IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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第41話

 四十院の会社に行くまでに、ボーデヴィッヒとアキラが参加する事を伝えようと寮内を歩く。

 と、四十院の部屋に向かっている途中で織斑一夏とばったりと鉢合わせる。

「よ!」

 と、くったいなく笑う織斑一夏を見てげんなりする崎森。

「やっと補習が終わった所だからさ、これからウォーター・ワールドにでも行こうかなと思ってるんだが章登もどうだ?」

 一夏が言ったウォーター・ワールドとは先月オープンした人気が高い、プール施設である。なんでもオープンしたばかりなので長座の列に並ぶか、前売り券が必要なのだとか。

「悪いが用事があるから断る」

「なんだよ。章登もか。鈴も行く気になれないって断ったし、弾の奴も来るのに」

 どうやら崎森の前にも何人かに声を掛けたらしく、全部断られたのこと。

「まぁ、息抜きは必要だが再テスト、実力テスト大丈夫なのか」

「ああ、最近はつっききりでやってるからな」

「じゃ、がんばって」

 そう言って会話を切り上げ、四十院の部屋へと向かう崎森。

 実際どうなのか分からないが、補習は受けてはいるらしい。

「ま、他人の心配をしてる場合じゃねぇし」

 崎森は独立飛行機構『始祖鳥』、電磁推進器『紫電』の稼働データの収集、ストレイド・ストライダーの解析、自身の練度の上げなどやることがいっぱいな夏休に目まぐるしくなりそうであった。

 

 

 

「そうですか。ボーデヴィッヒさんとアキラさんが同行するのですね?」

「ああ、第三者が居たほうが俺も安心できるし」

「崎森さんが警戒するのも分かります」

「警戒と言うより、心配?」

 別に崎森は四十院をそこまで警戒していない。他の社員は知らないが所属するわけでも無い為、見学と稼働データの提出ぐらいに考えている。

 むしろ、アキラがあのままだと夏休みを全て自宅警備に使いそうだったので声を掛けただけに過ぎない。基本引きこもりになる原因は様々だが、まず引きこもってしまう感情は「恥」である。無収入、社会貢献できない伏し目、家族の視線、果てには他人の視線である。

 ただ、アキラは無収入というか、稼げないわけではない。学生なので稼げないのは当然として、スキルはかなりある。むしろその辺の学生より技術能力がある。

 なので問題は他人の視線。他人から傷つけられるという恐れ。人とそれなりに会話が出来るようになればいい。会話は同居人のボーデヴィッヒとしているため問題ない。

 だから、コンビニに行くでも遊びに行くでも外に出られること。遊べるかと問われると疑問だが、社会見学なら学校行事でもあるのでそんなに抵抗はないと思っていた。

 断ったら次は織斑一夏のようにテーマパークにでも誘おうかと考えていたが、考えを変えたのか承諾してので、肩透かしを食らった崎森だった。

「当日はお願いします」

「いえ、こちらこそ」

 そう言った社交辞令を言いながら当日に備えた。

 

 

 そして、当日だが崎森はTシャツとジーンズ姿の私服で校門前に立っていた。隣には制服姿のボーデヴィッヒとダンボールを被っり体ごと隠している、文字通りの箱入り娘が居る。

 あんまりな姿に唖然とした崎森だが、ツッコミは出来なかった。

 そして、四十院もあんまり気にしていないのか、わざと声を掛けないのか「お乗りください」と崎森たちに促す。

 高級リムジンなど縁のなかった崎森で、一体幾らするのだろうと見当違いな思考を初め、ソワソワとしてしまう。なにせ天上は本革が使われ、シートにはマッサージ機能が備えられている。他にもカラオケボックスが存在し、冷蔵庫があり、グラスなどが並んでおり車なのか疑問に思った。

 扉の横にある冷蔵庫は勝手に開けてはならないのだろうか? 今座っているソファーの柔らかさは大体何万円くらいなんだ!? と内心ハラハラしていた。

 隣に座っているボーデヴィッヒは崎森のように動揺することはない。大物と言うよりは庶民感覚がまだ無いだけなので分かる。アキラはダンボールで顔が隠れているので表情が分からない。

「1時間ほど掛かってしまいますがゆっくりお寛ぎください」

 そう四十院が言って来るが、庶民派の崎森は高級リムジンの中でソワソワしっぱなしであった。

「章登、そう慌てるな。何も私たちは囚人ではないのだ。水でも飲んで落ち着けばいい」

 崎森の様子を見かねたのか、ボーデヴィッヒが励ましの言葉を掛け、リムジンに備え付けられた冷蔵庫からミネラルウオーターを出してくる。ただ、市販のペットボトルではなく容器が瓶であり、外国語であった。もうそれだけで高いのではないかと崎森が危惧する。ラベルには『CHATELDON』と表示されていた。

 渡された水が500ml1瓶1000円だとは崎森はこの時知らない。

「いや、飲んでいいのか?」

「ええ、どうぞ」

 と催促され、封を切り一口飲んでみる。

 崎森の舌では普通のミネラルウオーターではない、と感じることしか出来ない。さらに汗をかく結果になってしまった。

 

 

