IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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 最近別の方で書いているものが詰まってしまいこっちを書いてしまっているので、速いだけです。
 もしかしたら荒があるかもしれません。

それと前の平等云々に付いての感想ありがとうございます。


第34話

「現状を説明する」

 宴会用に設けてある大座敷は、旅館の協力の元、様々な機械が搬入されていた。壁ほどにある大型のモニターと立体図面や情報を情報を浮かび上がらせる作業台。

 そこには、まだ開かれない機密事項と思われるファイルが浮かび上がっていた。

 その作業台を取り囲むようにして崎森、オルコット、凰、ボーデヴィッヒ、織斑、篠ノ之が立っている。

「ハワイ沖で稼働試験をしていたアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のリミッター解除時、制御化を離れ暴走、現在なぜか(・・・)こちらに侵攻してくるとの情報があった。理由としては、リミッターを解除してコアの意識が独断で行動しているのか、もしかしたら不明だが何者かの介入があったとも考えられる」

 いきなりであった。

 イスラエルとアメリカの関係は分からなくない。イスラエルが無くなると中東で安定した軍事拠点が無くなる。また、中東の情報などを得るのはイスラエルを通してが多い。

 これは中東で唯一の民主国家というのが大きいが、共同開発でしかも軍用ISを所持。現在のアラスカ条約では国の防衛のみにISを運用できる。

 だが、これは完全に侵略か制圧を考えて作られている。

 それが日本に向かってくるというだけで大ごとであった。

 それを理解しているものは顔が強張る。理解してないものは、とぼけた様な顔をしていた。

「衛星の追跡により後40分後ににここの空域を通ることが予想され、自衛隊も出動したが防衛線構築に時間が間に合わない。よって一番近い我々がそれまでの時間稼ぎをすることとなった」

 淡々と言う織斑先生だが、その顔は何かに怒っているような気がしてならない。秘密裏に軍用ISなんて作り、暴走したとなれば怒るのも無理からぬことだとは思うが。

「海上ではイージス艦のレーダー補佐と海域の封鎖をしてもらう。なので時間稼ぎは戦闘教員がこの『銀の福音』と交戦することになる。その交戦距離まで戦闘教員を運ぶことを専用機持ちにやってもらいたい」

 ISに対抗できるのはISのみと言うことだろう。従来の戦闘機では一瞬にして背後を取られて張り付かれてからの砲撃で落ちてしまう。戦車も固定砲台で回避範囲が広い空で当てるのは難しく、また上面装甲や後方から攻撃を受けてしまうと地上最強の兵器は鉄くずと化してしまう。

「それと、織斑の雪片弐型は戦闘教員に渡してもらう」

「え!?」

「ここまでで何か質問はあるか?」

「ど、どういうことだよ千冬姉! なんで雪片を渡すんだ?」

「どうもこうも先制攻撃する時に最大の一撃をかますだけだ。なにか異論でもあるのか織斑」

「いや、だって雪片を使うって、あれは玄人向けだ。俺以外に誰が使うんだ?」

 自分に思い入れがある装備を他人に使われることが気にくわないらしく、使われるなら自分が出ると言いだしそうな雰囲気であった。

「私だが? 文句あるか?」

「い、いいえ」

 昔に今の性能より劣ると思われる雪片を使い世界最強まで上り詰めた実績からか、織斑先生だったから信頼したのか、反論をせず引き下がり雪片を譲渡することに納得した織斑。

「先生。アメリカの対応はどうなっているんですか?」

 先ほどの織斑先生が自衛隊は海上封鎖と、空域のレーダー情報の共有をしてくれるらしいが、事件を起こしたアメリカのことを言っていなかったのを疑問に思った崎森。

「最初暴走した時は自力で止めようとしたらしいが、対応しきれず突破されたらしい。それから追撃となるとどうしても間に合わず日本の警戒レーダーに映ったことから今回の事件が発覚した」

 自国の機密であり、なるべく知られたなくなかったのだろう。その躊躇で今回のような事態に陥った。防衛線構築はそのために遅れてしまったことになる。

「それからは『銀の福音』のスペックデータと搭乗者の戦闘記録が送られてきただけだ。アメリカ本土からは遠いということと、沖縄には従来の戦闘機しか置いていないので無駄な損害は増やせないとのことだ」

