「ではこれによりISによる基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、崎森、オルコット。試に飛んでみろ」
そう言われ宙に浮かぶようにリラックスしてIS『ラファール・リヴァイブ・ストレイド』を何とか2,3秒で展開する。アリーナでの練習では最初に頃10秒くらいかかってしまったが、まぁよくなったほうだと思う。
「崎森、もっと早く展開しろ。熟練したIS操縦者は全身展開に1秒もかからないぞ」
「……はい」
でも先生これでも初期よりはまともになったんですよ? そんななけなしの努力を打ち払うように今度は織斑のほうに向く。
「それで織斑はいつまで時間をかけている? 集中して呼び出せ」
織斑が待機状態のガントレットに手を当て目を閉じた。そして体が光の粒子に包まれその中から出てきた白い機体。『白式』
展開の速度は俺よりも早いらしく1秒切ってなかったか? と思うほどだ。
「よし、飛べ」
そう言われ足を曲げ勢いよい良くその場でジャンプするような形で垂直に飛び上がる。しかし、そこはさすが代表候補生か俺よりも頭上に飛びある一定の高さで止まっている。そこまで俺も行き静止しようとしたが風に吹かれたのか、慣性の法則かで少し行きすぎてしまい完全には止まらなかった。
なんでこんなに不器用なんだ、俺は。
そう思っているうちにオルコットは飛行しグラウンドの周りを旋回し始めた。
「崎森、オルコットに追いつくように飛んでみろ」そうインカムを手に持った織斑先生が言ってくるのでオルコットの後を追う。何とか追いつこうと必死になるものの速度はかなり出しているはずなのだが追いつけない。
「あら? 私のヒップにくぎ付けにされたのかしら崎森さん?」
「追い越してそんなバカなことを考えていないやつだと証明してやろう」
あの試合以降オルコットは強張っていた表情が柔らかくなり、高慢な態度が緩和せれていた。時には今のように冗談を交えるくらいだ。
しかし、今はそれよりもっと加速しろと念じてみるがこれが限界。瞬間加速《イグニッション・ブースト》と呼ばれる加速法を使えば行けるのかもしれないがそれよりも前に試してみたいものがある。
マルチスラスターを点滅させるように高出力で瞬間的に吹かして一気に加速、その流れに乗りもう一度点滅させるように高出力で瞬間的に吹かす。
あるゲームでの加速法で2段クイックブーストと言う。だが急激な速度に対応してオルコットの方も速度を上げ同列になる。さらに言うなら最初の加速で少し強張ってしまい2回目が遅れた。そして徐々に慣性がなくなってくるため俺の方がやや後ろになってきた。
「まだまだでしてよ」
「ぬぅ」
「なんでお前らそんなに速いんだよ。どういうイメージしてるんだ?」
そんなことを織斑が聞いてくる。
「一夏さん。所詮はイメージ自分がしやすい方法を模索するのが賢明でしてよ」
「個人的には他の何かに例えるのがいいのかもしれねぇな。戦闘機とか」
「いや、戦闘機と同じに考えたら飛ばないぞ、これ」
「戦闘機と同じ理屈で考えるんじゃなくて第三者から見たときと同じ感想を抱くんだっての。例えば飛行機を見て速いって感想を抱いたらそのことを思い出しつつ自分に反映していくってだけ」
「そういわれても、なんで飛んでいるのか気にならないのか? こっちは空を飛んでいること自体あやふやだっていうのに」
「説明しても構いませんが長いですわよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」
「噛み砕いて言うなら反重力力翼はISにかかる重力をなくして浮かせる。流動波干渉は浮かせたISに力を与えて移動させるってだけ。もっと詳しく知りてぇならオルコットにどうぞ聞いてくれ」
「すまん。また後で頼む、もう頭がいっぱいだ」
「ええ、放課後に指導いたしましょう」
「章登も一緒にどうだ?」
シュミレーターもいいがやはり実際に動かしたほうが為になりやすい。今頬を叩く風も仮想現実でも再現はできるのだが冷たさ、心地よさまでは今のほうがずっと感じやすい。
