「フランス政府からの呼び出してシャルルデュノア君は急な用事で転校となりました」
朝のホームルームで山田先生がそう告げるのと同時に多数の生徒が驚き、そして叫ぶ。そはやその叫喚は教室中の窓を震わせるくらいにはうるさい。
「先生どういうことですか!?」
「まだ転校してから1ヶ月ともたっていないんですよ!?」
「デュノア君より崎森連れていけよ!」
「おのれ! フランス政府の陰謀か! 天使を我らから連れ去りおって!」
「デュノア君がいなくなったら織斑×崎森しかいないじゃないですか!」
最後は黙れ。
「えーとですね。デュノア君は貴重な男性IS操縦者でこちらでデータを獲得するより本国でのほうがいろいろな支援を受けやすいことと、代表候補生であるため国の命令に従わなければならないのです」
そう、オルコット、凰、ボーデヴィッヒが専用機のデータを取りに来たのは政府の命令だろう。代表候補生は政府から給料、支援を受けている。これで命令に従わなくていいなんて道理はない。
だが、恐らくこの前の出来事で命令で帰らなければならなかったではなく、問答無用で帰らせた、が適切なのだろう。
デュノア社も上層部が問題を起こし、他の社員どころか社長も関わっている。とニュース番組の中の『海外の出来事』で報道されていた。恐らく責任を負い人員削減、整理が行われるとも言っていた。
これは恐らくIS学園で誘拐未遂やら戦闘行為やらを隠蔽したい為にフランス政府、学園上層部が妥協した結果なのだろう。
IS学園で短い期間に2度も戦闘があったなんて日本国民にしてみれば「IS学園なんて言う戦闘基地があるから攻撃されるんだ! 無くなってしまう方が安全だ!」と反対運動でも起きかねないのだろう。
デュノア、デュノア社の部隊については裁判にかけられ刑期を言い渡されると思われる。世間で騒がれていている人物が死刑にしたり秘密裏に殺したりはしないと更識先輩も言っていた。
しかし、ある程度事情を知っている俺は戸惑うことなく先生の言葉を聞いていられるが他の生徒は気が気でない。
故に苦情は止まない。もはや隣のクラスから苦情が来ないのが不思議なくらいである。
その嵐のような叫喚を断ち切る一声が発せられる。
「静かにしろ!」
織斑先生。しかし、その顔はいつもより疲れているような印象を感じる。
「お前たちは人の話を聞く気がないのか? デュノアは政府の命令で本国に帰った。それ以上の説明が必要か?」
そう言って早々に話題を終わらせようとするが、いきなりの転校生がいきなり転校することになったなんて普通の学生にとってこれ以上ない話題を取り上げられて不満を抱かないはずがない。それに貴公子としての側面しか知らない女生徒たちはせめてどのような命令で本国に帰ったのか、わたくしたちにはなんの言葉も言わずに帰ったのかと疑問は尽きない。
「デュノア君から『みんな僕のことは気にしないでください。いきなりこんなことになっちゃったけどみんなと過ごせて楽しかったです』と伝言をお願いされました。いきなりのことですが」
少しでも沈静化させたいのだろう。山田先生がそう言うが、気持ちの整理をつけろと言われても無理な話だ。
それでも彼はもういないことの事実を受け入れるしかなく、授業は通常通りに行われる。
織斑先生と山田先生が退室したときに追いかける人物もいたが。
「千冬ねぇ!」
「織斑先生だと何度言えば分かる」
1限目開始前のわずかな時間に織斑は教室を出て織斑先生に詰め寄る。
「どういうことだよ! シャルルが転校って」
「どうもこうもない。さっき言った通りだ」
「そうじゃなくて、あーもう! シャルルが政府の命令に従ったら」
「牢獄行きか?」
シャルルの事情を伝えるよりも早く、織斑先生が先を塞ぐ。織斑しか聞き取れない小さな声で言われ、織斑はまるでぎこちないロボットのように動けなくなってしまい口をうまく動かせない。
「私たちが何も知らないと思うか?」
