IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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第36話

 痛みを自覚して目を開く。

 旅館の一室に搬送され寝かされている崎森の体は、ISの防御機能を貫通した熱波によって赤く腫れた水疱を軽減するために、ナノマシンの投与と左腕、左肩、腹部、左大腿の4か所に包帯を巻かれた。

 太陽の光が差し込んだ室内は黄色に染まって、夕暮れまでには時間がるようだった。そんなことを意識したら、不意に脇腹が鈍痛を生んでいく。

「いっ」

 痛みに呻いたのを誰かが聞いていたのか、周りから声がする。

「気が付いた!?」

「私、先生呼んでくる!」

 周りに誰かいたのかと目を動かすと赤く目をはらした谷本がこちらを、今にも泣きそうな顔で見ていた。その隣には相川がおり、心もとない顔から一転し安堵の息をつく。鷹月は先生を呼びに部屋から出ていった。

「バカじゃないの!?」

 いきなり谷本から罵倒された。

「何が破片を回収するだけなの! ぐったりして運ばれて、意識もなくて! それでなに? 暴走したISと戦いました? こっちがその時どんだけ後ろめたく思ったか分かってる!? こっちが暇つぶしでウノなんてやっている時に傷ついているのが耐えられなくて、四十院さんずっと変な顔してたわよ! それで、章登が運ばれたとき私たちにごめんなさいって謝ってきて、どう返せばいいか分からなかった! 私たちの方がもっと情けないじゃない!」

 そう喚く。喚くようにして涙ながらに叱る。

「……ごめん」

 それだけしか崎森は言うことが出来なかった。

 機密情報とか、パニックを起こしたくないとか、心配かけたくなかったなどは言い訳に過ぎない。誤魔化し心配を掛けてしまったことで胸が苦しい崎森。

「……謝ってほしいわけじゃない。ホントは無事に帰ってきてよかったて、言うつもりだったのに出来ない。……出来ないよ」

「……ごめん」

「そんなことまで謝らないでよ」

 そこで谷本が目に溜めていた涙が零れた。

 崎森は何かしたいけど、どうすればいいか分からずじれったさを感じた。

「……私はどうすれいいの」

 この場に残っていた相川は、置いてけぼりな状況にどうすればいいか分からずにいた。

 

 

 崎森は起き上がり、大広間辺りに向かう。

 そこの通路で中庭の縁側の所で立っているオルコット、凰を見つける。あちらもこちらに気づき、驚いた顔をしてこちらを見て来る。

「章登さん! 目を覚ましたと聞いていましたが歩いて大丈夫なのですか!?」

 心配してこちらに駆けつけて来るオルコット。

「いや、結構ズキズキ痛む」

「だったら寝てなさいよ」

 ぶっきらぼうに言う凰、しかし気にはなるのか目線はこちらから放さない。

「そうですわ。自身の身を案じてくださいまし」

「だけど、あれからどうなったのか聞く義務はあるだろ」

 そう言う崎森に、言いづらそうに口を重くする2人。

 崎森は銀の福音がどうなったのか聞いたつもりだったのだが、それ以外にも問題は起こったらしい。

「……何かあったのか?」

「実は、」

 オルコットがたどたどしく口を開く。

 

「篠ノ之! 貴様どういうつもりだ!」

「わ、私は……」

 ボーデヴィッヒが篠ノ之の胸倉をつかみ、食い掛かっている。

 ボーデヴィッヒは作戦無視や言うことを聞か無かったことに怒っているのではない。

 崎森章登、織斑千冬、榊原菜月の救出するために戻るを拒否したからである。

 ボーデヴィッヒが搭乗していたラファール・リヴァイブ・イロンデルは、白式を持って移動したため燃料が切れかかっていた。

 しかし、少なくとも飛んでいるだけだった紅椿は戦闘宙域に戻り、崎森章登か榊原菜月を連れて帰る余裕はあったのだ。

 だが、恐怖心か気が動転していたためか戻ることが出来なかった。

 結局、量子変換の作業を継続していたオルコットが出て榊原菜月を救出しに行った。

 そして、それを見かねた織斑千冬がこちらに来る。

「篠ノ之」

 そう、名前を言われビクッと肩を竦ませる篠ノ之。

 瞬間、ごっ! と織斑千冬が到底想像できないほどに強い拳を、篠ノ之の頬に当て体を殴り飛ばす。

 砂浜に篠ノ之は倒れこむ。

「殴られた理由くらい分かるな」

 その後、織斑一夏、崎森章登の手当ての指示をし、織斑千冬は旅館に戻り銀の福音の現在状況を調べに戻る。

 それだけだった。

 ボーデヴィッヒは何か言いたそうに、唇を噛み締めどこかに去っていく。

 篠ノ之は立ち上がる気力すら無くなってしまい、そのまま砂浜に倒伏する。

 

