「行け、ドラピオン!」
「がんばって、ポッチャマ!」
『シンジ選手、2体目のポケモンはドラピオン! ヒカリ選手、2体目のポケモンはポッチャマです!』
「フン、未進化のポッチャマなんかにオレのドラピオンはやられない! ドラピオン、じしんだ!」
「ポッチャマ、真下に向かってハイドロポンプ!」
するとハイドロポンプの水の勢いによって宙に飛び上がる。
浮かび上がれば、じしんなど効果はない。
『ドラピオン、両前足をフィールドに叩きつけたことによってじしんが発生! しかし、ヒカリ選手、ポッチャマに地面に向かってハイドロポンプを指示したことによってポッチャマは空中に回避! それにしてもポッチャマがハイドロポンプを覚えているとはすごい!』
「ちっ!」
「進化してないからってあまく見ないでよね?」
「なら、これならどうだ! ドラピオン、シャドーボール!」
ドラピオンの特攻はそんなに高くない。
なら、
「ポッチャマ、そのままれいとうビーム!」
すると、ハイドロポンプがそのまま、岩のフィールドにそびえ立つ氷柱に早変わりした。
「ポッチャマ、その影に隠れなさい!」
「なんだと!?」
そしてシャドーボールが氷柱に激突。
『これはすごい! ヒカリ選手、れいとうビームでハイドロポンプを氷の柱に変え、シャドーボールを防御した!』
氷柱はヒビこそ入っているものの完全には壊れていなかった。
「ポッチャマ、氷の柱に向かってずつき!」
「ポッチャマー!」
するとヒビの入った氷柱は完全に壊れ、かつ、ずつきの勢いに乗り、破片がドラピオンに向かって飛んでいく。
「避けろ、ドラピオン!」
氷の破片を避けようとしてイヤイヤと首を振ってはいるものの、それらは容赦なくドラピオンに直撃していく。
『こっ、これは! ずつきによって氷の破片がドラピオンに直撃しています! これは、疑似的なこおりのつぶてといっても過言ではないでしょう! ドラピオン、避けようとしていますが、その巨体ゆえに、逃げ切れません! かなり苦しそうだ! 相当効いているようです!』
「なら、ドラピオン! ミサイルばりで撃ち落とせ!」
「ドォォラァーー!」
目に活の入ったっぽいドラピオンが尻尾と頭の両脇から生えている腕のカマから放ったミサイルばり。
『ドラピオンのミサイルばりが疑似こおりのつぶてを叩き落していきます! なんて強いミサイルばりだァ!』
しかも、行く手を阻む岩を岩ごと簡単に粉砕する。
とんでもない威力のミサイルばりだ。
「ポッチャマ、アクアジェットタイプB!」
「ポッチャマー!」
ポッチャマは地面に寝そべりグルグル回転しながら、水を纏ってアクアジェットを行う。
すると、水の渦、いや竜巻がいくつも巻き起こり、それが不規則にウニョウニョと動くため、それに当たったミサイルばりは撃墜されていく。
「!? こんなことがあってたまるか!?」
シンジの驚きの声が響き渡る。
『こっ、これはいったい!? ヒカリ選手、ポッチャマにアクアジェットを指示しました! しかし! しかし、これが本当にアクアジェットなのでしょうか!? 私にはまるで別の技のようにすら思えてしまいます! と、とにかく、ポッチャマが発生させた水の竜巻によってフィールドの岩をも砕くミサイルばりがどんどん撃墜されていきます! ミサイルばりは一つもポッチャマには届いていない! 恐るべき水の竜巻の壁!!』
「ならば、ミサイルばり以上の威力の技であの壁を粉砕すればいい! ドラピオン、クロスポイズン!」
「ポッチャマ、ストップ! うずしおよ!」
アクアジェットをやめたポッチャマはすぐさま起き上がり、口を上に向けて頭上にすり鉢状に渦を巻いたうずしおを完成させる。
「ドォォラァーー!」
「ポッチャマー!」
両腕のカマを交差させ発生させたクロスポイズンとうずしおが激突する。
「もう一度、クロスポイズン!」
拮抗し合うクロスポイズンとうずしおを打ち破るため、シンジはクロスポイズンを指示。
「! そうだわ! これはいける! ポッチャマ、うずしおに向かってふぶきよ!」
「ポッチャマー!」
あたしはポッチャマのふぶきでうずしおを凍らせて、うずしお自体の耐久力をあげさせる。
『シンジ選手、ドラピオンに2発目のクロスポイズンを指示! 一方ヒカリ選手はふぶきでうずしおを凍らせます! おおっと! 2発目のクロスポイズンがうずしおに直撃ィ! 衝撃で水煙がフィールド全体を覆っていきます! こちらからは煙で視界が見えなくなってしまいました!』
「ポッチャマ、今よ!」
「ポチャ!」
ポッチャマはアクアジェットで水煙の中に消えていった。
