IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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第37話

 そこは箱の中。

 外と隔絶された室内は、様々な空中投影モニター画面がある人物の周りを球状に包んでいる。そのモニターの1つに銀の福音が胎児のように丸まっている姿があった。

「むふふー。これでもう私の言うことしか聞かないでしょー」

 銀の福音を自身の制御化に置くために、再設定し銀の福音は完全に操り人形となった。

 この人物の目的は早期の覚醒である。

 人が最も育成を促される方法は何か。

 戦争、闘争が人類の歴史上、技術や力の向上に繋がったのは言うまでもない。

 そして、問題を起こし、解決のために争い、成長し、覚醒へと至らせる。

 無論、その争いで死亡しないために手加減はする。だが、有象無象らはハナから覚醒へと至れない可能性の方が高いのだから死んでしまってもどうでもいい。

 それに必要なのは、自身が見出した者が『神域』へと至れること。特別な者が特別な力を手に入れ、世界に変化を促すことは当然。ならば、特別である自分が世界を変えるのは当たり前。勝手に何をしようが、その結果どうなろうが知ったことではない。

 なので、例外であろうと有象無象の1人となる。むしろ、自分の邪魔をする嫌悪感があった。

「さてぇ。次はどんな手で行こうかな~」

 そこで、あるモニターに目が付く。

 どうせ有象無象なのだからいくら減ろうと、どうでもいいのだからこの際、纏めて消してしまおう。

「邪魔をしそうだし、さっさと消しちゃおーっと」

 銀の福音に命令を出し攻撃を強制させる。

『自衛隊のISを即刻破壊せよ』

『白式・紅椿と交戦せよ』

『白式・紅椿の搭乗者の命以外、被害は問わない』

 

 

 

 崎森章登、篠ノ之箒が大座敷に来た時、むくれた視線でこちらを見る凰鈴音が居た。

「で? なんでここに来たわけ?」

「……すまなかった」

「謝って許すと思ってんの?」

 唇を噛み締める篠ノ之は俯いてしまう。

「……どう言えばいいのか分からないし、どうすればいいかも分からない。謝って済むこととも思っていない。だが、自分が間違っていると教えられた」

 まだ、彼女は自分の足で立ったばかりで震えている。

 だが、自分の意志で動ける。

「だから、今までのままでいたくない」

「何よそれ。勝手じゃない」

「ああ、私は自分勝手だ。……だが、本心だ」

 はぁああ、とため息をつく凰。

「口先だけでないことを期待しとくわ」

 しかし、険しい表情は変わらない。

 そこで、オルコットは篠ノ之に何か言いたいことが無いのだろうかと崎森は意識を向ける。先程からこちらのやり取りを凝視するだけで何も言ってこない。

「わたくしは篠ノ之さんが今後どうなっていくか静観させてもらいますわ」

 崎森の視線に気づいたのかそれだけ言うオルコット。

 それっきりの静寂を爆音と振動が、旅館に居る何人かの生徒を浮き足立たせ、大座敷にいる先生方は慌ただしくなり、専用機持ちたちは真剣な表情になった。

 

 

 

 

 海岸沿いの道路に駐屯している戦車の座席で、遥か海岸線にいると思われる銀の福音をイージス艦レーダーが送ってくる。

 それらの情報、作戦指示を受けている後部座席の上官からの指示で待機が命じられる。座標データを見ていた迷彩服にヘッドフォンとヘルメット姿の自衛官(操縦手)は思う。

 ISにはISなら俺たちが居る必要なくね?、と。

「まさしくその通りだが、税金分は働け。今やることが満載な、哨戒で海見ている海上自衛隊に転勤するか? 推薦状なら書いておくぞ」

 さり気なく嫌ならさっさと首にしてやろうかと脅す上官(車長)。

 実はこのコマンダー、砲撃も担当している。

 戦車が電子部品で簡略化で埋められていく中で通信は車長が同時で行い、戦況を把握し出来るようになった。そうして、装填手も機械化され、砲撃手もまた現場での判断で砲撃する車長が兼ねることになり、近代化された戦車は2人乗りが支流になりつつあった。