「では、そのスペックデータと戦闘記録の開示を要求します」

 すかさずオルコットが開示を求める。

「直接戦闘するわけではないが……いいだろう。ただし口外はするな。漏えいした場合は査問委員会の裁判と監視を受けてもらうことを理解しておけ」

 こくりと頷くオルコット、それに同調するかのように他の代表候補生も頷く。

 空中に投影された情報には何かしらの意図があるのか、全身装甲のIS『銀の福音』が投影された。

「広域殲滅の特殊射撃装備……。どのような使い方をするのか分からないのが、まずいですわね。前の機体では腕に装着されている装備を使っていますが」

「攻撃も速度も上がっているらしいわね。制限が無い外で飛び続けるとなるとリミッターが外れてシールドエネルギーを放出量が多いあっちが有利ね」

「この戦闘記録には格闘戦の情報が無い。戦うわけではないが、あちらが遠距離主体で攻撃を仕掛けてきたら攻撃範囲から逃れるのは至難になるぞ」

「……リミッターを解除した時の予測性能は分からねぇのか? これリミッター解除前のスペックデータだろ」

 オルコット、凰、ボーデヴィッヒ、崎森はそれぞれの意見を交わし予測できる危険を頭の中で思い浮かべていた。

「……雪片の先制攻撃を撃ち離脱し、遠距離から遊撃で離脱の援護しつつ、再突入がベターになるのか?」

 崎森はそう結論した。相手は一機。制圧力が高いのなら、その攻撃範囲から逃れるために全力で逃げるしかない。そして相手も速いとなると足止めが必要になる。ヒットアンドウェイ。それが一番安全だ。

「恐らくそうなるでしょうね。もしくは特殊射撃装備を使わせないよう延々と張り付くと言うのもありますが、格闘戦が未知数ならやらない方が賢明でしょう。織斑先生。教員を運び終えた後は援護に回った方がよろしいかと思います」

「……それは現場の私が判断する。移動で燃料を使っているんだ。帰ることが出来なくなってしまっては意味はない。我々の目的は撃破ではなく時間稼ぎだということを忘れるな」

 オルコットが援護を助長するが、援護の方に攻撃がいくのを懸念してか許可は現場で判断することにした。

「では、具体的な作戦の計画を練る。戦闘教員は私と山田先生、榊原先生の3人。運んでもらうのは最高速度が高い機体とする」

「俺のラファールは独立飛行機構を装備してますけど、あれは試験運転に持ってきたものなのでスポンサーに許可を取らないといけません」

「それなら、わたくしのブルーティアーズの強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が出ます。運用は代表候補生に任されているのでご安心を。ただ量子変換しておりませんので少々お時間をいただくことになります」

 パッケージとはISの能力を底上げする装備群と思えばいい。

 空気抵抗を軽減措置する装甲や、火力を上げるために装甲に火器を内蔵する。こういった目的に特化させ装備を付けたしていく専用装備群を纏めたのが『換装装備《パッケージ》』と言う。逆に特化しすぎてその他の応用は考えていないと思ってくれていい。

 打鉄撃鉄やラファール・リヴァイブ・イロンデルもそれぞれの特徴を強化するために、部品を取り換えているので『換装装備』と言う。

「崎森、オルコット、その状態での戦闘訓練時間は?」

「実際にやったのは飛行訓練だけです。シミュレーターで10時間ちょっと行ったか行かないかぐらい」

「20時間です」

「……そうか。後一人……ボーデヴィッヒ、ラファール・リヴァイブ・イロンデルに乗ったことはないが高速化での戦闘訓練は受けているはずだ。もしくは織斑の白式も相当の高機動力がある。どちらかが―――」

