IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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注意、今回かなりのアンチです。
特にシャルロットファンにはきつい事言います。

こんな文になってしまいましたがそれでもいい方はご覧ください。


第16話

「こう、ずばーとやってからガキッ、ドッガッと言う感じだ」

効果音に合わせて剣でも握っている感じなのか片腕を振りおろし、空いているもう片方の腕で仮想の敵を殴りつけ、足で蹴り上げている。まぁ、なんとなく動きを観察していればマネ出来るため分からなくはない。しかし、かなり暴力的な動きだ。

「なんとなくわかるでしょ? 感覚よ感覚。はぁ? 何でわかんないの? 馬鹿なの?」

感覚だけで分かったら俺は誰かに教えてもらう必要はない。さらに俺は武術家でもない。自身の感覚だけで世界が回っているとは思わないでくれ。

「防御の時は右半身を斜め上前方へ五度に傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ」

まぁ、肩が前に出す様に横にしないと被弾面積を減らせないし、後ろに下がるときは空中なので後ろに重心移動して下がりやすくするというのも分かる。けど、もう少しなんでそれがいいことなのか言ってください。

上から順に篠ノ之、凰、オルコットのISのレクチャーなのだが凰以外は何とか解ることが出来るといった感じだ。解るだけで進んで実行しようとは思わないが。特に篠ノ之の動きは機体に負荷をかける動きだ。頑丈さの打鉄ならまだしも、汎用のラファールでそんな動きをしようとは思わない。

「率直に言わせてもらう。……全然わからん!」

お前も分からないよな? みたいな縋り付く様な視線を、お前も織斑と同じかという視線を3人が向けてくる。

「篠ノ之は擬音だけじゃなくて他の言葉も交えなよ。ガキッだって金属がぶつかり合うのか、何かが折れるのか、砕くのか分からねぇし。凰は完全に解んねぇよ。俺は天才でも翻訳家でもねぇぞ。感覚だけで人が生けていけるなら言葉はいらねぇし。オルコットは……まだ俺にとっては解る」

篠ノ之と凰が唸り声を出し、オルコットは少し得意げに胸を張る。

「一夏、こうバキッだ!」

「もっとひゅーんよ!」

こいつらには学習、もしくは人の話を聞かないだけなのではないのだろうか? さっきから何も変わっていない説明に織斑はうんざりしている。

 

「一夏、ちょっと模擬戦の相手お願い出来るかな?」

「シャルル! という訳だからまた今度な」

救いの女神が来たのようにデュノアの申し入れを受けさっさと試合を始めようと位置につこうとする織斑。それを見て3人の女性陣は気分を害されたように不機嫌になり織斑を睨む。しかし、試合中は流れ弾が来ることもあるので渋々といった感じで観客席の方に移動していく。俺もその流れに従いアリーナ内部から出る。

デュノアのラファールリヴァイブは専用のチューンが程化されているらしく、本来肩部やスラスターに枝ついている葉の様な物理シールドは1つだけ左手に移されており、4つの多方向加速推進翼は中央部から分かれる様に2枚羽になっている。防御力をそのままに機動力をあげた気体なのだろう。

 

試合開始直後に織斑がデュノアに急接近しそれに答える様に、デュノアも突進していく。雪片で真正面からデュノアを切り落とそうとするが左腕についている涙型の物理シールドに阻まれ弾かれる。その体勢を崩したところに掌打が入り、後ろに倒されそうになる。このまま押され刀の間合いから外れ切ることは不可能になる前に切り払おうとするが体勢が整っていない状態では当たる筈もなく、上に上昇され追撃を開始。その時ラファールが反転し向かってくるかと思いきやそのまま後退をしている。

本来急激に機体を反転させるとGや慣性で一瞬挙動が遅れたりするものなのだが、ほとんどないとは隣にいる代表候補生2人を驚かされた。そして呼び出されたアサルトライフルの弾幕が織斑を襲う。急に表れた銃弾に怯んだのか少し機体制御がぎこちなくなってしまい。左腕を盾にするかのように銃弾を受ける。

何とか接近戦に移ろうと距離を詰めようとするが相手が縦横に駆け抜け間合いに入らない。織斑が焦らしを切らしたように瞬時加速で距離を詰めようとしたが、簡単に見切られ回り込み後ろを取られる。瞬時加速で自分から距離を離してしまう形になった、そこからは遠距離からの一方的な砲撃で織斑のシールドエネルギーは尽きた。

 

『まだ、余裕あるから章登とも模擬戦しておきたいんだけどいいかな?』

「ああ」

開放回線でそう言われたし、デュノアの改良機にも興味があったためアリーナに出て試合開始位置につく。織斑はピッド内ですれ違った時に「がんばれよ」と言っていたので、適当に相槌した。

 

「じゃ、始めるか?」

「いつでもいいよ」

挑発なのか、子供っぽい口答えをする。いや、多分素だろうと思いマルチランチャーとアサルトライフルを呼び出し発砲しながら距離を詰める。いつでもいいって言っていたし。左腕の盾を前に出し横に逃げようとするが、粘着爆弾を地面に数発進行上に撃ち爆風で煽りつける。その一瞬にデュノアの手前に来るよう瞬時加速をして接近すると盾の中から散弾銃『レインオブサタディー』が顔を覗かせ放たれる。

