IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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すいません。目茶目茶遅れました。

 最初はデュノアが救われる物語を書こうと思ったのですがこんなんでいいのか? と考えてしまい大幅に修正しました。
 そして今回からキャラ改悪とタグをつけるべきかもしれません。

 そしていつも通り誤字が多いかもしれません。
 そんなんでよければどうぞ。


第17話

 5月を過ぎ6月となった梅雨の時期。窓から見る景色は灰色を混ぜた様に暗くなり、今にも降り出しそうなほどの天気だ。

 あのデュノアが男子に成り代わってIS学園に来たという話を聞いて2日。デュノアは少しギクシャクした様に笑みを浮かべながら挨拶する。

 しかし、それだけだ。

 あれからデュノアと織斑は俺から見てても誰かに助けを求めることもせず、計画を練ることもしている様子はなく、ただ学園生活を送っている。

 今日あたりに更識先輩に報告した方がいいのだろうか?

 織斑ではどうも不安が拭えない。

「なぁ、のほほん。今日、更識先輩は暇か?」

「ん~。なんか~、この頃仕事で忙しいみたい~」

 眠そうな声で答える。目をしょぼしょぼと瞼が閉じたり薄く開いたりしていてかなり眠たそうだ。

「うー。……壁絵、……アニメ」

「寝るなー。会話の途中で寝るとか、どれだけ寝てないんだよ」

「……徹夜2日目」

「昨日は全く気付かなかったぞ!?」

「にしし。私は趣味に生きる女~。なので休み時間は寝か……―――スピー」

 そう言って、会話の途中で机に突っ伏して寝始めるのほほん。

 少し呆れて、すやすやと寝ているのほほんの顔を見ると日常が変わりないような印象になる。だが、俺がデュノアの問題にどう介入するべきなのか、そもそも介入したほうがいいのかわからなくて悶々とした気分になっている。

 今学園が抱えている問題をのほほんは多分知らない。薄々勘ぐってはいるのかもしれないが、決定的な事は多分知らされていない。

 更識先輩なら学園行事の大半はサラリとこなしそうなものだし、のほほんの姉、布仏先輩も出来る人に思える。

 故に忙しいのは学園の事ではなく、外からの事ではないだろうかと推測は出来る。

 いつか思った気がするが、このIS学園には沢山の最新鋭の技術、優秀な人材、貴重なISコアがある。それを狙う不逞な輩を排除するのも対暗部の更識『楯無』の仕事らしい。

 本来は学園の警備員がしそうな仕事だが、元々の対暗部の家系なので更識先輩にも任せようという話のようだ。まぁ、本人は学園の生徒を守れて充実しているらしい。どこかの誰かとは大違いだ。

 まぁ、放課後会いに行ってみればいいだろう。

 そんな事を考えていたら次の授業の予鈴が鳴り、生徒たちが自分の席に座っていく。

「起きろー」

「……ふにゃ……ぐぴー」

 結局のところのほほんは起きる様子すら見せず、その時の授業を見ていた先生が起こしにかかるまで寝ており、起きた後も瞼が閉じたままだった。

 

 

「あら、珍しい。章登君が生徒会室に来るなんて」

「今お茶を入れますね」

 手短に済ませると断りを入れる前に布仏先輩が動いてしまい、慣れた手つきでカップにお茶を注ぎ湯気を登らせる。

 どうするべきかと迷っていると更識先輩はソファーのほうに手を向けやり座るように催促する。

 仕方ないと諦め応接間に使われるような高級のソファーに座り、心地いいのだが慣れない感覚に身を置く。

「で、シャルルデュノアをどうする気ですか?」

「何のことかしら?」

「恍けてるにしてもそれはないですよ。どうして身体検査しないんですか? デュノア社から研究員が派遣されている様子もないんですけど?」

 大体、男性IS操縦者が発表されてから3か月程度で代表候補制になれるというのはいくらなんでも異常だ。天才肌の凰すら1年猛勉強して即席でなったという感じだ。

 それならISついて理解があまりない俺や織斑だってすぐさま代表候補制になれる。実力というよりは数少ない男性IS操縦者という銘柄のほうが強い。だが、貴重な男性IS操縦者を代表候補生にするといろいろ問題が出てくるからなれないだけである。

 なったら、なったであっちこっち体を徹底的に調べられ弄られる可能性が高いから、なりたいとも思わないが。

 今だってかなりの頻度で研究機関にデータを送ったり、パイプを作っておいたりとしているのにデュノアにはそれがまったくない。これだけで怪しい。

 デュノア社が男性IS操縦者の存在を隠していたというのもかなりきつい言い訳だ。最初に発表してしまえばデュノア社に野次馬だろうと人だかりが出来たはずだ。俺のように後ろ盾がないというわけでもない。