「アリーナの使用許可ってあるのなら便乗させてもらいてぇな」
「一夏! いつまでそんなところにいる! 早く降りて来い!」
会話に割り込むような形で耳に怒鳴り声が炸裂する。これがコメディ漫画だったら俺らは目が丸くなって今にも飛び出そうなほど伸びているだろう。
地上に目を向けると山田先生のインカムを篠ノ之が奪っていた。そしてオロオロしている山田先生が見える。そして篠ノ之の頭に出席簿を振り下ろす織斑先生が目に映る。
かなり遠く。あちらから見たら豆粒くらいにしか見えないはずなのだが、これは何万キロも離れた星の光で自分の意図を把握するためのものっとオルコットが織斑に向かってレクチャーしている。
しかし未だにISが宇宙に飛び発つこと、気配がないのはニヒリズム(意味がない)なことだ。
「3人とも急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地上から10㎝以下だ」
「了解です。ではお先に」
そう言って急降下をし始めたオルコット。そのさまは鷹が一気に地表のネズミを狩りに行くような感覚を覚えさせたが、地表すれすれのところで機体を反転させ地面に足をつける。
「じゃあ次は俺な」
「ああ」
一気に下に向けて加速しどんどん近くなる地表。ジェットコースターなんて目ではない。モニターに地表何メートルと表示されそれが30mを切ったところで機体を反転させスラスターを吹かし停止しようとするが、バランスを崩してしまいすぐさまスラスターで立て直そうとするが地表に足をつけたところでまだ勢いを殺せず地表を滑る。
足の裏の摩擦とグラウンドに2本の線を引きバランスが崩れゴロゴロと転がる。
「崎森、地面に溝を作ってどうする。急減速と姿勢制御のタイミングを考えろ。後でその溝を均しておけ」
織斑先生がそう言う前に何人かがくすくすと笑っていた。まぁ、失敗を笑うのは普通なのだがせめてこらえる努力くらいはしてくれ。
はい。っと、言おうとした時グラウンドに爆音がし地面が揺れる。そして大量の土砂が宙を舞う。
何事かと大勢がそこに行き、俺もその方向に顔を向けながら進むとクレーターを作ってその中心部にいる織斑がいた。どうやら減速をしなかったらしく加速落下で地面に突っ込んだようだ。
「馬鹿者。誰がグラウンドに激突しろと言った。お前の耳が悪いのか? それとも目が悪くて地面が見えなかったのか?」
「……すいません」
クレーターの中心にいる織斑は項垂れまた背が一回り小さくなったような反省をしている。
そして、浮かびクレーターから離れる。シールドバリアーのせいで汚れが一つも見当たらない。そりゃ墜落だから体を守るために自動的に働いたのだろう。
「情けないぞ一夏。昨日私が教えただろう」
「大丈夫ですか、一夏さんお怪我はなくて?」
「ISを装備していて怪我などするはずないだろう」
「あら? 篠ノ之さん。他人を気遣うのはおかしいことですこと?」
「こいつは甘やかすとすぐつけあがるからな。厳しくしておかないといけないのだ」
「しかし、自分のいら立ちをぶつけても相手は上達しませんことよ」
「なんだ私が怒っているとでもいうのか?」
「あら? 違いまして?」
そう言いながら織斑の周りに駆け寄る二人。篠ノ之は目をいつも以上に吊り上げ一夏を怒鳴っていた。おそらく俺という対象がそうさせているのだろう。私が教えているのになんでお前はあいつより劣っていると、まぁ心中を察しているわけではないが。
「馬鹿者ども邪魔だ。喧嘩なら隅に行ってやれ」
そういって二人をかき分ける織斑先生が織斑の前に立つ。
「織斑、武装展開ぐらいはできるようになっただろ。実践してみろ」
「はぁ」
「教師にはハイ・イイエで答えろ」
「はいっ」
「ではとっととはじめろ」
そういって白式の手に光の粒子が集まり、強大な白い野太刀が光の粒子から現れる。
「遅い、0.5秒台で展開できるようになれ。崎森今ある武装をすべて展開してみろ」
次は俺に振られ武装を可能な限り速く展開する。手に光の粒子がはじける。
