ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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かなりエグイ描写があります。
ご注意ください。


リンボス要塞攻略

『こちら第二中隊のアトラス中尉。リンボス要塞への降下開始。これより405部隊と合流します』

『了解。既に外縁部の大半は制圧済みなので405部隊と合流後、内部の制圧に向かってください』

『ハッ』

 

イネス大尉は受話器を置くと私の方に振り返る。

その顔は困惑の表情を浮かべていた。

 

「なにか言いたそうだなイネス大尉」

「はい……その、上手くいきすぎではありませんか?」

「私も同感です。リンボス要塞は朱雀軍の西部方面軍司令部のある重要な地。それにしては朱雀兵の数が少なすぎます。もちろん喜ばしいことではりますがなにか敵に策があるのではと……」

「ああ、確かにそれは私も感じている。だがもし何かあるならば上から情報がおりてくるだろう」

 

私はそう言っていると通信兵が叫んだ。

 

「少佐!リンボス要塞の司令部の制圧に成功したもようです!!」

「なに!!?」

 

通信兵の報告に思わす私は驚いた。

幾らなんでも制圧するのが早すぎる。

というか都市(メロエのこと)より要塞を落とす方が早いなどどう考えてもおかしい。

 

「間違いないのか?」

「ハッ!確かに地上部隊が司令部を制圧したと報告しております!」

「……」

 

どういうことだ?一体なにがどうなっている?

いや、殆ど損害がなくリンボス要塞を落としたという事実だけ見れば事前に要塞を攻略するのに苦戦は確実とされていたことえを考えればこれは喜ばしいことだ。

だが幾らなんでも損害が少ないし、苦戦したという報告は皆無だ。

明らかにおかしい。

 

「司令部を制圧したとハーシェル中佐に報告しろ。それと司令部を制圧した部隊長と話をさせろ」

「ハッ!」

 

報告を終えた通信兵が奥の方に走っていき、また別の通信兵が奥からこちらに走ってくる。

 

「司令部を制圧した312部隊と連絡がとれました。そうぞ」

 

私は通信兵から受話器を受け取る。

そして

 

『選抜連隊第四大隊のソユーズ少佐だ。312部隊応答せよ』

『ハッ!312部隊の隊長カーティス大佐です』

『司令部を落としたというのは本当なのか?詳しく報告しろ』

『はい、やけにあっけなかったですが確かに制圧しました。また投降してきた朱雀兵の捕虜に尋問にかけたところ上官が至急援軍に行かねばと言っていたとかなんとか……その上官に関しては思い出せないようなので死んでいるとは思われます。報告は以上です』

 

その報告を聞くと私は机の上のペンを走らせてメモを取った。

メモを取り終わると通信兵が走ってきて

 

「ソユーズ少佐!ハーシェル中佐から連絡です!」

「むっ、わかった。『それとカーティス大佐。捕虜は不要だ』」

『ハッ』

 

私は持ってきた受話器をさっきからいた通信兵にかえし、新しくきた通信兵から受話器を受け取る。

 

『ハーシェルだ。ソユーズ少佐応答しろ』

『ハッ!』

『今から我が選抜連隊は降下し、司令部を調べる』

『我等がですか?』

『ああ、本当なら将官どもがやればいいことだがクザン大将を筆頭に嫌だからとの理由で私のところまで役目が回ってきたわけだ』

『……なんですかそれ?』

『仕方がないだろう。クザン大将は【だらけきった規律】をモットーにしているのだから』

『よくそれであの人大将になれましたね』

『元帥閣下に訊いたところ大将になれた理由は異常事態を察する嗅覚に優れていたからだと聞いている』

『……それだと今まさに異常事態がおこっているということですか!?』

『ああ、というわけで我等が念のために降下して要塞内を調べろとのことだ。その間に他の部隊は作戦通りロコルに進軍する』

『了解しました』

 

私は受話器を置くとため息を出すと

 

「リンボス要塞の司令部を調べる。操縦士、リンボス要塞に着陸しろ」

 

とやる気のない声で命令した。

 

 

 

 

「着陸しました」

「そうか。イネス大尉は先の戦闘で現地修理が可能な鋼機の修理に向かってくれ。ベルファーは私について来い」

「「ハッ」」

 

そう言って私はベルファーと共に指揮用中型艦載挺から降りた。

すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「なんか予想以上に順調に進んでるなソユーズ。激戦は確実だったんじゃないのか?」

