IS 普通じゃない男子高校生   作:中二ばっか

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第14話

「章登、屋上行こうぜ」

「食堂で十分だ」

その返答の速さに面を食らったように驚く織斑。何か不思議なのかよく分からないと疑問を浮かべる。

このIS学園は不自由しない程度には生活できる。衣食住全てにだ。

だからわざわざ屋上で購買に何かを買いにいかずとも、食堂で何かを頼めばいい。付け加えるなら購買にはパン以外にもお菓子、文房具、学校服、裁縫道具など色々なものがある。

それらも大抵は無料だ。

別に食堂で定食を食おうが、購買でパンを買って屋上で食おうが、朝。調理場を借りて弁当を作ろうが個々の自由である。ただ後になっていくほど手間がかかるため、大抵の人は基本的に前者を選ぶ。

 

俺は弁当作っている暇なんてないため前者を選んでいる。

「いや、シャルルと一緒に食おうぜ。転校してきたばっかりだし俺ら男子が協力しないといけないだろ? それに3人だけの男子なんだ、仲良くしようぜ」

「ああ、でもなんで屋上なんだよ?」

「いや、天気がいいから屋上で食おうって話なんだが」

確かに友好を深めるというのでは一緒に昼食をとって話すというのはナンパが古典的に使う方法でもある。

中学時代女の子と仲良くなるにはどうしたらいいかを友人で考えていた時、恋愛心理学の本を買い何度か読み直した時にあったと思う。

まぁ、気が緩んで仲間意識が成り立つというのだ。オオカミの群れで一緒に獲物をしとめて絆を深めると思えばいいのだろうか?

 

「わかったよ、購買で飯買ってくっから先に行っててくれ」

「ああ、またあとでな」

そう言ってさっそく屋上に向かったようであったが織斑は弁当を自分で作ってくる弁当派なのだろうか?

 

そう言う訳で俺は学校の購買前に来ているのだがもうここは一種の戦争状態だ。

なぜ皆が食堂という安易な道に入らずこのような醜い争いをしているのかが分からない。

そこには普段の可愛らしさや美しさはなかった。

誰もが午後に迎える授業を過ごすため必死の攻防を繰り広げる。

ああ、そうか。

次に来る授業のための補給をしなければならない。が、食糧は限られている。

全員に行き渡るほどの量はここにはない。

人は自分が生きるためにならどこまでも非常になれる。

少ない物資で争いが起こるのも不思議ではない。

何時まで経っても人は自分優先なのだ。

そんなこと最初から分かっていたはずなのに……

 

 

って、何、俺は購買で起こるパン買い競争を人類レベルで拡大化していたのだろうか?

しかし、あの人の波に入る気にはなれず売れ残りに在り付こうと、ライオンが仕留めた獲物の食い残しを狙っているハイエナになる。

 

そして、ライオンたちが去っていた時に購買に向かい、残り物に目を配る。

案の定のコッペパンのみ。

取りあえず2つとコーヒー牛乳500mlをもらって屋上に行く。

 

 

「どういうことだ」

「ん?」

篠ノ之が何やら腹立たしい事でもあったかのように声を低くして織斑に問いかける。しかし、何が疑問なのかまるで分らないという風に把握していない織斑は相槌を打つ。

屋上には俺、織斑、デュノア、篠ノ之、オルコット、凰が居た。

 

「天気がいいから屋上で食べるって話だったろ?」

「そうではなくてだな……」

なぜか織斑の聞き返しに恥ずかしがるように声を下げモジモジを語尾を濁らせる。

この篠ノ之という人物が恥らっているのを見て、この場から逃げ出したい衝撃に駆られる。

なんで二人きりの空間でいちゃいちゃしているのをまじかで見せ付けられなければならないのか。

そんな事は部屋でやれ。外部者は空気にされ置いて行かれるんだよ。それとも何か? 見せつけてるのか? だったら今すぐ爆死しろ。

 

「せっかくの昼間だし、大勢で食った方がうまいだろ。それにシャルルとも親睦深めておきたいし、転校してきたばっかりで右も左も分からないだろし」

「そ、それはそうだが……」

憤りを隠しきれず、口から呻き声をだし拳を力いっぱい握りしめる。その手に包んだ弁当箱が今にも壊れそうに軋みを上げていそうだ。

 

そう言えばなぜシャルルはグラウンドの場所が分かったのだろうか? まぁ、目に付き易いのだろうが、第一グラウンドとも間違えることもあったはずだ。

織斑が一緒に来たから分っただけなのかもしれないが、俺が聞いたときは間違いがないと断言しているようにも思えた。

ちょっとした島ぐらいある広さの学園の施設を不安もせず、間違えずに?

