IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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1ヶ月近く開いてしまいました。すいません



第31話

 崎森は来週に行われる臨海学校の準備に必要な物を、しおりを見ながらスポーツバックに詰めていく。

 着替え、筆記用具、タオル、後は新装備の試験項目を持っていけばいいだろう。

 それらを詰めて行く中で、足りないものが出て来た。Tシャツとダウンベスト、ジーンズに着替え、買い出しに街へと向かった。

 学園の外に出る手段の中の一つ。モノレールに乗って駅前商店街に向かった。

 『レゾナンス』と呼ばれている駅と地下街、これでもかとデーパートをぶち込んでいる。典型的なショッピングモールを最大まで際限なく大きくしたようなもので、基本的にここでなら大抵揃うということで利用する人間は多く、日曜のような休日では人混みが多い。

 人混みで混濁するのが嫌なので用事はさっさと済ませようと早足で歩いていく。

 そうしようと思いモノレールから降りた時、懐かしい顔が見えた。額縁が太い四角のメガネにキツネ目。体格がひょろりとしており気弱な性格が出ている。高校に入って髪形を意識しているのか、ツーブロックにして上の方はパーマでも掛けているらしくボリュームがある。

 相手の方もこちらに気づき声を掛けてくる。

「よお! 崎森じゃん。お久しぶりというか、こっちに来るなんて珍しいですな」

「あっちで忙しいんだよ。祐輔《ユウスケ》」

「女の子相手に?」

「色々と気を付けないといけねぇからな」

 中学時代の友人の霊屋祐輔。崎森と同じ趣味を持ち意気投合。今は工業高校に進学している。

「そうなると女子の花園も地獄に近いですな。下手に接触すると非難されかねないって」

「ホント。イケメンはそれなりに優遇されるからなぁ。そっちの高校は?」

「工業高校って泥臭いイメージが女子の中にあるのか、そんなに女子はいないわけですよ。それに同志《オタク》たちは、かなりいるからそちらほど苦労はないです」

「気楽そうでいいな」

「いやいや。今言ったじゃないか、女子が少ないって。僕だって彼女が欲しいわけですよ。おしとやか系でこう……膨らみがある女子を紹介してほしいです。はい」

 崎森は反応に困ってしまった。

 IS学園は基本的にISを操縦することメインである。女尊男卑の象徴であるそれを使うことに一生懸命な生徒たちが集まる。高倍率の入試に勝ち抜き、エリートとして入ってくるのだ。実力がある傲然たる人たちが集まりやすい。

 初期のオルコットなどいい例だろう。エリート意識。女尊男卑思想。そういったプライドの高い人たちが集まりやすい。それだけではないが、少なくともおしとやか系と言うと、気が弱く、守ってあげたくなるような人のことだ。

 何人か知っている。のほほんなど祐輔のド直球だろう。だが少数派だ。

「……あー。何人か声かけてみるけどいい返事が来るとは限らねぇぞ?」

「そこを何とかお願いします! これ僕のプロフィール!」

 携帯電話の赤外線通信で送られてきた霊屋祐輔の電話帳には、精一杯かっこいい顔にしようとしたのだろう。横向きにこちらを見てきている。どこかのファッション誌のモデルを参考にしているのかもしれない。

 だが、笑顔がぎこちないというか不釣合いというかなんというか。にっこり程度の微笑で済ませればいいのに、歯が見えるほど口の吊り上がり、目もこれ以上ないほどまでに引きつっている。

 これで第一印象がいいとは思えない。

「……本当にこれで誘うのか? 特に画像の所、少し変えないか?」

「い、今はこれで。作り笑いとか自然にやるのが苦手なんだ」

 彼らは自分たちで好きに語って、大笑いするのが常だった。唐突に完璧な作り笑いをしろと言われても出来ない。

 げらげら大笑いしている写真など、履歴書には張れない。だが履歴書でもない、個人のプロフィールならアイコンでも使えばいい。

「せめてアイコンにしないか?」

「いいんだよ! 最近じゃ信用ならないとかで顔つきの方がまだ(・・)疑われにくいと思うんだ」

 彼はそう言うが、崎森はむしろ近寄りがたくなるんじゃないかと思った。

「それで、祐輔はどうしてここに?」

 それを言うのはどうも気まずく、無理やりにでも会話を変えようとする。

「ああ、最近放送したアニメのプラモが出たからさ。見てないのか?」

「言っただろ忙しかったって。練習とか、勉強とかしないと他の人についていけねぇんだよ。あれだぜ? 必死に勉強して平均点以下が多いって、どれっだけ勉強してたらそうなるんだよ」

