「はぁはぁ、」
いきなりで悪いが別に興奮してついに寝込みを襲ったとか男性教職員のトイレに入り慈悲行為をしているわけではないのであしからず。
早朝に学校の外回りをマラソンしているだけである。まぁ、例の砂袋を背負っての周回である。早朝にある程度運動しとくと脳が活発になるとどっかの番組で見たような気がするってだけだ。しかも体を鍛えられて一石二鳥。
「おはよう!」
「え? ああ、おはよう相川」
いきなり声をかけられ戸惑ったが横に顔を向けるとショートヘアーの髪型(ナチュラルというのだろうか?)をし、体操服のようなTシャツとスパッツをはいた相川がいた。
それに息を整えながら返答したためか速度が少し緩んできた。
「ほら、遅くなってるよ! そんなんじゃ私のスピードにはかなわないぞ!」
そう言って速度を上げ俺を追い越していく。こちらは砂袋背負って、あちらは何も持っていないのだから抜けるのは当然な気がするのだが、こちらも落とした速度を回復するように少しペースを上げる。
夜に走っているのと朝に走るのを欠かさずにこの一週間走りこんでいた。まず基礎体力を作らなければならないのと、根性というか逆行にも諦めない精神を鍛える意味で走っている。
それで、ジョギングが趣味という活発系女子、相川清香と走って知り合いもしたのだがやはり織斑に熱中らしく「今度織斑君を誘ってよ」と言われたことがある。一度そのことを織斑に言ったら「朝は洗濯とか簡単な掃除をしているから」と言われ、断られたことを言うと「なんでもっと粘らないんだー!」と逆切れされハイキックをくらった。俺何も悪くないよな?
それからちょくちょく早朝に会っていたりするのだが、走り終えた後でなぜか愚痴を聞かされたりもしている。
あれー? 俺何も悪くないのにー。
学園周りを走って寮に着き砂袋を用具室のところに入れる。なんで砂袋が寮の用具室にあるのかは謎だ。ほかにもダンベルやバーベル、腹筋を鍛えるためのアーチ状の椅子、サウンドバックなどがある。
そして、走り終えたのか相川が声をかけてくる。
「でね、体重がまた増えちゃったみたいなんだけどなんでだと思う? 毎日結構走っているつもりだと思うだけどなぁ」
「筋肉ついているんじゃね? 脂肪より筋肉のほうが重いって聞いたことがあるし。後は間食とかして食生活をおろそかにしているとか?」
「うう……、ケーキがー。ポテチがー。チョコがー」
「チョコは適量なら結構体にいいらしいぜ? 摂りすぎは毒だけど」
「なんでよ。あれってかなり砂糖使ってるでしょ?」
「あれはカカオの苦みを消すために使っているんであって、そのカカオに含まれるポリフィノールが脂肪を燃やすんだって。で、カカオ70~何%っていう外国製のがいいらしい。」
「ふーん。よく知ってるね」
ああ、谷本がダイエットし始めて「そんなにふとってないじゃん」と言ってしまい怒らせてしまったのが原因だ。なんで女子って太ってないのに痩せようとするのだろうと思い至って自分なりに心理学とかインターネットで調べてみたときにダイエットコーナーで紹介されているのが目に入っていたのだ。
「で、女子は自分が美しく見せたいというのと、服が大抵痩せている人のものしかないっていうのを推測した」
「え? 服?」
「ああ、服だ。例えば前まで来ていた服のおなか周りが苦しいとか、服屋にあるマネキンが大抵痩せている人のしかねぇってことだ。みんなあれを基準にするからそれが理想形なんだって思えるんだ。男子もそう。だから、そういうのが幼年期から植えつけられることによってそれを判断基準にしてしまっているってことだ」
「えっと……?」
「ああ、雛鳥が最初に見たものが親だと思うように、服屋にある服をマネキンが着ているから服はマネキンのようなスタイルじゃないと似合わないって思ってんだよ」
「あー、なるほど」
「でも、いまだになんで怒ったのかがわかんねぇんだよなぁ」
そんな他愛もない会話をしながら朝食を摂るために今日のメニューを選ぶ。相川は表示されているカロリー表に目が行き中間から下のほうのメニューで何を食べようか迷っているらしい。そして、和風朝食セットを選んだらしい。俺は和風卵焼きセットを選びテーブルに着く。
