「……さて、どうすりゃいいのか」
俺にも飛び火した1週間後のクラス代表を決める試合に俺も参加することになった。目の前にいる頭抱え、俺をその試合に巻き込んだ厄介者、織斑一夏がいる。
「ほんとどうすりゃいいんだ。おい、織斑」
「巻き込んだのは悪いと思っているけどさ、章登はあんなにボロクソ言われてむかつかないのかよ」
「悪いけど織斑みたいに愛国心とかねぇんだ。それにオルコットが言っている事はあながち的外れでもねぇぞ」
「はぁ? 自分がサルとか言われてそれが正しい?」
「さっきまで参考書や教科書みて意味が解らないとつぶやいていた奴のセリフとは思えねぇんだが? 後、参考書を電話帳と間違えて捨てるとか本当にサルかと思ってしまうぞ普通は」
「うっぐ……それは……」
放課後の教室で男子2人を取り囲むように女子が居る。確かにここは動物園で、サーカスだ。俺らは見世物。観客は女子。一応同じ人間に属すはずなんだがな。
「ああ、織斑君、崎森君。よかったまだ教室にいたのですね」
山田先生が女子の壁を割り込みながら入ってきた。その手に持っているのは片方に書類、もう片方に鍵だろうか?
「はい?」
「なにか?」
「えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言って渡される。寮の規則事項が書かれた書類と鍵を俺たちに渡す。
ここIS学園は全寮制。生徒は寮で生活しなければならない。なぜかと言うと、例えば開発、研究部の人はその知識を狙われやすい。誘拐され持っている技術が悪用されない様、学園が保護している。確かに俺たちは狙われやすい。企業なり、テロリストなり、男性でISを動かせる事が分かれば女尊男卑の世の中も変わるだろう。
「俺の部屋、決まってないんじゃなかったんですか? 前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な措置として部屋割を無理やり変更したらしいです。……二人ともその辺の事政府から聞いていませんか?」
最後の方、俺達だけに聞こえるように織斑の耳の近くまで行き、織斑の席の隣に立っている俺に隠れるように耳打ちしてきた。
「君を保護する。といってホテルに監禁する事でしょ?」
「それは仕方なのない事だったと思います。自分達の守りやすい所に連れて行くというのは」
「わかってますよ。この部屋割だって仕方なかったんでしょ?」
「はい。……そう言うわけで、とにかく寮に入るのを優先したみたいです。一ヶ月もすれば用意できますから、しばらくは相部屋とどこかに泊めてもらうしかなかったので」
「……あの、山田先生、耳に息が掛ってくすぐったいのですが……」
確かに俺は立っていて離れているためくすぐったいなんて思わない。そんなおいしいシチュエーションなんて生まれてこのかた経験したことなんてない。なんというか織斑はラッキーシチュエーションに恵まれているようである。うらやましいな、おい。
「あっ、いやっ、これはその、別にわざとやっているわけではなくてですねっ……」
そこでカーッと顔を赤く染める先生。なにこの人かなり反応が面白い。
「いや、わかってますけど……。それで、部屋はわかりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備できませんし、今日はもう帰っていいですか?」
「あ、いえ、荷物なら―――」
「私が手配をしておいれやった。ありがたく思え。といっても生活必需品だけなんだがな。着替えと携帯電話の充電器があれば十分だろう」
「ど、どうもありがとうございます……」
麗しき姉弟かな、俺の家族は絶対にそんな事はしないと思う。特に義理の妹は。
「それと崎森、これを持ってけ」
そう言って渡されたのは寝袋であった。
「なんで寝袋?」
「ベッドの数が足りなくてな、それしか用意できなかった。まぁ、最初は寝づらいだろうが慣れるしかない」
「おい、織斑(弟)ベッドと寝袋、交換しようぜ」
「いや、俺も疲れているからベッドで寝たい。って、一夏でいいぞ、織斑じゃかぶっちまうし」
「……まぁ、そのうちにな」
なんでか名前で呼ぶって勇気いるよな。それだけ親しいってことになるだろうし。それにこんな決闘じみたことに巻き込んでくれて少々苛立っている。
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。寮の一年生用食堂で朝食、夕食をとってください。学年ごとに使用時間が限られている大浴場があります。けれど二人はまだ使えませんので個室にあるシャワー室を使ってください。」
「え、なんでですか?」
こいつもそれなりに女子に興味があるらしいが、まさか一緒に入りたいとは思わなかった。羞恥心とかが欠落しているのか? 俺は目が細くなり視線の温度が若干下がる。
「意外と大胆だな」
「え? なにがだよ」
「アホかお前は。まさか女子と風呂に入りたいと思っているのか。もしそう思ってるならみっちり今日社会ルールについて教えてやる」
「い、いえ、入りたくないです! 思ってないです! 結構です!」
「ええっ!? 織斑君、女の子に興味がないんですか!? そ、それはそれで問題の様な」
山田先生からの変化球が来た。いくらなんでもそれはない。やはり先生は病院に行くべきだと思う。妄想するのはいいがそれを言葉に出してしまうってどうなのよ?