「まぁ、その人たちは中学時代から勉強してるからな。赤点取らなかっただけでもマシじゃないか?」

 成績は平均点が取れていれば十分と感じる崎森はそれでいいかもしれないと思った。だが、今は四十院からの依頼をしている。少しでも失態を見せたら、四十院が不利益を被る。もしくは、見限られるのではないかと不安と思う崎森。

「まぁ、勉強が駄目でネットとから叩かれても気にすんなよ。突然にそんな状況になったら誰だって戸惑うんだからさ」

「励ましの言葉ありがと」

 そう喋っていると駅の上にあるデパートにきたので、彼らの目的地は違うために分かれることにする。

「じゃ、女子の紹介よろしく」

 霊屋はそう言うが、このプロフィールで誘えるとはどうしても思えなかった。

 

「あれ?」

「どうかしたか?」

「今、章登が誰かといたような気がする」

 崎森と霊屋がモノレールの改札口から出て来るとき、ラウラ・ボーデヴィッヒと谷本癒子も水着を買いにショッピングモール『レゾナンス』に来ていた。

「誰と接触していたのだ?」

「んー。見てないから分からないけど中学の同級生じゃない? 霊屋とか安倍とか」

「うむむ」

「そんなに唸ってどうしたの?」

「章登を追うって水着を選んで貰うべきか、それで旧友との邪魔をしないか少し気がかりでな」

「でも、ここにいつまでも居るわけにはいかないと思うけど」

 今度の臨海学校で着る水着がないため買いに行こくという話を寮でしていたところ、ボーデヴィッヒが支給の水着で十分ということを言った。

 それに猛反発したのが話していた谷本。

 本人曰く、勿体ない。

 ボーデヴィッヒの年頃の女子ならおめかしするのは当然だといったのだ。それをドイツに居る元同僚のクラリッサ・ハルフォールに相談したところ谷本の言う通りと判明した。

 彼女曰く。

『ラウラ・ボーデヴィッヒはスクール水着で学校の水泳授業を受けているのでしょう? それでしたら変化を求めて他の水着の選択をするべきです。いつもとは違うあの子に崎森崎森の目もいくことでしょう。そして、いつもとは違うあの子はラウラ・ボーデヴィッヒだけではないのです! いつも通りの水着を着ていった場合崎森の関心はラウラ・ボーデヴィッヒにはいかなくなってしまいます!』

 と力説されてのことだった。

 なので、最近は自分に常識というものが備わっていないのを自覚したボーデヴィッヒは、自身に似合う水着を決めるために谷本に助言を貰うことにしてショッピングモール『レゾナンス』まで来た。

 途中、雑貨のブース展示の置物『木彫の熊』に釘付けになってしまった。

 ボーデヴィッヒの身長もある木彫の熊は、まるで体毛の1本1本が繊細に彫り込まれており、眼光はこちらを睨んで威嚇し大きく開けた口が今にも咆哮をあげそうで勇ましい。今にもこちらを襲ってきそうで本物の熊に見えてしまいそうだ。

 谷本は夜に見たら嫌だなと思う反面、展示品としては最高だと思った。

 このような緻密で迫力満点なものとして興味を惹かない者は居ないだろう。ただし、あまりの迫力から小さな子供が怖がらなければの話だが。

 ボーデヴィッヒは木彫の熊に怯えるような肝はなく、ドイツではそのような物を見なかったためもあり、興味を惹いている。

 何とかして買えないものだろうかと考えるが、『これは展示品であり買うことは出来ません』というプレートをボーデヴィッヒは恨めしく思っていた。

 そんなことがあってかボーデヴィッヒは崎森たちには気づかず、崎森たちも気づかずに行ってしまった。今から追って崎森に追いつけるか、そして水着を選んでもらえるか。

「確かにここにいつまでも居るわけにもいかんな。また会いに来てやるぞ熊五郎!」

 子供が気に入った人形に名前を付けるのと同じようなものだろう。製作者でもない通行人によって熊五郎と名付けられた木彫の熊は、安直なネーミングに抗議しているようにも見える。

「……五郎だと後4つくらいあるのかな……」

 迫力満点の熊が5体も並んだら壮観だろうが、それはそれで展示品のペースが無くなってしまうのではないかと懸念した谷本だった。

 

 

 