「ま、ラウラが怒る理由も分かるんだけどね」

 オルコットが事情を話終えた後、凰はそう締めくくった。

「あれ? でもボーデヴィッヒはどこに行ったんだ?」

「ちょっと、話があるって整備用に持ってきたトラックの方に行ったけど」

「俺の機体は?」

 崎森はそう言いながら右腕を見る。そこにはあるべき紺色をした十字架のブレスレットはなかった。

「……同じところにあると思います」

 言いよどんだ理由は大体察しがついた。

 

 

「勝手なことを承知で言う。シュヴァルツェア・レーゲンを貸してもらいたい」

「ホント勝手です」

 頭を下げながら、懇願するボーデヴィッヒを眉をひそめることなく平坦な声でいう夜竹さゆか。

 トラックの中にはシュヴァルツェア・レーゲンがあったが、かなり以前の姿とは違う。

 右肩に接続されていたリボルバーカノンと対になるように、プラズマキャノンが左肩にも装備され、背中からの2本のアームから両方に全身をすっぽり覆うような、角張った装甲が追加されていた。砲撃時相手からの攻撃を防ぎながら撃てる仕様にして、両肩の砲門の行動に支障は出ない設計だ。

 腰部にもインパルス砲『アグニ』を追加。強力なビーム砲を腰部に接続されたアームから保持をして、今は腰の後ろに搭載している。

 ただし、それらの装備はエネルギー消費が激しいことが懸念されていたため、背中の方の追加装甲のアームの中間にバッテリーが連結して接続されている。

 それらの装備を試験運用を兼ねてこちらに持ってきたのだ。しかし、緊急事態によりこのまま置かれた状況である。

「……それに銀の福音は去ったのならもう必要はないのです」

 確かに銀の福音は撤退し、自衛隊は海岸付近に防衛線構築し、通行規制をした。だが、ラウラ・ボーデヴィッヒは不安を拭いきれない。

「そうとは思えんから頼みに来ている」

「根拠は何です?」

「銀の福音は未だ太平洋の日本近くに居るのは何故だ? それに意思が無いと言うのなら、なぜ撤退すると言う後を考える行動をした?」

 つまり、疑念であって確信ではない。銀の福音がこちらに再び進行すると断言できる物ではなかった。だが、安心していい理由にはならない。

「なんで、それであなたが戦うです? 他の代表候補生、戦闘教員、自衛隊に任せでいいです。崎森の敵討ちです?」

「……それが無いとは否定せん。だが、それ以上に嫌なのだ。これ以上、私の周りの人たちが傷ついていきそうで、それが……怖い」

 今までは思わなかった感覚を思い出して身が震えそうになるボーデヴィッヒ。

 崎森が運び込まれた時の顔を思い出し、悲しみが、辛さが全身に広がるような感覚。

 あんな感覚はもう嫌なのに、今の自分には戦える力が無い。

 作戦の時に使っていたラファール・リヴァイブ・イロンデルは打鉄撃鉄の破損により、緊急事態には榊原先生も怪我をしたことから山田先生が乗ることになった。

「事情は分かりましたです。けど銀の福音を倒すためには貸せませんです」

 ぴしゃりと拒否する。

 しかし、真意な瞳でボーデヴィッヒに告げる。

「ですが、皆を守るために使うなら貸すです。私は初の実戦で、これを使いこなす自信はないです。崎森があんな状態になった時、……次に自分が出ると思ったら足が震えたです。絶対防御も安全じゃない、試合だけの中の話だと思うと怖くて動けなくなるのが落ちです」

