ソユーズ少佐の皇国軍戦記   作:kuraisu

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創作意欲の低下・入試勉強・ネタ帳が行方不明。
以上の3つの問題を乗り越え、久しぶりの更新です。


侵入者そして……

氷の月(06月)22日

ヴェランス大公の反乱は秘密警察の工作により朱雀の陰謀という形で皇国民には認知された。

朱雀側は一切関与していないと言ってはいるが、敵国の言葉など自国の主導者達の発表が余程信じられない限りもので皇国民が耳を傾けることなど殆どないので当然だ。

 

「少佐、この書類にサインをお願いします」

 

イネス大尉がそう言って執務室で書類を決裁していた私に書類を提出してきた。

 

「鋼室の技官の移動?何のためだ?」

「先日配備されたばかりのヴァジュラの整備のためです。

ヴァジュラは最新型で、それも量産化されていないものも多いのです。

ヴァジュラ開発に携わっていたのが私だけでは整備に不安が残りますので」

「なるほど」

 

私はその書類にサインして、了承の印を押した。

 

「ほら。これを人事局に提出すれば、第四鋼室から数日内に人員が回されるだろう」

「ありがとうがざいます」

 

イネス大尉がそう言って書類を受け取ろうとすると、警報が鳴り響いた。

 

『白虎第四鋼室に侵入者あり!敵は【朱の魔人】と思われる!繰り返す――』

 

その警報を聞いた瞬間、イネス大尉が鋭い声をあげた。

 

「朱の魔人!!」

 

イネス大尉の目にははっきりと憎悪の色が浮かんでいる。

彼女が敬愛していた私の元部下であるクンミの仇がこの帝都にいるのだから当然だろう。

しかし今は私情を優先すべき場ではない。

 

「大尉、気持ちはわかるが後にしろ!ベルファーが何処にいるか知らんか?」

「ベルファー大尉なら今の時間は休憩室に――」

「なら警報を聞いてすぐ来るな。君はクラーキン少将に……って今はアーウェンに出張中か。

参謀のハーシェル中佐を探し出して連絡を取ってほしい」

「わかりました」

 

イネス大尉は敬礼をすると執務室から出て行った。

私も指揮下の兵の指揮をとるために執務室を飛び出して、道中に考える。

【朱の魔人】どもの目的はなんだろうか?

第四鋼室には特殊な鋼機の開発を担っている研究機関。

ここを潰せば朱雀側に大きな利益が齎されることは考えられる。

しかし……朱雀側の目的が決してよくはないがそれだけならまだいい。

もし、朱雀側が今日シド元帥が第四鋼室に視察に行っていることを知っていて元帥の暗殺を企んでいるなら相当まずい。

今、第四鋼室にいる軍人はシャルロ中佐直属部隊とイシス少佐指揮下の第五大隊所属の一個中退が鋼室の警備にあたっている筈だ。

となれば第四鋼室の警備にあたっている兵員は300人以下だ。

あの【朱の魔人】ならその程度の警備は普通に突破できてしまうだろう。

 

「少佐!既に指揮下の中隊をまとめました。我が第二中隊ならいつでも出れます!!」

 

アトラス中尉が走ってきて私に報告してくる。

 

「ああ、だがまだ待て。指揮系統が整っていない状態で突っ込んだら敵の思う壺だ」

「その通りだな」

 

声が聞こえた方に振り向くとヴェールマン少佐が難しい顔をしながらこちらに歩いてきていた。

やはりハーシェル中佐に指揮を執ってもらうしかないか。

そう思っていた時に放送が鳴り響いた。

 

『帝都防衛旅団各員に告げる! 私は参謀のハーシェル中佐だ』

 

聞きなれた仮面の軍人の声がスピーカーから聞こえてくる。

その内容に私達は耳を傾け、そして驚愕することになった。

 

『軍規207条第4項に則り、指揮権を独立遊撃部隊体長のカトル准将に一時的に貸与する。

旅団各員は准将の指揮に従い、速やかに侵入者を排除せよ!!!』

 

カトル准将が!?

