『【第8回タテワクタウン雨乞い祭り記念 ポケモン雨乞いバトル大会】! 決勝戦もいよいよ中盤戦に差し掛かっています!』
いや、中盤というよりもむしろ、終盤に差し掛かっているかもしれません。
『ユウキ選手、ユウト選手、共に残っているポケモンは2体! 両者、どちらも3体目を明らかにはしていません! そして2体目! ユウキ選手はカイリュー、ユウト選手はハリーセンです!』
「(カイリューね。強敵よ)」
(たしかにそうだな、まともに相手をするならばね)
カイリュー、ドラゴンポケモン。
ドラゴン・飛行タイプのポケモンで、合計種族値600の、所謂“600族”に分類されることもある。
物理特殊問わず、多彩で強力な技を数多く持ち、特性の1つが“マルチスケイル(HPが満タンのときに受けるダメージを半減する)”という恐ろしい特性。
しかも、カイリュー自身、はねやすめ(最大HPの半分回復)を持っているため、何度もそれを発動させることも出来る。
氷4倍ダメージはHP満タンの時、2倍になるし、それと併せてヤチェの実を持っていた場合、一度だけだが、等倍にもなる。
そこからの反撃は凄まじいです。
なぜなら、カイリューは氷技を打てるようなポケモンに対しては何かしら効果抜群の技を持っていたりします。
氷技で弱点を突いていって逆にこちらが痛い目に会うということになりかねません。
うん、今の手持ちでは正直まともに相手にしたくはないな。
『カイリューはたった今登場したところで、まだまだ元気100倍! しかし、ハリーセンの体力は残りあとわずか! おまけに相手がドラゴンタイプでは、水タイプの技は効果いまひとつ! これはユウト選手の方がが劣勢でしょうか!?』
オレのハリーセンの場合、体力の残り具合は、正直じたばたの威力にしか関わらないから、その点については心配いりません。
さて、一応“せいしんりょく(ひるまない)”の可能性を考えて一当てしてみますか。
「ハリーセン、ふぶき!」
「ハリーセンッ!」
掛け声とともにふぶきが吹き荒れ、カイリューを襲う。
襲うのだが、
「(ゼンゼン効いてないわよ)」
『カイリュー、弱点技のふぶきが直撃しているのにもかかわらず、全く効いている素振りがありません! なんというカイリューでしょうか!?』
「ぼくのカイリューは“マルチスケイル”で耐久型に育ててある。特攻の低い不一致ふぶきなんて効かないさ」
さみしがり(攻撃↑防御↓)、攻撃素早さ極振りで特攻種族値55とはいえ、4倍弱点なのにまるで効いちゃいないっぽい。
なんですか、オレのハリーセンのふぶきは扇風機の風か何かですか。
やっぱりまともに相手になんか出来ない。
「今度はこちらから反撃だ! カイリュー、ぼうふう!」
ぼうふう。
特殊技で威力命中共にきあいだまの飛行タイプ版ですね。
ただ、雨天時はかみなりと同じく必中ですが。
やー、タイプ一致で威力的には180にもなる特殊技なんて末恐ろしい。
ドレディアでは絶対に耐えられませんね。
ん?
なんでこんな他人事そうに余裕ぶっこいているのかですって?
それは言ってみれば雨天時のハリーセンだから。
そしてこのカイリューを退場させる手段があるから。
カイリューをもっていけるなら悪くない、というよりむしろかなり良い。
「ハリーセン、準備はいいな?」
「リーセン!」
そして厄介なカイリューに仕事をさせずに退場させることが出来そうだから——
「(がんばんなさいよ、ハリーセン)」
「リーセン! リーセン!」
体力残りわずかなのに元気のいい返事が返ってくる。
ていうかラルトスに対してはオレより元気がいいな。
あ、そういえばコイツはオレじゃなくてラルトスがモンスターボール投げて捕まえたんだっけ。
この場合、親はひょっとしてお前なのか?
「(当然でしょ)」
とかなんとか言ってる合間にぼうふうが迫ってきた。
タイミング的にはもう今しかない。
「ハリーセン! ——!!」
■
ぼうふうが止んだ後のフィールドにはハリーセンが目をまわして倒れている。
『ハリーセン、残りわずかな体力ではカイリューの凄まじいぼうふうには耐えられませんでした! ハリーセン、戦闘不能!』
よし!