「あ~。さっきーとあいかんだ~」
「おはよう、崎森に清香」
朝食のトレイを持ってきたのほほんと谷本。しかし、のほほんのほうはまだ寝間着のぬいぐるみ化したようなパジャマで目が閉じたり開いたりしている。
「まだ寝不足気味だなのほほん。で、今日のメニューは……俺と同じかよ」
「むー、混ぜ込みご飯は日本の文化だよー。それを否定しないでー」
「お前のは混ぜ込みじゃなくてねこまんまだって言ってんだろ!?」
「意味は一緒だよ? ね? あいかん」
「あれって最初にカツオとか昆布入れて蒸しとかなきゃいけないんじゃなかった?」
その通りだ。ちなみに一緒に具を蒸すのが炊き込みご飯というらしい。さらに言うなら混ぜ込みご飯は一緒に入れると具合が悪い鮭・わかめを後に入れて混ぜるものだ。
「おいしければオッケーなのだー。ぐりぐりぐ~り」
そう言ってすべてが入れられ混沌化された茶碗。闇鍋でもこんな状況になることはあまりないだろう。
前に一度やってみたことがあるのだが、確かにまずくはない。だが見た目が食欲をなくしてしまい食べるのに時間がかかった。だから、のほほんの食事スピードは遅いのではないかと思ったくらいだ。
俺は食べ終えた後、学服に着替えるために部屋に向かっている途中で織斑先生に呼び止められた。
「崎森、少し資料を運んでほしいから学校に向かう前に私の部屋の前で待機していてくれ。……なんて嫌な顔をしているんだお前は」
織斑先生に指摘されたように俺は苦虫を噛んだ顔をしていることだろう。今日学校に持っていく教科書は多いのだ。それプラス資料とか疲れるっての。
「織斑にやらせればいいと思います」
「却下だ。お前のほうが力持ちなのでな、疲れないだろう? それに織斑とは私の事か?」
「織斑先生ではなく生徒の方に言っているんです。どうせ言っても無駄なんでしょうけど」
「なら、言うな」
そう言われ食堂に向かって歩いていく織斑先生。とりあえず着替えて鞄を持って来よう。
そして、着替えて教本とノートを何冊もつめた重たい鞄を床に置いて寮母室の前に立っている。
織斑先生は入るなと言って俺に部屋を覗かれないように素早く入りドアを閉めた。確かにいくら女傑・鬼教官・未来から来た戦闘マシーンといろいろそっち方面に比喩できてしまう人だが、恥じらう乙女……ではなくとも女性であるのだ。だから男の俺に見せたくないものだってあるのだろう。
しかし、遅い。入ってからいくらか経つが遅い。そんなに重いものなのだろうか? そんなことを考えていたからか中から声がしてくる。
「崎森、少しドアから離れて廊下側を見ろ。決してこちらを向くな」
「え?」
「い い な」
その言葉にただならぬ恐怖感と違和感を感じながらドアの反対側の壁と廊下のほうを向く。
が、そこでなぜかカバンの中に入れた携帯の目覚まし時計が鳴る。なぜカバンの中に入れていたかというと、あまり携帯を使わないためとズボンのポケットに入れとくと生地が張ってしまい携帯を締め付けているようで壊れてしまいそうなのと、これが一番の理由なのだが携帯で繋がりたくないのだ。こっちの事情なぞお構いなしになる携帯が嫌いであまり身につけたくないがしかし今の時代身に着けない訳にはいかない。
そして、カバンを置いたのはドア側でその目覚ましを止めようと反射的に振り向いてしまった。
それとほぼ同時に開けられたドア。それと授業で配るプリントの束を持っている織斑先生。その隙間から見える散らかった部屋。缶ビール、おつまみの袋、散々と置かれた資料、なんだか題名が分からない本、ダンベル、下着のようなもの。
そして、場違いなほどのアニソンのアレンジで鳴りつづける俺の携帯、石のように固まった俺、俺はどうしたらいいかわからず織斑先生を見たが織斑先生も固まっておりどうしたらいいかわからないようだ。
この現状を打破するために俺は声を出す。
「これをファンに見せれば幻滅してくれるんじゃないのでしょか?」
……何言ってんだ俺はぁぁあああああ!?
フォローするにしてもほかにあるだろ!? 「昨日はお忙しかったんですね」とか「激務お疲れ様です」とか!?
