太陽が俺を応援するように雲から顔を出す。
差しこんだ暖かい光を受けながら俺は決意する。
みんなを助けるために1年間この超危険地帯ウォールマリアで過ごすと!
だってもう誰かが死ぬ目に遭うのは嫌だから――
「馬さんいないねー」
「ねー……」
――なんて決めたら主人公的でいいけど違う。
避難する人達が当然のように馬をみんな連れていったから交通手段がないだけです。
ウォールローゼが凄まじく遠すぎる。
マリア~ローゼ間の距離は約100km。
ダイエット番組だかで見た人の歩行速度は時速約4キロ。
眠らずにぶっ続けでいけば1日ちょいで着く距離ではある。
ただ休憩や周囲の警戒などを考えると2、3日はかかる。
巨人に出会えば即死亡確定だ。現実的じゃない。
馬がいれば1日で着くのは容易――――と考えたがそれも甘いと思わざるえなかった。
壁上の上からでもちょこちょこと奴ら……巨人共が徘徊してやがる。
俺を見つけてなんか追っかけているジャイアントストーカーすらいる。
美少女が追っかけてくれるまだしも、筋肉質なガチムチ巨人がやって来るんだから泣く。
『夜目』のスキルを駆使し、巨人の動きが鈍い夜間の強行軍なら可能性は残ってはいる、がこれもまだ問題があった。
ローゼとマリアの間に森や山が広がっている。
現代のように舗装された道を突っ走るわけじゃない。
人の手が入れられてない地面は硬いところもあれば柔い部分もある。
でこぼこでとてもじゃないが走れない。
整備された街道らしきものは、それでも登り降りや一直線じゃない関係上その道は単純に100kmの距離とはいえない。
それでも馬を探しているのは1年後の事を見越してからだった。
正直な話乗馬はたま~に乗せて貰ったことがある程度で実は走らすのも一苦労。
でも背の低いレナがいると幾分遅くなるし、一緒に乗っていくのが上策。
なんとか巨人がしたに居ない場所を探して馬で訓練するという方法を採るしかない。
そして人並みに乗馬になれた状態で、ウォールローゼに避難する作戦として半ば破れかぶれの策だが一応ある。
じーさん救出時に置ける『口減らし』だ。
巨人は人が集まる場所に集まる性質――これを利用する。
ウォールマリア奪還と称された実質、食糧困難に陥った人類の苦肉の策『口減らし』。
実質、
数万~十数万に及ぶ人々が門外へと出て来るのだから。
トロスト区の門が破壊された時も奴らは一斉に門を目指し始めたのは原作でも出ていた。
ということはこの間だけは1、2人の人間よりそっちの方に興味を持つ巨人が多数出没するだろう。
機会はこれしかない。これを逃すとウォールローゼに向かう事が絶望的となる。
そして今までコツコツとアイテムボックスに溜めてきた食糧が底を尽き……餓死するか、万が一も困難な無謀強行軍でローゼを目指すしかなくなる。
正直この作戦は穴だらけのいいところだ。
トムとジェリーに出てくるチーズみたいにボコボコ空いている。
良案なんて俺の頭脳じゃ浮かばずこの程度しか湧かない。
知性ってなんのためにあるんだろうな……。
でも1つ気が付いていることがある。
「自分達が助かりたいために人を囮にして逃げるようなものだ……最低だな、俺は」
目を背けたくなる事実だけはすぐ気が付く。
うじうじしても仕様が無いんだけど……。
「おにたんどうしたの?」
「いや、なんでもない」
「ん~?」
疑問譜を浮かべながらも歩くレナ。
そう言えば彼女は言動が幼いことし、俺より結構背が低いこともあって年齢を6歳前後を見積もっていたんだが、実は同い年だった。いやおかしいだろう精神年齢が体に追いついていない。
…………考えたくないけど、ショックで幼児退行でもしているのだろうか?