そこで「ぐぬぬ」と篠ノ之がまた唸っており思考をこの場からどうするべきか考え始める。そんな些細な疑問など後で聞けばいい。

 

「一夏。あんた前に私の酢豚食べたいって言っていたでしょ?」

そう言って凰が酢豚が入っているタッパーを織斑に差し出す。すごく美味しそうなのだがその酢豚以外には何も見えず、三菜とご飯は? という疑問があった。

凰の手元を見て見ると購買で販売されていたプラスチックの容器に入った白飯が見えた。どうやらおかずしか作らなかったらしい。牛皿の逆なのだろう。

 

「ええと、本当に僕が同席してよかったのかな?」

遠慮しがちな声で言い出すシャルル。

まるでこの場にいる事が場違いなように感じているようで、織斑よりは空気が読めるらしい。更に前に空気を壊すようにして多寡寄って来た女子達の断り方が凄かった。

 

『僕の様なもののために咲き誇る花の一時を奪う事なんてできません。

こうして甘い香りに包まれているだけで、もう既に酔ってしまいそうなのですから』

何を言っているのか俺の頭の語言変換機構は解読できなかった。

まずそのような言葉を使うこともないし、言ったところでしらけるだろう。

態度を大きく雰囲気を美しく見せたところでただの嫌味な奴である。

 

何でこいつはそんな事をしても女子達に嫌われないのか一度皮膚組織と喉を調べてみる必要があると思うのだ。

 

「俺たちはお邪魔虫だろうな」

シャルルに同意するようなことを言う。

「いやいや、何でだよ。同じ男子同士仲良くしようぜ。いろいろ不備もあるだろうが、協力していこう。分からないところがあったら何でも聞いてくれ―――IS以外で」

最後の一言がなかったら頼れるやつと認識できたのだろうに。

 

「アンタちょっとは勉強しなさいよ」

「してるって。多すぎるんだよ、覚えることが。お前ら入学前から予習してるから分かるだけで」

「分かろうが、分からなかろうが教本は理解しろっての。お前の見かたはただ眺めているだけだ」

「読んでるって、……文字多すぎて戸惑っているだけだ」

理解じゃなくて読んでいるって言っているので、読んでも理解していないだけなのではないのだろうか? それともあれか3日目あたりで記憶したことが忘れるたちなのか?

 

「まぁ、愚痴とか相談相手ぐらいにはなるし電気ストーブの使い方からIS整備施設の使い方まで何なりとご相談くだせぇな」

そうデュノアに告げておく。これでも研究室に通いつめある程度の知識は納めているはずだ。ここに放り込まれるまでISに関わっていなければ大抵の疑問に答えられる自信はある。

 

「うん、ありがとう」

にこやかな微笑でそう答えてくれるが、それは男子の下劣な笑い方とは程遠く、お嬢様が手を口に当て微笑している表現が正しいだろう。

彼が男ということに違和感を感じられるほどに。

 

「まぁ、これからルームメイトにもなるだろうし……ついでだよ、ついで」

「ま、俺は一人部屋だしな」

「章登さんのお部屋はもう大丈夫なんですの?」

「やっと昨日ベットと机と電気が取り付けられた。後はエアコンとLANケーブルだな」

そんな話をしながら昼食が進んでいく。しかし、未だ篠ノ之は弁当箱を開いておらず沈黙したままである。

 

「どうした? 腹でも痛いのか?」

「違う……」

「そうか。ところで箒、そろそろ俺の分の弁当をくれるとありがたいんだが―――」

「なんで言いだしっぺが自分の弁当用意してねぇんだよ」

「ん? 箒がくれるって言ったからさ」

何事もないように言う織斑。こういうのを乞食根性って言うと思うんだ。

そして、そして無言で織斑に弁当を差し出すが俺に恨みでもあるかのように睨みだす篠ノ之。その顔には余計な事をするなと書いてあるが、余計な茶々を入れられたくなければ二人きりでやってくれ。

