Word of “X”   作:◯岳◯

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20話 : サマンガン海停

 

 

「やってくれるじゃないか………ナハティガル!」

 

 

早朝に船に乗った僕達は、その夕方にサマンガン海停に到着した。ここならば、警戒網はしかれていまい。そう考えていたのだが――――甘かった。迎撃は、あった。ここに、あった。

船を降りて、まず最初に受けたのは迎撃だった。

 

――――僕達は見てしまったのだ。

 

直に剣や矢や精霊術が飛んできたということはない。しかしそれ以上にたちが悪い。何故なら、襲ってきたのは悪意の塊だったからだ。敵は恐ろしく周到に、僕達の身体ではなく、心を傷つけるべく罠を仕掛けてきたのだ。

 

 

ぶっちゃけると、僕とミラの手配書、その拡大版が港の中央に貼り出されてました。

 

(なんだコレ、なんだコレ)

 

バストアップという、なんだか通常とは違う仕様で書かれたのであろう手配書。そのあまりのあまりっぷりは、思わず二度繰り返してしまうほどだ。

 

まず、僕の手配書を説明しよう。なんか拳が林檎のような赤い球体になっていて、そこから物騒な爪が生えてる。(キラリ)と光ってるって、妙な描写はいらねーよバカ。

まあ、それはいい。いや、良くはないんだけどね。それよりも、顔だ。なんだこの絵は。マジで僕のことを探しているのか―――というのも、どうでもよくなった。ぶっちゃければ人外の顔すぎました。輪郭おかしいし、目と目の間が開きすぎている。5歳児レベルの落書きにしかみえない。それでいて、妙に性格悪そうな眼つきに仕上げられているのに腹が立つ。

 

次にミラだ。癖っ毛が強調されているのと、横顔イラストなのがまた妙にイラッとする。アホ毛も書かれているあたりに、なにがしかのこだわりを感じる。っつーか髪はそれなりに似て見える、というと怒られそうだけど。また、手配書のミラは指を立ててそこから炎を出していた。いや、そんな精霊術使ってねーだろってのに。

 

あとは――――

 

「何故、私の胸のあたりに画鋲が………?」

 

そう、なぜか胸のあたりに画鋲が刺されていた。おっぱいに2つ、画鋲が2つ。深く根元まで刺されているあたり、何がしかの意志を感じてしまう。そこでちょっと近くにいたおっさんに訪ねてみると、「銀髪の嬢ちゃんが、なにやら出航前に念入りに刺していったぞー」らしい。

 

――――あのナイチチめ、出る胸は打たれる、むしろ抉れろという意思表示のつもりか。

 

(そんなんだから、お前は無乳なのだ!)

 

ってなことを考えていると、エリーゼが驚いた様子をみせた。

 

「この手配書………ジュード、ミラ?」

 

「わー、ふたりともキョーアクー!?」

 

「ちょっとまてそこの美少女と謎生物」

 

この形容できない意味不明な絵を、僕達と断定するのか。うん、可哀想だけどエリーゼとティポにはちょっと後でお話する必要があるかもしれんなー。

 

「美少女、って言われました」

 

「うん、嬉しがっている仕草も可愛いけどあとでお説教ねー。で、なんか言えよヴィンちゃん」

 

「………っ不幸中の幸いだな………これならっ、捕まる心配もなさそうだ」

 

「うん、てめーもこっち向いてから言おうね」

 

フォローしてるつもりか。声が笑ってるし、肩も小刻みに震えてるじゃねーか。まだ素直に爆笑された方が腹も立たねえぞ。そして、残るミラは驚いていた。

 

「これが………本当に、私だと?」

 

愕然と、なんだかショックを受けている。嘆いているという風ではないのが気にかかる。率直に聞いてみたところ、「非常事態だ」らしい。えっと、何が非常事態なんでしょうか。

 

「私がこの現在の外見となったのは、人間の半数………つまりは、男性に対して有利だからだ」

 

「生々しいな、おい!? って、そのスタイルも!?」

 

「いや、ノーム曰くそれは『天然物』らしい」

 

「それならよかった」

 

危うく膝から崩れ落ちてしまうところだ。そうだ、偽乳などこの世にあってはならぬものなのだ。パッドはまだいい、女性の可愛げが具現したのだと見逃そう、って店長が言っていたし。でも偽乳だけはダメなのだ。と、いうよりも他に引っかかった部分があるだろう。今の言葉の一部に違和感を覚えてしまう。ミラが、人間と戦うのを前提にするのってさ。何だかおかしくない? 