 夜竹さゆかは強い方だと 自他共に認めている。だからこそ試験運用に様々な機能を追加したシュヴァルツェア・レーゲンの運用を任されたのだ。

 だが、命のやり合いの仕方など誰にも教わっていない。

 再度、夜竹さゆかは問う。

「あなたなら戦えるです?」

 実戦で戦うだけではない。

 守るために、その為に自分が痛みを耐えながら、戦えるのかとその瞳は問いかける。

 きっと、ここに来る前なら自信満々に戦えると守る意味すら知らず答えられた。それどころか戦えない者を見下しながら、侮蔑を込めて言っただろう。

 だが、今は、彼女の言った意味が少しだけ分かるボーデヴィッヒ。

 崎森が倒れているのを見た時、一瞬目の前が真っ暗になった。

 アレをもう一度見せられたら、自分も夜竹のように戦えなくなるかもしれない。

「私も、あの光景をまた見たくない」

 最初は『力』が全てだった。その次は『力』以外が欲しいと思った。そして、また『力』が欲しいと願う。しかし、それは『力』を得たいということではない。それを使って成し遂げたいことがある。

「だが、それを見ないために私は幾らでも戦う。戦える」

「……分かったです。フィッティングを前のデータ使うので少し乗ってくださいです」

 そして、少女は再び黒を纏う。

 

「……」

 トラックの中にラファール・ストレイドは固定され、部品交換どころか被弾を受けた部分を丸ごと交換している。ラファール・リヴァイブから取ってきたのか、装甲は深緑と紺色が混ざっていた。まるで、今の崎森のように包帯を巻いているかのような応急処置。

 それらを布仏や雪原、他の生徒たちがやっていたらしく、この夏の蒸し暑い中での作業に彼女たちは汗だくになっていた。

 ストレイドの周りには破損した装甲、部品が転がっており、中に『紫電』や、『始祖鳥』の翼があった。

 それらを眺めていると『始祖鳥』の整備をしている筋肉質の男性が見え、その隣に四十院を見つける。鉄くず化した『始祖鳥』や『紫電』の部品を見ると、湿っぽい気持ちになり四十院まで行くのに抵抗があった。

 それでも、けじめと割り切り四十院の近くまで行く崎森。

「えっと、四十院。まず、ぶっ壊してすいません」

 そう頭を下げる崎森。

「いえ、それよりもお体の方は大丈夫でしょうか?」

「あちらこちら鈍痛がする程度だから心配ねぇ―――ッツ!?」

 そう言ったら左肩に手を置かれた。まるで脱臼でもしたかのような痛みが、いきなり全身に走り抜けトラックの中で小さな悲鳴を上げる。

「前に申し上げませんでしたか? 女は勘が鋭いと」

「いや!? いかにも傷が付いている所に触られたら誰だっていてぇよ!?」

「そんなこと分かっておりますなら、早く旅館に戻って療治してください」

 有無を言わせない雰囲気が四十院から出される。その威圧感に崎森は反論が弱弱しく、たじろいてしまう。

「でも、機体がどうなっているとか…、やっぱ壊したから謝りにとか……、それにまた出るかもしれないし………」

「ご安心を。機体は直させていただきますし、賠償請求などは致しません。後は自衛隊にお任せを。さぁ、早くお戻りを」

 周りに救いを求めてみる。布仏、雪原がこちらを見て来るが怒っているのかプイと顔を逸らす。他の生徒も四十院の言葉に同意するようにウンウンと頷いている。

 味方はいない。戦域を離脱するべきだと崎森は判断する。

「そ、そうします」

 

「ねぇー、かなりん」

「……本音?」

「やっぱりストちゃん。さっきーに適応化するべきだと思うの」

 ストちゃん。ストレイドから布仏が少しでも可愛くなればいいなぁと思い考えたあだ名である。現在の使用者は布仏一人だが。

 そのラファール・ストレイドはデータ収集のため、一次移行すらされず、専用機でありながら未だ崎森に最適化されていない。今までは教授されたり、試行錯誤を繰り返し崎森に合うように調整しているが、それも気休め程度にしかなっていない。

「……それは……私たちが判断していいことじゃないと思う」

「でも、私たちが避難されない理由は、IS学園の力を政府も当てにしているんだと思うんだよー。それだとまたさっきーが出撃することだってあると思うんだ。それで今までの殆ど練習機と変わらない機体なのに軍用機と戦うってキツイよ~」

 いつものように語尾を伸ばし飴細工が解けるような声を出しているはずなのに、言っていることはまったく甘くなかった布仏。

「……でも……一言くらい報告しとかないといけないよね」

「うん。でも報告するのは織斑先生にしようねー」

「……なんで?」

「きっとさっきーがやられちゃったところを見ているから、少しでも良くなればって思ってくれるはずだよー」

 つまり、守れなかったから自分でどうにかするしかないと言っているのだ。実際に織斑先生が居ながら、生徒を危険に晒したことに何かしら感じているだろう。

 だが、その自責の念を利用するとは恐ろしい。

「私が織斑先生に申し上げましょう」

 その会話を聞いていたのか四十院がこちらに話しかけて来る。

「貴重な人材を失う訳には行きません。それに崎森さんは貴重な男性IS操縦者。本来なら身を第一に織斑さんのように強い機体にしなければなりません。どの様な理由で差し上げたのかは知りませんが、あの方に相応しくはないでしょう」

