IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

25 / 41
第25話

 第一アリーナ第二試合 崎森章登、谷本癒子VS篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒ

 アリーナの中には黒の機体『シュヴァルツェア・レーゲン』と鋼の鈍色の光を出し刀を下段に下げている『打鉄』。

それらを対峙する深青の『ラファール・ストレイド』と打鉄と同じ鈍色の『撃鉄』がアリーナの指定位置にいる。

 ボーデヴィッヒからは何も言わない。無表情にこちらを見下す。

 ただ、篠ノ之はそうでないらしくなるで親の敵と言わんばかりにこちらを睨みつけこちらに声を掛けてくる。

「一夏の仇は私が取る!」

 いつから織斑は死んだのだろうか。そんな素朴な疑問が生まれるが突っ込むのは野暮だろう。

 

 

 それから数秒後に試合が開始される。

『B2』

 ボーデヴィッヒ、篠ノ之の二人を出来る限り足止めする癒子の指示が、個人通信を通す。

 マルチランチャーを呼び出し成形炸薬弾を発射する砲身に切り替え、発砲しながら急接近する。

「無駄だ!」

 無論回避できる攻撃だったが、俺達が無力であることを強調したいのかAICで慣性がなくなる空間を作り出し、放った成形炸薬弾を中に浮かせる。

 だが相手はボーデヴィッヒだけではない。もう片方の手にアサルトライフルを呼び出し、篠ノ之に向けて連弾を放つ。

 刀だけを取出しこちらに斬りかかる前に攻撃されるが、怖じ気ることなく連弾を喰らいながら俺に斬りかかる。

「はぁあ!」

 織斑と比べても早く鋭く、そして何よりも動きに無駄がない。流石に近接戦は不利だと判断し、進行を止め横に大きく飛び退き斬撃を回避する。

『章登C7!』

 癒子からの指示が来る。緊急回避の指示だったのでボーデヴィッヒの方に目を向けることは出来ずに回避行動を取る。

 その時、ボーデヴィッヒはAICを解除し、こちらに向かって右肩に付いている強大なリボルバーカノンを発射。

 強力な電力で放たれた豪弾は空気摩擦で表面を赤くし、衝撃波を辺りに撒き散らしながらこちらに向かって来る。

 横に移動していた時に、一気に反対側へ多方向推進翼を一瞬だけ全開にして進行予測を狂わせる。間一髪で回避するが衝撃波で吹っ飛ばされかねないため、腰を落として踏ん張るようにして動けなくなってしまった。

 なんとか癒子の指示で気づくことが出来て幸いだった。あのまま進んでいたら一気に後ろの方に飛ばされかねない。

 だが、衝撃波が凄まじく、体勢が崩れたところを逃すほど甘くはない。

 篠ノ之が再び斬りかかる。慌ててマルチランチャーのチェーンソーを起動させ唐竹を防ぐ。

  チェーンソーの刃が回りながら篠ノ之の刀を壊そうと火花を上げ、このままでは刀の方が摩擦で壊れかねない。

 そう思い、一度刀を引き戻して別方から斬ろうと思ったのだろうが、斬りあいに付き合う気などない。

 もう片方のアサルトライフルを篠ノ之に向け発砲。

 この距離なら外さないと思ったが、篠ノ之が急に何かに引っ張られるようにして回避、いや、投げ捨てられる。

 ボーデヴィッヒのワイヤーブレイドが別の手のように篠ノ之の足首を掴み後方へと投げたのだ。

「なにをする!?」

 篠ノ之が怒声を発するがボーデヴィッヒの返答や謝罪はない。

 ただ、俺を攻撃するのに邪魔だけで投げ捨てたのだ。

 そして、両手からプラズマブレードを生やし斬りかかってくる。

 アーク放電の強烈な光と熱を持った光刃が俺に襲い掛かってくる。

 両腕が交互に振られ、間合いを測り出来るだけ距離を取りながら応戦する。

 10,000度近い高熱のアーク放電は単分子カッターやチェーンソーなどの実体剣と打ち合っただけで、融解してしまう恐れがある。

 何度か避けた時ワイヤーブレイドが放たれ、行動範囲を絞りに来る。腰、肩から6つの糸のついた刃が強襲する。

時間差で放たれた刃を1つ目はマルチランチャーのチェーンソーで弾き、2つ目は体が横にに向くように腰をねじり、上半身の被弾面積を少なくして回避する。3,4つ目は回り込むようにして横から強襲してきて後ろに飛び退きやり過ごす。5つ目は上から落ちてくるのをマルチランチャーで切り上げて弾く。6つ目は顔面を狙うように真正面から来たので横に飛び退くことで回避した。