 最新のだと1人でも全てを兼ねることが出来るらしい。

 しかし、ISは空を飛ぶものである。

 戦車は歩兵や同じ戦車を倒す兵器なため、戦うこと自体が想定外である。戦車は地面を走り回ることしかしない。相手は空を自由に高速で飛べるのだ。

 初めから勝負になっていない。

 幾ら装備や性能が、旧世紀から発展を遂げているとは言えISには敵わない。

「私たちは誘導され再接近する福音に対して弾幕張って出鼻を挫いた後、ISの部隊が突撃してくれる。後はあいつらに任せてしまえ」

 この上官は苛立っちを隠しもせずに、これが外であったら唾でも吐いていたかもしれないほどに投げやりに言う。

 ISと言うのが兵器として戦車を上回っているのは紛れもない事実である。その為かIS操縦者の女性方は戦車を「やられ役」か「噛ませ役」ぐらいにしか思っていないため、苦渋を舐めさせられている。

 今回も、撃つだけ撃ったらさっさとい無くなれと声の含みがあった。

「でも、それって当たり前のことですよね? 役割があって終えたらささっと引き上げるっていうのは」

「ふん。私が気に入らんのは奴らの態度だ。力に頼っている奴が本当の戦場で戦えると思わん」

「えっと、本物の戦場?」

 自衛官は災害発生の派遣に行ったことはあるが、人と人がそれこそ殺し合うような所へ入ったことが無いため、自覚が持てなかった。

「お前のような青二才には……、いや、私自身海外派遣でテロの爆破で巻き起こった騒動に巻き込まれただけだ。だがな、銃口をこちらに向けられてみろ。全身の血が固まることを思い知るだろうよ」

「IS学園でしたっけ? そこじゃ毎日実銃で撃ちあっているようなものと聞いていますが」

「いっそ、そっちの予算を自衛隊に回してくれればこっちの演習にも実弾が使えるだろうがな。子供が銃を撃ちあうなどゲームのFPSで十分だろうに」

 思わず、頷きそうになった自衛官であった。

 その時、前方を見ていた自衛官がふと光が目に入る。

「ん?」

 一瞬、水平線に小さな粒が光った後。

 

 光速で飛来したエネルギーの弾丸が着弾し、思いっきり乗っていた戦車が揺れた。

 

「ぼさっとするな! 敵襲だ!」

 後部座席から叱咤が来る。いきなりのことに混乱した自衛官は戸惑いの声を出す。

「って! 作戦はまだ先じゃ!?」

「阿保か! 敵が待ってくれる道理がどこにある!?」

 その時、通信がIS部隊の搭乗者が乗る前の誰も乗っていない状況の所に攻撃が来たらしく、ISの出撃が出来ないことが自衛隊に伝えられる。

 こうして火蓋は切られた。

 

 

 

 旅館の大座敷にも攻撃の振動が伝わり、状況の確認に努めていた先生が織斑千冬に報告する。

「敵襲だと!?」

「遠距離からの奇襲によって混乱! 立て直しはしましたが、その自衛隊の打鉄は機動前に狙撃されたそうです」

「なっ」

 教師が絶句したのも無理はない。

「更に不味いことに銀の福音が接近中とのことです……。政府からまた出撃要請が来ています」

 理由は分かる。ISに対抗できるのはISだけ。しかし、自衛隊のISが使えない状況に陥ったのならば戦車などで抵抗するしかない。

 だが、それでISに勝てとは余りにも勝率が無さすぎる。

「……山田先生。出撃できますか?」

「はい」

「前のような時間稼ぎではなく、完全な戦闘になります」

「分かってます。生徒たちを危険に巻き込まないために行くだけです」

 大座敷にいる先生方の決意を団結させる。

「他の先生は出来るだけ生徒を固めてください。旅館全域を守り安くするためにはそうした方がいいでしょう。専用機持ち達を旅館の防衛に当てます」

 先生たちが大座敷から出て、生徒たちを避難させようと障子を開けた所に専用機持ち3人が立っていた。

 全員が真剣な目つきでこちらを見ている。篠ノ之も何があったのか、茫然自失な表情はなく引き締まっている。

「私たちは福音の迎撃に出る。お前たちには旅館に残って生徒の安全を確保してくれ」

「……もしも、突破されたら?」

「その時は、ボーデヴィッヒに……、いや、凰、お前が状況に応じて行動してくれ……出来るな?」

 連絡を受け、ボーデヴィッヒが再びISに乗るために準備している。軍事教練を受けたボーデヴィッヒが統率してほしかったが、今は一刻も争うため凰にその役目を指示する。

「どこかの誰かが暴走しない限りはそうします」

 棘のある言い方をする凰、しかし、生徒を守ることに異存はなかった。

 

