それから主人公のユウトについて軽く補足説明をば。
ユウトは本編内では、カントー以外の地方ではチャンピオンまで上り詰めました。またカントーについても、1度目はレッドに大敗を喫してしまいましたが、次に対戦したときには圧倒的な勝利を収めてチャンピオンとなります(すぐ辞退していますが)。それ以後は誰も彼に勝つことは出来ておらず、いつしか“全国チャンピオン”だなんて呼ばれるようになりました。そんなわけで彼の親しい仲間内では「さあ、そんな彼に最初に土をつけるのは誰だ!?」という一種の競争みたくなっていたりします。
また一般には『チャンピオンになってからは負け知らず』というような認識が広まっています。噂話みたく尾ひれがついたといった格好です。
ナナシマ地方5の島の北方、通称『みずのめいろ』という道路を抜けた先。
そこにはゴージャスリゾートという、云わばセレブ御用達のリゾート別荘地がある。
お金持ちの別荘なので、何から何まで他のところとは違い、調度品一つ取ってみても、他のそれとはケタが一つ、場合によっては二つ以上異なる金額が掛けられていたりもする。
さて、そんな別荘が乱立するリゾートの中に一際目立つ、別荘というよりはむしろ屋敷と言い換えてもおかしくはない装いを見せるそれがあった。
そして、その“屋敷”のゲートの前に燕尾服で身を包む一人の男性がいた。
彼はこの屋敷に訪れることになっている最後の客人を待っていたのだ。
しばらくすると晴れ渡っていた空に黒い点がぽつんと一つ現れた。
それはだんだんと大きさを増していく。
彼は確信した。
ようやく待ち人が来たのだと。
そして、その最後の一人が、今ようやっと、ボーマンダに乗って、ここに降り立った。
待ちわびた客人たちの到着に彼はその名を呼んで出迎えをする。
「ようこそ、おいでくださいました、ユウト様、ラルトス、ボーマンダも」
「いえ、遅れてしまい、スミマセン、コクランさん」
「ル〜ラルラ〜」
「マンダー」
男性の名はコクラン。
イッシュ地方のとある大富豪の家で執事を勤めている人間である。
そしてジョウトバトルフロンティアバトルキャッスルのフロンティアブレーンという顔も併せ持っていた。
「皆さんもう来てるんですか?」
「はい。ユウト様以外の皆様は全員お揃いですよ」
「うーん、しまった。また遅刻か。まーた、シロナさんとかシルバーとかになんか言われそうだ」
「主役は常に遅れて来るものですよ。では、参りましょうか」
ユウトはコクランの先導に従い、屋敷の敷地内に姿を消した。
*
どーも。
主人公なのに外伝にはコトネよりも後に初登場したユウトです。
今回はイッシュ地方でカトレアちゃん(年下)が四天王への就任が決まったので、そのお祝いのパーティーをしようという“名目”で、このゴージャスリゾートにあるカトレアちゃんの別荘にお呼ばれしました。
ちなみにカトレアちゃん家って世界的な大富豪らしく、それこそ世界中に別荘があるんだそうです。
で、さっき“名目”っていう風に強調したのは——
「ユウト、今日こそボクがキミのことを負かせてみせる!」
「いんや、俺が初勝利をもぎ取るぜ!」
という風にオレから何とか初勝利をもぎ取ろうと、知り合いが大勢(全員?)オレにバトルを挑んでくるんです(ちなみにカトレアちゃんの別荘には必ずバトルフィールドがあるので、こういうことも可能なんです)。
ただ今日は何やら様子が違ってました。
「悪いけど、今日の一番手は私よ」
アルセウスと始まりの神話についての研究で、考古学者としても著名。
長い金糸のような髪を持ち、黒のロングコートがトレードマークの女性。
その女性の名は
シンオウ地方チャンピオンマスター、シロナ
「……それから僕です……」
口数が少ないのが玉に瑕だが、史上最年少でチャンピオンの座を獲得し、“最強のチャンピオンマスター”とも呼ばれた少年。
赤い帽子がトレードマーク。
その少年の名は
カントー地方チャンピオンマスター、レッド
「私たち2人とダブルバトルで勝負よ!」
「僕たち2人とダブルバトルで勝負だ!」
*
「では、ルールを確認します!」
審判はコクランさんが務めるみたいです(尤も、彼もオレとのバトルを望む一人ですが)。
そして他の連中は観覧席の方で見物をしています。
「シロナ様、レッド様の使用ポケモンは3体ずつ、一方ユウト様の使用ポケモンは6体で、擬似的な6on6のフルバトル形式になります! ポケモンに道具を持たせることが出来ます! ポケモンの交代はありとします! ポケモン、道具の重複は認めません! 以上です!」
大体が現実のダブルバトルと同じルールですね。
ん?
6体?
