接物語   作:貝木

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こよみリバイブの続きです。
              


【2】こよみスラップ(終物語 下「まよいヘル」)

「待ちかねたよ。阿良々木くん――――」

 

手をつないだ後、目を閉じるようにいわれ、軽い飛翔感があった。

「目を開けてください。阿良々木さん」と八九寺の声――――

 

見覚えのある北白蛇神社境内、アロハの中年が目の前に立っていた。

 

「阿良々木くんが現れたってことは、お嬢ちゃんも一緒ってことだな、僕には見えないが……どうも、お嬢ちゃん。ごくろうさん、大活躍だな」

 

そうか忍野には、この八九寺は見えないのか、というか、吸血鬼属性を失った僕が、

怪異化していない、八九寺の声が聞こえたり、触れたり、見えたりするのは、

『形を持っただけの魂』という、どちらかと言えば幽霊属性のあるものだからかと思った。

 

「忍野……久しぶり……って、それは何だ――――!」

忍野に再会出来たのはうれしいが、彼の後には、信じられない物が鎮座していた。

 

「おい、おい、阿良々木くん。まずは再会を喜ぼう。驚くのは理解できるが、見たままだよ――戦車だ。『10式』ってやつだよ」

 

――――忍野、ここは『大洗』じゃない。キャラ設定メチャメチャになってないか?

メカ音痴の忍野とはかけ離れた、非現実的な戦闘メカ。

「なぜ、戦車なんだ?なぜ、この境内にある」

 

「僕が臥煙に飛ばされた『滅んだ世界』……阿良々木くんと忍ちゃんが修復に来ない、いわばZルートだな、そこで、臥煙が戦車に乗ってるのを目撃したんだよ。ゾンビだらけのあの世界では便利なんだ。乗ってれば、いつ襲われも大丈夫だし、夜はハッチを閉めるだけで安全に眠れる」

 

「…………」

 

「説明になっていない?まあ話は最後まで聞くものだ、阿良々木くん。『滅んだ世界』の臥煙が他のルートへ移動後、戦車は残されていなかった……。つまり戦車と一緒に移動したんだ。それは何を意味すると思う?阿良々木くん」

 

そんなこといわれてもなあ。

「分からん。だいたい一人で動かすもんじゃないだろこれ」

 

「戦闘時はこの『10式』で3人だな。臥煙達か、臥煙がひとりだったら付喪神作って操縦させればいいだけだ。問題はそこじゃない。臥煙は利用出来るものは、何でも利用する、僕が帰還した場合、臥煙はRPG-7じゃなくて、戦車で襲ってくる可能性が出てきたってことだ」

 

「まさか、人ひとり襲うのに戦車は使わないだろ」

 

「いや使うね。RPGで別ルートへ飛ばされた時は、僕は襲われることを想定していなかったし、臥煙は別ルートへ飛ばした僕が、元のルートへ戻れることを想定していなかった。でも今度は完全に殺害に来るね。でも臥煙がRPG-7の通常弾や銃で武装してた場合、僕が自衛隊やら在日米軍の武器で武装したら(RPGの入手ルートは知らん)どうなる。

その場合、対等になる。『滅んだ世界』では昼間、自衛隊の駐屯地や米軍基地も無人だからな。僕も今度は武装可だ。臥煙は、より有利で安全なポジションを取りたがるだろう。戦車を別ルートへ持ち出した最初の目的は不明だ。メンテ品も大量に持ち出してる。しかし、元のルートへ僕が戻ったら、僕用に戦車を出してくる。確実にね。通常兵器で攻撃されても比較的安全だからね。

この手の事態はエスカレートするものだよ。

だから僕たちは富士の自衛隊駐屯地に行った。対抗手段を手に入れるためにね。4人将棋して遊んでた訳じゃない。あれは偽装だ。キスショットへの特攻なんて、本当は最初から狙ってない。元のルートへ戻る手法の確立とその後の保身策を練っていたんだよ」

 

「いや忍野、お前にも車に乗って、自衛隊駐屯地に行くまでは出来るだろうけど、その先はメカ音痴のお前では無理だろ。いろいろロックされてるだろうし、戦車のマニュアルや実車もセキュリティシステムでカードされてるんだろ」

 

「その通り、だから彼女に協力を頼んだ」

 

