戦国アストレイを買ってみたのですがすごい。
もう一つ買って四刀流とかにしようと思ったら17日にはもう棚に残っていなかったっていう……
あと今回は練習作文みたいなものなのであまり面白くないかもしれません
ゴールデンウィーク。
この言葉を聞いてわくわくしない者はいないだろう。最大5日間の休日にすることができ日本の学生はその言葉を聞いて何をしようかと予定を立てたり、家族とどこかへ遠出をしに行ったり、又は家でゲーム三昧だったりと夏休みほどの長さではないが思い思いに過ごすだろう。
そんな連日休日が訓練で台無しになれたらどんな気持ちになりますか?
俺は悲しいです。
いや、俺弱いし先日の所属不明機襲撃で死にかけたから強くならないといけないのは解るんですよ。でもいい加減、4日間連日の練習量だと過労で死にそうになるんですよ。
そんな思考を打ち消すようにして床にたたきつけられる。
ISを使った訓練ではなく道着を着ての武器なし、他何でもありの格闘戦だ。
せめて股を狙うのはやめてほしいな。守るために女の子のように膝を内側に向けるんだから。その間に腕を掴まれ投げ飛ばされた。
そして、畳み掛けるようにして肘打ちを倒れこむようにして打ち付けてくる。その当たると思われる場所は丁度顔面。その場で横周りして避ける。肘が当たった場所から重い鉄球を落としたような落下音がし畳がへこんだ。
「殺す気か!?」
あんなの当たっていたら翌日には、かなりの包帯を巻いて学校に来ることになるだろう。頭蓋骨破裂とかで死んでいなければの話だが。
距離を取るようにして立ち上がりながら後ろに跳ぶ。
「反応できるぐらいには手加減しているはずなんだから、当たったら気を抜いていることになるわね」
「金的、目つぶし、頭部、のど元への攻撃なんてされたら嫌でも反応するようになっちまったよ!」
更にそれがフェイントで守っている所にみぞ打ちや足払いを掛けられ倒されるのだ。それはもう面白いように。
更識先輩が規格外というのもあるが、それでもこの人、人間か? 人の皮をかぶった別の何かじゃないのか?
完全に立ち上がったその時、前蹴りが飛んできて側面に入るように足を取りカウンターの容量で横腹を殴りつけるが、手で止められ小手返しのように曲げられる。激痛に足を逃してしまい、再度蹴られる。
今度は後頭部に蹴りが来るが腕を盾にするように防ぎつつ、もう片方の足を払おうと相手を押しながら相手の足の後ろに自分の足を入れ勢いよく蹴り上げる。
が、相手の足を蹴り上げる感覚がない。寸前に自分の足を浮かせ俺の腹に置かれた。腕は首元をつかみ、更識先輩が前に俺の重心を移すことで前に倒れそうになる。そうして強靭な脚力を使われ俺は空中に投げ出される。
空中巴投げ。と呼ばれる技らしい。
何とか受け身を取り地面に叩き付けられるが、全身が痺れ立ち直るのに時間がかかる。そこに蹴りが放たれるが、なんとか背筋を跳ね起こすことで立ち上がる。
すぐに後ろを向くがそこには扇子を首元に当てられていた。
「ハイ残念」
「武器はなしでしょに」
そうい言って広げられる扇子には『連戦連敗』と書かれている。むしろ一か月程度であんたと互角に戦えたら化け物だろう。
ゴールデンウィークに今まで400回は負けを刻んでいるはずだ。
せめてまぐれでもいいから一回は勝ちたいです。
諦めたらそこで終了だよ。のフレーズが脳内で再生されるがもうなりふり構っていられないと思う。
そこで今も憎たらしいほどに笑っている更識先輩の顔に向かって不意打ち気味に拳を放つが、呆気なく扇子で弾かれ懐に入り首元掴んで投げる体制に入る。
が、何もやられっぱなしではない。
投げられた時、ブリッチになるような格好で足を地面に支え、片足で後頭部、右手でフックを腹に当てるように放つ。
当たると思えたその時、いきなり体を回転させられ狙いがずれる。何が起こったかというと更識先輩が自身もまわるようにして崎森を回転させ、狙いを外させつつ、片足ブリッチで不安な体制をとっている崎森を地面に落とす。という風に落とされたのだ。
「おひゅぎ!?」と、回転された時理解が追い付かず声を上げながら叩き落される。
落とされた直後にまた横に回るようにして後ろに下がるように飛び上がる。
「か弱い乙女に不意打ちとはひどいなぁ」
「あんたが弱かったら俺の立つ瀬ねぇんだけど」
言い終えてから始まる拳と蹴りの再開。今度は両者が同時に動きぶつかり合う。
ゴールデンウィークでも、学校の施設、機関は稼働しており俺や更識先輩以外にも畳の上で倒したり倒されたりされている生徒もいる。
だから、さっきまでの会話や倒されたところが他の生徒たちにも晒され俺の羞恥心が上がる。時々、変なうめき声を上げるせいでくすくすと笑われたりしているのだ。
穴があったら入りたい。
「でも、崎森君はここに来る前何か武術とかしてた? 1月前まで素人にしては結構いい動きするようになったけど」
「史上最強の馬鹿弟子を読んで感動して学校帰りに走り込みとか腹筋とかスクワットとかはしてた」
「元々体力はあったみたいだしね。でもまだ基礎がついてない感じかしら……。取りあえずフルスクワット1000回ね」
「うーい」
9時ぐらいから始めた稽古は午後0時に切り上げられる。
「今日は企業の『みつるぎ』に行って稼働データの回収よね。護衛におねぇさんがついて行ってあげよっか?」
「生徒会の仕事布仏先輩にまかせっきりじゃねぇの?」
実際、朝と夕食までこの4日間訓練に付き合ってくれている。時々、電子端末で何か操作しているのが生徒会の仕事ではないのだろうか?
ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちが混じり合う。
「いいのよ。遠慮しなくて、外国からの代表候補生の転入手続きとか6月の末に行われる学年別トーナメントの設定とかは終わっているから。後は細かな報告書だけだし」
「やっぱ生徒会って暇なんじゃね?」
「じゃあ入ってみる? おねぇさんが手取り足取り尻取り玉取り教えてあげるわよ?」
「余計なのが混じってるんだけど。後もう研究部に入ってる様なもんだからいいや」
「くっ、これじゃあだめみたいね。じゃあHな事とかも教えてあげよっか?」
「じゃあってなんだよ!? 一番教えてほしくないわ!」
「本当に?」
そう言って上目使いしながら胸を強調するように腕で押し上げ迫ってくる更識先輩。なんでこう見上げる体勢だと、犬や猫はもちろんのこと人もかわいいと思ってしまうのだろう。しかも胴着の空いた部分から見える谷間が強調され色気が出ている。
しかも女性は視線に敏感なようで俺が前に風呂上がりの谷本を見ていた時、じっと見るなとか、視姦なんてするなと言われた。そういった事で急いで視線を上に逸らすとなぜか谷本が仁王立ちで立っていた。
「崎森、なにしてるのよ」
「何って格闘訓練……」
「嘘おっしゃい。思いっきし先輩の胸見ていたじゃない」
ばれてました。しかし男の子である以上女性の魅力的なところに目が行ってしまうのは仕方のないことなのです。
「あっは。章登君はエッチ~なぁ」
「ホントそうですよ。先輩も気よ付けてくださいね。こんな女性ばかりの所にいたらいつ誰かに襲いかかってもおかしくないんですから」
なんで俺の信用がないのだろう? いや、まぁこんなムラムラ来るのは確かだし美脚や胸、うなじ、首筋に目が言ってしまうのは男のサガであって仕方ないと思うんです。同じこと言ってるな。
「襲いかかっても迎撃するだろ。あれだろ、俺が織斑と同じラッキースケベにあったら鉄拳かましてくるんだろ?」
「どんなラッキースケベよ。」
「転びそうになってスカートを下ろすとか?」
「鉄拳なんてしないわよ」
ん? 泣くまで俺を殴るのをやめないか、泣いても殴るのをやめないと答えると思っていたのだがそうか暴力では訴えないんだね。篠ノ之や凰とは違うって温厚な人なんだって確信できてよかったよ。
「そのまま蹴りかますから。股間に向かって」
「やめてください。死んでしまいます。主に俺の息子が」
「あなたに息子なんていないでしょ。何? 私のいないところで愛人でも作っているというのかー」
「二股なんて甲斐性俺にあると思っているのか?」
「全然、むしろナンパする時に相手の人がヘドロでも踏んだかのように嫌な顔して逃げていきそう」
「そこまで俺不細工じゃねぇよ!?」
そこで更識先輩が俺たちのやり取りを見て苦笑する。
「仲が良いわねぇ。あなた達。まるでどこかの売れない芸能人みたいに」
そりゃもう俺達は芸人としては致命的なまでに笑いをとれないだろう。こんなんなら現在配信中の失敗シーンを撮っていたほうがまだ儲かる。
「大丈夫ですよ。いざとなれば崎森の肝臓を研究所に売り渡しますから」
「その前にお酒を飲ませてくれ。一度も味わってないんだから」
「あんた未成年じゃん。それにお酒は肝臓に悪いのよ」
肝臓奪おうとしたやつが言うことか?
「で、何しに来たんだよ?」
「何って呼びに来たのよ。巻紙さんもう来てるの」
「は? 集合は午後2時からだろ? 今午後0時だから歩いて行っても十分間に合うぞ」
「あんたは駅に着くのが2時かと思っているかもしれないけど、本当は企業前につくのが2時なの」
………え? そんな説明受け手ねぇぞ。
「ああ、ごめんなさい。私が行くのが2時になったの。ほら学園に協力してもらったからそれの謝礼にね。でも、崎森君が学園を出るのも分かって襲撃されるかもしれないから変更になったのをすっかり忘れてたわ」
更識先輩は頭に握り拳をコツンという風に遅く殴り、片目を閉じて舌を出しながら言った。
急いで着替え谷本に連れられて学校の学校駅まで来た。そこから出るモノレールに乗り本土のほうに向かう。
そこに付いた所からから企業の巻紙礼子さんが運転する防弾ガラスや特殊加工を施した防弾車に乗る。外見は一般車とあまり変わらない。渋滞につかまることもなく順調に道を進んでいく。
巻紙さんは黒のビジネススーツで身をしっかりと着こなし、相手に清潔感と礼儀さを印象付ける恰好をしている。長い髪は何らかのケアでもしているらしくサラサラと絹糸のような印象を与えるが、地毛のせいなのか少しカーブを描いている。
「学園生活には慣れましたか?」
「まぁ、知り合いや友人は結構できましたけど」
「結構な女たらしになったんですね」
「言葉に棘があるように思えるんですけど?」
「気のせいですズッコケ崎森君」
「あんた確実に俺のことバカにしているだろ!?」
「いえいえ、わが社の貴重なデーター提供者になってくれる人に対して失礼なことを言うほど私は厚顔ではありませんよ?」
人の名前の前に不名誉な言葉をつける人が言える言葉ではないのではないだろうか?