これでユウトの手持ちはあと1体で、こちらはあと2体。
そして、カイリューは体力満タン。
これなら——
——ん、なんだ?
なにか妙な——
「カイリュー?」
するとカイリューの巨体がゆっくりと傾いて——
『え、ええええ!? カ、カイリューはいったいどうしたことでしょう!? いきなり倒れ込んでしまい、ってああーっ! カイリュー、戦闘不能になってます! カイリュー、戦闘不能!』
なんだって!?
そんなバカな!?
『いったいどういうことでしょうか!? 会場内も大いにどよめいています! 私にもわけがわかりません!』
カイリューは一度もダメージなんか食らってないんだぞ!?
ぼうふうで攻撃して、それで——
「みちづれ。知ってますよね?」
そんな言葉が耳を打った——
■
ハリーセン。
ふうせんポケモン。
タイプは水・毒。
特性は“どくのトゲ(接触技を受けると30%の確率で相手をどく状態にさせる)”、“すいすい(雨の時に素早さが2倍になる)”、“いかく(相手の攻撃を1段階下げる/夢特性)”。
基本的には雨パ(すいすい)か耐久型(すいすい、いかく)での運用になると思われる。
そしてハリーセンで有名なコンボとして、【タスキで耐えつつ、あまごい】→【すいすい発動により先手を取ってのだいばくはつ】というものがあり、ハリーセンというそこそこマイナーなポケモンの割には、ハリーセンがだいばくはつを使えるということはそこそこ知られていたりする。
ただ、ハリーセンがみちづれまで使えるというのはあまり知られていない。
これは現実世界での話だったが、ユウキさんも実際、だいばくはつには注意を払っていた(ニョロボンもカイリューもハリーセンにだいばくはつをさせないために速攻を狙っていた)。
しかし、みちづれには気を配れなかった。
現実でも、ガブリアスやミロカロスなんかのメジャーどころはよく研究されていたりして知られていたりするけど、マイナーどころはそういうのがあまりなされていないからな。
「くっ、まさかみちづれだったなんて」
「意外だったでしょ?」
「意外も意外。意外過ぎるから」
ふぅ、と大きく息を吐くユウキさん。
これで切り替えが出来たかな?
『す、すごい』
ん?
『すごい。すごい。すごいすごいすごいすごいすごいすごい!』
いや、そんな連呼しなくても。
「(うるさい実況ね)」
ラルトスに全面的に同意します。
『すごい! 素晴らしい! 正直、このバトルがイッシュ地方チャンピオン決定戦かと問われれば、私なら迷わずすぐさま頷いてしまう、そのようなバトルが繰り広げられています!!』
まあ、ただの技の出し合い、パワーのぶつかり合いじゃなくて戦略と戦術を駆使したトレーナーの読み合いも入る高度なバトルですからね。
普段のそれに慣れているとそう感じてしまうかもしれません。
『おっと! お仕事の方に戻りましょう! さて、いよいよそのバトルも佳境に入ってきました! 現在まではユウキ選手がユウト選手を押していましたが、ここにきてユウト選手が完全なイーブンに戻し、両選手とも残っているポケモンが1体のみ! この最後の1体同士の勝敗でどちらの選手が勝者となるのか決定します! はたして両者最後の1体はどのようなポケモンとなるのでしょうか!?』
最後のポケモン。
オレの読みが嵌れば完封、外せば即終了という、正直な話、結構なバクチ(オマケに嵌った場合は、もう卑怯極まりない)。
でも、ここまでくれば結構確率的にはいいと思う。
少なくとも悪くはないハズ。
「あとは任せたぞ! ——、キミに決めた!」
ユウキさんは驚いてくれるかね?
■
『両者最後のポケモンが出揃いました! ユウキ選手はルンパッパ、ユウト選手はヌケニンです!』
やられた!
まさかまさかこんな局面でヌケニンが来るなんて!
くぅっ!
ラグラージだったら、ストーンエッジがあったのに……!
いや、でもニョロボンを外してたらユウトのラッキーには対抗できなかったし、パーティー構成的にも物理(ニョロボン)・補完(カイリュー)・物理(ラグラージ)だったから、物理2体じゃなくて特殊(ルンパッパ)を入れて物理受けが出てきても対応できるようにしたんだよな。
あー、マズイ。
終わっ……いや、まだだ!