 

人間を守るんだろうミラは。精霊の主人ってーのに、人間と敵対することを前提に身体を形成したのは何故なんだろうか。ミラの肉体を構成したのは四大みたいな感じだけど。これ、ひょっとして何がしかのヒントになるのかな。

 

(ミラのことだし。ひょっとすれば冗談を真に受けているのかもしれないけど)

 

嘘をつかれた経験が無いからか、ちょっとした冗談でも真に受けてしまう事あるし。

別の意味で冗談が通じない性格だと言えよう。

 

「っと、二人とも。そろそろ不味いかもしれないぞ」

 

「視線が集まってる………そうだな、ひとまず離れるか」

 

「目立つのもまずそうだしな」

 

ミラが頷き、僕も同意する。引っかかったあれこれは後で考えるとしても、今はここから離れるべきだろう。手配書の絵は、それはもうド下手だ。本人を前にしても舌かんで死ねって言えるレベル。落書きじみたこの絵を見て、パッと見で僕達と繋げられる可能性は少ないと思う。だが、それでも大体の外郭と髪の色、一部の特徴などは掴んで書かれているのだ。港を見渡せば、兵も巡回している。ラ・シュガル軍ではなくカラハ・シャールの兵士だが、見つかれば面白くない事態になることは間違いない。僕達は急いで、そこから立ち去っていった。

 

 

 

ひとまず、小休憩。宿屋に入って、受付をすませ、ひとまずコーヒータイムと洒落込んだ。道すがら情報も集めたし、方針を決めるべきだろう。そんな中、最初に口を開いたのはミラだった。

 

「………ジュード。私が手配書のように非魅力的ならば基本戦略を見なおさなければならないのだが」

 

「えっと、つまり?」

 

「お前の視点で正直に答えてくれ。私は、魅力ある存在だろうか?」

 

え、そんなこと。エリーゼの前で語れないっす。具体的にはちちしりふとももの素晴らしさを語ることになるから。気にせず赤裸々に語ってもいいのだが、教育に悪いだろう。どうかエリーゼはおしとやかに育ちますように。間違ってもあの銀髪娘のように口悪く育って欲しくないし、棍棒女のように乱暴になって欲しくないから。

 

ということで、率直に嫌らしくない風に答えることにした。全てはこの一言につきる。

 

「まことに良きおっぱいでございました」

 

「よし燃えろ」

 

「熱ぃ!?」

 

「ジュードは………おっぱいが、好きなんですか?」

 

「こっちは別の意味で痛い!?」

 

弱・フレアボムが小炸裂。立てた親指が焼かれた。言葉の短刀が、単刀直入に胸に。いや全くの自業自得なんだけど、貫かれた心が痛む。なけなしの良心が焼ける。やめてよしてそんな目で僕をみないで。

 

「あー、君たち? 漫才してないで、さっさと行動方針を決めるぞ。あとミラ、宿屋の中では火気厳禁な。イチャついて恋の炎を燃やすのも禁止」

 

「イチャつく、という言葉の意味は分からんが………ふむ、恋とは燃えるものなのか。物騒だな?」

 

「あら、ミラ様は経験なしか。あれは、そうだなあ………つーかむしろ、燃やされるっていう方が正しいな。どちらにせよ物騒だ、なあ?」

 

アルヴィンがこっちに聞いてくるが、僕がそんな事を知るわけねーだろ。旅に勉強に忙しかった僕に、彼女なんて出来たことねーです。

 

「そんなことよりさっさと情報をまとめようぜ」

 

「おや、つれないねえ。ま、確かに手っ取り早くやることを決めてしまいますか」

 

言うと、アルヴィンは周りに視線を配りながら、話を始めた。

 

