IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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あけましておめでとうございます
今年もどうかご贔屓に。

と、当たり障りのないようなことを言いつつ、この小説の内容は当たり障りありまくりに新年をお送りいたします


第23話

 アリーナで距離を置き対峙する両者。

「章登、悪いけど勝たせてもらうぜ」

 白式を展開した織斑が開始位置に付いた時、そんな事を宣言してくるがどうでもいい。

「……」

 ラファール・ストレイドを展開した俺は無言、無表情のまま答えない。こんな面前で言っていい言葉ではないし、言ったところで伝わらないだろう。

「章登。かなり怖い表情してるんだけど」

 打鉄撃鉄を着込んだ癒子は何やら不安な声を出す。きっと俺の内心が暴走状態なのを危惧しているのだろう。

「一夏。何かしたんじゃないでしょうね?」

 凰は甲龍を展開し、ことらと対峙しているが、何やら険しい表情で織斑と俺を交互に見てくる。

「俺は何もしてないぞ」

 俺は殺気立っているのだろう。自分の顔はよく分からないが多分、他の第三者からすれば苛立っていることくらいわかるらしい。そんな、だろう、らしい、と言う不確定な言葉は今自分の状況を客観的に理解できないからだ。

 俺から出てくる感情は相手を打ちのめしたい怒りなのか、ついに復讐ができる歓喜なのか。ただ感情が溢れ出してくるのだ。この身に収まらないくらいに。

「章登、感情的になり過ぎ。もうちょっと押さえて」

「……作戦通りにやるって。一人で突っ込んだりはしねぇよ」

「……ならいいけど」

 激情はあるが頭はいたって冷静だ。

 

 そして、試合開始。

 直後、飛び出してくる白い白刃。『白式』は何も考えていないようにこちらにまっすぐ向かってくる。

「先手必勝!」

 そんな事を言いつつ瞬時加速で飛んでくる織斑は、こちらが何もせずに突っ立っていると思っているのか疑問だ。

『A9』

 後方の癒子から個人通信で指示が来る。状況をいち早く察することが出来るのは、眺めている観客や戦場から離れて指示を送る指揮官。

 癒子の方が戦術や個人の技量を把握しているため、癒子の方が適切な対処が取れるだろう。前衛の俺が指示を出すより、後衛で戦況も把握しやすい。

 ちなみにA9は突撃してくる奴には集中砲火を浴びせよう。と言った指示なのだが、そんな単純な事をする人なんていないと思う、と言う事で随分と最後の指示になる。

 一番最初から突撃してくるような奴などほとんどいないため、癒子はまだ射撃ポジションを取ることが出来ず、俺だけで攻撃することになる。

 空いていた距離を詰めてくる間に両手に武器、アサルトガンを持ち放つ。それに対して織斑は恐れもせず弾幕の中を突き進んでくる。

 ガガガガと装甲に火花を散らしながらも雪片を発動させる。

 前なら刃先が怖くて少し動きがぎこちなくなるはずなのに、今は何にも感じない。と言うかハイパーセンサーが捉える動作が大きすぎて分かりやすく、そんなに速いと思えない。

 例え、シールドエネルギーを大幅に削る武器で、殺傷すら可能な武器で、高性能で、世界最強が使っていた武器だとしても。

 そんな鈍い一太刀など脅威にすらならなかった。

 こちらに斬りかからんとする織斑に即座に身を捻って上からの一太刀を躱し、雪片の鍔を押さえつける。

 懐に潜り、ほぼゼロ距離から顔面にアサルトライフルを放ち続ける。

「ちょ―――」

 小さな織斑の悲鳴が聞こえたが、すぐにアサルトライフルの銃声で掻き消える。

 弾倉の弾を撃ち尽くす勢いで引き金を絞り続ける。絶対防御が発動し織斑の顔面が蜂の巣になることはない。これはデュノアと戦った時に検証済みで精々青痣が残ったくらいだ。

 なので、遠慮なしにぶっ放す。

 弾倉の弾を撃ち尽くしたところで凰が、こちらに斬りかかってくるので柔道の投げ技よろしく、足を跳ね払い織斑の体勢が失敗した宙返り状態で掴んでいた腕を引き、凰に向かって投げ飛ばす。