「ルンパッパ、どくどく!」
ヌケニンが厄介な点は効果抜群な攻撃技しかダメージが与えられないという特性“ふしぎなまもり”。
ただ、それ以外ならダメージは通ったりする。
例えば、どくどくで猛毒状態にしてしまえば、ヌケニンのHPは1なのですぐさまヌケニンは倒れる。
「避けながらフラッシュだ、ヌケニン!」
「——ンッ!」
だけどどくどくをひょいっとかわしてピカーッと光りだすヌケニン。
その光をモロに見て、目を固く閉じて悶えるルンパッパ。
『ヌケニンのフラッシュが決まりました! ルンパッパ、これで命中率がやや下がったか!?』
「ルンパッパ、がんばってくれ! どくどくを撒き続けるんだ!」
「そうはさせない! ヌケニン、ちょうはつだ!」
なっ!?
ちょうはつ!?
「しまった!!」
『さらにヌケニンのちょうはつが成功! ルンパッパ、これで攻撃技しか出せなくなってしまいました!』
……詰んだ。
“ふしぎなまもり”を貫通出来そうな攻撃技はルンパッパにはない。
あとは変化技だけだけどその変化技もちょうはつで封じられてしまった。
「ヌケニン、いばってからつるぎのまい!」
「——ンッ!」
「ルンパ!? ルンパッパッパッパッ!」
『ルンパッパ、ヌケニンにいばるをされて混乱してしまいました! あーっ! 自分で自分を攻撃してしまっています! 一方そのヌケニンはつるぎのまいで攻撃力がグーンとアップしました!』
わるあがきをしようにもヌケニンは離れたところにいてルンパッパの攻撃は届かない。
おまけに混乱(50%の確率で自分を攻撃)+攻撃2段階アップで自滅ダメージが増える。
ちょうはつが解除されるまでユウトも待ってはくれないだろう。
これは終わったか——
『おや、あれはどうしたことでしょう? なにやらルンパッパの右手が赤く燃えています!』
——えっ?
見ると確かにルンパッパの右手から炎のようなものが上がっている。
いったいどういう……ってまさか——!?
「マジで!? まさかこのタイミングで自力で教え技を習得したとでも言うワケ!?」
ユウトも驚いている。
あれはやっぱり——
『ルンパッパ、どうやらほのおのパンチを繰り出そうとしているようです! しかし、ユウキ選手のルンパッパは混乱しています! はたしてきちんと技が出せるのでしょうか!?』
いいところで!
こうなったら、もう運に掛けるしかない!
50%の確率——
「ルンパッパ! たのむ、決めてくれ! ほのおのパンチだ!」
「くっ! これで決めるんだ、ヌケニン! シザークロス!」
結果は——
『ルンパッパ、この土壇場でほのおのパンチを使用し、逆転への一手を放とうとしましたが、混乱していて技が出せず、自分を攻撃! その隙にヌケニンのシザークロスが決まりました! つるぎのまいで攻撃力がグーンと上がったヌケニンの効果抜群のシザークロスにルンパッパは耐えられませんでした! ルンパッパ、戦闘不能!』
くそ!
……惜しかった……。
50%の確率を外したか——
……いや——
『これにより第8回タテワクタウン雨乞い祭り記念 ポケモン雨乞いバトル大会優勝は——』
詰んだってあきらめた段階で、ぼくはこのバトルに勝てなかったかもしれないな——
「戻れ、ルンパッパ」
倒れているルンパッパをボールに戻す。
——お前はすごいよ
いや、お前だけじゃないか。
「みんな、すごいな。ありがとう」
そんな言葉が自然と口に出た。
■
「今回も負けたよ」
大会終了後にそんなことをユウキさんが言ってきた。
「でも、とてもいいバトルだったと思います」
「ああ。うまく追いつめたと思ったんだが、まさか最後にヌケニンだなんて思いもよらなかったよ」
「一応、対雨パの部類に入るポケモンですから。雨パで来るなら対策も考えておかないと。ユウキさんがカイリュー入れたのだってそういうことでしょ?」
「まあそうだな。しかし、今回はラッキーに縛られ過ぎたなぁ。それにみちづれも見抜けなかったし。まだまだ勉強も足らないし、実力不足か?」
どうだろうか。
ユウキさんもそうだけど、シロナさんやグリーンさん、コクランさんたちを始めとした知り合い全員が全員、一度見せたことは十二分に学習して理解してくる上に、対策もキッチリしてくるのは当たり前で、さらにその上を目指そうとしてくる。
「おっと、長々と話し過ぎた。ぼくはこれで行くよ。ちょっと人を待たせているんでね。じゃあ、また」
次こそは絶対勝ってみせるから——!