「だ、だったら助けるだろ!?」
「織斑君。彼は生徒としてここに来た訳ではありません。それにあなたの白式のデータを取られ、逃亡されたらそれこそ学園の責任問題になります」
騒ぎになるのを恐れたのか簡単に説明してくる山田先生。しかし、白式のデータを取りに来たとか事情を知っているのだろうか。いや、彼女がスパイだったとしても、それは親が悪いだけだ。彼女の意志ではない。それなら保護されるべき対象のはずだ。
「ここは誰も手出しができないって校則にだって」
「デュノアは代表候補生の時点で企業または政府に帰属している。一般の生徒ではない。その校則も通用すると本気で思っているのか?」
1つ1つ逃げ道を塞がれていくような感覚を織斑は感じ、さらに追い詰めているのが自分の身内ということが怖い。
「助けられたはずなんだ。どうにか3年の間にどうにかできたはずなんだ!」
「それでお前は何をしたんだ?」
「え」
「何をしたんだと聞いているんだ。答えられないならもう教室に戻れ」
もう話すことはないと切り上げられたようでしばしば呆然とする。
なぜこうなったのか。そんなことぐらいしか頭に思い浮かばない。頭の中がマジックボードで書いてあることがそれしかないようで、それ以上のことを考えられない。そこから先を書き加えることが出来ない。
いや、頭の片隅に、ホワイトボードに消し忘れがあったことを思い出したかのようにその文字を追う。
あの日、シャルルが自身の秘密を明かしてくれた時にもう1人その場にいたことを思い出す。
急いで教室に駆け戻り、崎森章登の席に向かう。
崎森はまるで、何事もなかったかのように1限目の教本とノートをカバンの中から取り出している。
「章登! お前何やってんだ!」
「……は?」
まるで意味が分からないと恍ける顔をしている。しかし、演技としか思えない。
「なんでシャルルを退学させたんだ!」
「何を言ってるんだ、お前は」
「おりむー、話が飛躍しすぎて訳が分からないおー」
隣にいる名前不詳の人物もそういっている。こちらの諍いを聞こえた周りの生徒も見ているが関係ない。
「お前がシャルルのことを他の先生に吹き込んだんだろうが!」
「一夏さん、何をおっしゃっていますの? 吹き込むも何も政府の命令で帰っただけでしょう?」
セシリアがそう言ってくる。事情を知らない彼女たちは俺が狂言を言っているのに等しいのだろう。まずは彼女たちにシャルルの事情を話すべきなのだろう。
「だって、シャルルは……」
そこで気づいた。どうやって説明する?
白式のデータを盗みに来た。虚偽の宣伝で自社の株を上げようとした。そんなことをそのまま言ったら、きっと誤解するだろう。シャルルは悪人であったとか、そんなことのために来たのかと。
でも言わないと俺の正しさがみんなに伝わらない。このまま闇に葬っていいはずがない。なによりこんな状況を作り出したこいつを許せない。
「シャルルは白式のデータを盗みに来たスパイだけど、それは会社の指示でデュノアはまったく悪くないんだ。この事実を知っているのは俺と章登しかいない。だから章登が告げ口したとしか思えない」
「一夏さん、企業がそんなに代表候補生を束縛することがあれば大問題になります。フランス政府に喧嘩を売っているようなものですから」
代表候補生は国家に所属し、政府、企業が支援、援助している。IS操縦者を目立たせるために企業は出来る限りでの機体の整備や強化し、支援し、注目させることで自社のアピールをする。そうすることで利益を得ようとする。政府は自国の威厳を示そうとする。
だがISは国家の所有物。その所有権はコアを提供した国家にある。戦闘機が勝手に飛んで戦闘しました。なんてシャレにならない。厳重注意ではなく、もはや軍法会議で厳罰実行待ったなしである。
私的利用した時点でデュノア社は潰されても仕方ないのだ。
