試合の終わった後日に研究部に赴き『ラファール・リヴァイブ』の調整をすることになった。
栗木先輩にお礼を言おうと来たのだが、そんなことよりもISに触らせろと言われたので展開し、簡単な整備や調整方法を学んでいた。織斑先生は見てくれた後に「ありがとうございました」と言っているので(息切れが激しく聞こえているかどうかわからないが)別にいいと思う。
「そう言えば名前どうするのよ?」
「え? ラファール・リヴァイブって在るじゃねぇか」
「まぁ、そうだけど。それは企業の商品名みたいなものよ。あなたの機体になるんだからオリジナリティなり愛機要素なり入れ込んでみたら?」
「愛機要素って何?」
「ともに戦う戦友みたいな感じよ。ISのコアには意識に似たようなものがあるから間違ってはいないと思うわよ」
まぁ、言わんとすることはわかる。要は愛情を籠めろと言っているようなものだろう。まぁ、自分なりに染め上げると言うとかっこいいと思うかもしれない。うん。
「スプレーとかってねぇか? 塗色したいんだけど」
「それじゃあ整備課から取ってきなさい。確か装甲の塗色とかエンブレムが剥げたときとかに使われるから」
そう言われて立ち上がり、扉の前まできて足を止める。整備課がアリーナの近くだったということは知っているが、どこのアリーナの近くだったのかまでは知らない。
「整備課ってどこにあったけ?」
「私が知ってるから案内するよー」
「じゃ、ナビお願いな」
「あいな~」
のほほんに案内され整備課のところまで来たが、中には入らず横にある資材や装置を置いてある倉庫に入っていく。
そこにはハイパーセンサーの部品予備や、部品の不具合がないか調べたり、細かい部分を手作業でするときに使う作業用ステータスゴーグル。研究部にあった多彩アーム。それに何かわからないケーブルや調整器具などがきちんと整理され保管庫や金庫のイメージを俺に与える。
倉庫の隅に置いてあった塗料が入っているドラム缶と、それに繋いで塗料を吹き出すスプレーを近くに置いてあった台車の上に乗せ、研究室まで戻る。エレベータ―完備の学校とかそうそうないと思った。
研究室の床に新聞を広げその上に多彩アームではずした装甲を並べていく。俺と谷本は取り外した装甲を床に置いていくのが仕事で、のほほんが多彩アームで装甲を外し、栗木先輩は塗料が内部に入らないように透明なカバーを掛けていく。
「あんな服装なのに器用ね」
「本人は整備課希望って言ってましたよ」
「じゃあ、スカウトしてもいいかしら? 知識に関しては十分だし、不器用ってわけでもないし」
「私、生徒会に呼ばれてるからそっちに入っちゃった。私がいると余計に仕事が増えちゃうからあまり行ってないけどね~」
「それでいいのか生徒会!?」
ラファールの装甲すべてを外し終えたところでネイビーブルーの色を吹き付けていく。深緑の色が深青に塗り替えられていく。これで角とか大鎌とか蝙蝠のような羽をもっていたら、悪魔を連想できるだろう。
「なんでこんな色にしたのかしら?」
呆れた様な声で栗木先輩が言うが、そんなに変な色を付けたわけではないと思う。ピンクとか黄色とか、そもそも俺の色ではない。やっぱ寒色系っていいよね。それに
「かっこいいじゃん」
これが一番の理由。なんか先輩はため息を盛大に吐き出した。そして、蔑んだ目で俺を見る。ああ、オタクとか中二とかだけどそれが何か? というか、かっこよくなかったら意味ないじゃん。
装甲を塗装し終えたところで今度は、名前をどうするか。塗っている途中で考えたのがあるのだがまず最初にみんなが意見した。こんなのはどうかと。
谷本
「ジェネレーション・リヴァイブ!」
え? 色変えただけで進化するの? 性能的に何も変わってないよ。 得意げに言っているけど却下。
のほほん
「ラフたん」
可愛さなんて求めてない! 間抜けな感じがする! ってか、あだ名じゃねぇか! 却下
栗木先輩
「もうあなたの好きなガン○ムでいいんじゃないかしら?」
発案者がそんなのでどうするんだよ? ってか、投げやり過ぎねぇか? 却下
最後に俺
「ストレイド(迷い子)。ラファール・ストレイド」
「……強風の迷子?」
「あー、風は迷うみたいな」
「……かわいくないねぇ」
「……なんでそんな名前にしたのかしら?」
みんな疑問符や困り顔を浮かべている。なんだろう? このかなり滑った感覚。期待を裏切らせたらしい。
「いや、このISって兵器はどこを迷走しているのかとか、俺はどうしたいのかっていうことを考えて付けたんだけど?