単分子カッターを左手に、ショットガンを右手に、左脇にアサルトライフルを展開しそれらを一度地面に落とし岩石破砕ナイフ3本を右の指の間に挟む。そして左の指に筒状のスモーク弾2本を持つ。ここまでで約2秒半と言ったところだろうか。
「ではそれらすべてを収納してみろ」
そう言われ戻そうとするが、あまりうまくいかず遅い。俺風にいうと音量が小さく聞き逃したところを戻して再生するがまた聞き逃してしまい、今度は音量を上げて聞くという風にな二度手間になってしまう。すべての武器を収納するのに15秒近くかかった。
「遅い、すべて1秒に短縮しろ。お前が持っている武装はすべてコンパクトになっているのだから速く展開できて当然なのだからな」
「はい」
内心ひでぇとは思いつつも返事をしておく。一応言っていることはおかしくはない。ただ厳しく辛辣というだけだ。
「オルコット、武装を展開してみろ」
「はい」
そう言われた手を真横に掲げる。直後に光が弾け『スターライトmrkⅢ』が握られ横にいた俺の頭に鈍い音を響かせる。本来銃の砲身で殴るのはいろいろと問題がある。曲がったり、破損したり。殴るのは主に銃床(スットク)と呼ばれる銃の後ろにある部分である。砲身で殴るのはお勧めしない。
「いてぇんだけど?」
「す、すいません」
「オルコット、そのポースはやめろ。当ったのが崎森だからいいようなものの一般人に当たりでもしたらどうする。正面に展開できるように心がけろ」
「……はい」
オルコットはがっくりと肩を下し今にもため息がつきそうな顔になる。
「オルコット、接近用の武装を展開してみろ」
「えっ、あ、はい」
気を落としているところに急に声をかけられ、慌てて武装を展開しているのだがなかなか形にならず光の粒子が手の周りで泳いでいる。
数秒たっても一向に形にならず織斑先生がうっとうしそうに「まだか」と聞いてきたのでオルコットはやけくそ気味に叫んだ。
「ああもう! 『インターセプター』!」
そうして呼び出される青の持ち手。刃はなくおそらくガスバーナーのような熱を出して焼切る武器なのだろうと察した。
ちなみに武器名や機体名を言って武装・ISを展開するのは初心者のやり方である。人それぞれに相性があるとは言うが接近武装がここまであわない人間もいないのではないかと思うほどだ。
「何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうつもりなのか?」
「じ、実戦では格闘の間合いになんて入らせません!」
「ほう? 2度も初心者に接近され格闘戦に持ち込まれたのはどこの誰だったかな? 私にはそいつが簡単に懐を許したように見えたが?」
「い、いや、その、あれは……」
指摘されてしまいオルコットの歯切れが悪い。まぁ、射撃特化は格闘の弱いって相場が決まっているけどな。
『あなた方のせいですわよ!』
個人秘匿通信《プライベートチャンネル》を使ってオルコットが怒鳴ってくる。
えー、俺らに責任転嫁されても困るんですがねぇエリートさん。
そんなこと思ってしまう。戦術、戦略、策略を使うのは戦いの常識です。
「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑はグラウンドを埋めとけ。崎森は溝を均しておけよ。」
体育倉庫にトンボ(地面を均す時に使うT字型の道具)ってあったけ?
そこに向かって道具を取りに行く。
「章登。悪いがそっち終わったら手伝ってくれないか?」
「嫌だよ、こっちはとっとと終わらせて砂埃をシャワーで流したいんだ」
「なんでだよ。手伝うってのが人情ってもんだろ?」
「自分でできることは自分でした方がいいぞ」
というよりも才能があるのになんでこいつは、こんなミスをしたのか疑問だ。
「この大穴を一人で埋めろって?」
「織斑君、私手伝うよ?」
そう俺たちに声をかけてくる女生徒がいた。まだ名前を把握してない生徒がいるので仕方ないが、すごくいい子だなぁと思った。
だって、イケメン顔とはいえ自分がミスした所を手伝ってくれるんだぜ?