「まぁ、正体なんて最初から分かっていたものね。どう考えてもおかしいし。でも、フランス政府に告発する気も学校から追い出す気もないわ」

「そうなんですか?」

「ええ。問題が起きない限り私は動かないわ」

「問題があったら保護はしない?」

「ええ。逃亡者として保護を求めに門を叩いたのならまだしも、スパイとして泥棒しに来たのよ。守る道理なんてないでしょ?」

 その通りだ。デュノアを守る道理なんてない。

「学生のシャルルデュノアなら保護する道理はありますよね?」

「スパイをやめさせるというのかしら?」

 それが一番手っ取り早い。スパイに来たからかなり危ない立場にいるのだ。恐らくデュノアが白式や織斑、俺のDNDデータなどを持ち帰ろうとしたところで更識先輩が本気で襲ってくるだろう。

 そうでなかったら入学する前からデュノアは終わっている気がする。

 まだ、スパイか学生かとあやふやな立ち位置にいるからデュノアは助かっているだけに過ぎない

「はい。自分の近くにある問題ごとは片づけておきたいじゃないですか」

 デュノアがスパイ活動すればこちらに事態が飛び火するだろう。少なくとも狙っていたのが俺や織斑で対象を守るために監視の数を増やし、今後は行動制限がとられ外出ができないなんてことになる可能性がある。

 それにストレイドには企業の試作品のデータなども入っている。これが漏洩されたとなればその責任を俺が取らされかねない。

 賠償金とかあったら目にも当てられない。

 

「で? どうやってスパイから学生にするのかしら?」

 更識楯無にとってシャルルデュノアは目の上のたんこぶだ。

 『男性として入学させたが女性』だったと明るみになってしまえばデュノア社が非難されるだけでなく、IS学園にも飛び火してしまうかもしれない。「なぜ、入学を許したのか?」「支援するから、うちの人材も入れてくれ」と。

 それに協定参加国はまだしも他の国家が黙っていない。

 女尊男卑で不満を表す団体の様なのはまだかわいい。IS学園の技術、ISコア、装備はもちろんの事。財界の令嬢や有能な技術者、操縦者を狙う組織もあれば、IS学園を破壊して日本から自国にIS操縦者育成所を作り、IS技術の主導権を握ろうとする所もある。(流石に後者は本気ではないと思いたいが日本にはもう一度IS学園を作り直すだけの予算はかなり難しいだろう)

 そう言う輩が介入されるとなると何をされるか堪ったものではない。

 出来る事なら今すぐにでもフランス政府に内密に引渡し、余所で解決してもらいたいのだ。だが、立場上生徒会長と生徒でそんな事をするわけにもいかない。

 そもそも、他の生徒の安全と引き換えに生徒のデュノアを人柱にしたらIS関係者を保護すると言うことに反している。

 だから、デュノアが学園内のデータを取った瞬間にスパイ容疑で取り立ててしまおうと考えていた。その罪状があれば罪を犯したのだからと自分に言い聞かせることができ、学園の問題も解決することができる。

 しかし、生徒が上の理不尽な目に合うのは個人としては同上してしまう。

 故に助けられるのなら助けてあげたいとは思うが、学園の生徒を危険な目に合わせる訳にはいかない。

 そこに、助けられる可能性があるのなら聞いてみたい。

 対暗部の自分が思いつかない方法がこの少年の頭にあるのではないかと少しばかりの可能性を考えてしまう。

 そこで崎森が意を決したように、今から言うことに踏ん切りをつけるために深々と息を吸い溜まった空気を吐出し区切りをつけてから重々しい口を開けて言う。

 

「…………どうしましょ?」

 

 何か期待していたらしく会話を聞いていた更識先輩と布仏先輩は目を点にした後、肩の力を勢い良く落とし非難した冷たい視線をぶつけてくる。

「章登君……」

 私、失望しましたと言葉にしなくても分かる。

「いや、これでも考えたんですよ? スパイとしての価値無くさせるために正体を晒すとか、会社との縁を切らせるとか、代表候補生をやめるとか、スパイとしての活動をやめさせるとか」

 正体を学園中にばらせば確かに同情的となった生徒が味方に回ってくれるかもしれない。だが、正体が知られればすぐに外に伝わる可能性がありデュノア社が本腰を入れて介入してくる可能性がある。

 会社との縁を切らせるのにはどうすればいいのか唯の高校生には退職届を出せばいいぐらいしか思い浮かばない。それ以上にデュノア社が妨害してくる可能性がある。

 代表候補生をやめるのも普通有能な人物を外そうとはしないだろう。しかし、織斑千冬がなんでやめられたかというと力があり過ぎたからだろう。IS開発で天才の篠ノ乃束の後ろ盾、自身のカリスマ、世界最強のIS操縦者の肩書。