ISってもともと宇宙開拓に作られたけど実際には完全に兵器に路線変えたし、俺はIS動かしてしまっちゃってここに来て進路がよくわかんなくなったから」
「だから迷い子?」
「けして、機動兵器初期機体の名前が同じだとかそういうのではないのであしからず」
そんなこと言ってところでまた先輩の目がまた蔑んでいることには気づきたくなかった。
そんな改造というか、変色と改名してしまったが教職員用、訓練用と見分けるためにということで許可は取ってあり、別段お咎めとか、処分とかはなかった。
整備課に塗料を戻している間に装甲を元に戻し、待機状態にしたときには深緑だった十字架が、深青に変わっていた。機体の色が変わると待機状態の色も変わるらしい。おかしいとか奇妙とかいやでも感じてしまう。逆に赤を待機状態に塗ったら赤く変わるのだろうか? のほほん曰く自動調整が働いたらしいがよく分からない。ISのコアは相手を理解しようとするがIS側も自分を知ろうとするのだろうか? 大体俺自身すら自分の事がわからないのに、もっとわからないやつが俺を知ろうとするとは何の冗談だと思ってしまう。
結局こいつはなんなんだろうと左腕にまかれた深青の十字架を見つめていた。
後は更識先輩にお礼を言うだけ。のほほんが生徒会役員らしいので場所を教えてもらったのだが、なぜか一緒についてくる。用があるとのことだが、戦力外通告を受けたのではなかったのだろうか?
考えている間に生徒会室の前に来た。のほほんが「のっくの~っく」という独特のリズムと掛け声で扉をたたき中に入る。そこにはいかにも偉い人が使いそうな番台のような机と背もたれがあり黒い回転式の椅子に座った更識先輩とその隣にいる秘書のような人。
机の両隣りには行事項や運営資金の資料やそれらに関する本などと思われる物が所狭しに並べてあり、生徒会という学生の集まりというより、社長室を大きくしたといった感じがする。
ソファーが机の対象になるように置かれ、部屋の端に冷蔵庫やコーヒーメイカーやコップ、ティカップが置かれている。応接間と言われてもあまり違和感はないだろう。
「失礼します」
「いらっしゃい。まぁ、ソファーに座っててね」
「いや、お礼言いに来ただけなんですぐに帰ります」
「えー。ケーキ食べていこうよ。ここに置いてあるケーキすっごーくおいしいんだよー」
「……それ食いに来ただけ?」
「ちゃんと仕事もするよー。主にお茶出しだけど」
そう言って、冷蔵庫の所まで独特の走り方。トクトクとまるでペンギンが遅く走るように人間なら普通の歩き方で抜けれそうな速度で移動し、冷蔵庫からケーキを取り出す。
更識先輩の隣にいた秘書さんも冷蔵庫の隣まで行きティーカップに紅茶をいれてのほほんが持っているお盆に置いていく。
更識先輩の方を見るとどうぞという風に手を椅子に向けているので座ってもいいらしいが、本当に長く居座る気はないので、どうしようかと悩んでいたが「どっちにしろ一服するつもりだったから」と言ったので座ることにした。
「忙しい中、ISの事について教えてくれてありがとうございました」
「ふふふ、どういたしまして。暇があるときは教えてあげるようか?」
「お願いします」
そうやって頭を下げてお礼を述べる。まぁ、教えてくれるのならありがたいと思っている。この人のからかう性格はどうにかしてほしいものだが。
「そういえば、クラス代表って織斑君になったらしいわね」
「オルコットじゃなくて?」
「そうそう、辞退したらしいわよ」
「ふーん」
意外である。俺、織斑が負けたのだからクラス代表はてっきりオルコットがなると思っていたのだが。
オルコットに何の変化があったのやら。
そんなことを思っているうちにお盆を持ったのほほんが来た。
