ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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今回の話は殆ど原作のまま。


諜報活動

ホテル・アルマダで諜報部が寝泊りしているある平凡な扉の奥にある一室。

その部屋の中は一面機械だらけであり、ここがまともな部屋でないことを示している。

驚くべきことにベットが幾つかあり、その辺りがやや生活感があることから諜報部の連中がここに寝泊りしていることがわかる。

 

「少佐、大尉。お疲れ様です」

「…………………………ああ」

「……大丈夫ですか、少佐」

「ベルファー、これが大丈夫だと思うのか?」

「……」

 

が、ついさっきこの部屋に入ってきたソユーズとベルファーはそんなことは気にも留めない。

正確には突っ込む気力すらなかったと言える。

主な原因は朱雀のクラサメ士官が来てすぐに来た蒼龍人3名である。

 

「あの女王が【朱の魔人】にいったいなんのようなんでしょうね?」

「それを調べるのが諜報部の君たちが課せられた任務なのでは?」

「大尉の言うとおりですね。では魔人がいる部屋の1番の盗聴器に合わせてください」

 

そう言うと諜報部の人間たちが機械を弄りだす。

そしてソユーズとベルファーも置いてあるヘッドホンを被り、一番の盗聴器にチャンネルを合わせる。

 

『失礼しました。

私は【アンドリア・カヤ・トランカ・ファム・フォーチュリオ】

蒼龍府より、会談の立会人として白虎に参りました』

 

あのソユーズとベルファーの頭を悩ませた蒼龍女王の声が聞こえ、

 

『えぇーーー!!』

『声が大きいです!』

 

『蒼龍の女王?!マジかよ?コラァ!

城からでるなんて聞いたこともねぇぞ。オイ?』

『よその国で会ったことあるやつなんて世界でも一握りでしょ』

 

という偽らざる子ども達の声がヘッドホンから聞こえてきた。

 

「……少佐」

「なんとなく言いたいことはわかるが言ってみろ。ベルファー」

「あいつら、一国の国家元首と話してるって自覚あるんですかね?

というか同盟国の女王陛下に対して、これはどう考えても無礼でしょう」

「……深く考えてないだけだろう。たぶん」

 

ソユーズの言葉に部屋中に居た人間全てが同情的な視線を向けた。

 

 

 

マキナは周りの驚きの声が静まったのを見計らって蒼龍の女王に話しかけた。

 

「女王陛下が……一体、何をしに?」

 

控えめな声ではあったが、この場にいる0組全体の疑問であった。

すると竜の遠吠えが聞こえてきた。

 

「わかっています」

「?」

 

まるで遠吠えに答えたかのような女王の言葉にマキナは首を傾げた。

 

「休戦に不服ですか?」

「?! いえ……」

 

それはたかが一候補生が答えていいことではない。

しかし、自分たちが遂行していた帝都潜入作戦を無視して停戦を決断していた八席議会への不満があった。

その不満が候補生としてではなくマキナ本人の感情を吐き出させた。

 

「はい。納得できません。

皇国はルブルムを……クリスタルを踏みにじった。

手を結ぶことなんて考えられない」

「その思いはクリスタルの意志に反しています」

「!? ……」

 

はっきりとした否定の言葉にマキナは黙り込む。

それをフォローしようと隣に居たレムが口を開いた。

 

「私たちは、クリスタルに忠誠を誓いました。

一度も、裏切ったりなんてしていません。

なぜ意志に反しているなんて言えるんですか?」

「わたくしには、クリスタルの心を伝えてくれる友がいます」

 

女王の言葉に応えるように竜の遠吠えが響き渡る。

 

「竜に選ばれた者は、彼らと心を重ねます。

そして、竜はクリスタルの化身……

わたくしたちは、クリスタルと心を重ねているのです」

「この停戦が、クリスタルの望みとおっしゃるのですか?」

 

女王の言葉に納得いかないマキナは口を開いた。

 

「広い視野で見なさい。

クリスタルの望みは、互いの均衡。

傾きのない世界、あるべきかたちの世界。

戦いだけでは作れない未来もあるのです。

その意味を理解しなければ……

フィニスの導きを自らが担うことになりますよ」

「……!」

 

アギト、平和と救済をもたらす者。

フィニスの訪れ、つまり世界の終焉を退ける者となるため日夜魔導院で修行しているのが候補生だ。

少なくとも名目上は。

そのように修行している彼にフィニスの導きを担うことになるなどというのははっきり言って侮辱に等しい。

思わず前のめりになって女王を睨みかけたマキナをエイトが手を出して止める。

 

「なぜオレたちにそんな話をする?」

「あなた方は、わたくしが視た【最後の歯車】だからです」

「??」

 

0組でも冷静な方のエイトも女王の言葉を量りかねて怪訝な目をする。

 

「あなた方の歩む道に光があらんことを……

そして……」

 

女王はマキナ方に顔を向けた。

 

