さぁ、この頃問題児転校生だったり、スパイの入学、退学騒動だったり、生徒の誘拐未遂事件に関わったり、ボーデヴィッヒとの邂逅だったり、四十院の新装備のテストをしていたりと何かと忙しい生活を送っていたわけだが、忘れてはいけないことがある。
ここはIS操縦者、もしくはISに携わる人材育成の学園だ。
簡単に言えば専門学校みたいなものだろう。だが、世間一般で見れば俺たちは高校生だ。
当然のごとく一般教科だってある。
つまりは……。
「今週からテスト期間が始まるが、放課後遊びほうけていると夏休みに泣くことになるから注意しておけ」
そう期末テストがあることを織斑先生がホームルームで告げた。
「…………………………………………どうしよう」
崎森章登は放課後の教室で絶望に暮れていた。
最初に言っておくと崎森章登は別に途轍もなくバカだとか、成績が最下位だとかではない。むしろ中学の成績表ではバラつきはあるが平均点以上を取っていた。無論不得意な国語、得意な理科などはあるが。
とは言えそれは普通の学生レベル。
この各国のエリートをかき集めた生徒たちには足元にも及ばない。
IS学園の期末テストはそんな中での競争になっている。
今のままテストを受ければ間違いなく下位になるだろう。まぁ、赤点を防げればいいと思うかもしれないが、先生方はエリートを対象にしてテスト問題を作っているのだ。
では問題。エリートなら解ける問題が普通の学生に解けるだろうか?
答え。解けるわけありません。
さらに言うなら中間テストがない分、試験範囲もかなりの範囲になってしまう。
そんなわけで崎森章登は今現在進行形で頭を抱えている。
「さっきー何をそんなに嘆いているのー?」
隣に座っていた布仏本音、あだ名がのほほんさんは見かねたように章登が頭を抱えるのを見て声を掛けてくる。
「俺は凡人だから夏休みが補習地獄直行期間になり変わりかねないって話だ」
「大丈夫だよー」
そう微笑みかけてくるのほほんは陽気な声でこう告げる。
「私成績上位だからいくらでも教えてあげるよー」
たれ目がいつも眠そうな印象を与え、声は飴細工のようにに甘ったるくのびて、制服は掌を覆うまでにだぼだぼと意図的に改造し着崩している。あだ名の通りのんびりした性格と思われるだろう。だが、外見に騙されてはいけない。
このような人物でも生徒会の書記であり、そこは対暗部の構成員がいるという。立場的には何とも奇妙なところに居る人物だ。
さらに特別的な措置を受けて入った俺とは違い、普通に入試試験を受けエリートとして入ってきたのだ。俺より成績が悪いということはないだろう。
ならば確かにのほほんに勉強を教わっても問題はない。実際IS関連を教えてもらったのだから。
部屋に入っても、寮の机は壁際に固定されており、教室の机も重く動かしたいとは思わない。なので隣に座れって教えられそうな所と言うと図書室の折り畳みテーブルの横幅が長い机の所にしようということになった。
「本音よ。待ってくれないか」
図書室に向かおうとしていた俺たちを引き留める声。
「章登は私の嫁なのだ。夫が嫁のお力になるのは当然だ」
未だ俺のことを嫁と認識しているボーデヴィッヒが勉強を教えたいらしい。
「ボーデヴィッヒさん。別に勉強を教える人を1人に絞る必要はないと思うんだけど」
「……なるほど。勉強会とは学生のイベントだったか? 癒子よ」
「……もうそれでいいかも」
癒子なりの指摘が入るがボーデヴィッヒの独自解釈が入って、イベント的な何かだと思っている。実際に勉強会は学生のイベントに入るのか怪しいところなので癒子は可としたようだが、もう何か諦めているような感じがある。
そんなわけで図書室に行く。
かなり多くの本棚と折り畳み式のテーブルとは仕切りで分けられており、資料を探す側と勉強する側とグループ化されている。
本棚は通常の高校と同じく小説や辞典の他に、工学科や技術開発、ロボット開発などの書籍がある。こうしてみるとIS専門学校というよりは工業高校と言った方が分かりやすいかもしれない。
そして、折り畳み式のテーブルに付属した椅子に座って英語を中心としてボーデヴィッヒが俺や癒子、のほほんに教えてもらっている。
軍人のボーデヴィッヒが英語を習わないはずがなく、発音も俺の様にカタゴトにはならず滑らかに発音する。
代わりに外国人のボーデヴィッヒが、癒子に国語の古典や文法の成り立ちについてのなど教わっていた。
章登の得意な理科、数学については3人ともやはり、IS学園の試験を受けて入学しているため、はっきし言って必要なく少し落ち込んだ。
そして、少し古典の解釈が疑問に思ったボーデヴィッヒが資料を取りに本棚の方に行く。