 そんな奴に逆らいたいと思う奴なんてよほどの事情がない限りしっぺ返しが怖くてやらない。

 で、スパイをやめさせるにはそう言った行為をしなければいいだけの話にも思える。これが一番なのだが女生徒ばれた場合どうなるか分からない。

 デュノアをただの学生にするには、会社の縁を切らせるか丸め込んだ後でデュノアの変装をそれとなく理由を付けて明かすしかないと思う。

「で、会社の縁を切るにはどうすればいいのかなぁーと思った次第です。やっぱり退職届?」

「貴重な人材をみすみす手放したくはないでしょうね。それに正式な社員というわけではないから。ただ、デュノア社を倒産させるのならスパイを送り込んだことを政府に問いかければ汚職問題で社長を辞任とブタ箱行きにできる」

 俺のような一生徒が告発したところで揉み消されるだろうと思っていたが、生徒会長の権力と暗部の力があれば政府に訴えることはできるらしい。

 しかし「シャルルちゃんもご一緒になっちゃうけどね」と付け加えられる。

「男の子で通っているから男性と一緒の刑務所に送られて大勢の囚人に回され、職員たちに尋問と称される刑罰を受けて、それから―――」と赤面しながら息を荒くしていなければシリアスで通せると思った。

「でも、社長が変わったからと言って体制が変わるとは限りません。頭が潰れたら他の人物がそれになるだけで終わるかと」

 布仏先輩が更識先輩に釘を刺すように発言する。

「世界第三シェアはダデじゃねぇってことですか」

 例え、デュノアの父親を解雇させ、デュノアを裁判で無罪にできたからと言ってそれで今度の心配なく社会復帰なんてできるだろうか?

 社長がいなくなったからと言って会社がなくなるわけではない。

 それで、デュノアの他にもそういう不正行為を無理やりやらされている人物がいるかもしれない。

 そういった人たちをどうすればまとめて解決できるだろうか。

 傲慢だと思うが、できることならそうしたい。

「今はデュノア社の不正行為の証拠なり、裏関係なり探っていくしかないわ。そういうことはおねぇさんたちがやるから安心よ」

「ありがとうございます」

 その時、生徒会室の電話が鳴り、電子音を室内に響かせる。

「はい、こちらはIS学園生徒会室です。ご用件はなんでしょうか?」

 事務所的な質問のはずなのだが布仏先輩は無機質な声には聞こえず、かつ落ち着いた雰囲気で相手の発言を聞いている。

 その時、表情が少し曇った気がするが直ぐに元に戻りひとこと言ってから、電話を切る。

「ちょっと厄介なことになりました。嵐が来るそうです」

「そんなの校内放送で外に出るなって警告すればいいだけの話なんじゃ?」

「ほら、学校の倉庫にアキラちゃん1人離れて住んでいるでしょ? 放送だと聞こえない可能性があるし、倉庫のコンテナが倒れないとは限らないし。私たちは今忙しくて代わりに明人君が言ってくれないかな? こっちから連絡は入れるから」

「だったら行く必要がないような気がするんですが」

「あの子自分から外に出る事なんてないから、楽観視していて後で大けがするってことになることもあるでしょ?」

 こうして融通を聞かせてもらっているわけだから感謝としてそのくらいは引き受けなきゃいけないと思う。だが何か引っかかるのは気のせいだろうか?

「結構、速いスピードで来ているらしいので急いでくださいね」

 頭の中に浮かんだ疑問を片隅に追いやって生徒会室を後にする。

 

 

「虚ちゃん。問題が来たのかしら?」

「はい。学園を監視していたデュノア社の工作員が動き出したとのことです」

 各勢力がIS学園を監視しているように、その勢力の動きを関している者がいても不思議ではない。

「おそらく、シャルルデュノアを回収に来たのでしょうね。けど彼女……彼? まぁどっちどもいいかしら。スパイに来たとはいえ内の学園の生徒だしデュノア社に連れて行かれる前にこっちでいろいろ聞きたいこととかあるしね。迎撃しちゃいましょう。学園への不法侵入で」

「はい。しかし、章登君をアキラさんの所に向かわせたのはなぜですか? 章登君も保護対象では?」

「保護対象はこの学園にいる生徒全員よ。それにデュノア社は章登君ではなく一夏君の方に狙いを定めているでしょう? 最強の弟の方に関心があるわ。相手が狙うとしたら白式も一緒にって考えるでしょうし、先生は迎撃に当たってもらうし人手が足りないのも事実よ」

 この海に浮かぶ島の学園の殆どが学生。例えISを動かせても、戦う力を持っていたとしても、その道のプロたちに太刀打ち出来るかと問われると出来ないと更識は思う。

 自分が死ぬかもしれない緊張感の中で、殺気や敵意が渦巻く戦場の中に平和的生徒が何人戦えるだろう?

