「それはアレかしら。私のガブリアスを倒すのにボーマンダは不要だとでも」
ん〜、ちょっと、というかかなり不機嫌なシロナさん。
さっきまではこの状況まで追い込まれたことに対する悔しさが見てとれましたが、今は怒りの方がはっきり見て取れます。
まあ、端的に言えばそうなりますが、それは言いません。
「これからやろうとしていることにボーマンダはいないほうがいいかと思ったんです」
適当、というわけでもないけどそう濁す。
ちなみにウソは言ってませんよ?
「……へぇ、いいわ。私にとっては2VS1が1VS1になったんだから、状況が好転することに変わりはないんだものね」
あー……ごめん。
たぶんシロナさんは詰んでるじゃないかと思うんだけどなぁ。
まあ見てからのお楽しみということで。
*
「ガブリアス、つるぎまいよ!」
シロナさんはほぼ詰みなので、別につるぎのまいを邪魔することなく、好きにしてもらいました。
とりあえずこれで、ガブリアスの攻撃は3段階アップですかね。
ちなみにあのガブリアスは♀なのでメロメロ(相手を『メロメロ(50%の確率で相手は自分に攻撃できなくなる)』状態にする)もゆうわく(相手の特攻を2段階下げる)も効きません。
「ラルトス、でんじは」
ラルトスがでんじはを放つが、当たり前な話だけど、ガブリアスには効きません。
しかし、これで全ての準備は整った。
「ガブリアス、ギガインパクト!」
「ガァーヴーーー!」
おそろしいまでに攻撃の上がったガブリアスのギガインパクト。
まるで彗星の尾のごとく、オレンジの光を垂れ流しつつ、ラルトスに迫ってくるが——
「ラルトス」
「(わかってるわ)」
残念ながらその一撃が届くことはなかった。
*
レッドやシロナだけではない。
「こ、これはいったい!?」
「なによ、これ!?」
この場内にいる全ての人間が驚愕に包まれた。
彼らの視線の先にあるもの。
それは——
「……黒い……何か……?」
「ガス? いえ、でもならなぜ——?」
ガブリアスの足首に何やら黒いモヤのような“ナニカ”が纏わりついていた。
「ガブリアス、振り払える!?」
シロナの呼びかけにガブリアスも自身の足元に絡まる“それ”から脱出しようと懸命だったが、“それ”は一向に外れる気配を見せなかった。
「“それ”がいったいなにか」
ただ一人だけ“それ”の正体を知るであろう人物の口許が動く。
「“それ”がいったいなんなのか、少々解説しましょう」
*
「“それ”が何かを知るにはナナシマ地方の成り立ちを簡単にでも知る必要があります」
ナナシマ地方はカントー地方の南に浮かぶ島々の総称。
なぜ、どうやって、この島々が形成されたのかを考えてみましょうか。
ゲームではナナシマ地方のモデルとなったのは伊豆諸島、小笠原諸島。
この2つの成り立ちに共通するものがあります。
それは——
——火山
伊豆諸島、小笠原諸島も火山活動の結果、一部が海面より高くなり出来上がりました。
モデルになったものがそのようにして出来上がったので、当然、ナナシマ地方も同じようにして出来上がったわけです。
「事実ナナシマ地方の“1の島”と呼ばれる島では今でも火山が活動している状態(活火山)であり、火山の地熱を利用した温泉もあったりします」
他の島は休火山か死火山のようで、ゴツゴツとした岩肌に覆われている部分が多いが、それらは溶岩が冷えて固まったものであるということも容易に推測できたりします(実際にゲームでもゴツゴツとした進入不可の岩の地形が他と比べると非常に多いです)。
さて、火山があるということはマグマに由来する火成岩が存在します。
その中で火山岩(マグマが急激に冷えて固まったもの)である流紋岩、深成岩(マグマがゆっくり冷えて固まったもの)である花崗岩がありますが、この二つが存在する個所にはあるものが大量に存在していたりします。
いったいそれはなんなのか。
「答えは砂鉄です」
砂鉄自体は正直アスファルトじゃない限りどこにでもありますが、ナナシマは元々火山なので、それらが大量に存在しています(ちなみに花崗岩の生成には水が必要なので、周りが海のナナシマは他と比べて特にそれが多い)。
「カトレアちゃん、このフィールド、わざわざよそから土を運びこんだんじゃなくて、この別荘を立てる際に掘り返した土や砂を使って造ったんでしょ?」
「え、ええ。そう聞いておりますわ」
「つまり、このフィールドにはナナシマ由来の砂鉄が多く含まれているんです」
岩なんかは海水や風雨なんかで、時間の経過と共に容易に風化されて、砂やあるいは土の中に溶け込みますから、結果砂鉄の多い土壌が出来上がるわけです。
で、オレがやったことは、そこにハイドロポンプで水(純水ではないので伝導率は良い)をばらまき、10万ボルトでフィールドに電気を通して砂鉄に帯電させ、それをでんじはとサイコキネシスであやつるということ。
