IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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 治ってない誤字

なんでさ
もう、目測でやるしかないのでしょうか?


第18話

 辺りがすっかり暗闇に包まれた海上で戦闘が開始されていた。

 豪雨と波が出す音で発砲音、金属音は暗闇に紛れ学園内部から正確に聞き取ることはできないだろう。

 それぞれ隊員ごとにチューンされた10機のラファールが踊り、20機の教員用のISが荒れ狂った海の上で飛び回り戦闘している。

 2対1の戦力比だが、数に惑わされ動きを鈍らせたり戸惑うような操縦者はデュノア社側にはいなかった。

 早々に落ちないのはそれだけデュノア社側が訓練しているからだろう。それに加え教員たちはあくまで教師だ。生徒に教えるのが本業であり、自身の技術向上は劣らないように最低限だろう。錬度であればデュノア社側が勝っているといっていい。

 性能の方では教員たちの方ISコアを使っているので分があり、織斑千冬は見た目は打鉄だが専用のチューンがされかなり速度が出せる様にしているらしく、山田麻耶が乗っている改修型のラファールにも引けを取らない。榊原 菜月(さかきばら なつき)や各教師たちもそれぞれ自分に合わせた機体調整をして嵐の中を戦闘していた。

 デュノア社側が個人チェーンをしているのはあるがどれもIS電池を使っており稼働時間、出力には限界がある。

 だが、それらを連携で補い戦闘を続行しつつある。

 一気に決着をつけるような戦い方ではなく、淡々と回避し弾幕を張り相手を近づけさせないような戦い方。相手にじれったさを与えるような粘る戦い。

 開戦は10機と20機の牽制による射撃でどっちつかず状況であったが、ジワリジワリと距離を詰めて来た。

 このじれったさに動いたのは織斑千冬であった。

 本来彼女はこのような明確な結果がでないような戦いはあまりしたことがない。

 白騎士事件の時にはミサイルの撃破というスコアが分かりやすく、モンドグロッソでは試合で勝ち負けが決まり、それも俊足で雪片の攻撃力による一撃離脱。剣道でも余りの強さに大抵が2、3振で面を取ってしまうような猛者である。

 持久戦や消耗戦の心構えがあったとしても想像と現実では使う体力や緊張感も違う。

 そもそも言葉より手が出る教育者がじれったい戦いを望むだろうか?

 答えは否や。相手が罠を張るのなら食い破ってしまうのが彼女の流儀であり、こう着状態というのは彼女の望む形ではないため、彼女は腹の奥底で苛立ちを溜めていく。

 このような防衛戦より、思いっきり暴れるのが彼女の性分としては合っていた。

 これが防衛が容易い状況であったとしても、おそらく彼女は攻撃に出ることで状況を打開しようとするだろう。

 頭で理解して体と感情がそう動くのだ。

 感情と経験の問題。

 短時間で終わるため長時間に募る苛立ちの感情の押さえ方を知らない、負けを知らないため勝ちしか知らない彼女には、勝ちが見え辛く遠い長期戦で勝つというのは無理なことであった。

故に前に出る。

 

 自分の得意な近接格闘が可能な距離まで近づいてきたとき織斑千冬の打鉄が先陣を斬っていく。

 盾を構えた機体に切りかかって行ったが即座に相手の上を通る様に飛び、相手を通過するところで刃筋を立てながら体ごと回転し、その動きに合わせ刀で相手のスラスターを傷つける。

 そこのバランスを崩された隙を逃すはずもなく、機体を一瞬で反転し相手に斬撃を放つ。だが、流石に相手も手ごわく、機体制御がやり辛いはずなのに物理シールドで斬撃をそらし、手に持っていた火器で反撃しようとする。

 だが、受け流したはずの刀が軌道を翻して火器を真二つにする。まるでチェスのクイーンにターンを無視して3回連続で行動しているようなものだ。

 織斑千冬を相手にしていた機体は目の前の相手に気を取られすぎて、先行している織斑千冬に追いつくようにして機体に飛び出してきた機体。

 剣道部の顧問の榊原先生が乗っている打鉄『撃鉄』が『HW01-ユナイトソード』を変形させ片刃の強大な剣を片手ずつ保持して後ろから切りかかってくることに気付けなかった。