 

 

 スラスターの増設した打鉄を着込み出撃した織斑千冬は、ラファール・リヴァイブ・イロンデルを着た山田麻耶と夜の海を疾走する。

 星々が空に彩るが、そのうちの1つが凶星のようにしてこちらに向かって来る。

 羽を畳むようにしてエネルギーの翼を後ろに回し、急降下をするかのような銀の福音。その速度はなびくエネルギーの翼の光も合わさって、流星に思える。

 それを挫くかのように、山田が6連式グレネードランチャーを構え、連続発射。ポンポンと楽器でも鳴らしているかのように放たれた擲弾は、寸分違わず銀の福音に着弾かと思われた。

 攻撃を察し、エネルギーの翼を羽ばたかせるようにして前に出され、擲弾を誘爆させる。

 6つもの爆発による衝撃を間近に受けた銀の福音は、勢いを止められてしまう。そこに斬りかかろうとする織斑千冬。

 銀の福音も近づいてくる敵に対応し、エネルギーの翼で払うかのように反撃する。

 だが、相手の反撃に臆することなく、踏み込む。

 スラスターを全開に、遠目で見ているものには残像でも生み出したように見える速度で刀の間合いに相手を入れ、斬る。

 速度が上乗りした斬撃はエネルギーの翼を切り裂く。

 一瞬の間に修復されるが、斬り口から滑り込むようにして翼の内部に突入する。

 突入した時のままの速度を落とさず装甲を切り裂きながら、相手の後ろに回る。そして体を捻りすれ違いざまに相手の背中を斬り付ける。一度相手をすり抜けた織斑千冬はつかの間を与えず、再度突撃。

 銀の福音が後ろに意識を向けた瞬間、今度は前面からスナイパーライフルによる狙撃を受ける。いつの間にか山田麻耶が持っていたのは6連式グレネードランチャーではなく、スナイパーライフルに変わり、インターサイトに顔を覗き込んでこちらを狙っていた。

 そして、狙撃での硬直化を逃すわけがなく、織斑千冬は刃で相手を切り裂こうとする。

 だが、戦闘の経験から近接戦闘を覚えたのか。爪からガスバーナーの炎を出すかのように、エネルギーを放出し手刀を作り出し、刀を受け止めようとする。

 エネルギーの刃と物理的刀がかち合えばどうなるか。

 押し出され続けるエネルギーに斬撃の軌道は逸らされ、刀の一部が熱鉄のように赤くなってしまった。

「ちっ」

 舌打ちをしてすぐさま新しい近接ブレードを呼び出す。

 その呼び出す姿を好機と捉えた銀の福音が、白い光を纏った手刀で突き出してくる。腕に潜るようにして織斑千冬は難なく避け、伸び切った腕を跳ね上がると同時に切り裂く。

 幾ら近接戦闘の経験と武器を手に入れたからと言って、付け焼刃に過ぎない。近接戦のみで、あらゆる機体を倒してきたブリュンヒルデに敵うと思っていたのかと、少し苛立つ織斑千冬。

 その本性を見せるかのように今度は相手の腹に膝蹴りをし、姿勢がくの字に曲がったところを唐竹で相手の頭をかち割るように思いっきり振り下ろす。

 余りの攻撃力なためか絶対防御が発動し、透明な壁に阻まれ装甲を傷つけることが出来なかった。だが、そこから反撃に転ずることが出来るかと問われても無理だろう。

 なにせ衝撃は阻むことが出来ず打ち付けられ、そのまま身体を逆さまにしたのだから。

 そして、下にあった頭部をサッカーボールでも扱うかのように蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされ距離を取れると銀の福音はエネルギーの翼を広げ、そこから光弾を連射する。雪崩をなして押し寄せる光弾に、織斑千冬は瞬時加速し攻撃範囲外に移動。そのまま圧倒的な連射速度と面制圧力で押しつぶそうとする。

 それを止めるために山田麻耶は手榴弾を投げつける。銀の福音ではなく、織斑千冬に向かってだ。

 投げ込まれた手榴弾が光弾の弾幕に差し掛かった時に起爆し、爆風で飛ばされた破片が光弾に接触し連鎖的に白い爆炎をあげる。

 海面が爆発したのは高熱で熱せられたことによる水蒸気爆発かと思われたが、装甲に着弾しても爆発したことから徹甲榴弾のような性質を持っているのではないかと予測された。光弾表面の熱で装甲を溶かし、光弾を食い込ませ爆発させることで被害を拡大させる。

