「―――――であるからして、ISの基本的な運用には現時点で国家の承認が必要であり、枠内を逸脱したISの運用をした場合は、刑法によって罰せられ―――――」
高校生の授業でなんで俺は刑法の勉強をしているのかと思ってしまって仕方ない。弁護士になる気はないのだが、ISに関わっていく以上必要になって来るのでノートを取っていく。しかし、机の上に置いてある教本5冊。国語辞典のように鈍器にでもできそうなほど厚い。それに、よくわからない単語が出てきたりして一回IS用語集を作ってくれと思ったのは俺だけではないはず。まぁ、なんとかホテルで監禁されていた時、政府の人に事情を説明しPCを借りられたからよかったのだが、履歴が残るので下手な閲覧(動画とか画像とか)して自分の趣味を知られたくはなかった(別にHなサイトを見ようとしたわけではないのであしからず)。
「織斑君、何か解からないところありますか?」
「あ、えっと……」
「解らないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生なのですから」
自信を持って胸を張る山田先生。ISに関しては余程の自信があるらしい。
織斑は一度教科書に目を落とし自分に聞き落としや間違いがないか調べているらしい。すこし時間がかかり、よくわかっていない所を見つけたらしい。
「先生!」
「はい、織斑君!」
「ほとんど全部わかりません」
……え?
「……え。ぜ、全部ですか……?」
山田先生も俺と同じ気持ちを抱いたらしい。さすがに質問とか、用語とかではなく全部はない。断言できる。お前中学卒業してから今日の入学までの間何してたんだ?
「え、えっと……織斑君以外で、今の段階で解らないって言う人はどのくらいいますか?」
挙手を促す先生。
質問はあるのだが、さすがに理解できないと言うわけではない。それに俺や織斑以外は完全に把握しているらしく誰も挙手をしない。この雰囲気で手を上げるのはかなりの猛者だろう。学校で委員長決める時と同じだ。誰も率先してやりたがらない。
しかし、質問をしないまま解らずじまいも悪いので。
「えーと、先生質問があります」
「は、はい。崎森君」
初めの段階でまだわからない者が居たのかと山田先生は驚いてしまい、女学生たちはこんなことも解らないのかと呆れてしまった。俺から言うなら幼い時からISの知識身につけた奴やここに入学するために猛勉強した人たちと比べないでほしい。2・3ヵ月では参考書の深い所までは分からなかったのだから。
「先ほど刑法によって罰せられると言っていましたけど、どのような事をしたら罰せられるのですか? 例えば無断でISに触れてしまったとか」
「それはどうなのでしょうね。無断でISの開発や操縦に申請をしていなかったとかなら罰せられてしまうんですけど、さすがに触っただけじゃわかりませんね。すいません。」
「いえ、ありがとうございました。」
よし、俺はあの試験会場に置いてあったISに触れたとしても問題なかったらしい。国の軍事機密に手を物理的に触れたようなものだ。何かしら問題があっても不思議ではないと思っていたが、問題はなかったらしい。
「崎森君、他に質問はありませんか?」
「はい」
「他の方で質問がある方は……いないようですね。でしたら織斑君、どのようなところが解らないのか教えてくれませんか。」
「いえ、だから、その……ほとんど全部わからないんです」
…………………………………え?
「……えっと、刑法的な事がですが?」
「それも
「……機械的な事も?」
「はい」
「……IS条約や規定の事も?」
「はい」
「………」
なんか泣きそうな目になってないか山田先生。まるで自分はだめな教師なんだと自己嫌悪してなければいいのだが。
「……織斑、入学前の参考書は読んだのか?」
ホテルに監禁されていた時に渡された奴だろう。かなり分厚かったがやることもなかったので読んでいた。特に機械的なこと、
アクティブセンサー(自ら電磁波や赤外線を派生させその反射したそれらを読み取り物体の検出する装置)や
パッシブセンサー(物体は熱量に応じた赤外線をだすためそれを読み取る装置)
がなかったが、それらとは別格の
ハイパーセンサー(実際に使った事がないのでよくわからないが、目視できない距離の捕捉、視野外のカバーをする装置らしい)
の所は思わず何度も読み返した。この辺はやはり機械やロボットと言うと興奮する俺が居る。
それを読んでいないとは貴様、男なのか? ちゃんと股の所にゾウさん付いていますか?