 

「じゃあ、早速。おお、これはすごいな! どれも手が込んでそうだ」

「ついでだ、ついで。あくまで私が自分で食べるために時間をかけただけだ」

「そうだとしても嬉しいぜ。ありがとう」

「ふ、ふん」

そんな風に織斑に料理の腕を褒められただけで険悪な表情から一転、嬉しそうな顔を浮かべる。チョロイン篠ノ之箒(織斑一夏に対してだけ)だな。

 

「箒、なんでそっちの弁当にはから揚げがないんだ?」

「これは、その……だな……(うまくできたのがそれだけなのだから仕方ないだろう)」

「え?」

「私はダイエット中なのだ! だから、減らしたのだ。文句があるのか?」

「文句はないが……別段ふとってないだろ?」

同意を求める様に周りの人物がどのように反応するか確認するように首を回しこちらを見てくる。そこにあったのは腹が立っているように怒った顔、不機嫌な顔、ソレはいけないと忠告したい顔、もはや毎度のことで呆れている顔。

 

「なんで男ってダイエット=太っているの構造なのかしらね」

「本当にデリカシーという言葉がありませんわ」

「女性にそれは禁句だと思うよ? 一夏」

「俺も前思っていたが怒られて反省したぞ?」

俺達の言葉にまだよく分かっていないらしく、篠ノ之を凝視し始める。例えるなら全身くまなくじっと見つめているように、ただし大きな偏りがあるらしく胸や股辺りを見ていた気がするが。

 

「どこを見ている、どこを!」

その視線に耐えられなくなったように羞恥心で顔を赤らしめ必死に胸の前に手を置き自身の体のラインを隠そうとする。

 

「どこって……体だろ?」

見ていた対象物の名前をそれに準ずる何かにすり替えることで自身の視姦行為を誤魔化しているように聞こえてしまうのは気のせいだろうか?

 

「堂々と女の子の胸を見るやつがいるかって言ってんのよ!」

今にも拳を上げそうなほどに怒っている凰。自身にはないコンプレックスにどうしようもなさそうに犬歯がむき出しそうなほど歯切りしている。

「はぁ、一夏さんは紳士として必要なものが多大にかけていますわ」

もはやため息が出るほどにあきれ果て、肩が落ちる。もはや織斑を擁護する人間はここにはいないようだ。

もはや俺は会話に加わらずコッペパンの袋を開け噛り付く。少し弾力がありパサパサとした欠片が口の中の水分を吸収していくのでコーヒー牛乳を口にして味と水気を加える。

 

「おお、うまい!」

織斑は幼馴染の弁当というどこのギャルゲーシーンですかというほどに恵まれている物を噛り付いている。羨ましい? どちらかというと鬱陶しい。どっか余所でやってくれ。

 

「本当にうまいから箒も食べてみろよ。ほら」

そう言い織斑は箸に唐揚げを摘み、左手を添えて箒の口先へと運ぶ。

 

「な、なに?」

「ほら。食ってみろって」

いきなりの展開で篠ノ之は戸惑い、そのことに織斑は気づかないように食べてみろと催促を促す。

 

「織斑、頼むからそれは何処か余所でやれ」

「なんでだよ?」

なるで分からないという風に首をかしげる織斑だが分かっていないのはお前だけだ。なんで「はい、あーん」なんて古典的な恋人の光景を見なければならないのか。見せつけているのなら俺達には殴りつける権利があると思うんだ。

 

「あ、これが日本でカップルがするっていう『はい、あーん』っていうやつなのかな? 仲睦まじいね」

デュノアがそんなことを言いながら微笑んでいる。まるで恋話に興味があるような女子みたいだ。

 

「なに!? いつの間にそこまで仲良くなってんのよアンタは!?」

「いや、仲良くなって損はないだろ?」

凰が憤り、織斑は見当違いなことを言うのはもはや名物化しているような気がする。

 