 だが、ワイヤーブレイドの巧みな攻撃は牽制に過ぎず、飛来する刃に気を取られているうちにプラズマブレードの間合いに入ってしまう。

 プラズマブレードで斬りかかるボーデヴィッヒ。

 この体勢と距離では回避できない。

 多方向推進翼に付いている物理シールドで苦し紛れに防ぐが、高熱のプラズマブレードは物理シールドをドロドロに溶かす。

「っ!」

 思わず舌打ちをする。それほどの高熱を喰らってしまえばひとたまりもないのは一目瞭然だ。

 このまま追撃される前にマルチランチャーのチェーンソー部分の側面が開き、小型の機雷群がボーデヴィッヒの辺りに撒き散らされる。

 小型の機雷群はプラズマブレードの高熱で誘爆し、辺り一面が連続的に爆発し、ボーデヴィッヒを威嚇、爆風で身動きを取り辛くさせる。その時、プラズマブレードが炎のように揺らめいた。

 なんでそうなったのか疑問に思考している間に、癒子から個人通信で『A1』と言われ即座にそこから離脱する。

 膨大な運動エネルギーを持つAPSPDS弾がボーデヴィッヒに向かって放たれるが、即座にAICを展開させ慣性の働きを無くし運動エネルギーを奪い取り停止させる。

 リボルバーカノンの冷却が済んだのか、お返しとばかりに砲口を癒子の方に向ける。発射される前にマルチランチャーの砲身を切り替え、付着爆弾を放ち攻撃を阻止する。

 AICを別方向に向ける事は出来ないようでAICの展開を解除し、その場から離脱。

 入れ替わるようにして篠ノ之が前に出て来て、刀を振る。

「私を忘れてもらっては困る!」

 突撃してくる篠ノ之に対し、頭上に向かって跳ぶ。そして、刀が振られる瞬間、空中で回転。刀を回転して避けながら、篠ノ之の背面をマルチランチャーのチェーンソーで斬りつける。

 篠ノ之はすぐに反転し、地面に着地した俺に刀を振るう。俺は多方向推進翼を4つ全部篠ノ之に向け、噴射。

 突如、多方向推進翼から噴射の風が吹き、強力な風に叩き付けられた篠ノ之は鈍る。 そこを両手に持った火器で攻撃。

 付着爆弾とアサルトライフルの連弾が篠ノ之のシールドエネルギーを減らす。

『A1!』

 癒子からの砲撃指示が個人通信で送られ、その場を離れる。その直後、ストロングライフルが放たれ支援してくれる。

 篠ノ之はこちらの動きに気付き浮遊している物理シールドで防ぐことでダメージを抑え、こちらに向かって来る。振られる刀に対しマルチランチャーのチェーンソーで突きを繰り出す。

 そして、チェーンソーのコの字のような固定具が開きバリスティックナイフの容量で、チェーンソーが飛ぶ。

「このような小細工!」

 篠ノ之は当然のように刀で飛び出てきたチェーンソーを2つとも弾くが、射線上からは動いていない。むしろ刀で弾いたせいで突撃の速度が落ち、体勢も迎撃から他の行動を取ることが出来ない。俺の腕でも射撃が当たりやすい距離まで近づいてしまった。

