俺は人間があまり好きではなかった。
頭脳と器用さの引き換えに、自然で生きて行くための本能や単純な筋力等を捨てた。その事が呪わしくなる人生を送っていたからだ。
自分が人間でなければ何人助けられただろう、何回危機を回避できただろう、そう思ったことも一度や二度じゃ無い。
本能よりも理性を優先したせいで、何人“心”を傷つけられた者を見ただろう。
いっそ人じゃあ無ければ……何回そう思った事だろう。
人としての記憶や心を捨ててもいいから、人で無くなりたい……何度そう願っただろう。それが今―――
(今、その願いがかなったのか……)
俺は自分がやっていた数少ないゲーム、“GOD EATER”シリーズに登場するアラガミという化け物の一種、『ハンニバル侵喰種』となった体を見て歓喜に震え、思わず声を上げた。
「ゴオオオォォォ!」
咆哮を上げると、体に何かがなじんでいくのが分かる。最初に変っていないと感じたのは、どうやら人間から人外へと変わった影響に、ついて行ってはなかった為らしい。
とはいえ、オラクル細胞の配列をある程度変化させれば喋ることぐらいは可能だろう。尤も、その機会が来るかどうかは分からないが。
{ひあっ……}
ん? 今の声は……人か? それにしては少し妙な響きが―――
{ド、ドラゴンが何でここにいんだぁ!?}
{逃げろっ!}
{お、置いてかないでよぉ!?}
その言葉と共に、大小合わせて数えきれない動物が逃げだしていく。中にはファンタジーでよく見かけそうなモノもいた。
そうか、人間以外の言っている事も聞こえるのか……いや、本能だけの動物が話をしているかどうかは微妙だが……異世界なら話は別だろうがな。
しかし、あいつ等は“ドラゴン”という言葉を口にして逃げた……という事はこの世界にはドラゴンもいると言う事で間違いないのだろう。何だか縄張り争いに巻き込まれそうな予感がする。
気のせいだと言う事を祈るか。
それじゃあ、この体を満喫するとしますか。
視力は―――かなりのモノだな、流石アラガミ。嗅覚や聴覚も人間の比では無いな、これは。ただ尾が何処となく邪魔に感じるが、まぁオイオイ慣れて行けばいいだろう。アラガミだから食う物には困らんしな。
だが、いきなり生肉を齧るのは、前世で刺身やユッケが嫌いな影響もあってか抵抗がある……折角焔が使えるんだ、しばらくは焼くか植物を食って生きて行くか。
では早速炎を出して…………ん? なんだ? 焦げ臭いな。
俺はまだ焔は出していないし、ポ○モンのリ○ード○みたいに起きている時は常時火がともっている訳ではない、だから燃え移った訳でもないだろう。ならば何故だ?
「……ぁぁ」
「……ぉぉぉ」
「……ェ」
妙な響きの無い声、これが人間の声か。……野次馬根性というモノなのか否か、なんか気になるな……見に行ってみるか。野次馬根性はこの使い方であってるのか? まぁ、いいか。
■
side三人称
この国―――トリステイン王国という―――のある程度中央から離れた所に、ある村があった。領主の貴族は余りいい人柄では無いが、村人たちは毎日を楽しく生きていた。
大人達は畑を耕し狩りを行い、村の名物であるチーズなどを管理する、子供達は豊かな自然の中で駆けずり回る。不足している物は無く、あるとすれば税管理以外も良い領主を必要としているぐらいだろうか。
しかし、そこまで貧しい村では無かったからこそ、悲劇は起きた。―――起きてしまった。
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「ふんふ~ん♪」
ある一人の少女が、鼻歌を歌いながら木の実の一杯入った籠を手に、意気揚々と村への道を歩いていた。
「コレ見たらどんな顔するかなぁお母さん。大好物だもんね」
上機嫌でスキップも始めた少女は、ふと何かの叫び声を耳にした。それは前に一度偶然聞いた、竜種の叫び声にどこか似ており、少女は少しおびえる。
「こ、こっちには来ないよね……?」
少しの間固まっていた少女だったが、やがて何も無い事に安堵し、そのまま村への帰路を歩き続けた。
そして、村に着いた少女が見た物は―――
「そら、奪っちめぇ!」
「うわぁぁぁ!?」
「助けて! 助けてぇ!」
「待てゴラァ!」
「火ぃつけて燃やしてやらぁ!」
盗賊団に襲われる村人と、村の家々が燃え盛っている光景だった。