ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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第三者視点から見たらアレシアが怪しいことこの上ない。
軍令部長の対応がまともに思えるほど怪しい。


第2章 ルシの力
拠点作成


岩の月(3月)1日。

皇国軍占領地であるメロエ地区のリウナン丘陵に大量の皇国兵が基地建設の為に働いていた。

というのもリウナン丘陵はミリテス皇国と朱雀領ルブルムの国境を一望できるので戦略的価値が高いからである。

占領する前はここに朱雀軍の陣地が常に形成されており、小競り合いの際にこの陣地を活用していた。

もっとも今回の戦争の緒戦で物量にものをいわせて皇国軍が占領し、大半が焼失したが。

それで占領地維持等の目的でこの丘陵に皇国の基地を形成することになったのである。

 

「イネス大尉の様子は?」

「あまりよくありませんね。やはりルシ・クンミが玄武侵攻後行方不明なのがこたえているようで……」

「生死不明か、まぁ覚えているから死んでいないと言ってやりたいところだがルシではその常識が通用せん」

「確かに玄武に打撃を与えることが使命だったとしたら昇華していてもおかしくありません」

 

選抜連隊が野営しているテントで私はイネス大尉に関する報告をベルファーから報告を受けていた。

イネス大尉はルシ・クンミが玄武侵攻後に行方不明になったことを聞いて以来寝込んでいる。

元々クンミは鋼室の研究者であり、その当時イネスはクンミの部下でかなりクンミを慕っていたという。

クンミがルシになった後もそれが変わる事はなく、慕い続けていた。

そのクンミが生死不明で状況から見て生きてる可能性は低いと言われてイネスは正気でいれないようだ。

本来ならたとえ無事の可能性が低くても覚えていれば生きているということになる。

だが、ルシの場合はその常識は通用しない。

ルシの最後は死亡か昇華もしくは墜ちるの何れかだ。

死亡は普通の人間の場合と同じく致命傷を受けて死に至り、他者からは忘れ去られる。

昇華はそのルシが仕えるクリスタルに与えられた使命を果たし、クリスタル化することだ。

そうなるとどういうわけかそのルシは他者の記憶から消えない。

昇華するとそのルシは死を迎えなかったということになるので忘れないという説が一般的だが真相は謎だ。

墜ちるは使命を果たせなかったルシがシガイという化物に変貌することだ。

シガイになれば人としての意思は失われ、モンスターと同様に人や国にとっての脅威でしかなくなる。

かのオリエンス大戦では使命から逃げシガイに墜ちたルシが大量発生し、そのシガイを討つ為に各国のクリスタルがまた人をルシにするという悪循環に陥り各国のクリスタルが弱体化した一因になっている。

皇国軍でも白虎のルシを管理下に置くに際にこれが最大の障害となった。

結果的には白虎クリスタルの意志を機械によって制御することによってるしのシガイ化を防ぎ、白虎クリスタルを人質にして白虎のルシを管理下に置く事に成功した。

そして何故かこの場合でシガイが死んでも他者の記憶からそのルシに関する記憶は消えない。

一応ルシはシガイと化して意思を失い、最早人ではなくなったからというこじつけのような説があるにはあるが。

とにかくそう考えるとクンミは何らかの理由で動けないでいるか、もしくは昇華したかということになる。

そんな生きているかどうかも分からないルシの為に捜索隊を派遣できるほど皇国軍に余裕はないので放置されている。

 

「クンミのことを全て覚えているのに二度と会えないか……普通ならば絶対に経験できないことだ」

「そうですね。私も兄に関する記憶がありませんから」

「そうだ。だから私達が慰めたところで効果はないだろう。私もクンミが部下だったことを覚えているとはいえイネス大尉程親密な仲ではなかった。彼女自身が自分の感情に折り合いをつけるまではそっとしておくしかない」

「ですが……」

「ああ普段ならそれでいいのだが今は戦時だ。今のところはイネス大尉の分の仕事も分担してできているとはいえ、そう長くもつものでもない。冷たいようだがあと2週間で気持ちの整理がつかないようならば除隊して本国に送り返すほかないな」

「……そうするしかありませんね」

 

ベルファーは悲痛そうな顔をしながらそう言った。

彼もクンミと話したことがあるので思うとこがあるのだろう。

 

「イネス大尉の話はここまでだ。自動戦闘機は必要な量は集まったか?」

「マーティネートが600機、パンジャドラムが3000機、ノーマッドが50機集まりました」

「ノーマッドはもう充分だ。パンジャドラムもそれだけ替えがあれば大丈夫だろう。ただ欲を言えばもう少しマーティネートが欲しいところだな」

「マーティネートは自動戦闘機の中でも扱いやすいので殆ど前線に流れておりますので」

「そうだな、これだけの数が集まればよしとするべきか」

 