「ゐたり、などなぜぬの出来損ないになっているのだ? いでいいではないか」
「確か発音の問題だったか? ウィーとイーの発音みたいに」
「んむ。少し調べてみるか」
困惑顔で資料を取りに本棚の所に向かうボーデヴィッヒ。
本棚の中には源氏物語、古今和歌集などがあり、それの原文と翻訳文が載っている本を開いてみる。
独特な言い回し、なれりける、思うふとなど、日本語の漢字とはまた違った趣きがあると感じていた。
そう思ったときこちらに近づいてくる生徒がいた。
章登や癒子ではない。そちらに振り向き姿を見ると自分とは違うリボンの色。赤ということは3年の先輩がボーデヴィッヒに声を掛けてくる。
「こんにちは? ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんでいいよね? ちょっと時間良いかな?」
ストレートのショートの髪形と大きい瞳が活発そうだが、背丈は成長期としては平均よりも低いように感じる。それに声は疑問に思っているのか語尾が高くなっている。
「なんだ? というよりもどうして私がここに居ると分かった?」
「ちょっと手伝ってもらいことがあって教室に行ったんだけどいなくてね? だからクラスの人に聞いてここに来たの?」
「そうか……。その手伝ってほしいこととはなんだ?」
「シュバルツェア・レーゲンの技術がIS学園に提供されたことは知ってる? それで元々あった予備パーツで今レーゲンを作成しているの? で、完成に目途がついたから今度は操縦者を探しているの?」
前のVTSの暴走、積んだ責任にドイツが賠償としての技術提供をしたことはボーデヴィッヒも知っていた。
「それで乗っていた元代表候補生にデータを取って貰いたいと?」
「出来ないかな?」
「出来なくはないが、したいとは思わない」
確かに自分の得意分野といえばISの操縦技術、及び戦闘センスなのだろう。だが、あの暴走事件の後、ここで学び力以外のものを見つけたいと思ったのだ。
「私が今したいのは学ぶことであって、そちらの方面ではない。折角だが断らせてもらう」
「そっか? じゃあ他の人を当たってみないといけないね?」
少し残念な顔をした先輩が、図書室から立ち去っていく。
多分、他の生徒なら喜んで今のテストパイロットの話を承諾しただろう。
少し口惜しいとも思う。だが、古典の本を持って章登たちのいるところに戻っていくときに感じる物の方が大きい。
「今、桜城先輩がボーデヴィッヒの所に行ったけど何を話してたんだ?」
「シュバルツェア・レーゲンに乗ってくれないかという話だ。断ったがな」
「ええ! 勿体ないんじゃない? また代表候補生にだって戻れたかもしれないのに」
「今はそうなりたいとは思わん。こちらの方の問題を解決しなければならないからな」
そう言いながら古典の本を机に置いて読み始める。
今の私にISは必要ではない。ここに居る章登や癒子、本音の方と一緒に居たいと。
それから一週間後のテストの結果だが、簡単に言おう崎森章登は赤点を防げた。
「ふー」
各教科のテストを織斑先生と山田先生がホームルームに渡し終え、当然の結果と思っている生徒、点数が悪かったと嘆いている生徒、赤点は防げたと長い安堵の息を吐居ている生徒がいる。
改めてテストの結果を見てみる。
個人的にはこの学園ならそれなりに通用するのではと思うくらいには点数を取ったと思う。少なくとも中学のテストよりは点数はある。
「ところで今回の平均点だが1年1組は全教科で75点だ」
おかしい。俺のテストは前の学校では60点ぐらいが平均であったはずだ。今返されてきたテストはいつもより点数が多いぐらいだ。
これの意味するところは殆どの人たちが80点は取っているという計算にならないだろうか。
そして、平均点を下げたのは俺だけではない。
「赤点を取ったものは夏休み覚悟しておけよ」
それで体がぎこちなく動く男子生徒が1名。
なにやら冷や汗も掻いているらしい。
夏休み地獄補習期間いってらっしゃーい。
閑話というかなんというか取りあえず林間学校前のテストです。
よく考えるとIS学園の学生はエリートです。なら、普通の高校の平均点以上はないとおかしいでしょう。
無論平均点以下の人もいます。だけど最低で70点ぐらいでしょうね。
俺の時は平均点は60~70点ぐらいだったと思います。
まぁ、章登も国語は60と下切ってるでしょうけど……。
それでシュバルツェア・レーゲンの件ですが、まぁ組み立てて使うなら乗っていた人採用するのが普通ですよね?
ですけど、ラウラは断ります。自分には必要ないと、成長できてますかね?
まぁ、テスト自体なかったから仕方ないですけど織斑は赤点何個も取ってそうな気がします。最後のはいらなかっただろうか?