銃口がこちらに見えたときぞくっと鳥肌が立ち、反射的に左肩を出しスラスターに付いている盾で防ごうとする。が、瞬時加速中だったためバランスを崩し肩からスライディングをするかのように倒れこみ、地面を削り砂煙を噴き上げる。それで減速し、予測進行を狂わせすぐさま倒れた状態で加速する。散弾は大きく外れ、こちらは下側に入り込む。

そこから回転するかのようにマルチランチャーのチェーンソーで切りかかる。が、チェーンソーの部分ではなく銃身に足蹴りを放ち進行を止められた。そこでチェーンソーを固定している金具が開き発射され、時間差でアンカーワイヤーも発射。

足の力は3倍と言われているが真直ぐ踏みつけられるような蹴りだったため、力の方向を少しでも横に加えると蹴りを払い除けながら、砲身はデュノアへと向かう。

ぶつかり合い力に流れが変化して砲身が向かい、チェーンソーを発射する。一つは顔にもう一つは腰に放たれ、アンカーは左腕に吸着。人の恐怖心からか視野の確保からか優先的に顔を除けさせるが他が張り付き、密着状態となる。そこに電撃とアサルトライフル、ジェル弾を放つ。ワイヤーが巻き付いている部位や関節部に液体が凝固剤の様に塗られ瞬時に固まっていく。左手は電撃のせいでまるで血行が悪いように違和感を感じる程度に鈍い。

このままでは負けるとわかっているのか、黒い卵のようなもの、手榴弾を呼び出し俺のほうに落としてくる。

それに気づいてぎょっと目を開き、すぐさまマルチプルランチャーを投げ捨て空いた腕と足を使って仰向け状態から飛び上がるようにして逃げる。

起き上がった直後、爆発。

背中から熱と衝撃と光が殴られたみたいにして吹き飛ぶ。一度地面に叩き付けられるが一回転しすぐさま後ろに銃口を向ける。何度も転んだり、機体制御を誤ったせいかこういう立て直しが迅速になってきたのが何時もなら少しうれしく思うのだが、今、気がゆるめる暇がない上、肌に感じる危機感が脳に警報を上げるため顔が綻ぶどころか強張っている。直ぐに爆発のあった方向に顔を向ける。

黒煙を纏うようにして出てきたデュノアの手には大型のバトルライフル『ガルム』が握られていた。そして叫びを放つ強力な銃声。その銃声を置いて行き駆け抜け標的を撃ち貫かんとする弾。デュノアが黒煙から出るのと同時に何とか反応し、上に動いて射線を躱したためギリギリで避けられた。

そこからアサルトライフルとバトルライフルが始める空中銃撃戦。どちらも右回りに移動し相手のシールドエネルギーを削ろうと喰らいつきその牙を逃れようと射線から逃げる。

予定していた状況ではないが円状制御飛行になっていた。が、技量の差かこちらが初めに盾の部分に当たり、バランスの崩し持ち直しているところに狙いを定められた時、スモーク弾を呼び出し煙を出させる右回りに追ってくるデュノアを煙に隠すように出させる。

爆砕ナイフを呼び出し展開。そして反転しぶつかる様にして煙の中から出てきたデュノアの強襲し単分子カッターを突き刺す。

はずだった。

いきなり両手で持っていたバトルライフルが粒子になり煙のように消え代わりに近接ブレード『ブレッドスライサー』が握られ切り払われる。何がどうなったか頭が追い付かなかったが、切り返された片刃のナイフが目に入ったとき、やばいと反射的に体を首から引き摺られる様に下に落として躱す。鼻先を触れるか、触れないかギリギリのところで躱し一回転。アッパーカットの様に爆砕ナイフを下から突き上げるが足で払われる。が、払われる寸前に手を開き爆砕ナイフを落とし足を掴む。そして、引きずりおろす様にこちらに引き寄せ、体の上下を入れ替えるように回り装甲が空いている部分、ちょうどヘソの辺りに片手間で展開した単分子カッターを突き立てる。見えない力場がおそらく絶対防御だと思うそれに肉を貪る様に牙を立て続けに噛み突く。

そしてその時、左腕が腹の辺りに添えられ今まで盾に隠されていた円柱が姿を現す。簡単に言えばリボルバーの弾倉なのだがそこから杭が一本突き出ている。

資料では見ていたが現物では初めて見たもの。それが目に入ったときはすぐさま逃げようとしたが右手で単分子カッターを持っている手を捕まれ、逃げきれない。

パイルバンカー

そこからまるで筋肉隆々のボディーファイターが強力なストレートを放つかのような衝撃が脇腹に浸透、通過、反対側に貫通し直後、爆発。

アリーナの壁に叩き込まれ一撃でシールドエネルギーが大きく削られ、こちらの敗北となった。

 

「ごめんね。流石にあれは使うつもりなかったんだけど意地になっちゃって」

「何てロマン兵器を搭載してんだ。てめぇは」

可愛い顔してやることえげつないとはこの事ではないだろうか?