「……だったらいっそのこと白式と交換する? ……誰もいないから今なら簡単」

 同じく白式も撃墜され、酷い状況であったが誰も直す気が無いため本人が壊れたままの機体を量子変換した状態で持っている。織斑一夏は意識不明なため奪い取るのは簡単であろう。

「お、お嬢方。いろいろとまずい方向に進んでいないか?」

「大丈夫ですよ。南海さん。誰も本気にしていませんからね?」

 顔がトロンとした表情をしているのに目が本気な布仏、目が座っている雪原、上品に笑っているのに目が笑っていない四十院を『始祖鳥』を整備していた筋肉質な整備士、南海は背中がうすら寒いと思った。

 四十院が許可を取りに大座敷に連絡を取った後、数分で許可が下りた。

 

 夕焼けに染まった教室では3人の男子が女子1人を囲んでいた。

 妨害を加えるわけではないが、

「侍女~。今日は木刀持ってねぇのかよ」

「……竹刀だ」

 ぶっきらぼうすぎるのが悪かったのかもしれない。最初の自己紹介で剣道が好きと言うことで剣道家と言う認識がクラスで広まり、余りにそっけない返答が他の女子とは違うということで注目を集めた。

 それ故に孤立していった。それでも男の子の目線で言えば、外見は可愛い女の子である。

「おかしいよな~。語尾が「だ」とか、どこの武将の真似だよ?」

 そんな低年齢にありがちな子供たちの接し方。気になる女の子にはちょっかいを出すようなことを、自身でも理解できないほど幼いため不機嫌な目はさらに不機嫌に。からかう子供たちは思ったほどの反応が無いことにもどかしさを感じて、さらにからかってしまう。

「あれだろ? コスプレって奴だろ」

「いや、中二病じゃなかったけ?」

「……あのような遊びごとと一緒にするな。馬鹿者」

「でました! 篠ノ之の馬鹿者発言!」

「今時バカで済むのに、わざわざ者を付けるとかねぇって。後、中二病は妄想癖であって遊びじゃねぇよ、侍女の馬鹿者ー」

 ただし、いたずらも度が過ぎれば怒るものがいる。

「煩い、暇なら帰ったらどうだ」

 凛とした声が教室に響く。子供の幼さを一切感じさせない大人びた声であった。

「な…ん…だよ織斑」

「掃除の邪魔だ」

 篠ノ之以上に素っ気ない回答に男子たちはたじろいてしまう。同い年とは思えないほどの凄みを感じていたのだ。

 織斑以外のクラスメイトはサボって帰ってしまったが、それでも真面目に掃除を1人でしている織斑。篠ノ之と同じ道場に通っていた人物だ。

「あーはいはい、つまんねぇのー、真面目師掃除するお前もつまんねぇ奴っ―――!」

 いきなり胸倉を掴まれた男子は怯えてしまった。自分の体を持ち上げられたことより、篠ノ之の睨みが、何を怒っているのが分からないのが戸惑ってしまう。

「な、なんだよ」

「真面目のどこが悪い。お前のような輩よりはるかにマシだ」

「っ、そうかよ。だったら他の奴と遊んでろよ! 友達なんているか分からねぇけどな!」

 ガキ大将は篠ノ之の手を払い、そう言い残して教室を出ていこうとする。仏頂面でいる方がよっぽどつまらない奴と思っていたので、そんな奴より格下だと言われたことにと腹がっ立った。