【三七式自動戦闘機】通称マーティネートは戦闘用の小型機械兵器で、一般兵と同等の攻撃力を持っている。

ただ火力はともかく、判断力や運動能力は一般兵に大きく劣る為、補助的な役割のみで使用されている。

一番典型的な使い方はマーティネートを前線後方に大量に配置して部隊を後退させる。

そして前進してきた敵軍がマーティネートとの戦闘で疲弊したところを部隊が強襲するという使い方である。

無論そんな使い方をすれば次々とマーティネートが壊されていくが大した問題にはならない。

というのも使われている部品の全てが二級品であり、皇国兵の装備品の1/4のコストしかかからない。

要するに安いし、壊れても人的損害はないので大抵の部隊が欲しがるのである。

パンジャドラムやノーマッドはこれの発展型である。

【三七式自動戦闘機二型】通称パンジャドラムは重要拠点防衛用の小型機械兵器。

拠点防衛用の為、敵の攻撃を阻止する攻撃力を求められた結果、爆薬を満載して、敵もろとも自爆するという特殊な兵器として完成した。

その性質上、大量に替えが必要になる。

【三七式自動戦闘機三型】通称ノーマッドは索敵用の小型機械兵器。

マーティネート以上の火力を小型機械兵器に持たせようとした結果がパンジャドラムのような損失の激しい兵器と化した反省を生かし、偵察能力の向上を目指して開発された。

結果として探知能力がマーティネートを遥かにしのぐ性能をみせたがコストが上がった。

だが大量に配備する兵器ではないので問題にならず、偵察部隊や基地の警備部隊に配備されている。

 

「基地の防衛能力を向上させる為には自動戦闘機――特にノーマッドと大量のパンジャドラムは必須ですからね」

「ああ、運んできた輸送師団の連中に感謝しないとな」

「彼らがいないと補給がままなりませんからね」

 

ベルファーとそんな話をしているとルーキンがテント内に入ってきた。

 

「邪魔するぞ」

「少佐、仕事はどうなさったので?」

 

ベルファーがルーキンに疑問を投げつける。

ルーキンは一般部隊と工兵隊との緩衝材としての役目を命じられてたはず。

 

「それならリグティ大尉に任せてきた」

「……大丈夫なのですか?」

「問題ないだろ。俺の仕事の補佐はリグティ大尉の仕事の内だ。それに最後の確認くらいはちゃんとしてる」

 

ルーキンの言い分に間違いはない。

皇国軍において大隊に所属する大尉の仕事は大隊指揮官である少佐の補佐だ。

だが、幾らなんでも大隊指揮官としての仕事を補佐に丸投げする少佐など多分ルーキンしかいないだろう。

 

「……ソユーズ少佐」

「なんだ?」

「私はルーキン少佐の隊に配属されなくてよかったです」

「そうか」

「ヒデェこというな大尉」

「大隊指揮官補佐の仕事についている者としては当たり前の反応ですよ」

「ベルファーの言うとおりだぞルーキン」

「それはあれだ。よそはよそ、うちはうちって奴だ」

 

……第三大隊指揮官補佐のリグティ大尉は泣いていい。

こんな奴が上司なんてついてないな。

おまけに仕事を丸投げしてることを指摘してもルーキンに反省の色はなしだ。

 

「そういや聞いたかルブルム地区が朱雀軍に奪還された話は聞いたか?」

「いや」

「私も聞いてませんね」

「どうやらまた【朱の魔人】が活躍したそうだぞ」

「それは……」

 

【朱の魔人】とは【日蝕】作戦の時にクリスタルジャマーの影響下において魔法を行使した候補生部隊の通称である。

あの作戦後諜報部の調べによってその候補生部隊が判明した。

魔法局の外局と呼ばれる施設によって育成された12人の子どもということだ。

魔法局とは魔導院で魔法に関する一切の管理を行う部門のことだ。

彼らは魔法局局長の子ども達であるとのことだが実際は不明である。

というのも現魔法局局長のアレシア・アルラシアの経歴がどれだけ調べても出てこないのだ。

更に外局という施設も厄介だ。

外局は魔法局の管理下にあるがその名の通り魔導院の組織には含まれていない。

よって非常に独立性が高い組織であり、その詳細は外局に勤める者と魔法局局長しか知らないのである。

そんな機密性の高い施設の情報を得る事は困難であり、ジャマーを無効化できた理由は依然不明だ。

更に情報によると彼らは魔法局長の命令にしか従わないらしい。

しかし彼らの力は既に首都奪回の際に実証されており、即戦力として期待され名誉ある0組として迎えられたという。

が、何故魔法局が彼らを育成していたのか疑問に思っている者たちが朱雀上層部に多数いるそうだ。

特にかつて皇国との紛争で活躍した現軍令部長であるスズヒサ大将が非常に魔法局を警戒しており、数人を0組に編入させたという情報もある。

しかし朱雀上層部が不審がっているにも関わらず彼らの活躍は凄まじく、先月の21日にマクタイを奪回された。

 

