一撃必殺技は熟練度を積めば命中100%にもなりうるということで、バトルでは『使用禁止』としています。無論、ヒカリやシロナ達とのバトルにおいても(前話ではあまりのことについ解禁してしまったといった状況です)。
さらに一撃必殺技は変化技以上にものすごくマイナーという設定です(以下は以前感想でノーガード+一撃必殺技のコンボはどうなのかと聞かれた際に返答したものです)。
>[2010年 12月 14日 (Tue) 08時 30分 28秒]
>補助系があまり知られていないとなると
>ダブルバトルでのノーガード+一撃必殺のコンボとかも知らないんでしょうか?(笑)
>kuro [2010年 12月 15日 (Wed) 15時 33分 52秒]
>一撃必殺もあまり知られていません。
>そもそもまず技が当たらない(発動しないと言い換えてもいいかと思います)
>そして
>じわれ=じしんとどう違うの?
>ぜったいれいど=ふぶきとどう違う?
>ハサミギロチン=はさむとどう違う?
>といった認識です。
>つのドリルに関しては存在しないとしています。
>当たると少々グロい上に「どうして生えてる角がグルグル回るのさ?」という観点からです。
>ノーガードは『技が外れないなんてラッキー』ぐらいの認識です。
ということですので、上記を踏まえると、(公式?)バトルで一撃必殺が決まったのはおそらく世界初なのではないかと(なんだか言い過ぎな気もしますが)。
決勝については『雨パVS雨パ』と『ユウト苦戦(?)』をテーマにしていきたいと思っています。
アイデアを提供していただいたごま油様、アスカ様、ありがとうございます。
そして気づけば、本編の数より外伝の数の方が多くなっている……
『【タテワクタウン雨乞い祭り記念 ポケモン雨乞いバトル大会】も今年で8回目! 過去に様々なバトルが行われてきましたが、今回、かつてないほどのハイレベルなバトルが繰り広げられてきました! ——』
表では実況が決勝を盛り上げるための演説っぽいことをしています。
「さて、いよいよ決勝だな」
「ええ。ただまだまだ勝ちは譲るつもりはありませんからね」
「なかなか大きく出るね。ぼくだって負けるつもりは微塵もない、いつだってね。今まではたまたま結果が付いてこなかっただけだ」
お互い気合十分。
読み合いのスリルと心地よい緊張感が味わえそうだ。
『それではまずはホウエン地方ミシロタウン出身ユウキ選手、入場してください!』
先に行くからという言葉を残して控室を出ていったユウキさん。
「(今回の“雨が降り続くという限定的な状況下”ではどうなるかはわからないわね)」
伝説厨が消え去ってからは外に出てきたラルトス。
彼女の言うとおり、今回は『雨』という天気を変えることが出来ず、いかに『雨』という天候を味方につけるかが勝敗のカギを握る。
「(ユウトとユウキ、名前は似てるけど、はたしてどちらがこの天候を制するのかしら?)」
ニヤリと口許を歪めるラルトス。
しかしまあ——
「誰にものを言ってんだ?」
こちらも口元がつり上がる。
こちとら、現実世界のあのシビアなポケモンに対するアプローチも含めて軽く30年以上はポケモン歴があるんだぜ。
しかも、こちらにきてからも、この世界の『派手な技サイコー!』とか『努力値性格種族値個体値物理特殊? なにそれおいしいの?』といったヌルイ考え方には一切浸ってはいない。
「年期が違うよ」
「(そう。今回わたしは傍で見てるだけにするわ。がんばってね)」
『では、ホウエン地方ハジツゲタウン出身ユウト選手、入場してください!』
「よし! 行きますか!」
タイミング良く聞こえた実況の案内に、頬を一度叩いた後、オレとラルトスは共にゲートをくぐっていった。
■
『それでは決勝戦、始めてください!』
実況の開始の合図とともに始まった決勝戦。
まず最初の1体目は——
「ニョロボン、ゆけ!」
「ドクロッグ、キミに決めた!」
雨の降りしきるフィールドに種類は違えどカエルの親戚には違いない2体のポケモンが現れる。
『ユウキ選手の一番手はニョロボン! 一方、ユウト選手はドクロッグの登場です!』
ドクロッグは毒・格闘タイプのポケモンでこのタイプの組み合わせは他には今のところ、進化前のグレッグルしかいません。