 第三者から見れば模擬戦闘なんて物騒なことを何時もやっているかもしれないが、スポーツ競技とみればそんなにおかしなことはない。

 剣道なら防具と竹刀。

 ハンマー投げでも投げる方向と場所を取る。

 しかし、本来ゴム弾やペンイント弾を使わず実弾を使っているのはどうしても兵器という枠を超えることが出来ず、学園のスポンサーや上層部などの協力を得るためには意見も取り入れなければならないからだ。

 だが、それで人を撃てと言われてすぐに撃てるものだろうか?

 相手を殺してしまう恐怖、自分が殺される恐怖に実戦とは程遠い、誰も死なない環境で鍛えた力はどこまで通用するだろうか?

「他の生徒も行かせることも確かにできる。けど彼女の信頼を得るには1年生ではないといけないの。彼女が非難された立場を知らない人物で彼女の存在を知っている人物は章登君しかいない」

「この学園に危機が迫っていることを伝えたほうがよろしかったのでは?」

「章登君にこの事を伝えて逃がすことも出来る。けど、私はここでみんなが楽しい学園生活を送ってほしいの。四六時中誰かが狙っていて休まる暇なんてない。そんな中で過ごしてほしくないのよ」

「……それは」

「ええ、綺麗ごとよ。でも私が生徒会長でいる限りはそういう風にしたいの」

 だからこそ自分は力を手に入れた。自由国籍を作り他の国の専用機を手に入れ、対暗部の党首の座を手に入れた。

「こちらに来る多大な仕事も考慮してほしいものです」

「こんな当主は嫌?」

「今に始まったことではないでしょう。戦闘教員の方々に連絡を入れます」

「ありがとう」

 

 

 

 

「さて、不甲斐ない娘が成果を上げることもなく正体がばれたらしい」

「元々、問題が沢山あったように思えるプランでしたからね」

「そんなことはどうでもいい。問題は正体が世間に漏れていないうちにどうするかだ」

「学園側に干渉すると?」

「仕方がないだろう。そうする以外に解決策があるのか?」

 いずれ外に情報が漏れるのは時間の問題。そうなれば自社の信用は落ち。間違いなく第3次イグニッションプランから外される。第三の男性IS操縦者が女だとばれてしまえば情報欺瞞で信用を無くしてしまう。それによって製品が信用できないと思われてしまえば、経営不振の会社など破産に決まっている。

 そうなる前にどうにかする必要がある。

 正体がばれてしまった以上シャルルデュノアは邪魔でしかない。

 そこで、社長室の電話が鳴り、自分の命令で派遣した諜報員からの連絡が入ってくる。

『ラビットがデータをコピーしたとのことです。これよりモグラも確保すると報告がありましたので向かいに行きます』

「……なんともまぁ、タイミングの良い」

 悪い知らせばかりではなかったことに思わず口端が吊り上がる。

 白式のデータから全く同じものを作ったのでは意味がない。そこからさらに発展し開発しなければならない。だが、現在の技術スタッフの中には第三世代を作れる人材はいない。恐らく解析も困難を極めるだろう。

 しかし、それを大幅に短縮する方法があったら? 使わない手はない。そもそもこのことが公になればすべて終わりなのだ。スパイを送り込みデータだけ奪取するというのは、リスクが大きすぎる。

『予定通りラビットの回収に向かいます。嵐の中ですが不可能ではありませ―――』

「いや、ラビットは嵐の中で精肉にしろ。状況が変わった。持ち帰るのは『モグラ』とデータだけでいい」

『それはいったい……』

「もう一度言う。状況が変わった。ラビットを海に捨ててモグラとデータだけ持ち帰れ。これ以上君が知る必要も話すこともない」

 これでシャルルデュノアが会社に帰ってきてしまうと足取りがついてしまい、会社の破産は確定だ。

 デュノア社は関係なく、シャルルデュノアは初めからうちの会社にはいないということにしよう。そして、誘拐犯は行方を暗ましすぐさまシャルルデュノアに関する書類を処理するように他の所の役員に連絡を入れる。

「ラビットの肉より、モグラの毛皮の方が価値がありそうではあるからな」

「彼女を連れ去って協力するでしょうか?」

「学生など権力をチラつかせれば尻込みする」

 

 

