こんにちは、シロナです。
私は今イッシュ地方サザナミタウンに滞在しています。
ここは輝くようなコバルトブルーの海が広がるサザナミ湾が存在するため、避暑地として有名な町ですが、それ以外にももう一つ、この町を有名たらしめているものがあります。
それはサザナミ湾の海底に沈む『海底遺跡』の存在です。
この海底遺跡。
入り口は東西南北にそれぞれ一つずつあり、そこから内部に進入できるのですが、その内部はかなり複雑な迷路になっていて、一つの階層に一定時間以上いると問答無用で外に押し流されるという摩訶不思議な構造になっています。
で、この遺跡を詳しく調査・解析するためにイッシュ各地から調査団が派遣され、最寄りのサザナミタウンでは、よくこの団体が見かけられます。
実際今日もどこかの調査隊がこの町からサザナミ湾に向かって出発していきました。
実は私も個人的にですが、この遺跡を調査しています。
というのもユウト君にホワイトデーのお返しを貰ったときに、彼に頼まれたからなんです(ちなみにその彼はアロエの博物館やリゾートデザート、18番道路などイッシュ各地を飛び回っていろいろと調べ回っているそうです)。
それにしても……。
彼と知り合って結構な時間も経つし、彼と一緒に、例えば“セレビィのときわたり”のような普通ではなかなか体験出来ないようなことも経験して、普通の知り合いという枠組みでは括りえず、また彼へのアプローチだって事欠いたことはないわけで、言ってしまえば彼とは特別な関係だと自負していますが、彼は私に(というかヒカリにも)まだまだ話していないようなヒミツがたくさんあるのではないかと思う。
そりゃあ人間秘密の一つや二つあって当たり前だし、たとえ親しい人でも言いたくないこともあるのだろうけど、気になるものはやっぱり気になる。
っと、なんだか話がズレてしまったけど、私も組織的ではなく個人的にだけど、海底遺跡の調査をしています。
ただ、おそらく私が一番海底遺跡のナゾに近いとは思ってます。
なぜかというと、調査隊の面々は海底遺跡の一階でウロウロしてその先に進めず、結果、遺跡の仕掛けによって外に押し流されているけど、私は遺跡内部を最上部である第四階層まで上ることが出来てるから。
階を上るにはその階にある暗号を解読してその通りに仕掛けを解いていけばいいのですが、解読した暗号、さらには私が自分で確かめるためにと解読表もユウト君が用意してくれた上、仕掛けを解くために必要な技を覚えたゴルダックをユウト君から借りていたりします。
……この暗号、元が象形文字みたな記号のようなものでハッキリ言ってかなり難読なんだけど、よく彼はこの暗号を解けたなと感心する。
ここからも彼の異常さがわかるのではないかと思います。
ただ、そこから先の暗号の意味成すもの。
正確にいえば暗号の解読は出来たものの解読した文章の内容に理解が難しい部分が含まれていて、そこの部分は彼でも解釈はできなかったそうです。
というか、そこまでされたら私たち考古学者は立つ瀬がありません。
是が非でも彼より先に解き明かすつもりです。
今はイッシュ地方の英雄伝説と“ハルモニア”との関係から探っているのですがなかなか。
とまあそんな感じで毎日意気込んで研究をしているのですが、今日はお休みです。
というより休みにしました。
なぜかというと——
「うん、今日中には確実に孵化しそうね」
ポケモンのタマゴが孵りそうなのです。
このタマゴはホワイトデーのお返しにユウト君から貰ったもので、「ちょっと特別なタマゴだから楽しみにしてください」と言われ今まで連れ歩いていました。
いったいどんなポケモンが孵るのか。
どういう性格と個性を持ったポケモンなのか。
ポケモンのタマゴが孵るとき、彼と出会う前までは前者にばかり気を取られていましたが、それ以後は後者にも目が行くようになりました。
むしろ、どうそのポケモンを育てていくかは後者に掛かっていますね。
何にしても、ポケモンのタマゴが孵るというのは年甲斐もなくドキドキワクワクします(聞けば、キクノさんやクロツグさんもそうなのだそうです)。
「あっ」
気づけば、タマゴが光り輝いたと思ったら、その光が点滅し始めた。
これはいよいよと私はタマゴを持っていそいそと外に出て、地面に置く。
「全員、出てきなさい」
それから、皆への挨拶も兼ね、今私が持ち歩いている手持ちの6体を全て外に出す。
全員、タマゴの存在を知っていて、点滅している様子から、皆注意深くそれを見守っている。
タマゴの点滅の間隔がだんだんと早くなる。
そしてその点滅の間隔がわからなくなるほど光輝いた瞬間、それが爆ぜる。
眩しさから腕で視界を覆うが、それもすぐに治まる。
タマゴから孵ったポケモンは——
*
「どういうこと?」
孵ったポケモンと一通りの挨拶を終えると思わずその疑問が私の口からついた。