「えへへ。おまたー」
そう言って机に紅茶とケーキを置いていく。ケーキにフォークを釘刺しにしそのまま勢い良く口を開け、ケーキを頬張る。
「うまうま」と自分のケーキを頬張り続けるのほほん。すぐになくなってしまい、ケーキに付属していたフェルムを舐め始めた。そんな行儀を咎める人物がいた。
「本音、お行儀が悪い」
「だいじょうぶっ。ぺろぺろ」
「のほほん、せめてフォークで掬うとかしないのか」
「残念ー。もう舐め終えちゃった!」
そんなこと言った時に秘書さんがこちらまで来てのほほんの頭に拳骨を下す。
「うぇ……痛いよ~。お姉ちゃん」
「親しい中でもお行儀よくしなさい」
「姉? え? のほほんの家族?」
「ええ、私は布仏虚。生徒会の書記です」
眼鏡をかけ髪は三つ編みにして、目はのほほんと同じでおっとりしているがしっかりと目に力が入っており、のほほんのような気力がない訳ではない。
制服も学校指定の物で改造されていない。
隣に座っているのほほんと比べてみるが姉妹と言われてもあまり似ていない。
「仲がいいわねぇ。で、さっきの暇があるときに教えてあげるだけど今後は忙しくなりそうなの」
「まぁ、独学でやるしかないでしょうね。わからなかったら栗木先輩やのほほんに聞きますし」
「そこでおねぇさんからのプレゼントがあるんだけど、まぁ研究室の方に運んでおくから明日見に行ってね」
「プレゼント? ……訓練メニュー表とか?」
「それは明日の楽しみ」
更識先輩が怪しげな笑みを浮かべこちらを見てくる。なぜだか紅茶は苦くないのに嫌な顔をしているのが自分でもわかる。まぁ、変なものでない有効的なプレゼントを期待しよう。
「では、一年一組クラス代表は織斑一夏君になりました。大変だとは思いますが頑張ってくださいね」
先生の発言と同時に拍手が教室に響き、織斑は困惑した。
「先生。なんで俺がクラス代表になっているのでしょうか?」
「それはわたくしが辞退したからですわ」
更識先輩が言っていたことは本当だった。オルコットは立ち上がって腰に手を当てている。その顔は得意げのような、喜ばしいような表情をしている。
「確かにわたくしは全勝しましたが、それは考えてみれば当然の事。何せわたくしが相手だったのですから。しかし、特別な例とはいえ『一夏さん』と『章登さん』は同じ専用機を持つもの。ならば早くそれ相応の実力を兼ね備えてほしいと思いまして辞退しました。何せISは実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば実戦に事欠きませんもの」
一気に弾むような調子でしゃべり終えたオルコット。しかし、織斑は気になったらしく質問を重ねる。
「それじゃあ、アキトは?」
「その辺は意見が出たんだけど」
「織斑君のは専用機で崎森君は訓練機だからね」
「それに見栄えがする方がいいし」
そりゃイケメンと俺とを比べないでくれ。あれか整形すればいいのか俺は。
「別になりたいわけじゃねぇけどなんだろうな……。この物悲しさはなんなんだろう?」
「さっきーにはいっぱーい、いいとこあるよ。塗装がうまいとか」
「……ありがとう」
のほほんに励まされたが何やら心は軽くならず重いままだった。
「それでですね、よろしければ放課後に私がコーチを致しますわ。わたくしのような優秀な生徒が教えれば上達のスピードも上がりまして非常にお得でしてよ」
「生憎だが不要だ。一夏からは私から直々に指導してくれと頼み事されたのでな。大体、射撃戦重視の機体が接近戦重視の機体に何を教えられるんだというんだ」
「あら篠ノ之さん。それなら余計に射撃の回避行動や相手の懐に入る方法を模索するべきではなくて? その分わたくしの射撃能力はかなりのもの、さらに専用機を持っている分すぐさまに始められましてよ」