「――――」

「えっ?」

 

女王の残した言葉をマキナは意味が分からなかった。

そして女王はそのまま退室していった。

残された0組のメンバーは先ほどのことに頭を悩ませる。

 

「? 結局、何しに来たの?」

 

ケイトは首を傾げた。本当になんで自分たちに会いに来たのかわからない。

0組のまとめ役的存在であるクイーンはマキナに疑問をぶつける。

 

「マキナ。女王は、最後になんと言ったのですか?」

「いや、よくわからないんだ。選択がどうの、とか」

 

暫く首を傾げて考えたがやがて首を左右に振って、

 

「訳が分からない」

 

という結論に至った。

この時のマキナには女王の言葉はどうしても意味不明なものしか思えなかったのである。

 

「しかし、均衡とはどういうことだ?

何もするな、何も起こすなってことなのか?」

 

セブンも視線を床に落として考える。

 

「それがクリスタルの真意かどうかなんて私にはわからないよ。

竜となんか、話せないもん。

でも、クリスタルが戦いを望まないなら私たちはなんのために戦っているの?」

 

レムの問いに答えられる人物はこの場には誰もいなかった。

 

 

 

諜報部の方々が寝泊りしている奇怪な部屋。

そこではソユーズが苛立ち気に呟いていた。

 

「クリスタルが戦いを望まない?クリスタルの真意?

なにをどうでもいいことを話し合っているんだ」

「クリスタルの犬と化した連中のことなんてそんなものなのでは」

 

ベルファーも自分の考えを述べた。

皇国ではクリスタルの意志がどうこうなどあまり関係ないのだ。

そんなものを本気で気にするのは皇国で旧帝室軍部の連中か貴族階級くらいだろう。

ルシの動向には気を使う必要性があったが基本はクリスタルの意志など関係なく、戦争を起こし続けてきた。

よしんばクリスタルの意志などという言葉を使うことがあってもそれは外交上のポーズか、ただの大義名分の補強くらいに過ぎない。

 

「なにか興味深いことがあってら教えてくれ」

「分かりました」

「あの~、少佐、大尉。非常事態が発生したっぽいのですが」

「「なに!?」」

「えーと、4番のやつのを聞いてください」

 

そう言われてソユーズとベルファーは4番の盗聴器のチャンネルにセットする。

すると……

 

『ザザ……わ……に、この……をあてがったのかと思いまして』

 

「まさか、なぜこの部屋をあてがったのかといっていたのか?」

「はい、その通りです大尉」

 

ベルファーの質問に諜報員が頷く。

ソユーズもこれはヤバイかもしれんと思い始めた。

 

『窓には格子(こうし)。入口は1つ。そして……』

 

まずい!殆ど感づかれている!!

妙な緊張感に奇怪な部屋は包まれ始めた。

そして……

 

『ん~、お客さん用の部屋じゃないかな?

水も流れてて、気持ちいいよ~』

 

あまりにもあんまりな相談相手の答えに奇怪な部屋にいた人達がずっこける。

 

『ふっ、そうですね』

 

「「「「「「お前も納得してんじゃねぇっ!!!!」」」」」」

 

全員の魂のツッコミが奇妙な部屋中に響き渡った。

皇国としては納得してくれた方がありがたいのだが、こうもあっさり納得されてはなにか釈然としない。

 

「あの、少佐。大尉」

「「なんだ?」」

 

諜報員の一人が僅かに躊躇って口を開いた。

 

「この会話してるのって、あの【朱の魔人】なんですよね?

それにしては……その、なにか色々とぬけすぎではありませんか?」

「朱雀の優秀な戦士は非常識な者が多いらしい。

これはそのひとつの典型な気がするのだが」

「そうなのかなベルファー。

私はもう深く考えたら負けと思えてきたよ。

というか、こんなやつらに味方が何千人もやられたなんて思いたくない」

「少佐、気持ちは分かりますが現実を受け止めねば」

「無理だ!もう私はこれ以上耐えられそうにない!

ルーキンの奴なら笑いながら聞きそうだが、私には無理だ!!」

 

ソユーズが精神的にまいり始めたのをベルファーがなんとか立て直そうとする。

イヤホンを外し、しばらく言葉にならない唸りをもらしてなんとかソユーズの精神が立ち直った直後。

 

「あの~少佐。また気になる会話が……」

「また変なことになったら任務放棄するぞ」

「少佐。落ち着いてください」

「いえ、それはないと思います。

なんでも軍令部長が魔人の一人に話があるそうでして……」

 

諜報員の言葉にソユーズは目の色を変えた。

0組は軍令部に組み込まれているが、魔法局の私兵的面も持ち合わせている。

なのに魔法局を刺激する可能性があるにもかかわらず、軍令部長のスズヒサ自らその一人に会うということはそれだけの理由があるのだ。

 

「何番だ?」

「7番です」

 

