(旧)【習作】ポケモン世界に来て適当に(ry   作:kuro

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第4話 立ちはだかる壁

 

 

「安心しな、トウコ! ちゃんとアンタがアタシやユウトを認めさせることが出来たらジムバッジはアンタのもんだからさ!」

 

う〜ん、ジムリーダーがああ言ってるから良いの、かな?

でも、気になるのは、ジムリーダーに『あそこまで言わせてしまうユウトさんって何者?』っていう感じの方が強いかも。

 

「さてトウコちゃん、まずキミが相手をするのはこの子だ」

 

ユウトさんは構わず、持っていたモンスターボールを、掬い上げるように宙に放り投げる。

放物線を描くような軌道で、その頂点のところで、パカリとボールがその大口を開ける。

中からは白い光が、泉が溢れ出すかのように現れ、それがフィールドのある1箇所に注がれた。

ポケモンがボールから出てくる前兆だ。

そして現れたポケモンは——

 

「タブンネタブンネ〜」

 

ポケモンセンターのジョーイさんの看護師としてイッシュでは有名なポケモン、タブンネ。

 

『お預かりしたポケモンはみんな元気になりましたよ』

『タブンネー』

『いつでもいらしてください。お待ちしています』

『タブンネー』

 

といった皆が信頼するジョーイさんの仕事を「タブンネ〜」の一言で台無しにするのはイッシュのポケモンセンターでは当たり前な光景として定着している。

 

『タブンネ ヒヤリングポケモン

 桁外れの聴力を持つ。微かな音で周りの様子をレーダーのようにキャッチする。また、耳の触覚で相手に触れると心臓の音で体調や気持ちがわかる』

 

図鑑をかざすとそんな電子音声が聞こえてくる。

 

「ちなみにだ。ここはノーマルタイプのジムだから、オレの残りの1体もノーマルタイプ。ついでにいえば、飛行タイプも入っていない」

 

なんでも、ノーマルタイプには飛行タイプを併せ持つものも数多くいるみたいなんだけど、それらもいなく、全員が地に足をつけているものだけみたい。

初心者のわたしでも、飛ぶ方に対して、飛べない方が対処していくのが、相当難しいことぐらいはわかる。

その点の心配がないのはわかるけど、でも、あくまでそれだけ。

気を引き締めていかないと!

わたしは一際新しいモンスターボールの方に手を掛けた。

そうして腰のボールポケットから取り出したそれをサイドスロー気味にフィールドに投げつける。

 

「わたしの一番手! いくよ! ヒヤップ!」

 

ボールからは、ポンッ! という音と共に、

 

「ヒヤッ、ヒヤッ〜プ!」

 

ヒヤップが元気な姿で躍り出た。

捕まえたばかりのこの子だけど、威力の高いハイドロポンプを使える。

さらには、ノーマルタイプに有利な、ローキックやいわくだきといった格闘タイプの技なんかも使えるようなので、先発としては十分。

(ちなみに使える技については夕べに、ユウトさんと一緒に確かめました。ラルトスについてもです)

 

「用意はいいですか!? では、試合(バトル)開始!」

 

キダチさんの掛け声と共に振り下ろされた手がバトルの開始を告げた。

 

 

 

■□■□

 

 

 

「先手必勝! ヒヤップ、ローキック!」

「ヒヤ! ヒヤヒヤヒヤヒヤ〜!」

 

トウコちゃんの指示を受け、突進してくるヒヤップ。

 

「タブンネ、ねがいごとだ」

「タブンネ〜」

 

オレのタブンネは両手を組んで、まるで何かに祈るような仕草を見せる。

直後、タブンネの頭上に流れ星のようなものが煌きながら流れていった。

 

「よし、ねがいごとは成功だな。さらにめいそう!」

「タッブン」

 

そのめいそうを決めている間にヒヤップはタブンネに接近。

 

「ヒーヤップ!」

 

そしてまるで回し蹴りにも似た雰囲気のローキックを繰り出した。

 

「タブンネー!」

 

蹴られたタブンネはフィールド上を、仰向けに滑空するかのごとく吹き飛ばされる。

 

「起きろ、タブンネ!」

「タァブンネ!」

 

しかし、タブンネもそのままで流されず、クルッと1回転して、足からのきれいな着地を決めた。

 

「まだまだ! 追撃するわよ、ヒヤップ! いわくだき!」

「避けろ、タブンネ!」

 

タブンネに追撃を入れるべく、追いすがっていたヒヤップのいわくだき!

