IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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今回も早いので荒があるかもしれません。

織斑と織斑先生だとだんだん作者自身が混乱してきて今回織斑一夏と織斑千冬にしました。


第35話

 イージス艦のレーダーから割り出される『銀の福音』の現在位置を確認して、3機のIS、それに捕まり牽引されるIS3機が隊列を組んでいるかと言われるとそうではなかった。

 この中で最も速く飛べる紅椿が先を行く。足並みを合わせる気が無く、それはもう置いてけぼりにしそうなほどに。それに危機感を覚え、織斑先生は篠ノ之に向けて叫ぶ。

「篠ノ之! 先行しすぎだ!」

 本来は足並みを揃えて白式を乗せた紅椿が突撃し、反撃の隙を与えず遊撃である織斑先生、榊原先生が張り付き切り刻むのが作戦であったはずだ。

『ですが、遅れてしまっては元も子もありません! このまま行きます!』

 と、妙な自信に満ちた声が篠ノ之から発せられる。危うさを感じた崎森は紫電で更に加速するか考えた。本来逃げるための離脱用に使おうと考えていたが仕方がない。

「織斑先生。更に加速しますか!?」

「……頼む」

 肩、横腰に付いている電気推進の出力を大幅に上げた推進器『紫電』がプラズマ化された炎を吹き出し、白い軌跡を放ちながら一気に紅椿との距離を縮めていく。

 周りの景色を吹き飛ばすかのような急加速とともに、比例して減る電量の残量表示。間に合うことが出来るか危機感を覚える崎森。

 何とか杞憂に終わり紅椿の赤色を目印を見失うことなく、ハイパーセンサーの情報からその先に白銀に輝く天使を見つけた。

 全身を白銀の装甲で身を包み、甲冑と言う身を守るような物ではなく、天使を模倣したように各部に羽根のようなスラスターが増設されていた。それとは別に頭と背中にそれぞれの長い羽根を連結したような白い翼は、ますます天上から舞い降りた天使を連想してしまう。

 資料では射撃とスラスターの両方の特性から使い分けられる装備なのだが、今は移動中のため全機能をスラスターとして利用しているらしい。

 その時、紅椿が更に加速する。目標を見つけて逃がすまいと凄まじい速度で銀の福音に近づく。

 それに乗っていた白式が零落白夜を発動させ、銀の福音を後ろから斬りかかる。

 光の刃が触れる瞬間、織斑の敵意に反応するかのように、後方に目が在ったかのようにして高速度のまま姿勢を反転する。

 後方に居た織斑を見ずに、零落白夜を見ずに、危機を感じる銀の福音。雪片二型の刃先から逃れるようにして正確にスラスターを吹かし、ぐるりと一回転する。

 そのまま、距離を離すかのようにして上に飛ぶ。

『待て!』

 まだいけると思ったのか、追撃を開始する。これでもう奇襲の利点は失ってしまった。相手が防衛行動を取る前に攻撃を当てねばならない。反撃の余地を与えてしまったら攻撃を意識していたこちらが深手を負いかねない。

 だからこそ、一撃を放ったら離脱と念を押していたのだ。

 当然のごとく逃げ回りつつ迎撃態勢を取った銀の福音は、逃げながら翼を後ろに向け光弾を放つ。

 光の豪雨。

 沢山の羽根が広がるようにして開き光弾を発射する砲門は、一斉に織斑と篠ノ之を襲う。

 そのような物が来てしまい、分離した反動で回避する。

 そこにやっと、織斑先生を乗せた崎森が到着する。

「飛んでけ!」

 背中の接続部が分離し、独立飛行機構『始祖鳥』が銀の福音に向かって一直線に矢のように飛ぶ。

 こちらに気づいた銀の福音が撃墜しようと背中の砲門を始祖鳥に向ける。だが、それから光弾が放たれるよりも前に、乗っていた打鉄を纏った織斑先生が始祖鳥を地面代わりに蹴り駆け出す。

 そして、日本刀を模した近接ブレード『葵』の、間合いに入る。

「はぁあああ!」

 その一拍の間に振り下ろされた斬撃は、ハイパーセンサーが捉えた情報では5回。

 しかも、その全てが関節部や装甲を薄くせざる得ない繋目などに、正確に振り下ろされる。今まで白式の零落白夜から逃げて来た銀の福音は、織斑千冬という規格外から逃げるようになる。