「谷本さんはいかかですか?」
「そうですね。こいつの手綱を握らない以外は充実した学校生活だと思います」
谷本お前もひでぇよ。
車内では主に巻紙さんが質問をして俺たちが返事をするといった会話が続いている。主に学校生活や勉強具合、訓練風景についてだ。
そのたびに俺の失敗談を隣から聞かされ、俺の羞恥心は上がるに上がっていい加減にしろと叫びたくもなる。
まぁ、流石に大人げないのでもう会話は谷本に任せ俺はできるだけ隣の話を聞かないようにして窓から風景を眺めることにした。
それでも耳に聞こえてい来るのは今日の更識先輩との対戦記録連敗更新や走行車のエンジン音が聞こえてくる。
巻紙さんが「よく崎森君を見ていますね」と言われ谷本が狼狽していたが俺に気があるのかと一瞬期待したが続く言葉がこうだった。
「別に、頼りなくて危なっかしいし問題を起こすから悩ましくて頭痛がするだけです」と言われた。
俺ってそんなに頼りにならない? ちょっと泣いちゃうよ。
そういった会話をしているうちに企業の地下駐車場に車を止めエレベーターで上の階を押し受付所に行く。
受付所で社内IDのカードを見せて、俺と谷本は受付所から貰った訪問書類に名前とどこの所属かと書き込み、学生証を見せる。
そうして通してもらい、企業の中を見させてもらう。しかし、学園の研究所と大差はなく所々に使ったことがない器具やよくわからない装置があった。
のほほんが付いて来れば何らかの説明が聞けたのかもしれないが今はいない。
そういった所を巻紙さんに案内されながら進んでいく。
「逃走経路は大丈夫だろうな」
研究員に偽装した男性が確認をする。
会社のIDを首肩から下げる。
これは昨日研究員が自宅に帰った時に眠らせ、拘束した時に奪ったものだ。今は自宅で縛られている。
今日崎森章登が来ることは数日前に会社のコンピュータにハッキングして分かっていた。
アメリカなどでは優秀なハッカーが警察に協力することがある。そこの専属だった人物が女尊男卑により解雇され、この集団に協力してくれたことから先日からIS学園、駅、企業前を監視していた。
「こちらは大丈夫です。むしろ隊長の方が大丈夫なのですか?」
フン、と鼻で笑い飛ばした。それだけ生身の戦いには自信があり戦う相手が素人である学生なので楽勝と考えていた。油断と思われるかもしれないがそうではない。
本当にアマチュアとプロが戦ったら勝敗は歴然だろう。
そう、油断ではなく自信であった。
彼、彼らは現在の社会情勢 女尊男卑に異を唱える者たちで男性がISを動かせる事により少しは改善されるかとも思われたが甘かった。それどころか更に悪化になりつつある。
自分たちの優位性や待遇に危機感を抱いているからかもしれない。
前に研究者が男性IS操縦者を調べたらしいが結果は解らず仕舞い。
なので、自分たちの手で解明しようと各国の研究機関が乗り出したが身体データーを公開された物の不満であった。
それに手緩いと、もっと徹底した研究をする前にIS学園に入れられ手出しができなくなってしまった。
だから、崎森章登とそいつが使っているISを強奪し解明しつくす。そうすることができれば自分たちはたちまち英雄視されるだろうと幻想を抱いている者がほとんどだ。
だから、自分たちの行っていることは正義で一方IS学園に入り恩恵を受けている崎森章登は悪と決めつけていた。
「それにあのようなISすらまともに扱えない奴に私が負けると思うのか?」
崎森章登の実力については明白だ。
前に動画配信されている映像を仲間内で見ていたのだが、余りにも酷いものだ。失敗やカッコ付けているだけの餓鬼と決め込んだ。
(あのような餓鬼に私が負けてたまるものか)
『おい、予定より早く駅に目標が来たぞ。どうする?』
そこで通信が入り一瞬想定外の事に取り乱しそうになるが気を落ち着かせる。
どちらにしろやることは変わらない。
「仕方がない。崎森章登がISを研究員に渡した後奪い、爆弾で混乱ののち目標を捕らえ逃走する」
研究室に入り巻紙さんから今日行う検査や回るところを説明してもらう。
「では、待機状態のISを渡してください」
研究室からそう言われ手に付けてある十字架を渡し、巻紙さんに会社内を案内してもらう。
最初は身体計測をして次に献血と脳波等を測っていくらしい。
「で、なんで谷本までついてくるの?」
「あんたが問題を起こしても止められるように」
「俺はそこまでの問題児か!?」
「違うの?」
「……苦労は掛けていると思うが、少なくとも迷惑はかけていねぇ」
「ならば迷惑料として@カフェのGパフェを要求する」
「ああ、今度ゴキちゃんくれてやる」
「その名を言うな!」
ちなみにGパフェとはグレート盛りパフェの略である。まぁ、異常なしぶとさがある虫ではない。決して。(というか飲食店でそんなやつがいる時点でアウトだ)
