IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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第27話

 ハニートラップって知ってるか?

 女性スパイが異性と性的関係になることで懐柔、脅迫することで機密事項を獲得する行為だ。男性のスパイでも事例はあるらしい。

 言葉の意味は甘い罠。

 性的行為のどこが甘いのか疑問だ。

 暖かい罠。ウォームトラップの方が分かりやすい。

 だって、人の肌は仄かに暖かく唇とて例外ではない。

 経験して分かったことだが、ファーストキスはレモンの味などしない。むしろ、唇の暖かさや柔らかさに意識がいく。突然だったため味を確認することは困難だったが、印象に残っているのはそれだけなので間違ってはいないだろう。

 故にハニートラップも味覚では甘くはないのだろう。

 そして、俺こと崎森章登は世にも珍しい男性でISという兵器(今は戦争なんて人が死ぬことはやめようぜ、ということで出来たアラスカ条約で健全なスポーツで勝負しましょうということで落ち着いた機械)を動かすことが出来る。

 以前まで動かせるのは女性だけという認識だった。それを俺が変えてしまった。

 国家、企業はその秘密を知りたく他の男性でISを動かせるかを調べた結果、織斑一夏という例外も出て来たがそれ以降は音沙汰がない。

 さらにこの織斑一夏は美人の幼馴染たちが同じ学校におり、しかもクラスメイトの方はISを初めて作った開発者の妹らしく、注目度が高い。

 またモンドグロッソと呼ばれるISの競技で優勝したという栄光を与えられた姉の弟。

 そんな人脈に恵まれたような人物と接点を持てばその人たちと関わる機会が増えるということだ。

 ダメ押しとばかりに顔が整っており、一見は好青年に見える。ボーカルグループに混ざっていても違和感はないだろう。

 ……ただし、性格はどこかおかしく人の話は聞かず迷惑行為をする問題児でもある。

 対して俺は数か月前まで普通の人で、大企業の息子とか、政府関係者と縁があるとかはまったくない。

 寝癖はどうやっても整えられずだらしない髪形をし、目が少し釣り目で目つきが悪い印象を与え、口が大きく鼻が低い奴はそんなことをする気にもなれないだろう。

 そしてそんな顔で、精一杯の笑顔を相手に向けるとピエロみたいに見えるらしい。

 印象を与える笑顔がこれなのだ。今の世の中の女尊男卑では基本的に避ける傾向にあるだろう。

 つまり、俺にキスしてくるような奴は基本的にすべてハニートラップなのだ!

 ……いや、ハニートラップとは言ったものの何が目的で自分に近づいて来るかが分からない。

 精々、男性でISを動かせる秘密ぐらいだろう。

 もしくは、今現在学園から借りているIS『ラファール・ストレイド』や、企業『みつるぎ』からテストをお願いされたマルチランチャーぐらいだろうか?

 

 そんな思考がぐるぐると頭の中を回るうちにこの学園でモテない方の男子、崎森章登は目の前の少女と言えなくはない背丈をしたラウラ・ボーデヴィッヒに、何も言うことが出来なかった。

 考えすぎての思考の混乱。

 まるでパソコンの処理速度が追い付かずフリーズでもしたかのように動かない。

 同じような症状はこのクラスの生徒殆どに当てはまり、まともに機能していない。

 混乱から抜け出すことは出来ず、ホームルームが始まり担任教諭、織斑千冬。副担任山田麻耶が教室に入ってきて、生徒たちに席に座るように指示を出す。

 それによってやっと動く教室の空気。

 放心状態から大半の人は回復し、ボーデヴィッヒも席に座る。

 一方突然の美少女のキスをされた崎森章登はキスして来たボーデヴィッヒとの行為に、訳が分からず混乱したままであった。

 しかし、一方でボーデヴィッヒに入れ知恵をしたクラリッサの思惑通りとなった。何せ授業中も崎森章登は思考を切り替えられずにラウラ・ボーデヴィッヒに関することしか考えられなかったのだから。

 