しかし残酷にも時間は戻らない。
手に持っていたプリントが床に落ち、頭上への攻撃は察知できず防御もできずもろに鉄拳をくらう。頭にタンコブができるどころか凹んだか頭蓋骨が破砕されるかと思った。が、痛みの声は上げられず、のた打ち回る前に肩が潰れそうなほどの握力でホールドされ逃げるどころか動くことすらできない。
「崎森」
「はひぃぃい!」
その暗く重い声だけで蛇に睨まれた蛙みたいに身動きできなくなってしまう。篠ノ之の怒気とは比べ物にならぬほどの圧気を感じる。
これが殺気と言われたら信じてしまう。
「このことは誰にも言うなよ?」
その時の俺は何度も何度も頷いていて、涙が眼から零れることに気が付かないほど頷いていた。
「いや、ちょっと待ってください。なんもおれ悪くないじゃないですか」
「こちらを向くなといっただろう?」
「それって先生が日ごろから整理整頓しとけば回避された―――……いえ、そもそも俺を呼ばなければよかった―――……何でもありません」
反論しようとすれば後ろから殺気を放たれ今にも後ろから切りかかってきそうである。
現に2回ほどおれの頭に出席簿が降り注いだ。なんで俺は黙っていられないのだろう。
織斑先生も資料を両手に持っているはずなのだが、後ろを向いて見るとわざわざ出席簿で攻撃するためにそれを片手で抱えたらしい。
少し出席簿に血がついているのを先生が指でふき取った事と織斑先生の顔を俺は忘れられそうにない。
1年1組に到着したとき入り口で何かを言っているツインテールの子がいるのだが邪魔で仕方がない。
「どけ、私は今かなり機嫌が悪い」
「なに―――ち、千冬さん……」
ツインテールの子が震え声で返事をしたがそれでは収まらず顔を青くしてダッシュでどこかへ行ってしまった。後ろを振り返るのは止したほうがいいらしいということは分かった。
その日の織斑先生の授業を受けた全生徒が委縮してしまったのは言うでもないことだった。
「なにかうまいもの何でもいいからお願いします。できれば胃に食べやすいもの」
「分かったけど、朝何かあったの」
そこで思い出されるのは織斑先生の「誰にも言うなよ」と言うフレーズ。
「なにもあるわけないじゃないか! あははははは……はぁ」
「……何があったのよ」
「……単にパンドラの箱の中身を見てしまったというだけだ」
谷本は疑問符を浮かべるがこれ以上何も言えないし言いたくない。あの人はここからでも地獄耳並みのスキルで聞いているのかもしれないのだから……
とりあえず空いているところに座りキツネうどんを食べ始める。谷本は狸うどんらしく、油揚げをねだって来るが箸移しは行儀悪いので油揚げを狸うどんに乗せる。
「ふふ、狐狸うどん。略してきたうどん」
「狐と狸で喧嘩になりそうな食事だな」
「実際に狐うどんの甘さと狸うどんの渋さがサディスティック」
「つまりまずいってことなのか」
「……うん」
そんなことを話しているうちに10人くらいの人数がこちらに来た。
「またなんか問題起きそうな予感がするんだが」
「そんなの世界中で問題が起きてるんだから当然なんじゃない?」
「巻き込まれるのは嫌なんだよ」
案の定、織斑とその取り巻きたちであった。
「よっ、章登、隣いいか?」
「その人数なら隣のテーブルに座ったほうがいいんじゃねぇのか?」
こっちのテーブルは4人まで座れ、窓側にあるU字型の方が何人も座れる。
「いや、話すのは鈴と二人だけだから」
「鈴?」
そういわれて織斑の隣にいるツインテールの小さな女子に目を向ける。目がつり目でネコ科のような印象を与え、口は小さく、鼻も低いが全体が整っており将来美人に化けるのではないかという人物だ。
「2組の中国代表候補生の凰 鈴音(ファン・リンイン)よ。一夏と二人で話があるから隣りいいかしら」
二人のところを強調された気がするが大事な話をするのか、それとも取り巻きを撒きたいのか、織斑と一緒にいたいのか、と考えたがたぶん後者なのだろうなぁーと箸を咥えながら思った。ところで気になったことがあるのだが鈴音で中国ならリンシェンではないのだろうか?
「しっかし、あんた……パッとしないわね」
「ほっとけ」
「じゃほっとくから隣り座るわよ」
そう言って隣に座ってくる鳳。
「しっかし、あんたがIS動かしたって不思議な事もあるもんよね」
「ああ、まぁ千冬姉の弟だからな。動かせるものなのじゃないか?」
そんなんで動かせたらもっと姉弟や兄妹で動かせる人物が多いと思うのは俺だけか? 織斑はそれ以降凰に質問をし続けていた。元気にしていたか? や向こうでの生活ではどうだった? など。しかしそれにしびれを切らしたのか隣のテーブルにいる数名がこちらに来た。
「一夏! いい加減にどういう関係なのか説明してほしいものなのだが?」
「そうですわよ。この方と付き合っていらっしゃるのですか?」
「べ、別に付き合ってるわけじゃないわよ」
「そうだぞ、ただの幼馴染だ」
