『さあどんどん進めてまいりましょう! Bブロック2回戦次の試合です!』
今日はどうやら女性の実況のようです。
今までは男性の実況しか聞いたことがないので、なんだかめっさ新鮮です。
『まずは赤コーナー! シンオウ地方キッサキシティ出身、ノゾミ選手!』
なにやらグラサンを頭にのっけたボーイッシュな女の子が出て来ました。
『ノゾミ選手はポケモンコンテストにも出場し、そして数々の優勝を飾ってきたトップコーディネーターという一面も持っております!』
コンテスト優勝かぁ。
そいつはすごい。
オレはコンテストは全然ダメダメだからなぁ。
や、それはゲームとかの話だったんですけど、でもやっぱり実際コンテストは乗り気じゃないです。
興味がなくて……。
『次に青コーナー! ホウエン地方ハジツゲタウン出身、ユウト選手!』
さて、いくかな。
「(わたし、出たいんだけどなぁ)」
「ダメ」
「(ケチ。わたし、まだこの地方で公式戦1回も出てないんだけど?)」
「4回戦でアイツと当たるだろ?」
「(あのワカメ以外にも出たい)」
「なあ、お前、ひかえめな性格だろ?」
「(これでも十分ひかえてるじゃない! 今までだってずっと自重してたんだから、たまにはやらせてよ!)」
『あのぅー、ユウト選手、そろそろ出てきてください』
あ、しまった。
ラルトスとの口論に夢中で出るの忘れてた。
「(……急ぎましょう)」
オレとラルトスはそそくさと入場した。
*
『え、えぇ〜、ユウト選手ですが、1回戦はマリル、そしてペリッパーで相手選手を下し、2回戦まで勝ち上がってきました!』
フォロー恐縮です。
「ユウト選手、大丈夫ですか?」
「は、はい、大丈夫です」
すみません、迷惑掛けて。
「では、両者、ボールを構えてください」
『じゃあ、試合を始めちゃってください!』
あ、いまのなんだかちょっとかわいい。
て、そうじゃないですね。
「あたしの最初のポケモン! アゲハント、レディーゴー!」
「ペラップ、キミに決めた!」
『さあ、双方最初のポケモンが出揃いました! ノゾミ選手はアゲハント、ユウト選手はペラップです! 相性では虫タイプのアゲハントと飛行タイプのペラップでは、ペラップの方が有利! ノゾミ選手はどのように対抗するのでしょうか! しかし、私、ポケモンリーグでペラップを使うトレーナーを初めて見かけました! 個人的には、ユウト選手がどのようにペラップを使いこなすのかも注目していきたいところです!』
まあ、ペラップってなんというかあまり目立たないポケモンだからな。
ペラップは飛行・ノーマルタイプのポケモン。
しかし、飛行タイプならムクホークやトゲキッス、クロバットなんて有名どころがいたりするし、ノーマルタイプは強さならリングマやケンタロス、かわいいどころだったら、ピクシーやプクリンだっていることだし。
「戻って、アゲハント!」
『おおっと、ノゾミ選手、ここでポケモンの交代のようです! アゲハントをボールに戻します!』
「1回戦、キミのバトルを見た。正直、キミは強い。だから、不利な相性では戦わない! ムウマージ、レディーゴー!」
『ノゾミ選手、アゲハントの代わりにムウマージを砂のフィールドに投入します! ノゾミ選手、これが2体目のポケモンとなります!』
ムウマージ。
名前のごとく魔法使いみたいな見た目からは多彩なタイプの技を扱う。
ペラップの苦手なでんげきはやチャージビーム、パワージェムだって使ってきます(パワージェムは岩タイプ、他は電気タイプの技)。
嫌らし系だったら、みちづれや(さいみんじゅつ)→くろいまなざし→ほろびのうたというコンボも使うことが出来る。
みちづれは使ってからしばらくの間にその使ったポケモンが倒されると倒した相手も倒れるという技。
くろいまなざしは相手を逃げられなくし、ほろびのうたで敵味方共に時間が経つと倒れるということもできる。
交換すればほろびのうたは無効になるのだが、くろいまなざしで交換できないという罠。
ちなみに余談ですけど、プラチナのバトルタワーでルージュラがこの戦法を使ってきて(あくまのキッス→くろいまなざし→ほろびのうた→ゆめくい→あくまのキッス→交換)バトルタワー83連勝でストップ食らいました。