「で? どういうことだ?」

 昼食を取る時ボーデヴィッヒも一緒にと突っかかて来たのでそこで事情を聞く。

「? 何のことだ嫁よ」

「その嫁って言葉だよ! なに? いつ俺は女になってお前と結婚したことになってるんだ!?」

 さも当然のように嫁と言うボーデヴィッヒは不思議そうに俺を見つめてくる。

「日本の風習では気に入った相手を『俺の嫁』にするのだろう?」

「そんな日本の風習あって堪るか! あったとしてもオタク文化(幻想の産物)だ!」

「? 日本にある文化ならそれは風習ではないのか?」

 日本語って難しいね。

 実際に外国で日本のイメージって何? って質問があったら、桜、富士山、IS、アニメの印象があるだろう。そのくらいに日本のオタク文化というのは世界に浸透している。

 というのも表現の自由でそれなりに規制が緩く、ジャンルが幅広いから学園もの、日常もの、戦闘ものなど面白おかしくしている。

 確かに日本の文化とは言えなくはない。だがそれは娯楽としての楽しみ方であり、架空である。それを現実で実行するのは問題がある。

 ギャグマンガでぶん殴られ空高く舞い上がっても死なないが、現実ではまずそのような攻撃されたら顎が砕け、首の骨が外れ、地面に落ちた時にはもう潰れたトマト状態だ。

 そうでなくとも、ラッキースケベなんてわいせつ罪で刑務所行って懲役をありがたく貰うだろう。そうなる前に何とかしなければならない。俺の場合は周囲からロリコン扱い、かつ強制結婚してドイツに連行になるかもしれない。

「いいか? 『俺の嫁』って言葉はお気に入りのキャラクター。いわば他の誰かに作られた架空の人物なんだよ」

「なん……だと……」

 自分の認識が間違っていることに気づいてくれたようで何より。ただ、物凄く衝撃的事実を知ったように動揺しているのはなぜであろうか。

「章登も私と同じく人工的に作られたのか」

「なんでそぉーなるんだ!?」

 肩の荷を下ろしたところに、さらなる誤解が加えられる。

「ちゃんと出産記録だってあるわ! 俺はホムンクルスでもクローンでもねぇよ!」

「章登はさっき誰かに作られた架空の人物が『俺の嫁』と言っていた。ならば、私の嫁である前に誰かに『俺の嫁』として作られたのではないのか?」

「こっちが訳分かんなくなってきたぞ!?」

 俺にはオリジナルになった人などいないだろう。笑うとピエロみたいに思えるのだから、俺はピエロを模して造られでもしたのだろうか?

 そんなことするような人間いるだろうか?

 誰だって笑える顔より、容姿は魅力的に映る方を選ぶだろう。

 そんな顔に遺伝子改造して作ったのなら俺は生みの親に恨み言を言ってもいいだろう。

 しかし、そんな思考をする中で何か引っかかりを覚える。ボーデヴィッヒの思考の中では俺が人工的に作られても可笑しくは思えない理由があるのだ。でなければこんなに飛躍した会話にはならない。

「待て、私と同じく? ボーデヴィッヒはどうして俺が人工的に作られたと思った?」

「私は遺伝子組み換えを行い、戦いの道具になるようにして生まれて戦闘訓練してきた試験管ベビーだからな。私は戦闘用だが、章登は元となった人物を再現するために作られたと思ったのだが違うのか」

 愕然とする。そんな重い話をいきなり振られこっちがどうしていいか分からなくなる。

 確かにボーデヴィッヒはかなりの美人の分類に入るだろう。西洋人形のようにサラサラの銀髪、陶器のような白い肌、紅く燃える瞳、可愛らしい顔。はっきし言って出来すぎている。

 それに戦いの道具として生まれて来た?

 勝手に作って、戦いの道具として育てられた?