 最後の1人を決定しようとしたその時。天井から場違いなほどに明るい声が遮る。

「ちょっと待ったー! その作戦は待ったなんだよちーちゃん!」

「出て行け。もしくは黙ってるか自首でもしてろ」

 まだ何かやらかす気なのか天井から飛び降り、織斑先生にすり寄る篠ノ之束博士。

「もっといい作戦が私の中に今思いついたよー!」

「貴様の意見など聞かん」

「えー。ここで紅椿を出さないのは大損だよ! そこに居る奴らの換装装備なんかより展開装甲で超高速機動が出来きるんだから!」 

 そう言いながら空中投影ディスプレイを乗っ取り先程の『銀の福音』のスペックデータではなく紅椿のスペックを表示する。

 展開装甲と言う聞きなれない単語に何人かが難しい顔をしていた。その中に織斑が含まれていたからか、説明し始める篠ノ之束博士。

「いっくんのために説明しましょう! 展開装甲というのは、この天才の束さんが作った第四世代型IS装備なんだよー」

 第一世代はISの大本な完成。第二世代は量子変換による容量の増加をしての多様化。第三世代は搭乗者のイメージを現実に作用させる、いわば思考のみで動くことが出来る装備の実現。

「第四世代型IS装備の展開装甲は換装装備を必要としない万能機であるのと同時に、戦闘や入力された情報から最適化された装備をその場で作り上げるという超規格外装備でぇす! いっくん理解できたかなー?」

 つまり制約が無いということである。

 拡張領域を必要とせず、かつ様々な状況に対応可能。

「具体的には白式の『雪片弐型』にも採用されてまーす」

「え!?」

 この言葉に室内の殆どの人達が驚く。いつの間にか雪片も制約が無く、様々な状況に対応可能と言うことになっている。だが、零落白夜以外にそのようなことが起こっていないということは、未だ発現していないだけだろう。

 そんなものを問題児が所有しているということに驚いているのかもしれないが。

「それで、うまく作動したので紅椿は全身に搭載させて展開後は更にスペックが向上します。倍以上の数値を叩き出すはずだし」

 しかし、問題も浮上した。

「え? ちょ、ちょっと待ってください。全身に雪片って……」

「うん、無茶苦茶強いね。一言でいうと最強」

「そんな訳あるか。エネルギー消費ガン無視の、短距離ランナーの爆発力なんて今必要じゃねぇだろ」

 全身に展開装甲、もとい雪片、を装備しているとなると瞬間的には最強の数値になるのだろうが、エネルギーの消費が凄まじい事になってしまう。

 そして今の状況には、長距離を飛び、戻ってくることが必要なのだ。凄まじい速度で到達したとしても、撤退する時にエネルギーが切れていれば足手まといにしかならない。その逆ならまだ分かるが、もし撤退途中にエネルギーが切れてしまえば同じことだ。

「はぁ、本当にバカだねぇー。そんなこと天才の束さんが想定していないと本気で思うのんの? 紅椿の展開装甲はより発展したからエネルギーなんて問題ないんだよ。おわかり? それに攻撃、防御、移動と用途を変えて切り替えが可能。どうどう、これでもすごくないなんて言えるのかなぁ」

 まるで馬鹿にするように解説した篠ノ之束博士。

 エネルギー問題を解消したと言っても、エネルギーを消費することには変わりないのだ。

 そして、攻撃、防御、移動と用途を切り替えるということはマルチランチャーと同じ場面場面で即座に適切に切り替えないといけない。しかも、マルチランチャーはどのような攻撃をするかを切り替えればいいだけで済むが、紅椿は全身にどのような役割をするかを考えなければならない。いわばキュービックパズルで決めた位置に色を置き、全体の配色を計算しながら組み換えを行うのに等しい。

 こんなの戦闘中にやれと言われても、扱う人間が限定されてしまうほどに玄人向けの機体である。

 すごくないと言ってやりたいが堪えることにする崎森。考えてみればこいつは自慢したいだけでこの場に乗り込み、そのような難易度が高い機体を初心者の篠ノ之に送るような奴である。

