「戻れ、ジュカイン」
モンスターボールの白いスイッチから放たれた赤いレーザー光線がジュカインを直射して、シロナさんによって毒消しを打たれたジュカインがボールに戻った。
サトシはそのボールに伏見がちに視線を落とす。
「ありがとう、ジュカイン。よく頑張ってくれたな。あとはゆっくり休んでてくれ」
やっぱりサトシはどこに行ってもやっぱりサトシで、ポケモンに対する愛情・慈しみは変わらない。
「確かにオレには知識は足りてないかもしれません。コイツらのことも含めてポケモンたちのことをまだまだ知らないと思うし、これから知っていかなきゃいけないと思います」
そこでキッと目線を上げてその強い眼差しをオレに送ってくる。
「でも、オレは勝負を諦めるなんてことは絶対にしません! 最後まで全力で戦います!」
うん!
いいねいいね!
この前向きさがいい!
バトルは諦めなければ、最後の最後までわからない。
諦めなければ何かいい手段が見つかるかもしれない。
尤もそれは保有する知識量に左右される。
彼に足りていないのはそれのみ。
この一見アニメの中の、されど現実の世界ならば『リセット』なんてこともきっと起こらないでしょう。
ならば、彼に知識を叩き込むのも悪くない。
一応断っておきますが、さっきはあんなことを言いましたが、サトシは好きなキャラですよ。
だから、ちょっとぐらい肩入れしてもいいよね?
「ああ! ポケモントレーナーならそうこなくちゃな!」
このバトルについてはオレが勝ってみせるけどね。
さて、話はバトルの方に戻して。
これでサトシの手持ちはピカチュウを含む2体。
その内、不明なのが1体。
サトシのパーティには水・草・炎・飛行タイプはほぼ必ず入る傾向があり、水・草・炎に関しては御三家がほぼ例外なく入る(ちなみに電気もそうなのだが、ピカチュウは絶対に外れないのであえて除外)。
その中で今回のバトルに出てきたのは電気を除けば、水と草。
それ以外にはノーマル、虫、格闘。
とすると残りの1体で一番あり得そうなのが飛行タイプか炎タイプ(しかも御三家)。
飛行タイプは全体的にあまり優秀といえる特性はなく、御三家炎の特性は“もうか”しかない。
「ゴウカザル、君に決めた!」
ん!
これで6体全て確定。
ゴウカザルは炎・格闘タイプで、シンオウ御三家の1体の最終進化形。
こっちにはゴルダック、ニドクインと相性が良い子たちがまだ残っている。
ただ1つ問題があって、それは——
(わたしを出しなさいよぉ!)
さっきから出せ出せうるさいラルトスさん。
“超”が付くほど久しぶりなバトルだったため、出番あれだけで引っ込めさせられたのが、かなり不服なご様子。
正直ここでラルトスを出して“もうか”を特性“トレース”でトレースしても、旨みはほぼない。
まだ、ピカチュウの“せいでんき”をトレースした方がお得だ。
お得なんだけども——
「仕方ない。ラルトス、キミに決めた!」
たまには思いっきりバトルさせるのもいいかと思い、要望通り、ラルトスを指名。
「(ッシャオラアァァァ!)」
超やる気満々でフィールドに飛び出していった。
ていうか、そんなにバトルしたかったのね。
それからその雄叫びは女の子がしていいようなやつではないから……。
*
「サトシ、大丈夫かしら……」
「ステルスロックのダメージに猛毒状態と形勢は不利だ。サトシが何もしなくても、ゴウカザルの体力は減っていく」
「おまけに格闘タイプにエスパータイプは相性が極めて悪いわ。迂闊に攻めてもさっきのヘラクロスの二の舞みたくなるだろうし」
「ですね。ここは慎重さが求められる。頑張れよ、サトシ」
心配そうな面持ちでバトルの行方を見守る3人。
その一方、サトシは、
「ゴウカザル、ビルドアップだ!」
積み技で能力アップをして対抗していくようだ。
ヘラクロスのときと同じく、とにかく速攻速攻と攻撃技を仕掛けていくことはマズイと考えたっぽい。
ただ——
「ラルトス、アンコール!」
それだけではユウトさんのラルトスは止められません。
さらに追撃とばかりに、今、ゴウカザルの周りには黒い不気味な瞳がいくつも浮かび上がり、それらがゴウカザルを睨みつけてます。
これはくろいまなざしかな。
くろいまなざしは使ったポケモンがフィールドから消えない限り、相手のポケモンはボールに戻すことが出来ない(逃げられない)ようにする技です。
「マズイ、マズイぞ。ゴウカザルはアンコールでビルドアップしか技が出せない。アンコールを解除するために、ゴウカザルを戻そうにもくろいまなざしでボールに戻せない」
「じゃ、じゃあ、サトシはどうすることも出来ないの!?」
「一応ビルドアップは出来るからどうすることも出来ないわけじゃないでしょうけど、その間にユウト君とラルトスがどういうことをしてくるのか。ゴウカザルとサトシ君としては彼らがすることを黙って見ていることしかできないわね」
「ラルトス、よこどりだ!」
よこどり!?