 

「ヤップ!」

「タブンッ!」

 

しかし、ローキックの追加効果により、動きの鈍っていたタブンネは避け切ることが出来ず、直撃を受けて体勢を崩す。

 

「もう1発! いわくだき!」

「ヤァップ!」

 

さらに追撃とばかりに、トウコちゃんはいわくだきを指示し、ヒヤップは拳を振りかぶる。

しかし、あたかも酔拳のごとくフラフラとタブンネが体をひねったことにより、文字通り、岩をも砕くエネルギーを貯め込んだ赤く光る拳は、空振りに終わった。

 

「ヒヤップ! その勢いのままにローキック!」

 

ヒヤップは空振りした勢いを利用してその場でクルリと横に1回転。

そして遠心力も合わさったローキックが、タブンネに決まった。

 

「タッ、ブンネ!」

 

タブンネは今度は吹き飛ばされることなく、しかし、そのローキックの勢いも殺すこともすぐには出来ず、ズザザザザと足がフィールドを擦(す)っていたため、タブンネの近くには少量の土煙が上がっていた。

 

「うん。ローキックの威力といい、ハイドロポンプを使えることといい、なかなかレベルの高いヒヤップだよね。おまけに捕まえたばかりなのに、トウコちゃんとの息もピッタリだ」

 

昨日、少し手ほどきをしただけなのに、捕まえたばかりのポケモンの力をここまで引き出せるのはある種の才能だ。

オレでさえ、ここまでは難しいかもしれない。

 

「ありがとうございます! ヒヤップ、このままガンガン行くわよ!」

「ヤップ♪」

 

勢いづくのはいい。

けども、やはり初心者。

知識が圧倒的なまでに足りていない。

おまけに攻撃技だけで補助技の一つも使わない。

——ここはひとつ、彼女のために洗礼を施そうか。

 

「トウコちゃん、ポケモンバトルはそううまくはいかないよ。オレのタブンネ、よく見てみな?」

 

するとどうだろう。

タブンネの周りに、宝石が光を反射したかのような輝きを持つ緑のキラキラした光が現れた。

 

「い、いったいなんなの!?」

「うん、グッドタイミングだ」

 

彼女の顔色は、驚きの中に訝しんでいるようなものが、見て取れる。

彼女からすれば、口許がややつり上がっていそうなオレの顔色から、オレが計略を成功させたととっているに違いない。

 

「タブンネ〜♪」

 

そしてその光は、ヒヤップのローキックによって受けたダメージを回復させていく。

タブンネの声から判断するに相当心地いいのだろう。

 

「ウソでしょ!?」

 

一方やはりトウコちゃんの方は、今度は驚き一辺倒に塗り替えられる。

まあ、そうだろう。

タブンネは今現在は何もしておらず、それなのに、ダメージが勝手に回復していくのだから。

 

「ねがいごとっていう技があるんだ」

「ねがいごと?」

「そう。この技は一定時間経過後に、受けたダメージをある程度回復させるという効果がある」

 

時間差のある回復技だから、こういった「ダメージを負ったから回復する」という行動を取らなくても済み、その「回復する」という行動を別の行動に置き換えることも可能になるというメリットがある。

ちなみに、タブンネは種族値的にはもともと耐久が高く、努力値も耐久よりに振ってあったおかげか、様子を見ていると、弱点技を3回も受けたとはいえ、ほぼ全快の4分の3ほどまでは回復しているようだった。

 

「でも、ローキックって確か素早さが下がるんですよね!」

「まあね」

「なら、まだわたしの優勢ですよね!」

 

確かにトウコちゃんの言うとおり、タブンネのもらったローキックという技は相手の素早さを一段階必ず下げるという追加効果がある。

それをタブンネは2回受けたため、タブンネの素早さは元の素早さの半分になっている。

だから、彼女の言うとおり、完全に五分に戻したわけではないが——

 

「発想の逆転だな」

 

——前提条件が異なれば、そんな要素はいとも容易くひっくり返る!