「……」
狼狽した後、織斑の返答により機嫌が悪そうに睨み付ける凰。どうやら織斑の返答が気に入らないらしい。
「何睨んでいるんだ?」
「別に何でもないわよ!」
「……幼馴染?」
「あっそか、箒とは入れ違いに転校してきたんだよな。箒は小4の終わりに転校しただろ? で、鈴が転校してきたのは小5の初めなんだよ。で、こっちが篠ノ之箒。前に話したろ? 小学生の時に通っていた剣術道場の娘さん」
「ふぅん、前に言ってたねぇ」
そこで凰は篠ノ之に挑発的な視線を送り、相手を煽るような口調で言い放つ。
「初めまして。これからよろしくね、篠ノ之さん」
「ああ、こちらこそ」
そこで両者の視線がぶつかり合い空気が重くなる。が、午前の織斑先生の空気と比べれば蝉の鳴き声でウザったく思えるような程だった。しかし、空気が重くなることには変わりなく食堂にいる何人かがこちらを見てできるだけ早く離れようと早食いになっている。
「このわたくしをのけ者にしないでいただけませんこと、中国代表候補生の凰鈴音さん?」
「……だれ?」
「わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補制にして先日一夏さんと章登さんとお相手いたしましたの」
「へー、でも私はこいつらよりも強いからあんま関係ないんだけどね」
「そうですか、そういっている人ほど驚かされる方だと思いますわよ?」
「ふーん」
そこで凰の目つきが変わった。こちらをまるで獲物を見つけた肉食獣のように狙いを定めている。これはライバルフラグか? それとも決闘フラグ? 戦闘フラグが一番ありそうだな。
「ところで、一夏がクラス代表なんだって? ISの操縦、見てあげてもいいわよ。なんせ強いしね私」
「それは助かった―――」
そこで、テーブルをたたく音がして目をしかめる。どこにそんなに怒る要素があったのか。
「一夏に教えるのは私だ。一夏から直接頼まれたからな」
「一夏さん。あなたが教わりたいというのであれば私は外してくださいな。ふらふらと流れるだけの男には興味がありませんので」
篠ノ之は凰の誘っているところに怒り、オルコットは織斑の返事に苛立っているようだ。そりゃ自分の時間を削って訓練に付き合っているのに急に予定変更されたら怒るよな。
それにコロコロ相手を変えていたらプレイボーイと間違われても仕方がないが。っていうか実際にプレイボーイだ、一夏は。
「で、あんたはどうなのよ? 誰にISのことを習いたいわけ」
「えっとみんなで一緒に、ってのはどうだ?」
いきなりの質問に困惑した後、言ってはみたようだ。が、3人がそんな回答で満足するはずがなく全員が目を鋭くした。
「後から出てきて威張るな。私の方が付き合いは長いんだから私に任せるべきだ!」
「あれ~? 長いって言っても6年間を空けているでしょ? それって付き合っている時間は同じよね?」
「だとしても一夏は何度も繰り返しうちで食事をする間柄だ。関係も深い。私たちの関係に踏み込んでくるな!」
篠ノ之はヒートアップがやまずこちらがうるさく思うほどだ。こんな修羅場にいられるかと急いでうどんをすすり始める俺たち。谷本も自分の食糧増加の判断を間違ったと思ったらしく食べるスピードが上がる。
「うちで食事? それならあたし達もしょっちゅう家で食事したわよ?」
そこで篠ノ之の目が大きく開き、織斑の胸倉に掴み掛らんばかりの勢いで迫る。オルコットは途中から篠ノ之の怒り具合と織斑の鈍感さに呆れて黙って成り行きを見守っていたようだ。
「いっ、一夏どうゆうことだ! 何も聞いていないぞ!」
「一夏さん納得のいく説明をお願いします」
「納得も何もよく鈴の実家の中華料理屋に行っていただけなんだが……」
そこで篠ノ之が安心と納得したように息をつく。
会話が続き放課後空いているかと質問をし続け、そこに織斑の代わりに篠ノ之がISの訓練をしていると言い、凰を遠ざけようとしている。
「一夏さん、訓練をするか旧友との仲を温めるか決めてくださいまし。どちらも大事ですが人との関係を疎かにしてはいけませんことよ」
オルコットは久しぶりの友人を大事にしろと言っている。これは意外であった。織斑に気があるからてっきり篠ノ之のように凰を遠ざけようとするものだと思っていたのだが。
「だって、人がいつの間にか隣からいなくなってしまうこともあるのですから」
その発言に暗さと重さが混じっていたように思えたのは気のせいではないだろう。
「じゃ、訓練終わったら行くから」
そう言って去っていく凰。それと同時に気が落ち込んだ織斑と怒ったように一言入れる篠ノ之、呆れたように息を吐くオルコット。
俺らはそれを無視して食器の片付けに向かう。
放課後の第三アリーナでオルコットから射撃技術の指導をしてもらっているのだが、時々射線に割り込んでくる織斑、篠ノ之がうざくて仕方がない。