特性は“きけんよち”、“かんそうはだ”、“どくしゅ(夢特性)”ですが、当然このドクロッグは“かんそうはだ”です。
「(お肌の手入れは怠っているわけじゃないからね)」
いや、ラルトス、そんなこと言わなくたってわかるって。
まあ冗談はさておいて、“かんそうはだ”という特性は水タイプの技を無効化して吸収し、雨が降っている状態なら一定時間ごとにHPが1/8ずつ回復していきます(逆に炎技は1.25倍、晴れ時、1/8ダメージ)。
特性とタイプによって、雨パメタ(雨パに対しての対策)として有効なナットレイやエンペルトを止められ、雨パ代表の物理アタッカーのカブトプスにいたってはほぼ機能停止寸前まで追い込みます。
さらに草タイプ技は半減され、どくどくも効かずと、対雨パ・対雨パメタとしてなかなか都合がいいポケモンです。
ちなみにこの子は、持ち物:くろいヘドロで、いじっぱりのA極振りのH228B12D12振りと決定力+耐久力の底上げを狙っています。
対するユウキさんのニョロボン。
特性は“ちょすい(水タイプの技を無効にし、HPが1/4回復する)”、“しめりけ(じばく、だいばくはつ、ゆうばくを無効にする)”、“すいすい(雨の時に素早さが2倍/夢特性)”となかなk……アレ?
まさかまさk——
「ニョロボン、はらだいこ!」
うぇぇぇぇぇぇ!?
ヤバッ、マズッ!
雨天時にはらだいこなんてやられると、さらに仮に“すいすい”だったとして素早さ調整されてたら、余裕で最速サンダースを超える素早さから水等倍までなら全ポケモンを一撃で粉砕する破壊力を見せつけますよ!?
さーて、一旦落ち着こう。
KOOLだ、KOOLになれ(誤字に非ず)。
「(ひさびさにピンチってヤツ?)」
て、楽しそうに言うなよ、コラ。
こっちはテンパってんだからよ。
『ニョロボンのはらだいこが決まりました! 体力は半分になりましたが、攻撃力はこれで最大までアップします!』
「ついでにオボンの実で体力も回復。“すいすい”で素早さ2倍だ。どうする、ユウト? このままだと3タテもしかねないよ?」
「それはどうでしょうかね。そう簡単にいきますかいな?」
「いいだろう。ニョロボン、じしん!」
「ドクロッグ、まもる!」
さてさて、考えろ、よく考えろ。
現状、最善の手立てはまだ浮かばない。
いやニョロボン突破はなんとかなる。
この大会のルールで出場できるポケモンは出場の際にエントリーした6体のみ。
で、この大会でユウキさんが使ったポケモンはデンリュウ、レパルダス、ラグラージの3体。
逆にこっちはドレディア、ドクロッグ、ラッキー、ジュゴンの4体。
準決勝で“きせき”ラッキーを見せたから、“はらだいこ”ニョロボンが出てきたのだと思う。
とすると水タイプ物理アタッカー2体はユウキさんのことだからあまり考えられない。
となればラグラージは出ないと思われるという点で、水タイプをほぼ完封できるのが1体。
ただ、この子はいろいろと不安が残るから、3体すべて確定するまでは見せたくはない。
とすると、もう次に出せるのはほぼ決まっているようなもの。
でも、この子の突破力には目を見張るものがあるけど、ここでそれを出すのが適当か——
と、そんなことを考えている間にも、フィールドを大きく揺らすじしん。
はらだいこで強化されているためか、ところどころでフィールド内を大きな亀裂が走るどころか隆起や陥没までしてしまう。
地面タイプなのでドクロッグには効果抜群なのだが、まもるによりじしんは不発に終わる。
まもるの壁に覆われていた部分はじしんによる影響は一切見受けられなかった。
「反撃だ、ドクロッグ! かみなりパンチ!」
「読めてるよ! かわせ、ニョロボン!」
しかし、ニョロボンの横合いから繰り出されたかみなりパンチは空を切るだけに留まり、ダメージを与えるには至らない。
『ドクロッグはまもるでニョロボンのじしんを避け、そこからかみなりパンチを繰り出すものの、ニョロボンが圧倒的素早さでドクロッグの攻撃をかわしていきます! 素晴らしい攻防! そしてユウト選手、今大会初めての苦戦を強いられております!』
くっ、素早さ2倍は伊達じゃないか!
