研究者という職種上、持ち歩いていたポケモン図鑑。
勉強の一環ということでその図鑑を開き、彼アッシュに見せる。
彼は珍しいのか熱心に見てくれていた。
ページは当然あの2種類のポケモン。
『レックウザ てんくうポケモン
何億年もオゾン層の中を飛び続けてきたポケモンで、地上に降りることは極めて稀。ある地方ではカイオーガとグラードンが戦うとき、地上に降りてくると言い伝えられている。』
『ジュゴン あしかポケモン
全身が雪のように真っ白な体毛に覆われている。寒さに強く、むしろ寒いほど活発になる。冷たい氷の上で寝るのが大好きなため、昔、氷山で眠る姿を人魚に間違われたことがあるらしい。』
「レックウザもダークライも伝説のポケモンなんだろ?」
「まあね」
「あんなの持ってるなんてあいつマジすげぇな」
まあ、伝説や幻のポケモンは種族値が普通のポケモンに比べると、高い水準にあるからユウトはそういうポケモンばっかり使うと「伝説厨乙!」とかいってくるけど(ただ伝説解禁戦の場合はそういうことは言わない。というか彼は、伝説はラティ兄妹とミュウしか持っていない)。
現にあのタクトとかいうのは伝説のポケモンばかり使うから“伝説厨”という烙印を押されている。
「それからジュゴンか。なんかパッと見でフツーなポケモンな気がするな。一応弱点は突けるみたいだけど、大丈夫なんかね」
「見た目と伝説か否かで勝負の行方は決まるものではないさ」
ジュゴンの特性はかくれ特性も含めれば、“あついしぼう”、“うるおいボディ”、“アイスボディ”の3種類。
そのうち、雨というこの状況もあることから、おそらく特性は“うるおいボディ”の方。
“うるおいボディ”は雨が降っているときは状態異常を回復させるという特性。
ねむるはHPを全回復させる技だが、一定時間は眠ってしまうという技。
これら単体ではそれほどの脅威でもないと思われるが、合体したときには飛躍的に脅威度が跳ね上がる。
これらが組み合わさって意味するものはすなわち、“ねむるでHP全回復+即眠り回復”。
本来ならばレックウザの特性“エアロック”で天候による影響を打ち消すのだが、ラッキーのスキルスワップによって特性を入れ替えられ、今は“しぜんかいふく”になっている。
つまり、ジュゴンは今、ノーリスクの全回復技を持っていることになる。
「なんかわかんねぇけど何となくスゲェってのはわかる」
アッシュがそんなような感想を漏らしているが、真に理解するにはまだ先のようだ。
さて、そんなレックウザVSジュゴンのバトル。
レックウザは氷タイプが4倍ダメージだが、その攻撃特攻種族値からの攻撃技は脅威の一言。
対するジュゴンは——
「ジュゴン、ねこだましの後に限界までたくわえるだ!」
やっぱり耐久型か。
「あんなポケモンに何を怯んでいるんだレックウザ! 10万ボルトだ!」
……ねこだましはバトル最初のみ有効な強制怯み技だから、どんなポケモンだろうと関係ないんだけどな。
あと、何気に電気技も覚えているとはジュゴンにとってはなかなか恐ろしい。
「なんだ、ねこだましにたくわえるって?」
「ねこだましはバトルの最初だけ有効な強制的に相手を怯ませる技、たくわえるは防御と特防を1段階上げる技さ。最大で3段階までしか上げられないけど、普通はそこまで積む時間はないから、あまり気にならないけどね」
現に今、レックウザは怯まされ、10万ボルト、さらにはりゅうのはどうを撃ち出そうとしているが、それができず、その隙にジュゴンが積んでいるという状況だ。
「ジュゴン、こごえるかぜ!」
さらに追い討ちとばかりにこごえるかぜがレックウザを襲う。
しかし、レックウザの方は、4倍弱点とはいえど、これだけで落ちる様子は見せていない。
「こごえるかぜ。初めて聞いたぜ。見た感じ、氷タイプの技っぽいからレックウザには効果抜群だけど、れいとうビームだとかふぶきの方がよくないか?」
「いや、ぼくもここではこごえるかぜを選択するかな」
こごえるかぜは氷タイプの技で、威力や知名度ではその2つの技に劣るけど、その代わりに素早さを必ず1段階下げるという追加効果がこの技にはある。
「だから、今の場合だと素早さを下げるという意味合いが大きい。相手へのダメージは二の次といったところだ。素早さが下がれば、こちらに有利となる展開もつくりやすいしね」
「はえぇ〜、いろいろと考えてるんだな」
「逆にここまで考えないとぼくらのいるところまでは届かないということだ」
そうしているうちにバトルは俄かに動き出した。
「くっ、相変わらず小賢しい! ならば、こちらにも考えがある。レックウザ、りゅうのまいだ!」
いや、小賢しいというか。
戦略を練り上げるのはポケモンの常識だから。
尤も、以前は積み技なんか使わなかったらしいから、いろいろ学習したというところみたいだが。
「! ジュゴン、ストップ! アンコールだ!」
「ジュゴ。ジュゴジュゴジュゴ♪」
ジュゴンは彼の指示通りにこごえるかぜを中断。
両前足を叩き合わせてアンコールを決める。
あっ……。
これは……。
「レックウザ終わったな」
■
『ジュゴンのアンコールが決まりました! これでレックウザはりゅうのまいしか技が出すことが出来なくなってしまいました!』
「ちっ! しまった!」
フフフ。
迂闊に積むとアンコール持ちの前では死に体になりますよ♪
「ジュゴン、つづいてかなしばり!」
どこぞの初代ファイヤーさんみたいなにらみつける(キリッ)じゃないよ?