俺は医者じゃない。彼女の知り合いでもいれば判るかもしれないがここにいるわけもない。
時間が彼女の心を癒してくれることを願うしかない。
俺は破れた服に代わり各所から失敬してきた駐屯兵団の制服に身を包んでいる。
少しぶかぶかだったけど、これからどんどん成長する体には丁度いいと思う。
元々、兵士のための装備であるし、厚手なのでちょっとした作業着だ。少し重いけど。
自衛隊の友人に見せてもらった戦闘服も堅い繊維で着用すると結構ずしっとくる。
兵士の服を頑丈に作るはいつの時代でも同じなのかもしれない。
そんな傍目背の低い駐屯兵の俺とミカサのように丈の長い民族衣装っぽい服をきたレナ。
俺達が目指しているのは南東の山奥の村。
幸いといっていいのか、戦闘時はあまり役に立っていないマップが現在もの凄く役だっている。
偶然、アニの父の手記を探せというミッションの部分を触れてしまったときコンパスが表示され一定方向を差し始めたのだ。
まだ判らないけどどうもウォールローゼを差しているわけではないらしい。
勘だけどアニ達の村を指し示してしるのではないか?
そう思い現在壁上からその近くまで行こうとしている。
ついでに馬が見つかればさらに万々歳だ。
俺達シガンシナ区から北東――つまり、ウォールマリア南東の壁上へと移動しはじめた。
悪天候時などは打ち捨てられた家で休んだり(もちろん巨人がいない場所で。日光が著しく遮られてるからか雨の日とかも巨人の動きが鈍い)しながらゆっくりと進み、コンパスが完全にローゼ方面を指し示す場所まで。
途中で何日経ったか忘れてしまったけど多分2ヵ月近く経ったかもしれない。
何故ってウォールマリアの円周が約3200kmもあったから。壁内の中心地である王城からマリア外周まで480kmあることを途中で思い出したときは思わず泣きたくなった。
シガンシナから南東部分にいくなら8分の1――400km。
具体的には東京から神戸くらいの距離。交通手段は当然徒歩。50mの高さ手すりの無い道を延々と歩く。
高所恐怖症じゃなければ軽く死ねる。
念のためレナと俺の腰をロープで結んで命綱的にしている。俺は装置で大丈夫だけどレナは落っこちたら即終了だから。
そんな神経を使う行程だから通常より歩みは遅くなってしまう。
天候が悪くても駄目だし、結果かなりの時間が経ってしまった。
馬も見つからないし。
意外と体力があるレナと一緒に歩いていったが何故か俺の方がいつも先にへばるとかあり得ない……。
俺って貧弱なのだろうか……。
「おにたん早~い!」「もっといけないの?」「(進んだ道が)みじかいよぉー」とか言われて何故か心がぐさぐさ傷つけられた。
この子は将来、Sっ気のある女性に成長するに違いない。じゃなければ天然で男を罵倒できる女の子になるのではないだろうか。
俺はこの無自覚な小悪魔に戦慄しながらなんとか400kmの行程を歩ききった。
ようやく筋肉痛に悩まさせる日々から解放される。
でもちびっこレナは今日も元気に毛布を振りまわしていた。
何故だ。
あと毛布は振りまわさないように……あ、飛んだ。
ウォールマリア南東に辿りついたその夜。
偶然真下に農家を発見し、巨人も付近に居なかったので今日の寝床としていた。
ある意味チートかもしれないマップ機能と探知系スキル『気配察知』と回避用スキルの『生存本能』が凄い役立つ。
周囲に敵がいるかを赤い光点で察知する。30m内は確実に識別し、1km内でもハテナマークでなにかいるかもしれないと警告してくれる。いない場合や鹿とか別の生き物である場合もあるが。
やばい時は『生存本能』が警鐘を鳴らす自動目覚まし機能を果たしていた。
どうも野生の獣のように寝ている時に外敵が近づくと脳の奥でジリリと目覚ましが鳴る感覚をするのだ。
大概巨人に対してのみ。たまに狼など肉食動物でも反応する。
2ヵ月間サバイバル生活とみたいな生き方をしていたが、スキルがある分凄く普通の人より楽に過ごせている。
逆になんにもなかったら俺達はもう死んでいたかもしれない。
実際夜間に巨人がやってきた場合もなんどかあった。
大概は日が暮れてあまり時間が経っていない時。
活動が鈍りにくのはやはり大型が多い。