「ここ、サマンガン海停からカラハ・シャールに続く街道なんだがな。今は、軍による検問が行われているらしいぜ」

 

カラハ・シャールへと繋がる道、それはサマンガン街道。その中央よりやや海停側に、軍が陣取っているという。

 

「………海際で無理なら陸で封鎖、ってことか」

 

「そのとおりだな。ラ・シュガル軍の兵士が、あの手配書を片手に、怪しい奴を探しているって話だ。身分が怪しいやつは、通されないらしいぜ?」

 

「そうか………でも、あれを日がな一日中持って検問ってなんだよ。まるで罰ゲームじゃないか」

 

あんな、精神の正気度を下げられる落書きを一日中眺めながら立ち仕事ってか。罰ゲーム以外の何ものでもない。むしろ拷問の域だ。とはいっても、あれが出回っている時点で、こっちの精神的ダメージも特大になっているのだが。

 

「でも、なあ。あの手配書そのとおりの人間がいるわけないだろ」

 

どっちかっていうとモンスターの絵だったぞ、あれは。

 

「それでも唯一の手がかりなんだろうな。服装を変えられれば、意味がなくなるようなもんだけど――――誘い、という可能性もある」

 

アルヴィンの推論は、こうだ。こちらの目的は知られている。そして、侵入経路も予測されている可能性が高い。ならば、港の入り口で油断させて、実は兵士達は詳しい似顔絵を持っていると。

 

「無い、とは言い切れないか。最悪を予想してしかるべきだし」

 

「そうそう。もしくは、研究所でお前さん達と戦った警備兵を、物陰に潜ませているとかな。印象深い容姿をしているミラなら、よっぽどの変装をしないと簡単に見ぬかれちまうぜ」

 

一理ある。オーラというか、マナによる威圧感もあるし。今はなりを潜めているが、それでも気配の質は変わっていない。一度対峙したことがある兵士なら、気づかれる可能性が高いか。

 

「なら、あそこを行くしかないか」

 

「どこだ?」

 

「サマンガン街道の横にある樹海。サマンガン樹界だよ」

 

木々が海のように広がっている場所、樹海。そこはこの海停を出てすぐ、街道の左側の岩場を登った先に入り口がある。以前、薬草を探すために、一度だけだが通ったことがあるのだ。

あの樹海を抜けた先は、サマンガン街道のカラハ・シャール側に通じていたはず。

 

「聞いたことはあるな。だが………エリーゼには、ちょっと厳しいんじゃないか?」

 

「それは………」

 

確かに厳しい。あの樹海は起伏が激しく、蔦をつたって登ったり降りたりを繰り返さなければ抜けられない。魔物もいる。視界も悪いので、もしかすれば奇襲を凌ぎ切れないかもしれない。

 

「ふむ………アルヴィン、別のルートは?」

 

「今のところは思いつかないな。海停の中でしばらく聞き込みをするかして、情報を集めれば別の道も見えてくるかもしれんが」

 

「………そんな時間は、ない」

 

そしてミラはジュード、と僕の名前を呼んだ。

 

「おまえは、守ると言った。あの言葉に嘘はないのだな」

 

「嘘は、ない。守ってみせる」

 

「ならば樹海を行く。エリーゼを置いていけないのなら、それが答えだ」

 

「………はい。私も………それで、いいと思います」

 

小さな声。少しふるえている声で、エリーゼが僕に言った。

 

「足手まといには、なりません。怖いけど………でも置いて行かれる方が、もっと怖い、です」

 

「そうだよー! 僕とエリーをおいていかないで、寂しいよー!」

 

エリーゼは僕の服の袖をちょんとつまみながら、ティポは僕の腕に柔らかく噛み付きながら、二人とも、同じことを言う。

 

「………分かった。全力を尽くす。いざとなれば僕が背負うから、心配しなくてもいいよエリーゼ」

 

「はい………」

 

「ボクも守ってねー!」

 

「ごめん、それは無理」

 

笑って却下する。

 

「ひどいよー、ジュード君ー!」

 

「いや、無理。というか飛べるから疲れはしないだろ。あと、何されても死にそうにないんだけど」

 