脱衣所まで来てISスーツに着替える。これは肌表面の微細な電磁波すら検知することができ、専用の機械(円柱状になっていて一人入れる計測器)などでバイタルを見るのにちょうどいいらしい。その上からまだ肌寒いので制服の上着を着る。
そうして出てきたときと同時に爆発が鳴り響く。振動が足元に伝わり、転びそうになるが何とか踏みとどまる。爆発の音が下から聞こえた。
そして、目障りで耳が痛く鳥肌を出すような火災警報が企業じゅうに鳴り響く。
「な、なに!?」
谷本は狼狽しその場でしりもちをつきながら言う。
巻紙さんは通信機を取出しして各フロアとの連絡を取る。
「下の方で爆発があったようです。煙が上がっているそうなのでできるだけ速く非難しておきましょう」
俺と谷本は巻紙さんについていく。エレベーターを使わず階段の方に移動して降りていく。谷本は何やら怖がっているらしく俺の後ろに隠れるようにして付いてきている。そりゃ、火災訓練なんて所詮訓練だけで本当の火災なんてあったことがねぇから何が起ころうかわからないから怖いのかもしれない。
しかし移動している途中疑問に思う。ただの火災なら何かに燃え移ってそれが爆発するというのが思いつく。だが爆発して火災警報が鳴るというのはどういうことだろう?
テロで見つかった爆発物はどっかに移動させて解体するというのが一般的だ。
実験で爆発するというのはあるかもしれないが社内で爆発物を持ち込むなんてことはあり得ないのではないのだろうか。
その時また、通信が鳴り会話し終えた後に巻紙さんの声が少し荒くなる。
「何者かが渡されたISを強奪したようです」
そう言われ階段まで行き事の事象を考える。
どうやって俺が今日ここにISを渡しに来ることが分かったのだろう?
毎日学園を監視し朝からつけられていたのだろうか?
そんなことを考えているうちに階段の踊り場まで来たが突然曲がろうとしたところで、階段の下のほうから白衣を着た人物がいきなり飛び出てきて俺を殴りつけてくる。
何とか軸をそらすことで急所から外れるが完全に避けられたわけではないため、掠ったところから熱くなりジリジリと痛みが出てくる。
その人物は前髪が伸びすぎて目の辺りが髪で隠れてしまっており、よく目つきが見えない。根暗やインテリ派の人間と言われたら信じてしまいそうだ。だがさっきの攻撃から筋肉がないのではなく引き締まっているとわかる。
「崎森章登。お前を拘束させてもらう」
「俺に男とのSM趣味はねぇんだ。他を当たってくれ」
「他ではだめなのだ。一緒に来てもらう」
そう告げられ白衣の裏から筒のようなものを取出し俺に向かって投げつけると同時に飛び掛かってくる。
その筒が俺の前に来たときいきなり煙をあたり一面に吹き出す。
発煙弾! 闇討ちをするつもりかとその場から遠ざかり煙に隠れるようにして逃げる。しかし、人影を見えるように設定しているらしく俺、谷本、巻紙さん、襲ってきた奴と誰が誰だかわからない状況になっている。
「くっそ!」
その時、バチバチと空気中で電気を発生し続けるような音、恐らくスタンガンの音が鳴り響き誰かの人影を背負って走り去っていく奴が視界に移った。
「は?」
俺が目的なんじゃねぇのかよ?
階段を下りていく音がし、俺はふと気づく。俺は身長が平均身長より下で普通の女子の身長とあまり大差がない。そして、今この状況は霧が掛かったように男か女か判断しずらい。
俺は急いで階段を下り、襲ってきた男を追いかけるが人一人を背負っているとは思えないほど速い。途中、さっきの研究室の手前の部屋から煙が挙がっていて消火活動している人がいた。そして研究室の中には何人か倒れている。その中には俺が預けたISの待機状態の十字架のブレスレットは見えない。
恐らく、揺動で何があったのか確認しに行こうとした、混乱したところをISを奪って逃走したのだろう。
そして俺を誘拐しようと別の人間がいたのか、そのまま俺たちのほうに来たのかは分からないが、なぜか捕まっておらず俺は襲ってきた奴を追いかけている。
理由はおそらく煙幕で見づらくしたせいと、俺のすぐ近くにいたせい。
玄関まで来たのだが背負っている人物はスタンガンを当てられ痙攣しているらしく声も上げない。更に顔が黒い袋で覆われている為、誰だか気づいていないのだろう。
しかし、男女の違いで分かりそうな気がするのだが。
背負った人物が黒のワゴン車に乗る。どうやら仲間がいるらしくそちらが玄関前に車を止めていたらしい。
扉を開けた状態ですぐさま乗れるようになっていてそこから担いでいる人物が乗り込む。
すぐさま発進するため急いで車体番号を見る。恐らく偽造しているが、何もないよりましであろう。
しかしそれだけで終わってしまう。一般の学生風情にどうやって走っている車と競走しろというのか。
何もできずこのまま走り去るのを見るしかないのか?