周りで見ている女子達はその会話だけを聞いていたらしく、ざわつき始める。
「え、織斑君、男に興味があるの? なんて非生産的な」
「いえ、それはそれでありよ。でも相手ああいうのでぱっとしない奴が1人しかいないんじゃ」
「いや、ぱっとしない奴がイケメンに出会い惹かれあう。ストーリーは織斑君が崎森君を助けた所から物語は始まるのよ」
「うぉぉおお、みなぎってきた! 今月の内容はそれで決まりね!」
……えぇ。織斑×俺とか吐き気がする。俺は普通に女の子がいい。出来ればかわいらしい自立が出来てしかも気遣ってくれる人。ってか、あんたらも病院行ってきてくれ。いや、むしろ病院が来い。
「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。二人ともちゃんと寮に帰るんですよ。道草食っちゃだめですよ」
ええー。探検とかしちゃダメなの? まぁ、今日はいろいろあって疲れているから教本みて寝るとしますよ。
校内地図が靴箱の入り口に張ってあったりするのだが、各種部活の部室、ISの訓練や模擬戦を行うアリーナ、ISの整備室や開発室などいろいろあり想像が止まらない。やっぱSFみたいに何重ものモリターがあったり、強化ガラスで区切らせた実験室などもあるのだろうか。
まぁ、探検するよりもまず1週間後の試合にむけ力つけなければならないのだが。
「はぁー……前途多難だな」
「お互いきつい状況だけどがんばろうぜ」
「……まぁ、やるだけやってやる」
寝袋を抱え寮へと歩き出した。とりあえずお前の寝心地は高級ベッドには及ばねぇだろうが今日はありがたくお前に頼らせてもらう。
「1034……034……かなり端まで来たな」
一体ここの寮はどういう順序でどういう配置にしているのだろう。寮の外見を見てみたが、かなりでかい。そりゃ全生徒を収容できるだけの数にしないといけないのだから大きくなるのは仕方ない。しかし、どこかの高級マンションみたいにかなり広い。まぁ、それで相部屋になっているのかもしれないが。出来ればプライバシー尊重してほしいな。
あと、織斑と与えられた部屋が違った。男子の数が少ないのだからそこにまとめるしかないように思えるのだが、どうして別々にしたのか先生方なりに考えているのかもしれない。万が一に襲撃されて誘拐されそうになってももう一方が残ってればいいとか。
「ここか」
今日から自分が居候する部屋にたどり着く。
部屋番号を確認しノックを2回してから返事があるか確かめてみる。するとこちらに向って「ちょっとまっててー」と声がする。ドア越しに聞いたがどこかで聞いたような声だ。どこで聞いたのか思いだそうとするとドアが開かれ、答えが出てきた。
「……え!? 崎森!? なんでここにいんのよ!? ってか、あっち向いてろ!」
谷本癒子が出てきた。中学時代の友人であり、クラスメイト。しかし、今はIS学園の白を基調とし赤いラインが入っている制服ではなく。バスタオル1枚巻いた遭われもない姿だった。髪は濡れており、湿気を含んだ肌がつやっぽい。眼福……であるのだろうが顔は混乱した後、怒りを浮かべこめかみに眉毛が寄る。
言われた通りに反対側を向き何分か待つ。他に同居人が居るらしく、何やら話し声が聞こえるがさすがにわからない。
「もういいわよ。入りなさい」
「はい」
まだ怒っているらしく、声が固い。
部屋に入って大きなベッド2つに目がいきそこで珍妙な生物を発見した。黄色のフードが付いたパーカーを着ている女子が居るのだが、フードに動物を模様した耳となにかたるんだ目が縫い付けられ、かなりの虚脱感に見舞われる。
「あれ~? さっきーだ~」
よくよくフードの中にある顔を見てみれば教室での俺の席の隣にいる布仏本音だった。
「で、なんで私たちの部屋に来たの?」
シャツとデニムのホットパンツに着替えた谷本は不機嫌そうに尋ねてくる。いくら知り合いだからと言って肌を露見させる事に抵抗があるらしいが、今の恰好だって生足がまぶしいです。
「いや、渡された鍵の番号が1034だったんだけど?」
そう言うと、谷本は一度外に出て部屋番号を確認し、今度はポケットから鍵を取り出しそこに書いてある番号を確認し、さらに布仏の鍵番号を確認し、ため息をつく。そんなに俺と一緒な部屋が嫌か。
「まぁ、仕方ないね。なんで織斑君と一緒な部屋じゃないのか気になるけど」
「学校のお上の方で何かあったんじゃねぇの? 俺より織斑の方が人気高いし」
「わたしはさっきーが同室になってくれてうれしーよー。ふふふ、今夜はガンダ○考察、語りで決まりだぜー」
「ああ、布仏がどの位の知識を持っているか見せてもらおう!」
「のほほんって呼んでよ。せっかくのルームメイトとなんだから~」
「っていうか崎森、あんたそんな事している暇あるの? 一週間後には代表候補生と試合でしょ? 知識なり、技術なり磨かないとやばいわよ」
谷本が目を細め大丈夫かと問いかけてくる。大丈夫じゃない。大問題だ。
特訓と勉強が今の俺の課題です。
「出来れば教えてください。面倒とか邪魔になるとかでなければ仕方ねぇけど」
「仕方ない、ここは成績優秀な私が教えてしんぜよう」
「私も機械関連なら結構詳しいよ~。きっと役に立つこと間違いナッシングー」
「お手柔らかに」
教本を広げ、3人で談笑を交えながら知識を頭の中に染み込ませていく。
「そう言えばオルコットってどういう風に戦うのかわからねぇのか? 予備知識があれば対策とかできると思うんだけど?」
「モンドグロッソの世界大会の記録とかならあると思うけど、個人の戦闘ログはないと思うわよ? 代表候補生が使うISって実験機や試作機の意味合いが強いから国で情報規制とかされていると思うし、IS学園内でも専用機で戦うのは一週間後が初めてになるだろうからその時までわからないし」
「でもどういう武器使うかぐらいは分かるよ~」
教本から目を離しのほほんの方に顔を向ける。敵の情報、自分の情報がしっかり把握していれば、自分に何が出来て、何が出来ないのか。相手は何が出来て、何が出来ないのか。それらをわかる事で弱点を攻める事が出来る。