 そんな奴に行ったところで、篠ノ之なら使いこなせるとか言い返して来そうで面倒と思い始めた。モンスターペアレンツをなぜ教師でもないのに相手にせなければならないのか。

 崎森が黙ったことをいいことに篠ノ之束博士は続ける。

「本当にバカはバカなりに黙ってればいいのにさー。ああ、馬鹿だから黙っていることが出来ないないんだねー。御気の毒さまー」

 そうバカにするように言う。

「でもあれだよね。海で暴走と言うと白騎士事件を思い出すね。そこのバカみたいに私の才能を信じなかったからいけなかったんだよ」

 白騎士事件。

 世界中の軍のミサイル発射装置がハッキングされ、日本に向けて放たれた。

 スイッチ式の核爆弾やアナログ化されたものは、基本人間が触らないと機能しないため(それでも何重にも鍵をかけたり電子暗号で厳重保管されているが)放たれなかった。だが軍の装置が大部品が電子機器に頼っているのは紛れもない事実で、潜水艦のミサイルなど信号を受け取って発射されてしまった。それでも悪あがきとばかりに、弾頭を外したり、無理やり燃料を抜かして停止させたりと最大の努力を現場の人物たちは務めた。

 それでも、ハッキングされた量が余りに多かったため発射を許してしまう。

 そして、向かってくるのは日本。

 無論、自衛隊も黙っておらず、ミサイル防衛(MD)をする。海岸にはごつい装甲車と後部に迎撃ミサイルの発射台を搭載したトラックが今でも思い出せる。

 そんな中、迎撃前に空中に1機の人型がイージス艦のレーダーに映った。

 神出鬼没に現れた人型のパワードスーツを纏った人物が、突然ミサイル群へと向かう。

「ぶった切ったんだよね。ミサイルの半数1221発。もう半数は荷電粒子砲をぶっ放してみんなの危機を救ったのにね」

 真っ白い装甲で身を包み、手に持った大剣でミサイルを斬り、そこから放出する荷電粒子を放射し、刀身が伸びた光剣で斬り伏せた。

 だが、そんなことをしたことがいけなかった。

 日本はそんな危険な物を個人で所持してはならない。そもそも銃や兵器の開発は民間では禁止されていた。それをあろうことか最初の宇宙開発用を棚上げし兵器として運用したのだ。そもそも、自衛隊が活動するのを妨げたとも取れなくはないのだ。

 世界がISに付いて無関心だったのはこのせいだ。宇宙開発に作られた宇宙服がどんな兵器よりも強いと言われたってデマと思うだろう。用途なんて違いすぎるのだから。

 無論、白騎士を犯罪者として検挙するのはどんなものかと吟味し、結果として日本は救われたと称賛する人物もいた。更に搭乗者が誰なのか分からなかったため当時は開発者を捜査することにした。

 だが、それを開発した本人はここにおり、現在も指名手配の真っただ中である。

「ともあれ、私の言うことを聞かないと後で痛い目を見るかもねぇ。その辺どう思うちーちゃん?」

「大変なご高説ありがとう。だがな、貴様の意見など採用しないと言ったはずだ。この作戦に参加するのが織斑、ボーデヴィッヒに篠ノ之が加わっただけにすぎん。そして、生徒たちに参加させる気もない」

「ええー。別にそんな奴ら要らないよ。ISに付いて私の方がよく知ってるのは分かってるでしょ。軍用ISにいくらちーちゃんだって手間取るし、足手まといの事なんて気にしないでよ。ここは高性能の白式と紅椿だけでいいって」

「ISに付いて分かっているだけだろ。戦術、戦略、戦闘について貴様は何を知っている。それに少人数で当たる必要などない」

「ふーん。まぁいいや。でも、雪片を白式以外で振うことなんて出来ないよ」

「……なに?」

「うふふ、さっきそういう風にしちゃったからねぇ」

「今すぐ解除しろ」

「やだぴょん!」

 堪忍袋の緒が切れた織斑先生が襟首を掴もうと伸ばした手を躱し、再び天井に跳躍して逃げる。

「じゃ、頑張ってねぇー! 特にいっくんと箒ちゃん!」

 と、言い残して去っていった。

「織斑、山田先生に白式を見せろ」

「あ、ああ」

 そう言いつつ、右手に装備されている待機状態の白式の白い腕輪を山田先生に見せる。情報を読み取るためにカバーを外し、そこからUSBケーブルのような物を突き刺してモニターで調べる山田先生。