 恐らく幕のようなものでコーティングされ、それが無くなることで起爆している。恐らくはシールドエネルギーを薄く光弾に纏わせ、着弾による衝撃で割らして爆発している。

 ならば、光弾に攻撃を加えれば纏っていたシールドエネルギーが無くなり、爆発してしまうのだから、広範囲に破片を撒くようにして光弾を一掃した訳だ。

 そして、白い爆炎を跨ぐようにして飛び越える。

 頭上からの接近に咄嗟に翼を伸ばし、両側から織斑千冬を叩き潰そうとする。両側から迫る白い壁に対して、臆すことなく瞬時加速し自身に迫る前に辿り着こうとする。

 だが、突き進むことを予測していたように、銀の福音は腕を織斑千冬に突き出し、光の手刀を作り出す。そして、伸ばす。

 別に近接用に刀身の長さを限定する必要はない。近接戦で勝てないのなら遠距離で仕留めるべきと銀の福音が判断した結果、放出するエネルギーを増やしたに過ぎない。

 手刀の刀身が伸び、織斑千冬に迫る。

 だが、寸前で体を滑り込ませるように瞬時加速中に体を前屈みになるようにした。頭上擦れ擦れで伸びた刀身が通って行き、瞬時加速中に体を動かしたことで空気抵抗や圧力で体の骨が軋む。まるで曲がらない方向に無理に関節を動かす痛みが全身に付きまとう。

 それでも、歯を食いしばって敵へと突き進み、あまりに無防備だった胴体を瞬時加速に乗せた斬撃が放たれる。

 刃が装甲に食い込み、それでも絶対防御に阻まれ内部に刃が届かない。ダメージを無視して、離れていく織斑千冬に光弾を放ち追撃する銀の福音。

「攻撃が当たったのなら少しは痛がれ」

 エネルギーを削っても、装甲を破壊しようと止まる気配を見せない銀の福音。それにいい加減うんざりしてきた織斑千冬は旋回し再度の突撃を計る。

 織斑千冬と山田麻耶との一定の距離が空いたのを見張らかって、銀の福音がエネルギーの翼を広げ、その場で一回転。

 銀の福音を中心に花火でも起きたかのような、全方位の弾幕が張られる。

 両者は回避に徹し、弾幕の合間を縫うようにして避ける。

 そして、回避先が限定された所を今度は腕からエネルギーの刃を生やし、エネルギーの翼からの弾幕を合わせて攻撃する。

 そして、弾幕の隙間を縫っている二人の近くの光弾に伸びた手刀を当て、誘爆させる。

「くっ」

「いっ」

 光弾の近くに居たことで、誘爆に巻き込まれ二人は短い痛みの声を上げる。

 その硬直を逃さず、銀の福音は瞬時加速を使用し一直線に旅館に向かう。

「待て!」

 叫んだ織斑千冬は瞬時加速で追いかけようとするが、軍用機と訓練機のスペック差が出て来てしまう。単純な追いかけっこでは銀の福音に勝てない。

 それでも、出来るだけ速くと増装されたスラスターを使い全力疾走。

 出された命令は『白式・紅椿と交戦せよ』なので、一目散に紅椿との交戦を開始するために、戦っても勝てないと教えられる(・・・・・)敵から遠ざかる。

 

 