「それなら、みんな一つずつおかずを交換しようよ。食べさせあいっこ見ないなことならいいでしょ?」

「俺はいいぞ」

「パス。誰がコッペパン食いたいんだよ」

「あ、僕も購買のパンだから駄目だったね。ごめん」

「ま、まぁ、いいて言うなら付き合ってあげてもいいけど」

「私はそのようなテーブルマナーを損ねるような行為は良しとしないので遠慮させていただきますわ」

俺とデュノア、オルコットは自分の持っているパンを頬張っていく。

 

「じゃ、箒。あーん」

と織斑が篠ノ之に向け唐揚げを差し出す。ぎこちなく口を開け唐揚げを口の中に入れた篠ノ之。若干、頬が赤くなっており恥ずかしいのか、照れているのか。

 

「い、いいものだな……」

「うまいような、このから揚げ」

なんで弁当を作っていないお前が褒め上げられるのかが分からない。

 

「さぁ一夏! はい、酢豚! 食べたいって言っていたんだから食べなさいよ!」

そう言いながら差し出される綺麗な茶色の甘酢が絡まった肉団子を織斑の口に運ぶが。

「いや、もう酢豚は自分のがあるし」

織斑の手元にすでに収められたタッパーに入っている酢豚に織斑は目をやるが、凰はそんな行動が気に食わないらしく無理やり口の中に肉団子を突っ込む。甘酸っぱさなんてみじんもなかった。

 

「むっぐ。なんでこっちにあるのに鈴が食べさせるんだ? まぁ、おいしいけど」

「もっと感謝しなさいよ!」

「ああ、ありがとう」

まるで消しゴムでも落としたものを拾った時にいうように謝礼をする織斑。そんな反応でもすこし頬が赤くなるのは惚れてしまった弱みなのか。

 

 

「章登さん。お一ついかがですか? さすがにコッペパンと飲み物だけでは味気ないような気がするのですが」

「いいのか?」

もう、2つのコッペパンを食べ終えたのだが、物足りないと感じている。しかしテーブルマナーは大丈夫なのだろうか?

 

「ええ、少し作りすぎたようでどうしようか迷っていた所なんです」

「では遠慮なく」

そう言ってバスッケトの中のサンドイッチに手を伸ばす。卵サンドらしくきれいに整えられまるで食欲をそそるかのように美味しそうに見せているらしい。

それを一齧り。

直後、俺の舌がまるで辛子と酢を直接食べたように悲鳴を上げる。

 

「!?!?」

急いでもう片方の手にあるコーヒー牛乳を口の中に流し込み辛みを中和させようとするが未だに辛みが口の中に残っている。一体どういったつくり方をすればこういったものを作れるのか疑問である。舌が痛いとか焼けるとかではない。明確な拒絶反応だった。これは人が食べられるものではない!?

 

「いかかですか?」

満面の笑みで聞いてくるのだがそんなもので俺の決意を鈍らせられる限度は超えていた。

 

「辛い、まずい。何入れあがった!?」

「えっと岩塩、辛子、胡麻ドレッシング、ラー油、福神漬け、パプリカ……後はなんでしょう……レモンも入れたと思いますわ」

大方の素材が卵サンドに入れるものではない。

「なんで見た目だけいいんだよ……」

「本と同じに作ったはずですわ。だって写真と同じに見えるように作ったのですもの」

つまり何を入れ何をするかという文字の部分を見ていないで作ったのだろう。こいつ日本語は聞き取れても文字は読めないたちなのか。

「……それは写真に似せているであって決して本と同じで作ったではない。つーかってめぇ一回食ってみろ」

 

まるで何の不満が? といった疑問符を持っているように困待ったような顔をするが、自分のサンドイッチを一齧りしたところでまるで自分の手で殺人ウィルスを作り出しそれを誤って吸い込んでしまったように絶望し、血の気が引いていき顔が蒼くなっていく。それから掠れ掠れの声で俺に向かって言う。

 

「こ、今度料理に……た、立ち合ってはいけません……こと……?」

「ああ……この悲劇はここでおしまいにしちまう」

そう俺達は決意する。

 

 

こちらは喜劇であちらは恋路

こちらはコメディであちらはギャルゲー

 