 放たれる断頭はワイヤーネット。

 動物の捕獲などで使われるような蜘蛛の巣状の網。と言うよりも蜘蛛の巣の横糸に付いている『粘球』と呼ばれるものを含んだ網である。

 粘球は蜘蛛の巣に獲物が掛かったとき、粘りつき獲物を離さないようにする働きがある。

 これを斬ろうと思っても斬り辛いだろう。

 体にへばり付き、腕や足を動かそうとも動かした分だけ他の所に張り付き、身動きを出来なくする。

 現に―――。

「なんだ! これは!?」

 篠ノ之は刀で切ろうとして刀が網に張り付いてしまい斬ることが出来ない。

 そこに打ち込まれるストロングライフルの連続砲撃。

 装甲を貫かれ絶対防御が発動し篠ノ之は戦闘不能に陥る。

 

 だが気を抜くわけにはいかない。

 篠ノ之を倒した後すぐにリボルバーカノンの豪弾が俺を強襲する。

 指示もなく、篠ノ之に注意が向いていたため、完全に当たってしまいシールドエネルギーがかなり削れてしまい、吹っ飛ばされる。

 そして、追撃するようにワイヤーブレイドが魚の群れのようにして放たれる。

 先ほどのような時間差の攻撃ではなく、相手に確実に当てるために数に物を言わせて同時に来る。

 吹っ飛ばされながらも体勢を入れ替えマルチランチャーで5つまとめて弾くが、それは囮だったらしく、地面すれすれで飛んできたワイヤーブレイドが足に絡まる。そこから引き寄せられ転倒し引き寄せられる。

 各部のスラスターを全開にして逃れようとするが、相手の方が力が強い。

 ジリジリと引き寄せられる。

 そこに放たれるストロングライフルのAPFSDS弾がボーデヴィッヒに飛来するが、AICを展開されてしまい運動エネルギーを奪い取られ空中に停止してしまう。それで弾倉の弾が無くなりリロードに移る癒子。

 その隙をついて、ボーデヴィッヒがリボルバーカノンを癒子に向けるが、注意が癒子に向いていることをいいことに引き寄せられる力を利用し一気に距離を詰める。

 アサルトライフル投げ捨て、岩盤破砕ナイフに持ち変える。

 こちらの動きに気付いたのか、プラズマブレードを腕から生やし迎撃する。

「貴様らのような雑魚が幾ら組んだところで無駄だ!」

 こちらの突撃に合わせプラズマブレードの突きが俺に放たれる。

 アーク放電の刃先が俺の肩を焼いた時、岩盤破砕ナイフの信管を起動。強力な爆発がナイフを破裂させ周囲に破片と爆風を俺とボーデヴィッヒに降り注ぐ。

 当然、ボーデヴィッヒはAICを展開し破片や爆風を防ぐことが出来る。

 俺の方はそれらを喰らいシールドエネルギーが減ってしまう。

 だが、ボーデヴィッヒの目の前まで来る。突き出されたプラズマブレードを掻い潜るような形で。

 

 そもそもアーク放電とは?

 電極に電位差が起こる事による放電なのだ。放電なので実体はない。

 ライデンフロスト効果と呼ばれる物がある。

 物体の沸点を超えた熱を当てると蒸発の層ができ、熱が蒸気層で物体に熱伝導を阻害するという物である。

 先ほどの機雷群が爆発した時、プラズマブレードの刀身が揺らいだのはこういった理由だ。ならば、威嚇程度の小さな爆発ではなく、爆発を攻撃とする強力な爆風ならどうなるであろうか?

 アーク放電が熱、爆風が蒸気層、物体が崎森章登。ならばアーク放電による熱は章登まで届かない。

 

 章登は爆風に押し出されるような形でボーデヴィッヒの前まで来て、マルチランチャーのチェーンソーを突き刺す。

 すでに爆風や破片を防ぐのにAICを使っており、危機を察したボーデヴィッヒが章登の動きを止める。

 だが、いきなりの爆発で動揺したため章登まで範囲を広げるのが一瞬遅かった。章登を完全には停止させることが出来ず、右腕を突き刺すようにして飛び出てきたチェーンソーを止めるが、体の反対側、左手まで止めることが出来ない。

「A6!」

 そこから円柱を取出しボーデヴィッヒの頭上に投げつける。手榴弾と思ったのか、もしくはスモーク弾と思ったのかは知らないがAICの停止領域をさらに広げ円柱にAICを掛け無力化しようとする。

 そして、無力化し終えた時、反撃に出ようと俺の方に攻撃をしようとしたが出来なかった。

 その瞬間円柱から暴力的な光を放ち、アリーナは光で埋め尽くされる。戦っている俺達だけでなく観客の目も眩ませた。

 閃光弾。

 AICは慣性を止める兵器。

 だが、厳密には違うと思われる。慣性を止めるのならば、なぜ慣性を止めた弾丸が地面に落ちないのだろう? それに、自力で動くことができ慣性の働きがない俺は何で動くことが出来ないのだろうか?