「僅か一時間半で都市ひとつと朱雀の方面軍司令部のある要塞の攻略に成功……

 ここまでくると予想外と言ったほうが正しいぞルーキン」

「まぁ、いいや。ハーシェル中佐の案内はリグティ大尉に任せてあるからさっさと要塞司令部に行くぞ」

「ハーシェル中佐の案内を部下に任せたのかお前は」

 

出陣する時に別れたルーキンがいた。

少し会話した後、ルーキンに案内されて要塞内部に入り、司令部に向かう。

途中皇国兵達が倒れている朱雀兵に向かって銃剣で何度も刺しているの光景をみた。

何故そんな事をしているかというと武器を持ってなければ攻撃ができない皇国兵と違い、朱雀兵は魔法の詠唱ができる状態ならば攻撃が可能だ。

もし倒れていた朱雀兵が気絶していただけで気を取り戻して軍事物資を集めているところに攻撃魔法でもぶち込まれたらたまったものではない。

故に制圧したなら確実に朱雀兵の息の根を止める必要がある。

見た目にも分かるように頭部を破壊することによって。

そんな光景を見ている内に司令部についた。

 

「イシス少佐。先に着いていたか」

「えぇ、カーティス大佐が部下を回してくれまして」

 

そう言うとイシス少佐はカーティス大佐の方に視線を投げる。

そこには左頬に斬られた後があるカーティス大佐がいた。

 

「312部隊のカーティス大佐ですね?司令部を貴方の部隊のみで制圧なんて勲章ものですよ」

「この程度大したことはない、10年程前に【朱雀四天王】と戦った時の方が死にかけた」

「ああ、そういえば大佐はあの頃の朱雀との国境紛争経験者でしたね」

 

あの頃とは当時大佐として皇国軍相手にに猛威を振っていた現朱雀軍大将スズヒサ・ヒガトが少将になり前線にいなくなり皇国軍がつい安心していたところに漬け込むように稀に見る非常に優秀な候補生四人で結成された【朱雀四天王】が皇国軍に牙を剥いていた時代のことだ。

スズヒサが指揮能力で皇国軍を苦しめていたのに対し、【朱雀四天王】は圧倒的戦闘力で皇国軍を苦しめていたため、ある意味スズヒサ以上の脅威を皇国軍兵士の心に植えつけた。

事実あの時代の朱雀との国境戦を生き残った者の殆どが心をへし折られて軍を辞めたか、出世街道を爆走している。

カーティス大佐もあの時代に准尉から一気に大尉まで昇格し、その後も徐々に出世していった人物だ。

 

「待たせたようだな」

 

雑談をしているとハーシェル中佐が入ってきた。

後ろに部下を何人か引き連れている。

ハーシェル中佐は私たちに司令部に放置されていた書類の内容を訊いてきたが交戦状況に関する書類のみである。

そして明らかにこの要塞にいた朱雀兵の数が書類に書かれている数より少ないことである。

 

「シュレディンガー准尉。ここの魔導具は操作できるか?」

「……さぁ?…………試してみます……」

 

ボソボソと呟くようにシュレディンガー准尉は言った。

そしてフラフラと重心がぶれる歩き方をしながら魔導具に近づいてく。

シュレディンガー准尉の過去について知らないカーティス大佐を始めとする将兵たちが怪訝な顔をするもののシュレディンガー准尉は心ここにあるずといった顔をして、視線はフラフラとしている。

だがそれも致し方ないことだ。

チラッとルーキンの方を見ると珍しく複雑な表情をしている。

シュレディンガーは魔導具に近づき、魔法を使って魔導具を機動した。

 

「なっ!?」

 

カーティス大佐が思わず驚きの声をあげた。

魔法を使えるのは朱雀の人間のみ。それも若い頃だけだ。

これはこのオリエンスの常識といってよい。

しかしシュレディンガー准尉はどう若く見ても精々20代後半だ。

いや、そもそも朱雀人ではなく皇国人のはずだ。

確かに戦場で得た捕虜の朱雀人の子どもを育て、密偵や工作員として使役したりもしているがそういうのは軍部ではなく諜報部の特殊機関などのことで軍部が朱雀出身の者を使役しているというのはありえない筈だからだ。

 

「いったいどういうことですかハーシェル中佐」

 