忍野は芝居じみた仕草で、背後の戦車に左腕を向けた。

 

開いていたハッチから大人の女性が出てきた――――

緑色の髪のリボン、見覚えのある顔立ち……去年の夏に別ルートで逢った大人バージョンの……

 

「―――――――あなたは……」

 

「はい!八九寺真宵さんだよ。あなたが阿良々木くんね。忍野さんから聞いているわ。少しぼんやり見えてるのは、まだ完全復活してないせいね。それから私にも見えないけど、隣にいるんでしょう?もう一人の私。初めまして!私も真宵だよ!11年前に阿良々木くんに助けられて、交通事故に遭わなかったの……驚かせちゃったかな――――ごめんね……」

 

そう。明らかに僕より、八九寺の方が動揺していた。声は出さなかったが、つないだ手は痛いほどだったし、震えていた。

 

忍野が言った。

「小さいほうの八九寺ちゃんは、驚かせただろうね。申し訳ない。学習塾近くに戦車ごと時空移動して来て、中で気を失ってるときに彼女がコンタクトしてきたんだけど、まさか一緒に気を失ってる女性が別ルートの自分だとは思わないよね。情報は色々やり取りしたけど、大きいほうの八九寺さんのことまでは伝えきれなかったからね」

 

自分が八九寺の立場であった場合を想像しようとした……出来ない……想像の範囲を超えていた。

 

「私にはこんな未来もあったのですね……………」

少しして、八九寺は小さくつぶやいた――――そして気丈に言った。

 

「阿良々木さん、二人に私は驚いたけど、もう大丈夫だとお伝えください。そして、お話を続けてくださいと」

 

僕は、横の八九寺から忍野に視線を戻し、

「驚いたけど、とりあえず大丈夫みたいだ。忍野、八九寺さんが協力ってどういうことだ」

 

「阿良々木くん、もしかすると勘違いしてるかもしれないから先に説明しとくけど、このZルートの八九寺さんを助けたのは、厳密にいうと君じゃない。

君は昨年8月にAルートから、11年前のXルートへ行って八九寺ちゃんを助け、Xルートの滅びた現代へ行って修復後、Aルートに戻っている。彼女を助けにZルートに来た (仮にQルートの阿良々木くんとしよう) 阿良々木くんは、現代に戻るとき、Zルートの滅んだ現代に行くのではなく、正しく、自分のQルートの現代に戻った……………。

偶然だよ、臥煙たちが時空を混乱させているせいかな。そうして阿良々木くんと忍ちゃんが修復に来ない、Zルートがあるわけだ。だから、Zルートの八九寺さんは、阿良々木くんに会うのは11年ぶりだ、11年前の高校生の顔はとっさ事でハッキリ覚えてはいないそうだ。

Qルートの阿良々木くんは八九寺ちゃんを助けて、現代に戻ったら怪異の八九寺ちゃんに抱きつかれるから、それはそれで驚いたと思うよ。時間旅行が夢落ちで終わる――――まあ世界修復はしてないけど」

 

その驚き方もいやだな。あの、ひと夏の大冒険では大変な思いをしたが、代わりに夢落ちを提示されたら僕は受けるのか、断るのか……断るだろうな、やっぱり。それから、あの八九寺さんとは夏以来じゃなくて、このルートの僕としては、はじめましてなのか……訳が分からなくなる寸前……

 

「それでね、阿良々木くん、Zルートで成長した彼女はホワイトハッカーなんだ。それもウィザード級のね。キスショットのトラブル前はあちこちで、ボランティア活動をしていた。

世界が滅んだ後、理由を話したら自衛隊のシステム防壁を破ることに同意してくれたよ」

 

そんなものに成長したのか、でも今は、ひとの夢に侵入するんだから似たようなものか。天性の素質なのかな。

いや、関心している場合ではなかった。

 

「忍野、忍が心配だ、どうしてる?世界を滅ぼそうとしたりってことはないんだろ」

 

「忍ちゃんの件は一時棚上げにしてくれ、保障する、今すぐには問題無い。後から説明するから。とにかく、僕たちは自衛隊駐屯地に向かった。

駐屯地は戦争時に基地として使えるように当然、スタンドアローンでも機能する。自家発電も食料も燃料もある。武器も戦車もね、いや、でも、こんな説明をしているより、阿良々木くんを完全復活させる方が先だった。この後、いろいろ働いて貰わなきゃいけないし……」