「それよりも前に接近戦の何たるかを一夏に教えておかないといけないのだ。間合いに入っても当たりませんでしたでは意味がないだろう!」
そうして始まる修羅場。教室はオルコットと篠ノ之の視線のぶつかり合いと、どちらが織斑のコーチをするかで口論して空気を重たくし始めた。
中には自分がその訓練に参加しようと申し出そうな猛者もいたが、一言言ったところで二人から睨みつけられ口を閉ざしてしまった。
「何をやっている馬鹿たれども」
二人の出席簿が頭に直撃し、重い激音を教室に響かせる。そこで二人は口論をやめ不満がましい目で織斑先生を見るが、それすら子供の児戯のような視線と猛獣に睨まれる(獲物として狩るのではなく、縄張り争いで相手を撃退する。しかし虎VS三毛猫)ようなすさまじい恐怖を感じる視線とでは竦んでしまってもしょうがない。
「私からすればお前らは卵の殻すら割り方をしらない雛鳥だ。それに代表候補生とはいえ一から学びなおすように言っておいただろう。くだらないもめ事は十代の特権だが今は私の管轄だ。自重しろ。それに織斑に教えるというのなら他の奴にも教えてやれ。詳しいんだろ?」
実力がないのに教えるのがだめなのか、織斑以外に教えないのがだめなのか、それとも単に授業が妨害されるのが嫌なだけなのか。
まぁ、他の人に教えてくれるのなら便乗しよう。
「クラス代表は織斑一夏。異論はないな?」
「はい」とクラス1人を除いて全員が声を上げた。
放課後のアリーナでランダムに動く投影された射撃となる的にアサルトライフルを向け放つ。時折レーザー照準され回避行動、移動を交えながらの射撃となるためかなり当てづらい。的の中心から外の順に赤、黄色、緑の枠で彩られており緑に時々、黄色に偶に、赤には全くで自分の射撃センスがないことを改めて自覚した。しかし、これでも停まって撃っていた時よりは精度が上がっているのではないかと思う。
突撃銃(アサルトライフル)は本来近距離で使用する武器だが単発式に変えることで正確な狙撃行動にも移れるようになった武器でもある。
それでもIS用に発展した狙撃銃(スナイパーライフル)や対物小銃(アンチマテリアルライフル)と比べでもしたら、火力、最大射程共に凌駕しているのだが、練習でそんな物騒なものをぶっ放す必要性がない。
最後に投影された的に銃弾を当て、スコアが表示される。30個ほどの的だったが5分を切ってしまっている。さらに点数、撃った回数も表示されていくがかなり最低の数字である。
もう一度と射撃訓練を行い、順々に時間、点数、ミスショットが減っていくものの微々たるものでアリーナの使用時間を過ぎて行った。
「はぁ」
さっきまでの総合スコアを学年の成績に合わせてみるとさすがというべきか。代表候補生は無論のこと、3年、2年とかなりのスコアが離されている。まぁ、最初からうまく行けるとも思っていないが。
織斑のほうはまず格闘戦の体の動かし方、戦い方、武器の扱いから篠ノ之から教わっているらしい。ここに来るまでに「自分の扱う武器から習えばいいじゃねぇの」と俺が何気なく言ったせいでオルコットから睨みつけられたわけなのだ。
なんでも織斑の専用機には武器が1つしかないらしい。当然それを使うしかない。
格闘武器1つのみとか潔すぎるだろう。Gガンだって牽制用のバルカンくらいは持っていた、エピ○ンだってビームソードだけではなくヒートロッドなど複数の武器を持っていたのだ。まぁ、どちらも色物だとは思うが。
今日はもう借りられないので研究部のほうにお邪魔しようと思った。まぁ、訓練が終わった時に更識先輩のプレゼントが気になったのだが、察するに訓練メニューだと思われる。
