ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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私はこの小説執筆経験から一人称で書くのが向いていないとこを実感しました。
なのでこの話から全て三人称で書きますがどうか赦してください。


第4章 激変する盤面
朱の魔人


氷の月(06月)23日

帝都イングラムにある基地の一室。

帝都防衛旅団所属の佐官達が会議を開していた。

参謀のハーシェル中佐、第二大隊指揮官ヴェールマン少佐、第三大隊指揮官ルーキン少佐、第四大隊指揮官のソユーズの四人である。

昨日の第四鋼室の一件で戦死した参謀シャルロ中佐と重傷を負い病院のICU(集中治療室)にいる第五大隊指揮官のイシス少佐。

そして旅団長のクラーキン少将と一緒にアーウェン航空基地にいる第一大隊指揮官のシュトロハイム少佐を除けば、旅団所属の佐官が全員集まっている。

 

「【朱の魔人】の監視任務か……」

 

配られた書類を見ながらルーキンが頭を掻きながら呟く。

 

「表向きには一部の過激な皇国人から彼らを守る警護任務ですが」

 

ヴェールマンが控えめな声で補足し、ハーシェル中佐の方を向く。

 

「しかし、旅団長不在のこの時に彼らを我が旅団が預かる必要があるのですか?

クラーキン少将は明日午後十二時に帝都に戻る予定ですのでそれまで准将に任せておけば……」

「駄目だ。カトル准将には元帥閣下より別命があり、魔人共にだけ関わってられる状況ではない。

そして准将直属部隊を除き、いざと言うとき魔人共とまともに戦闘を行える部隊は現時点で我が旅団しかないのだ」

 

ハーシェルの説明にヴェールマンは黙り込む。

軍人にとって元帥からの命令は将官でもない限り、反論すら許されない絶対服従の命令なのだ。

 

「カトル准将に別命?なにかあったのですか?」

 

ソユーズが疑問を口にする。

 

「ああ、元帥閣下は明日明朝から蒼龍女王と一緒に来ていた王派の文官達と交渉に入る。

無論、公式の記録には残らない交渉だが、それでも閣下を守る警護役は必要だ」

「なるほど。それで警護役にカトル准将の部隊が選ばれたわけですか」

 

つまり皇国の武力を蒼龍の文官に見せ付ける形で交渉するということ。

向こうは女王に忠誠を誓う者たちを欺いて来なければならないからかなりの少人数だろう。

要するに軽装備の文官数名が完全武装の皇国兵数十名に囲まれながら交渉をするということだ。

物量で攻める皇国のスタンスはこういう外交の場でも存分に発揮されるのだ。

 

「それで【朱の魔人】の管理を俺達がするというわけですか。

それにしても【東の嵐】作戦の概要を知ってる俺達からしたらとんだ茶番ですがね」

「貴様、もっとマシな言い方はないのか?」

 

ルーキンの遠慮のない言葉をヴェールマンが咎める。

 

「どれだけ言葉を飾っても茶番は茶番でしょう」

「そうだな。ルーキン少佐。

しかしそんなことを言いふらすようならば軍法会議にかけられても文句は言えんぞ?」

「言いふらす気なんてありませんよ。中佐」

 

仮面越しの鋭い眼光に睨みつけられ、ルーキンは肩を竦めて、軽く会釈程度に頭を下げる。

それを見てハーシェルは軽くため息を吐いた。

 

「それで、魔人共の警護及び監視任務につきたい者はいるか?」

「私の隊は朱雀軍と交戦経験がない者が多いので不安が残ります」

「俺のとこも半壊した第五大隊の連中を預かってるから連携面で不安があるな」

 

ハーシェルの問いにヴェールマン、ルーキンがそれぞれ懸念を述べる。

それを聞いてソユーズの顔が青ざめる。

その様子を見ていたハーシェルは一度頷くと決断を下す。

 

「ではソユーズ少佐。お前の第四大隊に【朱の魔人】の警護任務を任せる」

「……中佐、この警護任務、下手な前線で戦うより危険度が高くありませんか?」

「ファブラ協定を無視して魔人共が攻撃してくるようならば協定に基づき彼らを死刑に処せる。

彼らもその事くらい分かっているだろうから然程危険度は高くないと思うが?」

「副官のイネス大尉がルシ・クンミの件で【朱の魔人】と確執があるのでこちらから手を出す危険性が……」

「なら彼女には別命で鋼室の技官達とヴァジュラの改良に取り組ませる。

【東の嵐】作戦第二段階が実行された暁には彼女が【朱の魔人】撃破の功労者となるだろうな」

「……わかりました。

【朱の魔人】の警護及び監視の任務、我が第四大隊が遂行いたします」

 