「しかしすごかったな。いきなり武器が消えて、パッて感じででてきて」

「あれは高速展開《ラピッドスイッチ》って言うんだよ。量子変換を一瞬にして切り替えて収納や呼び出しのラグをほとんどなくすんだ。リロードも手に持ったまま出来たりもするよ」

武装変更時の隙をなくすだけではなく、敵が接近しつつあるのにスナイパーライフルでギリギリまで収納、弾切れの際のリロードをしないことで相手を近づけ高速展開で散弾銃やナイフを呼び出し不意を狙うことも出来るのではないのだろうか。

「それってデフォのラファールにも出来るのか?」

「この子は専用にかなりいじくってあるから無理だと思うよ。拡張領域は倍に設定して高速処理と20近い武装登録してるけど、そのせいで汎用性はなくなっちゃたから」

「それでも倍だろ。ちょっと分けてほしいぜ」

20の武装なんて普通は入れない。通常のISに武装が5つしかないのは何も拡張領域がそれだけしかないわけではない。

例えば工具を箱の中に入れ目を瞑って取り出そうとする。金属や取っ手部分のゴム、形状でニッパー、ナイフ、バーベルなど触って時間がかかるなら大工師でなくとも取り出せるだろう。

だが銃弾は? 経口の違いで大きさ、太さは違うがどれも同じ口紅のような形をしたものだ。それを間違えずさらに高速でとなるとどれだけの精確さがいるのだろうか。

しかも、接近兵器が多くあるという訳ではないためかなりの口径差や弾の種類があってもおかしくないはずだ。

「分けられたらよかったんだけどね。一夏の『白式』って近接ブレード一振りなんだよね」

「ああ、拡張領域が空いてないらしい。だから後付装備は無理らしい」

「多分それってワンオフアビリティーに容量を使っているからだよ」

「えっと……なんだっけ?」

「唯一の特殊才能で《ワンオフアビリティー》だ。山田先生が言ってただろうが。『零落白夜』がそれだ」

というか、もうそろそろ2か月たつのに自分の機体特性、スッペクを理解してないのだろうか? 公開されている機体スペック、武装の特性を理解して癖を覚えようとしている自分が馬鹿に思えてくる。

「ISと操縦者の相性が最高状態になったときに発生する能力の事だよ。でも、普通は第二形態から発生する可能性があるってだけなのに、白式は第一形態なのに使えるっていうのは異常事態だよ。それに織斑先生、初代『ブリュンヒルデ』の『暮桜』が使っていたものと同じでもあるんだ」

デュノアがすらすらと淀みなく解説する。

「姉弟だからじゃないのか?」

「織斑、自分と姉を比べてみろ。どこに共通点がある? 一卵性双生児だって環境の違いで性格や得意分野で違いがあるのに年が離れてしかも男女の違いだってあんだぞ」

「章登が言った事も合わせて言うと自然に発生する能力だから意図的に再現しようと思っても出来るものじゃないんだ」

「そっか。でもまぁ気にする必要ないんじゃないか。今は置いとこうぜ」

本人は気にしないと言っているが大問題ではないのだろうか? プロトタイプは不具合を改修して行く役割があるのだ。拡張領域がない、理由不明なエラーがあるなんて最大の問題で性能向上を諦めているも同じである。個人が使うのなら問題ないのかもしれないが企業で量産化を見込んでいるとなると白式の改良に熱心になってもいいと思うのだが。

 

「でね、一夏が勝てないのは単に射撃武器の特性を把握してないからで、接近武器しかないのなら余計理解を深めていかなきゃいけないんだ」

「一応、理解しているつもりなんだが」

「知識として知っているだけって感じだね。さっき僕と戦った時もほとんど間合いを詰められなかったし、瞬時加速も直線的だからかなり見切りやすいんだ。ちょっと射撃武器の練習をしてみようか」

デュノアの言葉が言い終わられた瞬間にはもうバトルライフルがラファールの手に収められていた。バトルライフルを白式に持たす。形式や日本製でもマニュピレーターに問題なく使えるらしい。

「え? 他の奴の装備って使えないんじゃないのか?」

「普通はね。でも使用許可をして、登録をするなら誰でも使えれるようになるんだよ。もう終わらせたから試しに打ってみて」

「お、おう」

こちらはやることがないので単分子カッターを呼び出し仮想の敵に向かって切り付ける。出来るだけ素早く、振りを小さく、精確に当てたい場所に向けて切り付ける。大きな動作は必要ない。

何せ刃を当てるだけで削り切ってくれるのだから。それに大きな動きは見切りやすい。基礎動作を速く、鋭利になっていくに従って自分が強くなっていける気がする。

一連の動作を終えた時、周りがざわき始めてきた。何やらいつもと違うものが出て来たらしくデュノアと織斑の練習風景を見に来ていたらしい生徒たちが二人から目線を外し上を見ている。

デュノアと織斑目当ての周りの生徒が向けている方向を見ると黒い機体と銀髪と隻眼が特徴の少女がいた。しかし、そんな周りの視線はどこという風の様に気にもせず鋭い眼差しは織斑ただ一人に向けられている。

「おい」

唐突に開放通信で声が飛んでくる。しかし、誰に向けて言った言葉かなんて察しないものはこの場にはいないだろう。しかも、声に温度があるとすればマイナスをいっている。

「貴様も専用機持ちらしいな。私と戦え」

なぜこんなにも織斑に突っかかるのか疑問だが、やるなら日を決めておいて欲しい。もうそろそろ交代の時間だ。延長とか他の生徒に迷惑かけまくりである。それともアリーナの予約が取れなかったから急激な介入なのだろうか。

