ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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短編で『玄武の騎士に転生して生き残る』っていうの投稿したので興味があったら見てください。



同盟締結

氷の月(6月)30日。

イングラム空港のVIP専用フロントでソユーズとルーキンの、この国の最高指導者に敬礼していた。

 

「帝都防衛旅団で大隊指揮官を務めるルーキン・アルカード少佐であります」

 

「同じく大隊指揮官のソユーズ・エイゼンシュテイン少佐です。此度の蒼龍訪問には我らが護衛の指揮をとります」

 

「うむ」

 

鋭い眼光を光らせながら、シドは重々しく頷く。

 

「艦隊は到着しているのか?」

 

「既にアーウェン航空基地の第四艦隊が到着しております。いつでも出発が可能です」

 

シドの確認にソユーズは肯定した。

一応、シド元帥と護衛部隊が乗り込む飛空艇は武装をほとんどなく見栄えと冗長性を重視した元帥専用艦である御召艦【ロマノフ級】で訪問することになっているが、れっきとした航空戦力を有する艦隊を率いて訪問することになっている。

これは戦乱絶えぬオリエンスでは使い古された砲艦外交であり、交渉相手に軍事力を誇示して心理的圧力をかけ、交渉を有利に進めるための外交政策のひとつだ。

もっとも、既に蒼龍王と名目上対等の軍事同盟を結ぶ密約を締結しており、この訪問ではその密約を表面上でも有効とするためのものだから、交渉などは殆ど形式的なもので、コンコルディアの者達に「お前たちの同盟国はこれほどの軍事力を誇っているのだ」と見せつけ、即位早々そんな国家と対等の同盟を結んだのだと言う実績を蒼龍王につくり、蒼龍女王暗殺を端に発する政変によるコンコルディア国内の混乱を収束させるための手札として利用するという蒼龍王の思惑があった。

ミリテスとしても同盟国となるコンコルディアの安定化は望むところであり、結果としてこれから前線に行くのかと言うほどの艦隊でコンコルディアを訪問することとなったのである。

 

「そうか、ではすぐ出発するとしよう」

 

「「ハッ」」

 

シドは2人の返事を聞くと、数名の直属の護衛と使節団を伴って視察用飛空艇に乗り込む。

そしてソユーズとルーキン、そしてその部下達が後ろに続いて乗り込んだ。

 

 

 

さて、今回蒼龍訪問で護衛部隊が乗るのは先も述べたとおり【ロマノフ級】である。

見栄えの良さは外装だけではなく、内部も高級ホテルの一室のように広々としており、とても寛げる空間となっている。

そして元帥と直属の護衛と使節団。そしてソユーズとルーキンはこの合理主義的な思考に支配されたミリテスにあるまじき贅を凝らした視察用飛空艇で寛いでいた。

 

「……私も少佐と一緒にVIPルームに行きたかったな」

「無理でしょう」

 

ベルファーのぼやきをリグティは本を読みながら一瞬で切り捨てる。

彼らは数千人の護衛部隊と共にいくつかの大部屋ですし詰め状態になったいた。

なぜこんなことになったかと言うと蒼龍臨時政府が皇国軍主力艦である空中戦艦【インビンシブル級】の自領土への着陸を認めなかったので、蒼龍領内での同盟条約調印式の際にシド元帥と使節団を守る護衛はこの【ロマノフ級】に集める必要があったためである。

 

「お前は思わないのか?」

「思いません」

「ルーキン少佐もVIPルームにいるのでしょう?」

「少佐が楽して小官が苦労するのは日常茶判事。気にするほどのことではありません」

「……お気の毒に」

「軍人になった以上、仕方ありません」

「上官に報告すればいいのでは……」

「そんな些事(さじ)に上官を煩わさせては迷惑でしょう。小官が頑張ればいいのです」

「……」

 

大尉同士の会話に突っ込みどころを覚えたアトラスが割って入る。

 

「大尉。趣味は?」

「軍務です」

 

あーやっぱりそうですか……

この仕事中毒者(ワーカホリック)早くとんとかしないと。

この大部屋に詰め込まれた第三大隊所属の者を除く兵士約25名はこの時、心をひとつにした。

因みに第三大隊所属の者は一様にやるだけ無駄という表情をしている。

 

「そういうのは趣味とは言わん。読書とかそういうもののことを言うべきだ」

「読書ですか……言われてみれば趣味と言えば趣味かもしれません」

「読書って、なにを読んでる?」

「ギベール将軍の戦術一般論とかシド元帥閣下の我が闘争とかですね」

「「「……」」」

 