*
「それにしてもすごい勝負じゃのう」
「ええ。さすがはユウトの弟子ってところですかね」
「うむ、これで、この地方のポケモンバトルも面白くなるじゃろうて」
タマランゼ会長は、ユウト君が現れてから、ポケモンバトルは奥の深さが増して大変面白くなったと上機嫌だった。
ダイゴもそれに同意している。
今までは、ただの技と技のぶつかり合いみたいなものだったから、それを何度も見ていれば、飽き飽きとしてくるのだろう。
しかし、これからは違う。
一戦一戦がトレーナーの戦略、知識、読み、駆け引きといったものが試される。
まるっきり同じ対戦には2度とお目にかかれないから、一戦一戦がおもしろいモノとなる。
でも、毎日対戦をチャンピオンとして観戦し、さらに夜には学会で発表するための論文を仕上げている最中だから、若干眠い。
あくびが出そうになるけど、会長の前だからかみ殺すし、か……——
そう言えばヒカリちゃんのポッチャマってたしか——
しかもこの状況なら——
「今のハイドロポンプやれいとうビーム、アクアジェットだって、攻撃技ですけど、使い方と工夫次第であのような戦法も出来るのですから。正直、ホウエンチャンピオンとしてもこの対戦は見るべきものがありますね」
「じゃが、シンジ君とやらのポケモンもすごいのう。こりゃあまだまだわからんぞい?」
「……いえ、たぶん、この対戦はすぐ終わりに向かうと思いますよ」
「「ハッ?」」
私の言葉に思わず、タマランゼ会長とダイゴは同じ言葉を同時にハミングしていた。
*
『水煙が晴れて来ました! ポッチャマ、ドラピオン、両者どのようなことになっているのか!』
水煙が晴れたそこには——
『おーっと! ポッチャマがドラピオンのカマに捕まっています! ポッチャマ絶対絶命のピンチだ!』
ポッチャマがドラピオンの両手のカマに挟まれて身動きが取れないような状況になっていた。
「よくやったぞ、ドラピオン、チャンスだ! そのままはかいこうせん!」
シンジがドラピオンにしねしねこうせん、ではなくはかいこうせんを指示。
ドラピオンの口にははかいこうせんのエネルギーがみるみるうちに溜まっていく。
「ドラピオン、はかいこうせん発射!!」
ドラピオンは首を後ろに傾けてからはかいこうせんを発射しようとした。
……
……
…………
…………
辺りを沈黙が支配する。
「ど、どうした、ドラピオン!?」
ドラピオンははかいこうせんを発射しなかった。
『これは、いったいどうしたことでしょう!? ドラピオン、はかいこうせんを発射しません! いったい何が起きたのでしょうか!?』
「ドラピオン! どうしたんだ、ドラピオン!?」
「ムダよ! ポッチャマ、めざめるパワー!」
カマに掴まれていたポッチャマの身体が発光する。
「ポチャチャ、ポッチャマー!」
めざめるパワーによって拘束を解かれ、自由の身になるポッチャマ。
一方、ドラピオンの方は体を地面に横たえる。
「なんだと!? こ、これは!?」
『な、な、な、なーんと、ドラピオン、眠っています! ここに来て眠るなんていったい何が起こったんだァァ!?』
「とどめよ! ポッチャマ、最大威力でハイドロポンプ!」
眠っているドラピオンにハイドロポンプが避けられるはずもなく、ドラピオンはその激しい水流によってフィールドの岩に叩きつけられる。
だが、水の勢いが激しいため、岩の方が粉砕され、そしてまた新たな岩にドラピオンが叩きつけられる。
それを幾度か繰り返して、最後にはドラピオンをスタジアムの壁に叩きつけた。
これほどの威力はきっと本来はないだろうから、特攻に結構振った努力値のおかげなのかもしれない。
「ドラピオン、戦闘不能! ポッチャマの勝ち!」
『ポッチャマの凄まじいほどの威力を誇るハイドロポンプがドラピオンに炸裂ゥ! そしてぇ、壁に叩きつけられたドラピオンは、たまらずダウーーーン! これでシンジ選手の残りポケモンは1体! 後がなくなったァ!』
*
「あくびじゃと?」
「! なるほど、そういうことか」
「おいおい、キミたちだけで納得してないで、ワシにも説明してくれ。いったいどういう技なんじゃ?」
「あくびという技は一定時間経つと必ず眠るという技なんです」
流し技として最もポピュラーと言っていい技、あくび。
あくびを食らったポケモンは、そこでボールに戻せば眠らない。
だけど、そのまま戦い続けると眠ってしまう。
眠りは厄介なので、ねごと、カゴやラムの実、しんぴのまもり、あるいは特性『やるき』(『やるき』劣化で『はやおき』)などの対策をしていない場合は交換させるしか眠らせない方法はない。