「(わたしやボーマンダも出てもいいのかしら?)」
「どうなんだろうな」
その辺を聞いてみると
「もちろんよ」
「……あの2体を倒さないと本当に君に勝ったことにはならない……」
ということです。
しかし、ダブルバトルか。
今の手持ちは……——
まぁ、若干不安はあるけどなんとかなるかな。
「それでは双方、準備はよろしいですか?」
最初に繰り出す2体が入っているボールを二つ手に収める。
「では、バトルスタート!」
そのかけ声と共に、宙に向かってその二つのボールを放り投げた。
*
どよめきが場内に広がる。
レッドさんの1体目がリザードン、シロナさんの1体目がルカリオ。
どちらも二人のパーティの中でエース級の実力を持っている。
一方オレのポケモンは、
「……カゲボウズにノズパス……」
レッドさんの言うとおり、カゲボウズにノズパスというちょっとどころかかなりマイナーと思われるポケモンたちです。
カゲボウズはジュペッタの進化前でジュペッタ自体が他のゴーストタイプのポケモンの劣化になりやすく、なかなか活かしづらいポケモンだったりするため、バトルで見かけることは、現実の方では、あまりありません。
また、ノズパスもホウエンのジムリーダーツツジさんが使う以外はあまり見かけないポケモンだったりします。
ただ、このノズパス、実はちょっとヒミツがあるんですよね〜。
「まずはノズパス、ロックカット! カゲボウズはじこあんじ!」
ロックカットで素早さが2段階アップしたノズパスをじこあんじさせたので、これでカゲボウズも素早さが2段階上がり、この4体の中で一番速くなりました。
「まずは1体ずつ葬り去るわよ! ルカリオ、ノズパスにはどうだん!」
「リザードンはりゅうのまいの後、ノズパスにはがねのつばさ!」
しかし、リザードンがりゅうのまいをしたおかげでリザードンの素早さが1段階上がってカゲボウズの素早さを抜き去って1番速くなったため、その素早さを生かして、たとえはどうだんに出遅れていようとすぐさま追いついてきました。
「(定石ね)」
「ああ」
ラルトスの言うとおり、ダブルバトルで、1体を集中して攻撃することは有効であり、よくある手でもあります。
「カゲボウズ、はどうだんの弾道に立ちふさがれ! ノズパスはリザードンにでんじは!」
「かえんほうしゃで撃墜!」
格闘タイプのはどうだんはゴーストタイプには効かないため、カゲボウズがルカリオのはどうだんを無効化。
そしてリザードンのかえんほうしゃとノズパスのでんじはが衝突し合うが、
「相っ変わらずレベルが高いリザードンだなぁ」
かえんほうしゃはでんじはをいとも容易く無効化。
というより、圧倒的な火力で拮抗することなく、アッサリ押し切ったと言い換えた方がよかった。
「ノズパス、避けろ!」
「はがねのつばさで追撃!」
「ルカリオはカゲボウズにシャドーボール!」
ノズパスがかえんほうしゃをかわした先にリザードンのはがねのつばさが、そしてルカリオのシャドーボールがカゲボウズに迫る。
「カゲボウズはまもるでルカリオを引きつけろ! ノズパスはルカリオに——!」
そうして、シャドーボール、はがねのつばさがカゲボウズやノズパスに直撃した。
*
「……なぜ?」
「鋼タイプのはがねのつばさは岩タイプのノズパスには効果抜群のハズよ。それに、リザードンはりゅうのまいで攻撃と素早さが1.5倍になった上に、そのノズパスはリザードンに比べれば、でんじはの出来から、相当レベルは低いハズ。なんで落ちてないわけ?」
二人の言うとおり、リザードンのはがねのつばさはノズパスに対してクリーンヒットしましたが、かろうじてノズパスはまだダウンするに至ってはいません。
「このノズパスは特別なんですよね」
「……特別?」
「そう。このノズパスはイッシュ地方で生まれたんです」
「イッシュ地方で生まれたからなんだと仰るのでしょうか」
おおう、ここで今日の集まりの名目の人物で、イッシュ四天王になったカトレアちゃんが話題に入ってきましたよ。
まあ、この場にはカトレアちゃん以外、イッシュに関わりのある人間はいないので、全体への説明を兼ねるとしますか。
シロナさんやヒカリちゃんにはイッシュ地方での知識については説明してなかったから、シンジ君やジュン君たちにも伝わってはいないはずだしね。
「カトレアちゃんはイッシュ地方の四天王なんだから知っとかないとマズイな。ノズパスの特性は?」
「“がんじょう”ですわ」
「そう、“がんじょう”だ。ただ“がんじょう”はイッシュ地方だと『一撃必殺技は効かない』の他に『HPが満タンならダウンしそうな攻撃を食らっても必ずHPが1残る』っていう、いわば常時気合いのタスキ所持って効果もあるんだ」
「そうだったのですか!?」
「……それは厄介」
「ホンット。レッド君の言うとおりね。でも、もうそれも使えないわ。ノズパスの体力は残りほんの僅かしかないんだから」
うん、たしかにはがねのつばさを食らった段階でノズパスの体力は殆どなかったんだけど——
「ところで、実を言うと、このノズパスってまだ孵化したばっかりなんですよね〜」
!!!