でも、にらみつけるにパッと見そっくりだけどね。
まあ、とにかくかなしばりが決まり、これにてレックウザはもはや手出しが出来ません。
「レックウザ、なんとかしろ!」
いや、なんとかしろってあーた、なんとかできるんならレックウザ自体がなんとかしてるし、それにそれってアンタの役目とかじゃない?
『レックウザ、もがきますが技を出すことが出来ません!』
「くそ! もういい! 戻れ、レックウザ!」
「そいつはさせないよ! ジュゴン、うずしお!」
ボールに戻させないためのうずしおが、ボールから発せられるレーザーが届くより僅か先にレックウザを包み込む。
『あーっと、ここでタクト選手、レックウザをボールに戻そうとしましたが、ジュゴンのうずしおによって閉じ込められ、戻すことが出来ません! 攻撃はおろか、一切の行動が封じられたレックウザ、大ピンチです!』
「決めろ、ジュゴン、ふぶきだ!」
「ジュゴーーーン!」
「チィッ! レックウザ、動け! 動き回れ!」
無防備なレックウザに対して4倍弱点のふぶきが襲いかかる。
レックウザも襲うが、うずしお自体もふぶきによりカチカチに凍りついていく。
仮に、この1発で倒せずとも、もはやタクトはレックウザに対して何も出来ません。
アンコール、かなしばり、さらにもはや氷の牢獄ともいうべきうずしおが解けるまで待ってやるつもりもないし。
ということで、いずれレックウザは倒れることになります。
さて、彼の3体目のポケモンを拝ませてもらいましょうかね。
■
「……ハァ……」
思わずため息をついてしまう、あんなのが出てくれば。
「ガギャギャァッ!!」
そして場に現れた伝説厨ラストのポケモンは、レックウザに負けず劣らずの咆哮を上げてくれちゃってます。
なんだかなあ。
いや、ホント、アンタマジでなんなのさ……。
「これが秘密兵器その2にして最終兵器、といったところだ。さらに雨状態だからこちらにとっても好都合といったところだね」
んなドヤ顔で自慢されてもねぇ。
『か、会場内も大きなどよめきに包まれています……! しかし! しかし、それも納得といったところでしょう……! 私も実物は初めてお目にしました。これが、あのシンオウの伝説のポケモン——」
「そう!
パルキアだ!
」
パルキア
シンオウ地方伝説のポケモン。
空間の神として、ディアルガ・ギラティナとそれぞれ対をなす存在。
タイプは『水・ドラゴン』と極めて優秀(弱点はドラゴンタイプの技のみ)。
HP以外はどの種族値も100乃至(ないし)100オーバーで特攻に至っては150もある。
雨も降ってるこの状況では水技1.5倍にタイプ一致で1.5倍、しらたまというアイテムを持たせれば、水・ドラゴンタイプの技が1.2倍と強化され、かけ合わせて全部で2.7倍とシャレにならない強さを見せつける。
ハイドロポンプなら威力120×2.7=324というバカげた火力になり、生半可なポケモンではアッサリ落ちてしまう可能性が非常に高いです。
「——ということさ」
なんかさらにつらつらと語ってくれちゃってました。
アルミア地方で捕まえたとか何とかね。
正直マジもうどうでもいいです(ほとんど聞き流してましたから)。
「さて、キミはどうこいつに立ち向かうかな?」
どうすればいいか。
一度氏ねばいいよ、マジに。
まあ、冗談はさておき本当にどうしようか。
というのもパルキアに対してオレのジュゴンは有効でかつ、まともな攻め手があまり存在しない。
「ではバトル再開といこう」
『大変珍しいポケモンの登場で大いに会場を沸かせてくれたタクト選手! 3体目のポケモンはシンオウ地方では空間の神といわれている伝説のポケモン、パルキアです。しかし、タクト選手はもう後がありません! ですが、タクト選手は余裕の表情! この状況からどのような逆転の秘策があるのでしょうか!?』
しょうがない。
全然やるつもりではなかった、現実でのジュゴン耐久といえばこれという戦法をやあってやるぜ☆
オレのジュゴンなら即バトル終了にもっていってしまう上に、後の処置が面倒だからやりたくなかったんだけど、もうどうでもいい。
自重?