だから、効果を知っていれば、強制交代させることができる『流し技』。
知らなくても、眠り状態に追い込めば、相手は何もできずに、こちらの思うがままだ。
「おそらく、あのポッチャマはあの水煙の中、ドラピオンに接近。ドラピオンとしてはなにをされるかわからなかったから、とりあえず、拘束。そこでポッチャマはあくびを食らわせたのでしょう。で煙が晴れるまでの時間と、それからはかいこうせんを撃つまでの時間が合わさって、ドラピオンは眠ってしまった。そういうところでしょうか」
尤も、あのドラピオンは相当強かった。
かなり個体値がいい個体なのだろう。
正直、テッカニンがつるぎのまいをしてからドラピオンにバトンタッチをしていれば、間違いなく、ポッチャマ、ムクホークはやられていたに違いない。
ヒカリちゃんの手持ちのポケモンの中で、最強のリザードンもわからない。
相性はリザードンは炎・飛行タイプ、ドラピオンは毒・悪タイプで、可もなく不可もなくだが、リザードンはじしんを持っているため、ドラピオンとしてはリザードンは相手が悪いのだが、特性『かそく』やつるぎのまいで格段に上がった素早さと攻撃からのいわなだれを食らわせれば、4倍弱点ということもあり、タイプ一致でなくともほとんど一撃でリザードンもダウンすることになるだろう。
『それにしても素晴らしい戦いです! とても予選リーグ3回戦とは思えません! これが本当にポケモンバトルなのでしょうか! あざやか、そして戦略に満ちた技の応酬に、私たちはどれほど興奮を巻き起こしたことでしょう!!』
「相手の戦略ミスに救われたということかしらね」
私は正反対の判断を下していた。
*
「ありがとう、ポッチャマ。一旦戻って」
「ポチャチャァ」
あたしはポッチャマをボールに戻した。
「それにしても今のドラピオンはあぶなかったわ」
テッカニンがつるぎのまいをしてあのドラピオンに受け継がれていたら、間違いなくポッチャマは負けていた。
いや、テッカニンのことは忘れて次のことに頭を切り替えよう。
今まであたしがこの大会で出したポケモンはポッチャマ、ムクホーク、ギャラドス、リザードン。
この中でどれも共通する弱点は電気。
彼は1回戦にエレキブル、2回戦にブーバーンを使っていた。
とすると、最後のポケモンでエレキブルを出せば、少なくとも、この試合で出したポッチャマ、ムクホークの弱点をつくことが出来る。
同じ電気のジバコイルを出してもいいかもしれないけど、エレキブルの特性は『でんきエンジン』。
電気技を食らうと素早さが上がる特性。
とすると、ジバコイルは電気技を封じられた格好になる。
しかもエレキブルはあなをほる、かわらわり、きあいだま、いわくだきといった、ジバコイルの弱点をつける技を数多く覚えられる。
エレキブル自体の能力も相当高いから、タイプ一致の技じゃなくても十分怖い(もちろんタイプ一致電気技はもっと恐ろしい)。
おまけにブーバーンを出されては、ジバコイルは相手のいいカモだ。
ならば、出せそうなポケモンは——
『さあ、シンジ選手のポケモンは残り1体! そしてヒカリ選手はポッチャマを戻しました! ムクホークを出すのか、それとも!? 両者いったいどんなポケモンを繰り出してくるのでしょうか!』
「ヒカリ、お前は強い。認めよう」
あれ、どうしたんだろう。
「今はもう、ユウトさんのことはすっぱり忘れることにする。これからは全力でお前を叩きつぶす! そして勝つ! たとえ、オレのポケモンは残り1体になろうと、オレは最後までバトルをあきらめない!」
うわっ。
なんつーか、すごく好感が持てる。
「いいじゃんいいじゃん、あたしだってこのバトル、絶対勝って見せる! 」
「行け、最後はお前だ!」
「いっけぇ、あたしの最後のポケモン!」
『両者、3体目のポケモンがフィールドに出揃います! これがラストバトルになり、ヒカリ選手が4回戦進出を決めるのか!? それともシンジ選手がここから大どんでん返しを決めるのか!?』
結構アニメっぽい話ですが、もう少し続きます。
しかし、昔から疑問に思っていましたが、コイル系はなんで浮いてるのにじしんを食らうんだろう。
ということで浮いているんだからじしんは食らわないという想定(ヒカリの頭の中)でいきます。
ポッチャマのアクアジェットについてですが、最終進化形であるエンペルトが覚えますので、覚える素養はあるかなと思い、このようにしています。
タイプAが対空迎撃、タイプBが前方から飛来する技に対する迎撃です。