 旅館から少し離れた沖合に浮かぶISが3機。

 紅椿に乗った篠ノ之は胸を上下させるほどに深呼吸を繰り返し、緊張を整えようとする。凰は遠方の光景を睨みつけるようにして戦闘の様子を見て取っていた。

 崎森は布仏が言っていた一次移行するように設定し、『最適化中』と表示されているモニターに目を移した。怪我を負ってるため篠ノ之、凰からの後方に配置している。

 戦闘の光が夜空を白く染めた後、それに変化が生じ白い物体が急速に近づいてくる。

 ハイパーセンサーに迎撃態勢の表示が出される。

「来たわね」

 凰は唸るように告げる。

 『崩山』と名付けられた換装装備は球体状であった『龍砲』と取り変わっており、甲龍の後ろに浮遊する壺のような砲身が前方の福音に向けられていた。

 そこから『龍砲』の衝撃砲の威力の発展させた『崩山』の波動が銀の福音を襲う。

 ゴゴゴと空気を振動させる音が夜空に響き渡る。

 空気の弾を出すような龍砲とは違い、衝撃波を拡散させ砲口から火炎放射器でも使っているように衝撃波を出し続ける。

 見えない衝撃の炎に阻まれ、動きを阻害される銀の福音。そこを狙い、オルコットが強化されたレーザー兵器『スターダスト・シューター』で青の光線を放ち、篠ノ之が雨月を振る。瞬間、動作に合わせて赤いエネルギーが刃から放出され、銀の福音へと向かう。

 身を守るようにしてエネルギーの翼を前面に出して、自身を包み込む。

 青のレーザーと赤のエネルギーは白のエネルギーに相殺されてしまう。そして、白のエネルギーが膨張するように膨らみ翼を円状に配置し、白のエネルギーを放出する。

 光の嵐が放たれ、曲がりくねる攻撃を緊急回避する3人。

「くそっ」

「無駄口叩いてる暇なんてないわよ!」

 呼び出した双天月牙を連結し、投擲。巨大な芝刈り機となった双天月牙は銀の福音に迫る。

 飛来する双天月牙に銀の福音は、エネルギーの翼を伸ばし双天月牙に叩き付け弾かせる。

 だが、翼を攻撃に転用したことで防御に回せなくなった。そこをマルチランチャーを構えた崎森が形成炸薬弾を連射する。

 だがまるで後ろにも目が在るのか。背中から来る飛来物を、身体を入れ替え裏拳を放つかのようにエネルギーの翼を操り弾く。

 そして、邪魔だと言わんばかりに翼を伸ばし崎森に叩き付ける。その一撃を回避するが、その行動で体が痛み出し、顔をしかめ、動きが鈍くなった。

 そこを狙い、接近する銀の福音。

 逃した獲物を確実に仕留めようと翼で崎森を囲い、全方向からの光弾でズタズタにしようとする。

 だが、一発の砲弾が銀の福音に当たり、それを阻止する。続く砲撃に攻撃を中断せざる得ない銀の福音。振り返るとそこにはバックで走る戦車があった。

 

 

「ちっ。こっちに気づいたか」

「ちょっ、どうするんですか!?」

「どうするもこうするも、逃げるんだよ!」

 外の情報を伝えるモニターに移る銀の福音に狙いを付け、戦車に搭載されたレールガンを放った車長。ISで使われている技術が他に流用され、戦車の砲台を従来の火砲ではなく、電磁加速砲に置き換えたのが車長と操縦手が乗っている戦車であった。

「ちょ、狙いがこっちに来てますって!」

 慌ててシフトレバーをバックにしてアクセルを踏み込む、操縦手。ガガガとアスファルトを削るキャタピラーの振動が、車内に響く。

「うるせぇ! 子供を大人が守らなくどうするんだ!」

 そんなことを言っているうちに存在を主張するように、レールガンを再度発射する車長。途轍もない発射速度で放たれる砲撃は、地上最強の偉功を見せつける。

 ISに劣らずの攻撃力は、レールガンはレールの長さによって攻撃力が変化するので5mもの砲身を持つ戦車。対してISのレールガンは一般的に内部機関も併せて2m近く。この時点で2倍以上の威力を持っているのに等しい。

 そして、銀の福音がステルス等の姿を隠したり、照準誤差させるようなものを使っておらず、エネルギーの翼で熱量がダダ漏れなため熱誘導で簡単に照準が出来る。遮るようなビルや木々は空には無い為、意識外からの攻撃に当たってしまった。

 しかし、もはや不意打ちは不可能。

 そして、空からの攻撃に戦車は無力である。

 なので、森林に逃げ込む戦車。普通の戦闘機なら上空から見つからないように物陰に隠れるのが常識である。

 だが、ハイパーセンサーが捉えられない障害ではなく、銀の福音の攻撃が遮られるような強度はない。

 森林ごと吹き飛ばそうとする銀の福音は翼を広げ、砲撃を喰らった。

 先ほどのレールガンが、近くから20、30とこちらに向かって森林から砲撃されたのだ。ハイパーセンサーが捉える戦車の数はいきなり30まで膨れ上がる。作戦としては単純で戦車は全部が起動前で沈黙し、確実に当たる距離までまんまと引き寄せられ、砲撃させられた。だが、熱、起動音すらないことから銀の福音は何でもないものと勘違いさせられた。

