<能力値を変更するランク補正>
SS中だと○段階と○倍がごっちゃになっていますので、ここで少し整理しようかと思います。
基本を0とすると、±6段階。計13段階のランクが存在します。
ランク0を2/2とし、ランク0より上がると分子が1ずつ、ランク0より下がると分母が1ずつ、それぞれ増加します。
ランク 補正(%)
+6 ×8/2(=4)倍(400%)
+5 ×7/2(=3.5)倍(350%)
+4 ×6/2(=3)倍(300%)
+3 ×5/2(=2.5)倍(250%)
+2 ×4/2(=2)倍(200%)
+1 ×3/2(=1.5)倍(150%)
0 ×2/2(=1)倍(100%)
-1 ×2/3(=0.67)倍(67%)
-2 ×2/4(=0.5)倍(50%)
-3 ×2/5(=0.4)倍(40%)
-4 ×2/6(=0.33)倍(33%)
-5 ×2/7(=0.29)倍(29%)
-6 ×2/8(=0.25)倍(25%)
ちなみに命中・回避率や急所率はまた別です。
特別バトル
ヒカリ・シロナVSユウト
シロナ手持ち:ニョロトノ・ラッタ(戦闘不能)・ガブリアス
ヒカリ手持ち:サクラビス・ドテッコツ・残り1体
ユウト手持ち:デスマス(戦闘不能)・ルカリオ・ケッキング・チラチーノ・ツタージャ・残り1体
一時はかなりあたしたちが押し、しかし、ユウトさんに押し返され、だけど、また盛り返した。現状でいえば、どちらもほぼ五分か、『“ミイラ”ケッキング』を使えない辺りを踏まえれば、こっちがほんの少し有利といったところかしらね。
「チラチーノ、サクラビスにとんぼがえり!」
「サクラビス、てっぺき!」
これであたしのサクラビスはそんなに軟くなくなった。
「つづけてドわすれ!」
そしてその最中に決まるとんぼがえり。てっぺきが決まっている以上、もはや、よっぽどの高威力の特殊弱点技でない限り、痛手にはなりえない。案の定、あたしのサクラビスは全然へこたれていなかった。
「あたしのサクラビスはからをやぶるだけが能ではありませんよ!」
サクラビスの強みはバトンタッチによっての後続への能力変化を、バトンタッチが使えるポケモンの中ではおそらく最も引き継ぎやすいことだ。からをやぶるを引き継ぐのはそれらの効果の一つにすぎない。これは“うるおいボディ”により回復が容易であることから来ることだとあたしは思っている(単純に、失敗しそうなときにはねむるでやり直しが効く)
「ニョロトノ! そのままツタージャにれいとうビームよ! 押し切りなさい!」
「ツタージャ! まだまだリーフストーム! もう少しだ! がんばれ!」
ツタージャはガッチリとシロナさんの方が引きつけてくれている。ニョロトノの方が優勢のようで、いい感じに流れがあたしたちの方にきている。
「ルカリオ、キミに決めた!」
とんぼがえりの効果(攻撃後、手持ちのポケモンと交代する)によって現れたポケモンは、2度目の登場のルカリオ。効果抜群の技は相手はかみなりパンチを持ち合わせているが、こちらは防御も特防も上げてある上、雨とタイプ一致による水技の威力上昇によって、十分に渡り合える。
「!? ヒカリちゃん!」
すると、いつもはあまり聞けない焦ったような声を上げる、シロナさん。
いったいなにが?
そう思って視線を向けてみた。
「がんばって! 何とか持ちこたえるのよ、ニョロトノ!」
「いいぞ、ツタージャ! その調子だ!」
「タジャ!」
ニョロトノのれいとうビームとツタージャのリーフストーム。
タイプ相性的にはリーフストームの方が不利。
しかし現状、不利なはずのリーフストームが先程までとは打って変わって、れいとうビームを押していた。
いったいこの短い時間になにが起こったの!?
「このツタージャの特性は“あまのじゃく”。“あまのじゃく”は能力変化のアップダウンが逆になるという非常に珍しい特性。だから、リーフストームを撃てば撃つほど威力は上がっていくわけです」
うそっ! なんですか、それはッ!