そのときはしばらく気が抜けていたんですけど、リベンジには一応成功しています。
「ムウマージ、でんげきは!」
ほら、きたよ。
「スピードスターで撃墜しろ!」
「ペラップ〜♪」
どうでもいいですけど、ペラップの鳴き声ってゲームと同じでなんだかすごく気が抜けます。
『ノゾミ選手、必中技でペラップの弱点でもあるでんげきはを指示! しかし、ユウト選手も同じく必中技のスピードスターでこれを撃墜しました!』
必中技ってホーミングの対象をきちんと設定すればこういう使い方もできるんだよね。
「おかえしだ! ペラップ、ハイパーボイス!」
「ペラップ〜♪ ペラップーーーーーーー!!」
ちなみにハイパーボイスは音波攻撃です。
ですので、一度放ってしまえば、こちらは何もしなくても相手に届いていきます。
「ムウマージ、まもる!」
「マージ!」
ということで、
「ペラップ、アンコール!」
こんなこともできちゃいます。
『ムウマージ、ペラップのハイパーボイスをまもるで防ぎました! どちらもノーダメージ! さあ、この後両者いかなる攻防を見せてくれるのでしょうか!?』
「ペラップ、まもるが切れるまでわるだくみ!」
「ペラップ〜♪」
いかなる攻防を見せるのかって?
ごめん、相手はもうほとんど詰んでるんだ☆
もちろん、対処法はあるんだけど、相手はそれに気づいてないと思う。
「ムウマージ、もう一度、でんげきはよ! ってムウマージ?」
『これはどうしたことでしょう! ムウマージ、いつまでたってもまもるを解除しません! いったいどうしたことでしょうか!?』
……ああ。
アンコールって技知らないんですね。
まあ、この世界補助技ってあんま知られてないからなぁ。
かげぶんしんとかまもるとかは相手の攻撃を防ぐのによく使われるから知られてるけど。
「ムウマージ!? いったいどうしたのよ、ムウマージ! でんげきはよ、でんげきは!!」
いや、ムダですよ、ノゾミさんとやら。
アンコールってのは、使われるとその直前に出した技をしばらくの間ずっと使い続けるって技です。
アンコール状態を解除するには交換するしか手はありません。
『バトルは硬直しています! ムウマージはまもるを続けたまま、ペラップは砂のフィールドに降り立ち、首を傾げながらただただ待ち続けています!』
ちなみに砂だから重いポケモンは足を取られて思うようには動けないでしょうが、ペラップは鳥ポケモンであり、体重も2㎏もないので、そんなことはない。
「くっ、しょうがない! 戻って、ムウマージ! なら、ごめんね! アゲハント、レディーゴー!」
『ここでノゾミ選手、ポケモンの交代です! ムウマージを戻して、一度戻したアゲハントを再びフィールドに投入!』
まあ、命令聞かないんじゃあ、そうするしかないわな。
「アゲハント、ソーラービーム!」
「ペラップ、空に飛んでかわせ!」
しかし、あのアゲハント、ソーラービームをほぼ溜めナシで撃てるなんてスゲェ。
「ペラップ〜♪」
あ、いや、もちろんそんなものには当たらないんですけどね。
この子はおだやかな性格(攻撃↓、特防↑)で特攻と素早さに努力値を極振りしています。
ほんとはひかえめかおくびょうならなお良かったのですが、育てているうちに愛着も湧きましたし、いまさら、その性格のペラップを捕まえても、という気になってます。
さて、時間的にもうペラップの特攻はわるだくみで上がる上限に達しているはず(わるだくみは特攻2段階アップ)。
「ペラップ、準備はいいな?」
「ペラップ〜♪」
「なら、ペラップ、最大火力でねっぷう! フィールドを覆い尽くすんだ!」
ねっぷうは特殊技で範囲攻撃になりますから、フィールド全体を覆うなんて今のペラップなら余裕です。
『す、すごい! フィールドを覆い尽くさんとするかのようにペラップのねっぷうが砂のフィールドに吹き荒れます! こんなねっぷうは私、初めて見ました!』
なんていうか、この実況、いちいち私見が多いね。
それでいいんですか?