 そもそも、ISと戦車の対決など戦術データや戦闘経験など搭載されていないため、銀の福音が知る余地などなかった。

 そんな地上砲火を上昇することで逃れ、地上に這いつくばっている戦車を一掃しようとする。だが、その進行を止めるように銀の福音を追いかけた『崩山』の衝撃波が銀の福音を阻む。

 動きを阻害された所に、再びオルコットがレーザーを射り、篠ノ之が雨月によるエネルギの刃を放ち、崎森がマルチランチャーの形成炸薬弾を撃ち、下に居る戦車大隊がレールガンで砲撃する。

 圧倒的な物量に銀の福音は防御を維持するしかなく、翼で自身を包み込む。しかしそれは守りの体勢ではなかった。

 そこから銀の福音を中心にして、翼が爆発するように球状に白のエネルギーが辺り一帯を巻き込む。

 小さな太陽でもできたように燦々と白一色に染めた。その光がかき消すように空に放たれた砲火は一掃され、衝撃により戦車はひっくり返り、空中に居た4人のISは吹っ飛ばされる。

 そんな白の爆発の中で体中が身打ちされ、悲鳴を上げそうになった崎森は眼前に迫った銀の福音から近距離で光弾を連射される。

 もはや、意識を保っておれず下手な紙飛行機のようにして落ちていった。

 

「このぉぉおお!」

 準備に手間取り、迎撃に遅れたボーデヴィッヒは忌々しい銀の福音に向かって怒りをぶつけるように砲撃をする。右肩からリボルバーカノン、左肩からプラズマキャノンを銀の福音に向けて放つが、悠遊と回避されてしまう。

 だが、今の攻撃は自身に注目をさせる為であり、ボーデヴィッヒが居る海上に引き寄せるためだ。激情はあるが戦闘のための冷静さは失っていない。

 しかし、近づくことなく銀の福音は翼を開き、光の槍を放つ。照射された光の槍は遠距離からでもボーデヴィッヒに届き、海面を沸騰させ、雲をかき消す。

 先程の自衛隊のISを起動前に破壊した光の槍は一点に集め遠くの敵を当て破壊したが、今度は分散させて八つの穂先がボーデヴィッヒに向かう。

「重いっ」

 前まで使っていたシュヴァルツェア・レーゲンだが、改良され慣らし運転すらしていないボーデヴィッヒは挙動に戸惑ってしまった。回避できるとは思わず、後に回していた追加装甲を背中に接続されたアームを操作して前面に展開。

 崎森を負傷させた光の槍と装甲がぶつかり、光の槍が逸らされる。絶対防御すら通過して操縦者にダメージを負わせた攻撃が、薄い装甲一枚で逸らされたのだ。

 まるで納得がいかないのか、銀の福音は光の槍を一点に集中して装甲ごと葬ろうとする。

 

 AICと呼ばれる空間固定技術の応用。

 空間を固定させるのは搭乗者の集中力を、相手を捕らえるために全身を覆うようにして固定させ、弾丸などの突き進んでくる物は空気を固定化させ壁を作り出し、壁に喰らいつかせ摩擦させ慣性を無くさせているだけに過ぎない。

 それ故に、摩擦や風などの影響を受けないレーザー類には使えないものと思われるかもしれないが、空間を固定化できるということは空間を歪ませることは出来ないかと開発されたのがこの追加装甲である。

 では、どうやって空間のゆがみを起こすか? 空間が歪んでいる現象に重力が関係している。単に物が落ちる現象も地球の重力が引っ張っているに過ぎない。空間の歪んでいるところを直進した物は変更が加えられるということである。宇宙空間で物を宙に置いても浮かび続けるだけである。

 そして、AICはPICの発展型であり重力操作をしている。それを利用し装甲全面の空間を歪ませ、直進する銀の福音の光の槍を明後日の方向に向かせたのだ。

 なので、高威力を持っていようと銀の福音が光と言う極端に実体が無い攻撃を続ける限り、その脅威がボーデヴィッヒまでに届くことはない。

 