「いや、女子に労働なんてやらせたら男が廃るってもんだ。だから手伝わなくていい」
こいつが何を言っているのかわからない。いや、女子に手伝わせるのはいささか引け目があるというのは解る。が、好意で手伝いに来ている人を断るというのはどういう了見なのだろう。
「あ、私って結構体力あるよ」
「いや、体力があるないの問題じゃなくて肉体労働は男の仕事だろ」
「おかしいだろそれ、肉体労働関係でも女性はアルバイトとか職に就いている人かなりいるぞ」
「まぁ、でも手伝わせる理由がないだろ?」
「お前俺に手伝ってくれって言っただろうが。じゃあ俺に言う必要性なかっただろ」
「章登は別だ。お前は男だからな。男同士仲良くしようぜ」
そう言って肩を組もうと手を伸ばしてくるが、その手を俺は払いのける。
親しくないやつと腕組みとか堪ったものじゃねぇ。
「そういう男女差別って今の時代どうかと思うぜ」
「男が肉体労働するのは当たり前だろ?」
「女性が肉体労働をしてはいけないって言うのもねぇとおもうがな。人の好意を受け取るって言うならそういう一方的な否定じゃなくて礼の一つも言ってから断るのが常識だと思うんだが?」
「否定なんてしてないぞ?」
してるだろ。女は肉体労働しちゃいけないって。
「ごめんなさい、私邪魔だったよね」
そう言って女子が校舎に向かって逃げるように走って行く。
トンボを持ってきて自分がつけた溝を均し終えたとき織斑から手伝ってくれと言われた。
「そうして欲しいなら、さっきの女の子に謝ってこい」
「え? なんだって?」
もうため息しか出ず、その場から織斑を置いていくようにして校舎に入っていく。
「織斑君クラス代表おめでとう!」
「「「おめでとー!」
寮の食堂であちらこちらでクラッカーが鳴り、紙吹雪や色があるテープが舞う。一年一組の何人かがこの数日準備していたらしい。織斑の後ろの壁には『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と書かれた紙がある。
食堂には女子があふれかえりそうなほどおり、一組だけではなく先輩や他のクラスの生徒も混じっている。
俺はチキンナゲットを小皿にとりジュースを手に持ちそれらを口の中に入れていた。オルコットと篠ノ之に挟まれている織斑は当惑したような気が乗らない顔をしていた。
他の生徒は思い思いにテーブルにあるものをつまんだり、会話したりと思い思いにはしゃいでいた。
「人気者だねぇ」
「一瞬どこのキャバクラだって勘違いしそうなんだけどな」
「あ、もしかしてモテはやされたかった?」
「谷本が会話してくれるだけで俺は十分です」
「はいはい、ぼっちな崎森の相手をしてあげよう。でも有料でね」
「マジでキャバクラじゃねぇか!」
一瞬谷本の目と口が邪悪に弧を描いたのを俺は見た。谷本、いつの間に守銭奴になった? もしくは水商売の人?
「はいはーい。新聞部の黛薫子でーす。話題の新入生、織斑一夏君に突撃インタビューをしに来ました! ついでにもう一人の方も記事にしちゃうよ」
俺はついでかよ。
「では織斑君、クラス代表になった感想をどうぞ!」
そう言って差し出されるマイクとそこからコードがつながっているポケットにある膨らみ。下手な発言は控えた方がいいらしい。
「えーと……なんとういか、頑張ります」
「ええ……。もっといいコメントちょうだいよ~。俺はハーレム王になる! とか」
残念、織斑はもうハーレム王に近い。だってもうなってる。候補は二人どころか大多数。
篠ノ之はなんだか織斑が他の女に近づいたら不機嫌な顔するし、オルコットは最初の高慢な態度が嘘であるかのように物柔らかい。
俺と織斑が歩いていれば大抵の女子は織斑の顔に目が言っているのが分かる。
イケメンすげぇー(棒読み)
「自分不器用ですから」
「うわっ、前時代的すぎる」
そうか? ガマけん○んの戦闘シーンでのセリフであれは格好良かった。
「まっ、適当に捏造しておくからいいとして、崎森君だっけ? 女子の花縁に入っての感想は?」
「香水と体臭スプレーの臭いを何とかしてほしいんだけど」
「あっ、それ無理」
無理ですか。と隣の谷本にも目を向けてみるが、首を縦に振り黛先輩に同意しているようだ。あのなんて言うか酸っぱい臭いが充満しているんだ。体育とかISの訓練後に。適度なのが一番いいらしいぞ?