 ユナイトソードは鉄板が刃になった幅広い片刃の剣、ナックルの様に手を保護するように「く」の字のようなカタール、そのカタールの下に標準のナイフを左右対称に繋げて出来た大剣なので分裂させることも可能だ。

 そんな刃の集合体な大剣に左右から挟み切られ、操縦者ごと押しつぶすかのようにラファールの装甲を潰しながら切る。押し出されたラファールの装甲はひしゃげ潰れ痛々しい。

 その振り終えたところを4体のラファールがミサイルポッドを展開し発射。4方からの猛烈な攻撃に慌てることなく、双剣を刃から刀身に捻りそのまま手首を回転。まるで2つの草刈り機が回る中にミサイルが激突し爆風を生み出す。

 双大剣に煤の様なものが付着しているが、叩き斬るのには問題ない。

 問題は陣形と機体性能であった。

 

 防衛線から離れすぎて孤立しているのに等しい。確かに全盛期の織斑千冬で、ISが『暮桜』であったのならどうにか出来たであろう。だが、今乗っているのは個人的に改良されているとはいえ『打鉄』である。

 いくらISが身体の延長上とはいえ自分の身体ではないのだ。一次以降で機体が自身を理解していない機体でいつもの感覚で動かして誤差が、消耗が、劣化が出ないはずがない。

 さっきの攻防でもそれは出ていた。本来一撃で切り伏せられたが、三撃必要とした。もし乗っているのが『暮桜』ならば雪片の特殊能力のバリヤー無効化ならばスラスターに一撃入れただけで戦闘不能になっていただろう。

それだけ織斑千冬の動きに量産機ではついていけないのだ。機体の性能を考えず無理やり動かし続ければ異常が発生しないはずがない。

 実際、各部のスラスターの冷却が追い付かず熱を帯び始めている。このままいけばオーバーヒートして機能しなくなるかもしれない。

 だが、織斑千冬は各部スラスターを制御し盾となってくれていく榊原先生のことを無視して陰から出て敵に向かっていく。

 一機が4つの多方向推進翼に付いている盾の裏側に接続された武器ミサイルポッドから一斉に48発もの小型ミサイルを開放する。

 強引にミサイルの誘導を振り切り、他の機体が回避先に照準を合わせアサルトライフルを放つ。牽制にしてはこの嵐の中精確な射撃だったため回避しようとしたが強風に煽られ中々思うように動かないため盾で防ぐことを選択した。

そのために勢いが削がれ各方位から銃弾を食らう。

 弾が盾に当たり軽快な、しかし物騒な音楽を奏で反撃しようとした所を後ろ接近している織斑千冬の打鉄が背後から斬られそうになる。

「くっ!」

 避けきれないと思い刀と短刀が切り結ぶ。

 浮遊している物理シールドは依然として操縦者を守っているが物量が多いため壊れるのも時間の問題だろう。

 この状況を切り抜けるために短刀を弾き切り掛かろうとするが、挙動が一瞬遅れる。

 無理やり動かしていたので、故障とまではいかないが反応が遅れる。

 そこを好機とばかりに短刀が胸元まで迫るが突然の横槍に敵機が吹っ飛ぶ。

『打鉄 撃鉄』の強靭な馬力で投擲されたユナイトソードが相手を釘刺しにしかねない勢いで飛来したのだ。

 しかし、それで敵機の標的が榊原に向くかと言うとそうではない。

 確実に弱っている獲物を早々に片付ける方が先と判断したのだろう。銃弾は打鉄の浮遊している物理シールドを壊さんと激しく叩き付けている。

 流石に物理シールドの耐久値を超え軋みを上げ亀裂が走る。そして、小型ミサイルで粉砕され爆風の衝撃と破片が織斑千冬に叩き付けられる。

 これを好機と前線を押し上げるデュノア社側の部隊。が、山田先生や他の教員達がグレネードとアサルトライフルを発射し牽制し、前線を引き留めようとする。それでも、1 機逃してしまい。学園の方に迫った。

 この場にいる8機が決死の覚悟で教師陣を食い止め始めた。

 逃した1機は夜の暗闇に紛れるようにして姿を消し学園に接近する。

 

 

 特殊加工し水中にいたISが海上で学園側のISが戦闘しているのを見計らい闇に紛れIS3機が上陸する。本来この嵐だと海流の動きで流されるはずなのだが腰に付いたアンカー、足裏のスパイクで海底に体を固定し、重装甲に物理シールドを6つ取り付け重くして海流に逆らい、海底を歩いてきたのだ。