大部屋の空気が完全に固まり、リグティがページを捲る音だけがやけに響いた。

 

 

 

コンコルディア王国ライローキ。

ライローキはコンコルディア王国の前王朝である青龍王国の首都であった地である。

コンコルディアとなった今では首都はマハマユリへと移っているが、このライローキがマハマユリへの玄関口となっており、コンコルディアにとって非常に重要な街であることに変わりはない。

西の空に【ロマノフ級】を先頭にしたミリテス皇国の親善艦隊が見えている。

【ロマノフ級】は五星近衛兵団の竜騎士達の誘導に従って、ライローキの発着所に着陸した。

 

「ようこそいらした。白虎の元帥よ」

 

【ロマノフ級】から降りてきたシド元帥に蒼龍王は手を差し出す。

シドもその手を握り返し、2人が握手する姿を周りに見せつけるように長くする。

 

「先日の女王暗殺を防げなかったことをお詫びしたい」

「いえ、全ての原因は手を下した朱雀にあります。誰もが平和の為に手を取りあえるようにと女王が先人達の知恵の結晶である【ファブラ協定】まで発動していた。にも関わらず暗殺などと言う卑劣な手段を取ろうとするなど、誰が想像できたでしょう?我が国も貴国も平和を望んでいるというのに朱雀はこの大戦を継続することを望んでいるのです。それは女王が望んでいた平和に明らかに反するものです。我ら蒼龍は亡き女王の遺志を継ぎ、オリエンスの平和を乱さんとする朱雀を決して許さぬ。そのことに対して女王の停戦の呼びかけに応えてくれた白虎とは協力し合えるものだと我は信じておる」

 

よく言うわ、とシドは内心呆れる。

女王暗殺の真相を知るシドからすれば蒼龍王の言葉は白々しいにも程がある。

 

「ついては朱雀への対策にていて話し合いたい」

「なるほど。では早速細部について詰めるとしましょう」

 

シドはそう言って蒼龍臨時政府との同盟交渉に入った。

とは言っても内密にだが、事前に殆どの内容が決まっているので実際に話し合うのは今後行われるであろう両国正規軍による朱雀領内への侵攻計画についてである。

ミリテスとしてはすぐにでも蒼龍軍も朱雀領へ雪崩れ込んでほしいのだが、そういう訳にもいかない。

無論、コンコルディアとて可能であればすぐにでも朱雀領へ侵攻したいだが、物理的に不可能であった。

というのも蒼龍軍は王家直属の五星近衛兵団を除けば、機動力に欠ける地域密着の諸隊という部隊であり、他国領土へ侵攻する態勢を整えるのには時間がかかる。

それに加え、コンコルディアは先の女王暗殺と蒼龍王即位による政治的混乱が続いており、蒼龍臨時政府は国内を掌握しきれておらず、国内の混乱を鎮めるためにも時間がかかる。

よってこの交渉で蒼龍王は可能な限り参戦の時期を遅らせ、国内を纏める時間を稼ぐのが目的だ。

シドもそのあたりの事は弁えているが、かと言っていずれ敵に回るであろう蒼龍王に対して必要以上に譲歩する気はない。

シドにとっての最上はコンコルディアがある程度国内が混乱してる状態で朱雀へ侵攻してくれることだ。

しかし混乱しすぎで朱雀への侵攻すら危うくなるようなら本末転倒なのでシドは蒼龍王達の反応からどのくらいが頃合いかを見定め、蒼龍王に多少譲歩してる風に見せかけつつ最終的な落としどころを考えなくてはならない。

よって蒼龍軍の参戦日時については数時間にわたる激論の末、決着を見た。

また蒼龍クリスタルについてはミリテス皇国に【保護】される理由については「各ペリシテリィウムは不可侵であることを謳った【ファブラ協定】を踏みにじり、フィニスの導きを担わんとする朱雀の暴虐に対し、我々は各国のクリスタルの力をひとつにして立ち向かう必要がある」という一見もっともらしそうな理由をつけ、2つのクリスタル保持しているミリテスに蒼龍クリスタルを保護するということが両国の公式発表となることが決まった。

 

・ミリテス皇国による蒼龍クリスタルの保護。

・蒼龍軍の朱雀領への侵攻は嵐の月(08月)17日。

・上記の日時以前でも蒼龍軍はエイボン地方を占領している皇国軍への支援を惜しまない。

・両国は朱雀が先の停戦交渉の非を全面的に認め、降伏するまで戦う。

・占領地における朱雀領民の扱いについては占領した部隊に一任。

 