「古い電話帳と思って捨てました」
バァアン!
織斑先生そこ代わって俺もそいつ殴りたい。
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな?」
「い、いや、1週間であの厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい。やります」
むしろなぜ捨てたのか不思議すぎる。ドジとかうっかりとかのレベルじゃない。やる気がなくて読んでなかったとかならまだしも。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遙かに凌いでいる。そう言った兵器を深く知らずに取り扱えばからならずしも事故が起こる。未だ自動車でも事故が無くならないのと同じ様なものだ。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則を覚える、守るまではISに乗せたくないと私は思う」
まぁ、正論ではある。しかし、宇宙開発用のパワードスーツが軍事関連に加わるのは仕方のない事だとしても、なぜそれを本来の運用法に戻さないのか謎である。ISが宇宙で活動した事は1度も記録にないのは謎だ。
「……貴様は『自分で望んでここにいるわけではない』と思っているのか?」
一瞬織斑の体が震えた。確かに女子高に男が放り込まれるとか嫌にも思うだろう。確かに俺もそう思うがもう諦めた。ここで騒いだところで何かが変わるわけでもあるまいし。
「望む望まざるにかかわらず、人は集団の中で生きている。それを放棄したいならまず人間であることをやめるべきだと思うがな」
もしくは本当に1人で生きていくか。だが現実問題それは無理だ。親の保護、金銭問題、立場、それらがなければ人は生きていけない。金はあっても必ず外に出なければ買い物ができないし、通販で買うにしても宅配員の持っている書類に判子を押さなければならない。誰にも関わらず生きていくことなど不可能だ。
「え、えっと、織斑君。解らないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、がんばって? ね?」
「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」
俺も加わったらだめだろうか。まだ覚えていない所とか曖昧でよくわからない不安な所やアドバイスを頂けると嬉しいのだが。
「ほ、放課後……放課後に二人っきりの教師と生徒……。いやいや! だ、ダメですよ、織斑君。先生、強引にされると弱いんですから……それに私、男の人は初めてで……で、でも、織斑先生の弟さんだったら……えへへへ」
ちょっと考えさせてください。あんたも乙女思考全開な女子高生ですか……?
いきなり頬を赤く染めてそんな事を言い出す先生が居たら例え優秀でもご遠慮いただきたいと思ったのは俺だけだろうか? ってか、あんたも織斑先生のファンなのかよ!
「あー、んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「は、はい」
山田先生は慌てて教壇に戻る途中こけた。小石どころか塵すらないと思われる所で、運動音痴とか依然に足の筋肉大丈夫なのか?