 ガスマスクの様なヘルメットを被っており、それと繋がっている一抱えある酸素ボンベを上陸時に下し目標に向かう。

 10機近くのISは、学園の外れにいる開発者は、シャルル・デュノアの回収は囮に過ぎない。

 本命は織斑一夏の誘拐。

 デュノア社のIS10機と操縦者10名を失ったとしても取り返しは可能である。秘密裏に育て表沙汰にはならない部隊なのだ。

 シャルル・デュノアをスパイだとばれやすいように潜入させ、目標を達したシャルル・デュノアを別働隊が回収しに来たと思わせるのが目的だ。

 ここで彼らとは別のルートでデュノア社の極秘の研究施設に運べば

 無論、今戦っている部隊はそのことを知らず必死に食付いてくれるおかげで、誰もこちらに気付いていないはずだった。

 だが、気づかれてしまえば対策は打れてしまう。確かに主な防衛力は教員のISによる戦力だが学園には教師だけが住んでいるわけではない。

 目標に向かおうとISを飛ばそうとした時、違和感を感じ戸惑ってしまう。

 飛ばないのだ。足に何か絡まっているようで。

 目を凝らしても何も見えない。これが雨天時でなくただの夜ならその足に絡まった水に気付けただろう。

 だが、さっきまで海中に潜み、今も雨に打たれて自身の体がぬれていたのではとっさに水が植物のつたの様に絡まっているのは解らない。解った所で今度は不可思議な現象に恐怖感をあらわにするだけだろうが。

「くたばりなさい」

 そんな時、正面からいつの間に接近したのかISを纏った人物、更識楯無がいた。

 こんな土砂降りの中でISを纏って対峙するなんて敵に決まっている。故に近接ブレードを引き抜こうとして、腕を腰に伸ばそうとするができない。

 足に絡まった水は毛細血管の様に相手に広がり動きを拘束していた。本来水にはこのような拘束力などない。が、透明なナノマシーンを連結し各部に行き渡らせればそれは全身に糸や鎖を巻いているに等しい。

 そんな動けない敵に容赦なくガトリングが内包されたランスを悠然と相手の顔に向け発砲。ガトリングの弾が雨霰と放出され顔にぶつかっていく。

 ヘルメットはすぐさま砕け、肌が露出し、絶対防御が発動する。しかし、いくら生命を守られると言っても怪我や傷を負わない訳ではない。打ち身や打撃の様に青痣が出来ることもある。

 ボクサーのパンチの様な銃弾を瞬時に顔に受けたIS操縦者の顔は鼻が潰れたのか鼻血をダラダラ流し、青痣を頬や額に作り、眼球は潰れかけ、顔は全体的に腫れている。もとは美しかったかもしれないが、今の姿では初老で顔が崩れ肥えているおばさんにしか見えない。その顔は傷が治っても一生そのままも印象になってしまうのではないかと言うほどに腫れている。そもそも鼻の骨が砕けている時点で顔が元に戻る可能性を与えない。

 その一瞬の形成術に恐れをなしてか震え始める2人の捕虜。

「待ってくれ! 降参する」

 所詮金で雇われている関係である。利益よりも損失の方が高ければ、何よりこの状況で反撃の機会なんてないに等しい。ならば相手に牢屋に入れられ捕虜として扱われる方がまだましだ。IS学園には同じ女性しかいないため酷い拷問は受けないだろうと思っていた。

 が、そんな考えは一蹴される。

「知ったことではないわ」

 更識楯無はいつもなら声にしないような、感情など含まれない冷え切った声をだす

「別に捕虜でもなんでもないし。だって武装放棄すらしてないのだもの。まだ戦闘は継続中よ」

 この場合ISを脱ぐことで武装放棄となるのだろうが、毛細血管の様に広がった水の網が邪魔をして脱ぐことができない。

 そのため、戦闘放棄してはいない。量子変換で爆弾なりナイフなり呼び出してくる可能性があるのだから。

 要は更識楯無による一方的なリンチ。

「ここに手を出したことを後悔しなさい」

 ガトリングガンを内蔵したランスが唸る。

 

 

 