 

「タブンネ、ここからオレたちの反撃を始めるぞ!」

 

 

——決めろ、トリックルームだ!

 

 

直後、周りの時空が歪み始める——

 

 

 

■□■□

 

 

 

「な、なに? いったいなにが起きたの……?」

 

わたしたちの目の前、そこにはフィールド全体を包み込む限りなく透明に近く、しかし波打つように少し揺らめいている奇妙な空間が広がっていた。

 

「ヒヤ? ヤーップ?」

 

ヒヤップは突然わけのわからない空間の中に入ってしまっているせいか、辺りをキョロキョロと、そして自らの手なども見まわしている。

 

「さて、トウコちゃん」

 

そんな中、やっぱりというかユウトさんもユウトさんのポケモンもいたって冷静に落ちつき払っている。

 

「さっき言ったよね、『ポケモンバトルはそう簡単にはうまくいかない』って? それを今から披露してあげよう。タブンネ、ヒヤップに接近だ!」

 

指をパッチンと鳴らすと同時に、タブンネは猛然とヒヤップに走り寄ってくる。

 

「くっ!」

 

これはユウトさん、何か企んでたってことかしら!?

マズイけど、でも——!

 

「なにかはわからないけど、そうそううまくはいかせませんよ! ヒヤップ、ハイドロポンプ!」

 

2体の間はわずかに距離が離れている。

接近しての攻撃もいいけど、何をしてくるのか分からない以上、離れていた方が何かといいハズ。

ただ、わたしのヒヤップはハイドロポンプ発動までにどうやらほんの少しのタイムラグがあるみたい(それは、ユウトさん曰く、今後のトレーニングで改善していった方がいいみたい)。

でも、それと引き換えに最高威力での攻撃が出来るなら!

 

「タブンネ、避けろ!」

「タブンネ!」

 

すると、その言葉に従ってタブンネはいともアッサリとハイドロポンプをかわした。

 

「うそッ、なんで!? さっきまでとスピードが全然違うじゃない!」

 

先程まではヒヤップの方が明らかに素早くて、おまけにローキックで相手の素早さは下がっているハズだから、こっちの攻撃が当たらないはずがない!

 

「ヒヤップ、今度はみずでっぽう! 連射よ!」

「ヤップ! ヤァップ、ヤァップ、ヤァァァップ!」

 

威力ではなく、技の繰り出す速さで勝負の、連続みずでっぽう。

でも、タブンネにはあたらない。

 

「なんで、どうして……!」

 

そうこうしている内にタブンネはヒヤップに接近して——

 

「そのまますてみタックル!」

「よ、避けるのよ、ヒヤップ!」

 

でも、あんなにも攻撃をアッサリとかわし続けたタブンネと、かわされ続けたヒヤップ。

どちらに軍配が上がるかは——

 

「ヤァァーップ!」

 

明確だった。

重たい一撃を食らって吹き飛ばされるヒヤップ。

 

「とどめだ、タブンネ! チャージビーム!」

 

今度はさっきとは逆にあちらが追い討ちとして仕掛けてきた。

でも、ヒヤップはまだあの技の影響から脱し切れておらず、これを避ける手段なんかない。

そして——

 

「ヒヤップ、戦闘不能! タブンネの勝ち!」

 

わたしは「お疲れさま」と声をかけつつ、ヒヤップをボールに戻すしかなかった。

 

 

 

 

「ラルトス、戦闘不能! これにより挑戦者トウコのポケモンがすべて失われたため、このバトル、臨時代理ジムリーダー、ユウトくんの勝ち!」

 

そのとき、キダチさんの声がフィールド内に響き渡っていた。

 