その所為か壁に背を預けて寝るというどこの武士だと言うような特技を手に入れてしまった。
そういえば1、2時間弱しか睡眠がとれないようなの短期の5日間超激務バイト(クリスマスシーズン)をしたらその後、起きようとすれば1時間とかそれ以下の仮眠である程度は眠気が覚めることができるようになった。
人間やろうとすると意外と適応できる生き物だと実感した。
――と今はそれをするわけじゃなくて……。
「アイテムボックス」
パン×131
水×100
魚×81
肉×83
スープ×10
火打石×8
木×21
立体機動装置×6
装具一式×3
予備ガス管×10
所持金、鋼貨142枚
シガンシナ区を旅立つとき巨人の目を盗んでとにかく装備をかき集めた。
内門近くに駐屯兵達が持っていこうとしていたのか物資がそのまま打ち捨てられていたのだ。
鎧の巨人に内門を破られたから即座に撤退したのかどうかは不明だ。
ただありがたく頂戴した。
立体機動装置にもガスはついてあるけど、それ以外にも管が備え付けられていた。
予備なのかは不明だが……ある分には助かるのでOKだ。
巨人との戦闘は全て逃げたので基本壁上の登り降り程度しか使用していない。
ガス管は2本使いきった程度だ。
そして問題は――
「馬いねぇ……当たり前だけど」
馬がいない。
この農家……馬房らしきものがあって馬もいるかと期待したけどやっぱりいない。
いや逆に2ヵ月も繋がれてたら餓死するだろうけど。
農家を見つけたときはラッキーと思ったけど世の中そんなに甘くないようで。
結局歩いて山奥の村に行かないと駄目らしい。
でもレナの存在がかなり重しになっている。
壁上は風の強い日は体の軽いレナは飛ばされかねない。
かといって地面だと巨人が来たら終了だ。
連れていくとそれもそれで危険すぎる。
「あーーー頭痛い……どうすりゃいいんだよー……」
頭の痛いこの問題。解決するのは容易ではなさそうだった。
× × ×
昼下がりの午後の調査兵団本部。
その一室では恰幅のいい商人風の男と話していた。
内容は調査兵団に対する融資だ。
多くの人々が破られないと盲信していたウォールマリア。
100年もの間巨人の侵攻を防ぎ続けた壁を破られ人々は混乱し、今なお這う這うの体でウォールローゼに集まっている。
避難民が明日食べるものに困っているにも関わらず、この脂ぎった男は目敏く調査兵団に恩を売りにきているのだ
そんなことをしている暇があれば、1人でも多くの市民を助ければいいものを。
「いや~ワタクシはずっと前から調査兵団こそこの国に必要だと思っていましてね。このたびは人類初の兵站拠点作りを成功させたキース殿に出会えて僥倖ですわ。これはホンノ気持ちです。これかも調査兵団のご活躍を期待しております」
「(ふん……数か月前まで税金ドロボウなどと蔑んでいた奴がよくゆうわ)……これはこれはご丁寧に。こちらも王の御威光を巨人共に知らしめるべく粉骨砕身の想いで任務に励む所存です」
「これは頼もしい! 調査兵団には我商会も期待しています。では今日はこれにて――――」
それで商人の男は去っていった。
入れ替わるようにドアからやってきたのはエルヴィン。
既に次期団長として任命することは話してある。
今はまだ人類の混乱は収まっていないが、そう遠くない未来――この男の双肩には調査兵団の、あるいはこの国の未来を託すことになる。
なんともタイミングが悪い事だ。
儂自身、まだ引退するべきか迷うところだ。
「団長――融資の話しですか?」
「ああ、皆掌を返したようにご機嫌取りだ。そっちもだろう?」
「はい。まだ正式に決まってもいないのにあれやこれやと祝いの品を送られる始末です。中には娘を嫁にと言う者いるようで」
「結婚もいいじゃないか。まあ、相手の親は利益や発言力を増そうという下心を明け透けに見せているがな」
「興味ありません。今はウォールマリアの奪還――そして巨人の謎を解明しなくれはならないのですから」
「フン、枯れているな。まあいい、それよりシガンシナとはな…………」
ため息を吐く。
「アオイ少年の事でしょうか?」
「ああ、奴の馬鹿みたいな吸収力は教える側も楽しくさせてくれる。今後が期待できたのにな……」