ソユーズはそれを聞くと再びヘッドホンを被り、チャンネルを7番の盗聴器に合わせた。

 

 

 

マキナは不思議に思っていた。

なにか軍令部長から呼ばれるようなことをした覚えがなかったのだ。

 

「オレに何の用ですか?」

「いや、君に事実を伝えるべきか、実に悩んだのだが」

「?」

 

スズヒサが何のことを言っているのかわからず、マキナは首を傾げる。

 

「それも、こんな時に言うべきことではないのかもしれん」

「あの、何の話ですか?」

「君の兄上のことだ」

「!?」

 

予想外な軍令部長の言葉にマキナは息を呑む。

【首都解放作戦】の詳細を調べて兄が何の任務で死んだのか調べたりしても見つからなかったのだ。

 

「君は兄上の死に関して、納得がいってないようだね。

君から兄上の死に関する問い合わせがあったと報告を受けている」

「いくら探しても、あの日、兄さんがあたっていた任務の記録がないんです」

「君はもう察しているだろうが、君の兄上は極秘任務を遂行し、戦死した」

「兄さんが……極秘任務を?」

 

確かに記録が残っていないのだから記録に残せない極秘任務にあたっていたのではないかと考えはした。

しかし自分の兄は普通の一兵卒。

とても極秘任務を任せられるような人では……

 

「首都解放作戦での0組の投入は極秘事項だった。

私でさえギリギリまで知らされてなかったのだ。

よって戦場に投入された0組と、作戦司令部のかけ橋が急遽必要になった。

そのかけ橋が、君の兄上だったのだ」

「それで兄さんはあんな前線に!?」

 

確かに納得はいく。

首都解放作戦で出撃したことにあっていないのに最前線で戦死したのもこれで辻褄はあう。

しかし、しかしなんで自分の兄が?マキナはそう思わずにはいられなかった。

 

「そう、君の兄上はドクター・アレシアと0組のせいで亡くなったのだよ。

いや、彼らが殺したといっても過言ではない。

君の兄上は本来、別の任務に就くことになっていた。

それを0組が勝手に出動させ、死地へと誘ったのだ!

君の兄上は死ぬ必要などなかったというのに」

 

これはスズヒサの本心でもある。

少なくとも自分なら彼の兄をそんな危険な任務に就けたりなどしない。

あれは殆ど独立召喚連隊の奴に死んで来いと命令しているようなものだ。

いや、それだって軍神が召喚されるから許容されているのであってこれでは完全の無駄死にだ。

スズヒサから言わせれば彼が極秘任務達成できたこと自体が奇跡のようなものだ。

 

「あいつらが兄さんを……!」

「君が0組に配属されたのは、その素性も目的も謎であるドクターと0組を監視してもらうためだった。

だが、まさか君と0組の間にこんな因縁があろうとは」

 

これは反アレシアの八席議会の議員にとっても予想外だった。

なぜなら彼らは0組が後暗いことをしてない証明のために優秀な候補生を送り込んだだけだったのだ。

 

「もし彼らと過ごすことが辛ければ、私が特別に君を他のクラスに異動するよう計らおう。

彼らの監視の任はレム・トキミヤ一人に任せることになるが……」

「! ま、待ってください!

レムをあのクラスに一人残すことなんてできません。

第一レムには、同じクラスの仲間を監視するなんてできないと思うんです」

 

マキナはそこまで言うと小さな声で続きを呟く。

 

「あいつは……優しいから」

 

そう、レムにそんな真似できるはずがない。

そんなの昔からよく知っている。

ならば……

 

「オレも引き続き0組に残ります」

「ほほう!そうかね!さすがクナギリ君の弟だ!」

 

これもスズヒサの本心である。

よほど強い意志がなくては彼の兄を記録を見る限りどう考えても無理難題以外の何物でもないあの任務を命と引き換えとはいえ達成できるはずがない。

そしてその精神はその弟も持ち合わせていたようだ。

 

「彼らに不審な動きがあった時は報告してくれ」

「はい」

 

そう言って身を正したマキナを頼もしそうな目で見ながらスズヒサはホテルを後にした。

 

 

 

0組と軍令部の関係の一端がわかる情報を得て、諜報員達は本部に報告だのなんだの言っている。

しかし、ソユーズはそれでもヘッドホンをつけっぱなしだった。

なぜかというと……

 

『……兄さん。オレは誓うよ。

兄さんを奪った0組の誰よりも、オレは強くなる!

オレは兄さんと兄さんの思い出を失った……

けど、レムは絶対に失わない!

守りぬく!何をしてでも!』

 

「少佐、こういうのって胸の内で思うことであって口に出すべきものじゃないですよね?」

「言ってやるな。とんでもないことが分かってしまって彼も混乱しているんだろう」

 

マキナの独白を最初から最後までバッチリ第四大隊の指揮官及びその補佐に聞かれることとなったのである。


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