「嫌だ。理由がねえよ」

「貴様になくとも私にはある」

そこで、ボーデヴィッヒは我慢ならないという風に歯切りをして、唇の薄い桜色が白くなるほど力を込めるのがハイパーセンサーを通してわかる。

「貴様が居なければ教官が大会で棄権なんて屈辱的な結末に終わることはなかっただろう。私はそれが我慢ならない。だから……貴様の存在を認めない」

「また今度な」

織斑の目が険しくなったがまるで興味ないという風に装い、どう思っているのか分からないがとっとと会話を終わらせようとし後を向きピッドに戻ろうとする。相手の怒りの原因を知ろうともしない態度に言葉に業を煮やしたらしくボーデヴィッヒの機体の右側につけられた巨大な砲が織斑へと向けられる。

「ならば戦わざるを得ないようにしてやる」

そう告げられた直後、漆黒の砲が火を噴く。流石に見ておれず射線上に割り込み盾を前方に斜め展開する。

まるでさっきのパイルバンカーの様な強力な衝撃が盾と左半身に伝わり、盾と砲弾が金属にハンマーを打ち付けるような音が盛大にアリーナに響かせる。砲弾の衝撃をもろに受けたので少し足底が地面に埋もれる。

「貴様……。邪魔をするなら容赦なしない」

「別にお前が織斑を物理的に潰そうがあまり関係ねぇよ。だが、ルールと法律くらいは守れ。もう使用時間すぎそうだし、どうせ潰すなら不意打ちじゃなくて真正面からねじ伏せるのがお前の好みじゃねぇのか?」

「……ふん。いいだろう」

そう言って納得したのかISを解除し、地面に降り立つ。しかし、冷酷な瞳は未だ向けられ、いや、自分の邪魔をする奴として標的にでも入れたのか俺と織斑に向けられる。そして、一瞥してくれた後興味を失ったかのようにいつも通りの歩く速度でアリーナを出て行った。

 

「章登、大丈夫?」

「すまん、助かった」

「ああ、防御の時は右半身を前方に5度ね……別に左半身でもいいじゃねぇか?」

「いえ、あれなら腰を落とし後ろの足で支える様にもう2度ほど下げた方がいいと思いますわ。そっちの方が地面に衝撃を拡散出来ますので」

「じゃ、次の人の番だから交代するわよ。ほら早く」

そう凰が急かすので今日のアリーナの使用しての訓練は終わった。後は研究室に行ってシュミレーターでもするかと思っているとデュノアが「先に着替えてて」と言うのでとっとと更衣室に向かうとまたしても織斑が「一緒に着替えようぜ」みたいなことを言う。

いい加減学習してくれ。足りないのは聴力か、頭の容量か、どっちもか。

織斑の後頭部を掴み強引に引きずる。が背丈の差もあり中々力が伝わらず動かせない。

「章登、後ろ引っ張られるってきついんだぞ。離してくれよ」

「なら、ストーカー容疑で逮捕されてくんねぇか?」

「え? 何で俺が逮捕されなきゃならないんだよ」

何度も言っているのに全然学習する気がないので、本当に豚箱に入るのではないだろうか?

そう思っていると凰が俺に変わってISを展開し織斑の首根っこを掴み連行する。幼馴染は責任感とかあってありがたいね。幸せって第三者から見ると分かり易いらしい。ホントその通りだよ。

ISを待機状態に戻し、観客席の扉をくぐり更衣室に入る。ロッカーに入った制服を取出しISスーツの上に着るようにして着替えを終える。かなり大量の汗が出ているらしく、疲れからの倦怠が出てくる。

更衣室で制服を着ると織斑が「風呂に入りてぇ」と嘆いたが個室にも風呂はついているはずである。それを聞くと

「大浴場だよ。大きな風呂で足を延ばしてはいるってのはいいもんだろ」

「贅沢過ぎだ。個室の浴槽も広い。銭湯も悪くねぇが月に2回いければ充分だろ」

大体、寮の部屋を使える時点で羨ましすぎる。こっちは他の人に借りなきゃいけないのに。そこで俺は着替えを終え、出ようとした所。規則正しいノックに引き止められる。

「男子の皆さん。着替え中ではないですよね?」

扉の向こうで、山田先生が確認するように声を出す。俺も織斑も着替えを終え制服姿だ。

「はい。大丈夫ですよ」

と言ったと同時に扉が開き、山田先生が入ってくる。

「あれ。デュノア君が居ませんね。男子の大浴場の使用の件で月末から週に2回の使用を設けられたこと、後で伝えておいてくれますか?」

「本当ですか!?」と俺を跳ねのける速度で山田先生に急接近し手を握る織斑。その眼は最早風呂好きを通り越して狂乱者とすら思うほどだ。

「嬉しいです。助かります。ありがとうございます。山田先生!」

「いえ、仕事ですから……」

山田先生は突然の事で顔を赤らしめている。そのことに気付かないほど織斑は狂喜し、正直怖い。なんでそんなに風呂が好きなのか俺にはよく分からない。温泉でもないのに。

「……何やってるの?」

「さぁ?」

そんなので時間を潰したせいだろう。デュノアがもう俺達が居なくなったと思って更衣室に入ったがまだ俺達が居たので鬱陶しそうに俺達を見ている。

「……先に行ってて言ってたよね? それになんで一夏は山田先生の手を握ってるの?」

そう言われた初めて織斑が山田先生の手を握っていたことに気付いたのか、すぐさま手をほどく。山田先生はデュノアに指摘されまた赤くなってしまい、今すぐにでも顔から火を噴きだしながら走って行きそうだ。

