VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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すいません2話を見直したら船は内門を出た先にあった……という(^_^;)
大きく修正します。


戦いで欠けるもの

 綺麗な夕焼け空、それを楽しむ余裕など人々には無い。

 

「急げーーっ!! 住民の方々は極力荷物を降ろしてくださーい! 1人でも多くの人を乗せなくてはいけません!」

「は、はやくのせてくれぇ!」

「この子だけでも乗せてくださいっ」

「お父さん、お父さんは何処!?」

「婆さんや儂らはもう駄目なんかのう……」

 

 脱出するためのモノレール船はギュウギュウ詰め。

 それでも巨人の手から運よく逃れたシガンシナ区の住民達は押し寄せる。

 さながら人の海といっていい人数に船という名の池では到底収まるわけがない。

 急がないと乗れなくなるだろう。

 

「どいてくれ! ……ほらよっと!」

 

 自分だけでも助かろうと、船の中になだれ込もうとする住人達が押し寄せる。人の波でかなり混沌とした状況だ。

 そんな人の間をスルスルと抜けていくハンネス。とても手際が良い。

 止めている兵士達が手一杯からか、それとも同じ兵士だから先を行くハンネスを見てぬ振りでもしているのか、とにかく最前列まで行くことができた。

 

「よし、お前等よく頑張った。ここまでくればもう大丈夫だ」

「「…………」」

「ありがとう」

「ありあとー♪」

 

 ミカサはいつも通り。少女は心の余裕が出てきたのかきゃっきゃっと無邪気に笑っている。

 だが喋らず無言のエレンと俺。

 目の前で母を亡くしたエレン。

 馬鹿野郎はカルラを生かすことができず、ずっと悶々していた。

 ハンネスはそっと俺達の背を押す。

 

「兄さんっ、エレーン、ミカサ!!」

 

 アルミンがぶんぶんと手を振っている。

 隣にはじーさんもいるようだ。

 

(避難してくれたか……よかった)

 

 少しだけ気がかりだった。

 アルミンが俺を心配して巨人が徘徊し始めている危険なシガンシナ区の街に戻っている可能性もあったから。

 でもそれに気付いたのはつい先ほど。

 それまでカルラさんの事で頭がいっぱいになり、すっかり忘れていたのだ。

 迂闊にも程がある……っ!

 

「オレはこの後、内門にいって巨人達の迎撃と住民の避難の支援に行ってくる。また後で会おうぜ」

 

 ハンネスはこれから内門に向かい極力住人達の避難の支援をするそうだが、最後に門を閉じる作業があるだろう。

 内門に巨人が来たら閉鎖しなくてはいけない。

 一番最後に脱出しなくてはいけない危険な仕事だ。

 だが本当にキツイのは住民達をシガンシナ区に閉じ込めることになることだ――でなければシガンシナだけでなく、ウォールマリア全体が巨人の脅威に晒されるのだから。

 立体機動装置で幾人かは壁上に運ぶかもしれないが、ガス残量の関係上、極少数しか助けることのできない厳しいものとなるだろう。

 

 そんなことを考えながら列は進み……エレン、ミカサ、少女――と続いたところで兵士が通せんぼした。

 

「済まないがここまでだ!!」

「ちょっと待ってくれ! こいつだけでも」

「悪いがハンネス、それは他の奴らだって同じなんだ。これ以上は限界なんだっ!!」

「そ、そこお願いできないのかよ!?」

「駄目ったら駄目だ! 出港ーーー!!」

 

 動き始めた船に住民達が騒ぎ出す。

 当然だ、置いていかれたら巨人に喰われて死ぬ可能性が格段に上がる。

 誰だってそんな死に方をしたくはないだろう。

 

「あ、お、おい……糞っ!! 飛び乗ってやる!!」

「俺もだっ!」

「この子をお願いっ!」

 

 揉みくちゃにされながら、数人が塀をよじ登り船に飛び乗ろうとする。

 中には小さな子供を船の上にいる父親らしき人にダイレクトパスする強者までいる。

 見事船にしがみ付くことに成功する者もいれば、失敗し河に転落するものも続出した。

 そんな中アルミンが俺が乗っていないことに気づき叫ぶ。

 