相手が自重してないんだからこっちもしてやる必要はないっしょ?
ホントは、面倒になったってのはナイショ☆
「まずは、パルキア、ハイドロポンプ!」
「ぱるぱるぅ!」
「ムッ、避けろ、ジュゴン!」
特攻種族値150からの雨状態+タイプ一致でハイドロポンプ。
『ジュゴン、パルキアのハイドロポンプを必死に避けています! しかし、完全ではなく、その余波からは逃げきれていません!』
「今だパルキア、あくうせつだん!」
「ガギャギャァッ!」
「ジュゴン!?」
ハイドロポンプを避けた先に飛んできたあくうせつだん。
それにはジュゴンも対処できなかった。
「ジュゴーーン!」
『ここでユウト選手、タクト選手から初めてのクリーンヒットをもらいましたァ! ユウト選手のジュゴン耐えきれるか!?』
「ジュゴン、大丈夫か!?」
「ジュ、ジュゴ、ン」
だけどその声に弱々しくもきっちり答えてくれたジュゴン。
かなりの大ダメージを受けているのは目に見えてわかる。
ここまで来たらキッチリとお返しをしてやろう。
だから、まず——
「ジュゴン、ねむる!」
目閉じたジュゴン。
だんだんと身体の傷が回復していく。
『ジュゴン、ねむって体力を全回復させ、万全の状態となりました! あくうせつだん、ハイドロポンプで傷ついたダメージは見たところ一切ありません!』
ねむるで全回復して——
『おっと!? ジュゴン、眠ったもののすぐさま眠り状態から回復した様子です!』
「チッ、まるでゾンビだな。だが、やることに変わりはない。パルキア、ハイドロポンプ!」
ハイドロポンプを撃とうとしてくるが、もはや関係ない。
——これでとどめ
「決めろ、ジュゴン。
ぜったいれいど 」
この瞬間、すべてのトキが凍った。
■
それは見事な彫像だった。
描き出される曲線と直線の交わり。
筋肉の収縮と膨張、関節の屈折と伸長が今にも行われそうなほどの、まるで本物と寸分たがわないというほどの造詣。
そこから放たれる、見る者を圧倒するような凄まじい威圧感。
まるでそれは生きていて今にも動き出しそうな、そのようなものだ。
彫像をつくる場合、これを表現しうる苦労というのは並大抵のものではない。
しかもそれが氷で作られていた場合、湿度・気温・日光・元の水の状態等にも気を使わなければならない。
しかし、コレをつくりだしたものはそのような芸はない。
そして『生きていて今にも動き出しそうな』と表現したのは当たり前のことである。
なぜなら
今現在もそれはこの世界で生を享けたときから、命の鼓動を打ち続けているのだから——
『こ、これは!? なんということでしょう!? パ、パルキアの氷の彫像が一瞬にしてフィールド内に出現しました! いったいなにがどうなっているのやら!?』
一応解説を付け加えておくか。
伝説厨もあまりのことに放心しているみたいだし。
「ぜったいれいど。氷タイプの技で、命中率はそんなには高くないけど、コレを食らったら即戦闘不能となる一撃必殺の技。氷状態のときはかえんぐるまやフレアドライブなどを放てば自力での回復も可能だが、それはまだ戦闘が続行できる場合。ぜったいれいどを食らえば自力での解凍は不可能。よってバトルの決着はここについた」
その後なんだかんだ、すったもんだの一幕がありましたが、無事に決勝進出。
伝説厨は逃げるかのようにそそくさと退散していきました。
ちなみにこのぜったいれいど、ゲームだと命中率30%ですけど、こちらでは練習を積めば100%も可能です。
ただ、あまりに強過ぎるので、滅多にはやらないのですが、まあ今回は仕方ない。
あんまりハメを外すのはよくないよね。
お互いに。