なんつー珍しい技を!
「よこどりってどんな技かしら?」
「よこどりとは相手が使おうとした能力アップをさせる技や回復系の技の効果を奪い、自分にかけるという非常に珍しい技です」
ヒカリの問いにJさんがまたまた説明してくれました。
「そんな技があるんですか。知りませんでしたわ」
「私もつい先日知ったばかりです」
ママはどの世界でも有数のトップコーディネーターなんだけど、それでも知らないなんて。
まあ、ユウトさん曰く『ドマイナーな技』らしいので知らないのも無理のない話なのかもしれません。
ちなみによこどりされると、相手は使おうとした変化技を使うことが出来ません。
ゴウカザル&サトシ超涙目……。
「……よし! ラルトス、もういっちょ! かなしばりの後にめいそうだ!」
……ここに来てそれですか
うん……。
「ユウトさん、メチャクチャえげつないなぁ」
くろいまなざしで逃げられず、アンコールで技を一つに縛られ、唯一できるビルドアップはよこどりで奪われ、その後はかなしばりでビルドアップすら使えなくして行動不能にする。
そして動けなくなったところでめいそうで、特攻特防アップ。
イヤすぎる……。
なにこの凶悪コンボ。
なにこの凶悪コンボ。
なにこ(ry
大事なことなので3回(ry
「とどめだ! ラルトス、サイコキネシス!」
……結果は言わなくてもわかるよね?
*
「ピカチュウ、君に決めた!」
最後の1体は当然、あちらの最終兵器
「ピカピッカッ!」
ピカ厨さん、超やる気ッスね。
キリッとした目に頬の赤い電気袋から電気が洩れだしています。
ホントは静電気をトレースしたかったけど、ビルドアップもめいそうも積んだから、相殺、どころかむしろプラスの方向に運ぶこととなりました。
あとついでに気になったんですが、
「ピィカッ!」
なんでピカさんはステロも毒びしも食らってないのですか?
なに?
ボールから出てる状態だから、ダメージは受けないとでもいうの?
それとも毒びしもステロもボールから出てた状態だったから避けるのも容易かったとか?
オレのラルトスでもそんなことは起こりませんよ?
ひょっとしてこの世界特有の現象とかですか?
まぁなんにしろ、さすがは『厨』という言葉が入っているポケモン。
マジパネェっすね。
尤も猛毒状態になっていないなら別の方法で攻めていくのも可能だけどね。
「ピカチュウ、出し惜しみはなしで一気にいくぞ! ボルテッカー!」
「ピッカッ!」
宣言通りに電気タイプ最強の大技を指示するサトシ。
「ピカピカピカピカピカピカー!」
ボルテッカーを出す際の掛け声と共に、ものすごい突進スピードで以てして、ラルトス目掛けて突撃する。
「ラルトス、こごえるかぜ!」
とりあえずまずはピカチュウの素早さを落としますか。
「負けるな、ピカチュウ!」
「ピカ、ピカ、ピカ、ピカ、ピカ!」
こごえるかぜはダメージはそれ程でもないのですが、上でも述べたように素早さ1段階ダウンが非常においしいんです。
サトシの声援に応える形でピカチュウも頑張ってこごえるかぜの吹きすさぶ中をボルテッカーで駆け抜けてきますが、影響は免れないようで、スピードが落ちてきています。
もう一押ししときますか。
「ラルトス、リフレクター!」
「(あら、おにびじゃないの?)」
「体力回復できるぞ?」
「(なるほど。じゃあ美味しく頂くわ)」
オレの言葉で、この後のことを全て理解してくれたようで、ラルトスはリフレクターを張る。
これでしばらく物理ダメージは半減。
「ピカピッッカーー!」
直後、ピカチュウのボルテッカーがラルトスを直撃。
しかし、ビルドアップでの防御力アップ+リフレクターによって電気物理攻撃技最強のボルテッカーといえど、あまりダメージにはなり得なかった。
(リフレクターも張ったとはいえ、これぐらいなわけね)
(大丈夫か?)