「これでよかったんだよね」

 織斑一夏は無防備すぎた。

 同室に自分のデータを取りに来たと白状したのに、待機状態のガントレットを隠すことなく付け、寝ており起こすことなくデータをコピーするのは容易だった。問題はもう一人の機体データだがおそらく見せてはくれないだろう。

 企業の実験武器を取り扱っているため最新技術が漏洩するのを回避したいのだろう。

 しかし、いくら協力してくれるといった一夏に断りもなくコピーしたのは罪悪感に問われるが、巻き込むわけにはいかないと思った。

 いや、ただの言い訳に過ぎない。

 助けられるとこちらが困る。

 それは間違いなく会社の方針に逆らうことだ。こんなことを知った自分の父親は容赦しないだろう。助ける、助けられないは問題ではない。そんな動きをすることで自分に危害が来るだけなのだ。

 叫べば誰かが駆けつけてくれるかもしれない。

 泣けば誰かが話を聞いてくれるかもしない。

 だが、その誰かに頼ってどうなる?

 誰かに助けを求めたのがばれたらもっとひどい目にあうかもしれない。

 助けようとしてくれた相手がじゃあない。自分が今以上にひどい目に合うだけだ。

 そんなことに合わないようにするには従順に反抗せず、相手に媚を売りながら生きていくしかない。

 自分はひどい目に合わずに済む。

 自分に関わらなければとばっちりを受けずに済む。

 それで十分じゃないか。

 それだけで自分は助かる。

 ただそうした方が傷を負わなくて済む。そう自分に言い聞かせる。

「だから……助けなんていらない」

 そんな呟きは強風にかき消されどこにも届かない。

 先ほどIS学園を監視している本社の特殊部隊に連絡を入れ倉庫区画に来た。人通りはこんな時間にはあまりなく、この天気だ。外に出ようなんて人物はいないだろう。

 だから最後の仕事をとっとと終わらせよう。

 倉庫の内部に入りコンテナが立て続けに並んでいる中を進んだところにダンボールを重ね合わせたような一種の部屋の区切りがあった。

 小さな入口があるがそんなところから入るつもりはない。

 ISを展開しダンボールハウスにラファールの腕を突き刺し引き千切るようにして、破壊し目的の人物を強制的に外に出される。

「ひぃ!?」

「そんなに怯えないでよ。すぐに済むから。ちょっと痛いかもしれないけど」

 そんなこと言ってもアキラには安心する理由などどこにもない。

 急いで逃げようとするが恐怖で足がくすみうまく立てない。

 自身に向かってくるマニュピレーターが頭を掴み、強制的に引き上げられもう一つのマニュピレーターで首を絞められる。

「あっか……っく」

「ねぇ、人を気絶させる方法って知ってる? マンガみたいに腹を殴っても痛いだけでなかなか気絶しないんだ。で、やり方としては後頭部殴るとか首の頸動脈締めるとかの方がっ手っ取り早いんだ」

 そんなことくらい知ってる。と言いたげな目でデュノアを睨みつける。

 だが、首を絞められ少しでも空気を得ようと口を大きく開けている少女の口からは、そんな事を言う事など出来るはずもない。

 デュノアもがない場所で返答などある筈がないことも分かっていた。

「だったらてめぇも体験してみろ」

 故に突然後ろの侵入者の声に驚く。

 対象が窒息死させないように生体反応に目をやっていたので後方の警戒を怠っていたのだ。思わずハイパーセンサーで後方を見るのではなく、顔を向け後方を確認した。

 その瞬間を突かれ首にワイヤーが巻きつけられ後ろに引っ張られる。

 ラファールごと後ろに引っ張られそのまま投げ飛ばされる。倉庫出口に近い地面に叩き付けられた後、新たなラファールが少女に近づいてくる。

 オレンジ色ではなく紺のラファール。

「デュノア、てめぇ、何やってやがる」

 まるで少女を守るように後ろに回し立ち塞がる邪魔者。

「見てて分からない? 章登が行動しろって言うから行動してるんだよ。僕が助かるためにね!」

 

 

 突進してくるデュノアに対し章登も突進する。

 二人が瞬時加速し荒れ狂う風が倉庫内に吹き荒れる。

 もし、少女を守る形で遠距離から弾丸を放ち続け、万が一守りきれずに傷つけてしまっては意味がない。

 回避範囲が狭く相手は満足に動けない。ならば破壊力が高く早々に倒してしまおうとしたのだろう。

 デュノアが加速中に左腕の盾の杭を取り出し速攻で片を付けようとしている。

 ついでに言うならここは倉庫。しかも資材が搬入され、コンテナで場所が埋まっており出口から奥内への直線的な道しかない。故に左右の回避する場所は殆どない。

 章登の方も少女の近くで戦闘はできない。

 両者は突進するしか道がなかった。

 機体性能、経験、技術の面から章登がデュノアに勝っている部分はない。たった2か月程度の訓練をした章登とIS適性が会社に引き取られてから訓練したデュノアでは軍配はどうしてもデュノアに上がる。