 即座に進行を変更した凰は向かってくる織斑に当たることはなく、衝撃砲を形成。放とうとした時。即座に緊急回避を取る。

 そんなことした理由は俺の後方で癒子の手に持っている、ストロングライフルのAPFSDS弾が放たれたからだ。

 一発で多くのシールドエネルギーを減らす砲口に晒されれば、回避行動を取るのが普通である。ストロングライフルの攻撃力を知っていれば、回避行動に徹しつつ距離を縮める、弾切れ、リロードの時間を狙うなどがセオリーだ。

 こんな序盤で無茶をしてシールドエネルギーの無駄遣いは減らしたい。

 そんな凰に向かってアサルトライフルを撃ち、少しでもシールドエネルギーを削ろうとする。

 注意がストロングライフルに向かっていたので当たると思いきや出刃包丁のみたいに強大な金属の板に柄を付け加えたような大剣、双天牙月の面で盾と言うより壁にして防ぐ。

 虚しく弾丸は火花を上げる程度に収まってしまった。

 その裏で衝撃砲を形成していたらしく、衝撃を放ってくる。多方向推進翼に付いている物理シールドで緩和させながら、アサルトライフルで牽制し、癒子の方には行かせないようにしつつ距離を保ち続ける。そして、癒子が個人通信で指示を出す。

『A1!』

 癒子からの指示に、即座に横に退避して凰との距離を離す。

 癒子は近すぎず、射線上に重ならないため、凰に向かってストロングライフルを発射。

 俺が後退したのを凰が察してか回避するが、めげずに放ち続け、5発中2発喰らってしまいう。浮遊している龍砲が1つ破壊され、盾にした双天牙月も貫通して風穴を開け、腹部の装甲を破る。

「このぉぉおお!」

 投げられて壁にぶつかった衝撃から回復した織斑が、凰のやられている姿を目にして、これ以上させるものかと雄叫びを上げながら突貫する。癒子に攻撃を仕掛けてくるが直線的になり過ぎて、機動が分かりやすい。それに距離もあるため、近づくのに時間が掛かる。

『B2からB1!』

 前衛の俺が2人をできるだけ足止めしつつ、出来なかったら1人で1人を足止めと言う内容。この場合、俺が織斑と凰に牽制をする。

 癒子のリロードの時間稼ぎも含め、散弾銃を展開して進撃する織斑と凰に攻撃する。

 散弾を連続して凰に放ち癒子に近づけさせず、連弾が織斑に瞬時加速や、突撃を躊躇させる。

 そして、織斑と凰が同時に仕掛けてくるように息を合わせて俺の方に仕掛ける。

 鋭角軌道でジグザグと右上、後ろ下左、前右下と直線で結んだように移動し、予想した移動地点や連携のタイミングを乱して、時間を稼ぐ。

 前に来たら後ろに下がり、上がると思ったら下がりの移動のフェイント。

『A1!』

 それと同時に癒子のリロードが終わったようで、凰に向かってストロングライフルの豪撃が猛威を振るう。

『A4!』

 どうやら、足止めの必要はもうないらしく一人一殺の方針に切り替わる。ストロングライフルの射線から癒子が凰を相手にするみたいだ。

 なので、俺が織斑に散弾銃とアサルトライフルを向け発砲。

 織斑が通る所を狙って散弾と連弾が進撃中の織斑に降り注ぎ止めさせる。

 もう、エネルギーが少なくなってきているのか、瞬時加速で弾幕を一気に突破するようなことが出来ず、回避に徹しているようだが稚拙で俺でも容易に想像がつく。

 右に移動しているので、織斑の少し右をアサルトライフルで撃ってやれば慌てて止まって反対側に行くので、そこを散弾銃で撃てば当たる。

 俺が少し攻撃をやめれば、途端に突っ込んできてくれるので雪片の間合いから出ている所で攻撃し、進行を止めたところで弾が外れるような距離ではなくシールドエネルギーを削る。