(まったく問題ないわ。チクッと痛かっただけよ。でも、お返しはお返しよね!)
「よし、ラルトス、マジカルリーフ!」
数ある技の中で回避不可能な必中技のマジカルリーフを選択。
それがボルテッカーの反動を受けている最中のピカチュウに襲いかかる。
「がんばれ、ピカチュウ! ほうでん!」
「ピィィカ、チューー!」
おろ、ほうでんなんて技が使えたのね。
しかし、ナイスチョイス。
ほうでんは全体範囲攻撃技なので、一方向にしか飛んでいかない10万ボルトよりは、この場合は効果的。
ただ、ほうでんの威力的な問題とラルトスがめいそうを積んでいたこともあって、マジカルリーフは半分ほどしかほうでんに撃墜されませんでした。
「チャアァァ!」
マジカルリーフの直撃によって宙に吹っ飛ばされるピカチュウ。
「負けるなピカチュウ! がんばれ!」
「ピッ、ッカッ!」
サトシの声援を受けクルッと宙で体勢を整える。
「ピカチュウ、そのまま10万ボルトだ!」
「ピーカ、チューー!」
自身が落下しながらの10万ボルトが放たれる。
「ラルトス、ひかりのかべ!」
「(ビリビリはやーよ?)」
先程張ったひかりのかべはとうに切れているので、再度張る。
直後、レーザーのようにまっすぐ直進するのではなくてジグザグマが歩くかのごく、ジグザグとやや蛇行しつつ進む10万ボルトがラルトスに直撃。
「(あぁ、肩こりに効くわ。いい電気刺激マッサージね)」
しかし、めいそう+ひかりのかべで全然効いておらず。
「よし! ラルトス、とどめだ!」
「(了解よ!)」
ラルトスはテレポートで姿を消す。
「ピィッ!? ピッ!? ピカッ!?」
突然消えたラルトスに、きれいに着地したピカチュウは動揺して首を左右に振るも姿を捉えることが適わない。
「!? ピカチュウ、後ろだ!」
サトシが気づき、声を張り上げる。
ピカチュウが振り返るも、既にすべてが遅くて——
「ピ……カァー…………Zzz……」
トロンとした目で後ろ向きに倒れると胸が規則正しく上下するとともに穏やかな寝息が聞こえてくる。
ラルトスのさいみんじゅつが決まった。
「ピカチュウ! 起きろ! 起きるんだ! 目を覚ませ! ピカチュウッーーーー!!」
どこぞ修造バリに自身の声を張り上げさせ、目を覚まさせようとするサトシだったが、
「ゆめくい」
「(いただきます)」
ピカチュウが目を覚ますことはなく、ラルトスのゆめくいが決まる。
「ピカチュウ、戦闘不能! サトシ君が6体すべてのポケモンを失ったため、このバトル、ホウエン地方ハジツゲタウン出身ユウト君の勝ちとなります!」
*
あれから数日ヒカリの家で過ごしたオレたちは、この世界のヒカリのママさんの言葉に従ってある町へ行くことにしました。
その名も『ハイテク都市』として名高いラルースシティ。
ママさん曰く、ここはかつてセレビィが訪れる小さな島としてトップクラスのトレーナーたちの中ではそこそこ有名だったらしい。
しかし、この島を含めて周囲を再開発し、最先端技術の水位を結集した超ハイテク都市を建設する計画が浮上。
セレビィが訪れる島を開発させるわけにはいかないが、表立って騒げば、『幻のポケモン、セレビィが訪れる島』として立ち所として有名に。
そうなれば、ロケット団やポケモンハンターなどの善からぬ者たちにつけ狙われるということから、セレビィを説得して別の場所に立ち寄らせるということに成功。
それ以来セレビィもラルースも無事問題もなく終わり、ラルースの完成をみた。
ただ、ここ最近では別のセレビィが再び、この島を訪れるようになったのだとか。
なんだか皮肉な話な気もする。
で、セレビィの時渡りならぬ世界渡りで、ピンクのツンデレちっぱいゼロのメイジのいる世界やら、リリカルマジ狩る全☆力☆全☆壊の世界やら、「契約してよ」と迫ってくる孵化器がいる世界やら、魔法使いやらマギステルなんとかのいる世界やら、古代某国の有名人が皆女性という世界やら、とある魔術だか科学だか知らないけど「その漢字からそんな痛いカタカナ横文字なんて読めねーよ」のトンでも能力の世界やら、あちらこちらの世界を彷徨っていたので、なら『1体だけで無理なら2体でやればいいじゃない』という作戦に打って出ることにしたオレたちはフタバタウンを後にして一路、ラルースシティに向けて旅立ったわけです。