 

働かされるのか。やっぱり……

 

「阿良々木くんの死体は見つけた、こっちだ」

 

忍野を先頭に四人で向かった先は、境内にある社の中だった。結界が張ってあったようだが、忍野が解除したようだ。

 

そこには、西洋風の伝統的な装飾を施した黒い棺があった。映画で見る吸血鬼が中で寝てる棺そのものだ。

 

「ああ、阿良々木くん、中は見ない方がいい。バラバラだからね。

境内と、ここにも臥煙の死体はない、阿良々木くんを殺害した直後、激怒して現れたであろう、完全体のキスショットに、殺されていても、何の不思議もないんだが…………。

そうならない、策があってやったことなんだろうな」

忍野は続けた。

「臥煙は『夢渡』を持っている。それをキスショットに見せ、生き返らせる確約をして、とりあえず安心させ、『心渡』で阿良々木くんを斬ったのは、もうギリギリでのタイミングであったと説明したんだろう。

『このままの状態では、明日にでも阿良々木くんを中心に、この町が大変なことになるところだった』

『彼を斬って (『夢渡』で復活させ人間に戻し) 北白蛇神社に新たな神様を祀ってこの町を救う』

『でも、今は別に緊急の事案が発生して、すぐに行かなければいけない』

『キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードほどの力があれば、私が嘘をついて逃亡したところで探し出して殺すなど容易いことだろう』

『別の緊急な事案(僕のことだね)を片付けて、北白蛇神社に祀る新たな神様の準備をして戻って来る』

『だから、少しだけ時間をくれ』と言って、この場を去ったのだろう。そして、キスショットは物質構成能力で棺を作り、君の死体を収め、社に棺を隠し、自分も境内の隅に結界を張って休んでいる。

だから、とりあえず忍ちゃんのことは心配ない、さっき確認した」

 

纏めて説明し終わると、忍野はポケットから『お札』を取りだし、自分の体に張った。

「これは一時的に幽霊属性になれるお札だ。でも、くらやみが発生しないとも言えない。お嬢ちゃん、あの世の『夢渡』を渡してくれ。さっさと斬ろう」

 

僕が『忍野、心の準備をさせてくれ』と言いだすより早く、彼は『夢渡』を手に棺まで歩いたかと思うと、蓋をあけ内部を上から下へ斬った――――

 

 

――――忍野に見下ろされている…………僕は棺の中にいるようだ……そうか生き返ったのか……

 

お札を剥がしながら忍野が言った。

「おめでとう。阿良々木くん。生き返った気分はどうだい?でも、のんびりもしてられないんだ。さあ、起きた!起きた!」

と、まるで妹たちのようなことを言う。

 

思ったより早く体に力が入り、体を起こせる。そして立ち上がる。

 

「さあ、戦車の所まで行こう。阿良々木くんにはアレの砲手になって貰わなくてはいけない」

 

やっとのことで歩きながら、「忍野、無理を言うなよ」と文句。

なんだか、まだ自分の声じゃないみたい。少しムッとして言う。

「僕が戦車の操縦法、知ってるわけ無いだろ」

 

「ああ、それについては解決策が……」

 

忍野は突然話すのを止め、目を閉じた――――そして言った。

「思ったより、えらく早いな……阿良々木くん、奴らが来たようだ」

 

遠くから微かに地響きのような音が聞こえたかと思う間もなく、忍野が僕の右後ろを指差し、

「あっ!あんなところで臥煙が 『いえーい☆ ピースピース』 って言ってる」

 

そんな馬鹿なと振り返る途中、僕の目の端に忍野の踏み出した左足が見えた――右手で、スパーンと殴られた????顎に見事なフックが決まったようだ????