 科学者や技術者ではないので想像でしかないが恐らく、空間を固定化させているのだと思う。空気を動かなくさせ個体のみたいにし、飛んできた運動エネルギーをその個体で減衰させる。弾が落ちないのは空気の壁に突き刺さっているため。

 運動エネルギーが攻撃力につながるAP弾はもちろん、相手に当たってから攻撃に変わる形成炸薬弾は相手に到達する前に無効化される。

 だが、光は実体を持たない。空気のように固定化もされない。故にAICの防壁を突破することが出来る。

 目が眩んだボーデヴィッヒの集中が解けてしまいAICが解除される。

 そして、マルチランチャーの形成炸薬弾を発砲。だが、外れてしまう。

 理由はボーデヴィッヒの黒い眼帯が外されていた。怪我でもして失明していると思っていたのだが違う。そこには金色の瞳があった。とっさに黒い眼帯を外し俺の攻撃に対応したのだ。

 故にもう一度AICを展開され、俺は捕縛されリボルバーカノンが向けられる。

「これで終わりだ!」

 だが、それが発射される前に後ろからまるでトラックが建物にでも突っ込んだような轟音が鳴り響く。

 癒子が後ろから瞬時加速して突っ込んでタックルをかます。

 先ほどの指示「A6」は隙を見て攻撃を開始してくれと言った内容になる。

 だからって突っ込んでくるとは思わなかった。

「がっ!?」

 突然の後方からの衝撃に動揺し集中が乱れ、AICが解除される。

 そして、身体の自由を取り戻した俺はマルチランチャーを放り投げ、両手に岩盤破砕ナイフを持ち一歩また前に出る。

 後ろからの衝撃で前のめりになったボーデヴィッヒの懐にまで入る。この距離では空間を固定化するAICは自身も巻き込んでしまいどうしようもない。

 ボーデヴィッヒの腹部の装甲に2つの岩盤破砕ナイフを突き刺す。

 癒子はほぼゼロ距離からストロングライフルの弾倉5発を使い切る。恐らく、遠距離から撃っても当たらないと思い接近してきたのだ。

 強力な攻撃力を持つAPSPDS弾がボーデヴィッヒの背面に当たり、スラスターや装甲を破壊しシールドエネルギーを削る。

「証明してやったぞ。俺達はくだらなくねぇってな!」

 宣言し終えた後、思いっきり横蹴りを入れて少しでも爆発に巻き込まれないようにボーデヴィッヒから距離を取り撤退する。

 そこで岩盤破砕ナイフの信管を作動し爆発。

 方向性を持った爆発が装甲内部で爆発し、絶対防御が発動させる。

 画面にボーデヴィッヒのシールドエネルギーがゼロになっり、試合が終了するはずだった。

なのに、ボーデヴィッヒが倒れた爆煙の方から異変が起こる。

 

 

(負ける……だと? ISに触って3か月程度の素人共に?)

 確かに力量を誤ったとも思う、が自分の負けられない理由がある。戦いのために作り出され、鍛えあげられた自分。ISが出来て適性が合わず『出来損ない』の烙印を押された。

 それからはなんだ。今までの苦労が水の泡だ。自分の全てが否定された気がした。

 そんなどん底にいた私に手を差し伸べた人が居た。織斑千冬。特別私だけ目を見てもらった訳ではない。しかし、あの人の教えを守り、忠実にこなし、例え泥まみれになりながらも日々励み続けた。

 全てはあの人のため。あの人に近づくため。

 強く、凛々しく、完全な彼女になるためには何が必要か。

 力だ。

 あの人に近づくためにはもっと力がいる。

 目の前にいる有象無象など一瞬で倒せる力が、誰にも追いつけないほどの力が、全てをねじ伏せる力が足りない。

 力が、力が! 力が!! もっと力が足りない!