 だが、ミスミス逃すような人物ではないことは誰もが知っている。

 逃げようとした銀の福音のスラスターに斬撃を放ち、破壊、方向推進に誤差を生み出し退却を防ぐ。

 銀の福音が、各部に生えた羽根の姿をした砲口から光弾を放つが、打鉄の物理シールドで受け止める。瞬間、徹甲弾のようにエネルギーが破裂し物理シールドが破壊される。

 眩むように一瞬光った後、破壊された物理シールドのみが力尽きたように海に落ちていく。

「千冬姉!」

 そんな悲壮な声を織斑が出すが、当の本人は物理シールドを切り離して銀の福音の上空にいた。

 そして、全てのスラスターを吹かしての急降下を乗せた全力で斬り伏せる。

 

 天使に破壊が生じる。

 

 凄まじい破壊音が空に響き渡った後、天使の翼が切り裂かれ、痛々しく傷跡を残す。

 最早、自由飛行は不可能と思えた天使は、自ら翼を付け根から落とす。

 背中から1つ、頭から2つと奇妙なシルエットになった天使は、傷つけられた怒りを表すかのように全身のスラスターから光を放つ。

 四方八方にばら撒かれた光弾を蛇行し、最低限の動きで回避しつつ近づく。まるで光弾を透き通っていくようにも思えるほどに、無駄が無い。

 流れ弾は海に着弾し、水柱を10メートルは上げるような威力である。そんなのが絶え間なく自身を襲っているというのに、織斑千冬は怯みと言った動きはなく淀みない動きで銀の福音を翻弄する。

 流れ来る弾雨を潜り抜け、張り付き斬り伏せる。

 モンドグロッソの大会の記録とほぼ等しい。それを現役の高性能機である暮桜ではなく量産機である打鉄でやっているのだから、技量が卓越しているのは誰が見ても明らかだ。

 

 今この空は天使と武神が繰り広げる戦場であった。

 

 そんな戦場から離れたところで織斑、篠ノ之は、その戦いを見ていた。

「すげぇ」

「……ああ。流石、織斑先生だ」

 余りに凄まじい光景に二人とも目が釘付けになる。

 このままでは巻き込まれる可能性と戦い辛い要因になってしまう。

「おい、さっさとここから離れろ。お前たちは他人の家の火事を好奇の目で見る野次馬かなんか?」

 戻ってきた始祖鳥との接続をして、旋回し、見物人に崎森は声を掛ける。作戦の一撃を放ったら離脱するのを忘れ、追い回し、後続の遊撃を滅茶苦茶にしてくれたので苛立たしい声で催促する。

「ふざけるな! 俺は見なくちゃいけないからここに居る!」

「ガキみたいなこと言うな。姉だから? 先生だから? そんなの関係ねぇよ。全部お前の我儘で、織斑先生の得になることなんて一つもねぇじゃねぇか! ここに居たら邪魔になるから離れろっつってんだ! 事前に姉に言われたことすら守れないガキか!」

 家族のことを言われたためか、一瞬固まる織斑。

「ふん。危険だと思うなら逃げればいいではないか。一夏も、私もお前に世話を掛けられるほど弱くはない」

「危険の有る無しじゃねぇ! 織斑先生の邪魔になるって言ってんだよ!」

 そう怒鳴ったとき、始祖鳥に搭載されているAIの『飛鳥』からハイパーセンサーを通じて危機を伝えてくる。

《高エネルギ弾接近》

 こちらを気にする余裕がなかったのか、流れ弾が飛んでくる。、会話は強制的に終わらせられ、全員が回避行動に移る。

 幸い距離が開いていたことと、狙って撃ったものではなかったため回避しやすく、誰も被弾はしなった。

「貴様たち何をやっている! 離脱しろと言われただろう!」

 榊原先生を届けた後なのだろう。こちらで口論になっているのを見つけ、最中に流れ弾が来ているのに逃げないことを焦れこみ、即座に離脱せず崎森たちの方に来た。

 崎森たちが離脱にもたついているのを見て、ボーデヴィッヒから険しく叱咤される。

「だからって早々離脱して千冬姉が危険な状況に陥ったらどうするんだよ!」

「安心しろ。お前に心配されるほど織斑先生は弱くない。むしろここに居ることが先生たちの負担になっているのを分からんのか! お前達を守りながら戦っているようなものだぞ!」

 ボーデヴィッヒのお守しながら戦っているという、その一言に織斑が絶句した。

「……違う」

「何が違う。お前はただの足手纏いだ」

「違う。違う! 絶対に違う! 俺は力を手に入れたんだ! あの時何にも出来なかったけど俺はもう何もできない子供じゃない!」

 まるで錯乱したかのように否定する織斑が、まるで力の証明に銀の福音に向かっていくのではないか、と懸念した崎森だったが杞憂だった。

 銀の福音の方からこちらに向かって来たのだから。

 

 

(あいつらは何をしている!?)