 

「すまんね」という忍野の声を遠くに聞きながら、僕はフワリと気を失った――――

 

 

 




続編はこよみスティックの予定ですが……


※追記 2014年3月
終物語(下)発売まで2週間となりましたので、
内容の予想(妄想)をして、遊んでみようと思います。(一部しか予想不可能ですが)


まず「こよみデッド」で、心渡で暦が斬られています。

今後を予想する上で、暦と忍の関係が重要になって来ます。
暦と忍との「主従関係とペアリング」です。

鬼物語で、「くらやみ」の影響でペアリングが切れ、暦が人間に戻った状態は、「双方、生きている」ので「主従関係」は残っています。

だから忍はキスショット化せず、後日、暦と忍は、
臥煙さんにペアリングを戻してもらって、元に戻っています。

「こよみデッド」では、暦は心渡で怪異として斬られ「殺害」されましたので、 その時点で「主従関係とペアリング」両方切れます。


暦は死んで、忍はキスショット化します。


そこからが、少し考えなくてはいけません。


そのまま、夢渡で生き返らせて、忍とリンクした怪異として復活させると殺害した意味がなくなります。


鬼物語で「怪異生かし」の夢渡が語られ、終(中)で心渡・夢渡が作られる可能性が示唆され、 終(下)のキャッチコピーで「最終決戦の号砲だった――」とありますので、 暦が夢渡で復活するのは間違いないところです。


完成形としては「忍とリンクせず怪異でもない暦」です。
これなら、心渡で「暦を殺害した意味」が出てきます。


しかし、まだ「生き返らせる意味」がありません。

殺害したままで良いはずです。


そこで「生き返らせること」を誰かに対する「取引材料」にしたことが予想されてくるわけです。


傾物語の時の経験で、忍はキスショット化しても、世界を滅ぼすことはしないと思います。

しかし、スタンドアローンのキスショットは不安定で、放置するのは危険です。

また、暦を殺害した臥煙さんに対しては当然、怒るでしょうから、攻撃することが考えられます。


臥煙さんは、あのままでは暦が危険な状態だったという説明と、
「暦を生き返らせる話」を、キスショットにしてくると思います。

「取引材料」に対する「見返り」が臥煙さんを攻撃しないだけなのか、
キスショットに「神様」になることをまで、要求してくるのか分かりません。
(撫子が呑んで神様化したお札は、元々、忍の神様化の意図で臥煙さんから暦に渡されている)

「こよみデッド」に登場した八九寺も気になります。

忍が「神様」になる話なら、八九寺は成仏しており、殺害された暦が、あの世で八九寺と逢ったということになります。成仏している八九寺、それを生き返らせる展開は強引です。

「神様」になるのは、成仏していなかった八九寺なのかもしれません。
(成仏しないのは、現れるのを止めて誰からも認識されなくなり、怪異では無くなることにより、 「くらやみ」が襲う条件である「道を踏み外した怪異」の条件から外れる手を原作者が使うとは思え……)

「こよみデッド」のラストシーンは、すでに暦は夢渡で斬られ復活していて、気を失っていた暦が目を覚ましたときには (怪異殺しで輪切りにされたので、怪異生かしで復活しますが、忍との主従関係は切れています) 八九寺は、臥煙さんから提示された「暦を生き返らせる」という条件と共に「お札」も呑んでおり「神様」になった後なのでしょうか?


キスショットは臥煙さんを攻撃しないことを受諾し、暦が夢渡で斬られたのを確認して、 その場を去ったのでしょうか?

暦が復活するまでは、臥煙さんの首に手を掛けたままなのでしょうか?


(神様化するのは、キスショット・八九寺以外にはないような気もします)


どのような形になっているにせよ、暦と忍の「主従関係とペアリング」は切られており、 阿良々木くんは「承知」しないのでしょう。


本命は八九寺ですね。花物語に明らかな伏線があります。


個人的には「くらやみ」のルール変更があって、八九寺が前のままに復活してくれると、 一番うれしいのですが、(鬼物語で臥煙さんが、ルール変更の可能性も示唆していた) 話の終りに来てルール変更では、物語が破綻ぎみになります。

再登場しても、あの世での登場か、北白蛇神社の神様化ぐらいしか思いつきません。

最終決戦――終物語(下)が楽しみです。
それにしても、「くらやみ」自体は倒せないですよね。どんな話にしてくるのでしょう。
扇ちゃんをなんとかすれば、どうにかなるのでしょうか?やっぱり忍野の出番かな。



※追記 終物語(下)を読んで……西尾先生、足のかにばさみで八九寺を地獄から連れ帰るのは反則のような気もしますが、全体の流れから言えばギリギリセーフでしょうか。
扇ちゃんの正体と忍野・羽川の登場には納得です。
天に届くほど高くなったハードルを、見事に乗り越え綺麗に着地しましたね。
  
  

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