「そんな特性聞いたことないわよッ!」
シロナさんも知らなかったみたいで、大いに愕然としている様子が、そちらを見なくても伝わってくる。
「まあ、非常に珍しい特性ですからね。なにせ、700体近く確認されているポケモンの内、この特性を持つのは5体しか確認されていません。知らないのもムリもないですね」
「……ッ!」
それにしてもどうしよう……。
リーフストームは撃つと特攻が2段階下がる。だから、あのままでも、いずれ特攻が下がってれいとうビームで押し切れると思ってたんだけど、“あまのじゃく”の効果がその通りなら、撃てば撃つほど威力が増していく。ついでにリーフストームは、御三家草最強技のハードプラントを除けば、実質、最高火力を持つ。
つまり、そんなのを直で受ければ、ニョロトノでもダウンは必至だと思われるわけで。
「ト、ニョーロッ……!」
ニョロトノはもう限界に近いようで、あまり時間もない。
ここでニョロトノが倒れれば、シロナさんの手持ちは残り1体。
逆にまだあたしの手持ちは3体……。
オマケにドわすれで特防も上あがっているから、耐えることも十分に可能なハズ……!
なら、打てる最善の手立ては——
「サクラビス、ツタージャとニョロトノの間に割り込みなさい! リーフストームを撃墜するのよ!」
——サクラビスに身体を張って止めてもらうっきゃない!
「クラァ!」
キツイ役目なハズなのにサクラビスは力強く嘶き、脇目も振らずに彼らに向かって突進していく。
そして彼らの間の射線上に入ると同時に、リーフストームが着弾。炸裂音の一拍後に白煙が上がり、それがサクラビスの桃色の体躯を覆い隠す。
「ごめんなさい。でも、本当に助かったわ。サクラビスの方は?」
「わかりません。サクラビス、大丈夫!?」
サクラビスの方を感謝と心配が合わさった様子でシロナさんも見つめている。
白煙は、既に消える兆候を見せていて、もうまもなく様子がわかってくることと思う。
そして、
「ほっ」
「なんとか持ちこたえたみたい」
アタシたちの視線の先には、体表面に傷跡を見せながらも、フィールドに立つサクラビスの姿があった。
ドわすれが功を奏したようでよかっ——
「今だ! 決めろルカリオ! ——!」
■□■□
「まさか、ともえなげだなんて!」
悔しさのせいか、唇をかむヒカリちゃんの姿が見える。
今、フィールドにはツタージャ、ルカリオ、ニョロトノ、そして、
「ジBRRRRRR!」
ジバコイルがいる。
なぜジバコイルが出てきたかというと、ルカリオの放ったともえなげのせい。
ともえなげはドラゴンテールと同じく強制交代技に分類される。しかも、代わりに飛び出してくるポケモンはランダムだ。オレも正直ツタージャがあそこで引きづり出されるとは思いもしなかった。しかし、後の展開的に運が良かったということは否めないが、それはそれで、これでヒカリちゃんの3体すべてが分かった。
なかなかに雨パーティーとしてはかなりバランスもいい。その上、ジバコイルだと鋼というタイプ的にも優秀だが、格闘タイプを持つルカリオが場に出ている現状では、ヒカリちゃんにとって不利は否めない。
なるほど。だから、ツタージャがいるのにサクラビスを出してきたわけね。
ちなみにサクラビスの良さである『バトンタッチで自身の能力変化を引き継げる』点の弱点は、こういった強制交代技には非常に弱いというところだ。なぜなら、一旦ボールに戻ってしまうと、能力変化は立ち消えになってしまうからだ。
で、とりあえずこれで厄介な能力アップを消し去ることが出来たけど、雨が降っている現状、ねむるで回復してもらっては堪らない。そうすると、ニョロトノは一刻も早くダウンさせる他はない。
そして、“あめふらし”のニョロトノさえ倒せば、あとはもうシロナさんの手持ちはガブリアスだけ。2VS1の状態に持ち込まれるのを2人は絶対避けたいはずだから、ある程度行動に縛りが現れてくる。
「ニョロトノ、交代するわ! ガブリアス、お願い!」
「戻りなさい、ジバコイル! もう一度頼むわよ、ドテッコツ!」
それを狙おうと思った段階で2人はどうやらここで入れ替えを行うよう。モンスターボールのスイッチから伸びる赤いレーザー光線が2体を包み込んだ後、ボールに収納され、ドテッコツとガブリアスが再臨。
「ここで、ガブリアスですか」
「ニョロトノは私たちにとっての生命線となり得るからね。まだここで、倒させるわけにはいかないの。それに、あなたのツタージャは脅威だわ。だから、最高の火力で以って早々ご退場させてあげるつもりよ」
なるほど、そういうこと。で、ヒカリちゃんの方はいきなりドテッコツということは?