「邪魔、だっ!」

 そう吐き捨てながら一閃。進路を塞いでいたラファールの推進翼を斬り裂き海に落とす。が、攻撃後の切り返しや軌道が遅い。そこにアサルトライフルの弾幕を当てられる。

 普段なら何てことはない。冷静に対処すれば避けれる。が、ISが1機突破し学園に向かったことに危機感が募り、いくらチューンしているとは言え打鉄の処理限界を超え続ければ正常には働かない。

 そのため今の剣技には洗礼さが余りない。刀にはヒビが走り刃先が欠けている。

 回避行動しようと機体を動かすが、強風とこれまでの戦闘の消耗で思うように動かすことができず立て続けに食らってしまう。

 そこに遮るように壁にも思えた大剣が前に出てきた。

「何やってんですか! 機体がアラート言ってるのに一人で突っ込み過ぎですって」

「いや、しかし! 私が生徒を守らなければっ!」

 まるで言っていることは義で気心地がいいが、その声音には苛立ちと不満が含まれている。

「アホくさい。生徒を守るとか考えてないでしょうに。ただ自分の名前に傷がつくから嫌々やってるだけでしょうに」

吐き捨てるように榊原は言う。

 未だに銃撃を続けられ重音を鳴らし、ユナイトソードが枯枝の様に軋みを上げ亀裂が広がる。

 織斑千冬は最強だ。それは他の戦闘教員と比べて飛びぬけている。その力で織斑一夏を救いに行き、ラウラボーデヴィッヒを鍛え部隊の上位にすることができた。この力が誰かの役に立つことを覚え学園に赴任することにも抵抗はなかったし今後ともその様にしていくべきだと思った。

 だが、ラウラボーデヴィッヒは暴力を振るう事で自分を正当化するようになってしまい、女尊男卑の世の中では、力が強い方が偉いと思われる世界では自分が正しいのか疑問に思ってしまった。それを自分が起こしてしまった事であるし、否定されると今までしてきたことを水の泡のような気がして正当化しようと強くあり続けなければならないと思っていた。

 誰よりも強く、その力で誰かを救う。

 だが、榊原はまるで織斑千冬の言動に何の深みがないと断じた。

「守るといいながら守っていないのはどこの誰ですか? ってか、本当に守りたいものなんてあなたにないでしょ」

「何を言って」

「だって、織斑先生、真意に相手の気持ちに向き合ったことなんて一度もないでしょ」

「―――」

「ない」とは言えなかった。

 ボーデヴィッヒのことについては何もしていないというのは事実だ。どうやって解決すればいいのか分からないから放置している。

 一夏にしてはもはや他の代表候補性に任せる始末だ。自身に声を掛けなくなったからとか、他の代表候補生の動きも参考になるとか自身で納得させて。

 唯一の弟が何かしらの事件に巻き込まれ戦うことになるかもしれないのに、使用機が自身の後継機であるのにアドバイスもしていない。

 

「あなたは暴れたいだけでしょうに」

 その一言は織斑千冬の本心を現していた。

 生徒に体罰をしている時点で暴力的な人間であり、生徒が問題を犯しているのに何もしない無関心。

 そんな人間が誰に何を教えるというのかなどわかりきったことだ。

 

 暴力。ただそれだけしか教えられない。

 

「どっかいってください。邪魔です」

「だが、倒さなければ―――」

「守ることが重要なのに攻めてどうするんですか」

 脅威を無力化すれば勝ちなのではない。脅威から守りきれば勝ちなのだ。

 教員達は訓練を受けているとはいえ自主的な参加だ。

 そもそも彼女達の仕事は教えることであって戦うことなど二次的なことに過ぎない。 操縦訓練や競技としての戦法は教えるが、他人との命のやり取りなど教えるはずがない。

 ましてや訓練された兵士と殺し合いになる戦いなど蚊帳の外といっていい。

 決して戦わなければならない命令があるわけでも、戦いたいだけの人物達の戦闘狂の集まりではない。

 ただ、未来に向かっている子供達を守りたい。

 たったそれだけのことで今この場にいるのだ。

 それだけあれば戦えるのだ。

 だから、

「防衛戦を、生徒を守る気すらないのなら消えてください」

 

 その一言で織斑千冬は分かってしまった。

 結局今まで自分がやってきたことはただの暴力のはけ口を探していただけなのだと。

 暴力を振るうための言い訳を探していただけなのだと。

 