更に言うなら研究室がどうなっているのかが気になる。更識先輩の行動によって栗木先輩に迷惑がいっていないか。あと、いかなかった場合で文句言われるのと、言った場合で文句を言われるのとどうするべきかと迷ってもしまった。
とりあえず逃げる術がなさそうなので研究部に向かう。
「資金を回してもらえるのは有難いし、まぁ、あなたの教育費と思えばいいのかしらね。でもスペースとられるのは癪だわ」
「すいません」
「いいわよ別に。こっちにとっても利益がないわけじゃないもの。まぁ、アリーナ使用ができない間はこっち使わせてもらうわ」
研究室に入った時に見えたのはコンテナハウスを縮めたような箱であった。実際に人が入るものであるし、研究室には畳4枚分くらいのスペースが使われている。そのくらいでは元々大人数で使われることを設定して作られたこの研究室は狭くならない。
これは昔IS学園が製造したシミュレーターらしい。ヘルメットをかぶり神経伝達をして仮想空間に自身がいるように錯覚させるものらしい。
要はゲームの中に俺が入りました状態。
「でも、ISのシミュレーターがあるのならなんで訓練でこれ使わないんだよ?」
「企業とか学園でも使っているけど、各国の人間が集まるところだからデータの賛否があるのよ。Aの国の機体はここまでできるのになんでシミュレーターではできなくなってるって苦情が来たことがあったらしいわ。各国、企業がチューンした最新のデータとデフォじゃ差が出るのは当たり前だわ。だから、訓練で使うのは基礎能力しかないものを使っているのよ。大会とかじゃ自身やチームで調整して出場もできるけど。でもその国の未公開の部分を使わなければならないってことになるわ」
「でも、いろいろな過去の対戦者のデータを使えるのは有効じゃねぇの?」
「そうね。でもそのデータに勝ってしまったらそのデータの元になった人は専用機を下されるかもしれないし、国が安くみられるかもしれない、勝った人間が増長するかもしれない。」
「つまり外国からの干渉や圧力があったから訓練では使えないってことか?」
「研究目的や性能実験、訓練でも使えるけどこれは学園独特の物にしています。てことをアピールできれば公開されても文句は言えないわよ」
そういうものなのだろうか?
まぁ、他の国のデータをそのまま使っています。より一から別物です。って、言った感じになるのだろう。それで言い逃れできるか疑問だが。
「じゃ、さっそく使いましょう」
栗木先輩が急かす様に箱の中に入っていく。
俺はその反対側から入って手首から待機状態のブレスレットをモニターの前に置き、そこにある椅子に背もたれにかけるような形で半分寝たような状態になってヘルメットのような物を被る。
電脳空間や仮想現実と言われると攻殻機動○、ソードアート○ンラインと思われるかもしれないがその認識で間違いはない。この箱は仮想現実のISシュミレーションマシーンみたいなものである。
『これを使って練習してね』と顔文字つきで書かれた紙が貼っており、これが更識先輩のプレゼントだと分かった。裏面に『リアルだからって視姦したらダメだぞ』という言葉が見え思わず握り潰した。
ポリゴンで構築されたアリーナ。制限があり全く雲がなく太陽が動かない空。箱庭の空間。そんな中に俺は『ラファール・リヴァイブ』を身にまとっていた。反対側には栗木先輩が同じラファールを纏って立っている。しかし俺と違うところは試験段階のレールガンを脇に抱え両手で装備していることだろう。
俺は現実世界でISの武器を呼び出す感覚で手に単分子カッター『ブレイドランナー』とショットガン『ケル・テック』を握っていた。
ブザーが鳴り試合が始める。