「え? なんでわかるの?」
「国ごとに兵器や機械には方向性があるように、ISにも方向性があるのです」
「兵器のコピペでアメリカは「必要なのはわかるが、なぜそこまで大量に作るかわからない」って感じで?」
「そうそう、イギリスだとエネルギー効率やレーザー照射機が発展してるの~。だからエネルギー武器全般、レーザー、荷電粒子砲、プラズマ、マイクロ波なんかのThermal Energy(温度エネルギー)系統の兵器になると思うよー」
「よくまぁそんな兵器を採用したなイギリス、確かあれってレーザー出すより、冷却機に電気回さないといけないんじゃなかったけ?」
「それはもう昔の話、今は液体窒素か何かの冷却材を使って連射すら可能なの。それに試作機とはいえ全く使えない武器を搭載するわけないじゃない。それにイギリスは島国だから海軍に力を入れているのかもしれないし、あれって海の水も冷却材代わりに出来るらしいわ」
そりゃそうだ。しかし、エネルギー兵器ならかなりわかりやすい弱点がある。
「確か湿度や熱対流、砂嵐なんかの環境の変化で分散しやすいんだっけ?」
「そう、それに弾の飛行距離減衰も大きいの。でも戦うアリーナは上昇距離が決められていてそれ以上高く飛ぶと強制的に負けになる。もしくは屋根を展開して屋根にぶつかることで阻止も出来るんだけど、そうなると今度は上の逃げ場がなくなっちゃうから難しいとこだよね」
「…………………なぁ、こういう作戦はどうだ?」
俺が考えた作戦を話す。素人の考えだし否定されるかと思う。しかし意見を言わなければならない。ここには自称優秀と自称機械精通者がいるのだから作戦にアドバイスが欲しい。
「それならエネルギー兵器は弱くなるけど下手したら自分も動けなくなるわよ?」
「それに残弾、周囲の状況にも気を配らないとだねー。それに決め手がないからもうひと押し何かあるといいんだけどー……」
「うーん」
どうやら着眼点は良かったのだが技術的に無理、もうひと押し何かが欲しいと言われた。それなら技術的に上げるのはIS操縦を身につければ一つは解決なのだが、決め手と言われると少し考えなくてはならない。
それに、一週間程度で自分がどれだけの技量にまで達する事が出来るのか。まぁ、付け焼刃でも頑張ってみよう。
「ISの操縦訓練は明日にして、今日は決め手を考える事にしますかね」
「いや、私たちも思い浮かばないわ」
「そうだね~。素人、知識が半端、対して熟年者、知識が豊富じゃどうしようもないね~」
ええ、俺はよわっちぃスぺランカーだよ。きっとレーゼー一発あたっただけで戦意喪失するだろうよ。平和ボケした高校生に銃撃戦しろとか土台無理話ですよっだ。
「だから劇薬が必要だと思わない? ゆーこー」
「そうね、でも劇薬って?」
「ふふふ、こんな時こそ頼れる先生!」
「……ごめん頼んでおいて何なんだけどいやな予感がするのは気のせい?」
「大丈夫、気のせいじゃないよ」
「もっと走れのろま! 亀の方が俊敏でしかも息切れなんてしないぞ! お前が頼んだ事なのだ! 気合いと根性入れろ! 玉無しが!」
「はぃぃいいい」
夕日が落ちかけ、空が紫色と赤、青と黒のコントラストを生み出している頃、俺は砂袋を背負い走っていた。
ジャージとメガホンを持ち、どこかの体育教師の姿をしているのが織斑先生。一年寮の寮長でのほほんが強い人に習うのが一番! と言う事で寮長室に出向いた。
それで、織斑先生が
「IS操縦の向上の仕方やテクニックや基本機動以前にお前は体力がない。ISは体の延長と言う感覚が一番合っている。だから体力をつけないと話にならない。ああ、お前は心が脆そうだからな。私も今暇だし、ついでに精神力も鍛えてやる。ん? 何をそんなに震えている? 貴様は私に頼みこんできた、ならば私も答えてやるのが教師の役目だろう?」
「はい、ありがとうございます……」
あの時の織斑先生は目を光らせ徹底的にしごいてやろうという目、どSの眼をしていた。
まぁ、そんなわけで織斑先生に教鞭を取ってもらう事にしたのだが、うん、約30キログラムの砂袋を背負ってのグラウンド無制限マラソン、そろそろ5周目に入る。正確な距離が解らないためよくわからないがたぶん一周5km ぐらい。
「ペースが落ちてるぞ! お前を応援してくれている二人に申し訳が立たないと思わんのか! もっと速く走れ! こののろまが!」
「はぁ、お、お、はぁ、っす」
返事も途切れ途切れになってしまい。足に針が刺さっているように痛い。辛い。けどやめられない。だってここでペース落としたら絶対殴られる。それに、周りで様子を見ている女生徒に侮られたくない。
「ああ、やはり織斑先生はわたしの女王様」
「あの子はさしづめ働きアリね。一生誰かにこき使われる立ち位置なのよ」
「そうね、顔もよくないし。せいぜいこき使ってあげましょうか」
「さすがにそれはやめましょう? それに織斑先生の奴隷は私がなるわ」
「ずるい! 優しくして入れ替わろうだなんて! 私も織斑先生の特別授業受けたいのに!」
「私だってはいりたいわ!」
「私も!」
「私だって!」
じゃあ走れ、話はまずそこからだ。
「そこの生徒達! 訓練に参加したいならとっとと走れ! グラウンド100周でも、1000周でも、時間がある限りは付き合ってやるぞ! ただし今やっているのは無制限ランニングだ。何時までも走ってもらうぞ!」
そう言われて飛び火するのが嫌なのか散り散りになっていく女生徒達。走っている俺はもう見えなくなっており気付かなかったが、それでも残っている生徒が居た。
谷本癒子と布仏本音であった。
「お前たちは走らないのか?」
「いやぁ、どうせ動けなくなると思うんで持って帰る奴が必要ですよね?」
「うん、なんだか舐められたくないって顔に出してるしねー」
「しかし、そろそろ寝かしとおかないと明日ガタが来るだろうな。教師としては授業にださせなければならないしラストにしようか」