 そんな事を思っていた時、いよいよ大剣が壊れた。

 壊れた直後、腰部に取り付けられた鞘をぐるりと回転させ先についている散弾を相手に向け放つ。

 集中砲火で攻撃することに意識を向けていたため、とっさの攻撃に銃口を向けた相手は反応できず、そのまま大量の鉛玉をくらい衝撃でのぞける。

 その一瞬の隙をついて動きづらい織斑千冬の乗った『打鉄』を抱え瞬時加速する。

 一気に防衛線まで戻った時、抱えていた織斑千冬をその場に放り投げる。

「榊原先生!?」

「すいませんが余計な問答をしている暇はありませんのでこのまま学園に入った侵入者の方に向かいます」

 

 

 

 

 突然の爆発に目を瞑る。

 だが爆発したのに体を襲う爆風や破片はない。真っ白な光が網膜を焼きつかせ痛みが目を覆い、莫大な音が耳を引きつらせる。

 目を瞑ったところで防げるはずもなく、なすすべなくその場でうずくまってしまう二人。無論、そんな隙を見逃すほど相手は甘くない。

推進翼を吹かして速度の乗った蹴りを章登にかます。そのまま壁に突っ込み回復するまでに数秒は掛かるだろう。

 それを確認した後、うずくまって恐怖で、痛みで顔が歪んでいる少女を力づくで抱える。

 耳は聞こえず、目も見えない状況で、感覚だけが彼女の脳に連れて行かれるという恐怖を与える。

 このまま連れ去られてまた何かを作らされるのか。

 また人を殺してしまう武器を作るのか。

 そんなことはしたくないと、ここから離れたくないと拒絶の感情が彼女の体を動かす。

 ジタバタと手足を動かし、必死に暴れる。

 

 打ち身が酷い。咄嗟のことであったので受け身をとることができず壁に激突したからだろう。頭をぶつけたせいか風邪をひいた時のようにぼんやりとする。

 朦朧とする意識の中では現状を認識することすら困難であった。

 さっきの光は何だったのか、衝撃は誰が放ったものなのか、体を動かすのも億劫である。

 そんな視界の中で機械の腕に抱かれながらも手足を必死に動かしもがく少女の姿があった。

 それだけ分かれば十分。

視界が戻ってくる。ISの操縦者保護機能が働き失った視力を回復して目の前の光景を見せる。

鮮明になった光景は少女の恐怖で強張り涙を流す顔を見せる。

立ち向かう理由はたったそれだけでいい。

億劫な体を動かし前に進む。

 

 立ち上がりこちらに歩いてくる章登を一瞥したラファールの操縦者は迷わず近接ブレードを投げる。

 弾丸は寸分の狂いなく章登の胸の装甲に当たる。

 だが、その歩みは止まらない。

 予備の武装なのだろうか、膝下のマルチウェポンラックから近接ブレードを取り出し 次々と投げつけてくる。シールドエネルギーを現す表示はみるみると無くなっていくが、それに物怖じしたりはしない。むしろ歩幅を早め走ってくる。

 照準を変え顔に当たるように修正し後ろに引きながら投げつける。人間は本能的に顔を守ってしまう、故にそれで怖気づいたところでタックルして飛ばすつもりだった。

 だが、顔の前に手を置くことすらせず突っ込んでくる。

 少女が暴れているため飛ぶこともできない。

 このまま瞬時加速してしまうと強力なGでブラックアウトどころかレッドアウトして頭部の血管にかなりの負荷をかけ脳内出血する可能性がある。

 軽めに飛んだところであちらが瞬時加速すればすぐさま追いつかれてしまう。

 しかし、どうすればいいかと考えている間に崎森章登は攻撃範囲に入る。

 近接ブレードで突きを放つ。

 だが、突き出した手を左脇に挟み込み拘束される。

 

 引立《ひきたて》と呼ばれる柔術がある。

 突き出された腕の側面に回り、相手の横で脇で抱え込むようにして腕を拘束し、もう片方の手で相手の手首を取り腕を一直線に伸ばすことで無力化する技である。

 