「喜べシャルル。今月の下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」

「そう」

まるで喜ぶ理由が分からないと横目で織斑を見るデュノア、そんな目で見られる覚えがないと疑問に頭を傾げる織斑。そりゃ、裸を見せたくないやつが混浴の話題で喜ぶはずがないことが分からないのか。

「織斑君と崎森君にはもう一件用事があります。ちょっと書いてほしい書類があるので職員室まで来てください。ISの登録や同意に関する書類でちょっと枚数が多いんですが」

「わかりました」

「じゃ、シャルル、ちょっと長くなりそうだから今日は先にシャワーを使っててくれよ」

「うん」

会話が終わり、職員室に向かって俺たちが歩き始めるのと同時にデュノアもISスーツの上から制服を羽織り更衣室を出た。

 

「先生。これISの名前が『白式』なんですけど」

「ええ!? あー、混ざったみたいで、すいません。どうしよう……。明日また書いてもらうしかないですかね」

ため息をつき少し落ち込んだように肩を下げる先生を思って苦労が分かる。なにせ教師は激務な上に問題児と言うおまけつきなのだ。俺の立場上としても情けなく思うこともあるので、できる限り力になりたいとも思う。

「どうせ同じ寮なんで届けますけど?」

「え!助かります。崎森君、明日出すように織斑君に言ってもらえませんか?」

「はい」

書類の量は多かったが実際は名前を書くだけで少しめんどくさいと思った。まぁ、書類を流し目で見て可笑しい所がないか確認していたが、心配は杞憂。織斑は読んでいるのか少し怪しかったが。

職員室を出て、一年の寮に向かう。もう夕暮れで着替えて夕食をとるにはいい時間だとも思う。早く届けて飯を食って風呂を借りて思いっきり寝よう。そんな事を思って歩いていると大きな声が脇道から聞こえてくる。

「答えてください教官! なぜこんな所で教師などしているのです!?」

ヒステリックじみた叫びを上げるのは今日アリーナに横槍を入れてきたボーデヴィッヒ。しかし、アリーナで聞いた背筋が寒くなるような声ではなく、もっと悲痛な叫びに聞こえる。

「やれやれ。何度も言わせるな。私には私の役割がある、それだけだ」

そちらに目を向けるとボーデヴィッヒを見ている織斑先生。口から鬱陶しそうな声を出しボーデヴィッヒの質問に答える。

しかし、それは答ではない。役割を仕事とするなら先生なのだから自分の技術を教えに来たとか言いそうなものなのだが、はっきりと言っていないらしい。はぐらかしているようにも聞こえてしまう。大体なんで鬱陶しそうに答えるのだろう? 本当に目的があるのならば誇ってもいいはずなのに。

「このような極東の地で何の役割があるというのですか! お願いです。我がドイツで再びご指導してください。ここではあなたの能力は発揮されません!」

「ほう?」

「危機感に疎く、意識が甘く、ISを娯楽かファションとでも勘違いしている低俗な奴らに何かを教えても全く活かされません」

「ふざけんな」

思わず声に出してしまい、両名がこちらを向く。ああ、3つの目の鋭い視線が俺を射抜き少し尻込みしそうになるが、別に喧嘩しに来たわけではないので冷静を装って発言する。

「すいません。聞くつもりはなかったんですけど大声だったので聞こえてしまいました」

「いや、聞かれて困るような話ではない。で、何が「ふざけんな」なんだ?」

「ここの生徒だって勉強しにここに来てるんです。生かす生かさないは将来の事だからわからないけど、必死こいて技術や知識を手にしようと努力している生徒だっているんです。それが低俗と言われたことにムカつきました」

全ての生徒が代表候補生や国家代表になれるわけではない。が、技術の吸収や人脈の拡張、家柄、成績など様々な理由でこの学園に来ている。確かに女子高の延長で気楽な部分もあるが努力は誰だってやっている。必死か適当かは分からないが少なくとも俺は真剣にやっている……はずだ。

「私から見ればその必死がとるにくだらん」

「じゃあ、なんでこんな所にいんだよ。とっととドイツに帰れ。そっちの方が必死なんだろ?」

「私は教官を連れ帰りに来た。文句があるのか?」

「全然ない。だけどそれは外交官の仕事だ、軍人の仕事って国防だろ?」

「これは軍の仕事ではない。私の責務だ。さっき聞こえていたなら話が早いが教官が教えても貴様らでは1%も実行出来ない。見込みも能力もないやつに教えたところでなんになるというんだ?」

「何にもならねぇだろ」

反論でも来ると思ったのか、その俺の言葉に驚いたようにボーデヴィッヒと織斑先生の目が開く。自分で何にもならないと決めつけているのだから、何にもなっていないと認識するのは当たり前だと思うのだが。

「それでも学生の仕事は才能無くても勉強することで、例え負けると思っても軍人の仕事は国守ることじゃねぇのか? で自分の仕事してないやつが責務とか言われても説得力ないし、そんな奴にここにいる学生を馬鹿にする言われはねぇんだよ」