「にいさんっ! にいさーーん!!」

「アルミンっ! 俺は大丈夫だ! コレがあるからなっ!」

「でもっっ!! でもっっ!!」

 

 コツンと立体機動装置を見せ叩く。 

 俺が立体機動装置をちょこちょこ習っていたことはアイツも知っている。

 それでもアルミンがこっちに来ようとして、船の縁に足をかけてたがじーさんがなんとか静止してくれたようだ。

 離れ始めた船に俺は拳を掲げ、少しでも安心してもらおうとすることしかできない。

 耳の傍で未だ住民達の悲鳴や怒声が響く中、俺達は少し離れたところで離す。

 

「くそっ仕方ねえ! お前は俺達と一緒に逃げるぞ!」

「わかってる……でもその前に――」

「お、おい何やって」

 

 ハンネスさんのブレードを2対4本引き抜く。

 立体機動装置は最大4対8本までブレードを収めることが出来る。

 俺のブレードは既に3対6本は巨人に投げつけて無くしており、あと2本しかない。。

 南門の小屋から拝借した立体機動装置にもブレードがついており、アイテムボックスから出すことはできるが……。

 だがこんなとんでも無い状況でやったらどうなるかわかったものではないし、余計な火種を呼び込みかねない。

 

「ガスはまだ半分くらいあるけど……補充ってどこかで出来ないのかな」

「それなら内門の近くで補給できるが――ちょっと待てアオイ! 」

「ごめんっハンネスさん! 俺はまだ取り残された人がいるか探してくるからっ!」

 

 実際は救助というより鎧の巨人が今にもやって来かねない。

 早く準備しないと門付近にいる兵士達に大被害が起きる。

 普段の兵士としては不真面目だけど、みんなノリのいい奴らなんだ。死なせたくない。そう絶対に!

 

「おいアオイっ! くそッお前帰ってきたら立体機動装置を無断拝借した件も合わせてみっちり絞ってやるからなーーーっ!!!」

「お酒にツマミ込みで勘弁してー!」

「はっ! 呑みながら叱ってやるよ悪ガキッ!!」

 

 生きるか死ぬかの状況で軽口を叩き合う。

 たぶんハンネスさんだからこんな会話ができるんだろう。

 俺は走りながらステータス画面を開く。

 

 

 

『アオイ・アルレルト』

 性別・男

 所属兵団『無』

 称号『若き瞬英』

 

 LV5→9

 

 筋力 :26→38→50(ポイント振替)

 敏捷性:38→49

 器用さ:16→24

 頑強 :50→65

 体力 :18→30

 知性 :20(+10)→28(+14)

 

 運  :50(通常)

 残ポイント=0P→12P→0P

 

 全体的の能力値が急上昇している。

 たぶん巨人との死闘がかなりの成長率にプラス補正を与えているのだろう。

 俺は全ポイントを先ほどと同様に筋力へと全振りする。

 鎧の巨人というからには防御力が半端ないはず。

 奴の弱点は知っているけど、弱点部分ですらその耐久性は計り知れない。

 いざというときダメージを与えられませんでしたという事になったら止めることなど不可能だ。

 最善を尽くすため――俺ができる最大限の力を奴に叩きこんでやる!

 

 

 

 ×

 

「おにたん、どこ? あ、いたー♪」

 

 遠目で黒髪の立体機動装置を装着した少年を発見した少女は思いもよらない行動に出る。

 1人の少女が動き始めた船を気にせず、いきなり岸に向かって飛び上がる。

 その小さな体躯に不釣り合いな身体能力でぴょんと岸にしがみ付く。

 

「お、おい嬢ちゃんなにやってんの!?」

 

 助け舟から自ら降りる少女に周りが困惑しながらも引き上げた。

 ただ少女が口にしたのは、

 

「おにたん、おいかけゆ~~♪」

 

 周りが驚いでいるなかトタタタッと軽い足取りで少女は少年の後を追う。

 殺伐とした空気に似合わない満面の笑みで。

 

 ×

 

 

 

 

 内門に向う前に一度確認したい事があった。

 鎧の巨人だ。

 エレン達を船に乗せたということはもう時間がない。

 俺は壁上から周囲を眺めるためにアンカーを飛ばして壁に突き刺す。

 

「頼む……まだ来るなよ……」

 

 ワイヤーを巻き取りながら祈るような気持ちで上る。

 そして広がった光景は朝とは違い、巨人が徘徊する街。

 ぱっと10m以上のドでかいやつらが我が物顔で歩きまわる世界だった。

 ぎりっ!