「うー、またやっちゃた……」
一度精密検査した方がいいと思います先生。頭か筋肉なのかはそちらにお任せしますが……
「ねーねー。さっきー。何のプラモ作ったりするの」
いきなり隣の席の女子。布仏 本音(のほとけ ほんね)が、(名前についてはノートの名前を書く欄に書いてあったのをチラッと見えた)声をかけてきた。
「えっと、基本的にはガンプ○に塗装したり、他のパーツとかモールドとか接着剤で張ったりだけど……ってか、さっきーってなに、あだ名?」
「うん。崎森だからさっきーだよ。覚えやすいでしょー。私の事はのほほんでいいよー」
覚えやすいのは否定しないが、一文字変えてしまえば球技になるというのは考え過ぎだろうか。そっちはなんというか名は体を表すという感じだ。
いくらこの学園の制服が改造を許可していたとしても袖を通し過ぎてブカブカになっている。目は細めのたれ目でおっとりしており基本的にニコニコ笑っている。黄色い人形が付いた髪ひもで左右に尻尾を作っている。体の動きもゆったりとしていてマスコットキャラを連想させる。主に黄色のネズミ。
「でねでね、ガンプ○っていうとHG? RG? MG?」
「基本はHGとRG。MGも悪くないけど高いから手が出せねぇよ。PGなんて夢のまた夢」
前の休み時間は俺を見ていた女子達は今、織斑とオルコットの会話に耳が言っているらしく、視線もそちらを向いていた。だから今俺達の会話に耳を傾けている者、顔がこちらに向けている者も少ない。視線を気にせず趣味の会話ができる事がこんなに楽しいとは思わなかった。
「やっぱスプレーの塗装は忌避感あるな。やっぱ一度サーフェイサーで下地してから手塗が慣れたし。それにスプレー高いんだよな。大体400円前後だし」
「でも私だと袖に付いたりしちゃうから洗うの大変なんだよねー」
「そんなカッコしてるからじゃねぇの?」
「これでも細かい作業できるんだよー。○○○もんと同じで」
「アニメ三大不思議になるだろうな。なんでそんな手で持てる!? ってさ」
そういった会話をしているとこいつオタクか、中二病か、とひそひそと言っている。別に俺の趣味が世界に悪影響を与えているわけではないからいいだろうと思ってしまう。誰だって中学時代はそうなってしまうものだろ? 俺は今でも続いてしまっているわけだが。
がたたっ、っと音がして音がした方を見た。
なんかみんなギャグアニメみたいにずっこけているが大丈夫か? 何があったし。
「あ、あなた本気でおっしゃっていますの!?」
何かすごい剣幕でオルコットが織斑に詰め寄っている。何か怒らせる事を言ったのだろうか?
「おう。知らん」
そこでオルコットがやれやれと頭を振り、頭が痛そうにこめかみに人差し指を当てブツブツと何か言っているがいかせん距離があるのでわからない。
「で、代表候補生って?」
かなりに的外れな質問が来た。ISが普及、知られるようになってその言葉を知らない者はあまりいないだろう。居たとしてもニュースを見ていない、新聞を見ていない人ぐらいだ。アマゾンの奥地の集落でも最近は電気機器があり衛星によって携帯も通じるぐらいなのに。
「国家代表IS操縦者の、その候補として選出されるエリートの事ですわ。……あなた、単語から想像したらわかるでしょう」
「そういわれればそうだ」
「そう! エリートなのですわ!」
そう言ってオルコットは人差し指を織斑の鼻に当たるかどうかという所まで指した。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡……幸運でしてよ。その現実をもう少し理解してはいただけませんこと?」
「そうか。それはラッキーだ」
「……馬鹿にしていますの?」
これは馬鹿にされていると取られても仕方がない。声が凄く棒読みであり、感性の欠片もない。まぁ、オルコットを敬えと言われても直ぐにはできないだろう。なぜならオルコットより織斑千冬の方が人気が高い。そして、カリスマを持った姉と一緒に住んでいるのだ、オルコットが霞んで見えてもしょうがない。
「大体、あなた方ISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを動かせると聞いてましたから少しくらい知性を感じさせるか礼儀さをわきまえているかと思いましたが、期待はずれでしたわね」
「俺に何かを期待されても困るんだが」
「ふん。そうやって何時までも周囲の期待を裏切ってればいいですわ。まぁでも、わたくしは優秀ですから、あなたの様な人間にも優しくしてあげますわよ。
ISの事でわからない事があれば、まぁ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよろしくってよ。何せわたくし、教官を倒したエリートですから」
「あれか? ISを動かして戦うってやつ?」
「それ以外に入試ってありまして?」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「……え?」
オルコットの反応は正常だと思う。少なくともIS初心者の俺はその教官に勝てなかった。
「さっきーはどうなの?」
「蠅のように飛んで逃げ回り続けて、一度も反撃できずに撃沈」
「わたしはふらふら飛んでいる所にグレネードとかフルメタルジャケット弾(貫通力の高い弾、円錐と円柱を合わせた形の弾と思ってくれればいい)とか集中砲火でぜんそーんー」
ぜんそーんーって全損? 全壊ではなく? どっちもかなりヤバいけど
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
ピッキ
まるで我慢できないらしくオルコットの手は握られており小刻みに震えている。そんなに自分が一番でないと我慢できない性格なのだろうか?