「そんなことになっていているのなら日本政府や学園上層部だって公表してフランス政府に責任問題を追及するでしょう。そうなっていないのでそれはないと思います。むしろ、デュノアさんが白式のデータを取りこの学園に来たのなら、わたくしたちは彼女たちを排除しなければなりません」
「排除って……なんでそんなことする必要があるんだ。シャルルは被害者だぞ!」
「命令に従っている時点で共犯者ですわ。まぁ、その話が本当なら犯罪に加担していることを知っていて行動した。そういうことでしょう?」
「じゃあ章登のやったことを認めろって?」
「そもそも告げ口なんてしてねぇんだけど」
「お前は黙ってろ!」
卑怯者の弁解なんていらない。だいたい誰のせいでこんなことになった。
そんな、光景を呆れたようにセシリアは嘆息する。
「はぁ。一夏さん感情的になりすぎてません? そもそも仮定の話に何をそんなに怒っていらっしゃいますの?」
「だから仮定じゃなくて本当の話なんだ!」
そうだ。シャルルがスパイでそれを章登が告げ口した。それであっているはずだ。それでなんでシャルルが悪者扱いされなきゃいけない。可笑しいじゃないか。
「だったらデュノアさんは、章登さんも一夏さんの助けを必要とされていなかったのでしょう」
セシリアはさも当然という風にそう言う。
「スパイだとばれて、助けを乞うわけでもない。それでも学園に居続けたということは自分で何とかできると思ったのでしょう?」
「いや、え。俺の助けが必要ない?」
ありえないと思った。だって、シャルルと仲間だったはずだ。仲間っていうのは助け合うものだろう。それでなんで俺の助けがいらないんだ?
「それで自分で何とかして国に帰ったとしか思えません。なんで章登さんが告げ口したと決めているか分かりませんが」
「だって、章登も知っているから―――」
「デュノアさんの正体を理解しているからという理由でしたら、一夏さん。あなたも正体を知っている人間ですのよ」
「何を言っているんだ。俺は告げ口なんてしていない」
「一夏さん、さっきからわたくしたちにデュノアさんがスパイだって言っていて、告げ口していないなんてよく言えますわね」
「…………あ」
しばしの間呆然とする。シャルルがスパイであるのを暴いたのは自分自身だ。
「いやでも、それを言わないと誰もわからないじゃないか!」
「虚偽であったとしても、本当であったとしても、誰もわからなくても、あなた
「ちょっと待ってくれ、シャルルは仲間だ」
この時オルコットの言っていることが理解できた。つまり織斑は、シャルルデュノアが仲間ではなく、スパイだと織斑自身が思っていたのだ。それだけは否定しなければならない。
「では、なんでわたくしたちに何もおっしゃってくれなかったのです? わたくしたちも信用に足らない人物であったということでしょう?」
「いや、だから、ばれるとまずいし、俺たちの力で解決するはずだったんだ。」
「つまり、誰かの介入も、手助けも必要なかっただけでしょ? で、デュノアさんは一夏さんの手助けもいらなかっただけの話ではないですか」
唖然とした。
つまり俺の手助けは必要ない。必要すらなかった。
だが、認めてはならない。認めていいはずがない。
何もしないことが彼女の助けになったなんて認められない。だって、そんなの幸せになっていない。
「はーい、そこーいい加減に席に戻ってくださいねー」
もう、授業が始まる時間となり教室に教科担任の先生が入ってくる。もうそんなに時間がたっているらしい。だがハッキリしなければならない。だって、章登がしたことは絶対に間違っている。逃げればいいなんて結局怖くて問題を先送りにしているだけじゃないか。
「織斑、そろそろ席に戻らねぇと事業が始まらねぇぞ」
鬱陶しそうに自分の席に戻れと章登は促すが、それが逃げているようで男らしくない。怖くなって逃げるなんて卑怯だ。
「まだ、話は終わってねぇ!」
「織斑君、もう授業始まっているんだから我儘言わない」