 そのような存在が目の前に居る。だが、彼女から戦闘という物騒な連想は精々眼帯くらいしか思いつかない。

 そして今は、どういう運命の巡り会わせか俺のクラスメイトになっている。

「……ボーデヴィッヒ。その、これからどうするんだ?」

 今のまま戦闘人形として生きるのか。それとも学生として普通に生きるのか。

 それが倫理に反していることだとか、理不尽なことと俺が憤ることは出来ない。それは彼女自身を否定しているのに等しい。

 ボーデヴィッヒは戦闘用に作られ、戦闘が当たり前という思考になっているかもしれない。今みたいに他人との食い違いがあったとしても、それに気づくことが出来ない。

 なにせ今まで訓練や軍人として上からの命令しかコミュニケーションを取っていないのなら、どこかかみ合わないのは当然だ。

 そこには常識を教えてくれる人物などいるのか怪しいのだから。

 だから、作られた命でも1人の人間として生きてほしいと思う。

「章登を私の嫁にする」

「いや、そっちじゃなくて……。分かった、他に何かしたいことはないか?」

「と言われてもな、力以外の何かを学ぶと言ったこともある。軍を辞めさせられ代表候補生も取り下げられた。ならば、他の生き方をするしかあるまい」

 彼女はもう軍を辞めさせられたのならば、今は自分の意志で行動していることになるのではないのだろうか? ならばなぜ俺に好意を抱くのか疑問だ。

「……その道を探すことと、俺を嫁にすることに何か接点はあるか?」

「私はこの学園では毛嫌いされているだろう? そんな私に分け隔てなく接してきてくれる人物など限られている。それに私は章登は好きだ。一緒に学んでいきたく思って嫁にすると言ったのだ」

 それはボーデヴィッヒの偏見でもあるのだろうが、事実でもある。

 転入したときにいきなり他者をひっぱたく。授業中は他人との意思疎通を無視して独断行動。挙句の果てには代表候補生を下ろされるほどの問題を起こしたとみなされている。

 確かにあまりお近づきになりたくない人物になっているのだろう。

 だから俺に頼ってきて、一緒にいる方法が分からず『私の嫁にする』と言ったのだろう。

「ここは軍ではない。命令すれば報告が聞け、必要なことは上から言われるわけではないのだろう? では自分で行動するしかないではないか。そんな時、軍にいた時の副官が言ってくれたのだ。好意があり、共に居たいと思うのならばそれはもう私の嫁だと言っているのと当然なのだと!」

 それはおかしい。と突っ込むのを我慢する。

 ここは学ばせると言った手前、説明しなければならない。

「いいか? 好意というのにはいろいろある。仲のいい家族愛、親友としての友情、恋人としての恋愛。ボーデヴィッヒは親友としての友情と恋人としての恋愛が分かっていないんだと思う」

「そうなのか?」

「ああ、その……副官? に言われたことを、考えもせずに実行したんじゃないのか? それが正しいことなのか間違っていることなのか、判断材料が殆どないからその行為に合った選択を間違えたんだ」

 白紙に書いてあることを実行するように、ボーデヴィッヒの知識に対人関係では白紙だから誰かに言われたことを何の疑いもなく実行しているのだろう。

「ふむ。……クラリッサの方が間違っていたのか?」

「いや、恋人としての好意なら間違っていない」

「ならば合っているのだろう」

「だが、親友としての好意と家族としての好意なら違うんだ。まず俺との好意は恋人としての好意か? 親友としての好意か?」

「……好意は好意ではないのか?」

「度合いが違う。まずそれから理解しなくちゃいけない。人との距離って問題だ」

「人との距離?」

 食堂に置いてあった紙ナプキンを取り出し、ボールペンでラウラ・ボーデヴィッヒと中心に書いてそれを覆うようにして4つの円を書く。

「この円の距離が人との距離だ。中心に行くほど人と親しいくなっていく。一番外の円は町で通り過ぎていく人、一番近くの円はいつも一緒に居たい人だ。その円に名前を書いてくれ」

「ならばこうだな」

 ボーデヴィッヒの中心には二人の名前しかない。だが、ドイツ語みたいで俺には読めない。なんて書いてあるのか聞くと織斑千冬、崎森章登らしい。

「つまりボーデヴィッヒの判断基準は俺と織斑先生の二人しかいない。クラスメイトとか他の先生、部隊の同僚の名前がないから駄目なんだ」

「どういうことだ?」

「普通はさっきの副官は同僚だったから、2番目くらいに親しいとかあるだろう? クラスメイトなら3番で親しいわけじゃないけど関係はあるから3番目くらいには来るはずなんだ」