メガホンを口に当て、どなり声の様な激励を飛ばす。
「そらラストだ! せめて最後ぐらい全力で走ってみろ!」
そう言われもっと速く走ろうとするが、全然スピードが上がらない。もどかしい自分の足に重りが、鎖が巻き付いているように重い。だが、走る。止まってしまったら流れが止まってしまい。もう走る事が出来ないようになってしまうと本能が教えてくれる。
そして、織斑先生が立っているラインにまで差し掛かったその時、こけた。もう足が限界だったようだ。立ってすらいないのに小鹿のように足が震えている。
「じゃあ、その袋は戻しておけよ? そして明日授業に遅れないように!」
そういって織斑先生は寮の方に向って歩き出す。白いジャージも闇に溶け、見えなくなってしまった。
残っていた二人が駆け寄って来る音が耳に届く。少し心配そうに眉毛をハの字に曲げ、膝を折る。
「大丈夫~?」
「盛大にこけたけど怪我なんてしてないよね?」
息を整えながら、少しでも口が声をだせるようにするが、呼吸困難な患者よろしく、口を大きく開け夜の涼しくなった空気を明一杯吸い込む。そして、2分ぐらいったった時やっと声が出せた。
「…………足は痛い、手は少し擦り剥けた、なんにも食ってないのに吐きそう、辛い、泣きそうになる、声をだすのもつらい、なんでこんなことやっているのかと疑問に思ってきたけど……まだ動ける」
そうだ、まだ動く。せめて砂袋を元の場所に戻し寮に帰り、寝袋に入る所までは行けるはず。じゃあ、後は実行するだけ。
「うん、がんばれ男の子」
「これからも応援するよ~」
その声を聞いただけで、ほんの少しだけ、力が出た。
「…………」
「ジー……」
声に出さないでくれ。
俺はベッドの下の床に寝袋を敷いて寝ている。谷村、のほほんのベッドに並ぶようにして寝ているのだが、目覚めた時に上から俺の顔をのぞき見るのほほんの顔が見えたというわけだ。俺の顔にはなにも付いていないはずだし、また面白くもないはずだ。
「えっと、なに?」
「んー。サッキーって寝顔すっごくかわいいなぁーって」
かわいい? 俺はかわいくないのは自分でもわかっている。鼻は低いしそのせいで少し鼻の穴が大きく見えてしまっていると俺は思うし、髪だってくせ毛だがウェーブが掛っているわけでもない、むしろくせ毛が寝癖と思われだらしなく見えるらしい。目だって釣り目でちょっと嫌な印象を与えてしまう。細目にすれば、ピエロっぽく気持ち悪く見えるらしいが。谷本に初めは冷たい印象を抱いたと言っていた。だから、かわいいとは思えない。
「……あ、今そんな事はないって思ったね~、えーと、これ」
そう言ってのほほんが見せたのは携帯画面。そこには目を閉じ、涎をたらし、口を半分に開けた間抜け面の俺が居た。
「これはかわいいじゃなくてバカっぽいって言うんだよ」
「ええ~? かわいいと思うのに」
そう思うのはのほほんぐらいだと思う。ほかの奴が見たら笑いがおこること間違いなしだろう。
「ん~。何してんの?」
谷本が大きく背伸びをして、こちらに気付く。そして、のほほんの携帯画面に目がいったらしく、ブッっと首と腰を曲げ唇をタコのようにして唾を出してしまった。俗に言うフイタという笑い方である。ほら笑われた。
「ちょっと、のほほんの携帯何それ、傑作じゃない!」
「うん、かわいいでしょ?」
「かわいいよりも前に笑いが……ごめん、堪えられそうにない。あははは」
「どうせ、俺はおかしな顔してますよーだ」
立ちあがって、まくら代わりにしていたカバンの中をあさってシャツやパンツ、制服の着換えを取り出す。そして、個室に付いているシャワー室に向って歩き出そうとしたところで筋肉痛で顔がゆがむ。
「どうしたの?」
「いや、今からシャワー浴びるから、ちょっとこっちこないでくれよ?」
「あんたの体なんか気興味はない、あるのは今日の朝食はどのような物になるのかと想像を膨らませるだけよ」
「あっそ」
気付かれなかっただろうか? いや別に気付いたからどうというわけではないのだが心配させたくなかったのかもしれない。本当に俺運動不足だよな。こんな体たらくでISの操縦が出来るのか疑問が出てくる。
「痛そうだったね……」
「そうだけど仕方ないよ。ISを操縦するって大変なんだもの。下手に手を抜いたり、甘やかしたりしたら自分が危なくなるんだよ」
「うん。だから私達でサポートしてあげようねー」
「わかってるわよ。私達にかかればやせ我慢する男子も一流の操縦者に出来はず!」
「そのいきだー。おー」
「おーい、章登こっちだ、こっち」
寮の食堂で織斑が手を振りながらこっちに来いと言っている。しかし、隣に座っている篠ノ之? が俺を睨みつけてくる。こっちくんなと今にも言ってきそうである。無視しようとしたら、織斑が一度席を立ちこっちまで来て、一緒に食おうぜとかほざき出した。そうして欲しいなら隣人をどうにかしてほしい。
しかたなく俺は織斑の席の隣まで移動させられ、そこで食べるしかなかった。
「しっかし、ここは俺達を珍獣か何かと勘違いしているんじゃないのか?」
「人間を動物と定義し、かつ男でISを動かせるとなれば珍獣と思われても仕方ないと思うんだが?」
「いや、俺たちは人間なんだぜ? 珍獣扱いは嫌だろ?」
「日常化すれば織斑もこの学園に溶け込めるんじゃないか?」
「溶け込むまでに、頭と胃が痛ぇよ」
「ってか、お前の朝食サンドイッチだけじゃないか。ダメだぞ、朝に食べないと昼間で力が湧いてこないからな。ほら鮭の切り身やろうか?」
「洋食に和食は合わねぇだろうが。後、喉に通りやすいもの選んでいるんだよ」
サンドイッチを口の中に放り込み何回か噛んだそれを、お茶で胃に流し込む。うん、実に速く食べる事が出来る。そう言う風に次々と胃袋の中に何かを詰めていく。本当は何も食べたくないほど昨日体力を使って虚脱感に見舞われていたのだが、さすがに何も食べないでは本当にぶっ倒れてしまう。
「おいおい。そんな食べ方よくないぞ。チャンと噛んで食べろよ」