わたしはもはや呆然とするしかなかった。

バトルはその後はもう、『一方的』というしかなかった。

ラルトスも向こうの素早さと高い攻撃力に終始翻弄されていた。

ふと、目の前に広がっていた奇妙な空間が今、まるで溶けてなくなるかのごとく、消えていった。

 

そういえば、さっきのフィールドを覆う奇妙な空間が現れたかと思うと、何もかもが変わったんだったっけ——

 

「さて、どうだったかな?」

 

いつのまにフィールドを横切ったのか、ユウトさんが目の前にいた。

 

「なんというか……。とにかく、ユウトさんがすごかったとしか……」

「そう?」

「はい。あんな状況からあそこまで完膚なきまでに逆転されるなんてビックリです。たしか“トリックルーム”っていう技でしたっけ、あそこからですね? なんていうか、バトルの“前提”みたいなのがひっくり返った気がするのですが?」

「ほう……! うん、そうだね。よく“それ”に気がついたものだ」

 

ユウトさんは一瞬目を見開いた後、なんだか嬉しそうに目を細めて解説してくれている。

トリックルーム。

ポケモンのパラメータ(?)の一つに『素早さ』というものがあるらしい。

そのパラメータはいかに速く動けるかや、技を出すまでの速度に関係してくるのだとか。

当然、相手より素早さのパラメータが高ければ、相手より速く動くことが出来て、相手の技も避けやすくなるなどの恩恵もある。

しかし、このトリックルームは『相手との素早さの効果・関係を逆転させる』という技らしい。

つまり、通常は『相手より速ければ速いほど、速く動ける』という“前提”を『相手より遅(・)()()()遅(・)()()()、速く動ける』という関係に引っ繰り返すというもの。

なるほど。

それなら、それまではスピードで優っていたヒヤップが、それ以後、タブンネを捕えることが出来ずに、さらにローキックの影響で余計に素早さの差が開いてしまっていたため、ラルトスも追い切れなかったってことね。

……なんだか負けたのがあっさり納得してしまった。

 

「知らなさ過ぎですね、わたしって」

 

ポケモンのことに関して何もかも。

少なくとも、トリックルームに関して、その技の効果を知っていれば何か対処法があったのかもしれない。

でも、やっぱり——

 

「くやしいなぁ——」

 

負けたのには納得した。

でも、やっぱりくやしかった。

少なくとも、わたしにもっと知識があれば、もっと別の展開にもっていけたかもしれない。

勝つことも出来たかもしれない。

 

「でもま、それに心底気づけて良かったんじゃないかな。知識なんてこれからいくらでも蓄積させていけばいいしね。オレがコーチしよう」

「ほ、ホントですか!?」

「ああ!」

「よろしくおねがいします!」

 

「ちょっと! なんだかいい話にまとまっているようだけど、ユウト! アンタはジムリーダーとしてはてんでダメみたいだねぇ!」

 

そこにアロエさんも加わった。

アロエさんは何やらユウトさんに「初心者にトリックルームを使って一方的な展開にもっていくなんてどうかしてるね!」とか「もっと挑戦者をいろいろと試すようなことをやってくれないと! ただ、バトルしてるだけじゃダメさね!」といった感じになにやら不満が相当あったらしいけど、わたしは気にせず、ユウトさんに「お願いします」と頭を下げていた後、今後の旅への期待に胸がいっぱいであった。

と同時に、『この人を目標としたい』、そしていずれ——

 

この人を越えていきたい——!

 

そう強く意識した。

 

 

ピロリローリロロロー、ピロリローリロッ

 

 

ふと近くで、2種類のライブキャスターの呼び出し音が聞こえた。

見てみると、それはどうやら、アロエさんとユウトさんのもの。

 

「わかりました、2人ともわざわざありがとう」

「こっちの用事は今ちょうど終わったところだからいいタイミングだね! 待ってるから、早くおいで」

 

通話自体はこんな感じですぐ終わったけど、その後のアロエさんの言葉が意外過ぎた。

 

 

「さて、シッポウジムジム戦、第2部といこうか!」

 

 

 


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