 そもそも前の模擬戦闘でも章登はデュノアに負けている。

 袋の中の鼠。

 回避場はなくこのままデュノアのパイルバンカーの餌食になるかと思われた。

 だが、章登は瞬時加速した直後、急停止を掛けることでデュノアとの接触時間をずらす。こちらに来ると思っていたのが、予測を間違え腕の動きを止めることができず章登が瞬時加速していたとしたら居る虚空に殴りつけてしまう。

 なにせ、高速戦闘。先読みや予測し進行方向上に攻撃することは何ら間違いではない。

 だが、経験から相手が瞬時加速してきたら直線的な軌道に合わせて銃を撃ち足を止める方法や横に回避して横腹をつく方法を学んできたデュノアには、瞬時加速しての格闘戦の経験がなかった。

 セオリーを順守するための欠点が出てしまった。

 デュノアの戦い方は一か八か、勝負を掛ける戦い方ではなく、じわりじわりと相手を追い込み削り込んでいく戦い方である。

 いつも通りの戦法ではなく短期戦を仕掛けてしまった。

 そちらの方が効率がいいと頭が分かっていても、体にしみ込んだ経験がその戦法を狂わす。 

 そして場所。

 いつもの解放的なアリーナではなく限定的空間での戦闘。シミュレータでも大抵は開放的アリーナである。故に左右に回避行動を取る人物にこの限定的空間は回避場はないと考えるだろう。

 だが、いくら直線的だろうと逃げ道はある。

 前後の回避場。そこに逃げ込んで章登は強力な杭をやり過ごす。

 限界まで腕を伸ばして章登に当てようとするが、それがかえって腕の下を無防備にしてしまう。そこに潜り込みタックルをかましてバランスが崩れたところを思いっきり横腹を蹴り上げコンテナにデュノアを激突させる。

 そして、デュノアの体制を整える暇を与えずに今度こそ瞬時加速。

 マルチランチャーを突き出し先端のチェーンソーが唸りを上げながら突き進んでゆく。

 胸元に当たり相手のシールドエネルギーを奪う。

 だが、無抵抗のはずもなくすぐさまパイルバンカーでマルチランチャーを殴り破壊する。

 そんな損傷は気にもせず直ぐにマルチランチャーの残骸を手放し、パイルバンカーの側面に回り込み、同時に単分子カッターを脇腹に付き刺す。

 回り走る刃がシールドエネルギーを削り取る。

 パイルバンカーは杭を打ち出す兵器のため側面に来られてしまうと反撃することができない。そのためデュノアは右手にサブマシンガンを取出す。これだけ近ければ外さない自信があるらしく至近距離で引き金を引く。

 サブマシンガンが発砲される寸前、反射的に腕を伸ばし、デュノアの左手、パイルバンカーの部分を掴み射線を塞ぐ。

 弾丸が発射され、そのまま左腕に当たった。

 すぐに攻撃手段を変え左手に手榴弾を呼び出しヨーヨーを下に吊るすように軽く投げ、パイルバンカーを取り外して腕の拘束を解いて後ろに下がる。

 閃光が視界いっぱいに溢れ、爆音と爆風が体を叩き付ける。

 最早デュノアの頭の中では目標の少女の確保より、目の前の敵の排除の方が優先らしく爆破するのに躊躇いはなかった。

 かなりの高性能爆薬みたいだがシールドエネルギーを削り切るには至らなかった。

 爆煙があたりに充満する。

 至る所に武器や部品がコンテナから溢れている。足元にも転がっており、その中にはエネルギーライフルのカートリッジであったり、弾薬であったりと肝を冷やした。もし引火していたらと思うとゾッとする。

 俺がどんな場所で戦っているか理解した時、癇癪を起こした子供のようにデュノアが怒鳴ってくる。

「邪魔しないでよ!」

「邪魔するに決まっているだろ! 自分が助かるために他の誰かを犠牲にしていいて本気で考えてんのか?」

「別にいいでしょ。先輩だって沢山の人を殺してるんだからさ」

 まるで当たり前の口調で言うデュノア。

「その先輩ね。ペットロボットのAI、人を見かけると本物の動物みたいに近づいていく人懐っこい風にプログラムされた物を作ったんだけどさ、それがどんな風に使われているか知ってる?」

 まるで話しているうちに笑い話になったかのように笑みを浮かべ始めるが、その笑みには普段から見せるような黄金比が整ったような作り笑いではなく、歪んだ笑みを浮かべていた。