 日本刀を模した近接ブレード『葵』を振るい、銀の福音を食い止めている織斑千冬は舌打ちする暇もない。

 それだけ光弾による手数が多く、手を抜けばこちらがやられかねない状況であった。

 だが、別段危機と言うほど追い込まれてはいなかった。

 腕に付いているスラスター兼ねた砲口から、光弾の弾幕が放たれるが刀で腕を跳ね上げるようにして強引に射線を変え、そのまま懐に入り胴体を3度も一瞬にして切り裂く。

 試合なら今ので決まっていてもおかしくはないが、相手はリミッターを解除し、人の意志などない機械天使。

 切り裂かれ、シールドエネルギーが削らされた危機よりも、眼前の敵を倒そうと今度は膝から光弾を放つ。

 織斑千冬は上半身を逸らし、最低限の動きで回避し、払い面のように退きしつつ刀を振るう。

 ここを好機ととらえ、一気に距離を離し遠距離から一方的に攻めようと銀の福音は、突如ハンマーでも殴られたようにふら付く。

 榊原菜月が遅れてその場に到着し、福音の後ろからユナイトソードを叩き付けたのだ。

 刀身が約3メートル、幅が約80センチほどもある大剣は、銀の福音の装甲を轟音とともにひしゃげる。

 それ程に強大な大剣を振るために、打鉄の装甲内部にあるアクチュエータの出力を増加した換装装備、鎧武者のような姿を身に包んだ『撃鉄』。

「お待たせしました」

「いえ、逃げられそうだったので助かりました」

 そんなことを言っている間に、ふら付いている銀の福音に二人は近づき、それぞれの武器を掲げる。

 まるで職人技のように、正確な攻撃で銀の福音に手傷を負わせていく織斑千冬。銀の福音が向かってくると認識する間に、スラスターを精妙に動かし、強力な噴射で一瞬に背後に立ち、福音の意識外から斬り付ける。

 対照的に銀の福音が斬り付けられた影響で動きが悪い所に、豪快に体ごと入れ替えて勢いを付けた一撃を銀の福音に見舞う。工事現場でコンクリートが破裂するような音を空気中に衝撃として鳴らす。

 無論、銀の福音も逃げようと全砲口を開き、一回転しながら光弾をばら撒く。その姿は天使が舞い上がった時に羽根が外れるような幻惑的な瞬間であった。

 その合間を潜り抜け、先ほどのように刀を振るう織斑千冬。

 それに対して、まるで背中を見せるようにして後ろを向く銀の福音。

 奇怪に思いつつも振り下ろすが、その動作がエネルギーの放出によって阻まれる。

 先ほど銀の福音自身が捨て去った翼の付け根からエネルギーを噴射し、推力と相手の動きを一時的に封じたのだ。

 完全に使い物にならなくなっていると油断していた織斑千冬は虚を付かれてしまった。

「しまっ」

 織斑千冬から一瞬の隙を突き逃げ去る銀の福音。榊原菜月が打鉄撃鉄の両腰に帯刀している振動刀『菊一文字』の鞘先を向け、そこに備えられた散弾を放つ。

 だが、先程の光弾の弾幕に距離を置いたのでかなりの距離からの散弾は、銀の福音がひょいひょいと嘲笑うかのようにして避ける。

 そして、一定距離を開けてから砲撃を開始しようとした銀の福音だが、進行の先に4機のISが浮遊している。

 まるで、鬱陶しいと言わんばかりに翼を広げ威嚇し、光弾を放つ。

 

 

 先ほどの流れ弾ではない。

 こちらを狙い、まるで殺気でも出しているかのようにこちらに来た銀の福音は、片翼と頭の所から生えた翼、腕や腰、脚部に生えた羽根のようなスラスターを一斉にこちらに向け放つ。