「だから、電気タイプのピカチュウを退場させたんです、でんじはで砂鉄の制御を狂わされないために」
本当ならでんじはだけで出来たかもしれないが、念には念を、というヤツです。
しかし、これでガブリアスの勝ちはおそらくなくなりました。
なにせ、ガブリアスが今足をつけているフィールドは文字通り、ガブリアスにとって“敵”となったのです。
「ガブリアス、はかいこうせん!」
外せない足枷のおかげで物理攻撃が出来ないのなら特殊攻撃で、ということのようですが、
「ラルトス、サイコキネシス」
そういえばですが、この世界のはかいこうせんは反動はない様ですが、撃つ前のパワー集中にやや時間がかかるようになってます。
パワフルハーブ持ちならパワー集中の時間すらなく撃てるようです。
「はかいこうせん、発射!」
さて、ガブリアスの大口から放たれたはかいこうせんがラルトスに迫るのですが、
グ、グイ
無理やり変な力がかかったかのように照準から外れていきます。
まっすぐ進んでるときって横方向からの力には弱いですからね(10円玉が転がっている最中に横から押すとアッサリと倒れますよね)。
(いいぞ、ラルトス。そのままはね返せ)
そうしてラルトスのサイコキネシスで方向を曲げていき、ついにはガブリアス自体に向かって直進するような格好となる。
「なんだって……!」
「くっ! ガブリアス! だいもんじで撃墜させなさい!」
だいもんじで相殺ねらいか。
だけどそれってうまくいくかな?
「ラルトス、でんじは!」
だいもんじが放たれた瞬間、ガブリアスの前方に砂鉄の壁が現れる。
「なんですって!?」
だいもんじは砂鉄の壁を溶かしきることには成功したが、残ったのはひのこにも劣る程度の炎、というよりもただの“火”。
当然それはガブリアス自身が放ったはかいこうせんを相殺するほどにはならず、結果、自ら放った技に自ら食らうということになりました。
まもるの方にすればダメージを食らうことにはならなかったんだけど、常のバトルとは明らかに違う状況にやっぱり動揺してたのかな。
で、ガブリアスの方は両腕を交差させてサメのひれみたいなところで防ぎきったみたいです。
「こうなったら! ガブリアス、りゅうせいぐん!」
「ガァーー!」
身体の中心にエネルギーが集まり
「ガヴーーー!」
口から宙に向かって一つの光球が発射される。
そしてそれは、そこで停止すると、数え切れないほどの光球に分裂。
それらが一斉にラルトスに向かって降り注ぐ。
「でんじは」
だが、ラルトスはフィールド上のほぼすべての砂鉄をでんじはでかき集め、壁を一重にも二重にもつくりだす。
その直後に、りゅうせいぐんが降り注ぎ始めました。
「くっ! なんて硬いの!」
「……もはやあのラルトスは別次元……」
壁に阻まれて向こう側が一切見えないのだが、二人のそんな声が聞こえてきます。
実際、フィールドに降り注いだりゅうせいぐんはその威力に見合った大穴を形成しているが、この砂鉄の壁に直撃したものは、壁は少しは削るものの、そこにまた新たな砂鉄が入り込むか、あるいは崩れた砂鉄がまた入り込むため、結果的にはまるでその壁を削り切るには至っていません。
「ラルトス、壁を解除して、そのままガブリアスを拘束しろ。それからみらいよち」
りゅうせいぐんの終わりを見計らってでんじはで、今度はガブリアスの体に纏いつかせるように指示をする。
砂鉄は岸辺に迫る高波のごとく、ガブリアスに押し寄せると、両脚、両腕、尻尾、胴体、口とまきつき、それがフィールドに存在する砂鉄と連動して完全にガブリアスを縫い止めることに成功しました。
「ガブリアス! まもる!」
「もう遅いです! ラルトス、こごえるかぜ!」
みらいよちは時間差攻撃のため、先にこごえるかぜの方が決まる。
ガブリアスの方はまもるも発動させることも叶わず、効果抜群のこごえるかぜが直撃。
さらに、そこにみらいよちが発動。
身動きの一切取れないガブリアスがそれを避けられないことなどは言うに及ばず——
「ガブリアス、戦闘不能!」
2m近くの巨体は地に横たえ——
「レッド様、シロナ様、共にすべてのポケモンを失いました! よって、勝者は“全国チャンピオン”ユウト様です!」
ちなみに、ガブリアスが、拘束される前にほえるやいばるをしてれば、また違う様相を呈していたことには後になって気がつきました。
まあ、さっさと全身を拘束すればよかったなと反省しました。
*
夜
ただいま立食形式のパーティーが行われています。
“名目”の方もちゃんとやらなきゃねということで。
ちなみにバトルの方は、さすがに全員とはいかないまでも、かなりの人数とはこなしました。
正直精神的にはヘトヘトです。
「と、言いつつ随分と平皿に大盛に乗せていることね」
「まったく。食い意地が張っているというかなんというか」
「ハルカさん、ユウキさん、久しぶり!」