 しかし、友達が居ないという発言に篠ノ之にまた拳を握らせた。

 悔しくて、寂しかった心に深く深く突き刺さる。そのことに耐えられなくて、何かしていないと壊れそうで、堪えることが出来なかった拳はガキ大将の背中にぶつけられる。

「ぐっ!? 篠ノ之! てめぇ!」

「うるさい! うるさい! うるさぁいぃい!」

 そっから先はガキ大将と篠ノ之の取っ組み合いになった。篠ノ之がタックルをかまして、ガキ大将のマウンドポジションを確保し、殴り続ける。

 取り巻きは教室を出ていく。いきなり殴られ、倒されたガキ大将は頭を地面に打ち付けてしまって気絶していた。それが怖くて逃げ出してしまった。

 ぐにゃりと変化した相手の肌の感覚が気持ち悪い。

 自分がこんなに悲しい気持ちになるのは目の前の奴が悪党だから、懲らしめなければならないと思い殴る。

 だが、また殴ろうとした時に拳が掴まれる。織斑が泣きながら殴る篠ノ之を見ていられず止めに来たのだ。

「何をしているんだ」

「うるさい! 友達なんていなくても平気なのに、苦しいのはこいつが悪いからだ! だから倒すんだ!」

「倒して解決か? 違うだろ。友達が居なくなるから痛いんだ」

「ちがう、ちがう!」

「だったら、友達になって確かめてみろよ。()がなってやるから、離れとき分かるだろ?」

「なんでお前なんかと友達にならなくちゃいけない!」

 

「泣いているのを止めたいからだ」

 

 その時、救われたと思った。

 優しい言葉に、優しく微笑んできてくれる顔に。記憶は薄れてはいるがその言葉は忘れていない。

 だが、もうその顔は見れない。

 私がそうしてしまったと自己嫌悪する篠ノ之。

 立ち上がる気力すらなく、砂浜に倒れたままの篠ノ之に声がかかる。

 

「で? いつまでそうしてるんだ?」

 

 

 

 ストレイドを整備しているトラックから逃げるように出て来た崎森は、部屋に戻ると今度は谷本に監視下に置かれるだろうなぁ、女性には基本逆らえないことを知っているためただ寝ているというだけもなぁ、とブラブラ砂浜を歩いていた。

 海岸線沿いの道路には最新式の戦車や自衛隊のISがあり、防衛線を敷いていた。それを見れるくらいに、旅館に近い場所が戦場になっていた。

 それを見ていると、自分が戦場と言う場所に居たんだと後から実感してくる。

 そして、そんな光景を眺めながら歩いていると、砂浜で倒れたままの篠ノ之を見つけた。

 そう言えばオルコットがそんなことを離していたのを思い出し、どう声を掛けるべきか迷った。怒ればいいのか、非難すればいいのか、間違いを指摘すればいいのか。

 それらはもうオルコットの話でボーデヴィッヒと織斑先生がしたことを思いだし、やめようと思いそのまま歩き声を掛ける。

「で? いつまでそうしてるんだ?」

「……」

 返答はないので勝手に喋ることにした。

「根本的なこと聞くがお前なにしたいわけ?」

「………」

「別にコネ利用するのはいいけど、なんで今なんだ? 卒業後にでもして貰えばいいじゃねぇか」

 責めているわけでも、非難しているわけでもない。純粋に疑問に思うことを崎森は篠ノ之に問う。だが、篠ノ之は沈黙し続ける。

 

「そんなに胸を張れない恥ずかしい理由なのか?」

 

「っ!!」

 的中だったようで篠ノ之は強く唇を噛み締めた。

「黙っていれば聞き手上手なんて奴にはなんねぇぞ。大体前に言った「貴様に何が分かる」発言だがお前が友達に話している様子なんて見たことねぇし、いつも休み時間窓際の席でポツンとして誰かに壁を作っているのに何を分かれって? 誰に知られたくないならそんなこと言うな。無駄だから」

「……わかった」

 ぼそりと篠ノ之はそれだけ言う。

「何を分かった?」

「そこまで……言うのなら……私は、もうISには乗らない」

「あっそ。どうぞご勝手に」

 突っ撥ねるように崎森はそれだけ言った。

 逃げることを責めもせず、引っ掻き回したことを嫌がりもせず、理不尽を怒りもせず、ただ何時ものように日常でふと疑問にしたことを気兼ねなく友人に問う。

「で? それで何か解決したわけ? 目を背けるのはそんなに楽か?」

「ど……」

 そんな何気なく入り込んだ言葉は、篠ノ之を憤慨させる。まるで、傷ついた子供が泣き喚くように。

「どうしろと言うんだ! 力を手に入れても思うようにいかない! その力を使いたくて暴走する! なら捨てたほうがいいじゃないか!」

「単に目的と手段が考えもせず実行していだけだろ。トライアンドエラーは失敗の繰り返しじゃなくて、どうして失敗したのかを探る問題だ。力を持つことが問題の解決か? 捨てることで解決するのか? 違うだろ。縋るから失敗した。それだけだ」