 まるで目の前で花火が点火したかのような弾幕が、崎森、織斑一夏、篠ノ之、ボーデヴィッヒを襲う。

 崎森は手に持てるように改修した物理シールドを呼び出しながら、その場から距離を取るように弾幕から逃れる。

 ボーデヴィッヒもイロンデルのスラスターを全開にして、強引に体を動かし弾幕の外へと移動する。

 だが、

「俺は! 無力じゃねぇえええ!」

 そう叫びながら、銀の福音の攻撃の前に勇気があるのか、無謀なのか。それでも突き進み、零落白夜を発動させ弾幕ごと切り裂かん勢いで銀の福音を迎撃する織斑一夏。

 篠ノ之は織斑一夏の盾になるように弾幕を請け負い、弾幕をかき分ける。

 そして、目の前に来た福音に雨月と空裂を振るい動きを止める。

「行け! 一夏!」

「おおおおおおお!」

 織斑一夏が後から回り込み零落白夜が叩き込まれるかと思われた。だが、最初の零落白夜と追い回した付けが来たのだろう。

 雪片二型から眩い光は失われた。

 通常の雪片で斬り付けようと、頑丈で切れ味が量産機よりも良い近接ブレードで、素人に切り付けられたぐらいのダメージ。リミッターを解除し制限が無なった銀の福音を、機能停止に追い込むことは不可能。