「時間があったらな。後お前は俺のかあちゃんか」
なんか、こいつの感性は年寄りくさく感じてしまう。きっと、趣味は盆栽を育てる事なのだろう。いや、さすがにそれはないか。
「……一夏、私は先に行くぞ」
「ん? ああ。また後でな」
途中から俺の介入が気に入らなかったのか、食事を済ませた篠ノ之はせっせと席を離れ食器回収の棚にお盆を載せ立ち去っていく。その後ろ姿は不満オーラ、私怒ってますよと雰囲気をかなり分かりやすく表していた。
「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よくとれ! 遅刻したらグラウンド十週させるぞ」
それまで、俺ら(とくに織斑)を観察していた女子達が時計に目を向け授業開始時間がせまっていると自覚し、急ぎ出した。俺のように味噌汁や、お茶で強引に流し込もうとするやつもいるくらいだ。
「じゃ、お先」
「おいおい、薄情すぎないか」
「朝っぱらからグラウンド10周もできねぇよ」
そう言って俺は、部屋に戻り、鞄に教本、ノート、筆記用具を急いで入れ、忘れ物がないか確認し、教室に急いだ。
「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役目があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ―――」
「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、体の中を弄られてるみたいでちょっと怖くて心配になるんですけども……」
谷本がやや不安そうな顔で尋ねる。確かに俺が最初に触れた時、無理やり動かす知識を植えつけられたとも感じる。
もしかして、最初に触る時に情報をISから与えられているから動かせるのかもしない。男性の大多数は伝導率の悪い回線のように繋がりにくく、織斑や俺が特殊な体質を持っているだけなのかもしれない。
「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出るということにはないです。もちろん、自分に合ったサイズのものを選ばないと、型崩れしてしまいますが―――」
その時、俺と織斑が目に入ったのか一度考え直し、数秒おいてからみるみる顔が赤くなっていき、しどろもどろになってしまいあたふたと慌ててしまう。
おっとりした人が慌てるとなんだか必死に逃げる小動物を連想してしまい、嗜虐心を刺激される。いや別に苛めたいわけではないのだが。
「え、えっと、いや、その、お、男の子はしてないですよね。わからないですよね、この例じゃ。ええと、成長して靴を買い換えなきゃいけないって言えばいいのでしょうか?」
山田先生は胸の前で腕組みをし、俺や織斑に胸を見せまいと必死になる。しかしむしろ服で隠れていない胸元からの谷間が一層深くなったように思えるのは気のせいだろうか?
「えっと……大丈夫だと思います。だから先生授業の続きを……」
「は、はいっ。それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話―――つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例してIS側も操縦者の特性を理解しようとします」
AI(人工知能)があって最適化したデータを作り部品を専門の機関で作ってもらう、とかではなく文字通り、ISが最適化し外見の装甲が変化する。その所がわからない、ISの装甲ってターミーネ○ターに出てきた敵の液体金属だったりするのだろうか? それ、後で先生に聞いてみよう。
「先生ー、それって彼氏彼女のような関係ですかー?」
「そっ、それはどうなのでしょう? 私には経験がないのでわかりませんが……」
マジでか。顔が悪い、ブスでもない、かわいい、小柄で頼りなく守ってあげようとしそうな人が出てきても良さそうなのだが。いや、山田先生の性格が男と付き合いたくないと思っているのかもしれない。気弱そうだから、何かされそうで不安になるとか。
しかし、周りは山田先生がうつむき顔が赤くなっているのを必死に隠そうとするのに対して、きゃきゃと恋愛話で盛り上がっている。年下の子と離れていても電話で連絡を取っているだの、休みに時々会いに行く予定だの、リア中爆発しろ。と条件反射的にだが思わずにはいられない。
そんな会話を途切れさせるように予鈴がなる
「では、次の授業では空中におけるIS基本動作をやりますからね。」
ここIS学園では俺が昔通っていた小学校のように担任が基本的なことを教えるらしく、理科のような実験が必要な実技、特別科目以外は担任が行うらしい。
だがしかし、小学校みたいに先生に教えられるだけではわからない部分も多い。そのためもう一度教本を開き読んでみる。織斑のほうは女子が詰めかけ質問攻めにあい困っているようだ。
「すげぇ元気だよな、女子って」
「ん~。誰だって興味のあることには積極的に知ろうとするものだよ~。で、空を飛んでいるときのイメージって基本的には角錐をイメージさせてそれを自身に例えて、動かしていくっていうのが一般的だけどー。ほらー矢印が動くのと、ただの丸が動くのとじゃ~スピードがおんなじでも速さが違うと思うでしょ~?」
「そういうものなのか? 俺の中じゃジェットエンジンみたいに点火して一気に駆け抜けるとか、蝶のようにヒラヒラ舞うとかっていうのがあるんだけど」
「まぁ~、自分がやりやすい方向でイメージするっていうのがいいのかもね」
俺のほうは、女子なんて誰も来ていないため質問や、まだわからないところをのほほんに聞く事ができる。ジェスチャーや談笑を交えながら聞けている。しかも性格や、容姿が癒しキャラのように誰かに接するだけで心が軽くなり、安らぎも得られる。ただし、時々動く髪留めの黄色い鼠が疑問になって仕方がない。小型モーターでも内蔵しているのだろうか?