ちなみに今、孵ったポケモンは私のポケモンたちが面倒を見てくれている。
「一つは考えが思い浮かぶのだけど……この場合、考えているよりは聞いた方が速そうね」
私はタマゴをくれたユウト君自身に“このこと”について問い質すべく、ライブキャスターを操作した。
するとすぐさま応答があった。
【あ、シロナさん、お久しぶりです】
ライブキャスターの画面が4分割され、その右上にユウト君が表示される。
後ろの様子から、どうやらアロエの博物館にいるようだ。
そして普通なら1対1の場合、画面は2分割になるのだが、今は4分割。
つまり、今このライブキャスターは3人以上と繋がっているのだ。
ちなみに左下の画面は砂嵐になっている。
そして左上の画面には、
【お久しぶりです、シロナさん!】
ヒカリちゃんだった。
地下鉄の案内が見えるから、バトルサブウェイ辺りで何十連勝かしているのかもしれない(地下鉄はイッシュ地方にしか存在しない)。
【それでシロナさん。シロナさんもタマゴから孵ったポケモンのことですか?】
なるほど。
彼の物言いで、“も”ということはヒカリちゃんも私と同じ用件なわけね。
「そうなの。私のタマゴからはロコンが孵ったんだけど、特性が普通とは違うのよね」
きつねポケモンのロコン。
タイプは炎で、特性は『炎技を受けるとダメージは食らわずにこちらの炎技の威力が1.5倍になる』という“もらいび”。
通常特性は1種類のポケモンに対して一つ、乃至(ないし)二つで、ロコン系統の場合は“もらいび”一つしかない。
だけど、このロコンの特性は——
【なるほど。“ひでり”ロコンはシロナさんにいったわけですか。じゃあヒカリちゃんの方には“すいすい”ニョロモかな】
【は、はい】
“すいすい”ニョロモ。
ニョロモって特性は“ちょすい”と“しめりけ”の2種類しかないはず。
私の“ひでり”ロコンのように、なぜそんなニョロモがいるのかしら?
【『隠れ特性』です】
「【隠れ特性?】」
【簡単に言ってしまえば、ポケモンの三つ目の特性のことです】
なんでも彼が言うには、今現在イッシュ地方限定だけど、めざめいしを持たせた状態でタマゴを生むと通常とは違う特性を持った個体が生まれてくるらしい。
その特性のことを隠れ特性というんだとか。
……そういう発見だとかをいったいどうやって見つけてくるのか。
ホントにちょっと小一時間オハナシしてみたくなるわね。
まあそれは置いておくとして。
特性“ひでり”のロコンか。
【あ、ヒカリちゃんのニョロモは“すいすい”でも十分に役に立てるけど、ニョロトノに進化させることをオススメするよ】
【どうしてですか?】
【ん。“すいすい”ニョロモはニョロトノに進化すると特性が“あめふらし”に変化するんだ】
おまけに“あめふらし”ニョロトノですって!?
【2人ならどう育成するかもう見当ついてるよね? じゃ、次にバトルが出来るのを楽しみにしてるから】
そう言ってユウト君とのラインは切れた。
ただ、ヒカリちゃんとはまだ繋がっていて、ライブキャスターが2画面表示になっている。
「まさか“あめふらし”に“ひでり”なんてね」
【はい。どちらもカイオーガ、グラードン専用の特性でしたが、これが使えるとなると……】
どちらも非常に強力な特性であり、これらは天候を変えようとしない限り、その状態は永続する。
……正直ゾクゾクしてくる。
【晴れパと雨パが革新的に変わるかもしれませんね】
場に出すだけで晴れや雨状態になるなら、にほんばれやあまごいをするという工程を省ける。
つまり、その工程を別のものに当てることが出来るのだ。
「バンギ(バンギラス)・カバ(カバルドン)・ノオー(ユキノオー)並ね」
バンギラス・カバルドンは永続的なすなあらしを、ユキノオーは永続的なあられをそれぞれ発生させ、そこから砂パ、霰パの起点にされることが多いポケモン。
砂パ・霰パならば、たとえ一撃で落とされても、それだけでパーティに入れる余地がある。
【はい。特にダブルバトルではものすごく強力ですよ。正直これだけでレギュラー入りもアリですね。じゃあシロナさん、あたしすぐ出かけますね。サブウェイでバトルポイント(BP)貯まったからアイテムと交換して、それからショッピングモールR9で買い物もして、それから——】
とりあえず長くなりそうだから私はそこで切った。
*
さて、このロコンをどう育成するか。
私の脳内では何通りものロコンの育成シミュレーションが急速に構築されていく。
「キュウコンに進化させるのは確実かしらね」
キュウコン
ロコンの進化形。
非常に美しいポケモンで人気が高く、その体毛には不思議な力が宿っているといわれている。
しかし、しっぽをつかむと1000年は呪われ、妖しい光でもって人々の心を操るという、幾分恐ろしい逸話も残っている。
ここまでは図鑑的な特徴だが、育成するとなると特防種族値が100という高さに注目する。