ハルカさんはホウエンのジムリーダーセンリさんの娘で、今ではミクリさんと同じく「コンテストに出場=優勝する」と言われるほどの、頭に『超』という言葉がつくくらいのトップコーディネーターです。
ユウキさんはオダマキ博士の息子さんで、父と同じく研究者となりました。
尤もバトルの方もかなり強く、二人ともチャンピオンリーグで上位に食い込めそうなほどの腕前です。
「ねえねえ、わたしってばまたポロックとポケモンの組み合わせを発見したのかも〜」
ああ、そういえばそんなこともありましたね。
コンテスト出場ということで、ポロックやポフィンの味とポケモンの性格の組み合わせ、それから技の効果やアクセサリーとそのテーマ、『かっこよさ』『かわいさ』『うつくしさ』などの要素を説明したこともあったりしたんです。
一応ゲームの方ではトレーナーカードのグレードを上げるため、一時期コンテストも頑張ってたのでそのとき取った杵柄で。
ただ、なかなかマスターで勝てなくて途中であきらめてしまいましたが。
ですので、バトルほどの知識はなかったわけで相当中途半端なものとなってしまいましたが、それでもハルカさんはいたく感激したらしく、それを実践しているそうです。
この世界のコンテストは、ゲームオンリーかと思えばアニメの方のコンテストが行われているなど、統一性がなく採点基準もよくわからないため、いまいちピンとこないのですが、もし優勝に一役買ってるのだとしたら嬉しいかぎりですね。
「ところでこれからユウトはどうするんだ?」
これから、ね。
そうだなぁ……。
「ロケット団」
「「は?」」
「アクア団、マグマ団、ギンガ団」
「そんな壊滅した組織なんて挙げてどうするの?」
「じゃあ、プラズマ団」
「「プラズマ団?」」
ロケット団はレッドさんたちやゴールドさんたち、アクア団とマグマ団はこの二人とダイゴさん、ギンガ団はオレとヒカリちゃんとシロナさんで壊滅させたことを知っている二人ですが、プラズマ団というのは聞いたことがない様子。
「プラズマ団っていうのはイッシュ地方に存在するロケット団みたいな組織です。尤も、ロケット団とは少し方向性が違っていて、宗教じみたことで人心を操るだとか、古代の“最強”のポケモンを改造して誕生させるだとか、とりあえず危険な連中であることに変わりはありません」
「……で、そのプラズマ団がいったいどうしたんだい?」
「活動が随分と活発になってきたようです。近々大々的に動き出す可能性も」
少し前、ノズパスの卵を受け取りに行った際ですが、結構いたるところでプラズマ団に出くわしました。
ゲーチスら七賢人たちが活発に動き出している、ということなのでしょう。
プラズマ団に支配されるわけにもいかないので、しばらくイッシュに滞在し、情勢を見届けるつもりです。
オレが出しゃばらずとも英雄候補はきちんといるわけですからね。
まあ、手を出すことも吝かではありませんが。
さらにいえばアララギ博士にもお呼ばれされているので、プラズマ団の件がなくともイッシュには行く予定でしたが。
「まあ、何かあったら、わたしたちに声かけなさいよね。そうすればわたしたちはいつでも応援に駆けつけるかもだから」
「ハルカ、毎度言うようだけど、その言い回しだと知らない人には誤解を与えるからやめた方がいいって」
「にゃはは、口癖だからつい……。なかなか直らないかも?」
「ハァ〜」
なかなか、苦労してるようですね、ユウキさん。
まあ、彼氏の甲斐性を見せてください。
「さって、お! あっちに料理が追加されてる。GO!」
旅してるとこんな立派な料理はなかなか食べられませんからね。
その後、なんだかんだで全員と言葉をかわして夜は更けていったのでした。
ビミョーにアヤシイ知識が出てきました。一応きちんと調べて書き上げたものですが、「ここおかしいよ」といったものがあれば教えていただけると助かります。ただ、変更できるかといわれるとなかなか難しい次第なので、その点につきましてはご了承願います。
そして何気に第3世代主人公ハルカ、ユウキ初登場。この二人は作中にもあるようにリーグの方とは違う方面で活躍しています。ちなみにコンテストにはあまり触れていかない方向です。
で、一応この話がイッシュとのつなぎの話になります。『プラズマ団に改造された』云々は公式設定から持ってきました。これにロケット団が絡んでくるようですが、どういう風に絡んでくるのか、完全版が楽しみです(クリア後にロケット団のBGMがゲーフリで聞けるのはそのためなんだと勝手に解釈してます)。尤も、この部分は削除する破目になるかもしれませんのであしからず。
この話はホントはもっと後にアップしたかったのですが、これの前の話が出来ず、こちらが先に、という格好になってしまいました。いずれ、前の話が出来れば、記事の入れ替えを行う予定です。