヤーのなかには100回もいちいち作りなおしたとか。ある意味その根気尊敬するよ。真似る気はないが。
『基礎能力――それは6つ+1つの計7つに分けられます』
・筋力=腕っ節の強さ。私はこの値が高いです。巨人の弱点であるうなじを切るとき相手が大型であらばあるほど防御力が高く設定されており、低いと何度もうなじを切らなくては撃破できなくなります。逆に値が非常に高いと知性のある巨人が使用する硬化能力で堅くなった皮膚も切り裂けるようになります。
・敏俊性=動きの素早さ。リヴァイ兵長が高いです。相手の攻撃を避ける重要な能力。立体機動装置は改造すればワイヤーを巻き取る速さを高く設定=素早く動けるようにできますが敏俊性がなくてはうまく扱えません。移動速度も上昇するので市街戦や馬が無い状態で逃げる時も役立つでしょう。
・器用さ=大砲や銃など遠距離武器使用時の命中率。テント作成やロープの扱いなどテクニック全般で補正が入ります。立体機動装置の強化や故障しにくさにも影響し、ガスの消費量も若干減らせます。地味に役立つ能力です。
・頑強=体の頑丈さ。巨人に噛みつかれた時などには役に立ちませんが、致命傷に至らない場合でのダメージで立ち直りやすさに影響します。壁に叩きつけられて気絶する衝撃を緩和したり、高所からの着地に失敗しても骨折等の戦場で致命傷になりかねないダメージまでには至らなかったりと様々です。転ばぬ先の杖として値を高くしてもいいかもしれません。
・体力=スタミナ、持続力。巨人との戦いは立体機動装置を駆使した高速戦闘です。長時間行えば当然息が上がりやすくなり、動きの鈍った兵士は奴らにとって絶好の獲物でしょう。体力切れは息切れ、スピード鈍化、集中力低下等を引き起こします。単純ながらも体力の値は生死を分ける重要な能力です。
・知性=頭の回転速度、記憶力補正、鼓舞等の特殊能力の効果上昇。エルヴィン団長が高いです。人類が巨人に唯一と言っていいほど勝っているもの。システム補正で物覚えが良くなります。作戦を瞬時に覚えたり、古代文字や暗号の解読など様々な場面で役に立ちます。スキル効果上昇の特性もあるので高ければ高い程快適にプレイできるでしょう。
『特殊系』※注、ステータスで割り振れません
・運=値は0~100でランダム変化。文字通り運の良さ。ある意味最強であり最凶の能力。運よく敵に見つからない、運よく致命傷を避けた等あらゆる場面で効果を発揮します。長く生き続けた兵士はすべからくこの運を味方しているといってもいいでしょう。初期設定でベテランタイプを選んだプレイヤーには『強運』の特殊能力が付いている場合もあります。しかし運は乱高下するので低い値のときは不運に見舞われやすくなります。イベントや戦闘は避けた方が無難でしょう。
『初期値』残ポイント=100
筋力 :10
敏俊性:10
器用さ:10
頑強 :10
体力 :10
知性 :10
※注意! この後の特殊能力はここで割り振らなかったポイントがそのまま使われます。ここで全部使用してしまうと特殊能力が取得できなくなりますので気を付けてください。特殊能力は最低5ポイントは使います。
『以上になります。ただこれは全部ではありません。能力の説明にのっていなくても工夫すれば展開を有利に進められる、逆境を逆手とる能力の使い方もあります。それは実際プレイしながら創意工夫を凝らすといいでしょう』
「ありがとうございます。ただ、う~~~ん……」
どうしよう、どれも必要そうな気がする。
筋力で一撃必殺とかへいちょみたく華麗に巨人を切りきり舞いにするのも憧れる。
進撃の巨人は大好きだけど、だからといって巨人に食われたいなんて特殊性癖は持ち合わせていないからできるだけ強化したいけどて。
きっと兵士にはどれも必要な能力なんだろうな。
だからこそ迷う。
基礎能力を向上すると特殊能力が得られなくなるのもキツイし、ここはチサカにヘルプといこう。
「すいません、おススメのポイント配分ってありますか?」
チサカがキョトンとした目をつぶり腕を組みながら検索中検索中といって数秒。
『検索しました。運営でおススメしているのは半々に分けるとのことです。50Pは基礎能力、50Pは特殊能力へ、です』
「ありがとうございまた。参考にします」
『いえいえ』
にこっと愛らしい笑みを浮かべたあと静かになるチサカ。
結婚しよ。
でもエレン&ミカサが一番見てて気持ちいいんだよな。
でもやっぱ悔しい。
くそッ! リア充め爆発しろ!