雰囲気的に。魔物に殴られても、ぼよんと跳ねるだけで死にそうにない。

 

「あはは、大丈夫。ティポは………私が、守るから」

 

「ありがとー!」

 

ティポと笑いあうエリーゼ。頬がやや赤くなっているのは、一緒に行けるのが嬉しいからだろうか。何にせよ、置いていかなくて済んだのは幸いだ。それにしても………

 

「置いていけ、とは言わないんだねミラは」

 

「お前は変に律儀な所があるからな。置いていけと言っても聞かないだろう」

 

「ごもっとも」

 

それなら、検問を強行突破する方を選んでいた。そうならなくて何よりだ。

 

「決まりだな。とはいっても、俺もフォローはするさ」

 

「ありがとう。じゃあ、腹ごしらえといきますか!」

 

「うむ!!!!」

 

食事と言った瞬間、ミラのテンションがだだ上がりになった。

具体的にいうと感嘆符がよっつ並ぶぐらいに。

 

「メタはよせ。それで、今日は食べたいものがあるのだが」

 

「リクエストとは珍しいね。って、ミラって食べ物の種類とかに詳しかったっけ?」

 

「ほとんど知らない。だが、それは食欲をそそる臭いを発していてな」

 

「嫌な予感がする………って、もしかして昼に隣の船室で出されてた、アレ?」

 

「そう、マーボーカレーだ!」

 

「予感的中! ちょ、ミラまで僕をマーボーカレーに染め上げるのか!?」

 

「全く意味が分からんが………そんなに食べたのか?」

 

「うちの近所には、棍棒振り回す猪娘がいましてね………」

 

その名もレイアという。で、なんでマーボーカレーが出てくるのか、その経緯を昔語り風に説明した。

 

三行だけど。

 

一、猪娘がわけもわからず怒る。

 

二、わけがわからないけど、喧嘩を売られたからには買わざるをえない。

 

三、仲直りにと、師匠が作ったマーボーカレーを持って家にやってくる。

 

「いや、美味しいんだよ? でも、いくらなんでも週3であんなに濃い料理を食べるのはね?」

 

「確かに、あれを短期間に食べるのはな。濃い味の分、飽きやすいだろうし」

 

「そうそう。いくらかアレンジを加えたりして、何とか凌いだけどさ………お陰でマーボーカレーを加工する技術が嫌というほどに向上しました」

 

マーボーカレーアレンジ技術に関しては、リーゼ・マクシアで覇を争えるほどだと思う。

 

「そんなに喧嘩してたのか」

 

「うん。こと武術に関しては競いあうライバルのような関係だったし。どっちも負けず嫌いだったから、ぶつからないって選択肢なんて思い浮かびもしなかったよ」

 

引くことを知らない子供たちでした。今でも変わってないと思うけどな。

うんうんと頷く。うなずいて、うなずいて、目をちらりと横に向ける。

 

見えたのは、何やら笑顔になっているミラとエリーゼの姿。え、なにゆえ。

 

「ジュード君、レディーの扱いがなってないなー」

 

「な、謎生物にダメだしされたっっ!?」

 

しかも女性の扱いを、雌雄同体に。普通にショックである。でも、怖いのでミラとエリーゼには何も言えないのである。そんな中、ようやくとミラが口を開いた。

 

「………ふむ。ならば、私も思い出の。あの、ミートソースの料理を頼む」

 

「え、いいけど」

 

思い出っていうほど経っていないけど、とは言わなかった。

ただ助かったという気持ちで、頷くだけ。

 

「なら、今日はスパゲッティにしようかな」

 

幸いにして時間はある。食感を考えると、少し太めのものを使うべきだろうか。

でも酒はなしね。

 

「私は…………その、えっと」

 

「遠慮しなくていいよ? さすがにサーロインステーキ持って来いとか言われたら財布と格闘する必要があるけど」

 

「そんな高いの…………! う、いえ、その………………………ふわふわの玉子焼きが食べたい、です」

 

おずおずといった様子で、恥ずかしそうに言ってくるエリーゼ。下を向いて恥ずかしそうに。

っていうか、そんなに遠慮がちに言う料理じゃないのに、遠慮しちゃってまあ。

 

