「本当に行く気かい?」
「当たり前でしょ!」
「ドラゴンか。俺、見るのはこれで二度目になるんだな」
「戦うのは初めてになるわね」
「頑張ってねダーリン」
「って戦う前提かよ!」
「……」
「僕の意見は無視かい!?」
やいのやいの騒ぎながら、しかしこっそりと抜け出す子供達がいた。
桃色がかったブロンドの少女・ルイズを筆頭に、黒髪のパーカーを着た少年・才人、何処かきざな雰囲気漂う少年・ギーシュ、豊満なスタイルを持つ赤毛の女・キュルケ、無表情な眼鏡をかけた少女・タバサが続く。
「それにしても、……その情報は確かなのかい? ミス・ヴァリエール」
「当たり前でしょ。家から連れてきたメイドが血相抱えて走っているのを、呼びとめて聞きだしたんだから。その後すぐ走ってっちゃったけど、その様子から絶対何かあるって思ったわ」
「いや、何で行くんだよ。その理由が聞きたいんだけども」
「竜討伐に貢献すれば、きっと認めてもらえる筈よ! だからよ」
「あら、ゼロのルイズが何言ってるのかしら? 全部ダーリンに任せて、手柄だけ掻っ攫っていこうって魂胆のくせに」
「五月蠅いわね! 使い魔の手がらは主人の手柄、だからいいのよ!」
「理不尽だなオイ!?」
彼らは、どうやら教師達の竜討伐に、コッソリ加わるつもりのようだ。
「……で、その竜ってどんな竜なんだ?」
「確かにそうね。火竜、風竜、水竜……は無いとして地竜、それぞれ特徴が違うから、対策も違ってくるモノね。……ルイズ、何か聞いてないの?」
「分かんないわ」
「分からない?」
「だって、その子は、竜の特徴の事なんて“黒竜さんが、黒竜さんが”としか言わなかったんだもの、黒い竜なんて聞いた事な―――」
と、その会話を聞いていたらしい“何か”が脇目も振らずに飛び出していく。
「あれ? タバサ、シルフィードに何か指示出した?」
「……出してない、けど」
一つ間を置き、タバサは呟いた。
「“お兄様が”……って、言ってた……」
「お兄様……って事は、その黒い竜はシルフィードの兄なのかしら?」
「それはあり得ないよ……だってシルフィードは青い鱗……風竜じゃないか」
そんな事を話しながら、一行は進んでいく。
締まっていても、どこか抜けた雰囲気が漂う彼らとは裏腹に、その風竜・シルフィードは、かなり必死だった。
(駄目なのねお兄様っ……暴れては駄目なのね!)
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学院から少し離れた場所に、討伐隊の第一陣が敷かれていた。
そして、一人の教師がやってくる“ソレ”を見つけた。
「……来おったか」
「なんだ……アレは……!?」
「ぐっ、見ているだけでも震えが……」
作戦を聞いた時に、ドラゴンを相手にするのは辛いが何とかやれるかもしれない、と思っていた教師達は、そのドラゴンの悪魔の如き風貌に、自身の認識の甘さを知った。
しかし、震えが収まらなくとも呪文は唱え、自身が打てる最高の呪文をそれぞれが準備し始める。
そして、その黒いドラゴンが射程圏内に入ったと同時に――――解き放った。
巨大な炎、一直線に走る雷、うねる濁流、岩の嵐、暴風の塊、全てが黒竜へと殺到し、大爆発を起こした。
ドラゴンの迫る音が消え、静寂が訪れた。
「これなら……幾らドラゴンでも―――」
そう勝利を確信した教師の一人が、次の瞬間黒い嵐に吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。
「ぐはっ……、くそ―――!?」
そして顔を上げた彼は、とんでもない光景を目撃する。
地は焼かれて燃え盛り、防壁は砕かれ面影も無く、人は飛ばされ血を流し、成すすべなく落ちる。そこに広がっていたのは正しく―――
地獄絵図だった。