「いい加減にしなさい? 授業を聞く気がないのなら出ていきなさい」
これ以上は何を言っても回りも、章登自身も駄目らしい。
「逃げるなよ」
章登を睨みながら釘を刺しておいて自分の席に向かう。
その日の授業はあまり頭に入らない。休み時間に章登を問い詰めても、口言葉で返されまるで反省の色を見せない。男なら自分のしたことを反省して謝るものなのに、そんな行為は一切なく、挙句の果てにこちらがうるさいときた。
だったら白黒付けようじゃないか。こっちが正しいことを証明してやる。
「だから! 真偽を確かめたいなら他の先生に聞けって言ってるだろうが!」
「聞いても無駄だろう! お前が口止めしているんだからな!」
「……はぁぁぁああああ」
もはや織斑は俺がシャルルをスパイと告げ口した奴だと決めつけたいようだ。もう手の付けようがなく、困り果てた。
朝から休み時間にこちらに詰め寄り今にも殴り掛からんの勢いで問い詰めているのだが、俺は子供が癇癪起こしてダダこねているようにしか思えない。今も放課後のアリーナに向かって廊下を歩いているのだが、すれ違う人がこちらの騒ぎを見ている。精神的にきつい。
もういっそ認めてしまってとっとと解放されっようか。いや、これが誘導尋問か。精神疲労を溜めさせて自白を強要するとかどこの悪徳警官だ。
「じゃあ聞くぞ織斑。俺がシャルルをスパイと先生に報告したところで俺に何の得があるんだ? 後携帯電話で連絡くらい取って本人に確認したのか?」
「お前シャルルのこと嫌いだっただろうが。それに携帯番号なんて知らないんだから連絡のしようがないだろうが」
「デュノアが嫌い。だから何だ? 理由になってねぇぞ。それに連絡先なら先生だって知ってるだろ。そっから聞けよ」
「お前が嫌いだから追い出したんだろうが。シャルルを追い詰めたみたいに」
「………いつ、おれが、デュノアを追い詰めたのか事細かに教えてくれねぇか?」
「っ! お前! あのこと忘れてるのか! 最低だな! 男の風上にも置けねぇよ!」
もうやだこいつ。誰か助けて、織斑先生とっとと来い。こんなんだったら朝のあの時こいつも同席させた方がよかったんじゃねぇの?
日の出が出る前に携帯の着信音が鳴り、強制的に起されて嫌々ながらに通信ボタンを押すと更識先輩からの電話だった。
『グッドモーニング! 章登君!』
「………先輩何時だと思っていらっしゃるので? 常識が通じねぇとは思いましたが、人を思いやる礼儀すらねぇとは失望しました」
『あー、もしかしてまだ寝ていたい? それとも朝たちの処理するのに時間がいる?』
「用事がねぇようなので切ります」
朝っぱらからこのテンションの人の会話など付き合っていられない。何の拷問だ?
『あっ! ちょ! 待って! 待って、謝るから! デュノア君の件についてよ! あの後どうなったのか知りたいでしょ?』
「ええ、まぁ」
あれだけのことがあったのだ。結局、デュノアの処遇はどうなるのかや、デュノア社はどうなるのかくらいは聞いておきたい。
『あなたはデュノア君をどうする?』
「どうするって?」
『アキラちゃんの誘拐未遂、白式のデータの窃取、章登君への戦闘行為。彼女を無罪放免にすることは出来ないけど減刑にすることは出来るって話よ』
「で、なんで俺までここにいるんですか?」
そこは学校内にある地下区画に来させられた。織斑千冬専用の懲罰部屋があるとか、歴代のISを保存しているとかいろいろと言われている地下区画である。
「あなたも事件の当事者だから事情聴取をしなければならないのよ。それに示談についても一緒にしてしまいましょうってこと」
「だからって昨日今日の必要がありますか?」
「あなたは選択したのだからそのぐらいの面倒は受け取りなさいな」
誰かが入っているらしく外で待っている。
そうして待っていて出てきたのはつい先ほどまで、殺されても可笑しくない人物であった。
シャルル・デュノア。