「なんだと!? 私を馬鹿にしているのか?」

見方を変えればボーデヴィッヒは学生以下だといっているようなものでもある。それを認めない、認められないように反発する。

「いや、ただ自分がやることやれ、って言っているつもりなんだけど。馬鹿にしてはいねぇ。だが、もし仕事をしていると思うのなら自分がやっていることに違和感ぐらい感じていいはずだ。お前は学ぶ必要がねぇ。なら学生としてここに来る必要はねぇ筈だ」

「それは、命令で最新兵器のテストに選ばれただけだ。ここ以上にデータを取る環境が整っている施設はないからな」

「じゃあ、何でそれをしねぇんだよ。今日だってアリーナのへの乱入なんてデータを取るどころか校則違反で罰則、アリーナの使用禁止だってありえたんだぞ」

「そんなこと私が知ったことではない。それより貴様が邪魔しなければっ!」

「そこまでにしとけ、餓鬼ども」

俺たちの言い争いを遮るように織斑先生が叱りつけるように言う。言い争いすら止める気か? 会話するしか接点が持てないんですけどそれすらだめですか。

「15歳で選ばれた人間気取りとは恐れいる」

「わ、私は―――」

まるで見捨てられるのではないかという恐怖が顔中に広がるボーデヴィッヒ。

「私は忙しい。とっとと寮に戻れ」

織斑先生の言葉には何も言えないらしく唇を噛み締めどこかへと走っていくボーデヴィッヒ。尊敬する人から拒絶されればショックを受けるのは当たり前だ。少し同情してしまう。

ってか、なんでお前は叱るのではなく助言するわけでもなく拒絶するの? そんな疑問が自身の中に芽生えてしまい思わず聞いた。

「なんで先生は何もしないんですか?」

「何を言っている?」

「さっきのやり取り、はっきし言ってどうでもいいんでしょ?」

「なに?」

「ボーデヴィッヒの疑問には明確に答えないし、俺たちの言い争いを下らないと決めつけてとっとと終わらせようとする。暴力沙汰にもなっていないのに?」

「なら、あんなやり取りをしてなんになるというんだ? ラウラに何かを言ったところで私以外の言葉は聞かない。いや、自分の思い道理にならないと気が済まない性格だぞ」

「……なんで先生がそんな風に決めつけて、諦めてるんですか? 『教官』としてどんな仕事そしていたのかは知りません。けど、今あなたは『先生』なんですよ。自分の仕事くらいはしてください。俺が言いたいのは結局それだけです」

もうこんな所から離れたい。なんで年上の人に向かって説教じみたこと言ってるんだ。いや、認識し直すまでの事でもないのにそんなことを言っているのだろう。

先生だって自覚ぐらいあると思うし。

「しているぞ。それとも社会に出たこともない学生が教師に何か教えることが出来るのか?」

「少なくとも中学の先生は問題児をほっときはしませんでしたね」

「問題を起こしているのは貴様でもあるんだぞ。分かったら寮に戻れ」

苛立ったようにそう言い残しその場から去っていく。

残業でもあるのだろうか。学校の方向に向かって歩き始めた。少し肩ひじを張った背中を見ていたが俺も寮に戻り、とっとと書類を織斑に届けてしまおう。

しかし、同時に思った。俺の方の問題は例外でそこにあることで迷惑をかけてしまうが、ボーデヴィッヒの方の問題児は自分が迷惑を起こしてしまう起爆剤だ。未然に防げるはずである。自分の迷惑が誰かを巻き込むことになってしまうから何とかしたいのだと今更気づいた。

ここままだとアイツが、何か取り返しが効かないことをするのではないかと心配になる。俺の周りで起きる前に止めてしまいたいのに。

 

ノックをして扉の前で声をかける。

「入るぞ」

「え? ああ、……あ!」

何やら途中で焦ったように声を出すが、どうでもいい書類届けて早く食堂に行きたいのだ。遠慮なく扉を開け織斑の部屋に入る。

何やら織斑とデュノアがベットに背を向けあうようにして腰かけているが、俺が入ってきたことで入口の方に目を向け拙いと目を開く。まるで隠し事でもしているかのように。

デュノアはシャワーでも浴びていたのかジャージに着替え、織斑は俺より帰ったのにまだ制服だ。しかし、薄暗い室内で違和感を感じ目を凝らしてみるとデュノアの胸が詰め物でもしているかのように膨らんでいる。

「ん? まぁいいか。これまだ山田先生が間違えて俺のところに入ってたお前の書類。明日に出してほしいってよ」

「ああ、ってスルーでいいのかよ!?」

 室内はまだ明かりを付けていないのか薄暗い。それにデュノアの表情が同調している気がする。

この暗さで無視することにも出来たはずなのだが、織斑が声を上げてしまったため無視する事も出来ない。「なにが?」って言っても白々しいだけだ。

「デュノアが半陰陽でしたとかそういう話か?」

「僕、インターセックスじゃないよ!」

「じゃ、聞いていいことなのか悪いことなのか?」

「えーと……」

まるで隠し事がばれた子供のように目をそらし始めるデュノア。早く食堂に行きたいのだが、ほっといていいのだろうか?

