VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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若干鬱展開です。


真剣と覚悟、足りない者が歩む結末

 瓦礫を掻き分ける巨人。

 その目的は下敷きになっている女性だ。

 人命救助なんて大層な信念の元行動しているのなら無論、手を出す必要は無い。

 だが奴らにそんな意志があるわけない。

 生きるためでもなく、ただ殺戮のために人類を喰らう者――それが巨人という種族なのだから。

 俺は奴の手前にある屋根にアンカーをさし支点にする。

 ガスを吹かし、途中でアンカーを外し上空へと高く飛びあがる。

 

「奴の視界を閉ざす!」

 

 腕を力一杯振り奴に先ほどと同様にブレード投げを敢行した。

 

 ザザンッ!

 

 一か所は将来心配になりそうな薄ら頭に、もう一か所はカルラさんを捕まえている腕に。

 

「糞ッ! 失敗した!」

 

 だったらもう一度――そう思った俺に奴はぎょろっと目を向ける。

 

 やばい!

 死ぬ……。

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ厭だ厭だ厭だ厭だっ!!

 

 捕まったら終了だ!

 俺は必死に体を捻りながら避けようとするが脳のどこかで無理だと察する。

 もう避けようがないと。

 

(駄目――なのか。所詮、平和な日本暮らしの俺じゃあ……勝てないってこと、なのか――)

 

 悔しい。

 あのニヤケ顔を苦痛に歪めてやりたい――実際はあいつらの表情など変わることはまずないのだが。

 迫る大きな手は俺を捕らえようと迫る。

 至近距離で視界の半分を占める手に俺は諦めかけたが、

 

「くっそたれぇ! 世話かけんじゃねーよアオイっ。お前には良い酒を格安で買って貰わんにゃいけねんだからなっ!!」

 

 ザシュン!

 

「ぉぉぉ――――」

 

 あの人は、

 

「ハンネスさんっ!」

「恐わくて震えんのに、おじさんに無理させんじゃねっての!」

 

 いつの間にかエレンとミカサを連れて逃げていたハンネスさんが、巨人の後ろへと周り込み両足の腱を削ぎ落として体勢を崩させる。

 手が目の前から消えて俺は勝機を見つけた。

 今なら目が狙える!

 

「っ! これなら!」

 

 即座に代えの刃を付け、今度は奴の額に先ほどより近くなった巨人の両目に突きさす。

 

「ぉぉぉぉ!!」

 

 巨人は思わず痛みの走る両目を抑えようと手を離す。

 カルラさんの掴んでいた手を離したのだ。

 ハンネスさんは急いでカルラさんの真下に移動し、

 

「ほいっと済まねぇカルラ。どうやら根性無しの俺にも……勇気の一欠けらって奴ァあった見てぇだ」

「……ハンネス、すみません……」

「いいってことよ。これもアオイのお陰だ。酒を呑み過ぎて勇気って奴まで小便と一緒に垂れ流した俺に巨人に立ち向かう力を与えてくれた。……昔の兵士に憧れた気持ちって奴を思い出させてくれた気がするんだ……。……? おいカルラっ」

「いわないでハンネス…………」

 

 カルラさんをお姫様だっこしながらエレン達の元へと向かう。

 

「アオイ! もういいだろう。さっさと逃げるぞ!」

 

 ハンネスさんは俺に逃げることを促す。

 駄目なんだ――コイツを倒さないといけないんだ!

 じゃないとハンネスさんが殺されるかもしれないんだから!

 

「コイツはここで殺らないといけないんだ!」

「おいっやめろアオイ!」

 

 逃げるわけにはいかない。

 だが止まるわけにはいかないんだ……。

 

 パシュン!

 

 屋根に上って――

 

「おおぅ――!!」

 

 がしゅ!!

 

「ぐ……ァァァァあっっ!!?? くっそがァァァっ――――死にっ去らせぇぇぇっ」

 

 視界が塞がれた状態で肩に喰いついてきやがった!

 幸い肩先の肉を軽く削がれただけだが、脳を貫く痛みが全身を走る。

 

(いてえ……いてえ……いてえよっ! でも……でも無理を通してやらねえと――)

 

 でも止められない。

 止めるわけにはいかない。

 興奮状態の体を無理やり動かし、回転しながら、

 

「これで――――しまいだァァ!!」

 

 ザシュンっっ!!

 

 俺は屋根に転がりながら奴を見る。

 

「おおう――――――」

 

 ドスンと大きな振動音とともに埃を巻き上げながら奴は倒れた。

 

 

 

【カルラを救え! ――――達成!】

 

【カルラを襲う巨人を倒せ! ――――達成】……ハンネスフラグ全コンプリート! 死の運命から解放完了!