オレの言葉によって場内が衝撃に包まれたのが、手に取るように伝わってきた。
まあ、驚くのもムリはないですね。
ここにいるみんなはそれこそ自分たちのポケモンを、そこらにいるトレーナーとは比べようもないほど鍛え上げてきたのだ。
それに孵化したばかりのロクに鍛えていないポケモンをバトルに出すのは自分から負けにいくようなものと思ったのでしょう。
しかし、戦略をキチンと立てれば、たとえ二人の切り札のピカチュウやガブリアスであろうと、勝つことは不可能ではないのよん♪
「で、残念ながらシロナさんの目論見はハズレです。今ノズパスの体力は満タンだったりします」
「な、なぜ!?」
「“いたみわけ”ですよ」
“いたみわけ”
使ったポケモンと使われたポケモンの現在の体力を足して半分に分け合うという技。
「シロナさんの読み通り、このノズパスは生まれたばかりで経験は浅いです。しかし、それが逆に今回は良い方向に働いた」
レベルが低いということは体力が元々少ないということ。
つまり、いたみわけで体力を半分に分かち合っても最大HPが低ければ十分体力は満タンまでもっていけるのです。
「つまり、今のオレのノズパスはいたみわけをし続ける限り、常時気合いのタスキ所持という関係とイコール、ということになります」
シングルバトルなら『真・“がんじょう”無双 Empires』ちっくなことを考えていたんですけど、ダブルならもうこの手は使えません。
ということで、次の戦法に参りましょう。
奏功している内に、シャドーボールとまもるの衝突の影響で発生した白煙は既に収束していました。
どうせならこの場にいる全員への解説を、時間稼ぎの意味を込めつつ(聞いてる間は命令してこないので)、行いましょうか。
「さて、ダブルバトルで有効な戦法はいくつかあります」
ちなみにカゲボウズには効果抜群のシャドーボールでも、まもるで防ぎきったカゲボウズにはキズ一つ存在していませんでした。
「まず前提として、ダブルバトルにおいては“まもる”という技は必要不可欠の存在なんです」
ダブルバトルでは地震やなみのり、ほうでんなどの範囲攻撃技は使ったポケモン以外は、たとえ自分たち側であろうとダメージを受けるものもある。
また、ダブルバトルでは1体に集中攻撃をされる場合もある。
ダブルバトルでは後者の理由もあり、“受け(ゲームにおいては4発以上そのポケモンが攻撃を受け続けても倒れない)”は成り立たないので、『(様々な)攻撃を防ぐ』という意味で“まもる”という技は必須なのだ。
「なら、その必要不可欠な技を使えなくすることは十分に有効な戦法でしょう。ということでカゲボウズ、ふういん!」
そしてカゲボウズが覚えている技が使用不可になる。
「さらにもう一つ付け加えるなら、ふういんとゴーストタイプとの組み合わせで使われる最もポピュラーな技」
“だいばくはつ”
そうしてノズパスのだいばくはつが決まった。
場内を凄まじい衝撃波が駆け抜け、粉塵が巻き上がるのだが、それも止み、フィールドを見渡すと——
そして(言い忘れてましたけどカゲボウズの特性“おみとおし”により)リザードンもルカリオも気合いのタスキを持ってはいなかったようなので(尤も、あの二人ならこの2体に気合いのタスキを持たせるなんてありえないけど)——
「リ、リザードン、ノズパス、戦闘不能!」
だいばくはつは相手の防御を半分貫通する自爆攻撃技にして最大威力の技。
ダブルバトルでその威力が弱体化することもあるといえど(ダブルバトルでは範囲攻撃技は技の威力が3/4になるが、だいばくはつは攻撃対象が2体しかいない場合はダメージが3/4にならない)、その驚異度は変わらない。
「おまけにだいばくはつはノーマルタイプだから、ゴーストタイプには無効」
というわけでフィールド上のカゲボウズ以外のポケモンはキレイに消し去ってしまうつもりでしたが——
「“みきり”ですね?」
「当たりよ。ホンット、ギリギリで思いついたんだけどね」
“みきり”
効果はまもると同じで、相手の攻撃を完全に防ぐ技。
ただ、みきりはまもるやこらえると違って技マシンがない上、覚えるポケモンの数も少ないため、ふういんにはほぼ間違いなく引っかからない、防御技として、完全にまもるやこらえるの上位互換技。
ルカリオはそのみきりを使える。
カゲボウズはみきりを覚えないので、ルカリオは今のだいばくはつをみきりで防ぐことが出来たのだ。
さて、今シロナさん以外は手持ちが1体減った状態。
ならば、シロナさんにも公平に1体減らしてもらいましょうかね。
「いけ、カメックス!」
「クロバット、キミに決めた!」
うまく釣れてくれるとありがたいんだけどね〜。
特性“おみとおし”は繰り出したときに相手の持ち物がわかるという効果です。