「どうだ?」

「駄目です。ロックがかかっていて、今すぐ解除できるとは思えません」

 申し訳なく報告する山田先生。そして、雪片を受け渡せないという深刻な事態に織斑千冬は思考する。

 織斑一夏に戦場に立たせていいものかどうか。

 

 

「四十院、ちょっといいか?」

「はい。なんでしょうか」

 作戦の練り直しに織斑先生と山田先生、他の教員たちは大座敷で会議していた。そして、報告では俺が教員を牽引することは確定している。オルコットも換装装備の量子変換の為に今作業を行っている最中であった。

 そして、崎森は使用する装備のスポンサーの了承を得るために、四十院の泊まっている部屋まで来た。

 障子の扉を開けると部屋の中には他の生徒、谷本や布仏、相川や雪原、鷹月と誰かが持ってきたウノで遊んでいたらしい。やることが無くなっての時間の消化が目的になっているのだろう。誰一人楽しんでいる雰囲気ではなかった。

「ねぇ。何が起こってるの?」

「……さっきから教員室と大座敷付近には近寄るなってだけだったから、……不安」

 相川と雪原が織斑先生に呼び出され事情を知っていそうな崎森に聞いてくる。

 ISの試験を中止することの事態に不安を抱いている生徒が多い。無理からぬことだとは思うが、ここで言ったところでパニック状態、ならなかったとしても自分に監視が付けられるので誤魔化す。

「いや……多分不安がることじゃねぇよ。さっきのあの人が無茶苦茶やったおかげで色々な不祥事が起きているだけだ。ミサイルの破片の回収とかでこき使われそうだから四十院に頼まれていた装備を使っていいか聞きに来ただけだから」

「……本当に?」

 鋭かった。一瞬言い訳を考えた時が悟られたのだろう。谷本が疑いを持ち始めた。

「ホントだって、まぁ、篠ノ之束の追跡に政府の人が来るかもしれねぇけど、そんなに心配することじゃねぇよ」

「…………うん」

 出来る限り自然な形で流せた、と崎森は思ったがやはり納得がいっていないのか渋々と頷く谷本。

「大丈夫だよ~。多分海流で破片が流されているから足が速いさっきーが推薦されたって話でしょー?」

「そうなの?」

 布仏が推測し確認を取る鷹月。なんとしてでも誤魔化しとおそうと不自然な動作をしないように注意する。

「ああ、まぁそんなところだけど、ちょっとそのことで話しておかねぇとさ。あれって貸されている状態だし機密事項だろ? そのことで人に話しておかないとな」

「分かりました。少し席を立たせていただきます」

 きっしりと背を伸ばした正座から立ち上がり、部屋を出る四十院。

「崎森ー。襲っちゃだめだよー」

「倒されるのは俺の方だから安心しろ」

 そんな茶々を相川が言う。ちなみに四十院は剣術と護身術を嗜んでいるらしく、暴行しようものなら付け焼刃の崎森など返り討ちであろう。実際更識先輩以外との組手で、簡単に倒されたとこがあるのは周知の事実だ。

 そうして少し歩き、人通りの少ない大広間辺りで話を切り出す。

「実はなんだけど―――」

「ええ、ミサイルの破片の回収などではないのでしょう?」

「…………ばれてた?」

「崎森さん。女は勘が鋭いですし、今のはほんの少し疑問に思っての引っ掛けです。誘導爆弾《ミサイル》の破片の回収なのに、政府の人が来るなどと話題を変えてしまいましたから不自然ですよ」

 少し、崎森は女性というものを甘く見ていたのかもしれない。四十院はカマを掛けたと言ったが殆ど確信しての最終確認だったのだろう。

「あー、でもその、機密にかかわることだから……詳しくは言えない」

「分かっております。どうぞ『始祖鳥』と『紫電』はご自由にお使いください。身が危ないのなら投棄や破壊も結構です」

 少し事情を話してもいいと織斑先生は言ったが、今現在に緊急事態が迫っているのを感じたのか反発することなく、装備の使用許可を得る。

「……ごめん。もし壊れたら……まぁ、俺に来た賠償金全額送ることにする」

 取りあえず請求先は、アメリカとイスラエルに先生を仲介して申し付けようと崎森は思った。

「そのようなことは考えないでください。貴方の身を一番に、……搭乗者の替えなど効きませんから」

 そんなことを聞いたとき、空中投影ディスプレイが腕、待機状態のストレイドから投影される。

『崎森君、至急大座敷まで来てください!』

 そんな慌てた山田先生の声がした。

 きっとよくない知らせだろうことは近くに居た四十院も思ったことだろう。

 