「いったい今度はなにをしでかしたんだ?」

「今度は再編された朱雀軍――といっても数個師団しかなかったそうだがの支援等を行っていたそうだ」

「具体的にどんなことをだ」

「都市制圧の先鋒を任されていたらしい。しかも【朱の魔人】に死者はなしだとよ」

「なっ!先鋒部隊でありながら死者が0!?強すぎではありませんか!!?」

「大尉の言うとおりだ、あいつ等の強さは異常だそうだぜ。たまに紛争に参戦していた1組のもうひとつ上レベルだ」

「朱雀のアギト候補生の中でもエリートのみのクラスである1組より上だと……!?本当かルーキン?」

「ああ、残念ながら本当らしいぜソユーズ」

 

ルーキンの言葉が真実だとすれば結構やばい事態だ。

1組の候補生は鋼機数台を同時に相手できるレベルの化物なのだ。

更にその上がいると聞けば誰だって危険感を抱く。

 

「勿論それだけじゃなくて、マクタイの時同様に他の候補生も多数参戦してたそうだ。どうやら朱雀は候補生を軍に組み込む気だな」

「ある意味正常に戻ったってところか」

「ああ、なんであんな超戦力を軍に組み込まないのか不思議でたまらなかったからな」

「まぁ一応そうなった経緯があるんだよ。ルーキン」

「へぇ、まぁどうでもいいが」

 

今まで朱雀軍における候補生とは軍令部の要請を受けて候補生が参戦するという形だった。

だがあくまで要請であるので候補生が断れば参戦しなかった。

候補生にとって戦争とは戦闘訓練の一環に過ぎないものだったからだそうだ。

訓練扱いで殺されるこっちの身からしたらたまったものではない。

しかしかつては朱雀軍に候補生は義務として戦争に参加していたのである。

というのも昔は信じられないことに朱雀の魔導院に軍事を専門に担当する部門がなかったから。

だが戦争が頻繁に勃発するとそうした部門の必要性を朱雀は感じ始めた。

そうして432年に軍令部が設立され、全軍の指揮権、軍の動員、兵器開発がその統制下に置かれた。

そして朱雀軍は軍としての組織を整え、迅速に部隊の移動・戦闘が行えるようになった。

一方で軍令部が魔導院の影響をあまり受けない部門となった為、候補生は訓練の為に戦場に出る以外軍事から切り離された。

まぁ魔導院の目的が救世主たるアギトの育成だから候補生にあまり軍事に傾いて欲しくなかったのだろう。

それ以降も軍令部から稀に出る候補生の軍編入の案を拒否し続けているところを見る限りは。

それも今回の戦争でここまで追い詰められ、拒否できなくなってしまったみたいだ。

 

「とにかく魔法局が【朱の魔人】を育成していた目的が不明だ」

「魔法局が魔人どもを元々戦力として軍に組み込む気なんかじゃなかっただろうしな」

「魔法局が軍令部に貸しを作る為に育成していたって可能性もない訳じゃないが……」

「ありえねぇだろ。アギトを育成する事に熱心な魔導院の連中がそんなことに気が回るとは思えねぇな」

「私もそう思います」

「ルーキンもベルファーもそう思うか」

「魔人どもが魔法局局長の命令にしか従わないってとこを考えると魔法局局長が院長の座を奪おうとクーデターを企んでたってとこか?」

「それも微妙だ。現院長と魔法局局長の関係は良好だ。院長が他の局長からも慕われてることも考えると排除するメリットが見当たらずデメリットだけが目に付く。まぁそんな洗脳教育を施してる時点で碌な目的じゃないことは確かだ」

 

どうこう話しているとテントにまた人が入ってきた。

誰かは分からないが徽章を見る限り大尉のようだ。

 

「失礼します」

「ハリー大尉、なんかようか?」

「ええ、リグティ大尉がいい加減戻ってくださいと言っております」

 

会話の内容から察するに第三大隊所属の大尉のようだ。

大隊指揮官補佐は大隊ごとに2名だからなんの不思議もないが……

 

「……おい、リグティ大尉になんて言って仕事押し付けてきたんだルーキン」

「少し休憩したいから任せるって言ったぞ」

「因みにどれくらい休憩してる?」

 

そう聞かれるとルーキンはテント内を見回し、机に置いてあったデジタル時計で時間を確認した。

 

「……2時間くらい休憩してるな」

「……仕事しろルーキン。じゃないとまたイシス少佐から小言を言われるぞ」

「……おう」

 

小さい声でそう言うとルーキンはテントから出ていった。

因みに隣でベルファーが

 

「本当に第三大隊指揮官補佐じゃなくてよかった……」

 

と小さい声で呟いていた。




役職の名称は適当に考えております。

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