 霊屋と別れた後、崎森は水着売り場を案内板を見て探す。そして2階に表示されていたのでエスカレーターに乗って移動する。

 エスカレーターの出口付近にハワイでもイメージしたのか、派手なブース出展にはヤシの木や浜辺、後ビキニを着せたマネキンがあった。

 水着売り場は女性用と男性用に分けられて配置されており、比率は7対3で男性用は売り場の奥にある。今に始まったことではないが、女性は服装、流行に関心が強い。更に言うなら基本的な種類で男性用より女性用の方が多い。

 ビキニ、ワンピース、セパレート。それらの中にも紐の部分の結び目の種類が違い、スカート型やパンツタイプ、その辺を女性たちは気にしているらしい。男性? 基本的に下を隠せばいいため、面積がブーメラン型からサーフパンツ以外に面積は広がらない。

 むしろ、フリフリのレースや、女性のビキニのように紐で縛るのは反応に困ってしまう。売られたとしてもあまり買う男性はいない。

 そんなわけでフリフリのレース付きや、紐パンツのような物がある女性用水着売り場の中を突っ切っていく度胸を崎森は持っていないため迂回して横から入る。

 買うものは決まっていたため見つけるにも時間はかからず、灰色のサーフパンツを選び購入してさっさと帰えろうとした。

「そこのあなた」

 見知らぬ誰かから声を掛けられげんなりと気分を落とす崎森。

 女尊男卑。なぜかISは女性にしか動かせないという強みをどう勘違いしてそうなったか知らないが、今の社会では女性の方が地位が上だという認識が現在にある。

 確かにISが現れる前は女性の自衛官は狭き門とされて、軍隊の男女比は男性が多かった。

 だが、そこまで前の世界は男性が威張っていたとは崎森には思えなかった。

「………なんでしょうか?」

 崎森は嫌々に返事をする。

「そこの水着片付けておきなさい」

 見知らぬ女性が指を刺したところはワザと床に落としたのではないか、と思うほどに散乱している。

 崎森の本音はヤダである。しかし、そんなことを言っても相手は自分の傲慢さを気付かずに言い争いになってくるだろう。そんなので時間を潰すくらいなら素直に従った方が楽ではある。男なのに女性用水着に手を触っている変態と嘲笑を除けばだ。

 だが、幸いにハンガーには引っ掛けてあるらしく早く済ませそうではあった。

「……分かりま―――」

「他人にやらせるなよ。自分でやれよ。他人にやらせてばかりだと馬鹿になるぞ」

 しかめっ面で答えようとしたところ、第三者が見知らぬ女性に向かって非難を言う声が後から聞こえた。

 崎森はいきなりの介入者に驚き振り返える。

「よ。助太刀するぜ」

 助太刀どころか場を混乱させるだけであった。

「何あんた? 邪魔だからどっか言ってくれないかしら」

「あんたこそ人の邪魔をすることやるなよ。迷惑だろ」

 正論を言う織斑だが相手は自身の非を認めようとはしないだろう。見知らぬ他人に強制労働をさせようとする女王様気取りの人間なのだから。

「ふうん。そういうこと言うの。自分の立場理解していないようね」

 そう言って見知らぬ女性は警備員を呼ぼうとする。下手をしたら犯してもいない犯罪をでっちあげることで罪に問われてしまうのだが、崎森と織斑が事情聴取を受けている間に逃げてしまうだろう。

 痴漢なら2時間ほど調べられ解放されるだろうが、諸悪の根源がいないことからさらに時間も掛かってしまう。

「ちょっと待ってください。私の方からきつく言っておきますので、もうこのくらいでいいでしょう?」

 第三者の介入にまたも驚いてしまう。基本的に事なかれ主義で介入してきて来るとは崎守は思わなかった。そこには頭を下げている谷本がいた。

「あんたの男、趣味悪いわね。そっちの男も躾くらいしておきなさい」

 そんな勝ち誇るようにして立ち去っていく見知らぬ女性。水着は地に落としたままで整理しようとは思わなかったらしい。

 それを手に持ち服を掛けるボールハンガーに水着を掛けていく。

「崎森あんな奴の言うこと聞く必要ないだろ。それに抵抗しなくてはいはい言ってたら威厳とか失うぞ」

「悪いが威厳とかどうでもいいんだ。俺はさっさと終わらせて帰りたいんだよ。それよりも癒子が謝ってくれたことがありがたいね」

 不機嫌に織斑の言ったことにムキになることはない崎森。せっせと水着を片付けていると谷本も水着を片付け始めた。

「癒子も何やってるんだよ。あいつはここに居ないんだぜ。ほっとけよ」

「……あのね織斑君、厄介事を片付けるのに方法なんて沢山あるのに執着して、それだけ通すことは個人の自由だけど、他人に強要する方も同じくらい傲慢なの分かってる?」

 織斑は頭をかしげ不思議そうに顔をしかめた。

 