 

 

「先程までの『銀の福音』の行進速度よりさらに加速して、作戦が前倒しになった。今から10分後に作戦を開始することになるが、崎森、オルコット、ボーデヴィッヒ大丈夫か?」

「はい。確認はとれました」

 先ほど四十院と別れ、大座敷に来た崎森は少し声が震えながら言う。これで実質崎森の出撃は確定と言っていいだろう。

「……すいません。量子変換はまだ、最低でも25分は掛かると思います」

「慣らし運転が欲しい所ですが、飛ばすだけなら大丈夫です」

「そうか」

 そして、黙り込んでしまう織斑先生。頭の中では織斑と篠ノ之を出すか迷っている。

 数秒考えた後、作戦への参加を決定した。

「不意を突いて織斑、篠ノ之が零落白夜を初撃で放った後、戦闘領域をそのまま離脱し退避。遊撃に私と榊原先生が戦闘を開始する。山田先生はオペレーターに回ってくれ。それと生徒たちは私たちを戦闘領域まで届けた後はそのまま別命あるまで待機しろ。それといくら後方に居るとは言え戦場だ。それと辞める権利があることを理解した上で参加してほしい」

「はい。理解しています」

「了解」

「わかったよ。千冬姉」

「分かりました」

 崎森、ボーデヴィッヒ、織斑、篠ノ之のそれぞれの返事を聞いて、織斑先生の表情が少し硬くなってしまった。

「念を押しておく。実戦だ。危ないと思ったら何が何でも逃げ出せ」

 それほどの危機感を抱くほどに織斑先生は念押しする。

 

 

 時刻は11時。

 風はなく、波音も静かだった。本当にこれから戦闘をしに行くのかと自身で疑問に思うほど、崎森章登の心は騒めかず、静かな物であった。

 崎森以外にもそれぞれのISを装備した人物が砂浜に立っている。

 打鉄にスラスターを強化、追加した織斑千冬。

 ラファール・リヴァイブ・イロンデルを着込んでいるラウラ・ボーデヴィッヒ。

 打鉄撃鉄でしか振り回せないユナイトソードを地面に突き刺している榊原菜月。

 制限を解いた雪片二型をその手に持つ白式と織斑一夏。

 ここにあるどのISよりも速いという触れ込みの紅椿、それに初めて駆る篠ノ之箒。

「よろしく頼む」

 崎森の背後に接続された独立飛行機構『始祖鳥』は、前回のテストのように戦闘機の先端に崎森を付けるような形ではなく、グライダーのように崎森に背負われるようにして接続されている。

 後ろに戦闘領域まで届ける織斑先生が、捕まりやすいようにそうしている。

「それはいいんですけど……なんで、織斑と篠ノ之を参加させたのですか?」

 個人通信で織斑先生にしか聞こえないように会話する崎森。

 一番の疑問は、織斑でなく、山田先生を連れてくるべきではなかったのかと崎森はそこが腑に落ちないからだ。

「……理由の1つ目は大打撃を与えるため、2つ目は銀の福音は暴走状態なため素人でも簡単に当たると判断した。3つ目は勝手に飛び出してきて場を混乱させないため」

「……現場でも勝手をしないってわけではないと思うのですが?」

「それでも、束は……私が出さないと決定すれば、私が苦戦をしている所を見せ煽るような行動をするだろう。ならば勝手に介入されるより前に役割を与え、束が手だし来ない領域に置いておく。……それで、頼みがあるのだが」