また素早さも種族値100で、“100族”という激戦区ながら、そこそこの素早さもある。
ここからめいそう(特攻・特防1段階アップ)を積んでの特殊受け型がある。
また、おにび(相手をやけど状態にする)を撒いての相手の物理攻撃型を潰すということも出来る(やけどになると攻撃が半減)。
パワースワップ(自分と相手の攻撃・特攻ランクを入れ替える)があるので、相手の積み技を潰すやり方も出来るし、オーバーヒート(使用後特攻2段階ダウン)と組み合わせて流すのもいい。
そこにあまえる(攻撃2段階ダウン)も加えるなんてことも出来なくはないと思うけどそこまでは高望みかしら。
さいみんじゅつやあやしいひかりを使っていく型もある。
ただ、このキュウコン(ロコン)は特性が特性なので特殊攻撃型が最も生きる。
元々わるだくみ(特攻2段階アップ)で特殊アタッカーとしては十分だったものが“ひでり”のおかげでタイプ一致炎技は1.5×1.5=2.25倍、ソーラービームが溜めナシで連射可能と、キモクナーイ(ラグラージ)やぽわぐちょ(トリトドン)、スターミー辺りなら確実に返り討ちに出来るし、わるだくみ+草のジュエル(草技の威力が1.5倍/使用するとなくなる)を持たせればスイクンやブルンゲルみたいな特殊受けのポケモンだって一撃で落とせる。
ピンチになったらいたみわけも使える。
またキュウコンの運用だけでなく、晴れパの起点として“ようりょくそ”や“フラワーギフト”、“サンパワー”などの特性発動も狙いやすい上、私の手持ちのガブリアス、バクフーン、カビゴン、トリトドンとも相性がいい。
バクフーンは炎タイプなので言わずもがな。
ガブリアスとトリトドン、カビゴンについてだけど、晴れパは総じてドラゴンや炎タイプに弱い。
またピンポイントだが、バンギラスにも弱い。
これは、晴れパで特性発動や技の威力強化などの恩恵を受けられるのが、草タイプと炎タイプだけだからだ。
どちらもドラゴンに対して効果は薄いし、草タイプは相手の炎タイプのポケモンや技でアッサリ落ちてしまう可能性がある。
バンギラスはフィールドに出てきただけで天候がすなあらしに変えられてしまう上にソーラービームの威力は半減、岩タイプのバンギラスの特防は1.5倍と相性は最悪。
その点、ガブリアスとトリトドンはじしんやれいとうビームなどでこれらの欠点に対しての対策になる。
カビゴンは特性“あついしぼう”(炎・氷技ダメージ半減)のおかげで草の弱点である炎技と氷技も受けられる上、草が苦手の鋼タイプが出てきたところでだいもんじ辺りを叩きつければそれで相手は沈む。
ちなみにカビゴンは育てるつもりはなかったけれど、ユウト君に6タテされてから育て始めたクチ。
そしてヒカリちゃんやレッド君、グリーン君、シルバー君、ブルーちゃん、コトネちゃんなんかも持ってるから結構流行りなんじゃないかと思ってたりする。
ととと。
話がズレちゃった気もす、ん?
「コーン」
見ると孵ったばかりのあのロコンが私の前でお座りしている。
さらに私の周りにはロコンの面倒を見てくれていただろう皆がいた。
ひょっとして、結構時間が経ってたのかと思いつつも、私は座り込んで徐に両手を差し出すと、ロコンが私の胸の中に飛び込んできた。
「コーン♪」
喜色満面の笑みを浮かべてとても喜んでくれている。
そのままロコンを私の目線の高さまで持ち上げる。
「これからよろしくね、ロコン」
「コーン!」
よく彼が言っていた。
『戦略を練るには自分のポケモンのことをよく知らなければなりません。そして自分のポケモンをよく知るには愛情を持って接しないとポケモンも自らをさらけ出したりはしません』
この子は生まれたばかりで私はこの子のことを知らない、この子も私のことを知らない。
育成云々というのは後にしよう。
まずはこの子のことを詳しく知らないとどうにもならない。
そう思った私はそれまでの思考を頭の中から蹴り飛ばした。
目標があれば人は努力できる。ゲームのように毎日遊んでるばかり(?)のシロナさんではありません
かくれ特性を登場させました(ちなみに夢特性は通称です)。その際めざめいしを持たせてタマゴを産ませるという簡素な設定(PDWを登場させるのはちょっと……)。原作でもこんな感じだったらありがたかったのに。(時間軸的な)これ以後、夢特性も登場します。
バトルポイント(BP)については次話で詳しい話が出てくるので、そのときに。
キモクナーイとぽわぐちょについては「どうしても入れたかった、ただそれだけ」といった感じですw おんみょ〜んやモエルーワ、バリバリダーもいずれ出せたらいいなと夢想しております(笑)。それにしても「バリバリダー!」と「ババリバリッシュ!」、「モエルーワ!」と「ンバーニンガガッ!」はどちらが正しい鳴き声なんだろうかと。