そしてねっぷうが止んだフィールドでは、
「アゲハント! しっかりして! アゲハント!!」
アゲハントが、体のあちこちが黒こげの状態で仰向けになって倒れています。
「アゲハント、戦闘不能! ペラップの勝ち!」
*
「わるだくみなんて積まれたら、もうあのペラップは止まんねーぞ」
「ねー。これじゃあ相手選手がかわいそうな気がするわ」
「だが、言ってしまえば、知らない方が悪い」
「……グリーンって相変わらず、キッツイわね」
「現実的と言ってもらいたいな。尤も、僕たちはあのペラップではないが、アンコールで封じられてから、いいようにやられてしまったこともあるから、あまり強くは言わない方がいいか」
「ねー」
「あぁ、苦い思い出だぜ」
グリーンさんたちも同じ経験があるんですね。
……ん?
今ふと思ったけど、あたしってばユウトさんと会ってからの1年足らずで、グリーンさんたちがこれまでユウトさんに味わった戦術を見せつけられて勉強させられてたんだ。
とんでもなくハードだったんだね(泣)
いや実際、いろんなポケモンのいろんな戦術を目の前で肌で体感させられ続けたからね。
ちなみにそれと並行して行われる知識の授業でも、覚えられなかったら、ラルトスのサイコキネシスとかもらい続けたし。
今思うけど、ユウトさん、ラルトスはちょっとひかえめだからとか言ってたけど、あれ絶対ひかえめじゃないよね!?
いやそりゃあ、最初はちょっとよそよそしかったけど、それやってるときって結構嬉々としてやってたと思う!
てか、思うとかじゃなくて、断言できる!
あれは絶対嬉々としてやってた!
あのラルトスは絶対ひかえめじゃなくてSだ。
いや、Sなんて性格はないけど、絶対にSに間違いない!
(ヒカリ、あとでオシオキね)
ビクッ!!
そんな声が脳内に聞こえてあたしは思わずブンブンと首を振り、周りを見回した。
「どうしたんだ、ヒカリちゃん?」
3人ともこちらを不思議そうに見ている。
「な、なんでもないですよ、なんでも。ハハハ……」
あたしは試合が終わったら、即スタジアムから逃げ出そうって決意した。
*
「どうした、ラルトス?」
「(なんでもないわ。それよりユウト。今回は試合出るのやめとくわ)」
「? そうか、わかった。じゃあ、このままペラップでいくぞ?」
「(ええ。フフフフフ)」
なんだか変なことを考えていそうだが、オレには振りかからなそうだから、今は置いておこう。
さて、試合の方ですが——
「ニャルマー、レディーゴー!」
『ノゾミ選手、ここでニャルマーを投入です! これでノゾミ選手は3体全てのポケモンが出揃いました! 一方、まだユウト選手はまだ1体のポケモンしか繰り出していません! トップコーディネーターノゾミ選手だんだん苦しくなってきました!』
「まだまだ! 勝負は始まったばかりよ! ニャルマー、あまえる!」
「ニャールー!」
『決まりました! ノゾミ選手のニャルマーのあまえる攻撃です! これでペラップの攻撃力はガクッと下がってしまいました!』
「たしかに、さっきのねっぷうは凄まじい威力だったわ。でも、もうこれで攻撃技は怖くない!」
あー、うん、とりあえず。
ご愁傷様です。
いや、たしかに攻撃は下がったので物理攻撃技の威力は元のペラップの種族値、性格補正、それから努力値も振ってないから、もはやそれは紙に等しいデスよ?