上記に加え、その他諸々のこと細かな条項を加えて午後一時十一分に条約文にシド元帥と蒼龍王が署名。

こうして白虎蒼龍同盟が成立し、オリエンスで朱雀は孤立することが確定した。

 

 

 

土の月(07月)1日。

王都マハマユリ。

ソユーズとルーキンは部下とともに【三九式特殊大型艦載挺】でペリシテリィウム蒼龍の門前で待っていた。

 

「待たせちまって申し訳ありやせんね」

 

完全にふざけてるとしか思えないような言葉遣いで蒼龍側の女性文官が発言する。

皇国の皆はしばし呆気にとられて、いち早く我を取り戻したソユーズは無視して蒼龍の文官に話しかける。

 

「失礼ながら……その言葉遣いはいったい……?」

「ああ、さっきからぼーっと固まっていやがりますからなにがあったのかと思いましたが、私の言葉遣いに関してですか。恥ずかしながらこれは私の出身地である蒼龍辺境独特の方言でして、ちゃんと丁寧語で喋ってやってるつもりなんですがねぇ」

 

いや、王宮に出入りするくらいの立場なら共通語くらい覚えろよ!

皇国の兵士たちは内心激しく突っ込んだが、それを表に出すわけにはいかない。

何せ目の前にいる蒼龍文官は五星近衛兵団のひとつ【宵闇】の守護でもある人物。

皇国軍の階級に照らし合わせるならば高級将校、それも大将とか中将というレベルの人物だ。

そんな人物に対して言葉遣いが酷いとかたかが少佐にすぎないソユーズやルーキンが指摘することはできない。

もし指摘して目の前の女の不興を買おうものなら白虎蒼龍同盟の今後が危うくなる。

尤も、そんな高位の人物なら尚更共通語使えと言いたくて堪らないが。

 

「まぁ【宵闇】の守護は代々こんな言葉遣いなんで大目に見てくださると有難いんですがね」

 

何気ない一言に皇国軍人たちは凄まじいカルチャーショックを受けた。

え?代々こんな言葉遣いなの?上司怒らないの?

あまりの文化の違いに皇国軍人たちは戦慄した。

 

「あ、こいつが蒼龍クリスタルです。ここに署名してさっさと持って行きやがれという訳あいりますわ」

 

【宵闇】の兵士達によって運ばれてきた蒼龍クリスタルを皇国軍人たちが見る。

ここに来るまでは蒼龍クリスタルを引き取るという重大な使命に全員が緊張していたのだが、【宵闇】の守護の凄まじい言葉遣いによって完全に毒気を抜かれ、多くの者がさっさと引き取って自分たちの常識の中へ帰りたくなっていたのでソユーズは蒼龍クリスタル確認すると同時に【宵闇】の守護が渡してきた受取書に速攻で署名し、ルーキンが蒼龍の軍人たちにかなりの早口かつ敬語で別れの挨拶をして、直後に皇国軍人たちが一致団結して蒼龍クリスタル凄まじい速さで大型艦載艇に運び入れて、早々に離陸した。

 

「ソユーズ。世界は広いな」

 

ルーキンの疲れ切った言葉にソユーズは重々しく頷く。

ハッキリ言って今まで培った常識が崩壊した気分だ。

ソユーズはチラっと蒼龍クリスタルへ目を向ける。

本来なら今頃は、蒼龍クリスタルを引き取るという歴史的重大事に立ち会ったことを誇りに思い、皆と一緒にすこし騒いでいただろう。

が、そんな幻想をたかが言葉遣いで粉砕した蒼龍の文官のなんと恐ろしい事か。

 

「おい、あいつら誰だ?」

 

ルーキンが蒼龍クリスタルの周りにいる白衣を着た人物達を見て首を傾げる。

 

「ああ、あいつらは第四鋼室の奴らだ」

 

ルーキンの疑問に答えて、ソユーズはそういえば第四鋼室出身の部下が帝都での戦いで【朱の魔人】相手に戦死した記録を見たことを思い出した。

自分の副官だったらしいが、全く実感がない。

 

「ソユーズ少佐。【ロマノフ級】から着艦許可がでました!」

「よし、なら着艦体制に入れ!」

「ハッ」

 

こうして蒼龍クリスタルは親善艦隊と共にミリテス皇国へと移送された。

 




+御召艦【ロマノフ級】
本来はパラディス家専用の座乗艦。
ルシスがシドのことを高く評価していることを示すために特例として下賜した。

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