 あの人になるには力が足りない!

 『力が欲しいか』

 誰かは分からない。いや、分からずともいい。戦う事しか知らないのだからそれ以外に何がいる。

 邪魔をする奴は薙ぎ払えばいい。

 敵は殺せばいい。

(寄越せ。無敵を、絶対を! 力を!! 私の中を埋めるものはそれしかない!)

 

 

 アリーナの壁際まで吹っ飛ばされたボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンから紫電が走る。

「あああ!!!」

 そして、ボーデヴィッヒの絶叫と同時に変化は加速する。シュヴァルツェア・レーゲンの装甲が粘土のように溶け始めボーデヴィッヒの小さな体を包み込んでいく。まるでボーデヴィッヒの存在を消去し、別人に変貌していくように。

 瞬く間に元となったシュヴァルツェア・レーゲンの外見は完全に無くなりそこに在ったのは最強の存在。

 黒いと言うより暗い。

 『暮桜』と『織斑千冬』という存在があった。

 シミュレーターで、過去の対戦記録で見ていたから分かる。違いは色だけで外見、細部、人物、果ては髪の長さまで一緒なのか、過去のモンドグロッソに出ていた時と同じだ。

 その存在と目が合ったのか。近くに居たからなのか。黒い刀、雪片が振るわれる。

 音を置き去りにした速度の一閃が袈裟切りに振るわれる。シミュレーターで動きを見ていなかったら確実に一撃を喰らっていただろう攻撃を多方向推進翼を全て黒い暮桜に向け噴出し、強風で相手の動きを制限し、自身を刀の間合いから逃げる。

 だが、機体性能からスラスターの噴射を物ともせずまだ切りかかってくる。

 即座に単分子カッターを呼び出し、展開。

 黒い雪片と単分子カッターが火花を一瞬あげる。

 鍔迫り合いにはならず、黒い雪片を戻し斬撃を変えての2連撃。

 多方向推進翼に残っている物理シールドで防ごうとするが、一閃のきらめきが何の抵抗もないかのように物理シールドを両断。

 そして、切り上げられた黒い雪片が俺を襲う。

「章登!」

 癒子が何か叫びこちらと、黒い暮桜に何か投げてくる。

 黒い暮桜は斬撃の軌道を投げたれたものを斬り飛ばすのに使い、俺は癒子から投げられた物を掴む。

 それは打鉄撃鉄の腰に付けられている刀。

 振動刀 菊一文字を握る。

 刀を振り下ろすが、黒い雪片で受け止められる。

 不愉快な金属音がアリーナ中に響き鍔迫り合いになる。

 

 

「あれは…私…だと?」

 あまりな状況に混乱する。この試合の決着がついたと思った瞬間、ボーデヴィッヒの機体『シュヴァルツェア・レーゲン』が変化し、昔の私と同じ姿を取る。

 無論、アリーナにいる黒一色で暗い光を放つあれは私ではない。

 だが、崎森に振られる刀が、崎森を倒そうとする太刀筋がすべて私と同じ。

 まるで、自分はこうやって暴力を振るうのが好きだと言わんばかりに刀を振るう。それは、過去の己の姿を、悪行をまざまざと見せつけられているようで気持ちが悪い。

「織斑先生!」

 山田先生の叱咤が思考を現実へと戻してくる。

「っ! すまない。アリーナにいる者たちに避難警告と戦闘教員に出動を頼む」

 すぐに指示を出す。だが、今も崎森に向かって刀を振るアレをどうになかしなければならない。

「崎森すぐに離脱しろ!」

 だが、応答がない。恐らく返事する手間すら惜しいのだろう。

 刀を刀でぶつけ相殺し続ける崎森。しかし、よく見ると受け流しや身を逸らしての回避に徹しており追い込まれている。

 しかし、徐々に追い詰められてこのままでは押し切られるだろう。

「織斑先生! アリーナが!」

 今度は何だと怒鳴りそうになったとき、管制室のモニターにはアリーナのバリアーを壊して乱入する者が映った。

 