「まぁ、こっちも捏造しますか」
「どうせ捏造するなら『地獄に落ちろ、くそ野郎(新聞部)』で」
「どうせするなら『俺はハーレム王なんかにまけねぇ! ハーレムの女全員NTRしてやるぜ!』にしようと思うんだ」
「俺、NTRより純愛が好きなんだが」
「答えは聞いていない」
いざとなったらクレームでもつけようか? それとも生徒会長にお願いして廃部?
「ああ、セシリアちゃんもコメントいいかな?」
「わたくしこういったコメントはあまり好きではないのですがしょうがないですね。ではまず、どうしてわたくしがクラス代表に辞退したかというと、それはつまり―――」
「ああ、長くなりそうだからまた今度に。次は写真おねがいね」
「……あなた、本当に記者ですの?」
コメントくれと発言して答えようとしたのにさえぎられれば誰だってやる気なくして怒るが、オルコットは怒るを通り越して呆れが混じった疑惑の目で黛先輩を見ている。
「記者なんてこんなものだから。よし、クラス代表を譲った理由は織斑君に惚れたからにしよう」
「なっ、ななな!? なんてことしてくれますの!?」
図星を当てられ赤面になるオルコット。ここまで分かりやすく動揺する奴って俺見たことないよ。
俺はため息をつき皿にあるフライに手を付ける。
「はいはい。漫才はそれくらいにして二人とも並んでね。写真撮るから」
「え?」これはオルコットの声。嬉しい誤算という風に喜んでいる。
「注目の専用機持ちだからねー。握手とかしてるといいかもしれないから、やってもらえるかな?」
「そうですか……あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」
「そりゃもちろん」
「でしたら一夏さん、章登さん。早くやりましましょう。ほら」
「お、おう」
「やんなきゃダメ?」
「せっかくですから」
そう言われてオルコットと握手をするが織斑が手を繋いだとたん篠ノ之の怒気がまた上がり、こちらまで寒気が伝わってきそうだ。
「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は?」
「え? えっと……2?」
「残念、74.375でしたー」
意味わかんねぇ。そして、写真を撮る前に食堂にいた全員がフレームに入ろうとして俺もその波に押されおそらくフレームの端に映った。
「なぜ全員はいってますの!?」
「まぁまぁ、セシリアだけ抜け駆けはないでしょ?」
やはりイケメンは色々とひでぇ。なんだ? 魅惑の魔術でもかけられているのか織斑は?
俺もイケメンに生まれたかったと思わざるを得なかった。整形って金かかるしね。一度くらいはモテ期というものを味わってみたい。
パーティが終わり部屋に戻ってきた。結局のところ飲食していただけなのだが同室の、のほほんも同じらしくケーキやチョコなどを食べていただけらしい。無銭飲食っていいよね。
歯を磨いた後は谷本ものほほんもベットに入り、俺は床に敷いてある寝袋に入る。床にはカーペットが敷いてあっても固いことには変わりなく、最初のころはあまりよく眠れなかったが今では難なく寝ることが可能に……ならなかった。少し抵抗がなくなったという程度である。
のほほんは腹が膨れて眠くなったらしく、ベットに潜ったとたんに寝息が聞こえる。しかし、なぜかその寝息がかわいい。おそらく猫が目を閉じているのに愛くるしく思えるのと同じ理屈だと思う。頬は赤くなってるし胸がドキドキする。もしかして俺欲情している?