自分のせいで友達が巻き込まれて誘拐されたのに?
自分にできることといえば車体番号を警察に伝えることぐらいだ。
そんな非力さに思わず歯を噛みしめる。
と、その時、一台の見覚えのある車が俺の前に急ブレーキでタイヤと地面から悲鳴を上げるような音を出しながら止まる。
その助手席の扉が開き中には巻紙さんが「乗りますか?」と声をかけてくる。
すぐさま乗り移り、シートベルトをする暇もなく急発進する。その加速で後ろに引かれるような感覚があった。そのぐらいすごい加速だ。
そのまま黒いワゴンを追跡するのだが、
「巻紙さん! 反対車線! 反対車線に入ってるから!」
かなりの車のブザーが鳴っているが巻紙さんはどこの吹く風という風に突き進んでいく。
相手も相手で車と車の間を横切って行ったり、赤信号を無視して突っ込んだりの走行してる。おかげでサイドミラーがボロボロだ。
「一回街中を暴走しながら走行してみたかったんですよ! ダ○ハードみたいに!」
「ヘリに激突でもするのかよ!?」
今にも小躍りしそうなほどに歓喜しており、意気揚々と車を加速させつつある。
その時、相手の窓から半身を乗り出した人物が手に黒い物体、サブマシンガンを手に此方に向かって放つ。
昼間の街中でも関係ないという風に放たれる凶弾は防弾車の特殊加工によって全て弾かれる。その凶弾が跳弾して周りに被害を与えないか心配だ。
「「日本でカーチェイス中に銃なんてぶっ放すんじゃねぇ! 周りに迷惑だろうが!」
俺と巻紙さんが同時に怒鳴り声を出すが、ど昼間に暴走車2台が走っている時点でもうすでに迷惑である。
と、そこでさっきまでの罵声を出したのが自分と気付いた様に慌てて口調を戻す。
「こちらも撃ち返してやりましょう!」
「銃なんてもってねぇよ!」
「グローブボックスの中にありますから!」
そういわれ助手席にある収納口のふたを開け中身を見てみる。
黒光りしたハンドガンとマガジン2つ。走行している車の中で確認していくが、どう見ても実弾であり、間違いなく銃刀法違反に引っかかるものだ。
「なんで持ってんのよ!?」
混乱して口調すらおかしくなっている。まぁ、ISが復旧して旧世代の兵器は安くなりつつあるのだが、まだ日本の銃刀法は健全のはずだ。誰かお巡りさん連れてきてー。
「護身用です!」
「催涙スプレーとかにしろ!」
「うるさいですねぇ! だったら近づけるんで狙ってください!」
「おい! だから反対車線なんだってー!」
こっちの車はまだまだ加速していく。それはもう、前にある車が曲がれずに急ブレーキ踏むくらいに。
「くっそ! なんで追ってきあがる!」
日本の街中でカーチェイスを行っている非常識な光景を広げている。
さらに車内は苛立っていた。ISを奪ったまでは良かったが崎森章登を誘拐するのがなぜか一緒にいた女生徒を誘拐していた。妙に軽かったが筋肉がついていないのだろうと納得してしまい袋を被せ顔を見せないように肩に担いできた。そのためスカートを履いている足が背中のほうで女生徒ということがわからなかったのだ。
それに気づいたのは車内に入って発進してからで、誘拐し直すのはもう無理だった。
精々人質ぐらいにしか効果がないが、それはそれで好都合だ。
どうやら追ってきているのは崎森章登らしく交渉術もなく、一般人程度なら人質交換できるかもしれない。
今はまだそう思っていた。
「タイヤを撃て! 止めて人質交換してそのまま逃げる!」
部下の一人に命令し狙いがタイヤに狙いを定めたとき、急に車内が揺れる。
その時外を見たらどう思ったのだろうか?
反対車線の車が急ブレーキで前に詰め寄ってできた坂を利用して急加速し車が飛ぶのを見たら誰だって何を考えているんだと思うだろう。
そしていきなりワゴン車の前に文字道理跳んできた車は急ブレーキをかけ故意にワゴン車にぶつかる。そうして止まった二つの暴走車。
確認しようと部下が外に出る。
外から出た時には銃を手に持った崎森章登が肩に銃弾を撃ち込んでいた。
車が着地した衝撃、後ろから車が突っ込んでくる衝撃で頭がくらくらしてくるが気絶している暇はない。
急いで外に出るが、鉢合わせするようにサブマシンガンを持った人物が出てくる。慌てて手にしていた銃を撃つ。狙って撃ったわけではないが肩に当たりサブマシンガンを落とす。
サブマシンガンの方に走り取り上げようとしたが手を抑えながらこちらにタックルをかましてくるが反射的に足を撃って動きを止める。
「つっがっぁあああ!」そんな叫びをあげ蹲ってしまった。
そしてサブマシンガンを取り上げ俺の後ろの方に投げる。
なんだかすんなりと人を撃ってしまったが肩から流れる血を見ても恐怖感や罪悪感や緊張感がなかった。日ごろからISで人を撃っているから感覚が麻痺しているのだろうか? とりあえず谷本がどこにいるか確認しようと車に近づこうとするが、本人が車の中から出てきた。
頭に銃口を突き付けられながらだが。
「動くな! 派手なことをしてくれたな崎森章登!」
かなり興奮しているらしく顔が真っ赤でさっきの衝突で何処かにぶつけたのか足取りが重いように見える。さっきのサブマシンガンを持った人物しか出て来ていないところを見るとドライバーは頭を打って気絶でもしているのではないのだろうか?