もうどうのこうの言ってられない。
まずはこのニョロボンをとにかく退けよう!
「悪足掻きの時間は終わりだ! いけ、ニョロボン! じしん!」
普通に撃てば避けられる。
ならば普通ではない技を——
「ドクロッグ! ふいうちからのかみなりパンチ!」
「ドクロッ!」
そうして指示通りに動いた2体のポケモン。
ニョロボンがじしんを撃つ前に決まる、ドクロッグのふいうち。
一瞬でニョロボンの前まで移動してみせたドクロッグにユウキさんたちは驚いたみたい。
ただ、そこからかみなりパンチを完璧に入れるというのはやっぱり甘かったらしくて——
『ふいうちがニョロボンに決まり、かみなりパンチでさらなる攻勢をかけようとしたドクロッグでしたが、そこでニョロボンのじしんが炸裂ーッ! ドクロッグ耐えきれずにダウン! ドクロッグ、戦闘不能です!』
はらだいこ+効果抜群じしんならこうなるのも仕方ないわな。
「お疲れ様、ドクロッグ。ゆっくり休んでいてくれ」
ドクロッグに労いの言葉をかけつつ、ボールに戻す。
さて、次のポケモンは——
■
いまぼくは外面上は努めて冷静に戦局を見定めているフリをしているが、俄かに内面に湧き上がる興奮を抑えきることは出来なかった。
彼との出会いはもう10年近く前だったか。
一番初めに会ったときはぼくの父さんに紹介されたとき。
「彼、すごいんだ! ホウエン地方のポケモン図鑑をほぼすべて完成させたんだよ!」
父さんのその一言にはリアルで「は?」と零した記憶がある。
そして見せてもらった図鑑。
そこにはNo.200とまで登録されたホウエンポケモン図鑑があった。
正直驚きを隠せない。
父さんの影響もあり、研究者を目指していたぼくには、ホウエン各地を旅して回ったぼくには誰よりもその困難さを理解できる自信がある。
ぼく自身も旅を通して、ハルカや道中で出会った様々な人にも協力してもらいつつも、ここまで図鑑のページを埋めることは出来なかった。
見てみると、レジ系3体を除いてすべてビッシリ埋まっていた。
ちなみにその3体はぼくとハルカで捕まえたもので、岩盤の点字で明確な場所を示されたものについてはホウエンにはもういないのではないかとも思う。
で、『ホウエンにはこんなにもたくさんの種類のポケモンがいたのか』という思いで完成された図鑑を眺めていると、
「ヌ、ヌケニン? なんだ、このポケモンは?」
まったく知らないポケモンのページがあった。
「ああ。そのポケモンは虫・ゴーストタイプのポケモンで、ツチニンの進化形なんですが、進化条件が少々特殊なんですよ。具体的には——」
またさらに、彼はぼくや父さんでも知らなかった知識をこともなげに披露。
ついでにレジ系に加え、No.201 ジラーチ、No.202 デオキシスでようやくホウエン図鑑は完成を迎えるのだとか。
こんなぼくよりも年下の何の変わり映えもしない少年に対し、様々な意味で衝撃だった。
そしてぼくはトレーナーとして彼のバトルの腕も見てみたくなった。
ぼく自身ライバルのハルカがポケモントレーナーから、ポケモンコーディネーターに転身したとはいえ、一度はリーグ優勝も飾ったこともある彼女とまともに渡り合える一人だ、ということは自負していた。
だが、対戦の結果はボロ負けとは言わないが、いまだかつてない負け方を喫した。
そしてひしひしと感じた。
彼は何者なのかと。
今までは技のパワーに負けるということは多々あれど、ぼくのポケモンの技がほとんど効かない、あるいはほとんど封じられて負けるということはなかった。
何が何だか分からなかった。
二度目だが、こんなぼくよりも年下の何の変わり映えもしない少年に対し、様々な意味で衝撃だった。