ジャンが羨ましんだよっ! て叫んだ気持ちがよくわかる。
「っていやいや今はポイントの振り替えせんとっ。でも基本どれをあげても後悔しそうな気がする。いっそ極振りでいくか……? いやいや2つ集中的に振ってやるのも面白いな」
20分程悩んだ後俺は決心して選んだ。
その答えは、
『え……とこれで宜しいでしょうか?』
「はいお願いします。これで決定、と」
高度なAI搭載のチカサでもこれは意外だったのか少し動揺しつつ最終確認を行う。
俺的には全然アリな振り方だと思ったんだけど。
ちなみにこれが俺のステータス。
LV1
筋力 :10
敏俊性:10
器用さ:10
頑強 :10
体力 :10
知性 :10
残ポイント=100
「 振 っ て な い じ ゃ ん !!!」
どこからか突っ込まれた気がする。
これが最終決断。
どれあげても後悔しそうだから逆にどれもあげない俺まさに天才!←馬鹿
元々若い新人なら基礎能力の成長率が一番なのだから後の成長に託すのもいいと思うんだ!
ちなみに基礎能力の上昇タイミングはレベル上昇時、レベルが上がる毎に3ポイント入って割り振れる、ランニング等の行動で能力が上がる場合の3つだ。
レベルアップ時はいままでの行動で変化するらしい。
だが特殊能力はこの初期設定のタイミング以外では取得できなくなるらしい。
正確には取得できるけど、能力毎に条件があり達成しないと取れない。
だったら最初の初期ポイントをそっちに全振りした方が後々楽になるはず――そういう判断から特殊能力に極振りすることにしたのだ。
『では次、特殊能力取得画面に映ります』
ぴっとまた画面が変わった。
ズラ―ッと出てくる出てくる特殊能力の数々。
その数1000以上。
ちょっと気になったものをいくつかあげると、
巨人化(5m級):100P……エレン同様巨人化できるようになる。また四肢が欠損しても再生する。
一部巨人化:50……手や足など一部のみ巨人化可能。また四肢が欠損しても再生する。
高速再生:20P……四肢欠損や大ダメージによる出血を瞬時に回復する。ただし体力が落ちている場合は回復速度低下。
神速:30P……足を使っての移動速度2倍。ただし体力の消費も2倍。
復活:10P……1日に一度だけ即死ダメージを喰らっても万全の状態で復活できる。
才気煥発:20P……成長率大アップ&知性30%アップ
天才:30P……成長率特大アップ
剣の才能:10……剣の取り扱いがうまくなる
大車輪:10P……空中回転がうまくなる
動物愛:5P……動物に愛し愛される
バード:10P……歌がうまくなる。口が達者になる。
家族愛
反骨心:10P……権力に抗う気骨。逆境になればなるほど強くなる。
大和魂:5P……日ノ本を思う武士の心。効果無し。ただし別能力に変化する場合あり。
一部誤植があった気がするけど気にしない。
本家が目の前にいる中で藪蛇になりそうだし。
にしても多い……。
これ一部なんだぜ?
この100倍近く能力ある内のほんの少しだ。
パッと見6、7割は5&10P消費でこれ良い能力だなぁと思った奴は大概それ以上消費するように出来てるな。
巨人化関連は無駄に高いし、取得するとそれだけでアウトだ。
このゲームは巨人化して無双! なんてゲームじゃないから実質これを習得する意味は薄いだろう。つーか面白くない。やっぱ人間のままで巨人に立ち向かってこそだろ!
ただ能力が多すぎてどれがいいかもわからない
頼りになるクールビューティーチサカ先生に聞こう。
お願いしまーすチカサせんせーい!
『おススメですか? ならば探知系のどれかは取得した方がいいかもしれません』
「探知系?」
『はい。このゲームではマップももちろんあります。しかし味方やその他、地形等の表示はされますが……実は敵表示は条件を達成しないと表示されないんです』
「えっ、マップって敵とかでないの? 普通のゲームならありそうだけど。無双系のゲームとか」
『表示されません。元々いつ殺るか殺られるかの緊張感もこのゲームの醍醐味ですので。ただそれだと難しいのではないかということで、特殊能力で追加されたのです。
マップでは敵を視界に入れればマップ表示されます。しかし目の前に敵がいる状態で右上にあるマップをのんびり見ている暇があったら戦いますよね? 視界から消えればマップからも消失し、敵を探すという意味ではマップの意味は意味を為しません。
その使えないマップを使えるようにするのが探知系特殊能力です。『気配探知』なら探知範囲は狭いですがあらゆる場面で有効ですし、『第六感』という能力なら危険な気配がすると警告してくれます。どれか1つでもあればマップにも察知した敵が表示されるので取得した方がいいでしょう』
探知系か。
たしかにこれ関係は是非必要だってネットにも書いてあった気がする……。
思いだした!
このゲームとにかく死亡時のデスペナが凄まじく高いんだ!