 章登は真正面から相手の右手を脇に挟み、肘を手で押すことで腕を一直線にして動きを封じる。相手は左手で少女を抱え込んでいるため手放さなければ反撃はない。

 そこに右手で単分子カッターを展開し首に突き刺す。

 絶対防御に阻まれ相手を傷付けることは出来ないが見る見るうちにシールドエネルギーを削らせる。

 このままでは負けると悟ったのか相手が少女を空中に放り出す。

もう片方の手に近接ブレードを持ち章登に振り下ろす。

その速度は素早く密着した相手は避けられはしないだろう。

首筋に迫る白刃。その軌道は章登の目には遅く感じた。

 オルコットとの対戦の時の様に世界が遅くなる。

 瞬間反射現象。

 スローとなった世界でも章登の動きが速くなったわけではない。むしろ遅くなった分、白刃の進みスピードにジワリジワリと近づいてくるため恐怖が増す。

 そんな中で右手を動かす。慌てず、だが機敏に。

 首に置いた単分子カッターを相手の近接ブレードの側面に滑らせるようにして外側に押し出しつつ、軌道を変える。

 そして相手の刃の軌道を変えつつ自身の刃は相手の手首に向かう。

 手首をとらえた刃は切り刻まんと刃を回転させ火花が迸る。

 一瞬の抵抗の後、相手のシールドエネルギーが尽きたのか丸太を切るようにして、単分子カッターが相手の手首にめり込んでいき、切断する。

 そして、手首を切断し終えた単分子カッターを相手の喉元に突きつける。それと同時に時間の延滞が無くなっていき瞬間反射現象が解除される。

「……っ」

「……で? 投降するのか?」

「…………」

 返答は沈黙。

 どうしようかと悩む章登。

 さっさと喉元に単分子カッターを突き刺して早々とここから退散するべきではないだろうか? そんなことをせずともアキラを担いで退散するべきだろうか? 

 そんな考えが頭の中をめぐる。

 ゴールデンウイークに敵に向かって銃を撃ったのだ。相手を傷つけることが出来ないというわけではないだろう

 相手を殺すのが嫌? 確かに人殺しになどなりたくない。こっちは学生なのだ。命のやり取りなどしたくもない。

 だいたい俺はいったい何をやっているのだろう?

 そう思い単分子カッターを下してアキラの方に向かう。

 

 なんて間抜けな奴。

 眼前にいる敵に背を向けるなどどれだけ甘い奴なのだろう。

 まだ微かに残ったエネルギーを起動し敵の背に照準を合わせる。

 敵のシールドエネルギーも残りわずかだろう。

 ならば即座に引き金を引き相手を戦闘不能にし、棺桶になった相手を殺して任務を遂行する。

 

 別に章登は油断していたわけではない。

 ハイパーセンサーの360度見渡せる性能を生かして後方の相手を警戒していた。故に相手が銃口を向け発砲直前、身をひるがえし手にしていた単分子カッターを―――

 

「私の生徒に何してんだぁあ! うらぁぁあああ!」

 

 何かが叫びながら勢よく飛んできた。

 突然のことで単分子カッター突き出す体制で固まってしまう。

 飛んできた何かはラファールを引き飛ばし倉庫の壁に叩き付ける。

 そしてぶつかった反動で止まった何かを見てみると打鉄 撃鉄であった。

「大丈夫!?」

「え、あ、はい」

 しどろもどろになりながらも答える。

 しかし、これだけのことがあったのにアキラの方は返事がない。立て続けに起こった出来事で口が開かないのだろう。そう思ってアキラに目を向ける。

 そこには少女がピクリとも動かず倒れていた。問題は黒い液体が頭の周りに纏わりついている。それをハイパーセンサーが血と判断した。

「……え」

 少女に近づき、呼びかけ少し揺らしてみるが反応がない。コンテナに血が付着している。恐らく投げ出されたときにぶつかったのだろう。

「ちょ……え? せ、先生!?」

「動かさないで! 今医療施設に連絡して運んでもらうから横に寝かせなさい!」

 いつか聞いた話であるが、意識のない人に仰向けに寝かせてしまうと喉に舌が落ちたり、嘔吐物が詰まる可能性があるため、気道確保のために横に寝かせるらしい。

 そういった応急処置を施しつつ医療施設からの人物を待つ。

 

 

 白い廊下を蛍光灯が照らすからぼんやりとした感覚が拭えないが、長椅子に座った章登は床を見続けるしかできなかった。

 あの時どうすればよかったのか、話すことなどせずさっさと避難すればよかったのではないだろうか。そんなことを考えて思考を捨てる。

 そうしていると隣に更識楯無が座って話しかけてきた。

「大丈夫?」

「平気に見えると思うんですか?」

「まぁ、そうよね。でも、自分を責めるのは筋違いよ」

 そう言った後に続く言葉はアキラの所に行かせた自分を責めるものと思っていたが違った。

「シャルル・デュノアがあそこに行くのが分かっていて、あなたをあそこに行かせたのだから」

 ……彼女は今何と言っただろうか?