歳を取ったからだろうか、最近は若い者達の成長も1つの楽しみになっていた。
引退すると決めた頃から新人の教育にも力を入れた。
荒削りな原石が少しずつ研磨され、輝いていく姿を見るのが楽しい。
初めはひっそりと隠居するのもいいと思っていた。
長く巨人との終わりの見えない戦いを続け、帰れば市民の罵倒と侮蔑の視線。
仲間の死を乗り越え疲れ切った精神を残りの余生でゆっくり癒すのもいいと……。
だが楽しみを見出してしまった。
俺の鍛えた立体機動を初めとした技術、精神――その他諸々を後世に伝えるのもいいよ思えるようになった。
そんな俺の前に現れたアオイ・アルレルトという少年。
1を教えれば10の答えと結果を出す小さい希望。
奴はエルヴィンのさらに次代を担う団長候補すら任せられる気がしたのだがな……。
「目の前に獲物に気を取られていたとはいえ、30人の犠牲で1人倒せると言われていた巨人の単独撃破。他の駐屯兵と協力したのも含めれば3体撃破したという目撃証言がありました」
「しかも鎧のような筋肉を纏った巨人に対しても単独で渡りあった。間違いなく……間違いなく、あれは将来人類の希望となる男になるはずだった! あんな場所で死んでいい者ではない!」
そう目撃証言から最後は巨人に殴られ死亡したとある。死体こそ残らないものの生きているには絶望的なダメージを受けたはずだ。
目の前に転がった希望という名の宝石はいとも簡単に砕かれた。
多くの仲間の死を経験した儂でもこの報告を受けたときは、ただただ哀しかった……。
「そうでしょうか?」
「……どういう事だエルヴィン?」
儂と違い、常に冷静沈着、そしてなにより残酷なまでに現実的な考えをする男がそう静かに言う。
その言葉に興味を引かれた。
「これは私が彼を直接指導した感想なのですが……彼は何よりも回避することを念頭に置いているように見えます」
「回避するのは当然のことではないか。誰だって攻撃を当たりに行く馬鹿はおらん」
「いえ、彼はハンジ分隊長のようにある意味野生的とも言える直感で攻撃を避ける技能を持っているように思えます。そして同時に岩かとも思えるほど頑強な肉体を持っていました。そんな彼が素直に相手の攻撃を受け、そして致命傷に至るでしょうか?」
「だが戦場は残酷だ。非力な者が運よく生き残り、実力のある兵士は運悪く死ぬ。そんな理不尽な現実はお前こそ知っているだろう」
「確かにそうです。ですが彼は天すら味方して生き残る――そんな気がしてならないのです。頭が良いようで適度に馬鹿――兵士達と数日間であっという間に打ちとける少年。どんな窮地でも笑いながら帰ってると思わせる不思議な子ですよ彼は」
「お前にしては理論的じゃない、感情的で希望的観測に満ちた意見だな」
「理論的にいえば強い兵が運悪く死ぬのもおかしいでしょう。ハンジなど巨人に笑いながら近づいて話しかけるなどの自殺行為とも言える行動をしますが、彼女が死ぬ姿を不思議と連想しません。アオイ少年も同タイプですよ」
「ふむ……」
やけに自身満々に語るな。
アイツなりに感じものがあるということか。
「まあ、どの道儂らは今できることをするしかない、ということか」
「はい」
少し話した後、今度は新人の話をすることになったのだが――
「しっ、失礼します!」
「ああ、入れ」
どうも会話を中断されてしまった。また今度にするか。
若い奴もどんどん入る。儂も負けていられんな。
アオイ……もし生きていたらびしばし鍛えてやる。死んでいたらあの世で鍛えてやるから待っていろよ。
シャンレナはお荷物要員。割とひどい扱い(^_^;)
進撃の巨人ってたまにシュールな笑いが入りますよね。
個人的にはアニメにはないですが、ツンデレファザコンぽいアニが父に教わった格闘術を褒められて気をよくしたのか、エレンに格闘術を教えようかといったところで真顔で「いやだよ痛いから」といった場面が非常に笑えた。おいその流れで拒否るのかエレンww
あとジャンに胸倉捕まれたとき「服破けちゃうだろ!」もつぼでした。そこかよエレン!?
そんなシュールで笑いをとれる文をまぜれないかなーなどと最近思う作者でした。