「もし勝手をしそうになったらボーデヴィッヒと一緒に止めろと?」

「……ああ、私や榊原先生は忙しくて手が回りそうにない」

 実際、軍用ISと命がけで戦うのだ。後ろを気にしている余裕などないに等しいだろう。

 だが、

「一夏。成功させるぞ」

「ああ、箒。頼むぜ」

 両名はいつもより増してやる気を出している。それが空回りしないことを祈りたい崎森であった。

「……気をつけはします」

 頭の中に留意しておく崎森。そんなことを言い終えた時、山田先生の通信が入ってきた。

『皆さん。そろそろ時間になります。問題はありませんか?』

「ありません」

 各々が返事をした後、作戦開始のカウントのモニターがハイパーセンサーに表示される。

『50、49、48』

『章登。緊張しているか?』

 作戦開始の直前に、ボーデヴィッヒが崎森を気遣うようにして通信を入れて来る。

「ああ、大丈夫だ。なんでか落ち着いている」

『そう、か。心配は無用だと思うが、危険なことをする必要はないぞ。危なくなったら逃げればいい』

 そのようなことを言ってくるのは危惧の念があるからなのだろう。ボーデヴィッヒはこのような状況か、何度かの戦闘経験があるからか変に浮き出し立ってもいない。

 いつもの通りではないが、険しい顔をしている。

『30、29、28』

 時間が迫る。

「分かってる。時間稼ぎで、先生を届けるだけの仕事だ。それ以外は何もしない」

『ああ、その通りだ。その通りなのだが、何かある気がしてならない』

 兵士の感か、女の感か。得体のしれない不気味さをボーデヴィッヒは感じてしまう。

「……そんなことになったら、ボーデヴィッヒが言ったように逃げればいいんだろ?」

『ああ。もうそろそろ時間だな。無事でな』

「そっちも無事に」

 そのようなことを言って会話を切り上げた後、カウントは2桁を切った。

『9、8、7、6、5、4、3、2、1、』

 そしてカウントが0を告げた瞬間。同時に3機が空高く飛翔し始める。

 まるで後ろから押し上げられるようにして進む崎森は、その感覚に戸惑うことなく空気を跳ね除けるようにして突き進んでいく。

 ボーデヴィッヒも初めて乗る機体であるにもかかわらず、経験と感覚を総動員して機体を操り空を突き進む。

 篠ノ之は脚部と背部の装甲、展開装甲をガパリと開き、そこから赤く力強い光を発し噴射する。その加速を楽しむかのように悠然と、しかし3機の中で最も速く飛んでいく。

 

 こうして作戦は開始された。




 自衛隊は当然として出来る限りのバックアップと防衛線構築をしてもらうことになりました。と言うより弾道ミサイル迎撃ではなく、いきなり宣戦布告なしでステルス戦闘機が飛んできたようなものですから。そりゃ対応が遅れても仕方ないかなと。
 アメリカがなんでスペックデータぐらいしか寄越さないかと言うと、軍用ISと銘打ってしまったことで、条約違反してましたと報告するようなものですからね。それを報告したとなるとIS委員会から信用を失ってお前はもう何もするなと言われかねない。なので自力で解決しようとしたんじゃないのかなと。
 これで報告せず自力で解決しようとした時はもう手遅れ、日本の警戒ラインに引っかかり明るみに出された。

 え……。それよりも早く千冬さんが束を拘束しろって? そ、それはそのまだ彼女がやったと証拠があるわけではありませんし、それで銀の福音が止まるとも思えませんし。
 すいません、勘弁してください。


 紅椿の展開装甲についてですが、一応の解決策としては全身を攻撃に特化する、防御に特化すると言った一点特化にした方が初心者の篠ノ之にも扱えると思います。
 無理に足を起動、右腕を攻撃、左腕を防御として、それを右腕で咄嗟に防御する時は確実に大ダメージでしょうし。
 相手が弱っているチャンスだ。攻撃特化。
 相手が逃げる。機動特化。
 相手が全力でしかけて来た。防御特化。
 こうすれば篠ノ之でも扱えるでしょう。ただ、状況を合わせる観察眼や判断力、今後の展開の見通しが必要になってきますが。
 ところで思ったけどこれ変身ヒーローじゃねぇか。もしくは平成ウルトラマン。
 クウガ、ティガ、ダイナ。あれらを見て育ったはずなのに記憶がもうない。

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