既に外堀を埋められていることを悟り、ソユーズはそう言って敬礼した。

隣からヴェールマンの安堵のため息とルーキンの押し殺した笑い声が聞こえたがソユーズは無視した。

 

 

 

第四大隊指揮官執務室に戻ると副官達に出迎えられた。

ベルファーが引いた椅子に座り、イネスが淹れた紅茶を受け取って飲むと先の会議での決定を知らせた。

 

「我々は【朱の魔人】の護衛任務を命じられた」

「【朱の魔人】の……ですか?」

 

イネスの目に危ういものが浮かぶ。

しかしそれは一瞬で、すぐに元に戻り疑問を口にする。

 

「ああ、もっともこの停戦はそう長い間続かないだろう。

だからどちらかというと彼らの動きを監視する意味の方が強い」

(実際にはこちらから停戦をぶち壊しにするのだが……)

 

ソユーズは後半部を心の中だけで呟いた。

【東の嵐】作戦は実行直前まで作戦に参加する佐官以上に者しか話してならないことになっているのである。

だが、いくら守秘義務が課せられているとはいえ、敬愛するクンミを殺されたイネスの心情を慮ると本当に停戦すると思い込ませるのは心苦しい。

それゆえに微妙な言い回しをしたのだがイネスにとって満足のいく言葉であったようだ。

 

「そうですか。

では、私はどうするべきでしょう? 正直に言うと彼らを前にして正気を保てるとは思えないのですが」

 

イネスの背後にどす黒いなにかが浮かぶのをソユーズとベルファーは幻視した。

彼女が本気で怒るととんでもなく恐ろしいのは2人ともよく知っているので冷や汗を流す。

ソユーズは会議でイネスの件をハーシェル中佐に言っておいてよかったと内心で安堵していた。

 

「ああ、そのことなら安心しろ。

イネス大尉には第四鋼室でヴァジュラの改良の任に就いてもらう。

残念なことに君の乗るヴァジュラではなく、ダグラスのものではあるが」

「少将直属の方のものを?」

「ああ、技官達の話を聞くに殆ど専用機のようなものにするつもりらしいが……」

「わかりました。では私のヴァジュラは?」

「第四鋼室に場所を確保してある。

もし緊急の命令があれば、私に連絡をいれて帝都防衛の任について貰いたい」

「ハッ」

 

イネスはそう言って敬礼すると執務室から出て行った。

 

「ベルファー、指揮下の一個中隊に警護の任があることを伝えてくれ。

私は適当に兵を見繕ってカトル准将に警護に引継ぎをしてくる」

「ハッ」

 

ベルファーが敬礼するのを確認すると残っていた紅茶を飲み干して席から立ち上がり、ソユーズは執務室から出て行った。

 

 

 

ホテル・アルマダ。

帝都有数の高級ホテルであり、総督府から車で数十分というそれなりに近い場所にあるため、他国の使者を宿泊させたり、総督府の要人が体を休める為に利用したりする。

そしてあまり知られていないが、昔は貴族がなんらかの容疑にかけられた場合、このホテルの一室に軟禁したりもした。

そんなホテルには現在、【朱の魔人】が賓客として滞在している。

 

(さて、いつまでその状況が続くか)

 

無論、賓客として扱われている彼らの宿泊している部屋はかつて貴族たちを軟禁した部屋と同じである。

これだけで【東の嵐】作戦を知らなくても聡い奴ならばどういうことをするつもりなのか察せられるだろう。

もっとも軟禁部屋という前提を知っている者が皇国でさえ極少数なので他国の人間が察するのはほぼ不可能ではあるが。

ソユーズはホテルで警備の指揮をとっているカトル准将のいる部屋の扉をノックした。

 

「入れ」

「失礼します」

 

扉を開け、ソユーズはカトル准将に向かって敬礼する。

 

「帝都防衛旅団第四大隊指揮官のソユーズ少佐です。

【朱の魔人】の警護任務の引継ぎに来ました」

 

隻眼のカトル准将はソユーズに目線を向けると頷いた。

 

「そうか、ご苦労。

では、引継ぎのための書類と文官達、そして諜報部の連中について説明しておこう」

「ハッ」

 

そうしてカトル准将から説明を受け、ホテルに詰めている文官諜報員と挨拶を交わして、書類上の手続きも終わらせた。

 

「あとは君の副官が連れてくる1個中隊が到着すれば引継ぎは完了だな」

 

カトルはそう言ってソユーズを見つめ、ふと思いついたように言った。

 

「そうだ。護衛対象の【朱の魔人】達を見ておくか?」

「は?」

「見ておいて損はない。彼らは間違いなく今後とも我らにとって強大な敵となる」

 