「人間を探知して向かっていくミサイルに早変わり! おかげで紛争国のゲリラどころか政府軍、民間人とかまとめてボンになったんだって!おかしいよねー。人を癒す機械が、人を殺す機械になってさ。しかもそれを作った張本人は引きこもって隠れるって! おかしくておかしくて笑いが止まらないよ!」

 アハハハと笑いながら、平然とそんなことどうでもいいと言っている。

 本当に心の底から笑ているようだったが俺はその話やデュノアの変わりように動揺することも、ましてやデュノアの笑いに同調することもない。

 一人笑うデュノアを見てしらけていた。

「……で? 自分のしていることの意味も分からない奴がこいつを非難するような立場にいるとは思えないんだが?」

 デュノアの笑い声が止まる。

「は? 何言ってるの章登? 僕は助かる、人殺しはこの学園から居なくなる。一石二鳥じゃないか。僕は正しいんだよ?」

「自分で諦めて、上辺だけ取り繕って、人を不幸にするのに抵抗がないてめぇの方がよっぽど間違ってるな」

 デュノアの目が吊り上がっり今まで半弧を描いていた口が一結びになっていくがどうでもいい。

 アキラは逃げ出した。自分の力が他人に利用されるのを恐れて引き籠った。

 デュノアは何もしない。ただ自分が助かるために他人を利用する。

 どちらが正しいのか。どちらが間違っているのか。

 少なくとも俺はデュノアが正しいとは到底思えない。

「自分の価値は自分で決めるって誰かが言った覚えがあるけどさ、他人の価値を決めるのもそいつ自身だ。アキラは罪人かもしない。だからっていいように利用していい理由にはならねぇんだよ! 他人の人生、価値をてめぇが決めるべきものなんかじゃねぇんだよ!」

「うるさい……。君に一体何がわかるの? 優しくしてくれたお母さんは突然いなくなるし、血のつながっている父からはこんな命令しかくれない。僕はそれに従わないと生きてすらいけない! こんな生活に満足しているわけじゃない! ああ、そうさ。仕方ないって諦めてるんだよ! でもね、これ以外に生きる方法なんてないんだよ! 上から目線の説教なんていらないんだよ! 組織の力を知らないお前が口うるさく説教かますな!」

 激昂する。

 確かに社会という枠組みの中に家と学校しかない俺にとってデュノアの苦労なんてわからない。

 

 だが、

 

 デュノアは左手に近接ブレード『ブレッド・スライサー』を呼び出し、右手のサブマシンガンで取っ組み合って終わらせるらしい。

 

 だからこそ、

 

 足元に落ちている武器を一つ拾い上げる。それを機にしたデュノアは瞬時加速し空いている距離を一気に詰めてくる。

「てめぇ一人が辛い目会っている訳じゃねぇんだよ! 自分の考えだけ押し付けるな!」

 起き上がると同時に拾った武器を跳ね上がると同時にアッパー気味に振り上げる。

 だが、幾ら不意を衝こうとも崩しきった体勢からの攻撃は遅かった。瞬時加速で一瞬目に映る世界が広がるようにして歪んだデュノアには振り上げる前に懐に入って決められると思っただろう。

 故に止まる理由はない。

 未だ振り上げている最中で腕の動きを見れば自身の体に達していないことが分かっただろう。

 だが、達していたのだ朱色のラファールに俺が持った武器の刃の先端が迫っていた。

 手にした武器は『ブレーデッド・バイケン』と呼ばれる伸び縮みする大鎌だ。

 鎌。つまりL字の武器なため剣や槍とは違った運用法が可能である。

 盾を潜って相手を突き刺す。先端を重くしての攻撃力の増加。引っかけて体勢を崩させる。

 だが、俺が大鎌を使う理由はそれらではない。

 剣のような直線的武器で相手に刃を届かせるよりも、ナイフで相手を突き刺すよりも、鎌のような刃の先端が長く出ている武器の方がより速く相手に届くと思ったからだ。

 相手を攻撃するのに近接武器である必要はないが、銃を使ってあてる自信はない。散弾は回りに落ちているエネルギーカートリッジや爆薬などに当たって誘爆するかもしれない。

 だからデュノアも至近距離で止めを刺そうとしてきたのだろう。

 故に瞬時加速したデュノアを鎌の刃の峰部分が受け止め、突進してきたデュノアは壁に当たったようにしてのぞける。

 突進の衝撃を地面に足をつけ緩和させ、瞬時に鎌を振り上げのぞけっているデュノアを渾身の力を込めて大鎌で頭を殴りつける。

「がっ」

 それだけでは済まさない。切り返しで顎に狙いを定め殴り、強制的に顔を上げさせる。その正面の顔からスイングするようにして大鎌を振るいデュノアを吹っ飛ばす。

 絶対防御のおかげで切り傷は付いていないようだが痣くらいは残るだろう。明日学校にいられるかは知らないが、いたら大ごとになりそうだなとぼんやりと思う。

 仰向けにして倒れるデュノアはピクリとも動かない。

 気絶したのか、シールドエネルギーを切らして機体が動かなくなって動けないのか。

 だが、そちらばかりを気にしてもいられない。

 