 

「まだいないが……くそ……こんな……」

 

 強く歯を食いしばり目に焼き付け誓う。

 絶対、取り戻すと。

 痛みとともに口の中に血の味が混じる。

 少し切ってきたようだ。

 

(血……か)

 

 脳裏に浮かぶのはカルラさんの下に広がる命の滴――

 

「みんなと一緒にカルラさんのお墓も作ろう――シガンシナ区に帰ってきて……」

 

 俺は右手にある内門にいくためワイヤーを伸ばしながら降りかけたところ割と近く……左手から悲鳴が届く。

 

「ひ、ひぃぃぃ!! やめろぉぉ!?」

「もうこんな処まで!」

 

 

 強面顔の4m級が兵士を捕らえ口に含もうとしている。

 兵士も必死にもがいているが解けない。

 

「あの巨人、家の隙間を通ってきたのか!? ここまで接近しているなんてっ」

 

 しかも内門からは死角になっていて、50mくらいの至近距離なのに巨人がいるのに気付いていない!

 

 俺は飛び上がり、空中でブレードを引き抜きながら巨人の背後をとる。

 幸い奴が壁に近い位置についていたから可能だった。

 トリガーを引いてうなじへと突き刺す。

 

 がががが!

 

 弧を描き滑りながら装置と石畳は火花を散らし、標的との10mを距離を一息で零にする。

 回転しながらブレードを振りまわし、

 

「敵の弱点は――縦1m横10cmっ!!」

 

 ザシュン!

 

 血煙が舞い上がる。

 先ほど以上に軽い手ごたえに少し驚きながらも肉を裂いた。 

 能力の向上は予想以上に俺に身体にキレを与えているようだ。

 

「ぉぉ――――」

 

 ドスンッ!

 

「は……はぁ……やっぱり疲れる……」

 

 命のやり取りが想像以上に神経を削る。

 俺は周囲に巨人がいないことを確認しつつ兵士に声をかけたのだが――

 

「ひぃぃ! ひぃぃぃ! 俺はもう駄目だ俺はもう駄目俺はもう駄目だ――」

「おいッおいッ! どうしたんだよもう……」

 

 何度も話かけたのにガタガタ震えながら同じことをうわ言のように呟く。

 目の焦点もあってないし、なんというか……失禁もしている。

 俺はどうしようかと困っていると他の兵士が近づいてきた。

 よく見るとハンネスさんとたまに門番をしていた金髪刈り上げのグリードさんだった。

 

「おい、どうしたんだ! ってアオイッどうしてここに。それにバイドはどうしたんだ」

「あ、グリードさん! ちょっと義勇兵というかーですね……」

「――もしかしてそこで死んでる巨人はお前が、なんて」

「はい、自分がやりました」

「……聞きたいことは山ほどあるが……とりあえず船が行っちまった。

 俺達と一緒に逃げるしかねぇ。話ながら行くぞ。バイドは俺が連れていく」

 

 グリードさんはガタガタ震えるバイドさんと担ぎあげて走り出す。

 俺はひとまずこれまでの経緯を話しながらグリードさんについて行く。

 さすがに巨人の襲来を予期して事前に保管庫に忍び込んでいました、と正直には言えないのでそこら辺はぼかしてだが。

 そこで聞いたのがバイドさんみたいになってしまった人が割と多いという事だった。

 

「バイドだけじゃねぇ。何人かは、巨人が目の前で人を喰う姿を見ておかしくなっちまってる。逆に俺みたいなびびってる奴がなんだかんだで正気を保ってるんだから笑えない話さ。正直、似たような奴を知っているがここまでとはな――」