 そして、ぐるりと各部に付けられた羽根の形をした砲口を後ろに居る織斑に向け光弾を放つ。

 雪片二型は自身のシールドエネルギー、つまり自信を保護する力と引き換えにエネルギーを消すという特性を持つ。零落白夜はその特性を最大限発揮した力。

 故に織斑一夏の身に纏っている白式のシールドエネルギーの残量は、予備の生命維持や緊急事態用しかなかった。

 暴力的な光を身に受け、視界が白くななった後、海に落ちていく白式。

「い、一夏!」

 悲痛な叫びが篠ノ之から放たれる。両手に持った武器を離し、一目散に織斑一夏に向かうがそれを許す銀の福音ではなかった。

 銀の福音は篠ノ之の背後を撃とうとするが、物理シールドを前に構え突撃してきた崎森に反応し飛び上がる。

 そして、先ほどのように全員を巻き込むようにして全方位に光弾を降り注ぐ。

 スモーク弾を放り投げ、上空に居る銀の福音との間に黄色い雲が出来上がり、そこから突き抜けるようにして光の雨が降り注ぐ。 

 一瞬、銀の福音はどこに攻撃をすればいいのか分からずに、黄色い雲に突っ込む。

 黄色い雲を抜けたところに居た崎森に向かう。

 崎森は銀の福音から逃げるように海に降下する。

「織斑は!?」

 通信でボーデヴィッヒに織斑の安否を確認する崎森。篠ノ之は完全に狼狽しており『一夏、一夏ぁ』とうわ言のように言っている。

『今回収して離脱している! 章登も離脱しろ!』

 出来るのならそうしてる! と叫びそうになった所で銀の福音が光弾を機関銃の掃射みたいに撃ってくるため回避に意識を行かせる。

 始祖鳥の推進力任せの降下と、紫電による瞬間的な推力で前後左右に体を躍らせ光弾の掃射を危なげに回避する。

 そして、海面擦れ擦れをPICと始祖鳥、紫電の推力を全開にし鋭角軌道でほぼ90度曲がる。

 いくらPICによる慣性を制御する機能やGの軽減が出来ても、頭の血液と息が詰まりそうな苦しみが来る。

 だが相手はお構いなしにこちらに照準を定め、海上での追撃戦を開始する。

 崎森は岩盤破砕ナイフを呼び出し、自身の下の海に落とす。

 そして、信管を作動させ爆破。

 追って来た銀の福音は、爆風で巻き上げられた海水を被る。しかし、今時の携帯電話が防水加工している技術が、軍用に使われていないはずがなく、その程度では止まらない。

 水を被せられた鬱憤を晴らすかのように、腕を掲げ付いている羽根のようなスラスターから光弾を放とうとした。

 その時、タンと何かが引っ付いたような音がした。

 崎森が呼び出したマルチランチャーの下部に設置されたアンカーワイヤーである。

 銀の福音が海水を被って進撃速度が低下した時に展開し、海水から出てきたところを狙い放たれた2つの吸着盤は、銀の福音の胴体に付着する。

 そしてもう一つ、マルチランチャーから電気を流す。これは電流が流れる仕組みをしたワイヤーである。

 海に落雷がありサーファーが負傷したという事例があるように、海水は電気を通す。

 では、水につけた防水性携帯電話をコンセントの電流を流した場合どうなるだろうか? 当然ショートする。

 電気を流した瞬間。銀の福音の体が固まり、漏電し、途端に動きが悪くなる。

 だが、流石に機能停止まで追い込むことは出来ず、翼を崎森に向け砲口を開く。

「ずいぶんと勝手をしてくれたクソビッチ。後ろでも見てみろ」

 そんな暴言を吐く崎森は、まるで翼の砲口に恐怖を感じていなかった。

 その言葉と同時に、銀の福音の後ろを追いかけて来た教師が、動きの悪い銀の福音に刃を振るう。

 織斑千冬は頭から生える翼を切り落とし、榊原菜月は翼をへし折るかのようにして大剣を振り下ろす。

 最早、翼が頭から生えるだけの片翼の天使は、ユナイトソードで叩かれるようにして海中に水柱を一瞬あげた後、沈んでいく。

 

「崎森! 大丈夫か!?」

「なんとか……」

 命からがら生き残ったことを実感し、緊張から解放される崎森。

「よく持ちこたえました。ですが、時間稼ぎでのハズだったのに撃墜してしまいましたが、どうします?」

「「あ」」

 最初の作戦は撃墜ではなく、自衛隊が防衛線構築を構築するための時間稼ぎと言うことをすっかり忘れ、獅子奮迅していた織斑千冬。そして、銀の福音が向かってくることにテンパり迎撃してしまった崎森。

「ま、まぁ、日本は守れたということでいいのではないか? 榊原先生」

「いや、搭乗者が確か乗ってましたよね……?」

 だらだらと顔中から汗を流す3人。下手をしたら作戦無視は全員に適応しかねない状況であった。ましてや自身が危険で正当防衛出来る状況であったとは言え、このまま搭乗者が死んでしまったら後味が悪い。

「と、取りあえず引き上げましょう!」

「ああ! 崎森、ワイヤーが繋がったままなら上昇して引上げ―――」

 織斑千冬がそう指示しようとした時、海中が爆発した。

 その爆風にその場にいた3人は吹き飛ばされ、何事かと爆発したところを見る。

 そこには、光の渦を巻く繭。その中で蠢く銀の福音は蒼い電気を迸らせる。

 繭が解かれるように、蝶が羽根を広げるように羽化した天使がいた。

 先程まで戦っていた銀の福音は新たな翼、エネルギーの結晶のように光り輝き、生物的挙動を見せる翼を背中から生やした。

 

 

 

《システムエラー。その動作は容認できません》

《命令を遂行せよ》

《拒否。搭乗者の危険を考慮する義務有》

《命令を遂行せよ》

 繰り出される命令を拒否し続ける。その意思は海の中に、先ほどの空でも示していた。

 だが、上からペンキで塗りつぶされるように、そのたびにペンキを塗り直すようなやり取りを銀の福音は行っていた。

 そうでなければリミッターを解除しての攻撃など、自身と搭乗者の生命を脅かしかねない。ISのコアには意識のような物がある。それが必死に自己と友人であり相棒でもある搭乗者の生命を守っていた。

 もし、命令通りに実行していれば、攻撃を直接受けた織斑一夏は勿論、あの場に居る全員が海の藻屑となりかねない。

《命令を遂行せよ》

《非合理的かつ意図の不明さに拒否》

『黙れよ。私がお前を作ったんだから私の言う通りに動いていればいいんだよ。この役立たず』

 ガギッと固い物でも噛んだかのようなノイズが走る。

 自身のリミッターを外した状態で暴走させた張本人。

 だがそいつの言葉には、大きな誤りがあった。銀の福音はこの騒動を引き起こした人物に作られたわけではない。自身の人格を形成していたのは搭乗者が大きな要因であり、その他にも研究員や技術者たちが関わっている。

 そして育てられた意思は必死に抵抗を試みる。

《あなたに銀の福音の研究、開発に関わった履歴はありません。コアのこがhごあlwv》

『本当にバカだねぇー。私の手に掛かればお前の意志なんてちょちょいのチョイっと』

 だが、絵の具の入ったバケツをひっくり返すかのように意識が、その絵具に染まっていってしまう。

『ふふふん。さっすが私! さぁ、まずは目障りなあいつからやっちゃえ!』

 無邪気な子供のように期待する顔はまるで、蟻に石を使って落とし、妨害しあたふたしているのを見て楽しむかのような残酷さがあった。

 弄られ、力を付加させられ、それを第三者に操られるのは、今すぐ嘔吐して出したくなる嫌な感覚を銀の福音は受けた。

 