最初はどちらが織斑の指導をするか揉めたのだが、時間制とアリーナの使用制限時間がで篠ノ之とオルコットを妥協させようとしたのだが、そう提案したときオルコットがあっさりというほどに納得してくれた。
「相手の動きを予測するのは徐々に上がってきていますが素早く射線を調節するのも加えてみましょう。あともう少し力を抜かしてみるのもいいかもしれません」
「素早く射線変更?」
「というよりは目的の場所に数ミリもずらさない様にすることですわ。顕微鏡でものを見るように調節するのです。そうしないと数ミリでも数メートル変わってくるのですから。ショットガンやアサルトライフルでは敵に当たればいいとお考えなのでしょうけどセンサー類や関節部に当てれば故障を引き起こすことも可能でしてよ」
「相手は待ってくれそうにねぇんだけど。あといつも疑問なんだけど目はともかく頭や胸に装甲が厚くないのはなぜなんだ? 一番守らなきゃいけない部分じゃねぇか」
「それを徐々に速くしていくしかないんでしてよ。地道にコツコツに勝る近道はありませんから。装甲がないのは恐怖心を煽るためともありますけど実際はどうなのでしょうね? 恐怖で本能的に守るためや、銃を扱っていることを忘れないためや、重装甲による加速の激減を防ぐためといろいろあります。ISは高機動が売りなのですから」
そうレクチャーされ投影された的が現れる。
前みたいに動かず、レーザー照準もされていないがかなり遠くアリーナの端にあり、俺らも端の方にいるからざっと500m以上はあるだろう。
その的の中心に向け銃弾を放つ。が、近くで戦闘に近い行動をしている織斑、篠ノ之が射線の上を通り過ぎ突風を起こしてそれに影響された弾は的の端に当たった。
「……」
「……まぁ、状況も入れませんといけませんから」
そう言われ、次々と投影される的に射撃するが動き回る二人の影響でどうしてもずれる。いっその事どっちも撃ってしまおうと思っている自分を止めるように時計に目を向け時間を確認する。すこし時間を過ぎているが交代の時間だ。
「なぁ、もう時間すぎているんだから交代しようぜ」
「ああ、箒、交代して章登に教えに行ってくれ」
「いや、お前はまだまだ格闘戦の訓練が足りない。それに、射撃型の戦闘が一夏には必要を感じない。続行する」
そんな独り善がりの事を言い出した。
「はぁ?」
「何言ってますの?」
「いやそれはちょっと……」
俺、オルコット、織斑が反論するよりも先に織斑に切りかかる篠ノ之。お前はどこの戦闘狂だ。それに射撃特性を分かっていれば回避の仕方を覚えることを知らんのか。
「なんかもう、こっちの言うことは聞かなそうな感じじゃね?」
「仕方ありませんから射撃精度を上げる訓練を一緒にしましょうか」
そういって投影される複数の的。それを競うようにして撃破する。使っている武器、機体性能にも影響が出てしまうがやはりというかオルコットはど真ん中ぶち抜いているのにこちらは真ん中に照準を当てているつもりなのにどうしても中心から少しそれてしまう。
そうしているうちにアリーナの使用時間が終わり次の予約していた生徒に変わる。篠ノ之はまだ不満そうに顔を歪めていたがしぶしぶといった形でピッドに戻った。
「章登、一緒に寮に帰ろうぜ」
「いや、寄る所あるからな。じゃおつかれさん」
そう言って切れ上げ研究部に向かう。アリーナが使えなくてもシミュレーターで練習して少しでも代表候補生並みになっておかないといけない。下手すりゃIS剥奪や織斑一夏より弱いから解剖してもいいみたいな指令が下されるかもしれない。後者は人道的にどうかと思うが。
研究室のドアを開けると資料が積み棚になっている机の上で栗木先輩の茶髪しか目に入らない。その隣で多彩アームを使い谷本が何かを組み立てている。
台形を長細くした盾のようだが、3本の細長い杭が取り付けられている。
「あ、ちょうどいいとこに来たわね。それの組み立て手伝ってあげて」
「え~。シミュレーターやりに来たんだけど」
「どうせ今多彩アームの方に電力使ってるんだから出来ないわよ。まったく部品で寄越すなって開発部に文句言いたいわよ」
「いやいや、ここって新兵器のデータ取りが主な役割じゃねぇか。なんで部品で届いているんだよ」
「開発部はラファールと打鉄をベースに新しい訓練機を作っているみたいなのよ。ほとんどそっちに人員が行っちゃて武器の製造に手を回せないんですって」
「整備課は?」
「同じような感じだわ」
前に行ったことがあると思うがISの開発、研究は学園でも行っている。IS電池の延長であったり、新兵器のデータ収集であったりと。
無論、企業の方もそういう実験を行っているのだが学園ほどデータがなかったり、基本的には従来兵器を強化したのがほとんどだ。まぁ、資金は企業の方が多く、国家代表は資金が機体整備や新兵器開発の問題はないだから贅沢できるのだが新兵器の稼働にはまだまだ改善が必要だ。だからオルコットのような代表候補生がテストをしにはるばる日本に来たわけだ。