「したのはドライバーであって俺じゃねぇよ」
「そんなことはどうでもいい! 我々と一緒に来い! でなければこいつの頭を撃つぞ!」
まずい。興奮のし過ぎでいつ発砲してもおかしくない状況だ。言葉は丁寧に考え冷静でなければいけない。
「わかった。分かったけどとりあえず話だけはしないか? 癒子の頭ぶち抜いたら俺がそこに横たわっている奴をぶち抜いちゃうけどいいの? 俺は癒子が死ぬのは辛いし、あなただって仲間が死ぬのは辛いだろ?」
「貴様が手に入るなら安い犠牲だ!」
安い? あれか、俺を確保でいれば他の人間はすべて死んでも問題ない、もしくは自分が生きやすい人生を送ることができれば他の人間が人体実験や死んでもいい。みたいな思考をしているのか?
「いや、待て待て。簡単に殺しちゃいけないだろ?」
「命は重いと思っていると思うやつがいると思うか? 少なくとも警察の女幹部たちは違うぞ。奴らは自分が指揮官でありながら仕事を放棄し、我々を降格させ無謀極まりない作戦を実行させられる。そして、成功してもその女の手柄にされてしまう。そこで死んでいった部下の無念は? その家族に何と言えばいいんだ!? そんな奴らに力を与えておいていいのか!?」
恐らく、同僚を立てこもり犯に殺されたか、怪我を負ったのだろう。だが、そんなのはいい訳でしかない。
いや、言い訳にすらなりはしない!
「だから私たちが変える。死んでいった部下たちのためにも!」
話している途中で自分が正しいと信じきっているのがわかる。自分の言葉に酔ってもいそうだ。
そんな奴の言葉を聞いているだけで腹が立ってきてしまう。
「で、あんたはそのために部下を見殺して、罪のない一般人を射殺して、俺を解剖するって? ふざけてんのかあんた」
自分の中で言いようのない苛立ちが胸の中を蠢く。相手を興奮させてはいけないと分かっているのだが声に苛立ちを含み相手への攻撃性を隠し切れない。
「ふざけてなぞいない! 我々は日本の、警察のためを思って行動している! その我々がどうしてこんな仕打ちを受けなければならない!?」
「不幸大会をするつもりはねぇが、俺だって政府に拘束されたり、IS学園に無理やり入学させられたり、いつの間にか先輩に失敗動画を流されて世界中からの笑われ者だ! けどな、その不満で誰かを傷つけていい訳がねぇんだよ!」
そうだ。その不満を暴力に変えた時点でお前はその女幹部と同類になってしまっている。それで俺が解体されこいつにISを動かす力が宿ったとしてもその女幹部と同じように、今の状況のように理不尽な暴力を振りかざしてしまうだろう。
それ以前にこいつは部下を見捨てている。そんな奴が死んだ部下のために部下を見捨てるだって? お笑い草だ。
「そんな勝手な理由で人を巻き込んでいるんじゃねぇ! 俺じゃねぇ、お前が守るべき部下や民間人の癒子を傷つけてんじゃねぇよ! お前がしなきゃいけないことは政府や市民にこのこと公表して警察内部を改善しなきゃいけないことじゃねぇのかよ!?」
「そんなことでこの日本が変わるわけがなかろうが! いいから早く来い! さもないとこいつを撃つぞ」
そう言って更に引き金に力を入れているのがわかる。横頭に銃を突き付けられた癒子は今にも泣きそうで目に涙を貯めている。
「わかった」
そう言って銃口を部下のほうから左手に当てる。
相手はやっと了承したかとしたり顔で満足するが次の瞬間驚愕に変わる。
左手に銃口を向け引き金を撃つ。
言葉にすると簡単だが、かなり痛い。まるで鉄棒を熱して貫けられたような痛みを通りこうした常に激しい苦痛が左手を蝕む。血が溢れに溢れすぐさま左手は赤くなる。まるでペンキの中に手を突っ込んだようだ。
激痛のあまりに泣きたくなるし叫びたくなるが、何とかこらえ前を見据える。
「……貴様……何を?」
いきなりやってしまって、相手は混乱しているらしい。谷本も目を大きく見開いている。そりゃいきなり自傷行為なんてしてしまえば驚くのも仕方がないのか?