もぞもぞと寝返りやファスナーを閉じたり開いたりしているのが気になったのか、谷本がベットの下にいる俺に顔を向ける。
「やっぱ織斑君みたいにモテたい?」
「……どうなんだろうな? 確かにちやほやされたいという願望はあるけど、関係が続けられそうにもねぇし、何より今日大量の女子に囲まれて疲れんだよ。一日限定とかならやってみたいとかあるな。まぁ、織斑は織斑で俺は俺なんだけど」
そうだ、別に卑下してるんじゃない。悲しんじゃない。妬んでいるじゃない。そうなのかもしれないが俺は織斑とは違うのだから、俺らしく学園生活をしてればいいだけだ。友達作ってばか騒ぎして、楽しめればいい。
あいつがどんなにハイスペックな容姿、ぶっつけ本番手ものにする能力を持っていても関係ない。
「モテたくはあるんだ」
「ハーレムは男の子の夢です」
「このすけこまし、スケベ野郎、女の敵」
「はいはい、どうせ俺はスケベな変態ですよだ」
「さいってー」
そこで会話は終わりという風に切り上げる。こちらは女子二人と一緒に寝ているのでリビドーを抑えようと努力して早く寝ようと一生懸命なのだ。しかし、谷本は関係ないとばかりに話を続ける。そして唐突に声音を変え聞いてくる。
「ねぇ、崎森ってなんでそんなに努力するの?」
「あー、事情付きとはいえ専用機与えられたしなぁ。それに力があったほうが何かと有利じゃねぇか」
「有利?」
「脅したり、ぶん殴ったり、障害をはねのかしたり」
「なんで守るとか、救うとかがないのよ。それじゃ、町のチンピラじゃない」
「守るって言えるのは強い奴だけだろ? みんなは俺より頭いいし、操縦うまいし何とかしそうじゃねぇか。それに救うっていうのは結局のところその人の成長を妨げるってことにはならないか? 救われたって思うかもしれんが信仰化されたり、自分で解決できたかもしれないだろうが。」
この学園のほとんどはエリートで、操縦技術もある。俺が守るとか救うとかそう言うことすらおこがましい。そういうセリフは一人前になっていうか責任を背負っていうべきセリフだと思う。
織斑が言った「今度は俺の家族を守る」ってそれは織斑先生を超えてから言うべきだと思ってしまった。お前はそんなに強いのかよって。
「だから俺は誰かに協力して手を貸すことはあると思うけど一方的な救済はしたくねぇんだ。俺はそこまで強くないし、みんなもそこまで弱くないと思うからな」
守る、救うはその対象が自分より弱いと思っている。見下してると思っている奴がする発言にもなってしまう。
「だから、まず力をつけて誰かに力を貸せる人間っていうのか? そういう手を貸せる人間になってみるってだけ」
「それってヒーロー?」
「さぁ? でも勇者は誰かに勇気や元気を湧き出させることができるから勇者なんだってどっかのセリフであったな」
「ふーん。じゃああんたの将来の夢は勇者ね」
「ええ。なにその子供みてぇな夢。いまどき勇者なんて他人の家に押し入ってタンスや倉庫の中を探って遠慮なく持っていく強盗だってガキだって知ってそうなものだぞ?」
「勇気を誰かに湧き上がらせるって言ったじゃん」
「はいはい、精々そうなれるように努力しますよ」
「じゃ、私が困ってるときは力貸してね」
「まずは自分で解決する努力してくれよ」
「うん。私も精々協力してあげるから感謝してよね」
「とりあえず、知り合いすらいない異常な女子高に放り込まれたってな状況でないだけありがてぇよ」
「そう……なんだ」
何やら歯切れが悪く、顔を引っ込めた。俺、恥ずかしがるようなセリフを言っただろうか?
「じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
そう言って眠りにつこうとしたのだがやはり寝つけず、谷本のほうも寝付けないらしく寝返りをするシーツの擦れた音が聞こえる。やはり、こう、女の子と一緒に屋根の下で寝るってすごいシチュエーションだよな。人生の中で俺一番異性と接している期間かもしれない。
しかし、そんな時間が過ぎていくほど気にならなくなっていく。そうして俺は暗闇に沈んだ。
さっき見直してみたら未だ織村と書いていてしまった