「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」
「いや、知らないけど」
「そっちのあなた! あなたも教官を倒しったって言うの!?」
「いや、負けたぞ?」
「ふ、ふん! 所詮男なんてその程度でしょうね」
そんなに俺を格下と見下したいか。いや、俺は地位も名誉、力もない高校生だけど……それでも俺はここに学びに来ている。だからいつか強くなって、その顔に泡吹かしてやると決めた。
そこで予鈴がなりみんな席に戻っていく。
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する。……いや、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めておかないとな」
クラス対抗戦? ISを使った実技競技なのだろうか?
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会の出席……まぁ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では大した差ではないが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間は変わる事がない。自薦他薦は問わない、誰かいないか?」
いっそみんなで戦えばいいんじゃねぇの? 今の俺ら試験時の戦闘ログを見ているわけじゃないし、やる気のある奴ならそこで力を発揮しようとするからいい事づくめではないか。
「はい。織斑君を推薦します」
「私もそれがいいと思います」
「崎森君はちょっと……あれだね、目立たないしね」
「やっぱカッコいい方が絵になるよね」
はっ! どうせ俺なんて……目立たない! 趣味がオタクっぽい! ブサメンですよ!
それに仕事押し付けられるの嫌だし、いいもん。
「お、俺!?」
どうやら織斑もやりたくないらしい。だが残念。多数決で君はもうクラス代表決定なのだよ。
俺の身代わりになるといいわ、ケケケ。
「織斑。席につけ、邪魔だ。さて他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」
「ちょっ、ちょっと待った! だったら俺は崎森章登を推薦する!」
なっ! こいつ俺に矛先変えあがった。おそらく織斑は同じ男子がもう一人いるだろ!
と思っているのだろう。周りから「辞退しろ」みたいな視線が向けられていると思うが、俺だってやりたくねぇよ。くそだったら他の奴に推薦してやる。
「だったら俺は―――」
「納得がいきませんわ!」
机に手を叩いて立ちあがったオルコットは険しい目をこちらと織斑に向け声を荒上げる。
「その様な選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんて言い恥さらしですわ! わたくし達に、その様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
まぁ、ど素人が再来週行われる戦闘でどうなるかなんて一目瞭然だろう。逃げ回った挙句撃破。試験時の様な結果に終わるに違いない。
「実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で推薦されては困ります! 知識がなく素人同然なサルと何も取り柄がないサルを推薦しないでください! わたくしはこの様な島国までIS技術の修練に来ているのであって、動物園に来たわけでも、サーカスに所属する気も毛頭ございませんわ!」
知識がないサルは織斑で何も取り柄がないサルが俺か。まぁ、的を抜いているな。そんな奴がクラス代表に選ばれたって誰も歓迎しないか。いや、織斑は人気があるからまだいい方か?
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべきもの。そしてそれはわたくしですわ!」
凄い自信だ。大体人って言うのは心のどこかで不安を抱え尻込みするものなのにオルコットは、そんな不安などださずに堂々と宣言している。
お前らは弱い。だからわたくしが導いてやる、とここにいる全生徒に向けて言い放っている。俺の勘違いかもしれないが、頼もしい奴と思った。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたしにとっては耐えがたい苦痛で――――」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
……は?
「な!?」
織斑は日本で現在すくなくっている愛国心主義者なのか? 自分がサルだと言われている時は言い返さなかったのに、日本が侮辱された途端、オルコットに言い返した。
まぁ、オルコットも織斑に愛国心がないと思っていたらしく驚いて……いなかった。その顔は怒り心頭で顔が真っ赤になっている。対して織斑はやってしまったと後悔しているようだ。
「あ、あ、あなたねぇ! わたくしの祖国を侮辱していますの!?」
いや、最初に侮辱したのはあなたですけどね。
そして、織斑とオルコットは視線で火花を散らせそうになるにらみ合いを始めた。オルコットは何か思いついたらしく織斑に向って指をさし言い放つ。
「決闘ですわ!」
「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
お前ら戦国時代の騎士か? 武士か?