「……どうせもうばれていることだから二人に言うけど、……僕は性別は女なんだ」

うん。疑問に思っている人きっと俺らのクラスにいるよ。かわいい男子なんているのかって。

「でも、なんでその男子のフリなんてしてるんだ?」

「実家の方からそうしろって言われて」

突然話される家事情。デュノアが社長の娘で、愛人の子で、良いように使われ、機体開発が遅れているせいで援助金がなくなるから、デュノアをスパイにして俺らの機体のデータを取りに来た。纏めるとそんな感じだろう。

 

で?

 

「そんな話を永遠と聞かされて俺にどうリアクションしろと? 笑うのが正解か?」

 本当にどうでもよかった。母親が死んでなんなんだ? 辛かったですね。とでも言えばいいのか? 淡々と感情の乗らない声にどうやってリアクションすればいいんだ?

 同情してもらいたかっただけじゃないのかよ。

 なんで悲しみの色すらないんだ?

 どうして悔しいとか、辛いとか言わないんだ?

 お前の本心はどこにある?

「章登! おまえっ! 何にも思わないのかよ! 親が勝手に生き方決められる言われはないはずだろう!」

「まぁ、そりゃ分かるんだ。それで何時までもデュノアが何も言わないのが滑稽だって言ってるんだ。悔しいでも辛いでもない。ただ、起こったことを言っただけだ。

俺はデュノアが何をしたいのか全く聞いてねぇんだけど。黙っていてほしいのか助けてもらいたいのかそれすら聞いてない。織斑が提案した3年間此処にいればいいってのに流されただけで自分の意思がねぇんだよ」

デュノアの父親以上に俺はデュノアに苛立っている。なんでやる前から諦めて流されるまま現実を見ようとしないのか。流される方が楽だからだ。それを受け入れているのに何悲壮ぶって悲劇のヒロインになりきっているのが気に入らない。

「だって……仕方ないじゃないか。選択肢がそれしかないんだから」

まだ、張り付いたような力のない笑みを浮かべそう言う。

「ハッ。選択肢がない? 俺たちの機体データを貰って会社と今後一切関わらないと契約したっていいし、教員や財界者と接点作って事情説明して協力者になってもらってもいい、もしくはこんな事になってますってフランス政府に訴えかけたり、デュノア社がこんなことやってますって世界から非難される立場を作り出したっていい。いろいろ細かく計画立てなきゃならねぇが俺みたいな馬鹿だってこれだけの選択肢が出てきたんだ」

嘲笑うようにそう言う。本当に実行出来るか分からない。失敗だってあるし状況が今より悪く可能性だってある。協力者を作るにしたって信頼関係をたった数日で作れと言っても無理があるだろう。だが、こいつは今まで命令に従っていただけで反抗しようという気持ちを感じられない。何かをしようとしていない。

「弱いなら助けを求めたり、頭使うくらいはしろよ。織斑はかなりの影響力を持つ先生がいるし、一応俺は生徒会長とも知り合いだ。頭だっていいから何らかの糸口を見つけられるかもしれない。紹介はするし信用するのはそれからでも遅くはねぇけど」

それより問題なのは手段ではなくデュノアが諦めていることだ。諦めること自体はいい。何かをして出来なかったと挫折するのは解る。だが、何もしていないのに諦めているだけの奴はただの腰抜けだ。試合で相手が悪い、だから棄権しようみたいな考え方だ。

「自分の意思すらないやつに誰かが助けになることはねぇよ。戦おうともしない奴が悲劇ぶって助けられるのが当たり前って顔が鬱陶しいってだけだ。なんで立ち向かわずに絶望してるんだよ」

自身が牢屋に入れられるかもと思っている事にこのままではそうなる可能性があると分かっているのに何もしない。

誰だって問題があれば改善しようと努力する。協力するか、自身のみでやるかはその人次第だ。けど、こいつは織斑に言われた3年間の時間があることが分かっても何かしら見つけようと考えていない。

「いい加減にしろよ、章登。困っているやつがいたら助けるってのが、人間ってもんだろ?」

「自分で問題を放棄して誰かに縋り付く様にして生きていくって奴を助けるも何もないだろ。そこで問題をどうにかすることを本人がやる気がないんだから。で、デュノアはそんな人間になりたいのか?」

「そんな章登が思っているような気力がある人間じゃないよ。だって今日までみんな騙してきたんだから、それに力とかないから」

 その言葉に違和感を感じる。そして、分かった。誰を騙している? 『みんな』と言うことは自身のことも言っているのか? 『力』は? ISという力が。美貌という力が。

「騙したって……何を騙してやがる。したいことがあるのになんでかっこつけて甘えてんだよ。お前は誰と話して聞いてるんだ!? 自分の生い立ち話しておいて勝手に巻き込んでおいて何諦めてるんだよ!? それに力なんていくらでもあるだろ!?」

 勘違いしていた。考えていないんじゃない。自分でもう結論を出しているのだ。ものすごく視野が狭い答えを。

 『自分は何もせず諦め流される』という答えを。

 デュノア社は強大だ。だからその力に怯えて誰も何もしなくなる。だったら、話して諦めさせ巻き込まないようにした方がいい。これ以上口出ししないように。そう考えてしまっている。立ち上がれないのなら立ち上がらなくてもいい。