 

「何なのよあいつら」

 崎森に水着片付けるように言った女性は、カツカツと足音を鳴らしながら人通りの少ない通路を歩いていた。

 上から無能の上司に命令され内心に苛立ちをため込む日々。それを発散するために休日地位の低そうな男を見つけては、服従させることで感じる愉悦感を味わう。

 女尊男卑になって周りの男は女の視線を避けるようにして、オドオドしながら顔色を伺うのはかなりの満足感が得られた。

 それを楽しんで何が悪い。

 女の方が偉い社会なのにそれに抵抗した男のことも気に入らない。

 そんな心境から、オドオドする男はこういった人通りの少ないところを歩くという認識で歩き、見つけたらまた何か言いつけてやろうと思った。

「まったく、強い奴に媚びてればいいのよ」

「貴様は強くなどない」

 突然、そんな言葉を掛けられる。

 不意に掛けられた方に向けて抗議の言葉を発しようと思ったが出来なかった。 

 振り向いた先には首にあと数センチでも進めば、抵抗感もなく刺さりそうな鋭利な鉛色の物体。

 ナイフの先端が首元に向けられていた。

「ひっ」

 だが、悲鳴を発したのはナイフの脅威ではない。

 眼帯を付けており、赤く輝く1つの隻眼からジロリと睨まれる。

 体は小さく、中学生の子供に思う。なのにその眼から出る威圧感が心臓を握られているように萎縮した感覚を受け、顔から血が引いていく。

「次にあんなことをしたら、お前だけではなく身内にもナイフを突き刺して、自分の血が噴水のように流れる光景を見せてやる」

 まるで怒れる死神が宣言するように女性は思えた。

 ハッタリではない。ナイフを突き刺したくて堪らないように首元がチクチクとする。

「わ、わ、……かりました」

 なんとか声をつむぎだし、理解したことを伝えるとナイフを引いて懐にしまう。

 そして興味が無くなったのかどこかに歩いて行った。

 女性は命の危機を脱したことより、あの死神のナイフが突き刺さっていたらと身震いし、その場に崩れ落ちた。

 

 

「そういえばボーデヴィッヒさんはどこに?」

「ボーデヴィッヒも来たのか?」

 水着をすべて片付けた後、谷本がボーデヴィッヒを探し出す。

 その時、通路の方から近づいてくるボーデヴィッヒが姿を現す。

「もう、どこに行ってたの?」

「いや、そこで珍しい商品を見かけてしまってな、つい興味を惹いてしまった。心配させてしまったのならば謝る」

「別にいいけど水着を決めましょ? 章登もその……意見を言ってくれない?」

「ああ、その……章登も手伝ってくれないか? 私はどうもこういったことに疎くてな」

 彼女たちは水着を買いに来たらしく、すこしそのことを恥ずかしがっているのか声の調子がいつもと違う。

「だったら俺も手伝ってやるよ」

 そんなことを知らずに無粋に二人に言う織斑。

「織斑君はどっかいって」

「失せろ」

「な、なんだよ」

 二人の態度の変わりように戸惑う織斑はしり目に、腕を引っ張られ女性用の水着売り場に連れていかれる崎森。

「……いや、俺に意見を求められても困るんだが。と言うかそっちにはいきたくない! 行ってはならない気がする!」

 例えばの話。

 別に衣服を扱う店でブラジャーを売っているのはおかしくない。そこに入る女性もおかしくない。ただしそこに男性が入るのはいかがなものだろうか?