 自分の判断が間違っていたという自負なのだろうと思ったが、この言い方ではまるで戦うように仕向けたとも聞こえる。

「……どういうことですか」

「シャルル君と戦う理由があるの。

 1つは確実な証拠を掴むため。データなら破棄や消去される可能性があるけど、暴行なら傷が証拠になるから。それによる賠償や取引材料。

 2つ目はシャルル・デュノアを拘束するため。

 3つ目はIS学園の防衛力の高さを他に知らしめることで各国に牽制」

 3つ目の理由は先月の所属不明機がIS学園に襲撃してきたことが原因だろう。あれで防衛力がないと判断されてしまうと他国が防衛という名目で干渉してくるからだろう。しかし、それを俺にさせる理由はない。シャルル・デュノアを拘束するなら俺でなくともいいはずだ。

「俺がデュノアと戦う理由は? そもそもデュノアに負ける可能性の方が大きいはず」

「最初はあなたと戦わせる気はなかった。本当にアキラちゃんを誘導したかっただけ。そのためにあなたにアキラちゃんのこととか、狙われる理由を話さなかったのは謝る。でも、話してしまったら余計な感情を持ってしまうかもしれない。それでアキラちゃんと章登君の中にいざこざが起きてしまう方が厄介だから言わなかったの」

 アキラのしたことを他人がどう評価するのか。俺は少なくとも彼女に対して嫌悪感はない。俺が嫌悪するのは彼女の望まない方向に利用した人物と利用しようとしたデュノア社だ。

「デュノア君が誘拐に成功したところで、彼女を利用することは出来ないでしょう。こちらは証拠をかなり掴んでいるから数時間で日本政府が拉致被害を突きつけ、フランス政府がデュノア君や命令した人物を極刑に処する」

 つまりデュノアは首の皮一枚で助かったということなのだろうか? だが、そもそも彼女は組織の命令という暴力を叩き付けられただけで、最初は被害者だったはずだ。それがいつの間にか加害者になっていた。

 それでも、彼女が身の上話をしたときに何か出来たのではないだろうか? 『自分は何もせず諦め流される』という答えを、せめてデュノア社から逃げてしまうという答えにできなかったのだろうか。

「……なんでアキラみたいに逃げなかったんだ?」

「……きっと逃げた先が見えなかったのよ。デュノア社から抜けることが出来たとしても、元の家には帰れない。後ろ盾が全くないところよりそこに居続けるくらいしか選択肢がなかった。そう思ったのでしょうね」

 見えない未来の困難より、現状に身を任せて生きていく方がデュノアにとっては堅実だったのだろう。それは悪いことではない。誰だって死にたくはない。だけどやはり自分が生きるために誰かを傷つけるのは間違っている。

 でもそれは俺の感情であってデュノアの感情ではない。デュノアは相手を傷つけても生きたかっただけなのだろう。

 だったらそれを阻害した俺は、俺のした行動はただの偽善ではないだろうか?

 アキラは守れなかった。

 デュノアも救えなかった。

 精一杯力振り絞って頭使った結果がこれだと、ピエロとしか思えない。

「俺は、どうすればよかったんだ?」

「……アキラちゃんは誘拐されずに済んだ。かなり強く頭を打ったけど命に別状はない。アキラちゃんが誘拐されていたら、デュノア君は法で裁かれず他の第三者が介入してアキラちゃんはそれに巻き込まれたかもしれない。デュノア君は裁かれて刑期を終えれば外に出て一般人として過ごす。これ以上は望みすぎじゃないかしら」

 確かに自分のような半人前が戦闘し誰も殺すこともなく殺されもせず済んだのは運がよかったのだろう。

「あなたはアキラちゃんの命と心を守った。それでいいでしょ?」

「……ありがとうございます」

「それを受け入れたら今日はゆっくり休みなさい。アキラちゃんにはまた会いに来ればいいでしょ? アキラちゃんも寝ているんだし」

 それを言われた後、俺にできることはもうないと言われたようで無念さを押し殺しながら自分の部屋に戻る。

 