「それって……」

「訓練兵時代に立体機動ミスって高所から落下、仲間の頭が潰れる瞬間の表情を間近で直視しちまった奴とか居たんだが――其れ以後ずっとケラケラ笑って心が変になる奴もいるんだよ……。精神がぶっこわれちまってさ……」

「…………」

 

 無理もないと思う。

 現代だってベトナム戦争とか、後遺症で苦しんでいる人がいる。

 人間、生き死にのやり取りをする極限状態に陥ると精神が病むことはどうしたってある。

 バイドという人もたぶん喰われる瞬間、心のどこかが壊れてしまったのかもしれない。

 でも命を助けたのに心は救えなかったなんて、

 

「……やるせない」

「それでもお前は人を助けたんだからさ、やっぱ凄いって」

 

 怒られるかと思ったけど、苦笑いで済ましてくれた。

 

「装置の無断拝借は本来駄目なんだが、考えてみりゃ調査兵団様の指導も受けていたんだろ? やっぱ実力者集団は凄いな……こんな時居てくれるとほんと助かるんだが」

「あれ、グリードさんって調査兵のこと馬鹿にしてたりしませんでしたっけ」

 

 たまにゲラゲラ笑いながら死にたがり集団だとかいっていたけど。

 

「馬鹿にはしていたけど、さ。やっぱ巨人殺しに関しちゃアイツらには敵わないって誰もが思ってるよ。戦う事に関しちゃ調査兵が一番優秀だし、兵士らしい兵士とも言えるからな。だから嫉妬しちまうだけどさ」

「そうなんですか……」

 

 そんな話をしながら内門へと向かう。

 住人のほとんどが脱出したか内門付近に集まったせいか、悲鳴も聞こえなくなってきた。

 ただ街そこかしこでで煙がたちのぼり、瓦礫が多くなっている。

 ドシンドシンと巨人の足音も近づいてきている気がする。

 巨人は人が多くいる方へと集まる習性がある。

 間違いなく奴らはこっちに向かってきているだろう。

 

「フ-ゴ、コイツにガスを補充してやってくれ!」

「グリードにバイド、それに――アオイなにやってんだよ!?」

「それはですね――」

 

 何度も説明するのもあれなのだが、グリードさんも加わって説明してくれた

 手伝いに関しても一応だが了承してくれた。

 というのも人が圧倒的に足りてないらしい。

 今は猫の手も借りたいくらいだとか。

 住民も避難し終えてないから内門を閉鎖できないし、巨人と戦いなれていない兵士達はどんどん奴らの餌食になる。

 そんな話をガスを補給しながら説明してくれた。

 立体機動装置のガスを満杯にした後、街の方を見てみると、

 

 ドン! ドン! ドン!

 

「くそッ! どんどん来やがる!」

 

 大砲で迎撃!?

 もしかしてもう鎧の巨人が――

 

「巨人ですか!?」

「ああ、幸いちびっこい3mと5m級だから直撃すればうなじごと――――うし! 命中!」

 

 どうやら運よく倒せたようだ。

 しかし鎧の巨人がいつくるか判らない。

 少し前の方にいかないと――

 

「すいません! 俺ちょっと前いって敵がくるか見てきますッ!!」

「あ、おい!」

 

 他の人の静止を振り切り前進する。

 さすがに道のまんまえに陣取ると砲弾の射線に入るので屋根からだが。

 俺は屋根を伝いながら数十m前までいくと、

 

 ドオォン!!

 

 大地震でも起きたのかと思った。

 身体が一瞬、数cm浮いた。

 

「ッ!! なんだ!」

 

 天から街の一角に一瞬、稲妻が走ってかに見えたが――まさか!!

 俺の考えが正しいならアレは人が巨人になったときのものだ。

 先の大振動も巨大な質量が地面に降りたと仮定すれば。

 つまり奴が、くる。

 

 ドォン! ドォン!

 

「…………きたな、鎧の巨人!」

 

 臨戦態勢を保ちながら睨みつける。

 巨人の中でも強敵と間違いなく言える――鎧の巨人。

 俺の奴との距離は50m。

 奴が門に向かって走り出す前に勝負をしないと勝ち目はない。

 

 俺は立体機動を駆使し奴へと飛びかかった。

 

 

 

 

 


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