 男性が付けるものではない。プレゼントに送るにしても非常識と言わざるを得ない。

 ましてやそんなものをレジに行って買うとしたら定員から冷ややかな目か、白い目で見られるかの二択だ。

 別に違法と言うわけではない。ただし道徳的にイエローなど出すまでもなく、レッドカード立ち上げですごすごと退場コースである。

 そう、まるで「何をしでかすつもりだ?」と定員がこちらを注意して見ているような気がしてならない。

 そんなの崎森の誇大妄想であるのは明らかだ。だが、入いりたくない領域と崎森は頭の中で警告している。

「章登の意見が重要なの」

「そうだ。似合っているいないだけでいい。そう恥ずかしがることもない」

 だが悲しいくも、いくら鍛えているとはいえボーデヴィッヒは軍人経験の豊富な人物だ。対象を強制的に歩かせる術を学んでいる。具体的には引っ張っている方に動かないと腕が痛くなる捕縛法とか。

 そうして強制的に崎森は売り場に入る。そこで腕を離され解放されるがもはや逃げ場はない。水着を取る谷本は、ボーデヴィッヒの体に水着を合わせ着た時の格好を思い浮かべる。

「これとかいいんじゃない?」

「そ、そうだろうか?」

 谷本が持ったハンガーには黒のフリルが付いた胸部、薄い黒布で透き通ったスカート姿の水着だった。かわらしさとセクシーを混ぜて洗礼してると崎森は思った。

「あ、章登はどう思う?」

 そう言われ、崎森はそれを着たボーデヴィッヒの姿を想像する。恐らく肌と黒の布の対比が彼女の陶器の様に白い肌を目立たせ、普段は見れない鎖骨やへそ、肩、生足に映えると思った。

「かわいいと思うし、肌がきれいだから映えるからいいんじゃないか」

 それを見て照れくさいと頬を染めたボーデヴィッヒ。

 そのまま水着をレジに持っていきいつものようにハキハキとした声ではなく、今にも消えてしまいそうな声で「……これを」と呟く。

「……他にもあるのになぁ……」

 少し残念そうに言う谷本は他にも見繕う予定が外れてしまい、仕方なく自分の水着を選び始める。

「これかな、どう章登は思う?」

 谷本が取った水着はビキニにレースが入っており、紐で結んで局部を隠すタイプだった。しかし、水着は黄色で髪色が合わないと言うのが崎森の感想だ。個人的には色を変えたほうがいい、やめておいた方がいいと思い意見を言おうとしたとき横からまたしても介入してくる。

「いいんじゃないのか。似合ってるし」

「織斑君。せめて黙っててくれない?」

 水を差され暗い笑みを浮かべる谷本。不機嫌になった谷本は水着売り場の奥の方に向かっていく。

「なぁ章登。俺、癒子に何かしたか?」

「……なんでお前が谷本癒子を苗字ではなく、名前で呼んでいるんだ?」

「章登だって名前で呼んでいるじゃないか」

「そこまで親しかったか?」

「え? 友達の友達は友達だろ。変な奴だな」

 崎森は友達の友達は他人と思う人物であり、ましてや嫌悪感がある人物に馴れ馴れしく名前て呼ばれても不機嫌になるだけである。

 こいつ早くどっかいってくれないかなぁ。と崎森が思ったとき、なんでここに居るのか疑問に思い促す。

「お前だって用事があるだろ。そっち済ませてきたらどうだ」

「いや、それほど時間掛かるものでもないし、休日はみんなで一緒に過ごす方が楽しいだろ」

 嫌な奴と強制的にいっしょに居て会話をするなんて一種の精神攻撃に近い。織斑が楽しくてもボーデヴィッヒはすぐに不機嫌になる。比較的我慢が出来る崎森、谷本でも時間が経てば殺意を出す沸騰した薬缶みたいな物になってしまう。

 何とかして離れられないかと崎森が思った。

「そんなに水着を選びたいのなら私のを選べ」

 そんな時後ろから声を掛けられる。

 振り返ると織斑先生と山田先生が居た。今日、学園の外で何人の知り合いと鉢合せして狭さを感じさせる。

「崎森は谷本の方に言ったらどうだ?」

「……ありがとうございます」

 その場を離れる口実を作ってくれた織斑先生の救いの手を借り、崎森も水着売り場の奥の方へと向かう。

 ところでだ。

 女性用水着を売っている場所に男子高校生が立ち入りするのはおかしいと思うのと、ここで馬鹿に付き合わされ頭が痛くなるのと、どちらを選ぶか。

 少なくとも精神攻撃を受けるよりはマシだと谷本の方へ向かう崎森であった。

 

 谷本は2つの水着を手に取って鏡の前に立ち、体に合わせ見比べている。

 右に持っているのは緑や赤、青、黄色でカラフルな色彩を放つホルターネックで、南国の雰囲気が伝わってきそうな水着。一方は布色は白で縁が青のチューブトップで結び目が無くパンツ型でエネルギッシュな水着。