「なぁ、のほほん。その髪留めって何かしらの機能とか付いていたりとかする?」
「えー? 特殊な機能とかないよー。ただかわいいから身に着けているだけ~」
それは嘘だろう、だって今会話しているときもまるで痙攣しているような小刻みがあったし、それにのほほんの声に反応するように動いている。気になって仕方がない。誰だって不思議なものがあったらそこに興味が出てくるだろう?
そうしているうちに休み時間が過ぎ、織斑先生、山田先生が教室に入ってくる所で、俺と織斑、オルコットの一週間後の試合について説明を受けた。
「ところで、織斑、崎森。お前達のISだが準備に時間がかかる」
「へ?」
「学園の訓練機使えばいいんじゃね?」
「いや、データ収集用の専用機を用意しているらしい。しかし同時に2機も専用機が用意できないため適性が高い織斑が専用機、崎森は学園の訓練用ISにデータ収集機を付け専用機にしてもらう」
「データ収集を目的にしているって、なんて言うか戦闘能力がなさそうなんですが?」
「その辺は問題ない。小型のUSBメモリーくらいに抑えるらしいからな」
「???」
織斑は俺達の顔を見るために後ろ前を交互に見ているが、何やらわかっていないらしくアヒルのように口を開け、困り顔でいる。それに、俺たちに専用機が与えられる事が驚きなのか、嫉妬なのか、教室中が騒ぎ始める。
「せ、専用機!? 一年の、しかもこんなに早い時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出るってことよね? 支給金いいんだろうなぁ」
「まぁ、データ収集じゃ仕方ないよね。特別な措置ってわけだし」
「あーあー、私も専用機早く持ちたいなー」
「専用機を持つ事ってそんなにすごい事なのか……?」
「織斑君、ISに使われているコアが467個しかないの。で、専用機っていうのはそのコアで動くから本当にすごい人、エリートぐらいにしか与えられないの」
「しかも、特殊で珍しい金属でできているらしくって、コアの発見者でありISの開発者の篠ノ之博士も全貌を把握していないブラックボックスらしいよ。それに10年間、似たような金属を作る事が出来ても、まだISのコアの様には出来てないらしいけど」
「加工も篠ノ之博士くらいしかできないらしくて、今は各国家、企業、組織、機関で割り触れられているコアを研究して解読していくしかないの。更に言うならコアの取引もアラスカ条約で禁止されているらしいの」
ここで引っかかる事が出てきた。コアの467の数字を国家の193に割り振ってみるとあら不思議。一国家2.4の数字が出てくる。こんな生産性がない兵器が世界に復旧、採用されるはずがない。
「これって先進国が多く保有してるんだよな?」
隣にいる本音に聞いてみる。そうでもしなければ国の防衛力として維持できない。最高スペックの機体があったとしても、運用、コスト、整備性、維持能力がなければ話にならない。
例えば速い、固い、凄い火力を持ってます! ではただのチートだ。速ければ速いほど、重いならば重いほど、ふざけ威力を持つなら、それら使われる燃料は急激に消費され、部品は劣化が激しく、更に修理するのに専門の機関に行かなければならない、では運用性がないし金を喰らう。だったら別にISでなくともいい。兵器には過剰性能《オーバースペック》は求められない。目標を達成する性能だけでいい。無駄な性能は金を落としてしまうだけだ。
「うーんー。正確な数字は分からないけど大抵そうだね~。資金面の問題もあるし」
「それでも、訓練や防衛に使うって言うともっと数が必要なんじゃねぇの?」
「今じゃなんとかISのエネルギーを溜められる合金ができてIS学園の訓練機に使われてるよ~。でも、それでも生産数が少なくて、エネルギーをためておくだけで、1時間しか起動できないんだ~。しかもIS全体を量子化して待機状態にしておくことが出来ないんだよ~。せいぜい武器5つくらいを収納しておくことが出来るくらいなんだよね~。」
ISのコアから何かしらのエネルギー(シールドエネルギーや量子化を可能とするエネルギーなど)が出ており、最近になってそのエネルギーを溜めておく金属が出来たがそれも、ISのコアをつかったISとその金属を使ったISとでは劣化している。
ISのコアは発電機と解釈すれば、劣化ISでも兵器としての運用が出来る可能性も出てくる。
現在は、ISのコアから発生されるエネルギーを特殊な合金にどのくらい貯めておけるか、ISのコアの複製が最優先されているらしい。
誰だって未知のエネルギーって聞くと冒険心がくすぐられるのだろう。
「あの、先生。篠ノ之さんて、もしかして篠ノ之博士の関係者なのでしょうか?」
そう言われてクラス全員が黒の髪をアップテールにした目つきの鋭い窓際にいる女子、篠ノ之を見る。しかし聞き耳は先生のほうに向けみんな注目していた。
確かに篠ノ之なんて名字はめずらしい。妹だろうか?