牽制目的で二人同時に銃声が鳴る。しかし散弾ではレールガンの弾が出す衝撃波ですべてをかき消してしまいあちらには届かなかった。しかしこちらには届き後ろの壁に銃弾がめり込む。
次弾までに距離を詰めようとするが、栗木先輩の左手に光が現れ蒸気のように消える。その光の中から現れたのはアサルトライフル。それがこちらをとらえ弾丸が吐き出される。連射式に設定しているらしく弾幕が激流のように襲ってくる。
射線より右側に移動しつつショットガンを放つがすぐさまそこから移動し回避しながら、こちらに向かってくる。
そして、アサルトライフルで牽制しつつ本命のレールガンを撃ってくる。スラスターについている盾を右斜め前に構え針を縫うようにジグザグに動いて射線を惑わせながら敵に向かっていく。
しかし、レールガンが盾に当たり弾かれてしまい無防備をさらしてしまったが、かなり近づいておりこの距離ならショットガンの有効範囲と思い連射する。
だが、相手もこちらの武装が近距離対応とわかっておりすぐさま回避行動に移られる。その回避行動先に俺は持っていた単分子カッターを投げつける。電力配給するコードが伸び釣糸のようなものを思わせる。その攻撃を栗木先輩は蹴り上げることで防ぎその足にコードを巻きつけようとしたがそううまくはいかず引き寄せ手繰るしかなかった。そうしてる間にレールガンを放ってくるが盾を前に置くのが間に合い防ぐ。即座にアサルトライフルの弾幕が降り注いでくるが回避行動をし続ける。
「そんな攻撃法今時はやらないわよ」
「あっそうですか」
銃弾をこちらに浴びせようとどんどん撃ってくるときにそんなことを言われた。確かにこんな攻撃法あまりよくないだろう。投げナイフじゃないんだし。
そんなことを思っていたが足に、腕に銃弾がかすれ始めたので思考を打ち切る。しかし、さっきから撃ち続けているのだからいい加減に弾切れになってもいいはずである。
弾切れがないのかと思ったその時、一瞬銃弾の雨がやみここぞとばかりに栗木先輩に向かって直進する。
すぐさまレールガンで迎撃してくる。その時に引き金に意識を集中させ身をよじる。躱したかと思ったが弾速による衝撃波で体が固まりそうになる。だが止まってはいられない。
次の弾が来るまでの間にスモーク弾を呼び出し投げつける。すぐさま栗木先輩の周りが煙に包まれる。手持ちの武器を収納する時間が惜しく投げ捨て、その手に岩石破砕ナイフを二手に持つ。煙が辺りにまかれている中に岩石破砕ナイフを地面に突き立てるように投げる。
そして栗木先輩が煙から逃げ出す前に爆破。
爆風で煙が押し出されるように晴れ、その爆風にこちら側にも届くがそれに逆らうようにして突進。よほど栗木先輩の近くにナイフが刺さったらしく立て直すのに時間がかかっている。こちらに気づき距離をとるがもう遅かった。最後の岩石破砕ナイフを両手で握り突き刺す動作を繰り出す。
しかし、身をかがんでそれを避けたらしく下にアッパーカットの体勢でいる先輩が昇竜拳を放つ。顎にくらい吹っ飛ばされ手に持っていたナイフを落とすが何とかスラスターを吹かし体勢を立て直す。立て直した時と同時に放たれるレールガン。今度は真正面にくらってしまいピンボールのように弾き飛ばされる。そこで空の見えない壁にぶつかってしまって止まった。だが今度は弾倉を入れ替えたのかまた弾幕が俺を襲いに来る。すぐさまその場から離れ回避する。そして落としたショットガンと単分子カッターが自動的に収納されたらしい。いちいち戻って取りに行かなくていいって便利だな。忘れたら困る財布とか携帯とかに使えないのがだめだが。
すぐさまショットガンを呼び出し相手に向けて放つ。がまた避けられてしまいなかなか決定打にならない。