「なんなんだろうね、この差は」

デュノアは崎森と織斑の現状を見て呟く。その声は両方には聞こえなかった。

 

 

 

 

ISの倉庫内で前の授業に使ったISを整備を始める。今日やるのは内部フレームの確認の仕方とスラスターの中の塵を取り除くことであった。

まず多彩アームで装甲をすべて外され内部フレームが剥き出しになったラファールを確認していく。

「駆動系はエラーなし、装甲もいいか。スラスターに砂が入り込んでいるか? センサーはいいし、関節部を一回劣化してないか確認する人と、スラスターを一回分解して砂を取り除く人に分けるけどどっちかやりたい人いる?」

 

確認の方に4人、スラスターの方に3人と綺麗に分かれてくれたため俺はスラスターの方に加わる。

 

ラファールには4基の多方向加速推進翼(マルチ・スラスター)が付いているため1人1個ずつ作業を行うこととした。

 

作業用ゴーグルで内部構造を確認、ドライバー、スパナ等でスラスター部分を分解し白い紙の上に部品を乗せていく。そして、分解した部品をオイルのような洗剤を付けたブラシで擦り、こびり付いていた汚れや砂を落し、フリーニングロッドに布を付けふき取る。

 

他の班の人も俺と同じようにするのがデュノア、オルコットであり、スラスターの整備や内部フレームの確認の方に全員一団とやっているのが織斑と凰。

 

内部フレームの確認の方は、特に手の部分を拭き取ったり関節部のチェックを作業用ゴーグルで確認していた。

 

マルチスラスターの塵を取り払い、組み立て直し、足のスラスターを分解し終えたころ、こちらを手伝っていいかと聞いてきた子がいたので図面と綿棒の様な金属棒にティッシュを付けたものと布巾を渡し作業していく。

 

例の異常集中も相まって1時間で俺の方は終わったが、まだ他の子が組み立て作業で手間取っているらしくそこの手伝いに行く。それも終わったが、まだあちらが関節部の確認で手間取っているらしい。

そこに近づき終わってない左足のところから手伝い始めていく。

何せ、かなり細かい部品などがありそれら1つ1つが規定値に満たしているかチェックをしていかなければならない。

 

「さ、崎森君、……こういう事慣れてるの?」

短い髪の長さでボブと思われる髪型をした気弱そうな子が話しかけてきた。

先まで手伝ってくれた子であり、この中では結構優秀なのではないのだろうか? 

 

「まぁ、人通りは。一応研究部でいろんな事やってるし。そういうえっと、雪原―――花子だよな? うん、雪原も慣れているっぽいけど?」

一瞬、名前を思い出すのに手間取ったが間違ってないはずだ。

 

「わ、私も、その……パソコンの組み立てとかしてたから。あと、雪原花奈子。……本音はかなりん、って呼んでいるけど」

手伝いに来てくれた女子が気弱そうな声で言うのもおどおどと不安そうに言う。どうやら気が弱いのか、人見知りをする性格なのか。のほほんと話している人物だったので俺の所に手伝いに来てくれたのかもしれないと思った。しかし、そんなに怖い顔はしていないはずなのだが。

そう思っているのは崎森だけで本当は異常集中で無表情で機械のように作業している崎森に物恐ろしさを感じたからなのであるが。

 

そう言っている間にも作業用ゴーグルを付け確認作業を進めていく。

ISのコアの方は別にメンテナンスしなくても自己進化や自動最適化で多少損傷を受けても治ってしまうのだが、IS電池の方だとそうもいかない。

通常の飛行機が

T(次に離陸するまでの外観点検、燃料補給の作業)

A(発着回数、飛行時間で劣化した動翼類、タイヤ、エンジンなどの点検)

B(エンジン関係を中心とした詳細な点検)

C(配管、配線、エンジン、着陸装置などについて入念な点検、さらに機体の検査、給油、部品交換)

M(機体の内部検査、防錆処置、機能試験、システムの点検、再塗装、大規模な改修)

の整備を行うのに対し、電池を使っているISは1回24時間フルで稼働したとしたらC整備が基本である。

 

まぁ、整備用の施設があれば遅くて3時間程度で何とかなる。IS学園の施設が優れているのと、飛行機のサイズと人のサイズのロボットでは大きさが違うためでもあるが。

 

「あ、ここの右足首結構ガタが来てんのか?」

「え? ……あ、ホントだ。」

作業用ゴーグルで劣化の確認をしていた時、足首のあたりが規定値ギリギリでイエローゾーンだった。目視ではまだ使えそうなものだが微妙に歪みが生じているらしい。

そう思えば立ち上がる時若干バランス崩してなかったか?