 しかし、ボーデヴィッヒには親しい関係が2人だけ。

「これじゃあ自分の周りだけしか認識していないのと当然なんだ。クラスメイトは無視、元同僚の名前もない。これじゃあ俺と織斑先生との違いが分からない」

「うむ。二人とも大切だからここに置いたのだがいけなかったのか」

「……じゃあ、織斑一夏はどうなっている?」

「それはこうだ」

 円の外に何かドイツ語で書いているがまぁいい。

「じゃあ、トーナメントで一緒に戦った篠ノ之や癒子は? 山田先生とかはどうなる?」

「う、うむ」

 二番目の円に書こうか、三番目の円に書こうか迷っている。

「そういう事だ。好き、嫌いは判断できるけどどのくらい好きか、どのくらい嫌いかの物差しがないんだボーデヴィッヒは。さっき言った好意に対する行動が違うのはそれが原因だ」

「……難しいな」

「まずは俺以外の人と話してから、俺の好意が親友的なものなのか確かめることから始めなくちゃいけない」

「しかし、私に話しかけるものなどいるのか?」

 そこで辺りを見回す。

 今朝の衝撃的出来事がきっかけでクラスメイトの視線はこっちに注目して離れない。無論、今の会話だって聞こうと思えば聞こえる。特に隣の癒子やのほほんには。

 その取り巻きか野次馬かの相川や雪原などの殆どの生徒は、俺たちがこちらを見た時にはどう反応したらいいか分からず目を逸らしたり、急に話をして誤魔化した。

「……まずはそこからか」

 ため息まじりな声が出る。

「あー、隣のクラスメイトたち。ちょっとボーデヴィッヒと会話でもしてみてくれ」

 俺がそんなことを言うと隣にいる癒子、のほほん、相川、雪原は気まずそうにこちらによって来る。

「うんっと……」

「うーん……」

「あー、その」

「……ごめんなさい」

 何やら言いづらそうにしてみんながみんな黙ってしまい、最後には雪原が謝罪をした。

「……その、興味本位で盗み聞きしていて……ごめん」

「聞かれて困るようなことはないからいいぞ。それより……癒子と言ったか。私への好感度はどのくらいなのだろうか?」

「いやいや!? デザインベイビーとか戦闘用に訓練を受けて来たとかかなり見過ごせない重要事項が出て来たのにあっさり流していいの!?」

「嫌々、つまり私への好感度はかなり低いのか」

「だから、そうじゃなくて! ボーデヴィッヒさんの発言に、なんて答えればいいのか分からなくて困ってるの」

「? 確かに人権問題や軍には触れるだろうが理解できない言葉ではないだろう。何で困るのだ?」

 ボーデヴィッヒは自分の生まれが特殊で彼女たちが同情しているのが分からず、不思議がっている。今まで軍事教練しか受けていないから、世間体のことをまるで理解していない。

 牛のクローンは喰われるために生まれて来たのだから、腹を裂き、血抜きしてビニールのパックに詰めることは普通だ。そのことに関して顔色を変えるのは可笑しいと不思議がっている。

 まるで、子供が親に教えられたら信じるように、親が教えてくれないことは分からないというように白紙な子供。

「ボーデヴィッヒ、ちょっと考えてほしいんだけど、ここに来る前に自分がなんでこんな目に合っているとか、可哀想とか思ったことあったか?」

「私は別に悲観的になることなどなかったぞ。ただ、ISが生まれてから落ちこぼれになった時は悔しいと思ったがな。だから、私の生まれでなんで関係ないお前たちが困るのか分からん」

「じゃあ、この問題は今は置いておこう」

「え? なんで」

「本人の価値観と俺たちの価値観を言い争っても仕方がない。まずはボーデヴィッヒに一般常識とか、思索させるところから始めないと自分がどういった存在なのか客観的に見れない」