 そして、鏡に映ったのか振り向きもせずに崎森の方に意見を聞く谷本。

「どっちが似合っていると思う?」

「個人的には左」

「……他には?」

「え? ああ、似合ってると思う」

 一瞬何を聞かれたのか分からず、間が空いて返答してしまう。その謝辞は谷本にとっては喜ぶことではなく落胆してしまった。

「とって付けたように言わないでよ……。はぁ、……やっぱり素材が違うのかな」

 気持ちがへこんでしまい、ため息とともにお下げの髪も力なく項垂れているように見える。ボーデヴィッヒの時は即座に「かわいい」「きれい」と言っただけに自分には魅力が無いのではと思った谷本であった。

「いや、悪かった。さっきのカラフル水着は目立つだけで着ている本人のことを意識していねぇ。癒子は派手好きじゃないだろうから合わねぇと思う。対して白の方が落ち着きがありつつ活気があるからそっちを進めただけだって!」

「……そんなに熱弁するほどこっちを着てほしいの?」

 必死に弁解していたら疑惑の目を向けられてしまった崎森。どうすればいいと思考する中、谷本の頬が赤くなったのを見落としてしまった。

 

 

 

臨海学校の目的地である海岸に向かうバスの中、1年1組の生徒は到着するまでに隣の席と談笑したり、ゲームをしたりと和気あいあいと楽しんでいる。

 しかし、崎森崎森の隣に座っているのほほんはあまり楽しそうではない。

「ふぁ~」とため息としていたり、「ん~」と考え込んでいたりと珍しい。基本的にのんびりとした性格の彼女が陰気なことをするのは珍しい。もっとも、その陰気もぼんやりしている。

「どうかしたのか?」

「んーん~。なんて言うかねー。風邪でもないのに学校行事に参加しない理由ってー、そこまで大事なのかなぁって思ったの~」

「んー。まぁ行きたくない気持ちがあるという点では俺もそうだけどな。今時海ではしゃぐ年でもねぇし」

 目的地でのスケジュールは、1日目、自由行動。2日目、IS装備のテスト。3日目、アリーナ以外での海上飛行。

 それで、行動範囲を海近くに限定されている1日目の自由行動など、海で遊ぶくらいしかない。

 IS学園は海に囲まれた人口島だ。そこに居る学生なら、もう海の景色など見慣れているのになぜ海なのか。個人的には林間学校にして欲しいと思う男子生徒。

「女子の水着? ISスーツで見慣れておりますが何か?」

「それはあんまりだと思うよー。私たちの中には気合を入れて水着を選んだ人だっているんだから~」

「俺と織斑ぐらいしか男子はいないわけなんだが。というかね。女子がもう過剰気味な中に男子がぽつんと居残らせられるわけだぞ? 周りは水着で目のやり場に直接的に見ても気まずい中に半日いろというのがね? そんな中で気合い入れられても困るわけですよ。健全な男子としては」

「さっきー。もしかしてかなり期待している?」

「バカな。強く否定することが誤魔化しているなんて迷信だ。ただ水着姿だといつもより意識が言ってしまいそうで、やましい目で見られているなんて噂が経ったら嫌だというだけの話だ」

「語るに落ちたねー、さっきー。私は何も誤魔化しているとも、意識しているとも言ってなんて聞いていない~」

 のほほんの指摘で心臓が一瞬だけ止まる。

 崎森崎森は本心では彼女たちの水着姿に期待しているのだろうか?

 そして周りは水着姿の女子ばかりに期待している?

「いやいや。俺は流石にそこまでいかがわしくねぇよ」

 単純にISスーツのバリエーションを着ているだけなんだろう、と納得させようとしている時点でなぜそのような抗弁が出てきてしまうのかと崎森は愕然とした。

「さっきー。人間も所詮動物なんだよー」

 のほほんの指摘は頭では分かっていたが、少年の気恥ずかしさか必死にそれを否定していた。さて、思春期真っ盛り男子崎森章登の本能と理性、どちらが勝つか!?




めっさグダグダになりました。ごめんなさいこの話勢いで書いたに等しいので完成度は高くないと思います。

次は水着回かー。

織斑はもう、ウザキャラに変貌してしまいましたね……。原作一夏ごめん。でも、一応の理由はあるのよ。たぶん3巻のラストか束さんが出てきてすぐ発表になると思う。

ラウラが暴走しちゃった、章登にも同じことしていて成長しているのかな……それとも人間早々変わらないということなのか。

取りあえず遅れて更新した話がグダグダとなってしまい、すいません。

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