まぁ、自分を傷つけられる意志があるのが分かればいいから問題ねぇんだけど。
「いやー、人質にする人間違えたみたいでさー」
そう言ってから銃口を心臓に向ける。やばい、ほんとに痛みで引き金を引いてしまいそうになる。こう、痛みから解放されたい的な。
「俺が人質のほうがいいだろ? だから速く関係ないやつを離せよ」
そう言って相手に近づく。まるで何時もの様になんにでもない風に歩いて距離を詰めていく。
「待て! それ以上近づくな!」
「何でだよ? 来いって言ったのはアンタじゃねぇか」
「その前に銃を下ろせ。また発砲されてはかなわん」
「だったら癒子を離せ。もう必要ねぇだろ?」
「だめだ。貴様が車に乗った時に開放する」
ハッと鼻で笑い飛ばす。そんなの嘘に決まっているのが子供でも分かる。
「そんな言葉を信じられるほど、嘘つきの言葉を信じられるほど俺は純粋じゃねぇんだ」
「嘘つきだと? 目的を果たすために犠牲を払って何が悪い?」
「犠牲を払っていいのなら、今俺を撃てばいい」
そこで俺の言葉が、俺が何を言っているのか解らないという風に男は戸惑う。この時俺は本当に撃ってしまうのではないかと冷汗を流したが、動揺を誘っているようだ。
そうだ、俺の行動に言葉に動揺して、混乱して、場の視線を集めることができればそこに隙が生まれてくる。
「だってさ、俺が人質になるって言ってるんだ。そんな覚悟があるのに俺を撃たねぇってのはおかしいだろ? 犠牲を払ていいて言うなら研究員を殺さないってのはおかしいだろ?」
研究所で荒らされたり、破壊されたりした後はあったが死体や血痕はなかった。
「よく考えろよ。俺の足を撃って動けないところと背負って持っていけばいいだけじゃないか? 俺は死なないし、俺を抱えるのに癒子は邪魔だろ?」
まぁ、出血多量で死ぬかもだけど。
「さぁ、犠牲を払っていいって言うなら俺を撃ってみたら? それとも何? そこからじゃ狙いが外れちゃうとか? だったらもっと近づいてやるぜぇ?」
そう言って更に近づく。足が緊張か出血かはわからないががくがくと小鹿の様に震えている。1歩歩くのもきつい。
が、今あの男はこちらに集中している。俺の言葉に、俺の行動に。
顔は青白く、まるで病人が無理に歩いていることを感じさせるが、その顔が不気味な笑顔を浮かべているため鳥肌が立つ。ポタポタと水滴のように落ちる左手からの血、銃口を心臓に突き付けながら歩くという訳のわからないに状況に男は混乱している。
普通こういう状況下において普通の人間は身の安全を保障する。といっても犯人側の方がなのだが。男は犯人を取り逃さない、犯人を刺激しない、人質を取り戻すといった訓練、経験はあったが逆はなかった。
だから、説得もせず、相手があの状態で挑発まがいの発言をしてくるのが分からない。
更に近づき相手を刺激するなんてことも普通はしない。
「それ以上来るならこいつを殺すぞ!」
その時、電気が走ったかのように硬直し人質を解放したいだけかと思った。
しかし、硬直したとき歩き方を間違えたらしく前に倒れる。
その時、崎森章登の持っている銃から銃声が鳴る。
一瞬の静寂。誰もが唖然としまるで時間が止まった感覚を受けてしまう
どうやら倒れた反動で撃ってしまったらしい。
しばしば呆然としたがすぐさま崎森章登に駆け寄る。そのために人質にしていた少女を付離す。
崎森章登は微動だにせず、まるですでに死んでいるような
死なせるわけにはいかない。と、駆け寄ったその時、なにごともなかったように起き上がり足を撃たれる。
立て続けに放たれる弾丸は今度は手に当たり銃を落としてしまう。
「がっ!? ……なっぜ?」
「悪いな、これ着てて」
心臓付近に穴が開いている制服のなかから紺色のシャツのようなもの、ISスーツが見えた。
ISスーツには防弾性があり小型拳銃ぐらいなら無効化できると教本に書いてあったので実行した。
訓練中に相手から撃たれすぎている経験があるため大丈夫だろうという思い込みもあった。
いくらISの絶対防御がある状況でもお腹周りはISスーツ以外には何もない機体もある。そんな機体に乗り続けていれば自然と危機感がなくなっていくのではないのだろうか?
「けど衝撃まで緩和できないのね。結構いてぇ。なにより左手がいてぇ」
やっと騒ぎを聞きつけた警察が来てサブマシンガンを落とした人、癒子を人質にとった人、運転していた人、そしてついでに俺が拘束された。
そりゃ、真昼間に銃をぶっ放してれば銃刀法違反だよね。いやこの場合は過剰防衛?
そんなことを思った時、出血多量か緊張が解かれたのか急に体に力が入らなくなり気絶した。
病院に運ばれ応急処置を受け終えたところに更識先輩が見舞いにやってきた。
「やぁ。痴漢した相手に痛いしっぺ返しくらったんですって? 間抜けねぇ。私ならばれない様にしたのに」
「かなり事実がねじ曲がっているから、あと間抜けはあっち。あとばれない様にしたって誰かにはしたんですね」
「うん」
詫びもせず堂々と言う更識先輩。そんな先輩に痺れない、憧れない。
「で、傷の状況はどんな感じかしら?」
「医療ナノマシーンを使っての全治2日らしい」
「休み明けと同時に学校に来れるわね」
「俺の休みがすべてパァだ」
「今日の夜からの訓練、明日1日中の訓練と怪我で2日休めるのとどっちが良かった?」
ってか、怪我でもしないと俺に休みはないのか?