 

「分解して、部品交換だよなこれ? 規定値ギリギリだし。えっと、乗ってた時どうだった?」

いまだに隣にいる、雪原に聞いてみるが乗ったのが初めてらしく正常な物との違いわからないらしい。

ほかの女子にも聞いてみるが余りよく分からず、どうしようかと迷っていると雪原が提案してきた。

 

「……山田先生に見てもらった方がいいかな?」

「そうだな。呼んでくるか」

そう思い格納庫の周りを歩いて山田先生を探すと織斑の所に居た。どうやら初心者の織斑がいろいろと手間取っているらしい。

そりゃ、昨日今日で覚えられるわけない用語や器具の扱い方だしな。それに専用機持ちなのであまりそういう整備にこだわることがないのだろう。

 

「山田先生。足首の関節部がイエローゾーンに達しているんですけど」

そう言うと、山田先生はキーボードから手を放し、俺の手にある機体の検査結果のパネルを見る。そこには黄色く表示される右足首とどのくらい損傷があるかを表すモニターが表示されていた。

「あー。これだと部品交換しないとだめですね。スペアはあるんですけどちょっと一年には難しいですね……。今こちらの打鉄ちょっと劣化が激しいみたいで交換作業してるんです。」

「ああ、昨年と比べて打鉄って劣化激しいんでしたっけ? いや。交換はできるんですけど勝手に弄っていいんですか? 授業内容じゃないんでどうしようか迷ってたんですけど」

「え?」

なぜか山田先生は驚いており目を開いてマジマジとこちらを足の先から頭のてっぺんまで見落とす所がないように見ている。

 

「えっと? できるんですか?」

「一応先輩方の手伝いで直していたりしましたから」

ああ、と納得がいったように手を両手に合わせる。

一応、研究部だろうが、開発部だろうが、整備課に分類されるため最低限の整備能力は持っている。

そのため、自分の研究、実験、訓練で使ったISは週末に定期的の整備に参加するという暗黙の了解(ほぼ義務化)もあるのだが。と言っても殆ど先輩方が大抵終わらしてしまっている。前、こちらが未だB整備中なのに整備課の先輩方は3人程度でM整備の内部点検までいっていた。

 

まぁ、それでも自分が使ったISは最低限参加しないといけないはずなのだが、なぜか篠ノ之が来ていないのだ。あいつ打鉄使ったよな? しかも打鉄が昨年と比べて劣化が激しかったとか。

……まさかな? 開発者の妹で剣道と剣術習っている奴が無茶で荒っぽい動きなんてしないよな?

 

「じゃあ、部品のある場所も分かりますね? 交換作業をお願いします。後で確認に行きますけど、途中分からない所があったら聞きに来てください」

「はい」

 

戻る途中に足首に使われている円い予備部品を手に持ってくる。

そこから作業用アームを持ってきて股間部分から一度取り外し、作業しやすいように固定化する。

そこから足首に作業用機械指の分解するための器具が内蔵された腕を持ってきて、足首を一度取り外し、くるぶしのような丸い部品を外す。その足の甲に予備部品を取り付け、時間が巻き戻るように節合し直す。

 

そこで、異常集中が終了し、周りからやる気がなさそうで、気合が入っていない「おー」と感心した様な声が出される。

どうやら俺の班の女子たちが俺の作業を見ていたらしく、賞賛しているらしい。

しどろもどろになりつつ「あ、ありがとうございます?」と言う。普段が普段だけに誰から賞賛されることに慣れていない。

 

それから、装甲を取り付け始め俺らの班は2時間程度で作業を終えられた。

最も早かったのは俺らの班らしい。

 