そして、今学期代表候補生が多く入学すると情報が入り、訓練機では対抗できなくなってくると思われるため訓練機の強化が開発部、研究部、整備科が総力を挙げることが決定したらしい。
この辺は転校してきた代表候補生に所詮学生と思われないようにすること。用はイメージアップ。
俺や織斑がいることでの学校の防衛強化などが関係していると思われるが詳しくは知らない。所詮俺の考えなのだが。
そして、今谷本と栗木先輩が作っている武器も試験武器なのだろう。まだ部品のパーツがあるらしく収納ボックスが2つある。
設計図を栗木先輩から受け取り、多彩アームを操っている谷本の所に行く。
「何か手伝うことねぇか?」
「うーん。センサー類の組み立てお願い。ISのハイパーセンサーで代用して緻密操作用アームと固定アームを貸すから設計図通りに作ってね。えっと項目S3-5~68までのはずだから」
「あいさ」
ラファール・リヴァイブ・ストレイドを頭部だけ部分展開し図面のS3-5の項目を見る。PGの設計図よりも難しそうだが解らない訳ではないので多彩アームを操作するハンドルを貰い細いながらも強度を持つピンセットと外部装甲を固定アームに取り付け組み立てる。
まずは項目通りセンサーの信号読み取り機を作っていく。プラモを作っているように隣の谷本と多彩アームがだす機械音がだんだんと消えていく。プラモを作っているときもそうだが何かに集中する時周りの音が消えていくのだ。聞こえないのではなく気にならなくなっていく。
そうやっているうちに自分と世界が隔離されたような感じがしていく。目の前に集中して他の音、景色が気にならなった。そんな時間が止まった中で作業していく。
そうしてセンサーの部分の蓋をして終了した。
「こっち終わったぞ」
「え? まだ1時間ちょっとよ」
「崎森ってこういう組み立て作業が得意なんです。そりゃもう周りの音が気にならなくなるくらいに」
「部品確認するからこっち来なさい」
そう言われ固定アームからセンサー部品を外し栗木先輩のもとに持っていく。どうやら作業用ゴーグルをつけているらしく内部が透けて見え精度、配置、部品確認ができるものらしい。
図面とセンサーに目を走らせ間違っていないか確認していく。
確認し終えたらしく、息を吐き俺に目を向けてくる。
「……なんでこんな精度で作業出来るのよ。あんた、なに? 才能?」
「ふふふ、俺の真の能力がついに顕に―――」
「「ならないから」
こちらに聞き耳を立てていた谷本にも突っ込まれへこみそうになる。なんだよ。少しくらい調子に乗ってもいいじゃないか。
「まぁ、間違ってはいないからこの調子で仕上げて頂戴」
「次、トリガー部分のT4‐9の図面通りお願い」
「へーい」
そうやって収納ボックスからのT4と書かれている引き出しを取出し固定用アームに持ち手と思われる部分に取り付け緻密作業用アームで部品を取り付けていく。
そういって何時間か経った頃
「もうそろそろ切り上げましょうか」
「はーい。崎森ー。ってまた入っているみたい」
まるで機械のように動じず、瞬きすらせず一心不乱に作業をし続ける。集中するというよりは人間を模したロボットと言われれば納得するだろう。
谷本はこの状態に何度か遭遇している。思考速度が半端ではなく手の動きが素早い状態は模型作りや絵を描いているときに起こりやすい現象である。
アスペルガー症候群ではないのかと思ったぐらいだ。
だがそれとは違うようなのだがよくわからない。アスペルガーは特定の事に興味を発するが他人の心を理解するのが困難になることが多いらしい。
崎森の場合は単に集中力が高まるだけらしい。そのことを中学時代、辿り付けぬ領域《サイレントライン》と名付けたのは恥ずかしい思い出だ。由来はその時に作ったプラモの出来栄えがプロ顔負けの塗装テクニックだったのと、まるで何事もないように淡々と物を作るからである。本当にしょうもない理由である。
まぁ、このように入いているときの解除法も知っている。
谷本は作業を続けている崎森の近くまで行き、耳元に息を吹きかける。
ピンと張っていた糸が緩むように目がたるみはじめ作業の手が止まった。
「あれ? また入った?」
ブルッと肌寒いかのように鳥肌を立たせたあと元のパッとしない顔に戻り作業を終える。
「入ってた。もう19時前よ。寮に戻りろうよ」
「ああ、ありがとう。なんでこんなに集中してしまうんだろうな?」
「緻密作業オタクなんじゃないの?」
「オタクって一線を超えると何だか知ってるか? プロフェッショナルだぜ」
「あなたは専門家じゃなくて愛好家じゃないのかしら? きっと家の中がフィギュアでいっぱいでコーラのペットボトルが床に転がっているのね。そしてモニター画面で2次元の女の子に俺の嫁キターって叫んだりするんでしょ?」