「そう言えば俺の身柄ってどうなるんだ?」
「まぁ、IS操縦者は自身のISを守らなきゃいけないからその過程でこの事件が起きたって対処できるわよ。ただ、あなたの今後に護衛という名の監視がつくかもしれないけど」
「むしろ、なんで今までついてなかったのか気になるんだけどな」
「付いてたわよ。あなたが気付かないだけで」
え? そんな疑問符を頭に思い浮かべる。少なくともサングラスをつけた黒服でがたい男なぞあの場にはいなかったはずだ。
そんな、疑問を抱いているのが分かったのか更識先輩が答えを言う。
「今回は巻紙さんってだけ」
「あー。そういえばハイスッペク過ぎるなあの人」
特にカーチェイス。反対車線の車を避けながらの走行や車を台にして跳ぶなんて普通のドライバーではできない芸当だろう。それに俺が注意をひきつけている間に車の陰に入り存在を消して機会を窺っていたし。
「いや、護衛なら俺を危険地帯に連れて行くか?」
「そこはほらお姫様を救いに行くナイトになってもらわないと」
ナイト? 騎士? あんな惨めったらしく血を流し最後に気絶する騎士なんてどんな物語にもいねぇと思うぞ?
「まぁ、個人の感情を優先させたのもあったとは思うわよ。後、君に危機感を持ってもらうってのもあるけど」
その言葉に少し考えてしまう。確かに自分は非力だし、今回谷本が巻き込まれた。つまり自分が強くならないと周りを巻き込んで傷つけてしまうと言いたいのだろうか?
「ま、なんにせよ死んでなくてよかったわ。後から来る私に任せてくれればよかったのに」
「頼りっぱなしって嫌にならねぇ?」
「それもそうね」と言って笑う更識先輩。そして、手からISの待機状態の十字架を渡される。
「後もう一つおねぇさんからの見舞い品があるんだなぁ。まぁ、私はもう行くから後はがんばってね」
そう言って部屋の扉に向かい開くと入れ違いになるように誰かが入ってくる。
そこにいたのはナースキャップを被り、下の部分がかなり短いスカートのナース服を着て、手に小さな注射器のおもちゃを持った谷本であった。
太腿が大胆に露出して可愛らしいナースキャップは結構似合っていて、恥ずかしそうに顔を見せない様にうつむき加減でこちらを見ている。
そして意を決したのか俺に入ってきてこちらを真っ直ぐ見てひきつった笑顔を見せながら言い放つ。
「体を大事にしない子にはお注射だぞ☆」
手を上げ注射器のおもちゃを顔の所まで持ってきて、もう片方は腰に手を当てくびれるような格好でそんな事を言う。
笑いをこらえている俺は全く悪くない。
「ってなんで私がこんなことしないといけないんじゃー!」
「病院で静かにしなくていいのかよ?」
「私はここの看護師じゃない!」
ハァハァと息を切らし、一旦深呼吸をして落ち着こうとしている谷本。
「で、何でそんな恰好をしてんの?」
「別に、こっちの方が喜ぶからって更識先輩に着せられたの」
そりゃご愁傷様。
「ってか、何で警察や更識先輩に任せなかったの? そうすれば私がこんな恰好しなくて済んだし、あんたがそんな怪我をする必要なかったでしょ」
「何て言えばいいんだろうな……。こう、俺に付き合って巻き込まれたみたいな感じだったから俺が如何にかしないとって思った」
「そんな事で自分で自分を撃つなんてマネしないわよ」
ほんと何やってんだか。骨折り損のくたびれもうけだ。
「ま、助けに来てくれてありがとっ」
照れた顔で、ニカッと笑った顔で言ってくれるので、「ま、いっか」という風に納得してしまった。
「谷本は今度、更識先輩に護身術でも教えてもらったら」
「はぁ、何で未だに名字なわけ? あの時は癒子って言ったじゃない」
「あれ? 言ったけ?」
「言った」
なんか頭に血が行ってないのかよく覚えていない。って名前呼んでもいいのか? いや、谷本で定着していたからあまり変える必要がない。
「何っていうか、そう呼んでもらいたいのよ。私あんたが助けに来てくれて嬉しかったんだから」
「え~と、つまりそういうこと?」
「さぁ? でも、今度は私があんたを手伝いたい」
こっちは何時も助けてもらっているのだが。ってかなんで恩返しが名前を呼ぶってことになるのかが分からない。いや、分かるような分からない。
沈黙していると空気が妙に酸っぱいような感じがする。
別に名前を言うのが嫌なわけではない。しかし、改めて名前を言うってかなり照れる。まるで恋人同士みたいで。
それにまた巻き込んでしまうかもしれない。親しくなることでまた何か、危険な目に合うかもしれない。
「大丈夫よ」
その声に思考を閉ざされる。
「大丈夫なのかって不安な顔してたけど大丈夫。少なくともあんたといる事で巻き込まれたって感じることはない。私があんたの近くで助けになりたいの」
その時、なぜか唇が吊り上った。そんな保証も信頼性もないその言葉で不安が消えた。
「じゃ、これからも苦労かけるな。癒子」
「かけんな。章登」
どっちだよとそんな他愛のない話を続けた。
巻上礼子さんがもうオータムにしか見えない人もいるでしょうね。
やばいどうしよう(汗