 それでも、一か八かと俺を道連れにするように腕を盾にしながら距離を縮める。

 そして、間合いに入った瞬間、俺を斬り裂こうと雪片の特殊能力バリアー無効化を使い振り上げる。

 袈裟切りしてくるタイミングに合わせ、多方向推進翼を横に全開噴出。一気に加速が加わり斬撃が来るよりも前に側面に移動。

 一瞬、織斑の視界から消えるようにして側面に移動し殴る。

 アサルトライフルを量子化して収納し、空いた片手で織斑の顔を、顎を、ボディーを、殴る。相手の体勢を崩し、次の一撃を確実に決めようとする。

「いい加減にしろよ!」

 そう言い、激昂に任せ雪片を振るうがそんな体勢が出来ていないのに、無理に雪片を振るから鈍い動きになってしまう。

 真上から振り下ろされる前に素早く懐に入って、手首を掴み攻撃を阻止する。

 そこから散弾銃の砲口を織斑に向け発砲。

 途端に機能を停止し、動かなくなる白式。モニターには織斑一夏・戦闘継続不能と表示される。

「なっ、え?」

 そんな事を呟いて不思議がっているように思えたが、凰が癒子に近づきつつあったためその場から即座に移動を開始。

 

「くっ。一夏の分まで私が頑張らなくっちゃねぇ! 代表候補生として!」

 1対2に追い込んでいるはずなのに精神的な危機感もなく、癒子を追い立てる。双天牙月一振りと、衝撃砲1門で近接戦を仕掛けるが、逃げに徹しており中々距離を詰められない。

 だが、アリーナの移動制限があり、高く飛び過ぎていると失格になってしまう。故に領域内ギリギリに追い詰め、動けないところを斬りかかる。

「もう逃げられないわよ!」

 打鉄撃鉄の浮遊物理シールドに双天牙月が阻まれるが、力押しで潰しにかかる。

そんな拮抗をした時、腰に装着した刀の鞘がぐるりと回転し物理シールドの隙間から散弾を放ってくる。

 菊一文字の鞘先には散弾を放てるような仕組みになっており、浮遊している物理シールドが死角になっており気付かなかったのだ。

 まるで殴られた衝撃が凰に来る。

 至近距離から続けて散弾が放たれるのだから冗談ではない。

 残り1振りの双天牙月で壁にしつつ、散弾の衝撃を利用するようにして後ろに引く。その時こちらに迫ってきた崎森が両手に岩盤破砕ナイフを持っている。

「A2!」

 そう何かつぶやくのがハイパーセンサーを捉えるが、今は谷本から距離を離れなければならない。しかし、どう移動しようと章登とぶつからなければならず、挟み撃ちに合う。

 ならば、章登とチキンレースするかのようにして突進し、射線上に章登を置くことで発砲を躊躇させる。

 幸いにも相手は剣や槍など間合いが広いタイプの武器ではなく、ナイフと言う格闘に近い武器だ。こちらの双天牙月の方が有利。チキンレースで相手が逃げようが、攻撃してこようが、こちらが勝てると確信した。

 章登を弾き飛ばした後、即離脱して態勢を整える。

 しかし、章登はチキンレースの中盤。凰が乗った時に岩盤破砕ナイフを凰に向かって投げつける。

 そう、信管で遠距離から爆破が可能なのだ。

 だから、投げつけられた岩盤破砕ナイフが凰の近くで爆破した破片や爆風が襲い、体勢を崩し不安定にする。

 そんな立て直しの中、凰に向けられる砲口。ストロングライフルのAPFSDS弾が5連射で機動が取れない凰に降り注ぐ。

 

『勝者、崎森章登・谷本癒子』

 

 

「崎森君たちの勝利ですね」

 実際にはきつい戦いであろう。専用機が2体とそのうち乗っている1人は代表候補生。対して個人的な調整や改修されたとはいえラファールと打鉄で勝ったのだ。

 それを山田先生は感心する。

「……ああ」

 心ここにあらずと言った織斑千冬は相槌を打つことしかできない。

 その、目が向いているのはラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之箒のペアと、他のクラスの女生徒2人が戦っているモニターであった。

 序盤から攻めて攻めてのボーデヴィッヒが対戦相手に猛威を振るう。篠ノ之がサポートに入るが気にはせず、大口径のリボルバーカノンで相手を撃沈させ、縦横無尽にワイヤーブレイドを走られ相手を絡め捕り、叩き付ける。

 その叩き付けたところに篠ノ之が居たのだが気にはせず、勝利がモニターに表示されるととっととピッドに戻り補給を受けてくる。無論、篠ノ之への謝罪などない。

「次は崎森君たちとですね」

「……ああ」

 ボーデヴィッヒは恐らく昔の自分なのだろう。散々暴力を振るい、その力で反論を捻じ伏せてきた自分。

「織斑先生。適当に返していませんか?」

「……ああ……あっ」

「酷い」

「いや、少し待ってくれ! 今は別の事に気が向いていたと言うか、山田先生との会話を蔑ろにしていたわけではない」

「ボーデヴィッヒさんの事ですか?」

「そ、そうだ! どう接したらいいかとか、どう力と強さの違いを解らせたらいいかとか、どうやってクラスの孤立を無くしてやればいいかとか、そのいろいろ、な?」

「はぁ、織斑先生もいろいろ考え始めたんですね」

 キョトンとした顔でそんな事を言う山田先生だ。まるでハトが豆鉄砲に当たったようになっている。いや、感心している?