というかあの人、帝都に戻ってたのか。

確か、メロエの長城要塞に常駐し、朱雀の防衛線に隙あらば前線に出撃していたはずだが……

 

「ソユーズ少佐、准将は昨日状況報告で帝都に戻っていたではありませんか」

 

いつの間にやら私の隣に居た副官のベルファーが呟くように言った。

そういえばルーキンの奴からそんな話を聞いたような……

とにかく今はカトル准将の指揮の下、早く動くべきだ。

 

『各大隊は送信した地図の指示通りに動け』

 

施設内の地図に様々な指示が書かれたものが数十枚伝送されてきた。

 

「よし、全員地図の指示を二分で頭に叩き込め」

「少佐、室内戦だとヴァジュラに乗るわけにはいきません。

予備のウォーリアか警護用のガルドメアでの出撃の許可を」

「許可する。イネス大尉の好きな方を選べ」

「ハッ!」

 

数分後、全員軍用車輌に乗り込み、帝都郊外に位置する第四鋼室についた。

 

「援軍ですか!?」

 

声が聞こえた方向を見ると警備をしていた第五大隊の隊員が自分を見かけると敬礼していた。

 

「閣下は?」

「元帥閣下の身の安全は侵入者を察知した直後に最優先で確保しました。現在は総督府へ戻っておられるかと」

 

それならひとまずは最悪の事態は免れたな。

 

「状況はどうなっている?」

「侵入者は第八区画におりますが、指揮官のイシス少佐とは連絡がとれなくなったので今はシャルロ中佐が代わりに指揮をとっております。中佐は敵の狙いが現在開発されている新型の巨大鋼機だと推測し、第9格納庫へ兵を集結させております」

「わかった。敵の狙いは第9格納庫にあるアレか。ベルファー、同じ情報を准将に送れ。

イネス大尉、お前はガルドメア隊を率いて地下の搬入路から施設内に入れ」

「「ハッ」」

 

副官二人が敬礼して去っていくのを確認した後、矢継ぎ早に部下に指示を出す。

数十分後、通信兵がやってきた。

 

「ハーシェル中佐からです」

 

そう言って差し出された受話器を受け取る。

 

「中佐。ソユーズ少佐です」

『そうか。医療班を送る。部下達に施設内にいる負傷者の救助を最優先で行うよう命じろ』

「は?」

 

あまりに予想外な命令に私は驚く。

皇国では人の命とはとても軽い。

勿論、無駄に浪費していいという意味ではないが負傷兵の手当てを敵の排除より優先することなどほとんどない。

個々の戦力差において他国に劣っている皇国軍が勝利するためには人手は多いに越したことはないのである。

実際、徴兵により集められた末端の兵の実力は銃の使い方を知っている一般人と大した差はないのだ。

その錬度の低さを補う為、皇国軍の基本戦術は数的優位を活かした物量戦となるのだ。

 

「まだ【朱の魔人】が施設内にいると思うのですがよろしいのですか?」

『既に侵入者達は機体ナンバー277の試作機を破壊し、ペリシテリィウムのクリスタルルームに場所を移している』

「ペリシテリィウムにいるならばなおのこと確保しなければならないと思いますがよろしいので?」

 

なにせペリシテリィウムはこの国の機械を動かすエネルギーを抽出する施設だ。

破壊されてもしばらくは貯蓄している大型C機関でエネルギーを賄えるだろうが、問題にならないはずがない。

 

『甚大な被害がでるのはほぼ確定事項だ』

「なぜです?」

『元帥の勅命によりルシ・ニンブスが【朱の魔人】達の相手をしている』

 

……甲型ルシと【朱の魔人】がクリスタルルームで戦っている?

ぺリシティリムは終わったかもしれん。

 

「よろしいのですか?」

『時間を稼ぐだけでいい。』

「なぜ?」

『【東の嵐】作戦の第一段階が達成間近だ』

「本当ですか?」

『コンコルディア王国の説得に成功した。となれば朱雀がこちらの用意したアメに飛びつくのも時間の問題だ。

既に蒼龍府の使者団が帝都に向かってきている。朱雀が決断を知ったと同時に停戦を宣言する気だ』

「予定より随分と早い決断ですね。あの男の言うとおり蒼龍女王はこちらの裏に気づいてないのでしょうか?」

『さぁな。だが、あの王族がこちらに取り込まれてることに気づいているのならばもう少し決断を躊躇う筈だ』

 

だろうな。

というか前にも思ったが王にならんとするあの男は自分が何をしようとしているかわかっているのだろうか?