 

 織斑先生が通信で何か言っているが、こちらには悠長に聞く暇などない。何せ相手の動きを一瞬でも見逃せばそのまま戦闘不能になりかねないのだ。

 鍔迫り合いは長くは続かず、相手の力を利用して体を回転するようにして受け流し、その好きに離れようとするが相手が離れてくれない。

 受け流した途端、刀が軌道を変え左から切り上げられ身を逸らして回避するが、今度は袈裟斬りに変わって追撃してくる。

 袈裟斬りを受け止めつつ、逃げようとするがこちらを狙ってまだまだ攻撃を加えようとしてくる。

 このままでは押し切られると思ったが変化は外からやって来る。

 まるでガラスを割る様にして、黒い暮桜の対極に位置するような白式がアリーナの壁を破壊し一直線に黒い暮桜へと周りで起こる悲鳴を無視して突進する。

 俺ごと斬りかかる勢いで突っ込んでくる。織斑の行動に付き合ってられず、この場から離脱しようと後ろに飛び退く。

 退避する俺より向かってくる織斑を迎撃する黒い暮桜。

 迎撃しに来た黒い暮桜に対し、親の仇と思わせるような形相で織斑は雪片を振るう。

 だが、振るわれた白い雪片は軽くいなされ、素早く胴を入れるようにひじ打ち、突進が止まったところを狙うようにして返す刀でもう一撃入れ織斑を切り払う。

 もうシールドエネルギーが無くなったのだろう機体の装甲を維持する力が無くなった白式は光の粒へと変わる。もはや織斑を守るべき鎧は無いと言うのに何をトチ狂ったのか黒い暮桜に向かって走っていく。

「それがどうしたぁぁああ!」

「何をやっている馬鹿者! 死ぬ気―――」

 織斑の暴走を見かねて篠ノ之が止めに来るが、向かってくるものを敵だと判断したのか黒い暮桜は2人まとめて斬りかかろうとする。

 それを止めるために黒い暮桜に突進する。

 斬撃が降られる直前に間に合い、単分子カッターと振動刀を交差するようにして受け止め、鍔迫り合いというより押し合って追撃を断念させる。

 暴れ回る織斑を篠ノ之は押さえつけるだけで精一杯で手が回らない。

 そこに癒子が打鉄撃鉄の腕に俺の捨てたマルチランチャーを拾い上げ、ワイヤーアンカーを織斑たちに向け発射。

 使用許可は試合が始まる前に出してある。でなければ打鉄撃鉄の振動刀を俺が使えるはずがない。

 そうして二人とも引き寄せられた後、俺も逃げようとするが相手が許してくれない。

「くそが!」

 まるで全てが倒すべき敵と言わんばかりに無差別攻撃を繰り返す黒い暮桜だが、それでも優先順位はあるらしく、撤退した織斑たちを追撃しようとは考えていないらしい。

 おかげでこちらが負荷を背負って今なおめぐるわしい斬撃の数が、俺を襲う。

 袈裟斬り、間合いから逃げることで回避。左切り上げ、振動刀振り下ろし相殺。横薙ぎ、振動刀を振り下ろすことで鍔迫り合いにし防御。刀を戻して右切り上げ、単分子カッターの回転する刃が斬撃を逸らす。

 そして限界が来た。

 振動刀が摩擦や疲労で黒い雪片と打ち合っているうちにひびが入り、折れる。

 防御を抜けて来た黒い雪片はこちらの装甲に触れる直前に突如止まる。

 黒い雪片が横からハサミのようにして交差しながら食い止めてくれた。

「あなたも離脱しなさい!」

 教師たちがやっとこさ来たようで戦闘を開始してくれる。

 言われるよりも速く行動し、即座にその場から飛び退き離脱する。

 