 現に一点に集中して放たれた光の槍も上空へと逸らされる。

 そして、掃射が終わったのを見計らって追加装甲を開き、腕にインパルス砲『アグニ』を構え、発射する。

 圧縮された凄まじいエネルギーの塊は、防御態勢を取り翼で身を包んだ銀の福音に当たる。瞬間、翼を突き破ろうとするエネルギーを翼のエネルギーで押し出し続けるしかなく、攻撃と拮抗する。

 そして、比賀の距離を追い付いた織斑千冬、山田麻耶も戦線に参加する。

 『アグニ』と拮抗した銀の福音を挟む撃ちにするように後ろに回り込み、翼の付け根、推進口になっている所を狙い瞬時加速。近接ブレード『葵』をエネルギーの翼を貫通させるために、姿がぶれる程の速さで正確に推進口を突き故障させる。

 瞬間、片翼が機能停止に追い込まれ白いエネルギーが拡散し、飛ぶための推力も無くなってしまいふら付いてしまう。

 そこに頭から踵落としを放ち、地面へと墜落させ土が盛り上がるほどの威力でクレーターが出来た。

「大丈夫か!?」

「な、なんとか」

 凰がそう返すが、オルコットが叫ぶように報告する。

「章登さんは!?」

 未だに銀の福音にやられて意識が無くなったのか復帰もなく、返事もない崎森。やはり、あの怪我では何時もより動きの悪いのは当然であり、後方でも配置するべきではなかったと後悔した織斑千冬。

「篠ノ之、崎森の確認と退避をしろ。他の代表候補生は―――」

 それぞれに指示を出そうとした織斑千冬の言葉は続かない。

 真下に落とした銀の福音からまた、何かしらの力を得たのか、暴力的な光の柱が空に上がる。

 即座に反応し、回避した織斑千冬だが、銀の福音の姿を見て絶句した。

 まるで背中から生やす必要性はないと切り捨てたのか、腕と足を白いエネルギーの生物的翼にして空に浮かぶ。そこまでなら、まだ織斑千冬に言葉は失わせない。

 だが、それが5体(・・)も居たのは流石に世界最強とはいえ、あまりな急展開に思考が一瞬停止した。正確には白いエネルギーで銀の福音を模した分身が4体と、それを作り出した銀の福音が天使の降臨のように佇んでいる。

「さ、三次移行……ですの……?」

 声を縛り出すようにして言ったオルコットも信じられないような目で見ている。

 二次移行ですら稀にある程度なのに、三次移行など未だに机上の空論に過ぎないのを目の辺りにして空に居た全員の体が強張ってしまう。

 そしてダメージを与えれば与えるほど、それに対して能力を得る銀の福音の恐ろしさを見せつけられる。

 まるで複数でやられたことに怒りを覚えたのか、光の分身を作ることで対抗する銀の福音。斥候として分身一機が凰に突っ込む。自身の感が何かおかしいと感じ回避しようとするが、分身は逃がさず獲物を追うピラニアのように追いかける。

 呆然としたいたオルコットだが凰が追われているのを見て、分身に向かって『スターダスト・シューター』で狙い撃つ。だがレーザーが分身に圧たった瞬間、分身が爆ぜた。

 瞬く間に視界が白に染まり、白のエネルギーの奔流が近くに居た凰の搭乗機『甲龍』の装甲を焼き、シールドエネルギーを減らす。

 凰の視界から白が無くなった時には、4機の分身は凰を取り囲むようにして迫り、後方に居た本体(銀の福音)が手足を前に構え、光のリングを作り出す。

 そこから、光の嵐を生み出し分身を誘爆させるようにして凰を飲み込む。

 

 

「おい! しっかりしろ坊主!」

 いきなり怒鳴られ、頬を叩かれた痛みに崎森は気絶から立ち直る。視界には迷彩柄の戦闘服とヘルメットを被り、肌が固い印象が岩の風貌を見せ、年齢を40代くらいに見せる男性が居た。

「坊主、その壊れたガラクタから降りて肩に掴まれ。さっさとしないと戦渦に巻き込まれるぞ!」

 上では爆音が耳を振動させるような音が鳴り響いていた。見上げるてみるとなぜか銀の福音の翼から生み出すようにコピーが4体も現れる。

 その4体が特攻を仕掛け、全員が散開し織斑千冬や山田麻耶すら苦戦している様子が分かった。1体はオルコットが狙撃することで爆砕させる。次の1体はボーデヴィッヒが『アグニ』を放ち、一瞬で誘爆させ被害を防ぐ。もう1体は山田麻耶がグレネードランチャーで投擲を発射し爆発させる。