これがぼくの彼との初めての出会いだった。
それから彼の知識を教授してもらった。
彼の語ることは何もかもが新鮮、などという言葉では生温すぎて。
どちらかというと、新しすぎて時代がいくつも先に進んでいく。
そんな感覚を受けた。
そして彼から教わったことを元にポケモンを改めて育成し直して、研究・フィールドワークに出て、今や、若手研究者の代表の一角とまで目されるようになってきた。
彼から教わったことがなければここまでは辿り着くことが出来なかっただろう。
さらにバトルの腕においても、彼はその類稀なる膨大な知識を下に、土が付くことなく数々の無敵と称されたトレーナーを撃破してきた。
今まで、ぼくを含む、彼と戦ったことによって真にポケモンに目覚めたともいえるライバルたちと共に、彼に勝負を挑んできたものの、勝ちを得ることが叶わなかった。
何度も何度も挑戦した。
しかし、叶わなかった。
だが、それが今叶いそうな、僅かな糸口を見つけることが出来た。
「ぜったいにここでそれを、勝利を手繰り寄せてみせる!」
今、フィールドには雨が打ちつけているのとは反対に、心の熱は熱く滾っていた。
■
「2番手はハリーセン、キミに決めた!」
ハリーセンか。
ユウトが使うのは初めて見るな。
たしか水・毒タイプでだいばくはつという危険技の使い手。
特性は“すいすい”、“どくのトゲ”、“いかく”だったか。
で、種族値的には物理アタッカーが適している、だったかな。
見てみると、“いかく”をしている様子は見受けられないから、違う。
となると、この状況で一番可能性がありそうなのは“すいすい”か。
こちらも“すいすい”だし、そんなに素早さを気にする必要はない。
どちらかというと、この雨の中で水タイプの攻撃をもらうのが一番痛い(雨天時水タイプ攻撃技1.5倍)。
おまけにオボンの実で回復したとはいえ、はらだいこにふいうち、それからかみなりパンチのダメージも若干ある。
だいばくはつなんかは絶対に食らいたくはない。
『ユウト選手、2体目はハリーセンの登場です! 攻撃力が最大まで上昇し、ドクロッグの攻撃をかわし切る素早さのニョロボンにどう対抗していくのでしょうか!? 注目です!』
できれば、何もさせずにこのまま一気に決着にもっていく!
「よし! ニョロボン、一気にいくぞ! たきのぼり!」
「ニョロボ!」
ニョロボンはそのまま微動だにしないハリーセンに向かって突撃していく。
そして——
『先程、ドクロッグをたったの一撃で下したニョロボン! 今度はたきのぼりがハリーセンにクリーンヒット! これは、大ダメージ確定は必須でしょう! 果たしてハリーセンは耐えられるのでしょうか!?』
それはムリな話——
「今だ!」
なんだって!?
「ハリーセン、じたばた!」
!?
しまった!
きあいのタスキか!?
「ハリーーセンッ!」
そうしてきあいのタスキでわずかにHPを残して耐えたハリーセンの威力200のじたばたが決まる。
『これは驚きました! ハリーセン、きあいのタスキで耐えてからの猛烈な反撃! じたばたがニョロボンに決まりましたーッ!』
「ニョロ……ボン……」
そのままニョロボンの身体は仰向けに倒れていった。
『ニョロボン、じたばたには耐えきれませんでした! ニョロボン、戦闘不能!』
ぐっ……!
きあいのタスキの存在を忘れていたなんて……!
くやしいな……!
『それではユウキ選手、2体目のポケモンをどうぞ!』
……だけど、ニョロボンだけがぼくの秘策じゃないんだ。
「まかせたぞ、カイリュー!」
まだまだ勝負の行方はわからないぞ、ユウト!