 離脱しピットに入った後、アリーナを見渡すと戦闘教員の数が3人と少ない。恐らく他のアリーナで使っているISや電池の数が足りず急ごしらえでどうにかしているのだろう。

 それらの状況を理解し、最悪だと判断する。

 数は少ない、相手は全盛期の世界最強。おまけに騒ぐバカが一人。

「離せよ箒! 邪魔するならお前も殴ってやる!」

「いい加減にしろ!」

 もはや収拾がつかない。

「癒子、それ返してくれ。後篠ノ之。離れないとあぶねぇぞ」

 癒子から返してもらったマルチランチャーの下部に備えられたワイヤーアンカーを織斑に張り付ける。そして、最低限の電流を流し織斑の筋肉を痺れさせ抵抗力を奪う。

「崎森、お前!」

 織斑に攻撃したことに篠ノ之が激怒するが、これ以上勝手をする前に止めるしかない。

「仕方ないだろ。これ以上場を荒らされたらひとたまりもねぇよ」

 戦闘教員と黒い暮桜が戦っている方を見る。さすがの連携で戦ってはいるのだが、それでも優勢とは言い難い。

 打鉄を着込んだ教員が刀を振るえば弾かれ返す刀で斬りかかれる。改修し機動力が上がったラファールの銃弾は最低限の回避で蛇行回避し、近づかれてしまう。

 何とか斬撃を避け、他の教員からの援護射撃で追撃できなくする。だが、今度は援護射撃した相手に瞬時加速で一気に距離を詰め斬りかかる。弾幕など刀で切り払い抵抗なく斬りかかられる。斬撃を物理シールドで防ごうとするが盾ごと切り裂かれる。だが、物理シールドを捨てることで撤退し事なきを得る。

 決定打を与えられず、徐々に追い込まれつつある。だが、ここで戦力が増えれば勝てる見込みもあるだろう。

「癒子、IS電池に後どのくらい残っている?」

「えと、8割前後」

「それを教員の機体に回して、戦力を上げるぞ。あとシールド借りる」

「待て、何をする気だ」

「教員たちが攻撃できる隙を作る。あれは攻撃してくる者か近くにいる者が撃破対象だ。だったら一気に突っ込んで取り押さえる方がいい。そこを他の教員たちが攻撃する」

 そんなことを言っている間に、アリーナで黒い暮桜と戦っていた教員の一人が斬り飛ばされ一気にシールドエネルギーが無くなり機体が停止する。

 そこに黒い暮桜が追撃しようとするが、他の教員が盾になるようにして踊り出て黒い雪片と振動刀で鍔迫り合いを行い時間を稼ぐ。

 リスクは承知の上だが最短でアレを止めるにはそれしか思い浮かばないのだ。

「それならば私がやろう」

 突如俺たちの会話に割り込んでくる織斑千冬。

「一番危険なのはアレに突っ込む奴だ。そんなことを生徒に任せられん。それに……アレは私なんだ。……だから」

 確かにアレの元になっている織斑千冬が一番アレの脅威を知っているだろう。

 それなら彼女の方が適任ではある。だが、他に何か言いたいことがあるようなで口ごもってしまう。

「だから……私は……私のけじめをつけたい」

 何のけじめかはよく分からない。

 だが、悠長に話しているほどの時間はない。

「で、織斑先生が取り押さえている間に俺が背後から切り付けるってことでいいですか?」

「駄目だ。私たちで何とかする。お前たちはピットから出るな」

 そう言いつけた織斑先生は、癒子が降りた打鉄撃鉄に乗って即座に黒い暮桜に突撃していく。

 

 

 鍔迫り合いをしている黒い暮桜に打鉄撃鉄を着込んだ織斑千冬が瞬時加速で突っ込む。一つの砲弾のような突撃。不意打ちに近い攻撃だったはずなのに黒い暮桜はそれに反応し、鍔迫り合いをやめ新たな敵に対して刀を振るう。

 袈裟斬りに放つ、音や空気抵抗などないその斬撃は確かに織斑千冬を捉える。だが、その斬撃を使っていた者が分からないはずがない。

 浮遊している物理シールドで黒い雪片を防ぎつつ前進、相手の懐に入る。そして相手の手首を抑え刀を振るわせない。

 だが、下に備えてあった手を黒い雪片から放して柄の部分を形成していた黒い粘土が、次第に形を変え短刀となっていた。

 二刀流。

 なぜ、と織斑千冬は疑問に思う。

 織斑千冬はそんなことをモンドグロッソの時に使ってはいない。だが、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたシステム。