でもね、残念ながらオレのペラップは特殊アタッカーなんだ。
だから、能力を下げるなら、特攻を下げるような技|(ゆうわくとかおきみやげとかミストボール)をやらないとね。
尤も、ゆうわくは性別が違う相手じゃなきゃ効かないし、おきみやげは使うと自分も戦闘不能になるし、ミストボールはラティアス専用技だから、この場合は特殊耐久が高いポケモンに交換するか、ペラップの低い防御と特防を突いて一気に強力なアタッカーの技で攻め立てるのが筋なんだけど、もう3体全部フィールドに出ちゃったからそれも出来ない。
唯一、ムウマージが結構特防高いし特攻も高いけど、わるだくみでMaxまで上がった特攻のペラップの特殊攻撃には間違いなく耐えられないでしょう。
なにせわるだくみ1回積めば、現実世界では特性ふゆう防御特化ド−タクンをねっぷうで一撃で沈め、防御特化ブラッキーですらハイパーボイス2発で沈めるんですから。
そしてムウマージの特殊攻撃が来る前に、こちらの特殊技でムウマージを落とせば問題ない。
仮にペラップが落とされても、オレにはまだ2体ポケモンを繰り出せたりしますからね。
よって、残念ながら、もう詰みなんですよ。
あ、耳ふさがないと。
「ペラップ、ハイパーボイス」
「ニャルマー、相手の攻撃はもう怖くないわ! 近づいてきりさく攻撃!」
そしてペラップがタイプ一致特殊技のハイパーボイスを放ち、ニャルマーがペラップに立ち向かっていくが、
『ぐぅ〜、す、すごい、ハイパーボイスです……! わ、私たちの方にも、このうるさいのの、影響が出ています……!』
たしかに。
この会場にいる人間全員、それこそ、観客や実況、はてはジャッジや相手選手さえ、耳を押さえている。
「(フフン、こんなこともあろうかと、わたしは耳栓を完備していたわ)」
コイツ、もはやポケモンというカテゴリから逸脱してんじゃないか?
とか、
こっちはフィールドの環境に目を配りつつ、指示出さなきゃいけないから羨ましいなこのヤロウ
なんてことをオレは微妙に思いつつ、このハイパーボイスが早く止んでくれることを願った。
そして、ハイパーボイスが止んだ後は——
「ニャ、ニャルマー、戦闘不能! ペラップの勝ち!」
一匹の子猫がひっくり返ってケイレンしていました(苦笑)。
『す、凄まじいまでのペラップのハイパーボイス! 私があんな間近で聞いていたなら、きっと気絶して耳から脳汁が一部飛び出していたことでしょう! ニャルマー耐えられずにダウン! これでノゾミ選手は残り1体、ムウマージのみ! 後がなくなりました!』
なんだかいろいろ問題がありそうな実況だな、オイ。
ホントにこの人は大丈夫なんだろうか。
クビになったりはしないの?
「なっ、なんでさっきのより威力が高いのよ! それにどうしてあまえるが効いてないの!? くっ、がんばって、ムウマージ!」
最後のポケモン、ムウマージが出て来ました。
「ムウマージ、もう大丈夫よね!?」
「マージ!」
「なら、ムウマージ! あなたが頼りよ! レディーゴー!」
「マージ!!」
さっきの汚名返上とばかりに気合が入っているムウマージ。
ムウマージはゴーストタイプなので、ノーマルタイプのハイパーボイスは効かない。
「ムウマージ、パワージェム!」
「とどめだペラップ、めざめるパワー!」
ムウマージのまわりに宝石のように光り輝く石片が浮かび上がると同時に、ペラップの体が発光し、一気にエネルギーが爆散される。
それが、フィールドを包み、そして視界を包む。
『パワージェムとめざめるパワーのぶつかり合い! このフィールドの上で立っているのははたしてどちらなのか!?』
舞い上がった砂煙が晴れてきた。
そこには——
「ペラップ〜♪」
当然ペラップの鳴き声が響き渡る。
そして——
「ムウマージ、戦闘不能! ペラップの勝ち! ノゾミ選手が3体全てのポケモンを失ったため、この勝負、ユウト選手の勝ち!!」
『決まりました! ユウト選手、その圧倒的なまでの強さで、トップコーディネーターノゾミ選手をわずかペラップ1体のみで退け、3回戦進出決定!』
ホウエン地方ハジツゲタウン出身、ユウト。
3回戦進出。
ちなみに翌日、
「リザードン、アイアンテールでスタジアムの壁までマタドガスを吹き飛ばしなさい!」
「グオワァオォォ!」
「マタドガス、戦闘不能! リザードンの勝ち! テッペイ選手が3体全てのポケモンを失ったため、この勝負、ヒカリ選手の勝ち!!」
『強い! 圧倒的に強いです、リザードン! その強さでテッペイ選手の3体全てのポケモンを退けました! ヒカリ選手、3回戦進出決定!』
シンオウ地方フタバタウン出身、ヒカリ。
3回戦進出。
アニメからコーディネーターのノゾミが出張参加。
ちなみにノゾミはアゲハントは使っていなかったそうですが、そこはオリジナルということで。
ペラップかわいいよペラップ