 

 

 

「よっしゃ…………いてぇ……」

「おいアオイ大丈夫か! 無茶しやがって……この野郎っ!!」

「いだ」

 

 こつんと近くにまでやってきた叩かれる。

 無茶しまくったがなんとか最重要項目のハンネス死亡フラグはへし折れたようだ。

 

「肩は――」

「表面の皮を喰われただけなんで大丈夫です」

「――あとでみっちり叱ってやるからな」

「お酒を用意するんで駄目っすかね」

「酒呑みながら叱ってやるよ」

「おう……」

 

 ハンネスさんを救えたからこの際いいさ。

 

(これで満足――――ッ!?)

 

 一瞬過去の出来事がよぎる。

 興奮し過ぎた故の出来事か、彼ら(・・)との日々をふと思い出した。

 

『いや~~お前が酒持ってきた助かったぜ! これで5日間は生きられる!』

『ひっく! アオイ~大人になったら駐屯兵団こいよぉ、酒飲んで平和に暮らす。これこそ人の生き方ってもんだぁ!』

『お前が来てから毎日面白いな! 今度は酒の肴に家の嫁さんの話してやるぜ。嫁はいいぞぉ人生の潤滑油だ!』

『独身でもいいだろ。稼いだ金を使い放題だからな』

『童貞は黙ってろよ、てめーの槍は女を貫くためにあるんだろうに使わなかったら勃たなくなるぜ! ははは!』

 

 毎日馬鹿話の連続。

 でも俺はそんなつまらない毎日が大好きだ。

 戦いは終わらない。

 少なくとも5年はかかる。

 だが平和になったとしても彼らがいなくてはその馬鹿話すらできなくなる。

 

(まだ、やらなくちゃいけないよな……鎧の巨人を止めろ、か。でも俺に止められるのか? どうみたって止められようが…………。いや待て。勝利条件がウォールローゼへと撤退なら完全に止めなくてもいいんじゃないか? 鎧の巨人を止めることで得られる報酬が【○○○○加入フラグⅠ達成】ってことはアイツを倒さなくていいってことでもある。一時的でもいいからフ-ゴさん達の撤退を支援できれば、あるいは――――)

 

 だが出来るのか?

 俺の立体機動で。

 奴の足どめを……。

 でもだかららといって逃げるわけにはいかない。

 そう決意しながら、俺は屋根に上りこちらの様子をうかがっていた少女に声をかける。

 

「ホラ行こうか」

「……あい」

「そいつぁ……」

「……母親が瓦礫の下に潰されて死んだ。エレン達と一緒に連れていく」

「そう、か。嫌な時代に産まれちまったもんだ。しばらくは酒にもありつけなさそうだな……」

「…………そうっすね」

 

 哀しそうに笑う俺達を横目にエレン達は、

 

「エレン、ミカサッ!!」

「母さん!」

「……お母さんそれ……」

 

 抱きしめ会いお互いの無事を強く確かあっていた。

 そんな様子をハンネスは一瞬険しい様子を見せる。

 

「……?」

 

 どうしたんだ?

 

 ミカサは腹のあたりを指差している。

 腹――?

 

「ッ! 母さんッお腹に木がッ!!」

「ごほッげほッ……かふ……ッ! どうも……母さんも、駄目……みたいね……」

「ちょ、待ってくれ……待ってくれよ……」

 

 俺は女の子を抱えながら、急いで屋根から下りカルラさんへと向かう。

 彼女の周囲には血だまりが広がっていた。

 倒壊したとき家の一部分が彼女の腹を貫いていたんだ。

 拳大の太い杭が……。

 

 もう海なんじゃって思ってしまうくらいの、朱に染まった液体が広がる――

 

「母さんッ!!」

「エレン……けほ、ミカサ……アオイ君……聞いて」

 

 真剣な表情で俺達を見つめるカルラ。

 

「アオイ君には感謝して、いるわけほッ。私、だって……喰われて死ぬのは、嫌だから……」

「喋んじゃねえよカルラッ! まだ大丈夫だ、グリシャだってこちらに向かってるはず――」

「ふふ……ハンネスの言うとおり、だったら素敵ね。愛した人とお別れくらいは言いたいし……」

「不謹慎なこというんじゃねぇよっ!!!」

 

 ハンネスは既に涙を流している。

 

 違う……俺やエレン、あのミカサだって涙を流していた。

 流した血の量と死人と見まごうほど真っ白な顔つき。

 どう見ても生ある人間として必要な命の滴は、とうに流し過ぎている。

 

 べちゃ。

 

 エレンは汚れることを厭わず(カルラ)に近づく。

 

「何いってんだよ……母さんっ、折角助かったんだ! 早くいこうよっ!!」

「駄目……よ。エレン、聞きなさい、強く、強く生きるのよ……。貴方は強い子。そして頼もしい友達がいっぱいいる…………」

 

 ハンネス、ミカサ、俺と順々に見つめる。

 