目にはクマが出来ており、髪はボサボサ、特に『ブレーデッド・バイケン』で殴られた痣が青くなっており痛々しい。あの戦闘からそのまま地面に伏せていて連行されてきたのだろう。無論ISは没収されISスーツを着たままの姿でところどころ擦り傷も見える。
今まさに手錠を掛けられ法廷か刑務所かに移動させられるようだ。
「どういうつもり? 減刑にするなんて」
「なんだ? 減刑になるのが嫌だったのか?」
更識先輩に減刑するか、しないかでする方を選んだ。恐らく今の部屋で聞かされたのだろう。
「感謝なんてしてないから」
「何にだ?」
「無責任な偽善者くせに、どこまで邪魔して惨めにすれば気が済むわけ!? 君がいなければすべてうまくいったのに!」
「それはないわね」
更識先輩が釘を刺す。今のデュノアには発言の自由はあまりないようでまるで物言わせないように続ける。
「あそこで誘拐が成功しようとあなたはデュノア社に切り捨てられる運命。それにデュノア社の部隊があなたを殺しに来たことすら知らないでしょう?」
「そんなことどうでもいいよ。僕は偽善者装って減刑して無かったことにしようとしている奴が気に入らないってだけ」
「無かったことにする? そんな気なんてねぇよ。だいたいお前何もされたくないからそうしただけだ」
どうやら俺が偽善者ぶっているのが気に入らないらしい。根本的な間違いだ。
俺はシャルルデュノアを救いたいとは思わない。
なぜなら彼は何してほしいとは思っていない。だから、罰なんて与える気もない。
「邪魔する? するだろうが、どっちを優先するかなんて俺の自由だ。惨めにする? お前が思っているだけだ。俺はお前を救わねぇ。関わることもしねぇ」
「じゃあなんであの子は助けたの! あの子だってほっといてほしかったはずだ」
「お前が苛めて、泣いたのを見たからだけど? 何? そんなに不思議がることか?」
結局のところデュノアは本心ではあの状況から抜け出したかったのだろう。
抜け出せれさせすれば、助けなんていらなかった。
俺は無力と思われ必要ない。織斑も尽力したのかもしれないが無理だと思った。更識楯無は知らない人だ。絶大な力を持つ織斑千冬はむしろ騒ぎを大きくして邪魔になるだろう。
だから嘘をついて平気なふりをした。
俺には助けを求めなかった。織斑は頼らなかった。更識楯無は意識外だった。織斑千冬は邪魔だった。
結果。彼女は救われない。これはそういっただけの話。
「どっちの味方をするかなんて俺の自由だ。俺はアキラの方を助けた、お前は助けない。嘘ばっかりついている奴の味方に立って、他の誰かを不幸にしたくない。だから俺はあいつの味方になっただけだ」
「嘘つく以外にどうすればいい! それ以外に味方になってくれる奴なんていない! 諦めて、容認して、従っている方がよっぽどいいよ! 力を知らないから、怖いなんて思わないからそんな言葉が出てくるんだ! ヒーロみたいに組織単位で誰が立ち向かえるっていうんだ!」
そんな罵声を浴びせてくる彼は、恐らく、本当は。
「自分が許せないだけか?」
組織に対抗する力を思てない自分が、それに抗う勇気がない自分が、したくなんてないのに、従いたくないのに実行している自分が。
命令違反でどんな目にあうか、逃げられたとしても先が見えない。そんなリスクをデュノアは背負いきれず負けた。
「だったら、もういいだろう。お前はもうデュノアの組織の一員じゃねぇんだから」
「え」
「何恍けた顔して上がる。ここまで問題を起こして、拘束されて、それでも使い続けるなんてリスクを自社の保身を優先する奴がすると思うか?」
だとすれば、いっそのこと使えなかったと切り捨ててしまわれた方がいい。前科があり、警察の犯罪リストに載った奴など誰も使いたがらない。もう彼はISに触れることはないだろう。
「だから何? これからどうしろって? 悪者は退治されたってことでしょ! そんな奴に未来があるか!」