「言っておきますけど、あたしは、まだ積み技は捨ててません。無効化されるリスクもありますけど、それ以上の効果も期待できますからね。スキがあれば積ませてもらいますよ」
「……心読んでるわけじゃあないよね?」
最後に挑戦的な目つきを浮かべるヒカリちゃん。
オレとしては、思ってたことをそのまま言い当てられて思わず苦笑いが零れた。
「さて! んじゃ、そっちが交代なら、こっちも交代だな。戻ってくれ、ルカリオ」
■□■□
「ケッキング、ねぇ」
ユウトがルカリオと入れ替えに出したポケモンは、二度目の登場となるケッキング。特性“なまけ”によって高い種族値がやや生かしづらいのが特徴のポケモンだけど、
「さっきは“なまけ”が打ち消されてエライ目に会ったせいか、“なまけ”がある状態の今なら、そんなに脅威には感じないと思うのは気のせいですかね?」
「『気のせい』というよりは『感覚がマヒした』の方が正しいのかもしれないわね。“なまけ”はもう消せないだろうけど、注意は必要よ」
ヒカリちゃんの言うような感じは私も覚えているけど、高い種族値からの一撃は驚異的だし、何よりユウトのポケモンであるということが油断ならない。
「……ん?」
「どうかしました、シロナさん?」
「いや、いまなんか違和感が……」
なんだろう。
なにかチリチリするような感覚を覚える。
何か見落としていたりする?
「とにかくツタージャをどうにかしましょう。ガブリアス、つるぎのまいよ!」
今のことは追い追い考えていくとして、ひとまず目の前のことに集中しないと。
「ドテッコツ、じしんでフィールドをボコボコにしなさい!」
いい感じなフォローね。ダメージは負うのは目を瞑るとしても、舞っている最中の攻撃を少しでも遅らせるにはいい手だ。実際、うまい具合にフィールドがデコボコと隆起したり陥没したるして、なかなかの目くらまし的要素にもなっている。……アロエさんには後で謝っとかなきゃいけないけど。
「構うな! ケッキング、ドテッコツにギガインパクト! ツタージャもいけ!」
ケッキングのギガインパクトが迫る。
しかし、じしんとフィールドの変化により思ったよりもスピードに乗れていない。
「まもるよ、ドテッコツ!」
ドテッコツはまもるが間一髪で間に合い、ギガインパクトをノーダメージで切り抜けた。
「チャンスよ、ヒカリちゃん! 一気にたたみかけるわ!」
「はい! ドテッコツ、まもる解除! そのまま、ケッキングにきあいパンチよ!」
「ガブリアスはげきりん!」
“なまけ”が発動して、行動不能に陥っているケッキングにクリーンヒットとなるきあいパンチが決まった。吹き飛ばされるケッキングだが、まだ、倒れるには至っていないようだった。しぶとさがハンパでない。
一方、ガブリアスの方は、ツタージャがガブリアスに接近していたこともあって、げきりんの攻撃対象をツタージャに設定したようだ(ダブルの場合、攻撃対象がランダム)。
ガブリアスが詰められていた距離をさらに詰め、ツタージャに向かっていく。
あとほんのわずか。
ツタージャの眼前にまで迫った、ガブリアスは——
「ツタージャ、へびにらみ!」
——身体の自由があまり利かなくってしまった!
そして、げきりんは不発に終わってしまった。
「くっ! なんて運の悪い!」
マヒによる行動不能の発生率は25%。正直ここでの発動は痛かった。
「いえ、げきりんが混乱なしで解除されたとポジティブに考えましょう」
げきりんは威力はりゅうせいぐんに次いで高い威力を誇る反面、先に挙げたことに加え、げきりん中は交代不可・指示を出せない、げきりん解除後混乱状態となる、といったデメリットがある。
「ドテッコツ、続けてケッキングにきあいパンチ! 一気にたたみかけなさい!」
いける!
まだ、“なまけ”は解けていない上に、タイプ一致の強烈な技で攻める。マヒはしたけれども攻撃2段階アップ。
また、私たちに風が吹き始めてきた。
「ツタージャ、ケッキングに向かって“いえき”だ!」
「「!?」」
いえき!?
しまった!!