死にまくりゲーな気配ぷんぷんなのでデスぺナが酷い。
確か……『死亡時6時間前までの取得経験値消失』だった。
作戦開始の最初ならいいけど散々敵を倒した後で死んだら最悪5レベルダウンとかしかねない
なったら俺はマジ泣きするぞホント。
ネットでは「生き残れ! 強くなりたい奴はとにかく逃げて逃げて逃げまくらないとマジヤヴァイぞこれ!!」
とか騒いでいた。
ある程度経験値稼ぎしたらスネークさん並の警戒度で撤退or延命戦法で経験値を無くさないようにしなくてはいけない。
M向けのゲームだよな。でも最近のゲームって昔程難易度高くないんだよな。
個人的にファミコン時代の無理ゲーとかに燃えてた頃もあって、子供のお使いレベルなクエストとかあくびがでる。
そういう意味でもこのゲームは期待大。
高難度のゲームをどれだけうまく立ち回ってクリアするか――考えるだけで脳汁が今からでそうだぜ!
「ならコレとコレ後は――」
いくつか選択した結果の能力構成はこうなった。
天才:30P……成長率特大アップ
利発:15P……成長率中アップ&知性20%アップ
微再生:5P……常人より怪我&病気の治りが早い
復活:10P……1日に一度だけ即死ダメージを喰らっても万全の状態で復活できる
生存本能:5P……致命傷になる攻撃を反射的に避ける。
夜目:5P……暗闇でもよく見える
気配察知:10P……30m内の気配を敏感に察知。マップ敵表示可能。
器具の才能:10……立体機動装置の扱いがうまくなる。また機械にも強くなる。
逆転発想:10P……閃き。知性30%アップ。ときおりとんでもないことを思いつく
なんというか成長率重視&回避屋&知性50%アップって感じになった。
成長率は重ねがけOKらしいのでとにかく天才と利発で2重掛け。成長すればする程とんでもない廃スペックになるはず。
巨人に喰われたくはない――経験値消失とか嫌すぎるので回避重視のスキルを充実させる。不意の一撃用に復活でカバー。
知性はスキル効果を高くしやすくする効果もあるので上昇させた。
それでもかなり凄いことになったけどさすが特殊能力の極振り。選択肢が多くて困った。
最後の逆転発想とかはなんなくでとっちゃったし。
「これで終わりっ! お願いしまーす!」
『はい畏まりました。では次に性別はどうなさいますか?』
まあネカマプレイとかするつもりないし……。
「男で。あと容姿は今の姿を利用できたらお願いします」
『性別男。身長178cmでボブカットタイプ――容姿の変更はなし……と。はい可能です。髪や目の色は変えられますがどうしますか?』
色か……。
なんとなく容姿はそのままにしたけどトラブルとかたまにあるよな。
気に入らないプレイヤーを粘着とか家とつきとめて襲うとか。
一応目の色だけ変更しよっか。
「あ~~~っと目の色を金眼にできます?」
狼とかそういうの。通常ではそうそう居ない目の色だから印象もガラリと変わるはず。顔は同じだからどこまで有効は判らないけど。
『可能です――では次に名前ですが』
「ああ、アオイでお願いします」
『名字はどうなさいますか? ランダムでも設定できますが』
「ランダムで。とくに気のきいた名字って思いつかないし」
『はい畏まりました――では最後に知り合いになる方についての話です』
「あーそう言えばエレン達と同期だから誰かしらと知り合いになる『特典』が付くんだっけ?」
『その通りです。ただし原則1名のみとなります。相手を指定するかランダム選択が可能です。また最初訓練兵団に入団する前にその対象とイベントが発生します。いきなり親しくされても困る方もいらっしゃるでしょうし、謂わば仲良くなる切っ掛けのイベントですね。体を操作するチュートリアルも兼ねていますので自由に動かしてみてください。またログインは現実時間で1日10時間ですがゲーム内は時間加速機能で5倍の早くなっています。つまり体感時間としては2日と少々は最大ですごせますのでご了承ください。
ここで重要な事ですがランダム選択にした場合、誰になるか判らなくなる代わりに違う年代の方……エルヴィン団長やハンジさんなど全てのキャラが対象になります。あらかじめご理解の程お願い申し上げます』
「わかりました」
つまり特定の同期を指定するのもいいけど、ランダムで本来知りあえない人と仲良くなるチャンスもあるってわけだ。
だったら俺は――
「知り合いはランダム選択でお願いします。そっちの方が面白そうですし」
『畏まりました――ではこれにて初期設定は終了となります。これより進撃の巨人、ゲーム開始となります』
いよっしゃ!
とうとう開始だ。まあチュートリアルだろうからまだ戦闘はないだろうけど。
最後にちょっとだけふざけよっかな?
「こちらこそありがとうございました。ついでにミカサさん結婚しよ!」
『ふふふふ……お言葉は嬉しいのですが、私には大切な人がいますのでお断りしておきます』
「残念。じゃあいきます」
『はいではアオイさま……ざ……よき進撃ざざの世界……ザザザ……を………………』
「ん? あ、はいではいってきます」
途中から昔のブラウン管TVみたいな砂嵐が広がり初め、チサカさんを含め周囲の景色を閉ざしてしまった。
斬新な開始だなぁ……。
「まあいっか。いざ往かん進撃の巨人の世界へ!!」
アオイ――自宅から進撃します!