そう言ってユウキさんは会場を後にしていった。
「いやはや、久々に肝を冷やしたバトルだった」
「(たしかに。今回は僅差だったと思うわ。危ないところもあったし。ドクロッグはうまくやってくれたわ)」
ラルトスの言うとおり、ニョロボンのところはあぶなかった。
たぶんふいうちとかみなりパンチが少しでも入っていなければ、ハリーセンのじたばたでも落ちなかったかもしれない。
そして僅差だったとすれば、ハリーセンのみちづれとヌケニンの運用か。
みちづれで厄介なカイリューを落とせたのは大きい。
そしてヌケニン。
ヌケニンは現実世界のときならば、ヌケニンに対して雨パは何も出来ずに機能不全に陥ることが間々あったりするが、それは『技の4つ制限』、『基本的に技は外れない』といった規則があるため。
この世界では上の2つに関してはまったく当てはまらない。
だからこの世界でヌケニンは思った以上に落ちやすくなっていたりする。
今回はラッキーがいたことで、パーティー構成としては予想通りラグラージを外してニョロボン、それから仮にラグを入れたとしたら物理が被るのでそれを外して特殊を請け負うルンパッパ、“マルチスケイル”とはねやすめで耐久は並以上な上、様々なタイプに対応できるカイリューとしたんだろう。
結果的に、ヌケニンに対抗できるカイリューを落とせばあとは勝ちの試合で、いかにヌケニンの存在を最後まで悟らせないかという勝負だったか。
とにかくスリルある読み合いで本当に楽しめた。
これこそがポケモンバトルなんだと思う。
それに
「あんなことは初めてだ」
バトルの最中に、自力で覚えるのは難しい教え技をポケモン自らが編み出してしまうなんて——
「ルンパッパはあの時点でヌケニンに通用する攻撃技はなくて、補助技もちょうはつで封じられていた。完璧に詰んでいた状態だったんだ」
だが、あそこからほのおのパンチを編み出した。
「(きっとルンパッパはどうしてもユウキを勝たせたくて、あの状態でも諦めずに必死でもがいていたのね)」
トレーナーへの想いが困難を打破したか……。
「ポケモンってオレたちが思っている以上の可能性を秘めているのかもしれないな」
「(それを言うなら人間だってそうよ。人間だってわたしたちポケモンからは思いもしないことだってやってのける。それらが合わさればきっとわたしたちはどんなことでも乗り越えていけるわよ)」
たしかに。
それはとても素敵で素晴らしいことだな。
「さって、オレたちもそろそろ行くか」
「(そうね。ついでに今一度、パーティー編成・運用を考え直して勉強し直すたら? 教えてばかりで錆び付いちゃったらしょうがないし、ユウキたちだって勉強してるのもの。ユウトもしたら?)」
「だな」
伝説や幻のポケモンを出してごり押しで勝つのはあまり好かない。
出来れば、普通のポケモンで、戦略・戦術を練り、相手の様々を読み、勝ちを収めていきたい。
そこに慢心などの入る余地は一片もない、入れてはならない。
そして運だけでなくて、完全な実力によって——
「ラルトス、協力してくれるか?」
「(わたしはユウトのパートナーなのよ? 今までだっていつも2人3脚できたじゃない。これからだってそうよ? 覚えておいてね)」
「ありがとう、ラルトス」
隣りを歩くラルトスを見ながら思う。
今日のバトルはいろいろな意味で今後絶対に忘れることはない——
と
ヌケニンはちょうはつ覚えないのになぜか使っていますね。こちらのミスです。
それはさておき、マルスケカイリューの活躍を期待した方、扱いが結構悪くて申し訳ないです(みちづれで葬ったため、ほぼ良いとこなし……)。
それからユウトの手持ちがラルトス含めて7体になっていますが、たしかアニメでサトシがピカチュウ抜きで6体でパーティー組んでのフルバトル(ピカチュウは客席で応援)していた回があったと思うので、それと同じ理屈ということで。