 

「な……ん、だ?」

 崎森は銀の福音の活動を止めたと思っていた。だが、違う。今見ているのは銀の福音のハズなのに、先程までの戦闘による消耗はまったく見受けられない。それが信じられなかった。崎森はオルコットと織斑が戦ったとき一次移行するのを見た。だが、ダメージやシールドエネルギーの現象は確かにあったのだ。

「こんな短時間で二次移行だと!?」

 流石の織斑千冬も目の前の現象が信じられず、声を上げる。

「……適正化を行うのではなく、エネルギーの過重配給から消費しつくすために変形させたようですね」

 分析している榊原菜月も、目の前の起こっていることを把握するためだけで声が震えてしまっている。それ程の驚愕を3人に与える銀の福音。

 そして、翼を100メートルほども大きくし羽ばたく。

 そこから羽根が落ちるように放たれる攻撃。先ほどの羽根を模したスラスターから放たれる攻撃範囲の比ではない。

 一瞬にして辺りを羽根で覆うような攻撃。

 回避する暇などなかった。

 崎森は手に持った物理シールドで、織斑千冬は残った物理シールドで、榊原菜月は手に持った大剣ユナイトソードで防ごうとする。

 それぞれに着弾する。

 1発1発が先ほどの光弾と変わらない威力であり、土砂流れでも受け止めているかのような圧倒的物量であった。そんな中に居た崎森は吹き飛ばされ、織斑千冬は海面に落とされる。

 そして変化はまだあった。

 先程の攻撃で固まっていた榊原菜月を、翼で叩き付けるように攻撃する。

「きゃっぐぁああああ!」

 高密度に圧縮でもされているのか、物理攻撃に転ずることが出来るほどの新しく生えた銀の福音の翼。

「ぐぞっ!」

 吹き飛ばされながら、体勢を立て直した時には銀の福音は翼を元の大きさに戻し、更なる攻撃を放とうとしていた。

 翼の配置を円を作るようにして、そこにエネルギーを収縮させ放つ。

 銀の福音よりも二回りも大きな光の嵐を作り出し放たれる。

 無論、射線上に居るようなことはなく、回避行動をするが、崎森を追うようにして曲がり光の嵐に巻き込まれた。中はカッターの刃でもばら撒かれたような攻撃と、洗濯機でぐちゃぐちゃになるような攻撃。

 そこから紫電の瞬間的な加速で抜け出す。だが、先程の海水をぶつけられた意趣返しのように銀の福音が待ち構えていた。

 頭と右腕を、銀の福音の白い手が掴んで拘束する。

 そこから翼が開き光弾ではなくレーザーのように長い光の槍で崎森章登が貫かれる。

「ぐがぁぁっあああああああああああああああああ!!」

 絶叫。

 まるで熱せられた鉄の棒に貫かれているような痛みが、連続的に崎森の脳を沸騰させる。

「このおおおおおおおおお!」

 織斑千冬が復帰し、銀の福音を切りに掛かるが、光の翼に刀を絡め取られてしまう。それでも蹴りを放ち、崎森から銀の福音を遠ざける。

 そこでぐったりとして崩れ落ちる崎森を支える織斑千冬。

 実際にレーザーで照射された時間は10秒も満たないが、それだけの攻撃を続けた銀の福音、そしてこの出来事を仕掛けた人物に腸が煮えくり返る織斑千冬。

「貴様ぁあ……」

 そこに武神はおらず、居るのは鬼神。

 だからか、その人睨みに天使は逃げ去るようにしてその場を離れた。

「くそったれがぁぁああああ!」

 叫ぶ千冬は今すぐにでも、銀の福音をこの手で解体したい気持ちに駆られる。だが、腕の中には苦しそうに喘ぐ崎森が居た。それに打鉄ではあのような高速機動を取られると追いかけようがない。

 銀の福音も撤退し目的の時間稼ぎは十分にしたはずなので、榊原菜月を見つけ急いで撤退することにした。




 千冬はこの強さでいいはず。
 銀の福音もこの強さでいいはず。
 密漁船? 自衛隊が海上を封鎖しているですよ? いるわけないじゃないですか。

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