ただ、予想外なこともあって、それが——
「ねぇ、見て! ラルースシティってすごいのねぇ!」
「なになに? 『都市の中は動く歩道や、ブロボと呼ばれるガードロボなどがあり、あらゆる設備が自動化されています』ってなんだかすごそうだな」
「あ、ねぇサトシ、ヒカリ! 『ポケモンに関する施設も充実! 様々なバトルやコンテストも楽しめます』だって!」
「おお! なんだか燃えてきたぜ!」
「ピッカッチュ!」
「よーし! アタシもそのコンテスト出場しちゃうわ!」
「ポチャチャ!」
サトシたち御一行様です。
なんでも、彼ら3人(+ピカチュウ)にポケモン講座をやったらえらく好評で、オレたちがこの世界を離れるまで、ずっと受け続けたいと。
なので、ラルースシティに向かうメンツはJを含むオレたち4人+サトシたち3人+ラルトス・ピカチュウ・ポッチャマとかなりの大所帯となっている。
ヒカリちゃんは一番サトシたちと年が近いためか、あの中にすでに溶け込んでいる。
というか初めて行くラルースシティのガイド本片手に彼らと騒いでいる。
「なんというお祭り騒ぎ」
「でも、にぎやかで楽しいじゃない」
「ですね、子供らしくていいと思いますよ」
隣を歩くシロナさんやJが本当にニコニコとして彼らを見ている。
(まあ、いいことじゃない、見てて飽きないし。わたしたちはあんな風にさわぐ性質(たち)ではないからね)
まあ、ラルトスの話には同意はするんだけども。
「にしてもアレ、すごいですね」
Jさんが話題を変えて振ってくる。
ただ、その話は何度目か。
いや、たしかに驚きなんだけども。
「本当に別人よね」
シロナさんもそれに相槌を打つ。
『いったいだれが?』というとこちらのヒカリちゃんとこの世界のヒカリちゃんがということ。
中身の人間的部分は違くとも外見は同じ、なはずなのにその外見、特に顔が全く異なっている。
どういうことかというと、答えはメタモンのへんしん。
同じ顔では何かと問題もあるだろうということで、こちらの世界のヒカリのママさんが、持っていたメタモンをオレたちの世界のヒカリちゃんの顔にひっつけて、メタモンに『へんしん』してもらって顔だけ別人になってもらっているという。
初めに聞いたときはビックリでしたが、これが意外や意外、よく出来ている。
なので、オレたちがこの世界を離れるまで、オレたちの世界のヒカリちゃんにはそれで過ごしてもらう予定です。
ちなみになんでいきなりこんなことが出来るのか疑問に思い、尋ねてみたら「昔これでよく変装をしていた」のだとか。
これ、帰ったら絶対研究しようと激しく思いました。
「それにしてもラルースシティね。こちらでは聞いたことないわ」
「世界が違えば、同じようでも細部が違うということもあるのでしょうね」
そして何気なく視線をシロナさんの持つガイドブックに落とす。
……ん?
アレ?
これ……
「ごめんなさい、シロナさん! それちょっと貸して!」
「あ、ちょっと!」
「ユウトさん?」
返事も聞かずに、半ばひったくるようにして、それにじっと視線を落とし、突然のことに2人が何か言っているようだが、今は脇に置いておいて読み漁る。
名前にはサッパリ聞き覚えがなかったけど、これは……
「うわっ、マジか」
思わず、口を吐いて出てしまった。
ラルースってここか。
たしかデオキシスの映画のヤツか。
レックウザとデオキシスが暴れて、最後にセキュリティシステムが暴走する……。
映画ではたしかホウエン地方だったはずだが、サトシたちというフラグ、もといトラブルメーカーたちがいるから、ここがシンオウだろうと、なんだかイヤな予感が拭えない。
「はぁ、なんだか前途多難な気がする」
余計なトラブルに巻き込まれないように願うばかりだった。
帰還後、ユウトに『変装』のスキルが加わりました。
そして最後はデオキシス映画のフラグを立ててみましたが、変更する可能性は大いにあり得ます。
そしてヒカリの変装を『この世界のヒカリ』→『ユウト達の世界のヒカリ』に変更しました。
ちなみによこどりはふいうちとの相性がかなり良い技です。
相手攻撃してきそう→ふいうち
相手積みそう→よこどり
という具合で。それからよこどりが決まるとスカッとするのは私だけ?