「そうだ、篠ノ之はあいつの妹だ」
やはりか。と思ってそこで終了ではないらしく、驚きと、好奇心の声がクラス中に響き渡る。
「えええーーー! お姉さんなの!?」
「篠ノ之博士って今行方不明で世界中の政府や企業が捜してるけど、連絡とか取ってないの?」
「やっぱISのことについて篠ノ之博士から何か聞いてたりする?」
「篠ノ之さんも天才だったりするの!? 今度ISについて教えてよ」
「あの人は関係ない!」
それまでの喧騒がいやでいやで聞きたくないらしく、そんな会話が続かないように大声をあげる。質問していた女子たちは金魚の目のようにぱちくりと目を開けて驚いている。
「……大声を出して済まない。だが、私はあの人じゃない。あの人のことも何も知らない。教えられることもない。私を天才の妹だと思わないでくれ」
そう言って、篠ノ之は不貞腐れたようで顔を窓の外に向けてしまった。女子たちは盛り上がっていたところでいきなりのことが起きて少し混乱し、不快な顔をしたが、次第に興味がなくなったのか、事情を察したのだろうか、教卓のほうを向き始めた。
優秀な姉と比べられたらそれは嫌にもなるだろう。そのせいで、クラスからのけ者にされたり。非難されたりしたかもしれない。そうなった元凶を嫌うという感じなのだろう。
「さて、授業の再開をするぞ。山田先生、お願いします」
「は、はい」
そうやってなんだか落ち着かない、まるで好奇心や不快な空気が混じり合う様な教室で授業は再開された。
午前中の授業が終わり、午後の授業に向け昼食を摂るために弁当をカバンから引き出す者や、学食を売っている食堂に向かう者、が教室から出ていく。俺も食堂に向かおうとしたのだが。
「やべぇ、財布忘れた」
そう、財布を忘れてしまった。それは死活問題だ。急いで部屋まで行って取ってこなければならない。
「さっきー、学生証見てないの?」
「学生書? 入学式に入る前に渡されたこれのことか?」
そういってカバンの中に放り込んでおいた赤茶のメモ用紙サイズに天使を象って盾形に収まっているエンブレム、校章が貼ってあるやつを取り出す。
「うん。その23ページ目に『学校内における学費、教材、最低限の生活用品、食事、研究、維持費は日本政府、協定参加国が援助、資金を出す』って書いてあるよ~」
確かに書いてあった。つまり俺は日本やほかの国の税金で食っていけるということなのか。大丈夫か日本、特に財務省。まぁ、IS学園には技術公開義務があるからそれを使って国益守っているのかもしれんが。
「とにかく、ただでご飯が食べ放題なの~」
「神経図太いよのほほん」
「そう? むしろ世界を支えていく人材を育てていくんだから、優遇されても問題はないんじゃない?」
「谷本は心臓に毛が生えているだろうな」
「ひどっ、若き乙女に向かってそれはない」
「その表現はないね、さっきー」
二人の視線の温度が何度か下がって、俺の体を刺す。痛いです。
「章登一緒に食堂に行かないか?」
「ん? ああ、いいけど」
織斑もまだ残っていたらしく、食事に誘ってくる。まぁ、男子俺たちしかいないし、誘いやすいのだろう。
「他にも誰か一緒に行かない?」
と織斑が他の人を誘ってみる。ここで言う他の人っていうのはクラスメイトなんだが、女子に声かけるって結構勇気いらないか? 今日昨日知り合ったクラスメイト、しかも女子に声かけるのって。織斑ってフレンドリーなやつなのだろうか?
「はい、はいはいー!」と隣ののほほんが生きよい良く手をあげ立ち上がり
「行くよー。ちょっと待ってー!」と谷本も同意し
「お弁当持ってきてるけど行きます!」と……誰だろう? 鏡斑ナギさんだっけ?
とすごい人気っぷりだ。例え俺が同じように誘っても誰も来ないだろう。
イケメンか! そんなにイケメンがいいのか! となんだか悔しくも悲しい気持ちになってしまった。というか谷本ものほほんもイケメンの織斑がいいらしい。なんかすげぇ裏切られた気分。NTRた男の気持ちってこんな感じ? いや、付き合ってないけどさ。
「やっぱりクラスメイト同士仲良くしたいもんな。な、箒もそう思うだろ?」
と隣に座っている篠ノ之に声をかける。しかし、話しかけられている篠ノ之は鬱陶しそうに声を出す。
「……私はいい」
「まぁ、そう言うな。ほら行かないと時間なくなるぞ。立て立て」
「だから、私は行かないと―――う、腕をつかむな!」
そこで、織斑が篠ノ之の腕をつかみ強引に立たせる。それ今の女尊男卑の世の中じゃそれだけで痴漢だの誘拐されそうになっただの騒がれるんだぜ。まぁ、交番所で説教か慰められて終わるんだけど。前に肩にぶつかっただけでなんかガミガミと怒鳴られたことがあったが、「それなら警察行きましょか」と言ったら「そこまで時間ないし行ってもどうせあんたが悪いんだけど」とか言って急いでその場を離れた人とかいたのだが、単にあれはイライラをどこかにぶつけたかっただけだと思う。
「警察」の一言で大抵はこちらが悪くない場合は相手が下がってくれるので覚えておくといいよ。本当に警察呼ばれて困るのはあちらでもあったりする。最近の技術進歩は凄まじく、その人の手汗が誰なのかすらわかる。本当に痴漢していたのならその人の汗跡が多く残っているはずなのだから痴漢程度はすぐにわかる。ただし時間が2時間ほどかかってしまうけど。
男性の諸君。って何俺は回想しているんだ?