 名前はVTS(ヴァルキリー・トレース・システム)と名付けられている。

 過去のデータからVTS(ヴァルキリー・トレース・システム)は相手の動きを真似することが出来る。

 ならばなにも真似をするだけなら織斑千冬の暮桜にこだわる必要はない。モンドグロッソで得られた動き、他の選手の動きを再現する。ただ、こだわったのは搭乗者の意志と目標。

 最強の存在。無敵で絶対。故に元となった織斑千冬にも負けるわけにはいかないのだ。

 突き出される短剣を織斑千冬は止められない。今掴んでいる手を離せば対処できるだろうが、離してしまえば今度は黒い雪片の餌食となる。

 だが、止まる。

 近くにいた教員が腕に掴みかかる形で、織斑千冬に向けられた短刀の動きを止める。

 無我夢中で同僚の危機を遠ざけようとする。考えて行動したわけではない。命令されたわけでも、恩を売っておこうと思ったわけでもない。

 ただ同僚に危機が迫っている。それだけでこの教員は自らの危険を顧みず必死に黒い暮桜に立ち向かう。

 そして、無防備になった背中をもう一人の教員が斬りかかる。

 武器を扱う腕は拘束されこのまま攻撃が通るかと思われた。

 だが、そうはならない。

 突如背中の大型スラスターの形が変わり腕が生える。

 そんなことを想定していない教員はその腕に捉えられてしまう。

 無理もない。いきなり武器が出てくるとこは普段のISの量子変換による展開を見慣れているからまだ対処できるであろう。

 だが、いきなり別の物に変わることなど誰が予想できる。擬態しているわけでもない。そして、腕になる前はスラスターの役割をしている。ならば、大型スラスターと思っても仕方がない。

 だが、思い出してほしい。この黒い暮桜は最初はシュヴァルツェア・レーゲンだったのだ。

 本来はない武装を再現し、形は自由に変えられ、能力すら再現する。

 ならば、足や頭すら腕や刃に変えることだって出来るはずなのだ。

 これで詰めと思われたその時、崎森章登は全力で瞬時加速し黒い暮桜に近づく。

 このままでは負けてしまうと思いピットから出るなと言われいたが、無我夢中でアリーナを駆け黒い暮桜に向かう。

 黒い暮桜まで来たとき慣性を足で地面を抉るかのようにして強引に止め、横側から単分子カッターで斬りかかる。

 また、腕が生えるのか、それともウニのように肌を針山にして攻撃するのかと思われた。

 だが、何にも変形しない。

 それは黒い粘土がもう無くなってきているからだろう。

 形を維持するのに全身が、大型スラスターは腕を形成するのに使った。残っているのは武器を形成している黒い粘土だが、それらは腕を押さえつけられ動かすことが出来ない。

 無防備になった横腹を掻き切って切り口を作り、腕を突っ込む。

 中に何か異物を見つけそれを引っ張り上げる。

 黒と対比的なまでに輝く銀の髪と白い肌をした人形みたいな少女を引き上げたとき、彼女を纏っていた黒い暮桜がぼとぼとと崩れていく。

 核であるボーデヴィッヒがいなくなったことで、システムの維持が出来なくなったからだろう。

 中から崩れ落ちるようにして出て来たボーデヴィッヒを抱えた時に目があった。まるで行き場を失って迷子の様な子供の瞳。何かを求めるその瞳はやっと瞼を閉じて眠りにつく。

 




ふぅ。何とか出来た。
VTS(ヴァルキリー・トレース・システム)を強設定になりすぎてしまった。まぁ、これくらいいいでしょう。
そして原作と違う点の黒い暮桜が自ら攻撃していくのですが、これはラウラが思ったこと邪魔する奴は薙ぎ払えばいい、敵は殺せばいい、最強、無敵、絶対といった思考が反映されてしまいました。原作では力をよこせ、比類なき最強だったので「力」だけが反映されましたが、このVTS(ヴァルキリー・トレース・システム)には「力、倒す、負けない」といったものが加えられてしまいました。
これがあるだけで強くなっているVTS(ヴァルキリー・トレース・システム)。まさしくチートですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。