それにこっちはシールドエネルギーが2割を切った。対してあちらに有効な攻撃は何もしていない。一夏みたいに特攻をかまそうとも思ったが、それでは確実に負ける。
手持ちの武器は ショットガン アサルトライフル 単分子カッター 岩石破砕ナイフ スモーク弾がそれぞれ1つ。
すぐさま戦術を立ててみたがうまくいくか一瞬迷ってしまった。
その戸惑いを消すかのようにレールガンがまた放たれ、躊躇いを消す。やらなきゃ何にもできずに沈むだけじゃねぇかと自分に発破をかける。シールドに隠れるように細工をする。
その細工を終えたとき、もう一度スモーク弾を放ち罠を作る。
栗木は視界がふさがれて一瞬惑ったがすぐに立て直す。さっきみたいに煙の中にいるのは危ないと思い、事実散弾が辺りにばらまかれ装甲に銃弾が跳ねる。だが損傷もシールドエネルギーも対して減っていない。そのため盾を前面に出し例え直撃が来ても耐えられるようにする。あまり動いておらずどこから撃っているのか丸わかりな攻撃が続く。
(ラッキーはそう続かないわよ!)
ならば、大体の撃っている方向とは逆に距離をとりレールガンの最大チャージでの一撃を見舞わせようと思いチャージが最大になった瞬間に一気に煙を駆け抜け外に出る。
しかし、煙から出たところで予想していたところとは違うとこにいるアサルトライフルを手に持ちナイフを投げるように構えている崎森章登が目に入った。
しかし、まだショットガンの銃声は聞こえている。
オートで撃っているのはわかるのだがアリーナに台座や木があるわけでもない。しかしそんなことを思考している暇はない。すぐさまレールガンを向けようとするが岩石破砕ナイフが目の前まで飛んで爆発する。その衝撃に煽られうまく態勢が整えられない中に弾丸が降り注いでくる。
だが、それでもレールガンを向け最大にチャージされた一撃を見舞った。
そこでブザーが鳴り勝者が決まった。
「私が勝てたわね」
「なんで勝てないんだー!」
そう言って荒れ食っている後輩から目をそむけなぜ別方向にいたのかというからくりに目をやる。
そこには盾に無理やり単分子カッターのコードで固定されているショットガンが地面に突ささりT字のような姿でスモークがあった方向に銃口を向けている。
つまりショットガンをオートにしてそこにいるかのように錯覚させたのだ。
自分は相手がショットガンしか使ってこなかったことでアサルトライフルの存在を失念していた。そして最初のスモーク弾を使っての奇襲。あれの事もありすぐに出てくるとも思ったが、来たのが散弾であり直撃でもなかった。それほどの効果は得られないと踏んで煙の中に留まってしまった。
そしてその間に出てくると思われる方向へ移動する。うまくいったから良いようなものの穴だらけの作戦である。
それともこちらの行動を読んでの作戦なのだろうか?
いまだに項垂れている後輩に目を向けるが、そんな知性的なやつとは到底思えなかった。
その後で訓練というやつあたりで負けたうっぷんを晴らすかのようにシミュレーターを使っていたところに悪戯で『暮桜』という織斑先生が昔乗っていた機体と戦わせてみたのだが、一撃で沈められる、盾で防いでも弾き飛ばされ倒れたところに剣を突き立てられる、ナイフで鍔迫り合いしようとしたのかもしれないがバターのようにナイフが切れてしまう。
そんなんで散々な結果だったわけだが、次の日の放課後また『暮桜』に挑んで負けつづけていた。本人いわく強い奴と沢山戦った方が早く成長すると思うと言っていた。それに難易度の高いゲームほどクリアーしたくなるじゃんとも。
こいつはMなのではないだろうかと思い始めたほどだ
ほんとどうして電脳世界っていう仮想空間設定あってシュミレーターがないんだろう