ソユーズは少し迷ったが、確かに護衛対象をこの目で見ておいた方がよいと判断して頷いた。

するとカトルはソユーズを連れて【朱の魔人】が宿泊している貴賓(軟禁)室に案内した。

そこには14人の子供達が思い思いに寛いでいた。

 

「准将、如何なされたのです?」

 

この部屋の入り口にいた文官が驚いた風に声をかける。

 

「警備の指揮をソユーズ少佐に移すのでな。

護衛対象を見せておいた方がよいと思ってな」

「護衛? 監視の間違いじゃないの?」

 

胡散臭げな目をしながら睨んでくる魔人の女の子。

しかしながらどちらかというと少女というより少年といった方がしっくりくる雰囲気を纏っている。

 

「隠す必要もないから言うが、そういう側面もあるな」

「……あっさり認めちゃうんだ」

「まあ、隠した所であまり意味はないでしょうしね」

「そうなの?」

「そうですよ。ケイト」

 

ソユーズの返答にケイトと呼ばれた少女は呆れた顔をして、背の高い少年に諭されていた。

 

「まあ、あまり君たちと会話する時間はないだろうが……

とにかく君らが帝都にいる間は私の部隊がこの辺りを警備することを伝えておこうと思ってな」

「そうなの~。短い間だけどよろしく~」

「……シンク、その間の伸びた話し方は相手に失礼ですよ」

「トレイはいちいちうるさいよぉ」

「なっ!!」

 

シンクの言葉にトレイは絶句し、ケイトはシンクの言葉は尤もだと言わんばかりに何度も頷く。

その様子を見ていたソユーズは想定外の光景にやや呆然とする。

ソユーズは【朱の魔人】――0組を化物ののような存在だと認識していたのだ。

しかし、どう見ても自分の息子であるアドルフと同じ、もしくはそれより下の年頃の子ども達。

それがこのような……士官学校で士官候補生達が空き時間にする他愛のない雑談染みたことを0組の少年少女らは繰り広げているのだ。

流石に予想外というほかない。

目の前の少年少女は戦争というものを、人を殺すということをちゃんと理解できているのだろうか?

もし理解できているのならば休戦中とはいえ、敵地でこれほど寛ぐなど考えられない。

いや、彼らはこれは悪くないのかも知れない。

少年少女らを前線に出すことを是としている彼らの国こそ批難すべきなのかもしれない。

彼の国の教育機関で幼子の頃から学ぶのは魔法の使い方であり、戦い方であるという。

これには朱雀の民以外の殆どが眉を顰めるという。

【優秀な朱雀の兵士は非常識な者が多い】

軍事教本に書かれていた一文が事実であるとソユーズは改めて認識した。

しかしこれは主に10代後半~20代半ばの人間しか戦力にならない朱雀にとっては当然のことなのだ。

 

「准将」

「なんだ?」

「よく小競り合いをしていた敵国に対する嫌悪感が一層強くなりました」

「……」

 

ソユーズの小声の言葉にカトルは黙り込んだ。

 

「で、いつになったら帰れるんだコラァ!!」

「ナイン、喧嘩腰はやめなさい!!」

 

ナインと呼ばれたチンピラ風の少年をまとめ役って感じのする眼鏡をかけた少女に諌められた。

 

「我が国の外務庁によると朱雀の渉外局から3日後にカリヤ院長自ら多数の護衛を伴ってこの帝都に来られるという旨を受け取っているそうだ」

「院長自ら!!?」

 

0組の数人がそのことに驚く。

一国の国家元首が交戦中の他国に、それもその国の首都に赴くなど異例にも程があるからだろう。

既にコンコルディア王国のアンドリア女王が帝都におり、四大国の一角であるロリカ同盟はミリテス皇国に吸収される形で消滅していることを考えると、3日後に残る三極の指導者全員がこの帝都に集うこととなる。

 

「それから諸々の手続きを終えた後に正式に朱雀側の預かりになるから4日後に帰国可能になるだろうな」

「じゃあ、それまで朱雀がどうして停戦に合意したのか聞けないのか!?」

 

黒い髪をした好青年が今にも掴みかからんという勢いで聞いてきた。

 

「それは君たちの通信機……なんと言ったけ?【COMM】とやらで本国に聞けばいいだろう」

 

ソユーズが怪訝な顔をしながら問うとマキナは黙り込む。

皇国側は与り知らぬことではあるが、彼らは帝都侵入の際に【COMM】を捨ててきた為、連絡手段がないのだ。

 

「とにかく、どんなに嫌でも4日後まではここに居てもらうことになりそうだ。

そしてそれまでは私がこの辺りの警備をすることになる」

 

ソユーズはそう言うと0組に与えられている部屋から出ていった。




+【東の嵐】作戦
適当に名前を考えました。

+0組
原作主人公組である0組初登場。
なぜか0組の連中の描写が凄くむずかった。

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