「ガブリアス、ツタージャを妨害しなさい!」
「ドテッコツ!」
しかし、妨害しようにも素早さが下がっていたため、アッサリと避けられ、また、ケッキングにツタージャがはいたいえきが降りかかった。
直後、やる気なさ気な様子だったケッキングが、今までとは一変して、俊敏な 動きで以ってドテッコツのきあいパンチをすんでのところで身を捩ってかわすことに成功。
「今だ! ケッキング、もう一度ギガインパクト! ツタージャはドラゴンテールだ!」
ギガインパクトがドテッコツに直撃。その猛烈な勢いにドテッコツはガブリアスのところまで吹き飛ばされ、ガブリアスに直撃するやもと思われたが、ツタージャのドラゴンテールにより、既にガブリアスはモンスターボールの中へ弾き飛ばされていた。そして代わりに先程ボールに戻したニョロトノがそこに現れた。
「ツタージャ、トドメのリーフストームだ!」
さらにそこに威力の上がったリーフストームが2体を襲う。
そして——
「ドテッコツ、ニョロトノ、共に戦闘不能!」
キダチさんの声が高らかにフィールドに響き渡った。
■
あれからはほとんど勝負にならなかったといってもよい。マヒしたガブリアスではケッキングとツタージャの攻撃は避けることも叶わず、ダウン。2VS1の状況になったことと、ツタージャがリーフストームでさらに能力を上げたことによってアッサリと勝負がついた。
ちなみに、揺れ動いていた天秤を完全に傾けた技、いえきの効果は相手の特性を消すというもの。これによって足を引っ張っていた“なまけ”を消し去ったのだ。
それで、バトルを終えた私たちはいま、アロエさん、ゴールドくんたちも含めての反省会+研究会的なモノをしていたところだった。
「——。ああそうそう、ケッキングの“なまけ”を打ち消したときのことで、なんで2人が気がつかなかったのかについてですけど、こんな話があったりします」
ユウトが話すその話というものは、なんでも、マジシャンの人はマジックの基本として、『タネも仕掛けもありませんよ』と言って、からっぽの帽子を見せた後、そこにマジックのタネを仕込むということがある。そうすると観客は『一度確認した場所だから、そこにはきっとないだろう』と油断してしまう、あるいは油断を誘うことが出来るので、結果、観客の目をそこから逸らし、くらますことが出来るのだとか。
「つまり、シロナさんたちは一度、ケッキングの“なまけ”を打ち消した後、それを無効化する方法を自分たちで見つけて実行したことで、『もう“なまけ”は打ち消せない』と思ってしまったんでしょう。ちょうどその『観客』のようにね」
「……たしかに。言われてみれば、なんだか自然とそう思ってたわよね」
「はい。シロナさんに言われて注意はしていたんですけど、“なまけ”以外のことだと思っていましたから」
それはまるで、あのときの私たちのことを知っているんじゃないかと思うくらい言い当てていた。
「考えてみれば、最初の“なまけ”の打ち消し方ってすごい面倒くさいよな?」
「ですね。工程も、いえきの場合はほぼシングルアクションで消せるのに対し、“ねらいのまと”デスマスではいくつもの段階と『相手の物理攻撃を受ける』という賭けの可能性があります。ふつうのダブルではまず採用はしないでしょうね。しかし、そうしてポケモンバトルに奇術師の要素を取り入れるとは……うーむ、なかなか手強いです」
ゴールドくんたちの話にも今にして思えば疑問を抱くことが出来る。しかし、そうはまったく感じさせなかったということはうまくユウトに誘導されたということかしらね。
「ある意味結果的にミスディレクション、レッドヘリングということでしょうか」
「……オマエ、よくそんな言葉知ってんな」
「ボクは推理小説を読むのが大好きですからね。まったく、彼女さんたちを騙くらかして破滅させるとは。なんという卑劣な男なのでしょうか」
「おおーい! 人聞きの悪いことを言わないでくれませんかねぇー!?」
「おや、何か言いましたか、優柔不断男。いまだに彼女を1人に絞れないダメ男さん?」
「あのねー!?」
クリスの相変わらずの毒舌具合にクスクスと笑みがこぼれてしまう。
あと、彼女についてだけど1人に絞らなくてもなんとかなりそうなのはこの際黙っておこうかしらね。その方が面白そうだし。それに、これぐらい憂さ晴らしはしてもいいでしょう?
しかし、“あまのじゃく”にしろ、これにしろ。私はこれでもまだまだな面もあり、かつ、ますます上は高くなっていると感じている。
けど、それでも私は必ず辿り着き、越えてみせる。
その想いを改めて実感した。
これにて、シッポウシティでのバトルは終了。次回からは旅に戻ります。