オリエンスに存在する四大国の内朱雀領ルブルムを除く3ヶ国は君主国である。

勿論、一口に君主国といってもその3カ国が同じ国家体制というわけではないがミリテス皇国における君主との責任とコンコルディア王国における君主の責任に大きな違いがあるわけではない。

で、私達に通じている蒼龍の王族は間違いなく幽閉されて公式には行方不明ということになっている皇国の皇帝と同じ種類の人間だ。

あの男がコンコルディアの王となれば間違いなく蒼龍は滅びの道をひた走るだろう。

戦乱絶えぬこの時代では暗君の治める国家は他国にいいように利用されるのが常である。

 

「わかりました。負傷者の救助を最優先で行います」

『ああ、任せたぞ』

「ハッ」

 

受話器を置くと私は部下たちに振り返った。

 

「侵入者の追撃は中止!

第一中隊及び、ガルドメア隊を現地点にて待機。

他の隊の者は負傷者の救助にあたれ!!」

 

その指示が大隊全体に伝わっていくとイネス大尉から通信が入った。

 

『なぜ侵入者を、クンミ様の仇を見逃すような命令を?』

 

いつものような冷静な声を装っていたが、納得いかないと雰囲気が感じられた。

 

「元帥閣下直々の命令だ。抗命は許されん。

クンミ元大尉の仇を討ちたいというのはわかるがここは自重してくれ。

数日もしない内に彼らを殺す機会はくるはずだから……」

『…………わかりました』

 

必至に何かを堪えるような声でイネス大尉は返事を返した。

私は小さくため息を吐いた。

そして十分もしない内に施設内の全てのスピーカーから緊急通信が聞こえてきた。

 

『全皇国兵へ通達。

現時刻をもって戦時特例497が発令されました。

戦闘行為を含む全ての戦時行動を中断、中止してください』

 

『コンコルディア、ルブルム両国との休戦協議により、

戦時特例497が発令されました。……繰り返します』

 

こうして一時の停戦を告げる放送がしばらく鳴り響き続けた。

 

 

 

機械仕掛けの白い街。ミリテス皇国の帝都。

その上空を何百匹もの蒼い竜が舞っている。

 

『これより、【ファブラ協定】による

オリエンス3ヶ国の停戦に向けた会談を宣言します』

 

凛とした声が帝都に響き渡る。

それは蒼龍の飛空挺から発せられているものだった。

 

『パルス神の名の下、全ての戦闘を停止。

武器をおさめ、兵を引きなさい。

コンコルディアの女王【アンドリア】がこの戦いを預かりましょう』

 

蒼龍の乙型ルシでありコンコルディアの女王の停戦宣言。

それは上空の竜の大群を見上ながらそれを聞いた帝都の民達に不安を誘った。

 

 

SIDE シド・オールスタイン

総督府のテラスで蒼龍の女王の宣言を聞き終え、鼻を鳴らす。

 

「ふっ、ずいぶんと古い協定を持ち出したものだ」

 

鴎歴448年にペリシテリィウム間で【それぞれのクリスタルは不可侵】であることを謳って結ばれた協定だが、【パクス・コーデックス】と違って締結国が協定の発動を認めない限り、協定の内容を守る必要はない。

さらに言うならば協定が結ばれてから400年の間一度も発動されておらず、殆どの者が協定の存在自体忘れているほど古い協定だ。

おそらくはこの戦争がオリエンス大戦以来、初めての純粋なクリスタルの奪い合いを端に発していることを受けての判断だろうが、こちらの計画のことを考えるとあまりの滑稽さに笑いたくなってくる。

 

「それも女王自らのご登場とはな」

 

これは少しばかり予想外であった。

あの女王は王宮から外に出ることなど殆どない。

自分でもあの女王とは外交で王都マハマユリに訪れた時に一度会ったのみ。

 

「あの者の言葉、嘘ではなかったと言うことか」

 

正直、意外だったと言わざるをえない。

蒼龍女王のルシとしての力が弱まっているなどという情報が正しかったなど。

しかし、あの者のおかげで戦略的優位を築けそうなのも事実。

褒美に一時の夢をあの者に見せてやるとしよう。

そう考えると総督府の中へ戻っていった。




あ、因みに志望の入試に合格しました。

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