「なんだよ歩きたくないのか? おんぶしてやろうか?」
「なっ、話せ!」
織斑が言った言葉は挑発にも聞こえてしまう。そしてその言葉をそう受け取ったのかは知らないが、羞恥心か、怒りか、顔が赤くなる篠ノ之。そして織斑の手を引きながら肘を織斑の胸に当てた。その衝撃で織斑は倒れ、床の上にしりもちをつく。
その音で普通に会話をしていたほかの生徒たちが織斑、篠ノ之のほうを見る。しかし、織斑は気にしないらしく、いつもと同じような声を出した。
「腕あげたな」
「ふ、ふん。こんなものは剣術のおまけだ。おまけに負けるお前が弱くなったのではないか?」
そんなことを言っているが、その前に暴力振るう女ってどうなのよ? いくら鬱陶しいといっても。まぁ、怒ることを言った織斑も悪いんだが。
「えーと……さっきー」
「私たちやっぱり……」
「遠慮しておくね……」
どうやら、さっきの事で怖じ気たらしく、のほほんは早く行こうよと視線を俺に向けてくる。俺は織斑に視線を向けると、なんだか済まなそうな顔をしていたので食堂に急ぐことにした。
「本当に無料なのか」
「そうよ、無料よ、そして食べ放題なのよ」
「私は和食セットー」
「私は海鮮丼にしようかしら」
「じゃあ、俺は二バレラ定食」
生徒がそれぞれの食事を自動販売機のメニューボタンを押し、食券をカウンターの上に乗せる。かなり人が多く食事が出てくるのに長くかかると思っていたのだが、そんなことはなく5分足らずでお盆に乗せた食事が出てくる。ちらりとカウンター越しに見える厨房を見るとかなりの機材とスタッフがいることがわかる。どんだけ金掛けているんだ?
「えへへ、まずはご飯に味噌汁をかけまーす」
まぁ、九州地方での食べ方でねこまんまと言う手間いらずの食事だ。何もおかしいことはない。
「そして、卵と海苔を入れ混ぜ合わせまーす」
……ご飯にかけたりするものだから何もおかしくない。しかし、茶碗の中はかなりの泡や黄褐色のご飯、粘り気でなんだか気持ち悪い。
「最後に」
「……何を入れるんだ?」
「サケの切り身を投入~」
まさかサケ自身もこんな混沌化した茶碗に乗せられ、はしで身を砕かれ、掻き混ぜられるとは思いもしなかっただろう。哀れすぎるぞサケ。
「……なんか私食欲なくなってきた」
「……俺はサケがかわいそうになってきた」
「ぐりぐりぐ~り~」
まぁ、人の食べ方はそれぞれか。
「……ねぇ、そこのあなた」
「?」
食事をしている途中で突然声をかけられた。
振り向いてみると茶髪でショートなくせ毛の外側に跳ねた髪形をした女生徒がいた。リボンの色が赤色なので3年生ということがわかる。瞳が特徴的で大きくクリクリしていてチワワやリスなどの愛玩動物の人なつっこさやかわいらしさの印象を与えているが、何か強張っており、失望をしているような、前のほうがよかったような、口を四角にして目を横にずらした。俺の顔を見てからである。
「やっぱりさっきの方がよかったわね」
「いきなり何を言っているのかわかりません」
「さっきの男子にISのこと教えてあげるっていった手前、もう一人にも声かけないといけないって他の子が言っただけ」
多分、織斑目的で声をかけたのだが断れてしまったのだろう。
「で、ISの事教えてほしい?」
「操縦の事なら教えてほしいです」
「え、私たちは用済み!? そんなに新しい女がいいのね!」
谷本が驚いた顔をして俺に顔を近づける。ちょっとつばと食べ物が付着したんだけど。
しかし、ワザと言っているだろう。後半からその眼はからかってやろうという風に少したるんだ。
「違うって、ISの知識は教えてもらってありがたいけど俺はISの操縦技術は実際に乗ってやらないとダメじゃねぇか」
「まぁ、そりゃそうだけど」
なぜか谷本は口をとがらせたが、俺にはなんで不機嫌になるのかわからなかった。
「はぁ、あっちのこの方が箔がつくんだけどなぁ」
箔? 織斑のネームバリュー利用しようとしたのだろうか? まぁ、俺は昨日、織斑先生にしごかれ、情けない姿をさらしたから女子内の好感度パラメーターは下がっているのだろう。
「とりあえず放課後教員室前に来なさい。訓練機の申請書出さなきゃいけないんだから」
そう言って去っていく先輩。俺に教えることは不本意なのだろう。その足音は不機嫌そうに大きく鳴っていた。
「ま、織斑の何を利用しようとしていたのかしらねぇけど、こっちはこっちで教えて(利用させて)もらいましょうかねぇ」
「さっきーって私たちより神経図太くない~?」
失礼なことをのほほんが言っているがギブアンドテイクと言うやつだ。……あれ? 違ったけ?
3/27妹→義理の妹に変更