 

 更識楯無は出口に向かって行く崎森章登を見送りながら、倉庫に駆け付けたことを思い出す。

 虚からの報告を聞いたときはまずいと思い急いで駆け付けたものの、そこについて結果を見ればどうか。アキラを連れ去ろうとしたデュノアは床に伏せ、教師陣と戦ってきた部隊の1人が戦闘で消耗しているとはいえ叩き伏せた。

どう考えてもおかしい。

 本来、人に向けて躊躇なく銃を撃つこと自体が厳しい修練の末に手に入れられるものである。それがたった3ヵ月程度で、いや1ヵ月ちょっとで人に向けて撃っている。

普段やっている稽古だっておかしい。習得スピードが他人と比べれば早い程度だと思っていたが、動きを完全に真似ているのだ。

 それらはISの操縦にも出ている。章登がよく転んだり、動きに失敗するのは単に使っている機体の性能不足でしかない。

 もし模倣とないっている操縦者と同じ機体を使えばその通り完全に模倣するだろう。ラファールでは想定していた出力や加速が出せず、タイミングが、体制がずれていて失敗しているにすぎないのだ。

 それらを可能にさせている根拠はある。だが、根拠と習得率とを結びつける道筋が理解できない。

 彼の異常なまでの集中。だが、彼の話では日常では発動せず、模型などを作る時ぐらいに自然と出てくるものらしい。それが戦闘能力を引き上げているのだとしたら、学校での成績にも影響してきていいはずである。

 考えても仕方のないことなのであるが、彼の力が彼女を救ってくれたことに感謝する。だがしかし、どうしても疑念が拭えない。

ISが動かせたのは恐らく篠ノ之束が原因なのであろう。調べたところ彼と同じ会場に織斑一夏も居たことから推測はできる。

 彼を一躍有名人にして、英雄にでもしたいのだろうか。ともかく彼のISを非常にハイスペックな機体にしたりと手をまわしている。

 崎森章登はそれに巻き込まれただけの被害者。

 織斑一夏が動かすところを彼が偶然動かした。

 それだけのはずなのだ。

 彼はここに来るまでは何の変哲もない学生で、彼に特殊な事情などないに等しく、血族にだって重要視は感じられない。

 だというのに、本来勝てない相手に勝った。

 そのことがどうしても違和感を感じてしまう。

 まるで彼に隠された力があるような感じがしてならない。本人も自覚していないような気づく切掛けすらない力が。

 そこまで考えて頭を振る。

「そんなことを考えてもしょうがないでしょうに」

 これからは事後処理などをしなければならないのに、各上に勝ったというだけでそこまで思考をすることに無駄を感じた。いつから自分に妄想壁ができたのかと思うくらいだ。

 とりあえず学園の上層部に報告書を作成しなければならない。

 彼女も自分の部屋に戻り、やりたくもない作業を始めようと意気込みを落とす。

 

 




千冬弱くね? と思われたそこの方。
 一応言い訳しますと千冬自身は弱くないんです。ただ使っている機体が弱い(脆い)だけ。無理やり容器(機体)に物(力)を押し込もうとして劣化し軋みを生んでいるんです。
 これがもし暮桜、白式、赤椿ならはっきしいってIS10機なんて相手が可哀そうに思えるくらいの惨状となります。それを打鉄で再現しようとしたからそうなった。
1VS1の連戦になろうと打鉄でも行けるのですが複数、しかも孤立無援になりつつあるでは正直勝てません。まぁ、教師が殺し合いをしろというのもきついし、剣道やっている人に真剣もって果し合いをしろってできると思うか? というのも入ってます。
そんで本当にやったら何をするかわからないし、ゲーム感覚でやる人だって出てくるかもしれない。
ただ(千冬を除く)教師たちは生徒を守るで一致団結してた。
軍人としての教練は受けたか? 
国家代表じゃないか? 
でも、なったのってかなり早くて受けている時間あったの?
で、いろいろ考えた結果。力、技量は高くても胆力(心)が弱いというのが自分の偏見による織斑千冬の見方です。で、こうなってしまいました。ごめんなさい。

そしてデュノアですが退場させてもいいですかね?

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