「ともあれ可愛いから良し」

 

「ジュード君………言葉、もれてるぜ?」

 

「本音ゆえに致し方なし。っつーかアルヴィンもニヤついてんじゃねーか。で、そっちはなんか食べたいものがあるのか」

 

口止めがわりに作ってやんよ、と言外に含ませる。

対するアルヴィンは、少し考えた挙句に、ああと言った。

 

「俺も卵焼きな。でも、こっちは砂糖ので頼む」

 

「甘い味付けのやつか? なんつーか、まあ意外と子供っぽいな」

 

「おにーさんもたまにはそういうのを食べたい時があんのよ。あと、俺は甘党だしな」

 

「糖尿病には気をつけろよ」

 

医者として言わせてもらおう。

 

「医師の卵に言われたらたまらんねえ。ま、気をつけるさ。何故かは知らんが、説得力があるしな」

 

「そうしてくれ。でも、甘いもの系統か………まあ、そっちの方も作れんでもないけど」

 

とはいえ、普通の料理と比べれば、バリエーションは少ない。

特にケーキ系統は、数種類程度しかつくれんし。

 

「ふむ、私も興味があるな。例えばだが、ジュードは何が作れるんだ?」

 

「ホットケーキ………とか、そういうボケはミラには通じないからおいといて。ケーキ系でいうと………アップルパイとか、ピーチパイ、あとはチーズケーキってところか」

 

作ってる時に胸焼けするけど。そして、出来上がった時には臭いのせいか、腹がいっぱいになっているという。あ、空気を読まずに僕の取り分をもたいらげるバカ二人を思い出した。具体的に言えば茶髪と銀髪。想像の上で殴っておこう。体重が増えるのもあるしダブルショックだ、ざまあ。

 

「なんで菓子と聞くだけで悪い顔になる?」

 

「癖です」

 

「なるほど」

 

疑問を抱くことなく、納得された。微妙に傷ついた。

 

「いつも悪い顔している気がするけどな、ジュード君は。それにしても、ピーチパイねえ………それは親父さんが好きなものか?」

 

「………まあな。ちょこっと口出しされたこともある。でも、何でそんな事を知ってやがる」

 

ああ見えて甘いもの好きな親父。でも外面はいいクソオヤジは、そんな事は話さない。

親父が甘いもの好きなんてことを知ってる人は、僕を除けば二人しかいないのに。

 

「いや、全く知らなかったさ。でも料理ってのは家族に作るために、ってのが基本だろ?」

 

「そこで親父が出てくるところが胡散臭いんだけど………まあいいや。どっちにしろ、今から作るのはさすがに無理だぞ」

 

「へいへい。次の楽しみにとっておきますかね」

 

「そうしてくれ。なんなら店で売ってるのを買ってこようか?」

 

「いいさ。"こっち"に売ってるのは、ちょっと味が違うんでね」

 

「………"こっち"ねえ」

 

はてさて、地域ごとに味がちがったっけ? 言葉のニュアンスも微妙だし、また何か隠してやがるな。でも、余計な詮索はしないと言った所だ。それに、時間がない。

 

「ついでに、他のデザートを買ってくるよ。エリーゼもミラも、甘いものは好きだろ?」

 

「興味が無いと言えば嘘になるな。嘘はよくない」

 

「は、い。果物系は大好きです」

 

はい、素直じゃないのと、可愛い返事頂きました。アルヴィンは無視無視。

 

「ともあれ、さくっと行って作ってくるよ。厨房は借りられるみたいだしな」

 

「ああ、楽しみに待っている」

 

「私も………いい子に、しています」

 

「ボクもー!」

 

「ああ、頼むぜ」

 

三人と一体の声を背中に、僕は厨房へと向かった。デザートはチーズケーキあたりでいいか。数は、いち、に、さん、し………と数えた時だ。

 

ふっ、と思い浮かぶ。

 

 

「………そういえばティポって、なに食べてんの?」

 

 

 

結局、怖くて聞けませんでした。

 

 

 

 


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