「私はそこまで無知ではないぞ。これでも戦術、戦略は一通り覚えた」

 その割には味方無視しての攻撃がトーナメントで多かった気がする。

「力以外を学びたいんなら一般常識は必要だ」

「ああ、それもそうか。ふむ、では教えてくれないか?」

 そう言って俺に声を掛けてくるが、適任者は他にもいるのでそちらにも意見を求め周囲に目を向ける。別に巻き込んでしまおうとか思っていない。

「……公然の場でキスするのはちょっと駄目だと思う」

「そうなのか!?」

 雪原の発言に青天の霹靂が落ちたように声を上げる。

「本人の了承も得ずにしかたらね~」

「ああ、それが問題なのか」

 のほほんの意見には納得と言ったようにうむと頷く。

「いや、人目があるからね? いろいろ噂にもなるし相手の羞恥心とか考えないと」

「確かに突然すぎたな。すまなかった私の嫁よ」

「だから嫁じゃねぇええ!」

 俺の心からの叫びはボーデヴィッヒに届気はしないだろう。

 なにせ、その副官からのそういった日本の文化があると根づいてしまっているのだから。

 まず、嫁と言う言葉の意味を教えるところから始めなければならないのだろうか?

 

 

 放課後。

 寮に戻る頃まで色々話して納得してもらおうとしたのだが、結局日本には気に入った相手を俺の嫁と呼ぶ習慣があるのだから私は間違っていない、という思い込みは払拭することが出来なかった。

「いいか? 嫁と言う言葉は結婚した女性を指す言葉だ」

「では、男性のことは何というのだ?」

「婿だ」

「では、章登は『私の婿』ということにしよう」

「状況が深刻化しやがった! 婚姻届けなんて出さねぇぞ!」

「私の婿が嫌なのなら私の嫁に戻すが」

「言い方の問題じゃなくてね、関係の問題なんだよ」

「人間関係というやつだろう? ならば問題ない。一番近くに居たいと思う人物は章登なのだから、私の嫁ということになる」

「最初に結婚した女性のことって言ったよな!?」

「結婚……つまり共同生活というわけだな。一緒に居るということなら3年間は一緒に居ることが出来るな」

「もう意味わかんない」

 その為、今もボーデヴィッヒにとっては崎森章登は私の嫁と思っている。

 もう、ここまでくると一般常識を教えてこなかったドイツ軍に呆れるどころか絶望してくる。

 きっとその副官も犠牲者で日本には未だ忍者や侍が生きていると思い、誰もが腰に刀でもぶら下げていると勘違いしているのではないだろうか?

 しかし、暗部に属している楯無先輩や剣道大会で優勝した篠ノ之は刀を持参しているのであながち間違っていないかもしれない。

 前に居合いの練習をしていると聞いたことがあるが、刀の登録証とかどうなっているのだろうか? あれは美品として持つことを許されているだけであり、武器として使っていいとはどこにもなかったはずだ。

 というか、稽古に刀を使っている時点でアウトな気がする。木刀でいいじゃん。

 そんなことを前に言ったら「貴様には分からんだろうな」で一蹴された。あいつもボーデヴィッヒ並に問題児な気がする。

「ふむ、刀は買えるのだろう? ならば一振り購入するのもいいかもしれないな」

「……ちなみになんで?」

「よく切れそうだ」

「だったら通販の万能包丁にでもしとけ! ってか切る物体に何を想像している!?」

「無論、敵だが?」

「敵だって人間なんです! そんな簡単に首を跳ね飛ばさないであげて!」

 取りあえず外国人が変に特徴的な日本の文化を勘違いそうな話題を振ってみると、案の定物騒な想像をボーデヴィッヒはしているようだ。

「だが、失態をしたら自分で切腹するのであろう? だったら私が斬り飛ばした方が敵も名誉の死をとげることが出来るのではないか?」

「今時! 切腹する! 日本人がいると思うなよ! 自殺志願者でもそんな死に方をする奴はいねぇよ! それはもう時代遅れで流行ってないからな!」

 今の日本でそんなに命が軽い訳がない。

「しかし日本刀は欲しいな。何より研ぎ澄まされたという魅力がある」

「……まぁ、美品として買うのならいいけどさ。確かにあの刀身には魅了されるな」

 確かに日本刀には誰かを虜にする独特の魅力がある。

 斬ることへの機能を追求し無駄を省いた姿、光沢感がある刀身、そこまで追及されて来た歴史や技術。

 殺すための武器でありながら、刃紋という刀匠の好みとしての個性など様々な美がある。

 そんなことを思ているうちにボーデヴィッヒの部屋の前まで来て、別れようとするが部屋に入るように催促してくる。

「刀が好きだというのなら私のコレクションも気に入るだろう」

 子供が自慢するように生き生きとして、ボーデヴィッヒが部屋に入って行く。癒子やのほほんのような気の許せる友人でもなく、外見では美少女の部屋なので緊張して躊躇ってしまう。