「しねぇよ!? ってか、あんたはオタクをただのキモい野郎としか思ってないだろ!? 確かに奇声を上げ太ってるかもしれないがそんだけ作品を愛しているのなら作成者も本望だろうよ」
「単に言い訳にしか聞こえないのだけど?」
「ああ、俺はアニメが好きだ。ゲームが好きだ。漫画が好きだ。けどそれは俺の趣味だしそれに夢中になっている。麻薬中毒者みたいにな。けど、それが俺の楽しみなんだ!」
「力説してる所悪いけど全然感動しないわ」
なにやら失望させたらしい。目が伏せがちになり温度が下がる。今にもため息が聞こえてきそうだ。
「じゃ、2年の寮はこっちだからまた明日頼むわね。癒子ちゃん、ついでに下僕一号」
「何で下僕なんだよ!?」
「男の後輩はすべて私の下僕って決まっているのよ」
「何時決まった!?」
「あら? 奴隷のほうがよかったかしら?」
もうそんなことを言うならいっそのこと会話に乗ってやろうじゃないか。
「ああん。やめてくださいご主人様~。こんな人前があるところでなんてエキゾッチクすぎます~。でももっと痛めつけてください~」
脅かす気持ちでくねくねと体を躍らせ目を閉じながら言ってみた。
目を開けなくても瞬間場の空気がブリザードにでもあったかのように凍りつき、二人が俺から距離をとり警戒する。まるでその眼は信じられない化け物でも見ているようだ。
「撤回が遅い気もするが嘘だからな?」
「嘘だ。演技にしては身が入りすぎていたし」
「あんなキモい踊りができる人間初めて見たわ。癒子ちゃん。付き合う友達は選んだほうがいいわよ」
「私もまじめに縁を切ろうか悩んでいます」
「いや待って! 冗談だから! 俺Mじゃないから! ノーマルだから! 痛いの嫌だから!」
「けど。訓練で身を傷めつけていたわよね?」
「え? そりゃ避けれないから弾が当たって痛いのは当たり前じゃねぇか」
「うん。でもね、今思うとわざとあたりに行ってたんじゃないの?」
「そうね。代表候補生との戦いの時も後半の回避が異常すぎて前半の回避はもしかしてわざとあたりに行ったたんじゃって思ったし」
二人はそれで俺がMと確信したのかさらに距離をとる。
俺が一歩前に出ようとすれば、後ずさりで3歩後ろに下がる。
「いや、俺はMじゃねぇぞ!?」
「「……」
「せめて弁解をさせてくれぇえ!?」
「……じゃあどうしてセシリアの後半戦であんな回避ができたわけ?」
「それはハイパーセンサーの恩恵で火事場の馬鹿力というか、瞬間反射現象みたいなことが起きってミサイルの軌道とかビットの位置とかが手に取るように分かって―――」
「……何でシミュレーターで負け続けるような相手を選んで戦っているわけよ?」
「強い奴と戦ったほうが早く上達しそうじゃねぇか」
間違ってはいないはずなのだが二人はまだ納得していないらしい。
「まぁ、とりあえず今日はさようなら癒子ちゃんにMくん」
「Mなんて頭文字つかねぇよ俺は!」
「さようなら先輩。また明日。崎森は首に首輪と鎖をつけてお外で待っててね」
「人間ですらなくなった!?」
さすがに外で首輪をつけられ鎖で拘束されるという事態には陥らなかった。が、なぜか距離が50㎝ほど空いている。
いまだにM疑惑は改善されていないらしい。変なギャグなんて入れなければよかったと後悔している。
「なぁ、谷本」
「なに崎森?」
「確かに俺はオタクといわれる人種でゲーマーであり、こう……遊び人という印象があるかもしれない。しかし、別の階段に目覚めたり変な性癖を持っていたりはしねぇと思うんだ」
「思う?」
「あ、いえ、断言します」
「じゃあなんで最初『思う』なんてあいまいな表現したの? 少なからず何か思い当たることがあったということなんじゃないの? もしくは自覚していてわざと隠したいとか?」
なんかこわい。威圧感を出しつつ質問攻めにされるのがこんなにつらく怖いものだと初めて知った。そして谷本の目が据わっているためか光がない。いや、おそらく光源の角度の問題なのだろう。
「いや、その自信がないんだ。俺は100%自分のことを知っているわけじゃないし、谷本から見た俺はどんな感じに目に映っているのかわからない。だから、相手の機嫌とかを取るためにわざと曖昧な表現をとっさにしたんだと思う」
「ふーん」
納得してくれたのか、それともまだ怒っているのか、そっぽを向け廊下を歩き続ける俺たち。今は生徒が食堂に集まっているか自室で思い思いの時間を過ごしているためか廊下に人影は少ない。
こんな会話を聞かれづに済んだと思うべきか、なぜ誰もいないんだと天を恨むべきか。
「別にあんたがMだろうとSだろうと、近親相姦上等の変態だとしても」
「いや、それはない」
「さっきもそのくらい否定してくれたらよかったんだけど。で、あんたがどんな性癖持っていようと私には関係ないわ。でもかなり急展開過ぎて私がついていけないの。置き去りにさせられている気分になるの」
え? もしかしてMになりたいとかそういう話?