「貴様に私の何が分かる!?」

 倒れていた状態から起き上がって食い掛かってくる篠ノ之。崎森の胸倉を掴み上げ今にも殴り掛からんとする。

 まるで、それだけは、自分のことを知っている風に言われるのは我慢できないと憤怒するように。

「織斑一夏や姉に依存しているガキ」

 篠ノ之ように沈黙はなく、即答する崎森。

「なにを」と篠ノ之は反論しようとするが続く言葉が出ない。

 崎森が指摘したように重要保護プログラムによって各地を転校され続けた時は、一夏との思い出に縋り剣道を続け、IS学園で再会した時は一夏だけしか見ていなかった。最初、他の生徒は一夏に近づいてくる悪い虫と思い、評判が悪くなったから挽回しようと力を求めた。まるで、採点者のご機嫌を取るように。

 その点数を取るために毛嫌いしていた姉に都合よく、専用機を貰い、挽回しようと意気込んだ。結果は最低。

「私は、依存など、していない!」

 先ほどまで考えていたことを中断させるかのように崎森を殴る。

 まるで子供がおねしょをしたのを布団で隠すかのように、篠ノ之は目を逸らす。自身でも分かっていることを体面が悪くて子供のように言い訳をする。

 だが、暴れ回る拳は簡単に崎森に掴まれ止められる。

「専用機を強請っておいて? 織斑を止めるべきところで止めなくて? 依存していた人物が倒れて錯乱していたのに? 自分を偽るのはそんなに楽なのか!?」

「………………」

 まるで、逃げ道を全て塞がれた感覚を受け篠ノ之はどうすることも出来なかった。

「だから、聞くぞ。お前は誰だ?」

「し、篠ノ之箒だ。何を言って」

「いや、篠ノ之箒を模った偽物だ。自分の行動が悪い事なら謝れるし、言い逃れもしない。言い訳を重ねて、正当化して、自分に嘘をついて誤魔化して、逃げ出しているのは自分が本当の意志で動いていないからだろ。本心から生まれた行動ならどこまでも走れるはずだ。こんな所で立ち止まっているのは依存する対象がいないからだろうが!」

 そう、本当に篠ノ之箒に自分の意志があるのならこんな所で倒れていない。

 紅椿で銀の福音を倒したいのなら突っ込んでいるだろうし、本当にISに乗らないつもりなら、手首に巻いた待機状態の紅椿を海にでも捨てているだろう。

 そんな自分が知られるのが怖くて、虚勢を張り誤魔化す。

「……仕方ないだろ」

 今にも消えそうな声は、亀裂が入って崩壊していくように溜まっていたものを吐き出し一気に流れる。

「仕方ないだろ! 両親や友達から引き離されて、居なくなったんだ! 転校続きで友達なんて作れなくて! 誰かに依存している? 当たり前じゃないか! そうでもしていなければ私は剣道すら続ける気になれなかった! ああ、そうさ! 剣道も言い訳に過ぎない! ストレス発散で相手を完膚無きなまでに倒すことで発散させていた!」

 そう、溜まっていたものを吹き出した後は空っぽになってしまう。

「そんな生活を送ってきたんだ。思い出と力を振るう以外の解決法など知るわけないじゃないか」

 篠ノ之は言っていて虚しくなる感覚が広がる。思い出に縋っている女々しい奴。関係ない人に鬱憤を晴らす迷惑な人間。自分が欲しいのは一夏ではなく、思い出の味方になってくれたかっこいい一夏。力を手に入れた理由は一夏をかっこよくするため。

「それを知ったのなら、いい加減自分で決めろ」

「何を決めろと? 銀の福音を倒すことか、紅椿を捨てる事か」

 まるで、また縋るようにして崎森を見る篠ノ之。

「全部自分で決めろ。誰かと協力して良いし、相談だってして良い。だけどな依存して流されたら、それはもう篠ノ之箒じゃねぇんだよ」

「…………きついな」

 知ってしまって、思い知らされて、理解してそれをするということは本当に、自分ではなくなってしまうのを篠ノ之は分かった。

「きついけど生きるために必要なことだろ」

「……ああ、すまない崎森」

 そして、ありがとう、と言葉を続けたかったが気恥ずかしくて口ごもる篠ノ之箒であった。




箒の回想が原作と違うのは仕様です。
ってか、何人か分かっていてネタバレしそうで、なんというか……。

まぁ、今ここに書きたいのを我慢して投降します。

やっぱり箒は暴走直行特急列車の性格のままの方がいいかな……。


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