まぁ、これで現在どちらが強いかはっきりするのだからクラス代表を決めやすい。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い、いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜く程腐っちゃいない」
「そう。何にせよどちらが上かはっきりするいい機会ですわ。まぁ、わたくしの方が上なのは確かめるまでもない事ですけど」
「そうかよ、だったらどの位ハンデつけるんだ?」
「あら? さっそくお願いかしら?」
「いや、俺がどの位ハンデつければいいのかなーと」
と、織斑がそんな事を言った時クラスからドッと爆笑が起きた。
「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かった時代はもう過ぎてるよ?」
「織斑君は、ISを操縦できるだろうけど、そんなに長く乗っているわけでも直接ISに関わってきたわけでもないでしょ?」
そう言われて織斑が天を仰いだ。どうやら馬鹿な事を言っている事に気付いたらしい。確かにISは旧世代兵器(戦車、戦闘機)と1対1で戦闘した場合、初心者でなければ5分で形が付くくらいに性能に開きがある。
「じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわね。ふふっ、今の時代に男が女より強いだなんて、かなりのジョークセンスがおありよ貴方」
笑っている。苦笑の類ではない。あざけ笑っているのだ。お前が強いことなどあり得ないと。実際そのとうりだろう。
英国のエリートVS極東のサルでは話にもならない。
「ねぇー、織斑君。今からでも遅くないからさ、ハンデつけってもらったら? なにも出来ずぼこられるだけだと思うよ?」
「男が一度言いだした事を覆せるか。ハンデはなくていい」
「それはいくらなんでもISと代表候補生を舐めすぎだよ。ネットとかで知らないの? セシリアはIS使わずに狙撃銃で2km先の的のど真ん中に当てる事が出来るんだよ?」
狙撃銃の最大射程距離(弾が届く距離)は約5km。有効射程距離(敵に致命傷を押させられる距離)は約1~2km前後。ISが軍事利用されるようになって旧世代兵器にもISの技術が転用されることになったがそれでも2kmの的に当てると言うのは尋常な腕ではない。
まず、弾丸は絶対に真直ぐには飛ばない。要員としては3つ。
弾丸の要因(弾の種類によって空気抵抗や飛行速度が変わる。狙撃銃に使われているのは恐らくだが308ウィンチェスター弾などの一般復旧していた弾ですら初速840m/sという速さを持っている)
銃の要因(反動や砲身の長さ、重さ。砲身が長いほどいいと思ってたら大間違い、砲身によって弾は回転されながら放たれるが長すぎると逆にその回転に悪影響が出てしまってうまく飛ばない事もある)
環境の要因(風向き、湿度、重力。更に1発目と2発目では砲身温度が違うためずれが出てしまう)
これらをすべて把握し、計算し、撃って的に当てる。ゴル○13、シモ・ヘイ○さんマジすげぇ。
「さて、話はまとまったか? それでは3人には一週間後の放課後、第三アリーナにて試合をしてもらう。オルコット、織斑、崎森は準備しておけ。特に後者は恥をかかないようみっちり勉強しとけ」
なんで俺も試合しなければならない? 口論していたのはこいつらだろ?
「織斑先生、なぜ俺も試合しなければならないのでしょうか?」
「クラス代表者を決める試合だろう? さっき織斑に推薦されたではないか」
「辞退します」
「だめだ。それに他人に期待されたのだからそれに応えられるようにはなれ。例え不純な、自分がやりたくないからと他人に押し付ける様な期待でもな。では授業を始める」
そんな、横暴な。
とりあえず織斑が俺に向って手を合わせてはいるが許さん。オルコットにぼこぼこにされるがいい。
「とっとと教卓の方を見ろ。馬鹿者が」
ゴッチン! と織斑にゲンコツが下った。いい気味だ。