カーティス大佐は憎悪を持ってハーシェル中佐に問いかけた。

朱雀人を皇国軍に入れるなど正気ですか!?と言いたげな顔をしながら。

 

「カーティス大佐。何か勘違いをしているようだがシュレディンガー准尉はれっきとした皇国人だぞ」

「では何故シュレディンガー准尉は魔法を使用できるのですか?」

「それはだな……」

 

ハーシェル中佐はカーティス大佐に説明をし始めた。

ことの始まりは30年以上前の朱雀との国境紛争で朱雀軍が攻め込んできたことだ。

皇国領だった町も幾つか朱雀軍に占領された。

その時占領した村で朱雀軍が婦女子に暴行し、辱めた。

占領された数日後に皇国軍が占領された町を奪回したが、その時に朱雀軍の兵士に犯された女性の一人が腹に子を宿していたのだ。

彼女は忌まわしい朱雀の血を受け継いだ子どもではあるが自分の子どもということで情が捨てきれなかったらしくまだあまり腹が出ていなかった頃に都市に働きに行くと行って町から出た。

そして彼女は孤児院で皇国人として子どもを出産してシュレディンガーと名づけた2時間後死亡した。

だが、シュレディンガーは5歳の頃から簡単な魔法(といってもコップ一杯分の水を出すとか、軽い静電気みたいなものを触れた相手に与えるといった殺傷力のないものだったらしいが)を使うようになり、周りの子どもから嫌われ暴力を振るわれるようになったそうだ。

孤児院に捨てられた子どもの中には戦争で親をなくして、預けられる事になった子も多いからこうなったのはある意味当然の帰路だった。

そして周りからシュレディンガーは孤立した。

ミリテス皇国の孤児院ではこれは生死に関わる問題だ。

元よりミリテス皇国は食糧不足であり孤児院にもそんなに食料はなかった。

その為、孤児院は50人も子どもがいるのに食べ物が10人前しかでないということも多い。

それでも孤児院の子ども達はその食料を分け合うことでなんとか飢え死にを回避していると言った状況が殆どだった。

そんな中で忌まわしい朱雀の子に態々食料を分けてやろうとする者など皆無だった。

だが幸い……と言っていいのかどうかわからないが……シュレディンガーは魔法が使えた。

当時はまだ皇帝による腐った専制政治が行われていた頃で餓死者の死体が路地裏などの人目のつかない場所に山のようにつまれてあった。

シュレディンガーは髪の毛のような火を魔法でおこし、死体を火で炙ってそれを食べる事で生きながらえてきた。

だがそれのせいでますます周りから疎まれるようになり、孤児院の子どもどころか都市の人間からも暴力を振るわれ、死体を食って生きる生活をしていた。

シュレディンガーが成人して暫くした頃、変化が訪れる。

皇帝が行方不明になってシド・オールスタイン元帥が名実ともにミリテス皇国のトップになり、国内改革を推し進めた。

その改革中にシュレディンガーという存在をしった当時のハーシェル少佐と部下のルーキン大尉がシュレディンガーを引き取った。

その後、シュレディンガーはシド元帥のお墨付きで皇国軍に入隊。

再編された帝都防衛旅団の特殊士官として准尉になった。

その後、シュレディンガー准尉は次々と才能を開花させていき、魔力は衰えるどころかむしろ成長していった。

これについてはなぜか不明であるが、皇国にとって非常に有益な存在であることは確かだった。

 

「そういうわけで経緯は複雑だが、シュレディンガー准尉は朱雀人の血を引いてこそいるが親は皇国人で生まれも育ちもミリテス皇国だ」

「確かに……それなら皇国人と言えなくもないかも知れませんが……」

「これはシド元帥のご意向でもある。貴様はシド元帥に逆らうつもりなのか?」

「……シド元帥の決定であるならば私は従うのみです」

「わかったならばいい」

 

カーティス大佐が納得するとハーシェル中佐はシュレディンガー准尉に話しかける。

 

「なにかわかったか?」

「……えぇ、……それをモニターに……映していいですか?……ハーシェルさん」

「ああ、映せ」

 

その言葉を聞き、シュレディンガー准尉は情報をモニターに映した。

そしてモニターに映された情報を見て、司令部内の人間は一瞬言葉を失った。




リンボス要塞:朱雀軍の西方方面軍司令部がある要塞。皇国に対する朱雀の備えでもある。
シュレディンガー:要するに皇国人と朱雀人のハーフということになる。

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