「ミカサ……」

「はい」

「貴方はいつも、エレンを守ってくれたわ…………これからも、その力でみんなを、助けてくれるかしら……」

「ずっと、守ります。絶対」

「ふふふ……ありがとう」

 

 柔らかい笑みを浮かべるカルラ。

 ちげぇ……ちげぇよ、そうじゃなねぇんだ。

 彼女が死ぬ理由なんて1ミクロンだってないだろ……。

 ここで生きながらえたっていいだろうっ。

 

「ハンネス」

「ぐ……くっそなんだよ、カルラ」

「……子供達を、お願いね……グリシャは、子供の世話って、存外苦手だから……」

「カルラが世話すりゃいいだろう。お前じゃなきゃ駄目だろうに……っ!」

「……もう……駄目なのは判ってるでしょ……? 大人が導かなきゃ、子供は育たない、わ……」

 

 目の光も失い始めている。

 もう彼女の意識は――

 

「願わくば……グリシャに……もう、一度……あい……たか……った、な…………」

 

 手を宙に伸ばし……その手は、力無く………………地面に落ちた。

 

「母さん? 母さん! ねえ起きてくれよ……なあ、寝た振りなんて趣味悪いだろ、なあ!! もう、薪集めをサボらない。家事だって手伝う。だから、だから――起きて、くれよぉぉぉぉ!!!」

 

 エレンは滝のように涙を流しながら母の体をゆする。

 必死に、必死に体を揺する。

 灰色髪の少女と重なる光景。

 

 俺はそっと少し離れステータス画面からミッション達成内容を見る。

 

【カルラを救え! ――――達成!】

 

「達成じゃねぇだろ……っ! どうみたって、ぐ、達成できてねぇじゃんかよ……っ!!」

 

 ガン、ガンと地面を叩く。

 達成どころかもうやり直してぇくらいだ。

 でもセーブ&ロードなんて生ぬるい機能はこの世のどこにも存在しない。

 こんな根性だから俺はダメなんだ。

 

 日本の最新医療機器なんてあるわけない。

 俺にはカルラを救う術がまったくない。

 

 なんで俺は医学に通じてない? だって馬鹿だから。

 なんで俺はカルラに致命傷至る傷を与えるハメになった? 真剣さがたりなかったからだ。

 

 血が滲んでも止められない。

 エレンが自分の服の一部を切り取って抑えているが止まるわけがない。

 

 

「おにたんこわい……手、いたゆ……?」

 

 少女が小さい手で俺の手を握る。

 

「ああ……済まねえな……くそっ……っ!!」

「うー……ぷ?」

 

 どうにもできない俺はただその様子を直視することはできず、隣にいた灰色髪の女の子を抱きしめながら、ただ慟哭するしかなかった。

 

「……アオイ」

「なんだよ、ミカサ……」

「ありがとう、お母さんを助けてくれて」

「結局助けられなかった……っ! 家から連れだしていれば!!」

「今日、門が破られるとは誰だって予想できない。アオイの所為じゃ、ない」

 

 違う――違うんだミカサ……。俺は知っていた。

 今日という日を来ることは判っていた。

 行動だってしていたんだ。

 

 だが、周囲を気にして、俺は派手に動かず。

 漫然と日々を過ごした。

 例え頭がおかしいと言われたって無理にでも連れて行けばカルラさんは――。

 

 どこかゲーム的な意識で日々を楽しんだツケ。

 俺はきっと心のどこかで、いつか日が昇れば漫画が収められた本棚と無骨なヘルメット型インターフェースが転がっている自室に帰れると思っていたんじゃないか?

 でも現実は目の前で死んで横たわるカルラさんと泣きじゃくるエレンがいるばかり。

 ハンネスさんは明後日の方向を向きながらも、頬を伝う涙は隠せない。

 泣いてないのは状況を理解しきれてない少女とすぐ泣きやんだミカサだけだ。

 

「私は貴方を誤解していた。ふざけてばかりで気にいらないと思っていた。でも貴方は命をかけて全力で私達の家族を守り、戦った。謝らせて欲しい。お母さんにみんなを守ってと言われた。家族を守ってくれた貴方も私にとって家族同然。だから自分を大切にして――」

「俺はただ、当然の事をした……それだけ、なんだ。う……うっ……それが……くそったれな結末を招いたっ、最低の、馬鹿やろうなだけだ……っ!」

「……そう」

「おにたん……泣いちゃめー……」

 

 日和った俺が招いた結末はカルラの死という最低な結末を迎え、カルラの死体ごと運べない俺達は彼女の髪をひと房切り取り俺達は救助船へと向かう。

 そこかしこで悲鳴が響くシガンシナ区。

 残酷で糞ったれな世界はまだ始まったばかりだ――

 

 

 

 

 

 

 




ハンネス生存。
しかしカルラ死亡。

後悔しつつ主人公は進む。

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