そこから自分のISを展開しチェックを確認しシステム面を確認していく。別段異常はなく、微調整する必要もないため作業用ゴーグルで劣化がないか確認していく。やはりこの辺はISコアの優位性が見て取れる。が、こんな力どうして宿っているのか疑問がある。そのことはまた後々考察でもしていこうと思う。

 

まぁ、アサルトライフルを分解して砲身にガンオイルを流し銅製ブラシで内部を磨いていき、ライフリングのこびれを落としていく。そこに棒に布を取り付け砲身の中に突き刺してこびれをふき取っていく。ほかの部品もオイルを含んだ布で部品をふき取っていく。

 

後になって山田先生が確認して問題なしと判断したので、今日の授業は終了した。ISを収納する。後は早く片付いたので後は寮に戻って休むなり、部活に行くなり好きにすればよかったのだが、そこで俺の携帯が鳴る。相手は癒子?

 

『終わったなら、ちょっとこっち手伝ってー! お願いー!』

電話に出るといきなり切羽詰まった様に助けを求めてくる癒子。あいつも週末の整備作業には出てきているため分かるはずなのだが。

 

「あー、どの班だったけっか?」

『ボーデヴィッヒさんの所。何だか私達無視して自分の機体だけ整備してるんだけど、私一人しかできる人いなくて時間が足りなさそうなのよ!』

何やってんだか。コミュ障ではないのだろうか?

やれやれと右手で頭をかきながら癒子のところに向かう。途中他のところも見てみたが打鉄のところが手間取っているらしい。

 

故に俺が今見ている打鉄も酷い有様だった。スラスター内部は砂埃で一杯でこびれ着いており、金属疲労もすさまじい。これ、無理に動きまくって負荷がすごく何度も使った後の簡易整備を怠ったようである。素人目でもヤバいということが分かる。

 

「でだ、なんでお前は手伝わねぇわけ?」

「……」

自分に声を掛けているのに気付いていないのか、それとも無視しているだけか。どちらにせよここの班の居心地は悪い。何せ質問しても無言。指示もなければ助言もない。こんなので終わるわけはないし頼みの山田先生方は織斑の方に行っている。織斑先生? 頼りになると思う? いやまぁ、時折サボらないように見回っていたりするのだがだったらこの空間をどうにかしてくれと思う。

 

「聞いてんのか? ボーデヴィッヒさん」

「……」

「ボケピッピは難聴か」

ピクッとなぜか反応する。おや?

 

「誰が難聴だと? 貴様死にたいのか?」

「何を言っているのやら。俺はポケ○ンのピッピってキャラクターは難聴なんだて言っただけっての。誰もアンタのことを難聴なんて言ってねぇよ。ああ、でもさっきまで読んでいたのに気付かないってことはやっぱ難聴なのか?」

その小柄な体から威圧感のようなものが出される。目の鋭さも相まって心に恐怖を当てえてくるが何とか震えずに言いくるめようとする。

 

「でだ、いい加減自分の機体終わってるならこっち手伝ってくれ」

「下らん。なぜ手伝わなければならない」

「アンタ、リーダーだろうがこの班の」

「知らん。貴様らだけ手勝手にやっていろ。私には関係ない」

「ああ? 関係ないって―――」

「貴様らのような奴と関わって何の得にもならない。この程度のことで手間取っているような奴らなど特にな」

馬鹿にするように見下し暗くほくそ笑む。

 

なんとなくだが女尊男卑に染まった女を思い浮かべる。あれは男性に対し女性が見下す構図だが、こいつの場合は織斑先生以外が見下す対象だ。

くそうぜぇ。どっかに行ってほしい。

 

 

「だったらとっとと、どっか行けよ劣等生」

 

 

そう言った時、首元に黒光りしたナイフが突きつけられる。

少し肉に刺さったのか血が球体を作るようにして出る。血は首をつたわりシャツに染み込む。ナイフの主はその眼を冷たく尖らせ今にでも差し込むのに躊躇いはない。

 

「貴様本当に死にたいようだな」

「いや? 自分の仕事くらいはしろよ。やれと言われたっ事をやらない生徒って劣等生以外になんて言えばいいんだ?」

「きぃさまぁああああ!」

恐らく『劣等生』がキーワードだと思うが、そこから本物の殺気が噴出した。俺が恐怖を紛らわすよに自分は冷静だと言い聞かせながら話していたのだが、それにも激高したようでナイフに力が籠る。