「しらねぇよ。服役し終えて出所した先はお前の人生だろう。企業とか妾の子なんて関係ない。お花屋さんになりたいでも、パン屋さんで働きたいでもいくらでも考えろ。もう未来がないなんて言わせねぇぞ」
「……本当にそんな生活があるの?」
デュノアはつぶやく様にして問いかける。
彼女は諦めたと言った。更識楯無は未来がないと言った。ここに至ったのは偶然で俺の力じゃない、最善ではない。
だけど。
「未来ならできたんだ。これから先デュノア社がお前に介入してくることはねぇ。後はお前の好きに生きればいい。それでも問題が起きたのなら、誰かを傷つける側じゃないなら、誰かに傷つかれる側なら、遠慮なくお前の側に立ってやる」
そう言った後、デュノアはどこかへと移送された。
これから何年牢獄の中で過ごすかはわからない。だけど、出れたらそこからは彼、いや彼女の人生だ。その中で彼女が嘘偽りない笑顔で過ごすことが出来たのなら、それが彼女にとって本当に未来が出来たと言えるのだろう。
だが、それらを知らない。知らすこともできない織斑は納得が出来ないらしい。
「いい加減に認めろよ。お前がシャルルを牢獄送りにしたって!」
「はぁ」
もう嫌だ。だいたい白式のデータを軽々と取られる織斑も悪いと思われる。デュノアの罪科には白式のデータの窃盗も含まれているのだ。これを伝えると織斑はデュノアの実刑を軽めるように言うのかもしれないが、彼だけの問題ではない。
白式を作った企業も騒ぎ立ててしまい、むしろ彼女の刑期が長くなる可能性がある。考えなしに実行しそうでそれが恐ろしい。しかも、大事な男性IS操縦者の近くにスパイがいたと騒ぎ立てられて(もうなっているけど)今以上に制限が付きこちらまで火種してしまったら不味い。IS学園は危険なのでこちらで保護します。そして始まる24時間の監視生活。
冗談じゃない。なんでこっちまで被害をこうむらなきゃならん。
「いい加減にしてくれ。俺はデュノアに関することで何もしていないし、関わってもいない。というか、俺が先生に伝えてすんなり信じると思うのか?」
嘘ではない。アキラを助けるためにデュノアと戦ったためでデュノアを倒したかったわけではない。減刑にしたが彼女自身ほっといて欲しかったわけだし、誘拐未遂を許したわけではない。
告げ口したのも更識先輩であって先生じゃない。
いろいろ屁理屈みたいに自分でも思えるが、嘘ではないのだ。
「ふざけるな! 先生が知る知らないじゃない。お前しかないないんだ」
「どうしても俺を犯人にしたいのなら証拠を提示しろ」
「知っているか章登。そう言った犯人が言い逃れできたことは一度もないんだぜ」
「それは証拠が見つかっての話だ」
俺の言ったことは聞かずにどこかへ去っていく織斑。恐らく証拠となるものを探しに行ったのだろうが、俺自身何が証拠になるのかわからない。
考えても仕方ないとアリーナに向かおうとしたとき爆発でもしたかのような音と振動が廊下を伝う。
なんらかしらの問題がまた起きたらしい。
この学園に平穏なんてものはなく、毎度毎度トラブル発生なのではないのだろうか?
やばい
何がやばいって織斑がデュノアの秘密をばらしているとこ。これ真偽なんてほっておいても今後学園を騒がすことになる可能性がある点。そこまで書けるだろうかという作者自身の問題。
やばい
何がやばいって原作だろうとデュノアがいなくなっても重要ではないこと。
第二世代で最新鋭の専用機と渡り合うってどれだけ技量のあるやつだと思われるかもしれませんが、2巻でのエネルギー補給以降、活躍した場面なんてあったっけ?(デートや恋愛イベントを除くと訓練風景も他の教師にやってもらえばいいだけだしなぁ)としか思い出せない作者の記憶能力の問題。
しかし、デートイベントはなんでかよく出てきてるよなぁ。かわいいのは認めるが。
はい、すべて俺が考えなしに書いたため悪いのでございます。