 高速道路を車が降り、少し走った時に目的地に着いた。

 四十院の会社の印象は大きな高層ビルと言うよりは、工場を大きくしたような横這いにな会社であった。ただそれでも古臭いと言う感覚はなく、8階建てで十分大きい。

 外装内装共に手入れされており大学付属病院みたいな印象を感じる。

「ようこそ、四十院企業へ」

 ガラス張りの自動ドアが開いて中に招かれる。

 本来の居場所の受付カウンターには誰も居らず、入口まで来て2人の受付嬢と何十人かの社員が四十院と崎森たちに頭を下げる。

「どうぞこちらに」

 四十院に誘導され会社の中を進んでいく崎森たち。

 会社の奥に進んでいくと、整備室か作業場に行きつき四十院がドアノブを捻る。

「少々、五月蠅いですが辛抱してください」

 と、四十院は扉を開けた。

 防音設計されていたらしく、扉を開けた瞬間に機械音と金属音が耳なりのように聞こえて来る。

 そのまま歩いて、ある一角の何もないところまで移動したところに見覚えのある人物たちが居た。筋肉質の体で重機を全く使わない3人。

「あれからも筋肉鍛えているようだな。感心したぞ」

「ひっ」

 その筋肉質の整備士が声を掛けたのは章登なのに、隣に居たアキラは怖がって段ボール箱の中で小さな悲鳴を上げる。

 ただ、段ボール箱少女をみた筋肉質整備士は怖がらせたことに傷ついたのか、意気消失してしまった。

「……量子変換している『始祖鳥』を出してくれ」

「あ、はい」

 部分展開し、光の粒が集まり独立飛行機『始祖鳥』を形成する。

 それを整備用のハンガーに掛けてたところで装甲の一部が開き、そこからケーブルが繋がれデータや調整がされていく。こうなると自分のやることが無くなってしまい暇を持て余さないようになのか、社内見学に移っていく。

 企業『きさらぎ』との類似点もあったが、どちらかと言うと工業製品全般を扱っているらしく、搭乗人型重機(パワーローダー)や無人飛行機(ドローン)が製造されていた。それも機能性、利便性を追及しているらしい。ISのデータから重機を作り、『始祖鳥』のデータも無人飛行機に使われるようであった。

「無人飛行機は今後、災害時の悪路を無視しての物資配給や偵察機として開発しています。今後は人工知能によって自動操縦を出来るように開発することを目標にしております」

 四十院のガイド付の社会見学をしていると、今度はEOSや搭乗人型重機の所に移ったところで乗ってみないかと促され人型重機の方に崎森が乗る。EOSは乗ったことがあるボーデヴィッヒが搭乗し、前乗った時との差を比較してみたいらしい。

 崎森が乗った人型重機は椅子から機械の手足が生えており、自身の手足を合わせて竹馬の感覚で動かすようなものだった。特に腕の部分は大きくだらりと垂らすと地面に付きそうである。椅子の背にはバッテリー、各部のアクチュエータが搭載されており、人型重機だけを見るならゴリラが小さなランドセルを背負っているようにも見える。

 そして、座席が絶叫マシンの安全バーのように体を固定していく。

 操作系は腕足に巻き付いた有線の操縦桿とフットペダル。

 まず歩行だけしてみると、いきなり転びそうになった。

「うぉ!?」

 事前に四十院から搭乗者の動きを3倍にすることで狭い座席でも、動作に支障なく動かすらしい。実際、恐る恐る章登が動かしても生身で歩く感覚があるため、いきなり何時もの3分の1で動かせと言われても困った。

 例えば少し足を上げただけでもそれが3倍になって、膝蹴りでも放つかのようになってしまったのだ。それでバランスを崩しそうになったが、過去の経験(ISをマニュアルで動かし転倒し続けた)から即座に慌ててはならない、と動きをカメみたいに遅くしながら体勢を直す。

 それで一連の動作を繰り返し、乗ってみた感想を四十院から聞かれる。

「いかがでしょうか。我が社の製品は」

「まぁ、使えなくはねぇと思う。ただ慣れが必要で実用化はまだ早い気がするけどな」

 ISと同じ感覚で動かしたら確実に転倒、破損は確定であり、特殊自動車のようにレバーやフットペダルだけで動かすものでもない。別物に考えるべきものである。

「ドイツで使っていた者より出力は下がっているが、利便性は向上している。あちらはこれよりも重たかったからな。動かすのに苦労した」

 一方、EOSはISのダウングレードのような物で絶対防御や量子変換が出来ない。だが、誰でも乗れ使い勝手はISと変わらないらしい。ただ、パワーアシストが弱く金属の塊と比喩されていたらしい。ただボーデヴィッヒが今着ているEOSには装甲はなく、覆っているのは強化プラスチックのようであった。

 兵器ではないと印象したいのか、ハンドガンで穴が開くようなものである。

 そういったことをして時間が過ぎる。

 

 

 

「今日はありがとうございました」

 四十院と別れる際、社交辞令を言う崎森。それに答えるように四十院も頭を下げながら「お気になさらず」と言う。

「今日はいい体験になった」

 ボーデヴィッヒもご満悦したようににこやかに礼を言う。

「あ、……今日は、そ、その。あ、あり……がとぅ……」

 アキラはまだ対人恐怖を克服することが出来ず、段ボール箱の中で呟くようにして言う。そして、音が籠り聞こえ辛いが四十院に届いたようだった。


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