 後ろを向いて、ここまで来た目的を忘れてはいない

「大丈夫か?」

 倒れたコンテナの陰に隠れるようにして小さくうずくまっている少女はそこを覗き込んできた顔に「っひ」と強張った顔を見せる。

 一応助けに来たのにそんな顔をされると落ち込んでしまう。こういった場面では女性は脳内変換で、白馬の王子様が迎えに来た様子を思い浮かべるものと思っていたがそういうこともないらしい。まぁ、そういったがらでないのは自覚しているが。

「とりあえず早く生徒会室にいかねぇと。脅威がデュノアだけとは限らねぇし」

「……い、いいのか? わ、私が、どんなこと、ししたのか分かっただろ」

 まるで場違いなことを言っている気がする。だが少女にとっては重要なことらしい。

「わ、私はここから、で、出ちゃい、いけない。な、何かを、作ったて、だ、他の誰かが、て、手を加えて、他の道具にしちゃう。だから……」

「……俺には客観的なことしか言えないけど、お前が全部の責任を背負う必要はねぇ。そういう風に改造した奴、それを使った奴にも責任はある。俺もお前の大元の……『武器』を使ってる」

 少女に言葉を濁すべきか考えたが、少女の開発を使っているのだ。だったら自分もその責任を負うべきだと思い俺にも言い聞かせるようにはっきりと、言う。

 俺が使っているのは武器で、引き金を引けば誰かを傷つけるものだと。

「だから、使っている俺や、改造した奴に責任を押し付けられるんだ。けどしなかった。だから、そんなことが出来るくらいに真面目で優しいんだ。自分自身で罰を下すべきじゃねぇ。」

「し、司法で、裁かれるべき……?」

「違う。自分の開発で人が傷ついたと責任を感じるのなら確かに開発を止めるのは分かる。だけどお前がこんなところに一人だけで責任を感じる必要はねぇ。自分で十字架を背負うって決めたのなら背負ったまま歩くべきだと思う。今は疲れていてもいつか歩き出さなきゃいけねぇんだ」

 俺の本心からの言葉が届いたのか分からない。

 人に会いたくない。人を信じられないだったら終わりだ。

 俺は彼女が大元の武器を使って戦闘をした。

 目の前でだ。

 俺が言っている言葉が信用できなかったら更識先輩を呼ぼう。更識先輩のISの識別番号や秘匿回線番号が解らなかったので繋げられないが携帯で呼び出せば来てくれるだろう。

「今は他の場所に移動して、その後で考えてくれ」

 機械の手を少女に差し出す。

 恐る恐ると手を伸ばす少女。

 

 だが、その手が握られることはなかった。

「その予定はキャンセルだ。来るべき場所は我々のところだ」

 直後、視界が暴力的な光に包まれる。




 はい。デュノアが天使ではなく自分の事しか考えない自己中になりました。
でも、なっても仕方ないんじゃないのかな。原作じゃデュノアは会社と縁が切れていないし、会社も潰れていない。相手を信用させるためにばらして付け込むための演技だとしたら? だから6巻ぐらいに女性だとばれてもフランスから支援を受けている。

 そう思うとぞっとしません?

 アキラは誘拐されそうになっていますが、白式と同じ物作ってもパクリだと非難されますし、欠陥品ですし。でも拡張領域が多くできるデュノア社の技術を併用することができれば銃は持てるし、持久戦は強い、逆転の高火力兵器が使える等利点があります。
 ただ、それらを併合できる技術を持ったスタッフがいないこと、第三世代のワンオフを使えるまで技術がないことから優秀な技術員がほしい。
 だったら優秀な奴攫おうぜ! というのがデュノアパパの意見。

 例えばIS学園の隅っこで殆ど他の生徒との交流がない奴とか、非難中傷で人が怖くなって恐怖でコントロールしやすい奴とかね。
 ただ、更識先輩からの指示には無理がありましたかね……。

 最初はデュノアは操り人形でそこから会社という操演者から抜け出して、自立するというのがありましたがこれじゃ無理かな。デュノアパパも悪人ではありませんでしたし
 学園から追放か残すか考えいますがこれから先の展開をどうしようか迷ってます。
 故にたぶん次の投稿も遅れます。すいません。
 

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