 恐怖で諦めるのではない。無駄だから諦めているのだ。

無駄に疲れるより疲れない方がいいと。

「戦うのが辛いのなら逃げろよ。本当に怖いなら震えろよ! なんでお前疲れてないのに疲れてるふりしてるんだよ!」

「僕は……」

「シャルル。大丈夫だ。俺が何とかする」

その自信はどこから来るのか知りたい。ちゃんとした計画はあるのか、俺のように何か計画を立てるつもりなのか。

「だから章登はいい。弱ってるのに怒鳴り声を出す奴なんて男の風上にも置けねえよ。逃げるなんてもってのほかだ」

 俺の言葉に織斑は不愉快に思っているらしい。弱ってる? 弱った振りをしているだけだ。これほど言って何も言って来ないなんて、聞いていないだけだ。怒っていいのに、泣いていいのに、ただ力なく笑い続けているだけ。

 逃げて何が悪い? 諦めて逃げて別の道を探すのはいい。諦めて何もしないのが一番だめだ。

「じゃあ、なんで織斑はデュノアを救うんだ?」

「そんなの決まってるだろ。仲間だからだ。逃げるってなんだよ。諦めんなとか言っておいて!」

 もしかして、織斑の頭の中では逃げる=諦めるなのだろうか?

「痛くて泣いているとか、どうしようもなく辛くて立ち直れないとかじゃなくて、選択肢があって自分で少しでも踏み出せば変えられる状況なのに、なんで逃げてない―――」

少なくともそこまでデュノアは無力ではないはずだ。少なくとも口が聞けないとか周りに協力者を作れないとかではない。

 そう言う途中に殴られた。織斑にグーで顔を不意打ち気味に。いきなりの事で頭が混乱しすぐに体制を戻せない。頬が腫れあがり熱を増すかのように痛くなる。

「何時も気を配れとか、他人の気持ちを考えろとか言ってるくせにそんなのかよ! もうシャルルの事で何か言うんじゃねぇ!」

 今度は腹にくらい部屋の外に出される。手加減抜きの拳は胃を荒らし吐き気がこみ上げた。他人にアドバイスしようと思ったらこれだ。不器用すぎて嫌になる。今の織斑に何を言っても無駄だろう。それに決めるのはデュノア自身が決めなければならないことだ。

 保留か、放棄か、前進か。ただそれを決めて欲しかっただけなのにな。それに早く決断しないと取り返しがつかないこともある。

 

「悪かったシャルル。章登があんなきつい言葉言うとは思わなくて」

「ううん。いいよ。章登だって悪気があったわけじゃないし」

「けど、あんな言い方ないだろ。もっと……」

「一夏は優しいな。ありがとう」

そのさっきの言葉がまだ胸に響いているのかぎこちない笑みを払拭させようと織斑が元気付けようとする。

「いろいろあると思うが3年間は手出し出来ないんだ、その間になんてかなるって」

「そうだね。ふふ」

まるで少女のような笑顔を見せられ狼狽する織斑は気づいていなかった。

IS学園は様々な企業、国家から支援を成り立っている。そのうちの一つがデュノア社。

IS学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約がある。それ故に他国のISとの比較や新技術の試験にも適しており、そういう面では重宝されている。ボーデヴィッヒのシュバルツァレーゲン、オルコットのブルーティアーズ、更識楯無のミステリアスレイディが本来企業や国家が管理するISが学園内で稼働しているのはこのためだ。だが、この規約は半ば有名無実化しており、全く干渉されない訳ではないというのが実情である。

だから、デュノア社の意見が通らないなんてことにはならないのだ。

そもそも第21項をよく思い出してみよう。

『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意《・・》がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』

表面上、企業の後ろ盾があるのに帰属していないとは言えないのだ。それに本人の同意がなく国の代表候補生になれると思っているのだろうか?

あくまでこれは何らかしらの後ろ盾のない人物を守るための特記事項であり、ISなんていう分かりやすい力を持っている人物に都合よく作られていない。

 

それに、IS学園には何かあったら介入出来るよう各国のスパイが監視していたりもする。情報収集であったり、性能評価であったり、技術のデータを入手しようとしたり。理由はさまざまである。例えば送り込んだスパイが仕事をしているか等。

ISの技術が利用させたのは何もISだけではない。

例えばISのスラスターが戦闘機に使われたり、ハイパーセンサーや火器管制が銃に使われたりしている。

では、ハイパーセンサーの視覚補佐機能が軍事用の双眼鏡に転用されない事なんてあるのだろうか? そして、織斑の部屋を監視していない事なんてありうるのだろうか? 盗聴器が技術の発展により、より小さくなっていく中でそれが拡張領域が多いラファールに詰め込めない事などありうるのか?

 

ありうるわけがない。

 




すいません。
ただ、ラウラは問題児兼犯罪者一歩手前だし、織斑先生は職務放棄だし、シャルロットは完全に犯罪者だし。

恐らく明日の感想欄は恐怖で一杯一杯の気持ちで読みます。
誤字、支離滅裂な文は自身で何とか探している途中です。まだまだ終わりそうにありませんが。

織斑は章登の言った。『逃げればいい』思考はダメなことだと思っています。
あと、いじめ? と思ってしまったから章登が次何か言う前に追い出した。
説教という形にしたかったのですが、それが出来ているかも分かりません。
しかし、実際に織斑ってデュノアの家族関係に関して何かしましたっけ?
シャルロットも何かしたのでしょうか?

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