 

と、そこで。

 

「やめろお前達!」

そこでボーデヴィッヒの腕を掴みそれ以上ナイフが進行しないように止める人物、織斑先生がいた。

 

「ボーデヴィッヒ、崎森、何をしているのかわかるのか?」

「屑の掃除をしようとしているだけです」

「自分の仕事くらいしろと言っただけです」

何も悪気ないように言い放つ二人。二人とも織斑先生には目をくれず視線で激突していた。確かにさっきの気づかれずにナイフを取り出す初動といい、今も放ち続ける殺気といい真面にぶつかり合えば死ぬのは俺の方だろう。

 

だがこんな訳も分からず暴力でナイフ振るうとかどんな暴走精肉機だよ。

 

「ボーデヴィッヒ、寮に戻れ」

「しかし」

「何度も言わせるな、戻れ」

 

そこで織斑先生の声音が一段と低くなったのが分かったのか、渋々と俺に猛烈な殺気を突き刺しながら倉庫を出ていくボーデヴィッヒ。

殺気が消えたところで織斑先生が忠告してくる。

 

「ボーデヴィッヒはドイツの軍人だぞ。雰囲気から察しはしなかったのか?」

「すいませんが、自己紹介が名前のみでしたので分かりませんね」

嘘である。何か得体のしれない雰囲気を纏っているのもわかり織斑先生に敬礼していた事から何かしらの軍人関係だとは思っていた。

 

「なぜ挑発した?」

「挑発? 俺は「仕事しろ」って言っただけですけど」

ってか、生徒が仕事することがおかしいのか?

 

「……今後こういった事は控えるように」

「ボーデヴィッヒがどういった言葉で怒るのかわからないのですけど?」

「惚けているのか?」

俺を睨み付けてくる織斑先生。前の時はかなり怖いと感じたのだが、今はなぜか怖いとは思えない。いや、怖いとは思っているのだ。だがそれ以上に今俺は激怒している。

 

あの見下した瞳にじゃない。そんなの女尊男卑でいつも向けられた瞳だ。

誰とも関わりを持とうとしない彼女に俺は怒っている。関わろうとすれば力で相手を怯えさせるか、撃退するか、殺そうとする彼女に。

なぜかは俺にもわからない。ただ気に入らないだけなのか。

いや、

「ああ、そういうこと」

瞳に入った織斑千冬の顔を見て納得した。

「何?」

「先生。問題児どうにかしろよ。する気がないんだったら黙ってろ」

なぜかすんなりと声にできた。あの最強の頂点にいるやつに向かってだ。

 

班が困っているのは、ラウラ・ボーデヴィッヒのことを知っているのは、ラウラ・ボーデヴィッヒがあんな誰もを拒絶している中で話を聞くのは。

 

織斑千冬だけだって知っているのに何もしていないのは何もする気がねぇだけじゃねの?

俺はボーデヴィッヒにも怒っているがアンタにも怒っていると分かった。

だから

 

「何もしねぇなら、誰かが何かするしかねぇでしょうが」

「……何を言っているか分からないがこの班の整備は崎森お前がやるように」

「わかりました」

それから打鉄の整備を再開する。

さっきまでのやり取りを見ていたせいか周りの女子たちは警戒するように遠のいていく。

まぁ、あんな事すれば当然か。

 

そんな中で癒子が近づいてくる。まるであんな事をしたのが信じられないという風に目を驚かせながらだが。

「章登。どうしたのよ? 自殺願望者にしか見えないわよ」

 

「いやな。ボーデヴィッヒさんと友人になるにはどうすればいいか考えている」

さっきまでの事について忘れたように言い放つ。ナイフに首を突き付けられた所がなければかわいい女の子と仲良くなりたいという心情は分からなくもないが、あのように殺気を放たれていたら好感度は0どころかマイナスということに気付いないのかと章登を見て癒子は思ったがこうも思う。

 

ただ教室の居心地が悪いから改善したいだけなのだろうとも。

 




これで一番時間かかったのって弁当のシーンなんですよね。
なんででしょう?

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