 だが、部屋には不用心なことに鍵がかかっていなかった。そして、電気が付いている。もうすでに同居人がいるらしい。

「!?」

「ああ、今日から同居人が来ると聞いていたがお前がそうなのか?」

 毛布に包まり頭だけを動かし頷く。毛布の隙間からはみ出した均一ではない赤い髪姿には見覚えがあった。

 入院していたアキラ(誰も苗字を教えてくれてなかったのでそう呼んでいる)がなぜか一年の寮のボーデヴィッヒの部屋にいたのだ。

「だけど、なんでアキラがここに?」

 アキラは2年の先輩でここは1年の寮だ。本来はここに居るはずがない。

「せ、生徒会長が、い、今はここしか、あ、空いてないっ……て」

「……まじで?」

 何を考えているのかと、問い詰めたい。彼女は前に倉庫のダンボールハウスを作りそこで生活をしていた。もう戦闘の痕跡で使い物にならないだろうから、他の所に住むのは分かっていたが、よりにもよってボーデヴィッヒの部屋とはいささかどうかと思う。

 そう思ってカバンから携帯を取り更識先輩にかけてみる。

 すぐさま電話に出た更識先輩に問う。

「ボーデヴィッヒとアキラを一緒な部屋にするってどういうつもりですか?」

『あ、もう知ってるのね。アキラちゃんの護衛も兼ねての配室よ。この前みたいに1人の所を襲われでもしたらまずいでしょ?』

 確かにボーデヴィッヒの戦闘能力は高い。だが、若干不安を感じる。ボーデヴィッヒ、そしてアキラの両方は、他人とのコミュニケーション能力に難がある人物たち。

 そのルームメイトぐらいは普通に生活できるような関係を、作らなければいけないことは分かっているのだが。

「不安だ」

 そんな俺の心を知ってか知らずかボーデヴィッヒは、棚から何かを取り出す。

「私もこういったものが好きな。色々と気に入ったものを集めているのだ」

 サバイバルナイフであった。刃背にギザギザの鋸刃がいくつも並んでおり、分厚い刃が煌めいている。

「鑑賞用なんだよな?」

「いや、実戦用だ」

「使ったことあるのかよ!?」

「ああ、サバイバル訓練で嫌というほどナイフの大切さを思い知らせてくれた」

 サバイバルナイフを取り出して、子供のように自慢するボーデヴィッヒ。案の定アキラは山姥でも出くわしたかのように震えてしまう。

 こんな状態でうまくやっていけるのだろうか? と疑問に思った。

 そして、自慢げにグリップの握りやすさや鋸刃の優秀さなどを言っているボーデヴィッヒは、本当にただの子供にしか見えない。

 遺伝子を組み替えた研究者たちはなぜ彼女の存在を作ったのだろうか? いくらドイツの徴兵制度が無くなったからと言ってそこまでするものなのだろうか?

 そんな疑問を他所に、今度はアキラのフォローに回らなければならなかった。

「これからここに住むわけだけど大丈夫か?」

「だ、大丈夫、じゃ、じゃない」

 まぁ、いきなり見知らぬ人と同居するというのも彼女にとっては酷なことだろう。

「だ、だから、……普通に、と、友達としてっ、ここに、来て」

「ああ、……お前たちだけだと不安だしな」




 ラウラは今他人との意志疎通が厄介なことになっています。
 例えば工事現場で働いていた人が転職先の職場で何をしたらいいか分からず、右往左往しているって感じでしょうか?
 しかも戦闘兵器として人の壊し方は心得ているのがかなりまずい
 子供が銃持って右往左往、そして真っ白な心に刻み込まれる言葉『俺の嫁』。
 本当に副官は厄介なことをしてくれました。ただこれラウラが真っ白で純粋すぎ、行動力がある人間として表現するのにはちょうどいいかなーと思っていた結果がこれだよ。

 章登は胃痛になってるかも。


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