「誰だって友達が何かに巻き込まれたらどうにかしてあげたいって思うものでしょ?」
「あー。でも俺はM確定じゃないからな?」
「まぁ、そうなんだけど……あー! この話はもうやめ! あんたはMじゃないってことでいいのよね!?」
「は、はい!」
「わかった。この話はもうおしまい! とっとと荷物部屋に戻して食事にいこ!」
そういって駆け出しで部屋に戻ろうとする谷本。しかし角を曲がったとことで通行人にぶつかったらしく派手に後ろに転ぶ。
朝方でパンでも口に銜えていたら新しい出会いだっただろう。ただし此処の男性は極端に少なく2人しかいないが。
そして、何やら泣きじゃくりながら谷本を罵っている人物がいる。かなり鼻声でろくに聞こえない。言っている言葉にすべて「〝」が付いているくらいだ。
駆け寄ってみるとそこには凰が尻餅をついて両手を顔に当て泣きじゃくっていた。
大丈夫かと声をかけてみるが返事があっても鼻声がひどくて聞き取りづらい。谷本がそばにより隣で寄り添わせながら立ち上がらせる。
どうしようかと目で訴えてくる谷本。
放っておく訳にもいかず部屋に連れて行って事情を聴こうとしたわけだが、涙がまだ止まらずろくな声を発することができない。
とりあえず泣き止むまでベットに座らせテッシュを横に置いておく。
ベットで寝っころがっていたのほほんは事情を察してか励ますような声で気遣っている。
ようやく泣き止んで声が出せるようになったらしい
「で、なんでいきなり廊下で号泣してんだ?」
「別に泣いてなんかないわよ! ただ大量に目にゴミが張っただけだって言ってるでしょ」
言ってるも何も、鼻声で何も言葉が伝わらなかったから初耳なんだが。
「あんた邪魔よ。口出さないで」
「さっきーってデリカシーないよね」
「……」
もうこの二人だけでいいんじゃないかな……。
話している内容は要約すると織斑が昔した告白の内容を屈折して覚えており、それで泣いていたらしい。まぁ、告白の内容を間違って(しかも本人は告白と思っていない)いたら怒りたくなるのも分からなくない。まぁ、昔の内容を覚えているだけましなのだろうか?
「うん。それは織斑君が悪い」
「おりむーって鈍感だよね~」
「そうでしょ! 私が料理を一生食べさせてあげるって約束を、料理をおごるって勘違いしたのよ!? 信じられる!?」
凰はさっきの号泣が嘘であるかのように怒鳴り散らしている。泣いたり怒ったりと忙しない人だなぁーとはたから目に思って眺めていた。
「そこのあんたはどう思う!? やっぱ一夏が悪いと思うでしょ?」
いきなり話題を振られ気まずくなってしまう。
「ソウデス。スベテ ハ オリムライチカ ガ ワルインデス」
「崎森、なんで声音が一定なのよ」
「なんでだろうな」
単に3人の反応が怖くて、声音を読まれないようにしているのと、ふざけてやったほうが場は盛り上がるのだが、今回は意味がなかったらしい。あと惚けてみたがそれも効果がないようだ。
そんな女子3人によるトークが続いていた。女三人そろえば姦しい。というがまさにその通りでうるさかった。
「織斑君のこと、何時から好きになったの?」
「べべべ、別にあいつのことが好きなわけじゃないわよ!」
「え? 一生料理食べさせるって……つまり結婚じゃねぇの?」
そう言ったとたん凰の顔が一気に赤くなりこちらに飛んでくる物体があった。
凰の拳である。
それが顔面にめり込みなんで殴られたのか理解が及ばない。
「そんなわけないでしょ! あれは、その……。そう! つまりあなたの専属シェフになりますよってことなのよ!」
それって奥さんって意味じゃねぇの? いや、セシリアのようなお嬢様が現実にいるんだから否定できない。
ひりひりと痛む鼻を押さえながら立つ。視界には顔が赤く息が荒い凰、見下げたような目で見る谷本、悲しそうに眉をハの字にしているのほほんが見える。
「ほんとデリカシーないわね」
「わかっていても指摘しちゃうって駄目なことだと思うよ~」
なんで俺が気遣いができない人物になってしまっているのだろう? 指摘されて恥ずかしいから?
「なんかすいません」
取り敢えず反省しているふりしておこう。
「なんかいろいろ吐き出したらすっきりしちゃったわ。ありがとね、谷本に布仏……後ついでに崎森」
「なんで俺こんなに扱いが悪いんだろうね?」
「馬鹿だからじゃないの?」
ざっくりと谷本が指摘する。
天才だという気はないが、他人から指摘されるとなぜか胸に衝撃が来るのはなぜなんだろうね? 今はナイフで刺されたような痛みが胸に広がっていく。
「じゃ、別のクラスだけどよろしく」
そう言って凰は自分の部屋に戻っていく。空元気を振る舞っているようにも見えた。
「ところで、まだ食堂って開いてたっけ?」
「もう、10時回ってるからねぇ。もう開いてないよ~」
俺と谷本はその日の夜、冷蔵庫に残っていたお菓子で腹を膨らませた。
修正 相川さんのハイキックをなくした