 だが、1体が後ろに回るようんしてオルコットへと迫り、取り付き、自爆した。

 その光景を見て助けに向かいたいと思うが、体があちらこちら悲鳴を上げている。力になりたいのに、誰かが傷ついているのに何も出来ない自分に不甲斐なさを感じる。

「聞いてんのか!? 逃げるんだよ!!」

 未だにこちらを心配してくれる自衛官に目を向けた時、『最適化中』と表示されていたモニターが『最適化完了』となっており確認ボタンを押すように促していた。促すはずだった。少なくとも通常のISなら。

 だが、そこには最適化の確認ではなく選択を催促する表示が出される。

 

 

             『未知(愚者)の領域へと進みますか?』

                 『Yes or No』

 そんな表示が出される。

 なんだか重要な選択を強いられているらしいことは理解できた。

 それを選ばないと何も変わらないのは理解できた。

 未知。

 その一言が選択を躊躇わせる。

 だが、負けられない。ここであいつを倒さなければ近くにいる人さえ守れない。心配してくれる人、友達、日常で軽く会釈する程度の人さえ哭くなってしまう。

 未来なんて知らない。いつも訳分からないものだから、今更だと崎森は思い、この状況を打破するために、大切な人たちを哭くさないように。

 

 Yesを押した。

 

 決意をした瞬間、頭に沸き起こる感覚。

 情報の数々が頭の中に入っていく。いや、ふと思い出す感覚を受けそれらの情報を自覚していく。

 忘れていた何か、自分の中にある力を自覚させられていく。

 ISに最初に触れた時に感じた感覚。

 全身に電撃が走り、思い出させられることを拒んだから気持ち悪くなった。

 ISが、装甲が、機械部品が、量子化されたものが邪魔をして正しく機能しなかった。

 だが、今は受け入れ『領域』へと踏み入れる覚悟を決めた。

 ISのコアから生まれるシールドエネルギーに包まれているから、そこから伝搬され正しく機能する。

 

 故に目覚める。

 

 光に包まれ繭から出てくる者が居た。

 しかし、光とは対照的にグレイの装甲を持ち、しかし、染まりきらないライトグレーのクリスタルで覆われた手甲と踵を持つ者。

 色が無いのではなく、全ての色を混ぜたような機体。

 W字の4つの放射状に伸びる頭の角は王冠のように供えられ、しかし身に纏う衣装は豪華ではなく必要が無い物はすべてそぎ落としたかのようにスマートな印象がある。

 崎森章登の搭乗したISの表示にはこう書かれていた。

『No,Number Strayed Strider(ストレイド ストライダー)(迷いながらも歩むもの)

 

「すみません。まだ戦えるので、あのくそ天使ぶっと飛ばすから、他の人を助けてくれ」

「おい!?」

 踵から光が生まれ、推進力となり再び空を駆ける。

 生み出た光は軌跡となり銀の福音へと向かう。

「まぁ、そりゃ怖いおじさんに怒鳴られんですから逃げ出すでしょうね」

「黙ってろ! こっちはこっちでやること満載なんだ! さっさと他の負傷者探して戦車から運び出せ!」

 あっけらかんという自衛官に車長は力の限り怒鳴る。あの小僧といい、ISに乗っている奴らは自分勝手だと車長は吐き捨てた。




銀の福音はアサルトアーマーに質量を持った分身。こんなのどう勝てってんだよ……俺のバカ。

ストレイドは迷子。
ストライダーは旅人としたかったのですが、調べている途中で「ストライダー」と言う単語があったので調べてみると、指輪物語の放浪者であったり、大またに歩く、越す、またぐなどよさそうな意味が。始まりもストレイドと同じストで始まりますし。
意味としては迷いながらも歩むものでいいと思う。

最後に。
未知(オリジナル展開多数、設定、変更、自己解釈)の道を進みますか?
YES 更新をお待ち下さい。(多分それから遅くなる)
NO ブラウザバック。(本当にオリジナル展開、設定、変更、独自解釈が多いと思われます。もしかしたら今以上に主人行補正が入る可能性も)

更に目覚めただけで覚醒へと至っていないというインフレ感……。

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