「ちょっと待ってくれ。私は考えなしだとでも言いたげな顔はなんなんだ!?」

「そりゃ、防衛線で突撃かますような人物ですから」

「……次からは善処します」

 そんな、失敗した政治家のようなことを言いながら次の試合のモニターを見る教職員(駆け出し)。

「織斑先生。善処しますはがんばります、努力しますと言う意味は含みますが、了承の意味はないのですが?」

「に、二度としません」

 

 

 

「次はボーデヴィッヒと篠ノ之か……」

「二人ともあまりアリーナに来なかったから実力が図り辛いしね」

「まぁ、抽選で決まったからな。お互い連携訓練してねぇし、前の試合からして連携は最悪だ」

「正直、無双ゲーで戦闘に夢中で勝利条件を忘れているみたいな」

 どちらかと言うと、舐めているのだろう。私が学生風情に負けるわけがないと。

 故に味方であるはずの篠ノ之の事などお構いなしに暴れ回っているという訳だ。

 俺たちはISの整備をするためにピットに戻ってメンテやら補給やら受けるのだが、俺の場合は弾丸の補給で終わり、癒子は弾丸の補給と浮遊シールド、IS電池の取り替えで終わる。

 正直、もう少し部品交換や損傷した装甲の交換などすると思っていたのだが、拍子抜けであった。

「あっちもそんなに損傷なんてないから今日中にもう一戦するかもね」

「だな。それまではここのモニターで観戦してるか」

「ジュース奢って」

「缶ジュースで」

 そんな他愛のない会話をしつつピットに配置されているモニターを見る。

 すぐに次の試合が開始されていく。

 

 

「なんで俺負けたんだ?」

 ピットに戻っての第一声がそれだった。

「アンタが弱いからでしょ」

 個々の能力、練度、連携、戦術が劣っていただけの話だ。

 凰の場合は能力と練度、機体性能が高くとも連携、戦術の面であの二人に劣っていた。

 織斑の場合は機体性能以外が低かった。凰の教え方が上手ければ近接戦であそこまでいい様にされることはなかっただろう。ただ自身の感覚や直感で動く凰に自身の能力を教えろと言われても、うまく言葉にすることはできない。

「俺は弱くない。少なくとも章登と練習量は変わらないだろ」

「あんた、あたしの説明とか動きとかちゃんと見てた?」

「聞いていったって、動きも見て覚えたし」

「それで、反復練習とか必死に練習していればこんなことにはなっていないわよ!」

 ならば、少なくともあそこまで一方的に負けはしないだろう。凰は少なくとも動きを再現することで自分の技術を織斑に伝えようとした。それならば少なくとも回避行動に稚拙さは残らないはずだ。

「アリーナは予約いっぱいだから取れないだろ。それにこんな結果になったのは鈴の教え方がよく分からないせいだろ」

 不機嫌そうにそう言った織斑を見て凰は憤る。

「あっそ! だったら他の人に教えてもらえば!」

 そう言い残してズカズカと地団駄を踏むようにしてピットから出て行った。

 




戦術内容
A1 ストロングライフルを発砲するので離れろ。
A2 時間差で攻撃。
A4 一人一殺。
A9 集中砲火(ただし最初だったため、癒子のストロングライフルの発射体制、射線上、発射位置の問題があったので癒子は不参加。
B1 各自で防御を中心に。
B2 前衛(章登)が足止め兼囮。
 
まぁ、妥当な結果でしょうか?
織斑が顔面にアサルトライフルの連弾受けたり、ぶん投げられたり、殴られたり、あげくの果てには脅威の雪片が全く怖くなかったりと、シャルルがいないとここまでじゃ弱体化するんだなぁ。
と言うか必死ではないんですよ。
倒したい敵もいなければ、夢中になる熱もない。
だから適当でいいやみたいなことを思った織斑一夏になった学年別トーナメントでした。

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